ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Classic Review

- 最新号 -

CONCERT Review

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団第55回ティアラ
こうとう定期演奏会
ベートーヴェン:バレエ音楽「プロメテウスの創造物」
(全曲)
交響曲第6番「田園」
指揮:高関健

1月26日 ティアラこうとう大ホール

アーティスト写真

 「プロメテウス」の全曲演奏は、非常に珍しい。そういう意味では意欲的なプログラムだったし、興味深かった。全曲は序曲とフィナーレの間の16曲からなる。なぜ、全曲演奏される機会が少ないのか。高関がプレトークで「正直、いらないのではと思う曲もある」と笑いを誘っていた。とはいえ、当日のプログラム全体の構成から、「これは1801年の田園だと思ってください」と言っていた。2曲の田園を聴き比べられたと言える。
 演奏が始まって、楽器の配置の問題だが、チェロとコントラバスが第1ヴァイオリンの後ろ、下手にいた。これらはたいてい上手に配されている。見ただけでは高関の意図が分からなかった。ところが、全曲を聞き終えた時点で納得した。普段はあまり聞こえない第2ヴァイオリンやヴィオラの音もしっかり聴こえた。この効果を狙った意図的なものだとすると、オケと会場を知り尽くした高関の見識の高さに感服である。しかも、この日のシティ・フィルは響き全体が非常にまとまっていた。管や打楽器も個性を保持しながらもうまくオケに溶け込んでいた。1月11日の飯守の指揮とはまったく違う印象を受けた。指揮者が違うとこうも違うのか。生演奏を聴く喜びはこんなところにもあると思った。「プロメテウス」では中間部のハープのソロに始まる田園的な描写が素敵だった。その後ティンパニが乾いた音を出して不穏な空気を描いていた。バレエの物語は今となっては分からないらしいが、それでもストーリーを想像させてくれる演奏だった。フルートや独奏チェロ、また特にバセットホルンは聴衆の心を掴んだ。聴きごたえは十分だった。
 後半の本家「田園」、こちらはあまりによく知られた名曲だ。第1楽章で田舎に着いた時の素直な喜びの表現に我々もホッとした。第2楽章に入って「小川のほとり」にいて、その音、また風のそよぎ、さまざまな鳥のさえずりの楽しさが伝わってきた。そして、ここから緊張感あふれる演奏になっていった。この美しい流れがずっと続いて欲しいと思ったのだが、それは一貫した音の流れの背景にあるしっかりとした緊張感の持続に基づくものだった。第3楽章では野原で人々がダンスを楽しむ様子を絵画のように思い描くことができた。また、次の雷雨と嵐の描写も出色だった。吹きすさぶ風の音、雷が落ちる描写にワクワク、ドキドキ、我を忘れ心を奪われた。オケ全体の一体感はスゴイものだった。最終楽章の喜びと感謝の気持ちに癒された。ベートーヴェンからすでに200年以上経た現在だが、自然への想いは変わらないものだと感じた。(石多正男)

CONCERT Review

~シューマンへの思慕~
瀬崎明日香Violin&多紗於里Pianoデュオリサイタル
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ
第1番イ短調、第3番イ短調、第2番ニ短調

2月2日 ヤマハホール

アーティスト写真

 冒頭、ヴァイオリンの深い豊かな音に驚いた。ビオラで弾かれているように感じた。実は、ピアノの音も大きく重量感たっぷりに聴こえた。ヤマハホールの音響のせいかもしれないが、それでも二人の存在感の大きさは聴衆にダイレクトに迫って来た。結局この印象は当日の最後まで変わらなかった。瀬崎も最後の挨拶で言っていたが、シューマンのこの3曲を1回のリサイタルで演奏するのは非常に難しい。前半に第1番(約20分),第3番(約21分)、後半に第2番(約33分)の順にしたのは演奏時間を考えても当然だが、前半の2曲はともにイ短調、後半はニ短調で、しかもいずれもシューマンが心の病を発した後の1851年(第1,2番)と53年(第3番)、すなわち晩年に書かれていることもあって、曲想が似ていると言われても仕方がない。
 とはいえ、第1番の第1楽章では「情熱的な表現で」、いわば攻撃的な演奏が楽しめたし、第2楽章では、瀬崎と多(おおの)との楽しい会話が聴衆の心を掴んだ。この2つの楽章の表現の対比は面白かった。これは第3番でも感じられた。また、第3番第3楽章ではヴァイオリンの歌が気持ちよかった。シューマンでは重音奏法が多用されているが、多くの場合、それはフォルテの箇所で演奏される。ところが、第2番第2楽章の変奏での重音は美しかった。うっとりさせられた。その他、ぶつかり合ったり、せめぎ合ったり、微妙なずれがあったり、生演奏ならではのデュオが楽しめた。
 総じて、満足のいく演奏だったが、時に多(おおの)のピアノの大胆さに瀬崎の繊細さがかみ合わないところがあった。作曲そのものがピアノに大きな比重を置いているので、小さなホールでピアノが大きくなるのは仕方がないが、できればヴァイオリンの細部にまで気を配った音を浮き立たせる配慮が欲しかった。アンコールにクラリネット用の「幻想小曲集」Op.73が用意されていた。実は、これを聴いた当時の名ヴァイオリニスト・ダーヴィットがシューマンにヴァイオリン・ソナタ第1番の作曲を依頼したという。アンコールの曲もよく考えられたものだった。なお、会場でCDを手に入れた(VTS-007)。R.シュトラウスとフランクのヴァイオリン・ソナタ(ピアノはE.シュトロッセ)を収録したものだが、生演奏を聴いた後に聞くCDは瀬崎の演奏の様子や雰囲気、そして息づかいまでが思い起こされていいものだと思った。(石多正男)