ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Classic Review

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CONCERT Review

第8回 糸井マキ サンデーモーニングコンサート

 

ウエストホフ:「無伴奏ヴァイオリンのための組曲第2番」
イザイ:「無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番」
ベリオ:「セクエンツァⅧ」
テレマン:「無伴奏ヴァイオリンのためのファンタジア第5番」
森本恭正:「風の儀式」(委嘱作、初演)

ヴァイオリン:糸井マキ

7月30日(日)ハレザ池袋 としま区民センター小ホール

写真

 8回目の「糸井マキ サンデーモーニングコンサート」。今回は初めての夜の開催で、プログラムはバロックから現代までの無伴奏ヴァイオリン曲のみの構成であった。彼女のヴァイオリンの響きの魅力と多様性を通して、その強い存在感を改めて認識する演奏会となった。糸井マキはドイツ、イタリア、オーストリア(ウィーン)で研鑽を積み、長らくウィーンを拠点に活躍し、帰国後は演奏活動のほか後進の指導にも心血を注いでいる。その深い音楽性とテクニック、とりわけ艶やかで伸びのある美しい演奏で聴衆を魅了し続けているヴァイオリニストである。初めはバッハの一世代上のドイツの作曲家、ウェストホフ(ヴェストホフ)の《無伴奏ヴァイオリンのための組曲第2番》。演奏される機会は非常に少ないが、糸井は柔和な響きでこの曲の魅力を引き出していた。特に終楽章のジーグは軽快な跳躍感を活かしつつ優雅で気品さえ感じさせた。続くイザイ《無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番》では、第1楽章「妄執」の冒頭のバッハのパルティータの引用から高い緊張感で聴衆を惹きつけ、イザイの音楽世界に誘ってくれた。全体を通して緊張と弛緩、動と静などのコントラストが素晴らしかった。例えば、終曲の「フュリ(復讐の女神たち)」での特殊奏法スル・ポンティチェロと通常演奏の対比は見事であった。後半の最初は没後20年になるベリオ《セクエンツァⅧ》。糸井本人がプログラムの解説に書いているようにA音とH音を核に展開される音楽だが、その演奏は強烈な印象を残した。というのは、多様な奏法によるこの難曲をその高い集中力とエネルギッシュな情熱で完璧に弾きこなしたのは驚異であり、なによりその技術力の高さを証明した圧巻の演奏であったからだ。次はテレマンの《ファンタジア第5番》。急・緩・急の3楽章から構成されているが、各楽章にメリハリをつけ際立たせながら、豊かな響きで前進していく演奏が好ましく、すっかり陶酔してしまった。
 最後は糸井と同様、長らくウィーンを活動の拠点としていた森本恭正(ユキ・モリモト)の《風の儀式》の初演である。無伴奏ヴァイオリンの書法を幅広く取り入れ、それを巧みに配置し、表現の可能性にバランスよく配慮した作品であった。糸井はこれまでと同様、高い集中力で多様な奏法を対比させつつ音楽を前進させていた。アンコールはバッハの《無伴奏チェロ組曲第1番》のプレリュード、もちろん糸井のヴァイオリンでの演奏である。この日の熱帯夜を忘れさせるかのような爽やかな演奏であった。次回のコンサートも期待しながら楽しみに待つことにする(2024年2月11日)。なお当夜の演奏はYouTubeにアップされているので、ご興味のある方はご視聴されることをおすすめする。(玉川友則)