ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Anaïs Reno
Lovesome Thing

Harbinger Records HCD 3701

 アナイス・リノは、ニューヨークの「バードランド」等で活躍の弱冠16歳のシンガー。これは彼女のデビュー・アルバムだが、彼女が選んだテーマが、デュ―ク・エリントン、ビリー・ストレイホーン・トリビュート。それを見事に自分のものとして歌っているのだから、驚くべき新人の出現だ。彼女の父親は、ヨーロッッパで活躍したオペラ歌手で、母親は、現役のコンサート・ヴァイオリ二ストだというから血筋もあるのだろう。5歳の時から歌っていたという。エメット・コーエン(p)、ラッセル・ホール(b)カイル・プール(ds)のトリオに曲によりティヴォン・ぺニコット(sax)そして2曲に母親のジュリエット・カ―ツマンのヴァイオリンが入るバックで「Caravan」から始まり「Take the “A” Train」まで12曲を年季の入ったシンガーの様に見事な表現で歌う。あまり歌われないタイトル曲や「Still In Love」、「It’s Kind of Lonesome Out Tonight」、「All Road Lead Back To You」等も取り上げている。彼女の第二作は、どんなになるか楽しみだ。(高田敬三)

ALBUM Review

Jacqui Naylor
The LONG GAME

Ruby Star Records RSR011

 個性派ジャズ・シンガー、ジャッキー・ネイラーの1999年のデビュー・アルバム「Jacqui Naylor」以来、ベスト・アルバムの「Sunshine and Rain」を含めて12作目になる新作。タイトルの自作曲には、「前向きに努力すれば、きっと幸せはつかめる、人生は、長いゲームだ、決して諦めるな。」という信条の持ち主の彼女の現在のパンデミックの世の中でのメッセージが込められている。ジャズ、R&B,フォークとジャンルの違う分野の歌を継ぎ目なく取り上げるユニークなシンガーで「アク―スティック・スマッシング」という彼女独自のアレンジ・テクニックを使うことでも知られる。これは、ジャズのスタンダード・ナンバーの歌詞やメロディをよく知られるロックのグルーヴで歌ったりする方法でその逆もある。このアルバムでもコールド・プレイの「Fix You」をマイルス・デヴィスの「It Never Entered My Mind」に乗せて歌っている。このアルバムでは、定評のある自作曲に加えて「Like Someone In Love」、「Smile」、「The Thrill Is Gone」、「Speak Low」等のスタンダード・ナンバー、デヴィッド・ボウィ―の「Space Oddity」、ピーター・ガブリエルの「Don’t Give Up」、前記コールド・プレイの「Fix You」も歌っている。深味のある声でソウルフルに歌う彼女の歌には、聞くほどに聴き手を引き込むものがある。(高田敬三)

SINGLE Review

藤井風「Kirari」

 「Kirari」はホンダのCMソングとして書き下ろされた楽曲。
 彼の歌声に一瞬手が止まった。それぐらい周波数の違う歌声は魅力的だ。
 最近のJPOPの歌手の傾向はハイトーンボイス。これは日本人は元々、ハイトーンボイスを好む傾向が強いという統計が出ていることからもわかる。
 それは日本の気候によるものなのかもしれない。乾いた空気が多い日本の風土は、高音が通りやすく響きやすい。それゆえなのか、以前から高音の歌手が好まれる傾向が強かった。
 布施明、西城秀樹、井上陽水、小田和正、B’z、XJAPANなどなど、名前をあげたらキリがないほど、ハイトーン歌手のオンパレードである。
 藤井風の歌声は、そんな傾向の中で、異彩を放つ。甘い低音から鼻にかかった中音域は、非常に刹那的怠惰。歌声が全体に鼻腔に響く色合いのために、音楽が横へ横へと流れ、一本の線上に音符が並んでいく。音の進みが怠惰で緩慢。その緩慢さが、大きな魅力。
 タテ刻みの音符に歌声が乗ると、音楽の進行は縦なのに、歌は横に流れていく。その対照的な音の広がりが彼の音楽を大人の世界に仕立て上げていく。

 現代のJPOP界は、ボカロイドや高速メロディーのハイトーンの色合いが強い。その中で甘く怠惰で、濃厚な彼の歌声は耳に心地よく、ハイトーンの世界から、色彩の濃い世界へと誘う。
 ハイトーンボイスに飽きた耳にオススメの楽曲である。(松島耒仁子)