- 最新号 -
ALBUM Review
Sinne Eeg&Jacob Christofferson
SHIKIORI 想帰庵
Stunt Records STUCD 25032
日本でもお馴染みのデンマークのヴォ―カリスト、ソングライターのシーネ・エイの13枚目のリーダー・アルバム。学生の頃、愛知県安城市と地元デンマークのコリング市の姉妹提携を機会に代表で訪れて以来何度も来日コンサートを行って来た。今回は、共演歴も長い同国のピアニスト兼ソングライターのヤコブ・クリストファーセンとのデュオ。同国のベースの巨匠、ニールス・へニング・ぺデルセンに教えを受けたベース奏者の松永誠剛の祖母の築150年の古い家を改築して開いた想帰庵の居間で録音された。そういえば、松永の師匠のぺデルセンも京都など日本の古い文化に興味を持っていた。以前、想帰庵を訪ねたことのあるシーネ・エイが3曲とヤコブ・クリストファーセンが4曲、それぞれ想い出などから書いたオリジナルを7曲に、一工夫も二工夫も加えた「Lush Life」、「Better Than Anything」、「Maria」、「But Not For Me」のスタンダード・ナンバーにアニー・レノックスの「Cold」を交えて全12曲を取り上げ意気のあったインタープレイを展開する。オリジナルにはワードレスの「蛇」や「そば」、日本語で歌う「そばの花」等が含まれ、琴の音を連想させる音を使ったり大変ユニークな作品だ。(髙田敬三)
ALBUM Review
Mark Winkler
HOLD ON
Cafe Pacific Records CPCD 6031
マーク・ウインクラーは、ロスアンジェルスで生まれ、カリフォルニアを中心に活躍するヴォーカリスト、ソングライター。本アルバムは、彼の22作目になる。彼は作詞家としても有名で作詞の教室も持っている。全11曲の中、7曲は、彼が作詞したものかアレンジャーのグレッグ・ゴードン・スミスとの共作によるものだ。彼が書いた歌は、ダイアン・リーヴス、クレア・マーチン、ディー・ディ―・ブリッジウォ―タ―、ランディ・クロフォード、ボブ・ドロウなどそうそうたるシンガー達が録音している。フランク・レッサーの「If I Were A Bell」ジョニー・ホッジスの曲にデイヴ・フィリッシュバーグが詞を付けた「A Little Taste」、フランク・シナトラの歌で有名な「It Was A Very Good Year」、ビリー・ジョエルの「Vienna」等もしゃれたアレンジで取り上げている。伴奏陣にはタミール・ヘンデルマン、ジョン・ビーズリー、ジャミソン・トロッター、エリック・リード、グレッグ・ゴードン・スミス、リッチ・イ―ムスと曲によって錚々たるピアニストが個性を発揮、その他有名なロスのミュージッシャン達が付き合っている。温かい人間性を感じさせる彼の説得力のある落ち着いた語りの歌は、何時もながら素晴らしい。(高田敬三)
ALBUM Review
Jennifer Lee
GLIMPSE
SBE Records SBECD000
キテイ・マーゴリスを師と仰ぎサンフランシスコを中心に活躍するジェニファー・リーは、ヴォーカリストとして2003年に「Jay Walking」を発表以来、ギタリスト、ピアニストとしても活躍、2009年に2枚目の「Quiet Joy」を録音している。父親の介護などで時間は、空くが2018年の3枚目の作品「My Shining Hour」では、自作の歌も歌い、ソング・ライターとしてもデヴュ―する。最新作の本アルバム「Glimpse」では、全11曲の中、9曲で自作の歌を披露してヴォーカリスト、ピアニスト、ギタリストそしてソング・ライタ―としての素晴らしい才能を発揮している。残りの二曲は、ハリー・コニック・ジュニアのヴァージョンを聞いて感動したというハロルド・アーレンとイップ・ハーバーグの「If I Only Had a Brain」と友人のシャンナ・カールトンとキャシ・ウォ―カップの書いた「Dave Don‘t Mind the Rain」を取り上げている。ピアノの弾き語りでしっとりと歌うハロルド・アーレンの曲が大変印象に残る。伴奏陣は、地元のミュージッシャンで固め、何曲かでは、ランディ・ブレッカー(ts)やピーター・スプラ―グ(g)が味のあるソロを聞かせる。スーパー・ヒーローといっている最愛の夫とのロマンスを中心に人生の色々なことを現代的な歌で聞かせてくれる作品。(高田敬三)
ALBUM Review
『Blue Horizon/エリック・ミヤシロ』
T-SQUARE MUSIC ENTERTAINMENT Inc/ Orange Lady/OLCH-10033
日本が世界に誇る名トランぺッター、エリック・ミヤシロの最新作。なんと15年ぶり、通算6作目となるアルバムである。エリックは、ハワイ生まれ。バークリー音楽大学に進む。22歳でバディ・リッチ、ウディ・ハーマンなどの有名ビッグ・バンドにリード・トランペットとして招かれ、7年間の間、世界中を楽旅した、2013年に、”Blue Note Tokyo All Star Jazz Orchestra”のリーダー&音楽監督として活動を開始。そして今日に至るまで、数多くのレジェンド達と共演して、名声を確立した。
さて、本作には、全8曲を収録。最後の曲チック・コリアの「スペイン」を除く7曲すべてがエリックの作曲(7曲)である。ハワイ生まれのエリックらしく、アルバムは明るい楽曲が多く、瑞々しい素晴らしい音楽が満喫できる最高の1枚である。
構成は、コンボ(8名)が4曲、ビッグ・バンド(16名)が3曲、そして小曽根真(p)とのDUOが1曲ある。また、録音も大変優れており最良のサウンドが楽しめる。
冒頭の「Blue Horizon」は、ビッグ・バンドの演奏。Blue Note Tokyo All Star Jazz Orchestraのテーマ曲で、ライブでは、いつも1曲目に演奏される。宮本貴奈(p)川村竜(b)川口千里(ds)という最強のリズムセクションを布陣し、ビッグ・バンドの楽しさが味わえる。シンプルなフレーズから始まり、段々と音が重なっていく。
まるで、ハワイの虹の色が、時間と共に色鮮やかになっていくようだ。小池修のテナー、エリックのTPソロが心地好い。後半の川口千里のドラム・ソロがカッコ良い。「タイム・ウィザード」(2曲目)は、コンボ編成。エリックの高速ミュート・ソロ、そして中川英二郎(tb)と本田雅人(sax)の超絶技巧のユニゾンが聴きどころだ。
「ターコイズ・ムーン」(6曲目)は、エリックと小曽根真とのDUO。この二人は、仲良しで、時々ライブもやるだけにとても息が合っている。小曽根のピアノに乗って、エリックが気持ち良さそうにトランペットを吹く。小曽根のピアノ・ソロは、闊達で喜びに満ちており、エリックのピッコロ・トランペットの高音も冴える。見事なDUOである。「バック・ステージ・パス」(7曲目)は、ブレッカー・ブラザーズを彷彿とさせるファンク・ナンバー。どんどん加速していく演奏は、まるでスポーツ・カーでガンガン飛ばしていくような軽快な気分が味わえる。最後の曲は。ご存じチック・コリアの「スペイン」だ。エリックのライブでも、よく最後に演奏されている。「スペイン」は、日本のミュージシャンの間では、よく演奏されるが、なんと言ってもエリックの演奏、エリックのアレンジが、ジャパンNO.1だと言えよう。宮本貴奈の綺麗なピアノから始まり、徐々に重厚な雰囲気に音が変化していく。エリックのトランペットが美しく響き渡る。アンサンブル、リズムの全てが心地良い。やがて怒濤のごとく押し寄せるホーンセクションとスピード感溢れるリズムセクション(川口千里のドラム・ソロがスゴい)が混ざり合う。最後は、エリックの最高のソロが、炸裂する。
エリック・ミヤシロの渾身のアルバムが完成したことを心より喜びたい!(高木信哉)
ALBUM Review
『続・これが本命盤!英・欧州アーティストが大ヒットさせた曲のオリジナルを集めてみました』
(オールデイズ レコード) ODR7443
7月号でピック・アップした『これが本命盤!米国アーティストが大ヒットさせた曲のオリジナルを集めてみました』の続編。前作はアメリカのアーティストだったが今回はイギリス(&欧州)編。「1st Recordings of World Hit Pops Made Famous by UK and Europe Artists」というサブ・タイトル通りの内容で全28曲。以下は収録曲(大ヒットしたアーティスト盤の邦題を表記)
ストップ・ザ・ミュージック/ピンと針/朝からごきげん/ミセス・ブラウンのお嬢さん/ドゥ・ワ・ディディ・ディディ/愛のウエイトリフティング/タイム・イズ・オン・マイ・サイド/アンナ/アイ・ゴー・トゥ・ピーセス/悲しき願い/ビフォア・アンド・アフター/サイレンス・イズ・ゴールデン/太陽はもう輝かない/恋はワイルド・シング/この胸のときめきを/恋はごきげん/ソロウ/思い出のグリーン・グラス/ハッシュ/悲しき天使/汚れなき愛/セット・オン・ユー/ブレイクアウェイ/愛の絆/愛の放浪者(安らぎを求めて)/(ボーナス曲=ヴィーナス/胸いっぱいの愛を)
前回よりはマニアック寄りのセレクトとも言えるが、今回も「えっそうだったのか!」の新たな発見と共に楽しめる内容で、一例を上げるとピーター&ゴードンでおなじみ「アイ・ゴー・トゥ・ピーセス」は作者のデル・シャノン盤を収録。「サイレンス・イズ・ゴールデン」はフォー・シーズンズ、「太陽はもう輝かない」はフランキー・ヴァリ。「この胸のときめきを」は元がシャンソン。テクノ・ポップ・デュオのソフト・セル「汚れなき愛」やジョージ・ハリスン1987年の全米No.1曲「セット・オン・ユー」はいずれもR&Bナンバーが原曲。ポール・ヤングで広く知られるようになった「愛の放浪者(安らぎを求めて)」の出展もR&Bだが「愛の絆」のルーツは一般的にはほとんど知られていないかと。ボーナスの2曲は「この曲をベースに作られたとしか思えない」といういわば‘匂わせ’曲。ポップスの奥深さにハマりたいファンには興味を持ってもらえるかと♪(上柴とおる)
LIVE Review
ンドゥドゥゾ・マカティーニ
6月27日 南青山・ブルーノート東京
近年のブルーノート・レーベルを代表するアーティストのひとりであろう、南アフリカ出身のピアノ奏者ンドゥドゥゾ・マカティーニの来日公演が遂に行われた。近作『uNomkhubulwane』では目からビームが飛び出すジャケットと途方もなく奥深い音作りの両面、つまり視覚・聴覚の双方で楽しませたンドゥドゥゾだが、私がライヴを体感した印象は、まさに「冒険の旅」。楽想の広がりが尋常ではなく、途中、あまりポーズを置かずに次のセクションに行くのも、この場合は実に効果的であるように感じた。コイサン語にルーツがあるという、文字化不可能と伝えられるクリック音(アゴの骨を鳴らす)を用いながらの演唱は包み込むように優しく、ピアノでは一転、和音中心に、重厚かつ雄大なサウンドの流れを描く。「メッセージ・フロム・ザ・ナイル」や「サハラ」など1970年代前半のマッコイ・タイナー(別名Suleiman Saud)が描いた世界が、ンドゥドゥゾの中で吸収され、咀嚼され、熟成され、2025年の空気の中で解放されているような印象も受けた。共演のダリスゥ・ンドラーズィ(ベース)、カベロ・モカートラ(ドラムス)もンドゥドゥゾと同じく南アフリカ出身。彼らの骨太かつ俊敏なプレイも、公演の大きな魅力につながっていた。(原田和典)
Photo by Tsuneo Koga
LIVE Review
YOKO MINAMINO 40th Anniversary 〜ALL singles〜
“楽園のDoor”
7月27日 渋谷・NHKホール
デビュー40周年を迎えた南野陽子が29年ぶりにツアーを開催した。役者としての印象が強いことと思うが、1980~90年代に青春を過ごした者には“歌番組の常連”というイメージも刷り込まれていることだろう。今回のコンサートは歌手・南野陽子の魅力が、軽妙なトークと共に楽しめるというもの。セットリストはシングル盤として発売された曲ばかり。幅広い年齢層のファンでいっぱいのホールが、歳月の流れを飛び越えた、非常に構成のしっかりした楽曲で満ちていくのは実に快く、一部、当時の衣装を再現していたところも大きなこだわりを感じさせた。1980年代はまさにアイドル百花繚乱だったが、2025年現在もなお現役で芸能活動を続け、多数のヒット曲でワンマンコンサートを成立させ、ツアーをソールドアウトにできるのは“偉業”以外のなにものでもない。ところで、南野のレコードはシングルだけではなくアルバムも非常に丁寧に作られていた。『ジェラート』、『ヴァージナル』、『グローバル』などに入っている珠玉の名曲の数々も、現在も変わらぬノーブルな歌声で聴きたくなってくる。(原田和典)
Photo by CHIRO EDWARD SATO
LIVE Review
Söndörgö(ションドルグ)
9月4日 稲毛 Candy
不勉強にして存じ上げていなかったものを目の当たりにして、それがゴキゲンに楽しかった時の、“喜びが増えた感”は確実に人生に潤いを与える。そういう意味で私はSöndörgö(ションドルグ)のライヴ中、ひたすら高揚した。彼らはハンガリーの少数民族、南スラヴ人の伝統音楽をベースに演奏するバンド。30年前に首都ブダペストの北にある都市、センテンドゥレで結成されたという。アーロン・エレディチ、ベンヤミ・エレディチ、ダ―ヴィド・エレディチ、ショロモン・エレディチは血がつながっていて、そこに親友のアーベル・デーネシュがウッド・ベースで加わる。この生音のウッド・ベースが、まずすごかった。音色の太さ、音程の良さ、スタミナ、フレーズの面白さ。彼のベースが敷く音のカーペットの上を舞うように、エレディチ姓の者たちがさまざまな楽器を持ち替えて、歌い、観客から手拍子や笑顔を引き出していく。第1部はダンサブルな曲、第2部は即興を交えた曲を中心に構成されており、「僕らの即興はジャズとはちょっと違うんだよ」といいながらの長尺インプロヴィゼーションも、また痛快だった。(原田和典)