ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Classic Review

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CONCERT Review

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
第372回定期演奏会

ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調(第1稿・新全集版ホークショー校訂)
指揮:高関 健
(コンサートマスター:戸澤 哲夫)

高関健が新全集版で聴かせたブルックナーの交響曲第8番

ブルックナー生誕200年という記念すべき年に、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団は「交響曲第8番」を取り上げた。指揮は常任指揮者の高関 健。自筆譜からさまざまな校訂版まで徹底的に研究する姿勢で知られる高関だが、今回彼が採用したのは音楽学者ポール・ホークショーが校訂し、国際ブルックナー協会から2022年に出版された、1877年第1稿・新全集版である。おそらくこの版での演奏は本邦初演であろう(9月6日、東京オペラシティ コンサートホール)。

プレトークで高関は、今回このホークショー校訂の第1稿を取り上げた理由に経緯について「これまで一貫して1890年・第2稿を元に改訂された〈ハース版〉を取り上げきたが、今回の最新版への関心および作品が本来はどういうかたちだったのかを知ることで交響曲第8番をより深く理解し、表現の充実に資することが多いのではないか?」との思いがあったことを語った。第1稿と第2稿の大きな違いは、管楽器とホルンの数等の楽器編成、音楽的には多くの削除箇所がある第2稿に比べ全体に長いこと、第1楽章の最後が突然fffでの終止、第2楽章のトリオの部分の違い、4楽章の最後の終わり方等であるが、一般的な〈ハース版〉や〈第2稿・ノヴァーク版〉は明らかに響きが異なり、短縮されていない箇所も含まれていることから、新しい姿のブルックナーの「交響曲第8番」を聴かせてくれた。高関の指揮は、全体としてオーケストラの各パートを明瞭に鳴らしながら、強弱をしっかりコントロールし、美しい音を引き出していた。最弱奏とホールを圧するほどのフォルテッシモの対比が素晴らしく、コンサートホールでブルックナーを聴く醍醐味も味わわせてくれた。

高関の指揮は堅実ではあるが、それゆえにスケール感、ダイナミックさという点においては、少し物足りなさも覚えた。しかし記念すべき年に新しい版で新しいブルックナー像を作り上げようとした、意欲的な演奏会であった。
(玉川友則)