ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

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ALBUM Review

ブラジル /リー・リトナー&デイヴ・グルーシン

Pony Canyon PCCY-01996

 1985年に制作されグラミー賞を受賞した『ハーレクイン』は、リー・リトナー(g)&デイヴ・グルーシン(p,作曲家)とブラジルのシンガーソングライター、イヴァン・リンスがコラボレーションした傑作である。メロディとアンサンブルを重視した美しい作品だった。リトナーの生ギター、グルーシンの生ピアノとリンスのスウィートな歌声のコラボ は、それまでまったく聴いたことがない芸術的なフュージョンで、世界中のフュージョン演奏者とフュージョン・ファンに、大きな感動と衝撃を与えたことは記憶に新しい。
 そして本作『ブラジル』は、40年の時を経て、リー・リトナー&デイヴ・グルーシンとブラジルの至宝、イヴァン・リンスが再びコラボレーションした『ハーレクイン』の続編である。リー・リトナーは72歳、デイヴ・グルーシンは90歳、イヴァン・リンスは79歳になった。今再び彼らの新作が聴けるとは、こんなに嬉しいことはない。彼らは、円熟の域に達している。グルーシンは、本作を『このプロジェクトを「ワクワク感で身震いした」とだけ言ってしまうのでは、全く十分な表現になりません』と語っている。
 全9曲中、4曲にヴォーカルをフューチャー(ポルトガル語)する。リー・リトナーのオリジナル2曲、デイヴ・グルーシンのオリジナル1曲、イヴァン・リンスのオリジナル1曲、ミルトン・ナシメントの2曲、アントニオ・カルロス・ジョビンの1曲などを収録。リズム・セクションは、全員ブラジル人。そして、ブラジル録音している。
 「クラヴォ・イ・カネーラ」は、ミルトン・ナシメントの曲。新参加のタチアナ・パーハが温かい歌声で唄っている。グルーシンのピアノ、リトナーのギター、ハーモニカのグレゴア・マレの3人が鮮やかなソロで競演する。「フォー・ザ・パームズ」は、リトナーの曲。グレモア・マレがトゥーツ・シールマンスを彷彿とさせるソロを聴かせる。「ヴィトリオーザ」は、イヴァン・リンスのオリジナル。グルーシンの綺麗なピアノに乗って、イヴァン・リンスが優しく歌い出す。リンスのスウィートな歌声は、健在だ。ストリングスと共に、リンスと共にタチアナ・パーハが歌い出す。リトナーのギターとグルーシンのピアノも絶妙に絡んで、得も言われぬ美しいサウンドが奏でられる。「ストーン・フラワー」は、ご存じアントニオ・カルロス・ジョビンのヒット曲。CTIレーベルの同名アルバムが有名だ。リトナーとシコ・ピニュイロのギター・ソロが冴え渡る。(高木信哉)

ALBUM Review

Jo Harrop
THE PATH OF A TEAR

Lateraize LR020CD

 ジョー・ハーロップは、英国のジャズ・シンガー・ソングライター。最近アメリカでもデビュー、ニューヨークのDizzy’sClubやサンフランシスコのSJJAZZ等に出演している。本アルバムは、彼女の第4作目の作品で彼女の歌に共鳴したラリー・クラインのプロデュースによりロスアンジェルスでアンソニー・ウイルソン(g)、ビクター・インドリッオ(ds)ジム・コックス(p、ハモンドB3)そしてラリー・クライン(b)、デヴィッド・ピルチ(b)等当地の精鋭ミュージッシャンに囲まれて録音された。全11曲の中8曲は、彼女が作詞したものを何人かが作曲したオリジナルで、恋の始まり、失われた恋、願望、悲しみ、喜び等など人生で誰もが経験するような事を想うままに、また、ある意味哲学的に歌った作品が多い。残り3曲は、テンポよく歌うレオン・ラッセルの「If It Wasn’t For Bad」をはじめレナード・コーエンの「Traveling Light」、スティ―ブ・アールの「Goodbye」をカヴァーしている。ジョーの歌は、柔らかな声で歌う全体的にスローなテンポでブルージーなムードの物が多く聴き手に心にじんわりと響いてくるものが多い。(高田敬三)

ALBUM Review

Synia Carroll
WATER IS MY SONG

Clarion Jazz 851724

 シネィア・キャロルは、ノース・フィラデルフィア出身、南フロリダを中心に活躍するジャズ・シンガー、本アルバムは、2016年に発表した「Here’s To You」に続く彼女の第二作目のアルバムでWater (海)に何等かの関わりのある歌を選んで10曲歌っている。フォーク・ソング、スピリチュアルからビートルズ、男性バック・コーラスの付くアフロ・キューバン・スタイルの「Afro Blue」までヴァラェティの富んだプログラムを彼女独自の親しみ易いスタイルで歌い聞かせる。彼女は、学校のスペイン語の先生の資格を持ち学校で教えていたことも在るだけにアフリカン・アメリカン・スピリチュアルの「Wade In The Water」などは、半分は、明確な詩の朗読のような語りを交えて歌う。ピアノのジョン・デ・マルチーノのプロデュースでテナーのヒューストン・パースンが「Between The Devil And Deep Blue Sea」と「Willow Weep For Me」でフィーチュア―されて味のあるブルージーな心地良いソロを聞かせる。
(高田敬三)

ALBUM Review

岡崎友紀「ゴールデン☆ベスト Warner Years」

WPCL-20002(ワーナーミュージック)

 ドキュメンタリー映画「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」(2024年5月31日公開)はほぼ当事者による証言で構成されていることもあってか、叶わなかったこともあったと思うが(鬼籍に入っていたりインタビューが出来なかったり?)「カメリア・レコード」(加藤和彦&内田裕也が設立:ポリドール配給)と「岡崎友紀」が全くパスされていたのが個人的には残念というかかなり不満なのだが、監督の製作姿勢もあると思うのでここでは敢えて言及しない。
 加藤和彦のソング・ライター(作曲)やプロデューサーとしてのポップなセンスを高く評価しているのだが、とりわけ1980年前後の時期はピカイチだったと思う。竹内まりやのデビュー曲「戻っておいで・私の時間」(1978年:オリコン誌84位)は安井かずみ=加藤和彦作品。「ドリーム・オブ・ユー」(1979年:同30位)も作曲は加藤。そして安井=加藤作品による決定打となった「不思議なピーチ・パイ」(1980年:同3位)は編曲も加藤が担当。このあたりは映画でもしっかり描かれているのだが、同時期に手掛けていたのがやはり安井=加藤作品で(編曲も加藤)岡崎友紀の大胆なイメ・チェン作として話題を呼びヒットを記録したフィル・スペクター仕様の「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」(1980年:同18位)。
 この曲を表題にしたアルバム「Do You Remember Me」(1980年)は加藤がプロデュースも担当(アーティストとしての加藤は当時、岡崎友紀と同じくワーナー・パイオニアに所属)。「~ピーチ・パイ」からの‘60年代ポップス路線’がA面に軟着陸。日本語詞で歌った「アイドルを探せ」(シルヴィ・バルタン)や英語詞のままでの「As Tears Go By」(マリアンヌ・フェイスフル~ローリング・ストーンズ)といったカヴァーでもときめかせる。続いてシングル・カットされた「メランコリー・カフェ」(1980年:同99位)は懐かしのヨーロピアン・ポップス風。B面では安井=加藤コンビではなく趣を一転させて大貫妙子、竹内まりやの作品や岡崎自身が書いた楽曲も含んだ(今どきで言うところの)シティ・ポップ路線で編曲は清水信之。「さよなら・for you」は岡崎の作詞、岩倉健二の作曲だが、その岩倉が作・編曲で4曲提供したのが1981年の次作アルバム「So Many Frieds」。
ここでのプロデューサー名義はThomas Simpson & Yuki Okazakiとなっており、センチメンタル・シティ・ロマンスの中野督夫、細井豊、告井延隆の作・編曲、また岡崎自身の作詞も全10曲中、6曲。当時の時流を行くミュージシャンたちの顔ぶれもあってか、ヒットは出なかったものの今ではシティ・ポップの隠れ名盤とも言われている。
 今回の「ゴールデン☆ベスト Warner Years」はこの2枚のアルバムを2in1でパックにしたもので(+シングル曲で21曲)ベスト・ヒット集でも何でもないのだが、しかし岡崎友紀にとってはそれ以前のアイドル時代とは全く一線を画す時期のまさにベストと言える楽曲集だろう。岡崎はその後、1986年に岩倉健二(テクノ・ポップ系のSPYで1980年に加藤和彦のプロデュースでアルバムを1枚)と結婚(再婚)している(~2005年)。
 ちなみに1953年7月31日生まれの岡崎は71歳になる直前の7月15日に45年ぶりという新著「なんたって70歳!-だから笑顔で生きる」(興陽館)を刊行。(上柴とおる)

ALBUM Review

ノーランズ「ジャパニーズ・シングル・コレクション:グレイテスト・ヒッツ」

SICP-31725-26(ソニー ミュージック)

 今やすっかり定番?となった著名アーティストの日本盤シングル音源集(CDサイズに収めたシングルのジャケット写真+ヴィデオ・クリップ付き)。今回登場のノーランズは結成50周年(ノーラン・シスターズ名義での登場を起点として)の記念企画でもある。
 CD(全21曲:2024年デジタル・リマスター)+DVD1枚(世界初DVD化映像も含むミュージック・ヴィデオ9曲分)でイギリス&日本での全盛期(1980年~1982年)をパックした内容だが、振り返ってみると日本ではEPIC・ソニーの主導で独自のリリース体系がとられていたことがわかる。シングル・カット、邦題の付け方(原題とは関係なく)、そしてジャケットの作りなどまさに‘アイドル’としてのノーラン姉妹を創出していたのだった。
 こちらではイギリス以上のウケ方だったとも言える。英・日共に大ブレイク作となった「ダンシング・シスター」はイギリスでは3位だったが(これが最大のヒット)オリコン誌ではNo.1。文化放送の全国ネット番組「オール・ジャパン・ポップ20」(AJP)でもNo.1に輝いているが、同番組では以降も「恋のハッピー・デイト」「ときめきTWENTY」「セクシー・ミュージック」「夏は16才」と連続して5曲がNo.1になっている。彼女たちを軸に‘キャンディ・ポップ’なる造語が新たにジャンル化されるまでにもなったが、その勢いと人気は他の追随を許すことなく頂点に君臨し続けた。
 が、10代のファンが多数詰めかけた来日公演(1981年4月)を鑑賞した際には‘違和感’のようなものも感じてしまったことを思い出した。彼女たちのコスチュームやステージ上でのパフォーマンス、レパートリーや歌いっぷりなどアイドルというよりも、大人世代を対象にしたショー・ビジネスの世界という印象だったように記憶している。本国における彼女たちの存在感や立ち位置は日本とは異なっていたのではないかと感じたものだが、EPIC・ソニーがとことん、独自仕様で売り出したことが奏功して日本での一大ムーヴメントにつながったと改めて認識させられる今回のシングル・コレクションである。(上柴とおる)

MOVIE Review

映画「ザ・ビートルズの軌跡 リヴァプールから世界へ」

7月5日より公開

 ザ・ビートルズ関連の映画や書物はどうしていつもこんなに面白いのか。この作品に描かれているのは、およそハンブルク時代から、公式デビュー曲「ラヴ・ミー・ドゥ」のレコーディングに至るまでだ。その「ラヴ・ミー・ドゥ」に関しては62年6月6日、9月4日、9月11日と計3度のセッションが行われていて、ドラマーは順に1回目;ピート・ベスト(録音後、解雇)、2回目;リンゴ・スター(加入直後)、3回目;アンディ・ホワイト(1930年生まれのセッション・ドラマー。リンゴはタンバリンを演奏)。この映画ではピートが語る様々なエピソードを見聞きできると共に、「たまたまセッションに呼ばれて演奏したら、それがロック史上のトピックになってしまった」アンディの目線からのザ・ビートルズ観も知ることができるし、ジョージ・ハリスンの幼なじみで後にザ・ビートルズのツアー・マネージャーとなるトニー・ブラムウェルの回想も生々しい。アンディは2015年に、トニーは去る6月7日に亡くなってしまったので、「よくぞ残してくれました」との気持ちは増すばかりだ。(原田和典)

監督・脚本・製作:ボブ・カラザーズ
出演:アラン・ウィリアムズ、ピート・ベスト、アンディ・ホワイト、トニー・ブラムウェル、ノーマン・スミス、アラン・クレイン
字幕監修:藤本国彦
原題:”The Beatles: Up Close and Personal”
配給:NEGA
2008年/イギリス/74分/カラー/16:9/ステレオ/英語

公式サイト:https://beatles-filmselection.com/

LIVE Review

ゆいにしお 2nd Full Album『weekday』
Release Oneman Tour 「clap your two hands!」

5月12日 代官山・SPACE ODD

 2018年に日本コロムビア株式会社、タワーレコード、レコチョクによるインディーズ活動支援プロジェクト「EGGS」が開催したオーディションでグランプリに輝き、2022年に満を持してメジャー・デビュー。この3月にセカンド・フル・アルバム『weekday』をリリースしたシンガーソングライター、ゆいにしおがツアーの締めくくりを代官山でおこなった。福岡、大阪、札幌、名古屋での公演を経て、手ごたえをしっかり掴んでの公演といったところだろう。ノラ・ジョーンズのバンドに在籍経験のあるアダム・リーヴィに師事した大月文太(ギター)をはじめとするメンバーとの息もぴったりで、パワフルな歌声と爽やかなバンド演奏の融合で楽しませるいっぽう、プログラムの途中では大月、Hiromu(キーボード)との各デュオ、岡田真帆(ベース)&藪本裕人(パーカッション)とのトリオ編成などで、インティメイトな一面もしっかり届けてくれた。定番の「ワンダーランドはすぐそばに」と「息を吸う ここで吸う 生きてく」を最初と最後に配し、その間に『weekday』の楽曲をたっぷり挟むステージ。観客に積極的に話しかけながら、実にフレンドリーなひとときをつくりあげていた。(原田和典)

LIVE Review

KOTARO FURUICHI SOLO BAND TOUR 2024
「赤のブルース」

5月30日 東京・EX THEATER ROPPONGI

 ザ・コレクターズのギタリストとしても活動する(1986年~)古市コータローが、ソロ・ツアー「赤のブルース」の千秋楽を60歳の誕生日に開催した。ゲストとして、ウエノコウジ(The HIATUS/Radio Caroline)、江沼郁弥(DOGADOGA)、大森南朋、クハラカズユキ(うつみようこ&YOKOLOCO BAND/M.J.Q/QYB/The Birthday/緊急バンド/OHIO101)、佐々木亮介(a flood of circle)、神野美伽、仲井戸“CHABO”麗市などの豪華メンバーが集結。ロックの魅力にとりつかれたまま還暦を迎えてしまった古市コータローの歌やギターが満喫できたのはもちろん、多彩なセッションの数々から彼の持つ幅広さ、柔軟性を改めて知ることができた。2年ぶり6枚目のソロ・アルバム『Dance Dance Dance』からのナンバーはもちろんのこと、神野が圧倒的な声量で迫る「座頭市子守唄」、仲井戸とのギター合戦がエキサイティングな「ホンキートンクタウン」など、全編がエキサイトメントの連続。これだけのてんこ盛りを、よくぞ2時間に収めたものだと、その手際よさにも唸らされる一夜だった。(原田和典)