ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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CONCERT Review

室内楽の環 音楽祭2026 王子ホールで聴くアメリカの実力派による室内楽と世界初演作

2026年7月20日銀座・王子ホール

 アマチュアからプロまで室内楽を学ぶ人のための体験型プログラムを提供しているSoup chamber musicが主催する「室内楽の環 音楽祭2026」。同音楽祭は澤和樹や滝千春らヴァイオリンの講師陣による講習と昼と夜のコンサートからなる。昼は弦楽四重奏曲の幅広い表現を体感する「はじめての室内楽」、滝千春らによるシューマンのピアノ五重奏曲の「公開レッスン」、中嶋愛実のトランペットを交えた受講生らが、久石譲からバロックのシャルパンティエ、エルガーやマルティヌー等の多様な演目を奏でる「こんなに違う!室内楽」の3部構成で、いずれも興味深いが、筆者はアメリカからヴァイオリニストとピアニスト、作曲家を招いての夜のコンサートを聴いた。モーツァルトから現代作品の世界初演作を含む本格的なプログラムで、出演者のヴァイオリンのエリック・シルバーガーはジュリアード音楽院などで学び、2011年の第14回チャイコフスキー国際コンクールのヴァイオリン部門で5位に入賞して一躍注目を集め、アメリカ国内外で幅広く活動。ピアノのブラント・フレドリクセンもジュリアード音楽院やニューヨーク州立大学に学び、アメリカの名門音楽大学の教授職を務めたベテラン。今回、世界初演作品を携えて同道したウィリアム・ワイゲルはニューヨーク、ブルックリン在住の作曲家でベルクやシェーンベルクの孫弟子にあたる(なお、今回の世界初演作品に関連して、デニス&ヴィクトリア・ロス財団の協力を得ているとのことである)。
 一曲目はモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ変ロ長調K454。シルバーガーは、グァダニーニ(1757年製)の豊かな音量と深みのある音色がすばらしく、表現は大きくて明快。両端楽章はフレドリクセンのピアノとともに繰り広げられる音楽的な対話が楽しく、第2楽章はあたかもモーツァルトのオペラの二重唱のようだ。二人とも円熟の技術と力強い表現力をそなえ、とりわけフレドリクセンは繊細で表現が内側に向かうピアニストの多い昨今、稀なほどパワフルで力強く、骨太の音楽をする。こうした二人の美質は、その後のフォーレのヴァイオリン・ソナタ第1番とR・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ第1番という、いずれも作曲家の若い頃の作品で大いに発揮された。フォーレは夢見るようなフレージングに青春の情熱と高揚感、ベル・エポックの薫りが漂い、R・シュトラウスのソナタは二人の音楽家の知性と堅牢な技巧、安定した構成力、信頼感に裏打ちされた緻密かつ積極的なアンサンブル力が集約された秀演だった。注目すべきはこの2曲の間に演奏されたワイゲルの《ヴァイオリンとピアノのための3つの対話》。十二音音階の音列を伝統的な調性の響きに融合させると同時に伝統的な形式を自由に扱い、時にパガニーニ・ラプソディーを思わせる旋律が顔を覗かせる、作曲家の幅広い音楽的な教養を感じさせる作品で演奏後、聴衆から大きな拍手が贈られていた。そして、最後のシュトラウスの後にアンコール曲にシルバーガーとフレドリクセンが選んだのがワイゲルによる《さくら》。新鮮かつ典雅な響きに満ちたトランスクリプション作品でコンサートを閉じた。(那須田務)