ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Kenny Washington
WHAT’S THE HURRY

Lower 9th Records L9R2020-1

  ケニー・ワシントンというとドラマーと間違いそうだが、こちらはニューオリンズ出身のジャズ・シンガーのケニー・ワシントン。彼は、高校時代、ブランフォードとウイントンのマルサリス兄弟と一緒だったので、ウイントン・マルサリスとはジャズ・アット・リンカーン・センターで何度か共演している。何年か前に南青山のジャズ・クラブで聞いて、そのスキャットの素晴らしさに印象付けられた歌手だ。本アルバムは、初めて彼名義でスタジオ録音されたもの。伴奏陣には、ジョッシュ・ネルソン(p)ゲイリー・ブラウン(b)ローカ・ハート(ds)他テナー・サックス、クラリネット、トランペット、トロンボーン、ボンゴ、パーカッションが参加しているが、ジョッシュのピアノとの「Bewitched」,ギターの伴奏で歌う「S’Wonderful」、「I’ve Got The World On A String」「Smile」やベースの伴奏でお得意のスキャットを聞かせる「Sweet Georgia Brown」などよく知られたスタンダード・ナンバーをシンプルなセッテイングでソフトに歌うものが多い。明確なディクション、的確なイントネーションが魅力だが、もっとワイルドに楽器と渡り合うところも聞きたかった。
(高田敬三)

ALBUM Review

ANTONIO ADOLFO
BruMa: Celebrating Milton Nascimento

AAM Music AAM0714

  ブラジルの代表的ピアニスト、作編曲者、アントニオ・アドルフォは、ミルトン・ナシメントとは、半世紀以上の交友関係にあり、アントニオは、ナシメントに捧げるアルバムの制作のアイディアを永いこと温めていたという。トニー・ベネット、サラ・ヴォーンなど多くが歌った彼の「ブリッジス(Travessia)」は、有名だ。この歌は、含まれないが。本アルバムは、ナシメントの多くの作品の中から9曲を選んでアントニオ流にアレンジしたトリビュート作品だ。ナシメントの名前を広くアメリカで知らしめたウエイン・ショーターも録音した「Octoubro (October)」、スタンレイ・タレンタインが録音した「Cancao Do Sal (Salt Song)」等を最近のアルバムでもお馴染みの4管のフロント陣にギターも加わるアントニオのレギュラー的なメンバーで各人のソロも交えた重厚で勢いのあるアンサンブルで聞かせる。アントニオのピアノもさることながらマルセロ・マルティンスのサックスとフルートが素晴らしい。「BruMa」とは、「霧」という意味だが、近年の大雨による洪水で大被害を受けた彼の出身地「ミナス・ジェライス」の「Mariana」と「Brumadinho」地区をひっかけたものでここでの被害者達を悼んだものだという。聞きごたえのあるラテン・ジャズ・アルバムだ。
(高田敬三)

ALBUM Review

ディス・ドリーム・オブ・ユー/ダイアナ・クラール

ユニバーサルミュージック:UCCV-1181

  人気シンガー&ピアニスト、ダイアナ・クラールの新作。ダイアナ・クラールにとって、2016 年からの数年間は充実した日々を過ごしていた。ソロ名義のアルバム『ターン・アップ・ザ・ クワイエット』やトニー・ベネットとのコラボ作品『ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ』をリリースし、世界中をツアーして飛び回った。同時にダイアナは、時間を見つけては、名プロデューサーのトミー・リピューマと新たなレコーディングを繰り返していた。そんな矢先(2017年3月13日)、リピューマが享年80歳でこの世を去ってしまった。
 しかし残された音源は、多数あった。ダイアナは、一度は音源に蓋をしたが、あまりにも優れた音源が多いので、リビューマがプロデュースを手掛けた最後の録音「バット・ビューティフル」を軸にアルバム制作を決意した。それが、この『ディス・ドリーム・オブ・ユー』である。尚、ジャケット写真は、ダイアナが自ら撮影した写真を使用している。
 さて、『ディス・ドリーム・オブ・ユー』には、全12曲を収録。ダイアナ・クラールの歌声は、疲れた身体や傷ついた心をそっと癒してくれる効果がある。コロナ禍で、やるせない喪失感や寂寥感を感じている人には、ダイアナの歌が、大きな心の助けとなるだろう。冒頭の「バット・ビューティフル」は、名匠トミー・リピューマが最も気に入っていた曲である。ビング・クロスビー、ボブ・ホープが主演した『南米珍道中』(1947年)の主題歌で、クロスビーが歌ってヒットし、「アカデミー主題歌賞」にもノミネートされた名曲である。ダイアナは、情感のこもった美しい歌声で、丁寧に歌い上げる。これを聴けば、誰もが元気が戻ることだろう。「ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン 」は、アーヴィン・バーリンが作詞作曲した名曲。1946年のミュージカル映画『ブルー・スカイ』で使用されて、大評判となった。「どれくらい君を愛しているのかな?本当のところ、君を思う気持ちは海よりも深く、山よりも高い」という歌詞を、ダイアナが聴きやすい優しい声で歌う。見事この上ない歌声である。また、マーク・リーボウのギター・ソロとダイアナのピアノ・ソロも出色の出来だ。
(高木信哉)