ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Classic Review

- 最新号 -

CONCERT Review - オペラ

ローマ歌劇場「マノン・レスコー」

9月20日、東京文化会館大ホール

アーティスト写真

ジャコモ・プッチーニ作曲 「マノン・レスコー」 全4幕
指揮:ドナート・レンツェッティ
演出:キアラ・ムーティ
合唱監督:ロベルト・ガッビアーニ
美術:カルロ・チェントラヴィーニャ
衣裳:アレッサンドロ・ライ
振付:ラッファエーレ・シチニャーノ
照明:ヴィンセント・ロングエマーレ

マノン・レスコー:クリスティーネ・オポライス
レスコー:アレッサンドロ・ルオンゴ
騎士デ・グリュー:グレゴリー・クンデ
ジェロンテ・デ・ラヴォワール:マウリツィオ・ムラーロ
エドモンド:アレッサンドロ・リベラトーレ
宿屋の主人:ヴィンチェンツォ・サントーロ
音楽家:ガイア・ペトロー
舞踊教師:アンドレア・ジョヴァンニーニ
点灯夫:ジャンルーカ・フローリス
軍曹:カルロ・マリンヴェルノ
船長:ロレンツォ・グランテ

ローマ歌劇場管弦楽団、ローマ歌劇場合唱団

 オーソドックスな演出、手慣れた指揮と演奏、歌手陣の充実は「椿姫」と同様に、非常にまとまりの良い舞台だ。
 オポライスのマノン・レスコーは賛否あるようだが、私はとてもいいと思った。終演後飛び跳ねながら観客に手を振る素顔のオポライスとプッチーニが設定した18歳のマノンはイメージ的に重なり、世間知らず、身勝手な女性という性格が良く出ていた。オポライスの突き放したような歌い方も奔放なマノンのキャラクターにふさわしいのではないか。
 グレゴリー・クンデの騎士デ・グリューは、クンデの実年齢から役柄とギャップがあったが、上品で伸びやかな高音と若々しい歌声で違和感はなかった。
 演出のキアラ・ムーティはカーテン・コールにも登場していたが、砂漠が常に舞台上にあり、その上に建物も、豪華な部屋も設営されるアイデアは秀逸だ。砂漠は荒れ果てたマノン・レスコーの心を象徴しているとのことだが、マノンの宝石も華美な生活もすべては砂上の楼閣とも読める。
 衣裳や照明、舞台美術の品の良さと美しさは読み替え演出とは違ってエンタテインメントとしてのオペラを味わうには最高だった。
 舞台下手にデ・グリューが詩を書き連ねたノートが最後まで置かれていたが、それはデ・グリューがマノンの思い出を綴ったノートか、あるいはプレヴォーが書いた「騎士デ・グリューとマノン・レスコーの物語」の原作本を表すとみてもいいだろう。
 脇を固めるレスコー役のアレッサンドロ・ルオンゴ、ジェロンテ役のマウリツィオ・ムラーロ、エドモンドのアレッサンドロ・リベラトーレもとても安定していた。
 ドナート・レンツェッティは、ここぞというときは盛り上げるオペラ的な指揮ぶり。ローマ歌劇場管弦楽団の持つ音色がまた素晴らしい。技術的なことを越えて、色彩感と色気がある。こういう音は日本のオーケストラにはなかなか出せない。満足度の高い素晴らしい公演だった。(長谷川京介)

CONCERT Review -

久元祐子 モーツァルト・ソナタ全曲演奏会 vol.4
アリエッタ「リゾンは眠っていた」による9つの変奏曲 KV264
ピアノ・ソナタ 二長調 KV311
ロマンス「私はランドール」による12の変奏曲 変ホ長調 KV354
ピアノ・ソナタ イ短調 KV310

9月22日 サントリーホール・ブルーローズ

 「やっぱりモーツァルトはいいね」という声が聞こえそうだ。近年モーツァルトのピアノ独奏曲だけでプログラムを組むリサイタルは少なくなったように思う。それはモーツァルトが飽きられたとか、リサイタルに適さないということではなく、むしろ難しいからではなかろうか。そこに楽器の問題が絡んでいる。この日はベーゼンドルファーの最新鋭のコンサート・グランドが使われた。。これでモーツァルトを弾くのは、当時の楽器(オリジナル楽器)で演奏することが増えた最近の傾向とは逆行するものと受け取られるかもしれない。筆者もそんな先入観を持っていた。プログラム前半は現代の楽器で18世紀のモーツァルトの音、魅力を引き出そうとしているように感じた。一つ一つの音を明瞭に、音量は控えめに、ペダルも抑え気味に。モダン・ピアノの音の美しさを使って、モーツァルトの時代様式に合わせようとしているような演奏だった。ここに少しのアンバランスを感じた。もし、久元がオリジナル楽器で演奏していたら、こんな遠慮(配慮?)はせず、むしろガンガン叩きまくったのではなかろうかとすら思った。ところが、後半は、むしろ現代に光り輝くモーツァルトだった。「私はランドール」の主題の歌い方はオペラのアリアそのものを聴いているようだった。「ソナタ イ短調」もそうだったが、音量も響きも豊かで、さすがベーゼンドルファーから出る音楽だと聴き惚れ、感心した。現代でも生き生きとしているモーツァルトはやっぱりいいねと思った。(石多正男)