ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Classic Review

- 最新号 -

CONCERT Review - オペラ

ドビュッシー「歌劇《ペレアスとメリザンド》」
(セミ・ステージ方式)

8月1日、東京オペラシティコンサートホール

アーティスト写真

マルク・ミンコフスキ●指揮
オーケストラ・アンサンブル金沢●管弦楽
アビゲイル・ヤング●コンサートマスター

スタニスラス・ドゥ・バルベラック(テノール)●ペレアス
キアラ・スケラート(ソプラノ)●メリザンド
アレクサンドル・ドゥハメル(バリトン)●ゴロー
ジェローム・ヴァルニエ(バス)●アルケル
シルヴィ・ブルネ=グルッポーソ(メゾ・ソプラノ)●ジュヌヴィエーヴ
マエリ・ケレ(アキテーヌ・ユース声楽アカデミー・メンバー)●イニョルド
ジャン=ヴァンサン・ブロ(バス)●医師・牧童
ドビュッシー特別合唱団●合唱・助演
フィリップ・ベジア●演出
フローレン・シオー●演出
クレメンス・ペルノー●衣裳
ニコラ・デスコトー●照明
トマス・イスラエル●映像

 金沢公演のステージ・オペラ方式とは違って、紗幕のないセミ・ステージ方式。金沢公演は見ていないが、ボルドー歌劇場のホームページの画像を見ると紗幕の効果は絶大で、本当に素晴らしい演出だ。この幻想的な舞台で今回の超絶的名演を聴けたら、その感動はさらに桁違いになったかもしれない。

幻想的なボルドー歌劇場の舞台。開くとページ下方に舞台写真が掲載されている。
https://www.opera-bordeaux.com/opera-pelleas-et-melisande-6861

 しかし、セミ・ステージの利点があった。紗幕がない分、歌手の表情がよく見られたこと。歌唱に集中して聴けたことだ。演出は森の中や夜の闇を表す場面が多い。舞台は暗く、遠くの席では歌手の細かな表情や演技が見えづらい。今回前から3列目中央の席を確保、ステージ前面に高く設営された舞台上の演技と歌唱を間近で味わえたことは、演出のマイナス面を補って余りあるものがあった。
 歌手陣は全て素晴らしい出来栄え。ドビュッシー特有の音楽と言葉が自然に溶け合う《ペレアスとメリザンド》の世界を描くには、ネイティブによるフランス語歌唱は理想的で、文字通り時の経つのを忘れて聴き入った。
 最も感動したのは第3幕第1場、城の塔の上でメリザンドが歌う「私は日曜の正午の生まれ」。メリザンド役のキアラ・スケラートはオルガン横のバルコニー下手で歌った。天国的と形容するにふさわしい透き通った歌唱。カトリーヌ・ドヌーヴに似た長い髪と美しい容貌もあいまって、メリザンド役として理想的だ。スタニスラス・ドゥ・バルベラックのペレアスもリリカルでしかも力強い。
 メリザンドの髪が塔の上から落ちてくる場面は、オルガン前に置かれた巨大なスクリーンにグラフィックデザインのように細かな線がいっぱいに広がった。金沢およびボルドーの演出では紗幕に写されることでメリザンドの髪が実際にペレアスの前に落ちてくるように見えたようで、こればかりは残念。
 アレクサンドル・ドゥハメルは、演技歌唱共にゴローの粗野で自己中心的な性格を表すには適役だった。
 ジェローム・ヴァルニエも長身痩躯に加え、メイク・衣装も灰色で、威厳ある声とともに老王アルクルにふさわしい存在感。
 シルヴィ・ブルネ=グルッポーソのジュヌヴィエーヴ(ゴローとペレアスの母)の潤いある声も印象に残る。マエリ・ケレのイニョルド(ゴローの先妻の息子)の声質も子役にぴったり。ジャン=ヴァンサン・ブロも医師と牧童の二役を確実にこなした。
 ミンコフスキとオーケストラ・アンサンブル金沢は室内楽的な精妙な響きを維持。舞台上にあっても歌手陣とのバランスが素晴らしく、木管群は特にペレアスやメリザンドの心理状況を良く表現していた。
 ドビュッシー没後100年と、ミンコフスキのオーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督就任(9月より)を記念するにふさわしい記念碑的イベントだった。(長谷川京介)

写真:マルク・ミンコフスキ(c)Marco Borggreve