ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Classic Review

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CONCERT Review

シュレーカー:《クリストフォロス、あるいは「あるオペラの幻影」》

公演監督:田辺とおる
指揮:佐久間龍也
演出:舘亜里沙

{出演}
アンゼルム:芹澤佳通(両日)
クリストフ:石橋秀和(6/22)、髙橋宏典(6/23)
リーザ:津山恵(6/22)、宮部小牧(6/23)
ロジータ:武井涼子(6/22)、塙梨華(6/23)
ヨハン先生:田辺とおる(6/22)、岡部一朗(6/23)
シュタルクマン:岡部一朗(6/22)、田辺とおる(6/23)
ハインリヒ:上田駆(6/22)、金子快聖(6/23)
霊媒フロランス:原夏海(6/22)、大澤桃佳(6/23)
フレデリク:金子快聖(6/22)、上田駆(6/23)
アマンドゥス:西條秀都(6/22)、長島有葵乃(6/23)
エルンスト:長嶋穂乃香(6/22)、西條秀都(6/23)
子ども:都築夕姫菜(6/22)、長嶋 穂乃香(6/23)
ハルトゥング博士/司会者:ヨズア・バルチュ(6/22)、ダニエル・ケルン(6/23)
ガルダーニ神父:ダニエル・ケルン(6/22)、ヨズア・バルチェ(6/23)
待女エッタ:中尾 梓(両日)
ホテルの客:小野寺礼奈、小林佑子(6/22)、小林万佑子、西脇紫恵(6/23)

{演奏}
ピアノ(連弾):小林遼、波木井翔
弦楽合奏:クライネス・コンツェルトハウス(コンサート・ミストレス:三戸素子)
エレクトーン:山木亜美、柿崎俊也

2024年6月22日、23日 清瀬けやきホール


シュレーカーの幻のオペラ、初の舞台上演が実現

フランツ・シュレーカー(1878〜1934)のオペラ《クリストフォロス》。本作は、日本では演奏会形式で一度あるのみで、舞台上演は今回が初となる。管弦楽は弦楽合奏、ピアノ(連弾)、エレクトーン(2台)に編曲されて演奏された。6月22日の公演を聴いた。

1920年代のドイツのオペラといえば、クルシェネクの《ジョニーは演奏する》(1922年)やヴァイルの《三文オペラ》(1928年)等、ジャズや大衆歌の要素を取り入れたものが流行していたのはよく知られている。同時期にシュレーカーはこの《クリストフォロス、あるいは「あるオペラの幻影」》(1928年)を作曲したわけだが、残念ながら歴史に埋もれてしまった作品となっている。当時の音楽を知る上で、このような作品を上演することは意義があり、時代の多様性や幅の広さを認識することもできる。その点で今回の上演は非常に評価されるべきものである。

内容としては主人公の作曲家が聖クリストフォロスの伝説をテーマにオペラを書くところから次第にそのオペラにのめり込み、さらにそのなかの劇にまで入り込む(二重の劇中劇)という多層的な構成になっており、その中に殺人、霊媒、老子、キャバレー音楽等の要素を趣向豊かに盛り込まれている。かなり難解な内容であるが、舘の演出は会場の制約もあろうが、簡潔であり好感が持てた。紗幕で「光と影」の対比を巧みに使い物語の理解を助けていた。

前述の通り編曲・縮小されたオーケストラを指揮の佐久間はきめ細かく、手堅くアンサンブルをまとめていた。ただプログラムに本来の楽器編成を載せてもらえると良かったと思う。歌手陣については、声楽面の技巧、演技に関して望むところも多いが、芹澤(アンゼルム)、津山(リーザ)以下、出演者みなよく歌い演じきったと言える。やはり経験を積まなければ本当に歌いこなせないむずかしい役柄ばかりであり、今後につながることを期待したい。

原語(ドイツ語)上演。とくにドイツ語のディクションとその演技で舞台を引き締めていたシュタルクマン役の岡部が印象に残った。最後にこうした企画は誰かが旗を振らなければ実現しないわけで、その旗を振り、台本の翻訳までこなした公演監督でヨハン先生役の田辺には敬意を表したい。その情熱と見事な企画力、行動力が次の公演につながることを願っている。(玉川友則)