ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Classic Review

- 最新号 -

CONCERT Review

Bachbone Japan(バックボーン・ジャパン)
CD発売記念コンサート

 

ショスタコーヴィチ:人形たちの踊り
ブルックナー:3つのモテット
すぎやまこういち:「ドラゴンクエスト」より
小長谷宗一:ワン・デイ
ウォーラー:ハンドフル・オブ・キーズ / ジルバのワルツ / 浮気はやめた / ルッキン・グッド
トロンボーン:青木昴 / 福田えりみ / 小田桐寛之 / 井口有里 / 池上亘
バストロンボーン:篠崎卓美

11月21日 渋谷区文化総合センター大和田さくらホール

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 トロンボーンだけ、6人によるアンサンブルだった。トロンボーンは金管とはいえトランペットやホルンと違って、クラシックでは古典派までは宗教曲に使われることが多く、一般的にはむしろ地味な印象を与える。しかし、ジャズではノリのいい楽しい楽器としても使われる。宗教曲とジャズ、この夜はこの異質とも言える二つのジャンルを楽しめたような気がした。
 前半はまずショスタコーヴィチのもともとピアノ用の可愛らしい曲。この夜の編曲はすべて小田桐が担当したとのことだ。トロンボーン6本のために編曲するのはかなり骨が折れたと思うが、第4曲ポルカでの曲想の変化の付け方が秀逸だったし、第5曲ワルツ・スケルツォではメリーゴーラウンドを思わせる遊園地の雰囲気が快く伝わって来た。プログラムはこれにブルックナーの宗教曲が対比され、さらに前半を「ドラゴンクエスト」が締めくくった。けっして派手ではない、奇をてらうこともない、穏やかな優しい雰囲気でコンサートは進んだ。
 そして、後半。「ワン・デイ」の演奏は素晴らしかった。第3曲のMorning Songの楽しそうなワクワク感、第4曲Day Dreamでの幸せに満ちた午睡のまどろみ、第5曲Twilight Danceでダンスに興じた後、最終曲のPrayerでは、祈る姿にこちらの心も温かくされた。豊かで心地よい響きが聴衆を包み込んだ。その上で福田から青木へ、また池上と小田桐の間でのソロの受け渡し、非常に美しかった。最後のウォーラーのジャズ的な4曲では、篠崎のバスのソロが輝いていた。そして、井口も美しい音色でアンサンブルの中に見事に溶けこんでいた。
 なお、アンコールで宮沢賢治の「星めぐりの歌」が演奏された。これもこのアンサンブルには非常に相性がいい作品だと感じた。広大な宇宙を描いた詩とトロンボーンの宗教的な響きがとっても合っていたと思う。(石多正男)

CONCERT Review

イゴール・レヴィット ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ・
サイクル・イン・ジャパンII

 

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ
第5番ハ短調 Op.10-1
第19番ト短調 Op.49-1
第20番ト長調 Op.49-2
第22番ヘ長調 Op.54
第23番ヘ短調 Op.57《熱情》

2022年11月19日 紀尾井ホール

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 2年間全4回シリーズの2回目を聴く。ソナタ第5番はまるで後期の作品のように深みのある解釈。第1楽章は、左手がつくる内声部が多層的で深みがあり、右手もしっかりと沈み込ませる。第2楽章は暗闇の中を手探りでさ迷うよう。第3楽章も構えが大きい。

 第19番、第20番は共に2楽章の作品。第19番ト短調は、レヴィットの弾く一つ一つの音が深い。第20番ト長調はシンプルな作品だが、レヴィットのつくる音が美しく、引き込まれる。

 後半最初の第22番も2楽章の作品。第1楽章テンポ・ディ・メヌエットは、第2主題が異様に力強い。叩きつける打鍵の強さにたじろぐ。第5番でもこの激情的な打鍵がしばしばあったが、ここでもまた同様。経過句の低音が不気味。最後は高揚して終わる。第2楽章は焦燥に駆り立てられるようなアレグレット。無窮動の動きに左手が時々激しく割り込む。

 最後は第23番≪熱情≫。これは初めて聴くタイプの演奏。特に第3楽章のスピード感は凄まじい。16分音符の奔流が絶え間なく続く。コーダのプレストはさらに速度を増し、限界まで行く感じがした。激情的だが、破綻することはなかった。

 アンコールはシューマン「子供の情景op.15」より第13曲「詩人のお話」。ロマンティックだが、ピリリと辛みが効いていて、一筋縄ではいかない雰囲気があった。

 レヴィットは、これまでのベートーヴェンとは異なる解釈を探っているように思える。激しく力強い打鍵は他のピアニストでも聴くことがあるが、レヴィットは弱音とのコントラストが大きい。また追い込みで聴かせる猛烈なスピード感が尋常ではない。そうした実験的な試みを、次々と打ち出しても、音色とタッチの美しさと深みが保たれるので、説得力がある。演奏のスタイルは全く異なるが、先端性や革新性の点でグレン・グールドに重なるものがある。好き嫌いは分かれるだろうが、個人的には新鮮な演奏に魅了された。次のサイクルもぜひ聴きたいと思う。(長谷川京介)

写真:提供=ジャパンアーツ