ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Bonnie J Jensen
RISE

MGM Metropolitan Groove Merchants J010

 ボニー・ジェンセンは、ニュージーランド生まれでオーストラリア中心に活躍のピアノ弾き語りのシンガー、ソング・ライターで、2002年に六本木の「グランド・ハイヤット」に長期出演、翌年から代官山の「タブロー」に出演、以来何度も日本で歌いお馴染みのシンガーだ。ヨーロッパ、アメリカ、アジアと幅広く活躍している。本作は、そんな彼女の2010年の「SHIMMER」以来の5作目のリーダー・アルバム。その間、ヴェトナムのテナー奏者、トラン・マン・テュアンのCDに客演したものもある。最近の暗いムードの世の中で人々の気持ちを高揚させたいという気持ちで「RISE」と名付けたという作品。ハービー・ハンコック、マイケル・フランクス、チック・コリア、スティング、ジェームス・テイラー等々の70年代によく聞かれたナンバーを中心に自作曲2曲を加え彼女と相棒のグレハム・ジェッシ(sax,fl)のアレンジで円熟味のあるベテランらしい歌唱で聞かせる。随所で聞かせるがグレハム・ジェッシ,レイ・カサ―(tp、Flh)、マット・マクマホン(p)のソロも素晴らしい。精巧な編曲のチック・コリアの「Spain」が特に記憶に残る。ここの所、録音が無かった彼女の健在振りを示す作品。(髙田敬三)

ALBUM Review

Champian Fulton &Klas Lindquist
AT HOME

Turtle Bay TBR2500 CD

 ジャズ・ピアニスト兼シンガーのチャンピアン・フルトンの2007年のデビュー・アルバム「Champian」以来19作目となる新作は、スウェーデンのクラリネット、サックス奏者、クラウス・リンドクィストとのデュオ・アルバム。彼女は、これまでにカナダのサックス奏者、コーリー・ウィーズと2枚、父親のスティ―ヴン・フルトンと1枚、3枚のデュオ作品を残している。デュオは、彼女の好みのセッティングの様だ。クラウス・リンドクィストは、欧州を代表するクラリネット、サックス奏者でこれまでも何度も共演している。レーベル主の家の居間で録音された本アルバムは、文字通り「At Home」でクラリネットかアルト・サックスとピアノの大変リラックスした素晴しい演奏が聴ける。6曲ではチャンピアンのヴォーカルも聞かせ、ヴァースから歌う「Tea For Two」や「P.S. I Love You」が聞きものだ。後者ではあまり聞かない2番の歌詞まで温かいムードで聞かせる。(高田敬三)

ALBUM Review

Jamie Shew
Spicy, Classy and a little Sassy

Jamieshewmusic.com No number

 ジェイミー・シユーは、ワシントン州の出身、カリフォルニアのフラ―トン・カレッジで22年間もジャズのスタイリング、インプロヴィゼーション、セオリーなどを教えてきたという歌手、ソングライター。過去に2枚のアルバムを発表している。2018年の前作「Eyes Wide Open」は、旦那のロジャー・シユ―を癌で亡くした後で、彼女のそれまでの彼との人生を振り返るようなもので好評だった。失意から立ち直りつつある彼女の第3作目の本アルバムは、タイトルの示すように愛、(LOVE)の色々な側面を歌うスタンダード・ナンバー9曲に彼女の自作曲2曲とピアノのジェレミー・シスカインドのオリジナルを加えて全12曲を表現力豊な歌で聞かせる。伴奏陣は、ジェレミー・シスカインド(p)カイト・ダントン(org, Rhodes),マイク・スコット(g)、レイマン・メディロス(b.v)マーク・ファーバー(ds)で「Bewitched, Bothered, and Bewildered」ではマリオ・ホセがバック・ボーカルに加わる。アップ・テンポで歌う「Secret Love」や色気を感じさせる「Just Squeeze Me」が特に印象に残る。(高田敬三)

ALBUM Review

Out of the Blue/村越葵

Kamnabi Records /ディスクユニオン KNRS1003

 バークリー音楽大学在学中の19歳のアルト・サックス奏者、村越葵の新作(通算2作目)。村越葵は、北海道生まれ。昨年、高校卒業を機に、『Bicolore』で、CDデビューした(録音当時18歳)。同年、日本人二人目となる「プレジデンシャル・スカラーシップ 」(一人目は寺久保エレナだった:学費、寮費等が全額免除となる)を獲得し、米バークリー音楽大学に入学した。バークリー音楽大学卒業の日本人は、多数いるが、「プレジデンシャル・スカラーシップ」獲得は、わずか二人しかいない、
 村越葵は、現在、留学中(19歳)である。一時帰国中に、本作『Out of the Blue』をレコーディングした。プロデュースは、前作同様の小川悦司。メンバーには、友田ジュン(p)、金子義浩(b)、橋本現輝(ds), 小川悦司(g)が参加(前作とまったく異なる人選である)。オリジナル3曲(前作は2曲だった)を含む全8曲を収録した。19歳とは、とても思えぬ素晴らしい出来栄えである。わずか1年で、大きな進化を遂げている。帰国ライブも拝見したが、元々上手いサックスだったが、音に深みが増した。アーシーな味わいが加わった。
 さて、「Downtime」は、現代ジャズを牽引するロバート・グラスパー(p)の美旋律曲。ピアノの友田ジュンと共に、美しいソロを取る。グラスパーがこれを聴いたら、喜ぶことだろう。「Liquid Streets」は、7年前、49歳の若さで亡くなってしまったロイ・ハーグローヴ(tp)の曲だ。村越葵は、原曲のメロディを大事にしながら、心を込めて吹く。アドリブは、徐々に熱を増していくが、歌心がある。「Hill」は、バークリー 音楽大学で師事するトランペット奏者マーキス・ヒルのフレーズからインスパイアされて書いた村越葵のオリジナルだ。成熟と瑞々しさが共存するアルト・ソロを披露する。ジャズ・ファン必聴の1枚が誕生したと高評価する。(高木信哉)

ALBUM Review

フレンズ・オブ・ディスティンクション
「グレイジン+ハイリー・ディスティンクト」

(オールデイズ レコード)ODRIM1151

 1969年~1970年代前期にかけて前線で活躍した男女混成4人組ポップ・ソウル・グループ、フレンズ・オブ・ディスティンクションのファースト「グレイジン」(1969年7月19日付:35位/R&B部門:10位)とセカンド「ハイリー・ディスティンクト」(1969年11月22日付:173位/R&B部門:14位)をカップリングしたアルバムが紙ジャケで再登場。
 南アフリカのトランペッター、ヒュー・マセケラの自作曲で全米No.1になったインスト・ナンバー「グレイジィング・イン・ザ・グラス~草原の太陽」(1968年7月20日付~2週間No.1/7月13日付~4週間R&B部門No.1)にメンバーのハリー・エルストンが歌詞を付けて軽快なテンポのポップ・ナンバーに生まれ変わらせた出世作(1969年6月7日付:3位/R&B部門5位)や一転してのスロー・バラード「ゴーイン・イン・サークル」(1969年11月8日付~15日付:15位/R&B部門3位)で、当時全盛を極めていた同じ男女混成のフィフス・ディメンションに続く存在として脚光を浴びたが、持ち味はまた異なる。  エディ・フロイドなどのR&Bやゴスペル(アート・レイノルズ・シンガーズなど)からソフト・ロック、ビートルズ、ドアーズ、ケニー・ランキン、クインシー・ジョーンズなどレパートリーの幅広さで多彩な音楽性を披露し、時にはジャジーな感覚も発揮して後年のマンハッタン・トランスファー(同じく男女混成)にも通じるようなスタイルを感じさせるところも。ちなみに‘マン・トラ’が活躍するのは1970年代後半以降だが最初の結成はフレンズ~の登場と同じ1969年である。
 実はフィフス・ディメンションのヒットもカヴァーしているのだが、そもそも両グループは‘原点’を共有している。1960年代前期、ハリー・エルストンとフロイド・バトラーは男女混成の5人組ザ・ハイファイズに在籍していたのだが、同じくそこに居たのが後にフィフス・ディメンションとして世に出ることになるマリリン・マックーとラモンテ・マクレモア。元々は‘仲間’だったのだ。
 今年(2025年)3月4日、ハリー・エルストンは86歳で旅立ってしまったのだが、フィフス・ディメンションのマリリン・マックー&ビリー・デイヴィス・ジュニア夫妻は親友であるハリーへの追悼コメントを寄せている。(上柴とおる)

ALBUM Review

ザ・マッコイズ
「ハング・オン・スルーピー:ザ・ベスト・オブ」

(BSMF RECORDS)BSMF-7760

 5月26日に77歳で旅立ってしまったリック・デリンジャーの起点はかつて率いた4人組のロックン・ロール・バンド、マッコイズ。30年前の1995年に22曲入りのベスト盤がリリースされていたが(日本でも2007年にソニー・ミュージックから出された)リックの逝去を偲んで再プレスで再登場。マッコイズとしてのオリジナル・アルバムはBangで2枚(1965年~19666年)、その後のMercuryでも2枚(1968年~1969年)出ているが、この編集盤はBangでの2枚からピック・アップした15曲+LP未収録のシングル5曲+未発表の2曲が織り込まれており、マニアックなファンの興味も満たしてくれる好内容になっている。
 全米No.1ヒット「ハング・オン・スルーピー」や「フィーヴァー」(7位)「アップ・アンド・ダウン」(48位)「カム・オン・レッツ・ゴー」(22位)「二人は若い(You Make Me Feel So Good)」(53位)「ドント・ウォーリー・マザー」(67位)。。。と続くヒット・ナンバーを辿ってもブルー・アイド・ソウルやガレージ・ロック、そしてサイケデリックまで時代の流れに沿ってサウンド・スタイルを変えて行った様子が伺える。ちなみに「ソロウ」はのちにデヴィッド・ボウイが取り上げて1973年に大ヒット(全英3位)になっている。
 メンバー4人は当時ハイティーンでそろって小柄で愛らしく、アイドル的な人気もあったがMercury時代からはサウンド的にもそういったイメージを払拭し、1970年代に入ってリーダーのリック・デリンジャーはソロのギタリストとして「ロックン・ロール・フーチー・クー」(1974年:23位)を皮切りにロック・シーンで大きな評価を得て行くのだが、そんなリックの若き日の記録としても好適な編集盤である。(上柴とおる)

LIVE Review

ネクライトーキー 「ゴーゴートーキーズ!2025 北上」

6月18日 東京・渋谷CLUB QUATTRO

 2017年大阪で結成、3月にEP「モブなりのカンフー」を発表した5人組バンドが、5月から7月にかけて全国ツアーを行なった。「北上」というタイトル通り、沖縄から始まり千秋楽を札幌で迎える工程となっていて、東京公演はほぼ中間地点で行われた。セットリストはこれまでのフルアルバム、ミニアルバム、EPからの楽曲をバランスよく配したもので、パフォーマンスや歌詞には遊び心があり、藤田のベースとカズマ・タケイのドラムのコンビネーションにはどこかXTCに通じる快いひねりも感じられた。「夢見るドブネズミ」、「ちょうぐにゃぐにゃ」、「ぽんぽこ節」、「もふもふ動物大行進」、「人生なんにもわかんねえ!」などと曲名を並べていくだけでも、このグループのお茶目さが伝わると思うし、「許せ!服部」から「夕暮れ先生」と連続するたたみかけるような展開に接すると、“満員のクアトロが沸いた”という以外の言葉が思い浮かばなくなる。10月にはネクライトーキー x ポップしなないで共催企画<ネクラはしななきゃ治らない!vol2>、11月には「オーキートーキーフェスティバル2025」を開催予定、勢いは加速するばかりだ。(原田和典)

Photo by Kana Tarumi

MOVIE Review

映画『≠ME THE MOVIE -約束の歌-』

8月22日より公開

 アイドルのキラキラした部分に憧れてアイドルになった少女たち、だが間もなくそのキラキラを輝かせている根本には汗と涙、いいかえれば大変な鍛錬が存在することを実感する------だがメンバーたちは歩みを止めることなく、東京ドーム公演を目標に設定しながら前向きに活動を続けていく。12人組アイドルグループ、≠ME(ノットイコールミー)の目標・約束・夢にフォーカスした一作が『≠ME THE MOVIE -約束の歌-』であるといっていいはずだ。指原莉乃のプロデュースにより2019年から活動を始め、いざ本格的に踏み出そうというときにコロナ禍が重なってしまったものの、デビューミニアルバムも、1stアルバムもオリコン週間アルバムランキングで1位を獲得。昨年2月にはさいたまスーパーアリーナでの単独公演を成功させた。この映画はその公演の模様を軸に、リハーサルの風景、リリースイベントの模様、メンバーや関係者のインタビューなどもふんだんに盛り込まれたつくり。ライヴ場面でファンの声援がガッチリ捉えられているのもいい。コールがあってこそアイドルソングはますます生きるのだ。(原田和典)

『≠ME THE MOVIE -約束の歌-』 2025年8月22日(金)新宿バルト9ほか全国公開
キャスト ≠ME
尾木波菜 落合希来里 蟹沢萌子 河口夏音 川中子奈月心 櫻井もも 菅波美玲 鈴木瞳美 谷崎早耶 冨田菜々風 永田詩央里 本田珠由記
監督:高澤俊太郎
制作プロダクション:ネツゲン
製作:東映ビデオ 代々木アニメーション学院 キングレコード
配給:東映ビデオ ©2025「≠ME THE MOVIE -約束の歌-」製作委員会
制作年:2025年 本編尺:95分 映倫表記:G

<写真> 🄫2025「≠ME THE MOVIE -約束の歌-」製作委員会

8月22日(金)全国公開

MOVIE Review

映画『ザ・フー  キッズ・アー・オールライト』

9月26日より公開

 レコード・デビュー60周年記念日本初劇場公開! しかもHD レストア版、全歌詞訳字幕付なのだから、すこぶる嬉しいの一言に尽きる。おかげで彼らがいかに率直な言葉で歌ってきたのかもガッチリ知ることができた。「マジック・バス」や「フー・アー・ユー」に登場する歌詞世界は、まるで忌野清志郎のそれみたいだなとも感じた。一種のドキュメンタリー映画ともいえようが、英国での公開は1979年5月、つまりキース・ムーンの他界から8か月後であり、彼の存命中から制作が始まっていたことはいうまでもない。つまり全編がロジャー・ダルトリー、ピート・タウンゼント、ジョン・エントウィッスル、キースによる生き生きしたパフォーマンスで塗りたくられている。フェイマス・フレイムズをバックに従えていた時代のジェイムズ・ブラウンの持ち歌「シャウト・アンド・シミー」、モーズ・アリソンの1分ほどの原曲を拡大した「ヤング・マン・ブルース」などカヴァー曲のセンスの鋭さにも改めて唸らされ、ほかインタビュー部分でピートがブッカー・T&ジ・MGズのアルバム『ソウル・ドレッシング』のジャケットを片手に語るシーンも心を揺さぶった。「ヤング・マン・ブルース」と「クイック・ワン」(それぞれ別セッション)でのギター・チューニングは笑ってしまうほどすさまじく、よくこれでロジャーは歌えたものだとも思うが、でも突っ走ってしまうのがザ・フーなのだ。監督はジェフ・スタイン。(原田和典)

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9月26日(金)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、池袋HUMAXシネマズ、吉祥寺UPLINK他 全国順次公開