インボイス制度導入の撤廃を求めます
2022年12月13日
私たちミュージック・ペンクラブ・ジャパンは音楽評論家、オーディオ評論家、音楽学者、教育者、音楽ライター、作曲家、演奏家、プロデューサー、訳詩者、編集者など、音楽に関する専門家からなり、日本の音楽文化の向上を目指して日々活動しています。会員の多くはフリーランスの免税事業者であり、この度のインボイス制度導入によって多くの弊害が予想されます。
まず、当制度により、複雑な税務処理や取引先との交渉などが、日々の活動の大きな支障になることは明らかです。
そもそも消費税の扱いが長い間曖昧でした。私たちに仕事を依頼する業者のなかには、消費税導入の段階でその分の料金の上乗せがないまま、内税扱いで済ませてしまうところもありました。このような謝金と消費税の扱いの不透明さは、しばしば政府や公共団体、公益法人にも見られます。まずはこちらを是正すべきです。
制度自体にも不備があります。納税事業者になった場合、ネットで事業者情報が誰にでも入手できてしまいます。私たちのなかにはペンネームや屋号で活動している者がいますが、今回の個人事業者登録では、こうした人たちの個人情報が守れません。また、食料品や新聞等を対象とした消費税の軽減措置は私どものような文化事業者にはあてはまりません。
現在、ここ数年のコロナ禍、インフレ、エネルギー価格高騰で国民の多くが苦しい生活を余儀なくされており、経済状況も一向に好転しません。このような中、文化産業に携わるフリーランスの個人事業者の収入増はまったく望めません。この制度で存続の危機に立たされるのは、ミュージック・ペンクラブ・ジャパンの会員のみならず、当会に属していない音楽評論家や演奏家、作詞家や作曲家など、個人で活動している多くの音楽文化人も同じです。今のこの時期に、免税制度が撤廃され、インボイス制度が始まれば、日本の文化産業に大きな打撃を与え、健全な音楽文化の発展に大きな障害となることは必至です。
以上のことから、私たちは現在の免税制度の継続を求めると同時にインボイス制度の撤廃を求めます。
一般社団法人ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
会長 石田一志
即時停戦を求めます
2022年3月18日
去る2月24日にロシア軍はプーチン大統領の指令で隣国のウクライナに侵攻を開始しました。その攻撃は激しさを増し続けています。
そもそも1991年の主権国家としての新生まで、ウクライナは長くロシア帝国、ソヴィエト連邦のもとにありました。しかし、ウクライナはスキタイ、キエフ公国、コサックの歴史を含む独自の文化を保持し、有為な人材を輩出してきました。なかでも18世紀以降、音楽藝術の分野でウクライナが果たしてきた役割の大きさと深さは特別だったはずです。結局、今世紀のはじめにはロシアは軍事面や経済面ではなく、文化面で音楽大国となったといえましょう。
ロシアは、この自国の文化繁栄に大きく貢献したウクライナのアイデンティティを尊重すべきです。そして、世界に向かって開花した自国の文化国家としての一面をしっかりと尊重し失うべきではありません。
わたしくしたち一般社団法人ミュージック・ペンクラブ・ジャパンは、戦争の惨禍を起こし、世界文化への貢献という尊い責任と誇りを放棄したロシアのプーチン政府の行為に断固反対します。
音楽を愛し、国際平和を希求するわたくしたちは、いかなる理由でも人命にかかわる戦争と武力による威嚇や武力の行使には反対します。したがってロシアとウクライナの双方に対して、即時停戦を求めます。
また、我が国を含む国際社会は常に協同して平和の維持に努め、また専制と隷従、圧迫と偏狭の除去に努めて欲しいと願っています。
一般社団法人ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
会長 石田一志
「ロシア音楽史のなかのウクライナ」
石田一志
2021年11月から衛星写真でウクライナ国境近くに10万人規模のロシア軍が結集していると報道されていました。軍事演習の名目でしたが、2月24日になってプーチン大統領の命令が下り、とうとう侵攻に至りました。その攻撃は激しさを増し続けて、ウクライナの首都キエフに迫っています。そして徹底抗戦を主張するウクライナのゼレンスキー大統領は武器を求め続けています。しかし、たとえどのような理由があるにせよ、殺人と破壊行為以外の何ものでもない戦争には反対する立場です。即時停戦を両国に求めます。
遡れば、現在のロシア、ウクライナ、ベラルーシの基礎となったのは10~11世紀にキエフを首都としてヨーロッパの大国として君臨したキエフ・ルーシ公国でした。その後、モンゴルの侵攻などでキエフ・ルーシ公国は衰退し、ウクライナの歴史は、国家のない民族の歴史になりました。しかし、もともと黒海北岸の草原地帯のウクライナは、古代にはスキタイ(匈奴)のような遊牧民、16世紀にはコサックの活躍の見られた自由開放の地で、ここに暮らす人々は、ロシアやその他の外国の支配下にあっても自由を愛するアイデンティティを失うことなく、ロシアに併合された時期にも重要な役割を果たしてきたのです。
とくに芸術分野、特に音楽に関してウクライナは有為な人材を輩出し続けました。なかでも音楽文化に関していえば、ウクライナ無しにはロシア音楽は語れません。
ロシアはこの自国の文化繁栄に貢献してきたウクライナのアイデンティティを尊重すべきです。また同時に、このように世界に向かって開花した自国文化に誇りを持って、文化国家としての一面を保持すべきです。
そこで、一般にはロシア音楽史に含まれているウクライナ関係の話題を抽出して見ることにしました。簡単な紹介ですが、それでも「ロシア音楽史のなかのウクライナ」の大きさ深さが明らかになるはずです。
まずピョートル大帝時代の17世紀後半にロシアに初めて西欧的な音楽と五線記譜法をもたらした作曲家で理論家のニコライ・ディレツキー(1630~89)がそもそもウクライナ出身者です。つまりロシアにおける西洋音楽はウクライナの人によって始められたのです。18世紀後半にイタリア音楽が宮廷で開花したとき、それを支えたロシア人音楽家マキシム・ベレゾフスキイ(1745~77)、ディミトリー・ボルトニャーンスキイ(1751~1825)、アルテミ・ヴェーデリ(1767~1808)などは皆ウクライナから来た音楽家でした。かれらの役割はロシア国内にとどまりますが、19世紀以降は国際的になります。
18世紀末から19世紀初めのロシアの駐オーストリア大使アンドレイ・ラズモフスキー伯爵(1752~1836)-かれはナポレオン没落後のウィーン会議においてロシアの全権大使として活躍しました‐は、三曲からなる「ラズモフスキー弦楽四重奏曲」(1806)、交響曲第5番、第6番「田園」(ともに1808)の被献呈者として名を残しているベートーヴェン(1770~1827)の有名なパトロンでした。父は西欧で教育を受けたウクライナのコサックのリーダーで、その兄オレクシーはコサック出身でしたが帝室合唱団の美男美声の歌手で女帝エリザベータの愛人といわれています。
ロシア最大の作曲家ピョートル・チャイコフスキー(1840~93)もウクライナと深い縁をもっています。祖祖父はロシア貴族に列せられたコサックで、祖父ピョートル・フォヨードルヴィチはウクライナの街で市長を務めました。チャイコフスキー自身は父の仕事の関係からペテルブルクで育ちましたが、妹のアレキサンドラがウクライナのキエフ近郊カメンカに嫁いだこともあって1870年代には毎年のように滞在し、その地で作曲の筆を執っています。「アンダンテ・カンタービレ」、ピアノ協奏曲の第1番第2番、「エフゲニー・オネーギン」、「白鳥の湖」、交響曲第2番「小ロシア」、「マゼッパ」などゆかりの名曲はいくつもあります。
このようにロシア音楽史はウクライナ抜きには語れないといえましょう。
最後にウクライナ出身の20世紀の主要な音楽家を並べておきます。作曲家のセルゲイ・プロコフィエフ(1891~1953)、ピアニストのウラディミール・ホロヴィッツ(1904~89)、スヴャトスラフ・リヒテル(1915~97)、エミール・ギレリス(1916~85)、ヴァイオリンのアイザック・スターン(1920~2000)、ダヴィッド・オイストラフ(1908~74)、ナタン・ミルスタイン(1904~92)、チェロのグレゴール・ピアティゴルスキー(1903~78)など巨匠が目白押しです。一般的な知名度は低いかもしれませんが、1960年代にモスクワ作曲界で傑出した若手であったアレムダール・カラマーノフ(1934~2007)、レオニート・グラボシュスキイ(1935~)、ヴァレンティン・シルヴェストロフ(1937~)、それにモスクワ音楽院の現代音楽センターの芸術監督を務めたウラディーミル・タルノプルスキイ(1955~)もウクライナ人です。
ちなみに日本の音楽界に大きな足跡を残したいわゆる白系ロシア人の指揮者エマニュエル・メッテル(1884~1941)、ヴァイオリンのアレクサンドル・モギレフスキイ(1885~1953)、ピアノのレオ・シロタ(1885~1965)などもウクライナ出身者であることを確認しておきましょう。
(2022.3.18.)
一般社団法人ミュージック・ペンクラブ・ジャパン・会長
日本学術会議新委員任命問題への意見
2020年10月25日
研究・学問・表現の自由と責任を主張する当クラブでは、日本学術会議任命問題の推移について注視してきました。前任者の任期満了に伴う新会員の改選数105名内6名に対する菅首相による任命拒否については、その後、首相は任命について「総合的、俯瞰的活動を確保する観点」からだと説明しながら、一方では、105名の名簿を見ていないとも発言しており、6名の除外については具体的な説明は果たしていません。そもそも学術会議法では、会員選出は学術会議の推薦に基づき首相が任命するとあり、首相が105名の推薦名簿を見ていないこと、そして推薦を拒否したことは、日本学術会議法に違反する恐れがあると思われます。学術界への政治の介入は認められません。改めて、学術会議の推薦を尊重するように求めます。
一般社団法人ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
会長 石田一志
新型コロナウィルスの危難に
2020年5月16日
新型コロナウィルスによる危機は実に広範な領域に及んでいます。経済的な危機はもとより、我々が育んできた多彩な文化の多くが存続の危機に瀕しています。ライヴの音楽活動は舞台上も客席も「三密」状態を避けることが困難であるだけに、再開には時間を要すことになるでしょう。しかし、この外出自粛の異常な時期に改めて色々な角度から音楽文化の重要性を再確認された方々がたくさんいらっしゃると思います。
5月31日の予定されている自粛解除を前にして、ミュージック・ペンクラブ・ジャパンの会員一同は、音楽を愛する仲間としてプロフェッショナルの方々は無論、アマチュア・社会人・学生方々を含めた演奏家・演奏団体・教育者の方々の一刻も早い活動の再開とこの危機の経験を昇華した新たな音楽文化の展開を祈念しております。
一般社団法人ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
会長 石田一志
文化庁の補助金不交付に抗議します
2019年10月31日
愛知県で開催された国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」全体への助成金を、事後の新たな理由付けで不交付を決定した文化庁に抗議をいたします。
今回の芸術祭には企画展「表現の不自由展・その後」が含まれ、この企画展は抗議や脅迫でいったん中止に追い込まれました。しかし会期末近くになって展示中止に抗議する作家らの連帯が実を結び再開へと漕ぎつけました。しかるに、文化庁は外部有識者による審査委員会を経て補助事業に採択していた「あいちトリエンナーレ」芸術祭全体への補助金交付を、突然、文化庁の内部審査のみによって不交付としてしまいました。
これは審査委員会の決定事項を遵守すべき行政にあるまじき異例の決定で、撤回を望みます。
一般社団法人ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
会長 石田一志
「テロ等準備罪」反対声明文
2017年4月27日
世界は極めて不穏な状況にあり、日本も戦後70年を過ぎた今、戦前を想起させるような右傾化の道を辿っていることを、私たちは深く憂慮しています。国会では3度も廃案になった「共謀罪」を政府与党が「テロ等準備罪」と名称を変えて再びその成立を目指しています。
この法案は、表向きはテロを未然に防ぐという名目で生み出されたものですが、その適用範囲は曖昧で、時の政権による恣意的運用を可能にしています。犯罪を目的としない思想、想像、表現にまで大きく網をかけ、捜査対象にされてしまう可能性があります。このまま法案が成立すれば、人々は委縮し、自主規制社会と、それに引き続く監視社会が到来することになるでしょう。それは日本国憲法で保障された集会の自由、結社の自由、そして私たちにとって最も切実な、言論表現の自由が侵されることに他なりません。
このような法律の制定は決して容認できるものではありません。
ミュージック・ペンクラブ・ジャパンは「テロ等準備罪」の名を借りた実質的な「共謀罪」の成立に強く抗議し、ここに反対の意を表明します。
一般社団法人 ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
会長 鈴木道子
著作権法改定(第113条第5項関係)に国民の総合的な視点を反映した慎重な審議を求める声明
2004年5月26日
当初から全国消費者団体連絡会や弁護士会が反対していた著作権法改定案を提出するにあたって文化庁は、著作権者および著作隣接権者の保護の観点から、アジアからの低価格の逆輸入盤を規制するための法案と説明してきました。しかし参議院の審議の過程で、規制されうる海外盤の範囲は、アジアからの逆輸入盤(約68万枚)にかぎらず、すべての海外盤(約6000万枚)であることが明らかになりました。しかもその適用基準は「(著作権者や著作隣接権者が)得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合」ときわめてあいまいです。文化庁は運用に問題があったときは裁判で争えばいいと言っていますが、生きた音楽に長い時間のかかる訴訟はなじみません。
参議院の審議会において日本レコード協会会長は「洋楽海外盤の輸入を規制するつもりはない」と発言しました。しかしその前に日本レコード協会大手5社の親会社を含む著作権権利者の団体である全米レコード協会RIAAと世界レコード産業連盟IFPIは、逆輸入盤と洋楽海外盤とを問わず、並行輸入を禁止できる権利を認めるようにという、日本レコード協会と一致しない意見書を文化庁に提出しています。
再販制度に加えて、レコード会社などにこの新たな権利を認めることは、二重の保護措置として、消費者に不当な不利益を強いることになりかねません。これは自由貿易の原則や市場の健全な競争の原則にも反します。過剰な保護で高価格を維持しても、音楽以外のエンタテインメントに対抗できなければ、ほんらいの市場活性化は望めません。
また、文化庁は曲が同じであれば、CCCD、CD、アナログ12インチが区別なく規制されると説明していますが、それは仕様のちがいのある各国盤の存在がポピュラー音楽学会の研究テーマや評論活動の対象やDJ活動の必需品として定着し、愛好者による売上増につながっている現状を無視したものです。
ゆとりのある社会を築くためには、音楽文化の多様性や音楽情報の公開が欠かせません。そういう社会が次代の創作活動を支え、アーティストにもレコード会社にも消費者にも実りをもたらすのです。いまの日本はCDなどに関して世界で最も音楽情報に恵まれていると言われていますが、その素晴らしい環境を築いてきた先人の努力を無駄にしないためにも、日本の音楽文化を、さらには世界の音楽文化をますます豊かなものにするためにも、ミュージック・ペンクラブ・ジャパンは今回の法案のよりいっそうの慎重な審議を求めます。
ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
会長 石田一志