ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Mon David & Josh Nelson
DNA

Dash Hoffman Records 1026

 モーン・ダヴィッドは、アメリカ西海岸で活躍するギター、ピアノ、ドラムスも演奏するヴァ―サタイルな男性シンガー。彼は、フィリピン出身で現地でもポップ畑で成功をおさめAPO Hiking Societyのグループで世界ツアーなども行ったという。2006年にロンドン・インターナショナル・ジャズ・ヴォーカル・コンペティションで優勝、その景品として英国のキャンデイド・レーベルから「My One and Only Love」を発表した。その後、ジャズ・シンガーとしての夢を追うべくアメリカへ移住、ロスアンジェルスを中心に活躍を始めすでに3枚のアルバムを発表している。4枚目の本アルバムは、ナタリー・コールのピアノも務め、サラ・ガザレクの伴奏で日本でもお馴染みのジョッシュ・ネルソンとのデュオ・アルバム。タイトルのDNAは、David―Nelson―Agreementの頭文字を取ったものだという。二人は、音楽的考えが似ていて楽譜なしの即興でどんどん歌えるという事から、遺伝子のDNAとひっかけたのだろう。その通り、素晴らしいスケールの大きなコラボレーション振りを見せる。選曲もビリー・ストレイホーン、ビル・エヴァンス、モンク、チャーリー・パーカー、パット・メセニー等関連のジャズ楽曲を含めて17曲を落ちつきのあるバリトン・ヴォイスのグルーヴィーな歌を聞かせる。マイルスも録音したボブ・ドロウの「Devil May Care」のスキャットではマーク・マーフィーの陰を感じさせる。最近の男性ジャズ・ヴォーカル作品では出色のアルバムだ。(高田敬三)

ALBUM Review

志方もとこ
Cinema Bouquet

Hearty Music 003

  志方もとこの2016年のデビュー・アルバム「Hearty」に続く第2作目。録音がコロナ禍にぶつかり色々難しい問題もあり、どうしようかと迷ったが、こういう閉塞的な時代を少しでも明るくと作られた作品だという。「サウンド・オブ・ミュージック」、「わんわん物語」、「ウエスト・サイド・ストーリー」等などの聞きなれたミュージカル映画のナンバーをメドレーにして次々の歌う。奇麗な声で明るく歌う彼女の歌は、聞き手の心を軽く穏やかにする。2005年のプロ・デビューの頃から共演してきた気心の知れた田村博のプレイフルなピアノに、新岡誠のベース、木村由紀夫ドラムス、そしてフルートとピアニカの笛吹かなも一部で参加。最後の一曲では、娘の歌手の朱雀麗との母娘デュエットも聞かせる。フェリス女学院では英語ミュージカルで主役を張り、国際基督教大学(ICU)では、シェイクスピアを専攻、その後、外資系銀行で重役秘書を務めていただけに彼女の英語は、年期が入っている。それぞれの歌をよく研究していて、日本の歌手にありがちな言葉をなぞるだけでなく、それぞれのミュージカルの主役になったような気持ちの入った歌を楽しく聞かせる。(高田敬三)

ALBUM Review

ワンダフル・ワールド/宮本貴奈

JUMP WORLD:KATS-1019

  ピアニスト・コンポーザー、宮本貴奈が、興味深い新作を完成させた。tea(vo)、パット・グリン(b)、石若駿(ds)、小沼ようすけ(g)、佐藤竹善(vo)、大儀見元(perc.)、中川英二郎(tb)、川村竜(b)、中西俊博(vl)という実力派ミュージシャンを起用して、様々なコラボレーションで、彼女の幅広い音楽性を発揮した。宮本のキャリアでは、最も大型のプロジェクトになった。その内容は目を瞠るものがあり、彼女の類い稀な才能と音楽性の豊かさに心を奪われた。
 全11曲のうち、6曲は彼女のオリジナル、残りは彼女の愛奏曲(スタンダード、ジャズ・チューン)である。中でも驚いたのが、冒頭の「For H.」の演奏である。ケニー・ホイラー(トランぺッター)が作曲した曲で、原曲は19人による大編成による演奏だった。ここでは、宮本貴奈(p)、パット・グリン(b)、石若駿(ds)、tea(vo)というミニマムなスタイル(4人)で、楽曲のエッセンスを抽出し再構築している。この解釈が、斬新である。まずteaが透明感溢れる心地好いヴォーカルでメロディ(歌詞はない)を奏でる。続く宮本のアドリブ(即興演奏)が、とても素晴らしい。「ダブル・レインボウ」(アントニオ・カルロス・ジョビン作曲)は、宮本と小沼(g)のデュオで美しい響きの連続である。聴くたびに味わいの増してくる演奏だ。「Hello Like Before」と「Just the Two of Us」は、本年逝去したビル・ウィザーズの曲。佐藤竹善が、抜群の歌声で魅了する。「Hello Like Before」には、宮本も歌で加わる。「What a Wonderful World」は、ご存じルイ・アームストロングの大ヒット曲。ここでは、宮本が弾き語りで、心をこめて丁寧に歌い上げる。心が癒される優しい歌声が際立つ。これは、コロナ禍で苦しむ人たちの安らぎとなるだろう。また、彼女のオリジナル6曲は、いずれも綺麗なメロディを持つ名曲ばかりだ。さすがは、「バークリー音楽大学・映画音楽作曲科」で学んだだけのことがある。それらを中川英二郎(tb)、川村竜(b)、中西俊博(vl)、小沼ようすけ(g)、パット・グリン(b)らが、至極のソロを聴かせ、彼女のオリジナル楽曲に新たな命を吹き込んでいる。
 ここに「宮本貴奈の代表作」と呼べる充実の一枚が誕生したことを高く評価したい。
(高木信哉)

CONCERT Review

Little Glee Monster「 Live on 2020-足跡-」に見る
オンラインライブの臨場感

今年は残念なことにライブがコロナの影響で殆ど開かれない。
そんな中で多くの歌手達がオンラインライブに活路を見出そうとしている。
9月末に行われたLittle Glee Monsterのオンラインライブもホールを貸し切って無観客で開催された。その印象は、無観客であるということを除けば、通常のライブ中継と何ら変わることがない。
ライブ配信の良さは、彼女達の表情が十分に観て取れることだ。会場にいればわかりにくい繊細で細やかな表情や感情の揺れが、そのまま画面に映し出される。
彼女達のハーモニーも素晴らしかった。
彼女達の持ち味は、1人1人のメンバーが独立して「個」を保っていることにある。
グループでありながら、それぞれがしっかりと個性を発揮している。その歌声が離合集散することによって多重ハーモニーの世界を作り出したり、ソロパートの独自性を発揮したりするのである。コンサートでは彼女達のその持ち味が十分発揮されているものだった。また日頃の路線とは異なり、大人のムードでのパフォーマンスも十分楽しめた。

しかし、この日、私が最も強く感じたのは、彼女達の長くライブが出来なかったことへの「歌」に対する渇望感だった。それが高揚感となって彼女達の感情の爆発に繋がり、パフォーマンスに大きな力を与えていると感じた。
Twitterを駆使して、ファン達が送った感想をステージに映し出し、それに彼女達が答えていくということで一体感を演出したのも、ライブ配信ならではであり、それによって観客は彼女達と一緒にその場にいるのだというリアル感を一層感じるものとなったはずだ。
「こえるよ 現在を
聞こえるよ 未来が…」
この「明日へ」の歌詞の言葉の1つ1つが、コロナの渦の中でも決して『歌うこと』を諦めない、未来はきっとやってくる、という彼女達からの強烈なメッセージのように思った。
(松島耒仁子(クニコ))