ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

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ALBUM Review

「ザ・ロスト・アルバム/ジョン・コルトレーン」

ユニバーサル(impulse!):UCCI-9295/6 , UCCI-1043

 かけがえのないサックス奏者、ジョン・コルトレーン(1926-1967)が40歳の若さでこの世を去ってから、今年は41年になる。この度、未発表スタジオ録音盤が発掘された。コルトレーンの新作である。名盤『ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン』(1963年3月7日録音)の前日に録音されたものだ。同時期に録音され、“バラード3部作”と称され、誉れ高い『バラード』、『デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン』、『ジョン・コルトレーン・アンド・ジョニー・ハートマン』の隙間を埋める価値あるものである。録音当時、コルトレーンは、マッコイ・タイナー(p)ジミー・ギャリソン(b)エルヴィン・ジョーンズ(ds)という黄金のカルテットを率いて、2週間連続でニューヨークの“バードランド”に出演していた。その最終日の昼間に録音されたのが、本作というから驚きである。
 夜には、ニュージャージーのスタジオからニューヨークのバードランド”まで戻って再び演奏していたのだからものすごい体力と気力である。録音状態がとても良く、絶頂期の演奏が堪能できるのだから、こんなに嬉しいことはない。全7曲収録されているが、3曲はコルトレーンの未発表のオリジナル曲だ。まるで颯爽と草原を駆け抜けていく駿馬のようなコルトレーンのサックスが楽しめる。また彼の代表曲「インプレッションズ」とナット・キング・コールのヒット曲「ネイチャー・ボーイ」は、ピアノ抜きのトリオ編成の演奏なので、貴重だ。ミュージカルの「ヴィリア」は、優しいコルトレーンの一面が出ている。全曲を聴いて感じたことは、すべての音から意志の通った感触がすることだ。何と気品に満ちた豊かな音楽なのだろう。4人全員が素晴らしい。ジョン・コルトレーンが、今も生きているかのようだ。こんなすごい録音が残されていたことに、感謝の気持ちで一杯である。(高木信哉)

ALBUM Review

「ライヴ・イン・ロンドン/エスビョルン・スヴェンソン・トリオ」

キングインターナショナル(ACT):KKE-080

アーティスト写真

 エスビョルン・スヴェンソン・トリオ(通称e.s.t.)の最新作。人気ピアニスト、エスビョルン・スヴェンソン(1964年-2008年)は、休暇中にスキューバダイビングの事故により44歳で死去した。e.s.t.の革新的な演奏は、世界中で高く評価されていただけに実に残念だった。本作は、2005年5月に行われたロンドン公演の実況録音盤。しかも2枚組なので、e.s.t.の素晴らしい演奏がたっぷりと聴ける。スヴェンソン没後10年の新作なのだ。聴いて驚くのが、ロバート・グラスパー・トリオ、ゴー・ゴー・ペンギン、fox capture planとの類似性だ。e.s.t.こそが、彼らの源流なのだ。e.s.t.を知らないロバート・グラスパーやゴー・ゴー・ペンギンのファンが本作を聴いたら、びっくり仰天することだろう。それは、冒頭の2曲を聴くだけでわかる。メランコリックな「タイド・オブ・トレピデイション」から始まる。2曲目「88デイズ・イン・マイ・ヴェインズ」は、ソロを導入部として、ドラムン・ベースが基調のリズムの上で、エスビョルン・スヴェンソンが情熱のソロを取る。(高木信哉)

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「アムール/Yu」

エイフォースエンタテイメント(A-forceNEXT):YZWG-023

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 活況を呈すJ-JAZZシーンに、大型新人シンガー、Yu(ゆー)が現れた。初めてのアルバムとは、思えない本格的な歌唱力&表現力に驚嘆した。これが17歳(現在は18歳になった)の歌声とは、俄かには信じがたい。ダイナ・ワシントンを彷彿とさせるアーシーでパワフルな声質を持っている。Yuは、英語能力強化のため、小学1年生からインターナショナルスクール(現在も在学中)に入学した。一年弱、ボイストレーニングを受け、腹式呼吸の方法など基礎を学んだ。その後は、独学でボーカルを高めていった。2017年、劇団REDFACEの舞台「キリンの夢」のオープニングで、「枯葉」と「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」を歌い絶賛された。これがデビューのきっかけとなったのである。その「枯葉」は、1曲目に収録。アリシア・キーズの「イフ・アイ・エイント・ゴット・ユー」のしっかりとした歌唱が素晴らしい。その他は、アデル、マイケル・ブーブレ、ニーナ・シモン、レディオヘッドのカバーにオリジナル1曲と多彩な曲が収録されている。(高木信哉)

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「The Jazz Chamber/Cathy Segal Garcia」

Dash Hoffman Records DHR1022

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 昨年5月号でも紹介したキャッシー・シーガル・ガルシアは、シンガー、作詞作曲、編曲家であると同時にロスを中心に世界を股にかけて活躍するヴォーカル・プロフェッサーとしても幅広く活躍している。ロスでは、ウイークリー・ジャム・セッションを15年間も続けていて、1990年以来、日本へもワークショップの仕事で度々来ている。今年も9月に来日の予定だ。彼女の通算11枚目の本アルバムは、弦や木管楽器を使った室内楽的なバンドと共演で選び抜いた歌を、込み入ったアレンジで歌う守備範囲の広い彼女らしいユニークなもの。チャンバー・ミュージック的なアイディアは、最近スーザン・クレブスも採用していたのが思い出される。ジャズとクラシック畑で活躍するべヴァン・マンソンを中心にデニス・ドレイス、ドリ・アマリリオのプロデユ―スで、曲により歌手のケート・マクガリー、ティアニー・サットンと7人組のヴォーカル・グループ、「フィッシュ・トウ・バーズ」も参加する大掛かりなもの。ティアニー・サットンも参加して二人のワードレス・インプロヴィゼーションから語りまで入る13分25秒に及ぶ「Universal Prisoner」と,[Compared to What]のメドレーは圧巻だ。(高田敬三)