ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Audio Review

- 最新号 -

ALBUM REVIEW

「レット・イット・ビー」スペシャルエディションの
最大の聴きもの、幻のグリン・ジョンズ版

写真
「レット・イット・ビー」 
スペシャル・エディション 
「スーパーデラックス」 
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過去に発売されたグリン・ジョンズ版 
「ゲット・バック」の非公式盤 
(LP,CD)の数々。 

 2021年10月15日、ユニバーサルミュージックからザ・ビートルズ「レット・イット・ビー」発売50周年記念スペシャルエディションが発売になった。正しくは発売から51年、パンデミックの影響で一年遅れての発売である。

 CD、LP、ブルーレイディスクが組み合わされ数種類のパッケージが同時発売になり、共通して中心になるのが、フィル・スペクターが最終のミックスを担当した「レット・イット・ビー」(1970)の2021年リマスターだが、注目はグリン・ジョンズが選曲とミキシングを担当し、ザ・ビートルズ11枚目のレギュラースタジオレコーディングアルバムとして1969年5月に発売寸前までいった「ゲット・バック。ドント・レット・ミー・ダウン、アンド9アザーソングス」がセットの中の一枚として52年の歳月を経て公式に陽の目をみることだ。

 過去半世紀間、海賊版LPやCDで数百種が出回ってきたが、当時アップルがアメリカやイギリスの放送局に見本盤として配布したものが音源となっており、何代ものコピーを経たものだった。それが、長い封印を解かれたように、アップルから公式発表されたのである。ザ・ビートルズファンだけでなく、すべてのロックファン、いや音楽ファンにとって歴史的事件といっていい。

 「ゲット・バック」が「レット・イット・ビー」に変わり翌1970年5月の発売にこぎつけるまでの経緯は複雑怪奇でここでは深入りしない。ファイルウェブに掲載のレビュー(下記URL)をどうかお読み頂きたい。
https://www.phileweb.com/review/column/202110/17/1426.html

 筆者は学生時代から「プリーズ・プリーズ・ミー」からザ・ビートルズのアルバムを発表順に繰り返し聞くことが好きだったが、「イエロー・サブマリン」の次に聞くのは決まってこのグリン・ジョンズ版「ゲット・バック」のブートレッグで「アビイ・ロード」は、シングル「ジョンとヨーコのバラード」「オールド・ブラウン・シュー」を挟んだその次だった。

 ポップスレコード史上最大の「幻のアルバム」がたとえ半世紀後であってもアップルコープスから名誉回復して正規発売されるのはうれしい。「ゲット・バック」は凡作でも失敗作でもなく、「素顔のビートルズ」をテーマにした音楽は永遠に古びることはなく、原石のきらめく光を放っている。

 フィル・スペクターの職人芸、プロ仕事が生んだ公式の「レット・イット・ビー」に比較して一発取り、オーバーダビングなしのサウンドは薄かったのは事実。それを何世代もコピーしたブートレッグで聞くのだから、再生音質の不利はいうまでもなかった。

 今回のスペシャルエディション「ディスク4」収録のグリン・ジョンズ版「ゲット・バック」の音源について詳しい情報がなく、アップルコープスにマスターテープが保存されていたのか、あるいは、ジョンズの手元にあったプロモーショナルコピーのアセテート盤からデジタルアーカイブしたのか、定かでない。

 しかし、SNの飛躍的向上でスタジオライブの生々しい臨場感が増し、適切なコンプレッションで金属的な太い音の芯がずっしり量感を増し、レイドバックにかぶれていた時期のザ・ビートルズのいい意味で泥臭いロックンロールサウンドにぶんなぐられる快感。ビートルズにそれほど馴染のなかった若い世代にこそこの「素顔のビートルズ」のスタジオライブを聞いてほしいのである。今や大音楽家に祭り上げられてしまったが、ザ・ビートルズがいかにいけてるバンドだったか、かれらの演奏がいかにグルーヴィーで粋だったか、この一枚でわかるはずだ。

各曲試聴
デジタルリマスタでSNが向上、
構成と選曲の狙いが鮮明に

「ワン・アフター909」
 スペクター版を含め、唯一使われたルーフトップセッションでの録音源。出会って間もない1959年のジョンとポールの初期の共作。ジョンと寄り添うポールのボーカルの声質やパートの対照が長年の公式盤に比べて鮮明さを増し、にんまりしてしまう。原点回帰セッションにふさわしいオープニングだ。

「ロッカー」
 lchのジョージのギター、やや寄りのドラムスとステレオ分離効果を重視、スタジオライブの臨場感を重視したミキシングが鮮明に。

「セイブ・ザ・ラスト・ダンス・フォー・ミー〜ドント・レット・ミー・ダウン」
 アメリカで発売のコンピュレートアルバム「ヘイ・ジュード」に収録されたため、スペクター盤でアウトテイクになったが、本来は「ゲット・バック」と二枚看板でアルバムを背負って立つ代表曲でレイドバック・ビートルズを代表する名曲。
 ジョンのカウントから始まるが、まったりしたシャウトに曲への自信がうかがえる。リンゴのシンバルが鮮度を増し華やかに音場に持続する。ポールのうねるベースライン、客演奏者として唯一クレジットされたビリー・プレストンのエレピが音場左右一杯に広がり漂う。

「ディグ・ア・ポニー」
 ジョンの書いたロックンロールの冒頭からの三連打もジョーンズ版の魅力。冒頭のコーラス「オール・アイ・ウォント・イズ・ユー」はスペクター版とネイキッドでどこへいったのだろう?
 正規の音源からの初のミックスでバンドの飾らない素のサウンドと演奏の地酒風味がついに全開に。

「アイブ・ガット・ア・フィーリング」
 完奏できず中断した、ポールのシャウトがいちばんワイルドなテイクをあえて採用。ジョンとの掛け合いもこのテイクの魅力。ジョンの書いたパートも声が荒れて一気に高潮へ、そして中断。この「最後までいかせてくれない」欲求不満もジョーンズ版長年のご愛嬌。

「ゲット・バック」
 ビリー・プレストンの絶妙のサポートプレイにグラミー賞があたえられた。リンゴのスネアの音圧の鮮度を増していて、1969年1月のロンドンのひりひりするような空気が伝わる。

「フォー・ユー・ブルー」
 スペクター版のジョージのセリフの入らない最も完成度の高いテイク。

「テディ・ボーイ」
 映画でも披露されたポールの物語歌。ポールらしいメロディラインとコード進行のノスタルジックなフォークバラードだが、ソロアルバム収録版のほうが哀愁があっていい。「マッカートニー」に収録されたことがわかり、ジョンズのセカンドミックスで削除された。

「トゥー・オブ・アス」
 スペクター版との落差が最も大きい曲。ギターアレンジが違い録音のエコー成分が豊かで、ポールとジョンの仲良し旧友の、そしてバンドメンバー全員の溶合った一体感がある。正規音源からのリミックスでアコギサウンドの響きの美しさが際立ち、ジョージもとうにいないい今涙なしできけない、美しいフォークロック名曲だ。

「マギー・メイ」
 スペクター版と同じテイクだが、シンバルの尖鋭間に1969年のアップル地下スタジオに立ち会うレアな迫力。

「ディグ・イット」
 スペクター版の49秒に対し全長1分半のロングバージョンだが、全長版は実に12分25秒、ブートレッグで聴くことができる。「ゲット・バック」プロジェクトを象徴するジャムセッション曲。後半のジョンが何を歌っているのか50年経ってもわからない。

「レット・イット・ビー」
 ポールの弾くブリュートナーの硬質な響きが50年の時間を超えて清冽に音場に響き渡る。左からプレストンのオルガン右からリンゴのシンバル。中央にジョージのレスリーギター。アップル地下スタジオにその時たしかにあったバンドサウンドがシングルのモノラルの束縛から解き放たれた感動の瞬間である。

「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」
 映画のトゥイケンナムフィルムスタジオのシーンの最後同様にポールの二大名曲の連打である。何百回この「素朴の美」に満ちた演奏をブートレッグできいたことだろう。セカンドコーラスのBメロ部分もポールが繰り返し歌っているので映画のあるいはネイキッドのプレストンの感動的なオルガン間奏が聴こえにくいのは残念だが、オーケストレーションがないのでゴスペル曲「レット・イット・ビー」の凜とした美しさと対照的なこの曲の本来のノスタルジックな美しさが際立ち感動的である。

「ゲット・バック」(リプライズ)
 映画のエンドクレジットで静止画のバックに流れるポールの笑い声をフィーチャーしたバージョン。

ディスク5の2曲を追加して一曲削除すれば、
「ゲット・バック」のセカンドミックスが聴ける

 ビートルズのダメ出しで棚上げとなった「ゲット・バック」の選曲を1970年1月にやり直したものが「グリン・ジョンズ セカンドミックス」である。やはり発売に至らなかったが、二種類のミックスをセット販売した2枚組ブートレッグもあるくらいで、セカンドの価値は曲のバラエティが増えたことにある。このセカンド・コンピュレーション、今回のスペシャルエディションで独立したディスクとしてはセットされなかったが、このセカンド、ちゃんと聞けるようになっているのである!

 4曲を収録したディスク5のトラック1「アクロス・ザ・ユニバース」とトラック2「アイ・ミー・マイン」は、グリン・ジョンズがセカンド・コンピュレーションで追加した音源である。つまり、ディスク4とディスク5をリッピングして下記の選曲と曲順でプレイリスト再生すれば、「グリン・ジョンズ、セカンド・コンピュレーション」である。

1.「ワン・アフター909」
2.「ロッカー〜セイブ・ザ・ラスト・ダンス・フォー・ミー」
3.「ドント・レット・ミー・ダウン」
4.「ディグ・ア・ポニー」
5.「アイブ・ガット・ア・フィーリング」
6.「ゲット・バック」
7.「レット・イット・ビー」
8.フォー・ユー・ブルー」
−(DISC4トラック8「テディ・ボーイ」を削除−
9.「トゥー・オブ・アス」
10.「マギー・メイ」
11.「ディグ・イット」
12.「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」
13.「アイ・ミー・マイン」(DISC5トラック2)
14.「アクロス・ザ・ユニバース」(DISC5トラック1)
15.「ゲット・バック」

(大橋伸太郎)