- 最新号 -
ALBUM Review
Antonio Adolfo
BOSS 65:Celebrating Carlos Lyra and Roberto Menescal
AAM Music AAM 0717
ボサ・ノヴァが誕生して65年を記念して作られた、ピアニスト、作曲家、アレンジャーのアントニオ・アドルフォによる先輩の作曲家、カルロス・リサとロベルト・メネスカルへのトリビュート・アルバム。アントニオ・アドルフォは、25枚ほどのリーダー・アルバムを発表して、カルロス・ジョビン(2021)、ミルトン・ナシメント(2020)に捧げるアルバムも作っている。ここでは、「We and the Sea((二人の海))の作曲家でシンガーでもあったカルロス・リサの作品を5曲、本作でも取り上げている有名な「Little Boat(小舟)」も書いたシンガー、ギタリストでもあるロベルト・メネスカルの曲、5曲をグルーヴィーでジャジーなアレンジで聞かせる。アドルフォの柔らかく温かみのあるピアノを中心とするギター、ベース、ドラムス(パーカッション)のカルテットに加えてトランペット(フリューゲルホーン)、アルト・サックス、テナーサックス(アルト・フルート)トロンボ―ンの管楽器陣によるアンサンブルによる美しいハーモニーに歌はないが、各プレイヤーの力の入ったソロも交えて素晴らしいトリビュート・アルバムになっている。(高田敬三)
ALBUM Review
Gaea Schell
In Your Own Sweet Way
Saphu Records SCD 0037
ゲィアー・シェルは、カナダのアルバータ出身、父は、ドラマーで曾祖母は、サイレント映画の音楽の作曲家だった。幼少からピアノを弾いていたが、ギター、ハープ、レコーダー等いろいろな楽器も操っていた。チャーリー・パーカーのレコードを聴いてジャズに目覚めリッチー・バイラ―クに師事してジャズ・ピアニストとして立ち、ナンシー・キングの伴奏、クレア・フィッシャー・ビッグバンド等などで活躍、ピアニスト、フルーティスト、ヴォーカリスト、コンポーザー、アレンジャー、バンドリーダーとマルチ・タレンテッド・ミュージッシャンとして2007年に「For All We Know」、2011年に「After the Rain」の2枚のアルバムを録音している。本アルバムは、第3作目で今現在活躍しているサンフランシスコで現地のミュージッシャン、ジョーダン・サミュエル(g)ジョン・ウィ―タラ(b)グレグ・ウィサー・プラッテ(ds)カルロス・カロ(perc)に曲によりマルコス・ディアズ(tp、p)の参加するグループで録音された。のどやかな海岸を渡る風を思わせるようなフルートを主体としたラテン・タッチの一曲目から始まるアルバム、11曲の中、7曲は、ラテン系のオリジナル、「Sweet and Lovely」とピアノを弾きながら歌う「It Had To Be You」の2曲は、グレート・アメリカン・ソングブックからで、歌詞を付けて歌うディブ・ブルーベックの「In Your Own Sweet Way」と最後の自作のバップ調の「Perplexity」は、ジャズ・ナンバーだ。内省的印象を与えるヴォーカルも良いが、やはり、聞きどころは、彼女のラテン・タッチの巧妙な曲のアレンジと柔らかいタッチの精妙なピアノだろうか。(高田敬三)
ALBUM Review
パーシー・スレッジ
「オネスト・アズ・デイライト:ヒッツ&レアリティーズ」
BSMF-7704 (BSMF RECORDS)
ありきたりなベスト盤の類ではなく、1960年代のAtlantic(全盛期)~1970年代前期のCapricorn(それなりに味があり「I’ll Be Your Everything」のヒットも出た)を経たあとの音源集(未発表も含む)。すでにヒットは出なくなっていた時代ではあるが、そういうことには関係なく、これがかなりイケる♪
1970年代後期~1980年代前期を中心に「男が女を愛する時」や「恋は時間をかけて」などAtlantic時代のヒットのセルフ・カヴァー(バックの音作りが少々あれではあるが)やオーティス・レディング、アーサー・コンレイ、ジェームス・カーらのR&B名曲カヴァーもさることながら、AORの名手としてとりわけ日本では再評価も高いロバート・バーン(1979年作品)まで取り上げていたのには驚いた(曲の良さもあるが意外?なほどに‘聴かせる’♪)。
もっと驚いたのはクラシックス・フォーの代表作「スプーキー」(1968年:米3位)。個人的に大好きな曲ということもあるが、「この手があったか♪」と思えるほどに相性がいい♪ 全20曲のうち一番の聴きものかと。
コテコテのR&B歌手ではなく、柔軟なポップ性をも合わせ持つパーシー・スレッジならではの魅力を再認識させられる。(上柴とおる)
ALBUM Review
フリートウッド・マック「噂~ライヴ」
WPCR-18631-32 (ワーナーミュージック・ジャパン)
英国のブルース・ロック・バンドだったマックがリンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスの加入により大きく生まれ変わったのが1976年のアルバム「ファンタスティック・マック」(全米No.1:500万枚)。さらにそのスケールを爆上げしたのが1977年のアルバム「噂」(計31週間No.1:1900万枚)。
オリジナル・アルバムとしては1970年代を代表するトップの実績で一気に世界的なスーパー・ロック・グループへと駆け上がったが、そんな‘噂’の渦中にあったマックの「Rumours Tour」の模様が2枚組のアルバムとして世に出された。
収録は1977年8月29日~8月31日のL.A.フォーラムで全18曲。うちアルバム「噂」(全11曲)からは9曲が披露されており、長期に渡る同ツアーが「噂」の強力なプロモーションとなり、驚異的なセールスにも奏功したと言えるだろう。
同年12月の来日公演を鑑賞したが(万国博ホール)保存していたセット・リストを見ると今回の2枚組と全く同じ内容(曲順もそのまんま♪)。アルバムが全米No.1を続行中で時代の先端を突っ走り、最も上向きだった時期の彼らの貴重な記録である。(上柴とおる)
BOOK Review
稲垣博司著「1990年のCBS・ソニー」(MdN新書)
ISBN978-4-295-20595-1
大学卒業後、渡辺プロダクションを手始めにCBS・ソニー(~ソニー・ミュージックエンタテインメント)~ワーナーミュージック・ジャパン~エイベックス等で要職を歴任された稲垣さんの新著はソニー時代の制作現場で采配を揮っていた1980年代~1990年代の貴重な証言集。
冒頭文に「本書は松田聖子、尾崎豊、X JAPANを中心とした日本を代表するアーティスト、そしてCBS・ソニーというレーベルについて叙述したものです」と書かれているように、スーパー・スターとなった彼らの発掘から育成、売り出しまでを(もう30年から40年も前のことなのに)丁寧な資料と共に当事者ながらも単なる回顧(懐古)や思い出話にはならず、客観的な視点から詳細に記述されている。
人事など社内事情やプロダクションとの金銭関係、人間関係や数字、もろもろの紆余曲折などなど考えてみれば‘生々しい’内容でもあるのだが、語り口調で書かれていることもあり、しかもすでにかなりの歳月が経過していることもあってかドロドロとした感触はなく、あの当時の業界事情が懐かしく思えるような気分で読み進めることが出来る。
「自社によるアーティストの新人開発(SD事業)と躍進の経緯についてきちんと形に残しておきたいと思ったのが執筆のきっかけ」(稲垣さん)。そのSD関連のFM番組の選曲・構成を担当していた当方にとっても興味が尽きない1冊だが、業界本にありがち(?)な‘オレオレ自慢’が鼻につくような印象は全くない。仕事仲間やアーティストへの優しい心遣いも感じられ、手柄ではなく人柄がにじみ出ている。
全215ページ中に項目が60余りもあるので読み易く、小説も書かれるというだけに文章の筋運びもわかりやすい。(上柴とおる)
LIVE Review
Blue Note Tokyo 35th presents
JAZZ – FUSION SUMMIT 2023
7月17日 水道橋・TOKYO DOME CITY HALL
全身でフュージョン・ミュージックの痛快なシャワーを浴びた---------心の底からそう言い切れる充実のひとときだった。ラインナップは登場順にCASIOPEA-P4、DIMENSION、T-SQUARE(この日はT-SQUARE alpha Xと題して、伊東たけしと本田雅人の2サックス/2EWI体制)、ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロ。CASIOPEA-P4とT-SQUAREは前身バンドの時代を含めると40年以上の歴史を誇り、DIMENSIONも昨年30周年を迎えた。「往年の十八番が主体のプログラムだったのでは?」と想像するファンもいるかもしれないが、断じてそれは「ノー」。「今の俺たちの充実ぶりを聴いてくれ」とばかりに、最新のレパートリー中心にぶちかまし、オリジナル・メンバーと若手メンバーが楽器で語らい、ときには先鋭的といえるほどのアンサンブルを届けてくれるのだから嬉しくなってしまう。各バンドがセッティングしている時間に「スーパー・ウルトラ・ハイパー・ミラクル・ドラム・サミット」(則竹裕之、川口千里、坂東慧、今井義頼)など、この日限りのオールスター・セッションが次々と繰り広げられたのも、耳と目を見張らせた。休憩なし、約3時間半に及ぶ文字通りのフュージョン・サミット。私も含めたオーディエンス2500人の誰もが快感に酔い、早くも次回の開催を楽しみにしているに違いない。
(原田和典)
EVENT Review
追悼:おきあがり赤ちゃん<おもちゃの国は永遠に>
8月5日 高円寺・Oriental Force
5月のライヴを前に急逝したニューエイジ・ミュージック~エレクトロニカ~パンク~クワイエット・ノイズの音楽家“おきあがり赤ちゃん”を偲ぶ夜に足を踏み入れた。1957年生まれの“おきあがり赤ちゃん”はフランク・ザッパ、サンディ・デニー、斉藤由貴などのファンであったが、還暦を前に「おきあがりこぼし」の音に感動し、人生で初めて音楽活動を開始。おもちゃ、親指ピアノ、ガラガラなどを用いつつピュアで神秘的な音世界を創造、2020年に8枚組CD『おもちゃの音の音楽祭』を出した。この日は、おきあがりサウンドの秘密に迫る貴重なフッテージ『おきあがり赤ちゃん秘蔵映像』(インタビューやライブ・パフォーマンスも収録)のほか、生前の彼と縁のあったMiss Donut、Tanao×よくばりChameleon、広本晋、盤魔殿レジデンツ、マリヤ観音(“マリア観音”の木幡東介&明子によるデュオ)がパフォーマンスを披露。MC中に登場する数々のエピソードから“おきあがり赤ちゃん”の人となりが伝わってきたが、マリヤ観音は極めて寡黙に、「心からの追悼です」といったニュアンスの発言と共に、“マリア観音”の名曲「犬死に」を、仏具の“りん”を鳴らしつつ届けた。“おきあがり赤ちゃん”の魂と共に、自分のそれの一部もクソ蒸し暑い夜空にかけあがって、はじけたような錯覚に陥った。(原田和典)