ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Alexis Cole And The Taipei Jazz Orchestra
JAZZ REPUBLIC:TAIWAN,THE UNITED STATES AND THE FREEDOM Of SWING

Tiger Turn

 ジャズ・シンガー、ピアニストのアレクシス・コールは、代官山のシガー・バー「Tableaux Lounge」にピアノの弾き語りで出演、2009年にヴィーナス・レコードから日本盤の「Someday My Prince Will Come」も発表、2020年には丸の内「コットン・クラブ」にも出演して日本ではお馴染みのアーティストだ。彼女は、アメリカ陸軍のウエスト・ポイント・ビッグ・バンドで6年間も歌っていた。退役後も上記のように日本も含め世界各地で歌い、自身のJazz Voice Comなどジャズン教育の方でも活躍している。話題のサマラ・ジョイも彼女の生徒だった。今までギターのバッキ―・ピザレリやピアノのフレッド・ハーシュ等と12枚のアルバムを発表してきているが、今回のアルバムは、台湾の台北ジャズ・オーケストラとの共演だ。このオーケストラは、ジャズ・教育家のドクター、ジーン・アイトケンが1990年に始めた女性が三分の一を占める若者18人編成のオーケストラで国内ではもとより海外でも活躍しているビッグ・バンドだ。アレックスは、「友達の輪」を歌う「Common Ground」から始まり「Moon River」、「Bye Bye Blackbird」、「Moon River」等スタンダードを交えて11曲を若さ溢れるスインギーなバンドと共演を楽しむように伸び伸びと歌っている。意表をついたスローなテンポで歌うコール・ポーターの「Begin the Beguine」が面白い。(高田敬三)

ALBUM Review

Suzanne Pittson
EMERGE DANCING

Vineland Records VLCD 7761

 ニューヨークで活躍するヴォーカリスト、スザンヌ・ピットソンの4枚目のアルバム。彼女は、1996年に初アルバム、オリヴァー・ネルソンの作品に取り組んだ「Blues and Abstract Truth」を発表して注目される。1999年にはジョン・コルトレーンの作品を歌う「Resolution :A Remembrance of John Coltrane」、2010年には、若い頃、最初に感銘を受けたフレディ・ハバードを歌う「Out Of the Hub :The Music of Freddie Hubbard」を発表している。彼女は、元々、クラシックのピアノで学位を取っているが、手の故障で自由にピアノが弾けなくなり、ヴォーカルに専念するようになったという、偉大なミュージッシャンのインストのレコードからソロを採譜してそれを歌うという練習も重ねて、声を楽器の様に使いコード・チェンジも易々とこなし、即興性のある歌が特徴になっている。本アルバムは、初アルバムからのオリヴァー・ネルソンの「Blues For Abstract Truth」でお得意のヴォ―カリーズを聞かせ、最初に感銘を受けたフレディー・ハバードのヴァージョンの「Without A Song」は、巧なスキャットを交えて歌う。その他、ビートルズの「Blackbird」、スティ―ビー・ワンダーの「The Secret Life of Plants」、キャロル・キングの「You’ve Got A Friend」等も交えて12曲、40年以上、連れ添う息の合った旦那の素晴らしいピアニスト、ジェフ・ピットソンとのデュオで歌い、3曲には息子のヴィオラを弾くイーヴァン・ピットソンが加わっている。最近のアルバムの中でも特に聞きごたえのある作品だ。彼女は、2019年10月に家族と共に来日してライヴやワークショップも行っている。(高田敬三)

ALBUM Review

Bevan Manson featuring Tierney Sutton
TALKING TO TREES

Tiger Turn Records TIT-ED-41335

 べヴァン・マンソンは、ジャズとクラシックと二つの分野で活躍する、ピアニスト兼作編曲家でこれまで ジャズのアルバムを4枚、クラシックのアルバムを1枚発表している。今回の6作目は、地球温暖化が叫ばれる今日、山火事による自然破壊等を見るにつけ、自然の恵みというものを強く感じて、ベンガル菩提樹、柳、レッドウッド、マングローヴ等など、樹々の恵みの有難さをテーマに歌った作品を中心に子供の頃から親しんで来たマイルスやコルトレーンの曲を交えてザ・ハリウッド・スタジオ・シンフォニー・オーケストラと共に彼独自の世界を作り出す。ピアノのクリスチャン・ジェイコブとザ・ティアニー・サットン・バンドで特異な活躍して来た彼の敬愛する歌手のティアニー・サットンが「All Blues」、「Take the A Train」、「Willow」Weep For Me」等を歌い、他の歌手、キャサリーン・ライナーやでヴォン・デヴィッドソンなどのヴォーカルも参加、76人からのミュージッシャンによるも数多くの楽器のソロも交えたクラシック風味のオーケストラの演奏に溶け込んで美しい自然界への感謝の気持ちを表す作品。(高田敬三)

ALBUM Review

アバ 「アバ・ザ・シングルス」

UICY-80520/1(ユニバーサル ミュージック)

 「ダンシング・クイーン」が全米No.1になったのは1977年(4月9日付)。イギリスでは6週間もトップの座を独占。日本でもオリコン誌に初ランク・インして19位(35万枚)と洋楽にしては大きなセールス実績を上げた。文化放送の「AJP20(オール・ジャパン・ポップ20)」でも2位まで上昇。アバの知名度が一気に高まり、人気も沸騰したことでアバのブレイク作のように思われているかも知れないが、そうではない。たしかに代表作ではあるが、英米における初チャート・イン曲で大ヒットを記録して彼らの名前が世界に向けて発信されることになった真のブレイク作は「ダンシング・クイーン」より3年前に出たユーロヴィジョン・ソング・コンテストの優勝曲「恋のウォータールー」(1974年:英2週間No.1、米6位)である。
 実はグループ名がABBAと表記されるようになったのはこの曲からで、それ以前はメンバー4人の名前が並べられていた。日本では「木枯しの少女」(1972年:オリコン誌7位/AJP20:No.1)ですでにおなじみだった名称‘ビョルンとベニー’の名義で発売されたこともあって(AJP20=5位)当時は‘恋のウォータールー=アバ’という認知度は薄かったかも。
 そんなABBAとしての‘世界デビュー’から今年(2024年)は「50周年」ということで2枚組の新たなベスト盤「ザ・シングルス」(2枚組:38曲/SHM-CD仕様)が登場(限定生産)。これは1982年に出た「The Singles -The First Ten Years」のリニューアル版で(曲数も増量)、本国(スウェーデン)での全シングル曲が収録されている(ブックレットには全盛期の未発表写真も多数)。
 過去に編集盤「アバ・ラヴ・ストーリーズ」(1998年)や定番「アバ・ゴールド/グレイテスト・ヒッツ」(1999年)の解説を担当しているが、音楽的水準の高さや細やかなポップ・センスの煌めきには一目も二目も置かざるを得ない。
 ちなみにアメリカのポップ・ミュージックにも造詣が深い彼らが1981年に出した隠れヒット「オン・アンド・オン・アンド・オン」(米90位)はビーチ・ボーイズ1968年の「恋のリバイバル」(米20位、英No.1)を思わせるような楽曲で筆者も大好きなのだが(当事者であるビーチ・ボーイズのマイク・ラヴが何と1981年のソロ・アルバムで即、カヴァー♪)今回のベスト盤に入っていないのは残念(米・日ぐらいしかシングル・カットされてなくておまけにマイナー・ヒットということで過去のベスト盤でもたいがい外されている)。
 昔からアピールして来たのだがアバは単にヒット曲が多いというだけの男女混成グループではない。今回のベスト盤を機に改めてそういった評価、認識がさらに広まって欲しいと切に願う。(上柴とおる)

LIVE Review

JAZZ in 藝大2024

9月13日 東京藝術大学 奏楽堂

写真
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 9月13日、「JAZZ in 藝大2024」が、東京藝術大学 奏楽堂にて催された。ホストは、東京藝術大学 客員教授を務める本多俊之(サックス奏者、作編曲家、映画音楽作曲家)。本多がホストになってから、今回が5回目である。毎回、ゲストが豪華で好評である。昨年は、日本ジャズ界の巨匠、渡辺貞夫(当時90歳)が出演し、ジャズの歴史を実感できた。今年も多くのお客様が駆け付け、開演前から熱気が溢れていた。今回もゲストが豪華である。
 オープニングは、本多俊之のソロ。本多が登場しただけで、大きな拍手が沸き起こる。曲は、1917年にジェイムズ・ヘンリーが作曲した「インディアナ」を演奏(ヘンリーは、実際にインディアナ州の出身)。次いで、ドラムの川口千里(27歳)、ヴィブラフォンの藤本隆文とベースの村本和毅が呼びこまれ、チャーリー・パーカーの超有名曲「ドナ・リー」をカルテットで、元気一杯で演奏する。「ドナ・リー」は、前述の「インディアナ」のコード進行を勝手に借用し作られた曲だ。実際は、マイルス・ディヴィスが書いたとも言われている。同じ編成で、川口千里のオリジナル曲「LONGING SKYLINE」。心地良い風や青空の情景が浮かんでくるような名曲。歌心溢れる本多と藤本のソロが、美しい。次いで、リビング・レジェンド、クラリネットの北村英治が登場する。御年95歳である。曲は、「ムーングロウ」。可愛らしい曲で、ベニー・グッドマンの大ヒット曲。北村のクラリネットの綺麗な響き、雰囲気たっぷりのソロにシビれる。本多のアルト・サックス・ソロも加わり、盛り上がる。次もベニー・グッドマンで有名な「メモリーズ・オブ・ユー」。本多が抜け、北村カルテットの演奏。クラリネットの良い音に、古き良き時代にタイム・スリップするような気分になる。再び本多が戻り、今度は「世界は日の出を待っている」。北村は、「若い時、本多君のお父さんと仲良しで、よく一緒に演奏した」と語る。テンポが速くスリリングな演奏となった。川口千里のブラシのバッキングが上手い。速い演奏でも、北村と本多の楽曲に対する的確な解釈力、各人のソロの素晴らしさに驚く。場内は、大喜びだ。大きな拍手が湧く。1部最後は、 本多が敬愛するチック・コリアが書いた「キャプテン・セニョール・マウス」。北村は抜け、代わりに、日本が誇るサックス奏者、須川展也が加わり、本多との2サックスで熱い演奏を繰り広げた。須川は、チックに作曲依頼したことがある(「Florida to Tokyo」という曲)。
 休憩を挟み2部へ突入。ここから、「東京藝大スペシャルウインドオーケストラ」が登場し、まず1曲演奏する。なんと70人編成である。迫力が違う。曲は、チャック・マンジョーネのヒット曲「フィール・ソー・グッド」。栃本浩規(教授)が、チャックと同じフリューゲルホーンで、美しくテーマを奏でる。ファンキーなリズムに乗って爽やかなメロディが流れる。各楽器のハーモニーが素晴らしい。次いで、本多が、オリジナルの「S.G.D.MAGIC」を演奏する。元々DUOの曲を70人編成のWINDオーケストラにアレンジした。様々な楽器の見せ場も登場する楽しい迫力ある演奏となり見事だった。次いで本多のオリジナル「FILLED WITH TENDERNESS」は、須川展也をフィーチャーした演奏で、とても良かった。須川の暖かく美しい音色のアルト・サックス。オーケストラとのアンサンブルも良かった。優しさに包まれた。「WUPATKI」は、川口千里のオリジナル。変拍子の曲で、川口のダイナミックなドラムに影響され、オーケストラも熱い演奏となる。大声援となる。そして、再び北村英治が登場し、ベニー・グッドマン楽団の十八番「シング・シング・シング」で、最高に盛り上がりった。北村のスインギーなソロ、本多のパワフルなソロ、川口千里と本多悠人とのツイン・ドラム、ドラム合戦など燃え上がる。最後は、本多のオリジナル「FAT MAMA’S SAMBA」。明るくカッコ良い曲。舞台と客席が一体となった。盛大な拍手となる。アンコールは、北村英治が書いたブルース・ナンバー「ノー・カウント」。主力メンバー全員のソロが入り、観客との一体感が更に沸騰する展開となる。感動のステージだった。
 最後に感じたのは、本多俊之の力量のスゴさである。才能、気力、器量、作曲、演奏能力において、同時代の演奏家から一歩抜きん出ている。また、70人を超す大勢のバンド・メンバー達から、最高のパフォーマンスを引き出せるリーダーでもある。(高木信哉)

©️東京藝術大学演奏藝術センター(撮影:横田敦史)

LIVE Review

松原忠之 下地イサム <ミヤコ、みやこ、宮古!>

7月27日 南青山・MANDALA

 民謡歌手・松原忠之、シンガーソングライター・下地イサム。宮古にゆかりの深いふたりがジョイントライヴをおこなった。先発はニューアルバム『美ぎ宮古ぬあやぐ〜青い海ぬ如ん、太陽ぬ如ん〜』が好評の松原忠之。沖縄本島で宮古民謡を広めた国吉源次に師事した気鋭だ。師に捧げたオリジナル曲「我が先生」で始まり、「與那武岳金兄小〜かにくばた」、「豊年の唄」などで観客から盛大な拍手を引き出す。歌声、三線の響き、ともにクリアでのびやか。演唱することが楽しみでしようがないといった感じの笑顔もいい。第二部に登場した下地は、歌唱と共にフィンガーピッキング・ギターの巧者ぶりも存分に発揮。ミャークフツ(宮古語)と、デルタブルースやボサノヴァとの相性の良さもたっぷり示しつつ、深みのある歌と軽妙なトークで場内を盛り上げた。そして最後のセクションは、二人の共演。松原が小学生の頃から親交があったというだけあって、会話も演唱も息がぴったりだ。ワンコーラスずつ歌いわけてから合唱に移る「なりやまあやぐ」などを経て、ラストのダンス・ナンバー「漲水ぬクイチャー」では客席とのコール&レスポンスも交えつつ徹底的に熱狂的に迫った。なんと爽快なライヴだったことか。このとき以降、宮古に行きたい気持ちが一層高まるばかりだ。
(原田和典)

LIVE Review

モヒニ・デイ

8月3日 六本木・Billboard Live TOKYO

 “超絶”とは、こういう指の動きや音の配列のことをいうのだろうなと、なかば呆然としながらステージに見入った。インド・ムンバイ出身のベース奏者、モヒニ・デイがついに自身のユニットで来日である。9歳でプロ入りした頃から圧倒的なプレイで名を馳せていたそうだが、わが国で知られるようになったのは、なんといってもB'zのライヴやレコーディングに参加してからだろう。加えて、華やかなヴィジュアルとすさまじく切れ味のあるプレイを兼ね備えた彼女の“音楽家としてのたたずまい”は、SNSともすこぶる相性がいい。初アルバム『モヒニ・デイ』ではサイモン・フィリップスやナラダ・マイケル・ウォルデンなどと組む曲もあったが、この日のライヴは夫のマーク・ハートサッチ(サックス、エレクトロニクス)、ジノ・バンクス(ドラムス)と共に進行。バンドスタンドにいるのは確かに3人なのにとにかく音数が多く、楽曲の起伏に富み、コンピューターも巧みに活用されているから、音世界は分厚く、しかも強い圧がある。モヒニとジノがコナッコル(南インドのリズム言葉)の掛け合いを高速で繰り広げるパートに接していると、音による高速のジャブを受けているような気分になった。演目は『モヒニ・デイ』からのものと、新曲がほぼ半々。早くも次回作が楽しみになってくる。(原田和典)

Photo:cherry chill will.

LIVE Review

メリッサ・アルダナ

8月20日 丸の内・コットンクラブ

 ジョージ・コールマンに師事、コンコードやブルーノートといったレーベルにアルバムを残す気鋭テナー・サックス奏者が初来日を果たした。ラーゲ・ルンド(ギター)、パブロ・メナーレス(ベース)、クッシュ・アバデイ(ドラムス)というレギュラー・バンドのメンバーとそのまま来てくれたのも嬉しい。内容は実にクールというか、淡々としている。オーディエンスに手を伸ばして己の世界に引きずりこんでいくような音楽性というよりは、聴く側から音の流れに身を乗り出していくことによって、おだやかなサウンドの中に深いニュアンスや起伏がこめられていることがありありとわかってくる・・・そんなモデストな音作りだ。メリッサはスタンドマイクと楽器の距離を十分にとって「エアの音」をも客席に届け、しかも美しいサブトーンも交える。その響きを生かすためには、他のメンバーもおのずから抑制の利いたプレイとなり、静寂の美が会場にあふれた。「スプリング・キャン・リアリー・ハング・ユー・アップ・ザ・モスト」におけるメロディの歌わせ方など、ため息が出るほどの快演。ルンドのギター・ワークも“内声変化の鬼”と形容したくなるほど彩り豊かだった。(原田和典)

写真提供/COTTON CLUB
撮影/ Tsuneo Koga