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THEATER Review
演劇『わが歌ブギウギ-笠置シヅ子物語-』
1月2日~20日:三越劇場 1月24日~2月1日:南座
私は笠置シヅ子に親しみを抱いている。歌手活動をやめたのは昭和30年代前半なので、個人的には歴史上の人物だし、四国や関西出身の親戚がいないことを考えると自分でも不思議なのだが、あのパワー、ヴァイタリティがいい。多くの俳優や歌手が笠置に扮したり、トリビュートしているのも、確実に、あちらとこちらの距離を縮めている。『わが歌ブギウギ-笠置シヅ子物語-』は笠置と親交のあった小野田勇が書き、昭和62年にテレビドラマ化。平成5年に音楽劇として初めて舞台化され、今回の、令和に入ってからの初上映では劇団新派の演出家・齋藤雅文が補綴・演出を手掛けた。笠置シヅ子を演じるのは兵庫県出身のキムラ緑子。しゃがれ気味の大きな声でしゃべり、歌い、精力的に動き回り、人情に厚く、曲がったことが許せず、権力におもねない、そんな笠置像を全身全霊で演じている印象を受けた。彼女に数々の名曲を提供した服部良一には、松村雄基が扮した。「東京ブギウギ」など戦後の大ヒットだけではなく、戦前、ジャズ歌手として注目されていた頃の「ラッパと娘」(スキャットも出てくる)がフィーチャーされていたのも嬉しいし、セリフの中に「東松二郎」など日本ジャズ史に残る音楽家の名が登場するところにも心が動かされた。(原田和典)
MOVIE Review
特集上映『音の風景:小杉武久とタージ・マハル旅行団の映像と音楽』
「恵比寿映像祭2026」の一プログラムとして、2月10日と23日に東京都写真美術館 1F ホールで上映
多種多彩なプログラムが揃う「恵比寿映像祭2026」であったが、音楽に的を絞ればこの上映の訴求力が並外れている。2017~18年に兵庫県の芦屋市立美術博物館で開催された「小杉武久 音楽のピクニック」を見に行った私にとっては、垂涎の内容だ。北村皆雄《白い影への対話》(1964年、音楽:小杉武久)、ふじいせいいち《Body Wave》(1971年、音楽:タージ・マハル旅行団)、小杉武久《TM》(1972年、サイレント)の一挙上映。《白い影への対話》はモノクロで、昭和30年代の銀座界隈の風景もふんだんに見ることができる。ジャズ喫茶(ライブハウス)の入り口には、ザ・ビートルズを初めて日本語カヴァーしたグループの一つに数えられるクール・キャッツ、のちにザ・ドリフターズの仲本工事となるロカビリー歌手の仲こうじなどの名が書かれていて、そのポップな顔ぶれと、小杉の多層的で挑みかかるような音楽が私の中で渦巻いた。《Body Wave》は波に向かって、ではなく、波を背に、椅子に座った小杉がさまざまな機材につながれたエレクトリック・ヴァイオリンを弾く。時おり椅子が大きく動き、小杉の両方の足が(横向きであるとはいえ)こちらに突き出されるようになるところが、やけに印象に残った。(原田和典)
MOVIE Review
映画『エリス&トム ―ボサノヴァ名盤誕生秘話―』
ホベルト・ヂ・オリヴェイラ監督。3月6日より、角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺を皮切りに、以降、全国各地で順次公開
このアルバムが『ばらに降る雨』という邦題で初登場したのは海外リリースから4年後の1978年だったと記憶する。名盤と認知されるようになったのは『エリス&トム』というタイトルで出るようになった90年代以降ではなかろうか。そして今や、この作品はブラジル音楽のバイブルの一つに数えられている印象がある。エリス・レジーナは活動の初期からトムことアントニオ・カルロス・ジョビンの楽曲を歌っていたが、その頃すでにトムはアメリカに進出していた。熱唱型のエリスと音符節約型のトムによる組み合わせには「果たしてうまくいくのか」という意見もあったようで、実際のところアレンジ面でもめたところもあったようだが、超一流の音楽家がエゴを捨てて「より良い音楽の創造」に打ち込めば、そこから生まれるのは素晴らしさでしかない。それにしても驚かされるのが、レコーディング風景だけではなく、ロサンゼルスの空港で出会うシーン、散歩しながら会話するところなど、相当に多くの時間、収録カメラがまわされていること。映像作品として発売されることも込みで計画されたプロジェクトだったのかもしれない。この映画には、その映像がふんだんに使われていると共に、現存する関係者の発言や、「アルバム制作に至るまでのトムとエリスの歩み」も手際よく盛り込まれている。つまり必見の一作なのだ。(原田和典)