ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Classic Review

- 最新号 -

CONCERT Review

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
第58回ティアラこうとう定期演奏会

 

 ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」(ピアノ:藤田真央)
 同:交響曲第3番 「英雄」
 指揮:飯守泰次郎

7月6日 ティアラこうとう大ホール

アーティスト写真

 今年の6月のチャイコフスキー国際コンクール第2位の藤田真央のベートーヴェン「皇帝」である。当然、興味をそそられた。まだ21歳。目を閉じていても若さを感じる演奏だった。音も演奏も若いのである。巨匠のような風格はまだない。しかし、すがすがしさは快い。指がよく回って、羨ましいくらいだった。第1楽章は音がオケに溶け込んでいて、何とも言えぬ織物の模様をみるような印象を受けた。第2楽章ではオケとの対比がくっきりとし、ピアノの存在がより強く出ていた。第3楽章への繋ぎのフレーズはホルンが持続音を吹く中をピアノは耐えるように間を持たせる。このタメは説得力があった。その分だけ第3楽章の爆発に心は躍った。オーケストラは全体的に弦楽器が前面に出た演奏だったが、管楽器ではトランペットの要所要所でのアクセントが効果的だった。藤田は曲想の解釈の点で飯守と似ているような気がした。藤田が意図的に合わせたとしたのなら、それもすごい才能だ。アンコールにチャイコフスキーの「瞑想曲」作品72-5が演奏された。チャイコフスキー・コンクールのお土産の意味もあったのだろうが、納得!である。コーダでの長いトリルは、それだけで聴衆をうっとりさせた。ベートーヴェンとは違う世界、別の表現力を聴いた。彼のチャイコフスキーをもっと聴きたくなった。
 「英雄」では、飯守のドイツ的正統的なベートーヴェンを聴かせてもらった。第1楽章では、音が揃わず、フレーズの出だしも曖昧で、少しストレスがたまった。しかし、第2楽章「葬送行進曲」の悲劇的な説得力はすばらしかった。旋律の対比、強弱の変化、曲想の変化、それぞれの面白さが聴衆に直に伝わってきた。素晴らしい。管楽器では、やはりホルンに気を取られた。ベートーヴェンがこの交響曲では特に意識した楽器である。面白かったのはモダン楽器であるにもかかわらず、音が古楽器に似てくすんでいたことだ。意図的な演奏だろう。ベート―ヴェンの時代を思わせ、素晴らしかった。それから、目立たないがクラリネットも時々聞かせどころを作っていて、筆者の気持ちは高ぶった。(石多正男)

CONCERT Review

ファゴット・トリオ・ザルツブルク2019

 

 モーツァルト:ディヴェルティメント第2番ト長調K.439b
 ハイドン:二重奏曲二長調 Hob.X-11
 コレット:協奏曲二長調「不死鳥」
 ベートーヴェン:2本のオーボエとイングリッシュホルンのためのトリオ
ト長調 op.87
 ピアソラ:タンゴ組曲
 フィリップ・トゥッツァー / リッカルド・テルツォ / 黒木綾子+河村幹子、
パーカッション:西田尚史

アーティスト写真

 非常に柔らかく、優しい響きに包まれた一夜だった。会場全体を包み込む雰囲気と全曲に一貫して流れていた演奏の品の良さはザルツブルク由来なのだろうか、非常に快かった。とはいえ、最初、ファゴット3本が同じ響きで、見事に溶け合っていたのでテーマの旋律と伴奏の区別が付けにくかった。コントラファゴットが入ると響きの上では落ち着くのではないかと思った。オリジナルの編成をファゴット・アンサンブルに編曲したものだったので、それは考慮しなければならないのだろう。しかし、聴いているうちに耳が慣れたせいもあるのだろうが、この独特の響きの世界もいいものだと感じるようになった。
 響き以外で印象に残ったのは、フォルテを無理に出さない代わりと言ってもいいかもしれないが、ピアニシモが非常に美しかったことである。3人のそろった息づかいとそこから生み出される雰囲気がピアニシモによって結ばれ、素晴らしかった。総じて、確かに派手な演奏ではなく、いわゆる超絶技巧を聴かせる演奏様式でもなかった。とはいえ、技術的な面では申し分なかった。途中、河村が新たな空気を吹き込み、最後は西田のパーカッションも彩りを添え、聴衆は楽しく一夜を過ごすことができたと思う。
 なお、会場で配られていたCD「Fagott Trio Salzburg」(ALCD-9199)だが、ここでは3本それぞれの音がよりよく聴こえた。演奏者たちの細かい心使いが感じられ好感がもてる演奏だ。ただし、この夜の生演奏が生み出すホール全体の響き、身体を包み込むような音の感覚は得られない。生演奏とCDの違いはこんなところにもあることをあらためて感じさせられた。(石多正男)