- 最新号 -
ALBUM Review
Judy Whitmore
Let’s Fall in Love
Arden House Music JBW202501
ジュデイ・ウィットモアは、ジャズ・キャバレー歌手で精神科のお医者さんだという。精神科の心療内科医で歌手という人は、日本にもいるが、彼女は、その上、コマーシャル・ジェット機のパイロットで、ベストセラーの小説家、劇場プロデュ―サーでパシフィック・シンフォニー・オーケストラの役員でもあるというからその多才さにはびっくりする。本アルバムは、そんな彼女の2024年の「Come Fly With Me」に続く早くも5作目のアルバムだ。パシフィック・シンフォニー・オーケストラで知り合った作編曲家で指揮者のクリス・ウオールデン指揮の22人のストリングスを含む大オーケストラをバックにグレート・アメリカン・ソングブックからの良く知られたスタンダード・ナンバーを見事な歌唱で聞かせる。ジャック・ドリスキル(ts)ヘンドリック・メウケンス(hca) ジョッシュ・ネルソン(p)等などのソロもフィーチャーされる。「How Long Has This Been Going On」では、ロック・バンド「Vintage Trouble」のリード・シンガー、タイ・タイラーを迎えて楽しいデュエットも聞かせる。彼女は、それぞれの歌の心をつかんで、それを平明な表現で伝えてくれる。スタンダード・ナンバーを歌う日本の歌手には是非一聴をお勧めしたいアルバムだ。(高田敬三)
ALBUM Review
Kristina Koller
WALK ON BY
Kristinakoller.net
クリスティーナ・コラーは、ニューヨーク生まれのシンガー、ソングライター、アレンジャー。母親が音楽ファンで幼少時代からモータウンやソウルを聞いて育ったという。学生時代クラシックを学び、後ミュージック・シアターで歌うようになり、2018年、23歳の時「Perception」というアルバムを録音した。その後、2019年に「Stronger」、2022年にコール・ポーターの曲を歌った「Get Out Of Town」を発表している。どれも、スタンダード曲の他自作曲を彼女自身の味付けをしたものにして歌っている。本アルバムは、4枚目のリーダー作品だ。彼女の母親が大のバート・バカラック・ファンだったので、彼女の薦めでバカラックの曲を10曲、ウクライナ出身のフィマ・チユ―パキン(p, Rhodes)ジェームス・ロビンス(b)、コーリー・コックス(ds)のトリオで歌うものだ。”I'll Never Fall In Love Again"は、ドラム・ソロなども交えてR&B調に歌い、“Close To You”もタイトルの“Walk O By”も現代風のヒップなアレンジで歌う。”A House Is Not A Home”では、ローズマリー・ミンクラーとデュエットを聞かせる。珍しい“Loving Is A Way Of Living”なども含めてバカラック・ナンバーをジャンルの垣根を越えて彼女独自のスタイルで歌うアルバム。現代のより広い音楽ファンにアピールするだろう。(高田敬三)
ALBUM Review
遠藤征志 小曲集Ⅲ/遠藤征志
Fair Play Records FPCD-1015
実力派ピアニスト、遠藤征志 の新作。とても美しい珠玉のソロ・ピアノ集である。
ソロ・ピアノ・プロジェクト「小曲集」の3作目である。現在、ソロ・ピアノを探求する日本人ピアニストは、極めて少ない。
1970年代、世界のジャズ界には、「ソロ・ピアノ・ブーム」が巻き起こった。キース・ジャレットとチック・コリアを頂点に、ダラー・ブランド、ポール・ブレイ、ハービー・ハンコック、マッコイ・タイナーなどが一斉にレコーディング。その波を受けた日本のレコード会社も追従した。今は、もうそのようなブームは消えた。
遠藤征志は、この「小曲集」シリーズと壮大な文学「源氏物語54帖」を全帖作曲して音にした「音の表現者・冒険者(作曲家・ピアニスト)」である。
本作は、全14曲が遠藤征志のオリジナル楽曲である。遠藤は、歌うようにして浮かんできたメロディーを、自分を信じて書き直すことをせず、邪念を捨てメロディーもコード進行も自分にとって自然なものを書いていく。そしてそれを自分で弾きたい音色のみで弾いていく。そんな作品集である。全編、息を呑むほど美しいピアノの音がする。瞬間、瞬間から溢れ出るひらめきで、メロディーと音が紡ぎ出されていく。
全14曲、これだけ粒の揃った楽曲を創造した遠藤の作曲家としての成熟とクオリティに感嘆する。瑞々しさと透明感が、心に沁みて、心地好い。
ピアノは、相模湖交流センター「ラックスマン ホール」のベーゼンドルファーを使用している。ベーゼンドルファーは、あのオスカー・ピーターソンが愛用した名器である。CDジャケットの素敵なイラストを描いたのは、伊丹濯(いたみ あろ)氏である。「小曲集」のⅠ、Ⅱ、Ⅲの全てを伊丹氏が手掛けてくれている。素晴らしい。(高木信哉)
ALBUM Review
『これが本命盤!米国アーティストが大ヒットさせた曲のオリジナルを集めてみました』
(オールデイズ レコード) ODR7417
曲目だけを見れば1960年代を中心にアメリカン・ポップスを彩った数々の大ヒットがずらりと居並んではいるが、今回のオムニバス盤はそういったヒット曲集ではない。アーティスト名を見れば「え、これって誰??」も少なからず。では単なるカヴァー曲集かと思われそうだがそうではない。広く知られている大ヒットの数々こそが実は‘カヴァー曲’だったのである。
ここに収録された27曲はそういった名曲の‘オリジナル’盤の数々。厳密に言えばヒットした盤よりも先にリリースされていた、あるいは録音が先んじていたといったものも少なくないが、シングル・カットはされなかったために(アルバム収録曲)一部のファン以外にはその存在が認識されていないという楽曲もある。かなりマニアックな興味を呼び覚ます内容でもあるが、おなじみのメロディーの‘原型’を知る(聴く)ことでその大ヒット曲の背景への思いと共に新たな魅力を見出すことになるかも知れない。
【収録曲】夢のカリフォルニア/涙のバースデー・パーティ/アイ・ウィル・フォロー・ヒム/涙のダイアモンド・リング/ルイ・ルイ/キープ・オン・ダンシング/ハンキー・パンキー/悪魔とモリー/恋の合言葉/すてきなヴァレリ/アップル・パイは恋の味/恋はフェニックス/恋のひとこと/朝の天使(夜明けの天使)/ベンド・ミー・シェイプ・ミー/今日を生きよう/真夜中の誓い/ウーマン・ウーマン/悲しきロック・ビート/スプーキー/君に愛されたい/ユーヴ・メイド・ミー・ソー・ヴェリー・ハッピー/遥かなる影/ハーティング・イーチ・アザー/エヴィル・ウェイズ/悪いあなた/夢みるNo.1
詳細は各曲についての解説を参照願いたいが、もしカーペンターズが取り上げなかったら「遥かなる影」や「ハーティング・イーチ・アザー」は永遠に(?)世間的には埋もれたままだったかも知れない、もしバリー・マクガイアが旧知のママス&パパスをバックに「夢のカリフォルニア」を歌わなければママ・パパが世に出るきっかけを掴めなかったかも、などいろいろな‘If’にも思いを馳せながら味わいたい全27曲。(上柴とおる)
LIVE Review
キャサリン・ラッセル
4月7日 東京・南青山 ブルーノート東京
Spotify再生2300万回、3度のグラミー賞ノミネートを誇るベテラン・ヴォーカリスト、キャサリン・ラッセルが来日した。私が是が非でも接したいと足を運んだのは、彼の父がルイス・ラッセルであるところによるのが大きい。ルイスはニューオリンズ出身のピアニスト・作曲家で、1930年代にルイ・アームストロングが率いていたオーケストラは実際のところルイス・ラッセル楽団をアームストロングが丸抱えにしたものであるといっていい。キャサリンは自身が偉大なルイス・ラッセルの血を受けていることをしっかり認識し、ブラック・ミュージック史の語り部としての意欲にも燃えている-------それがこの実演を味わった私の印象だ。MCではルイ・ジョーダン、アル・ヒブラー、ベッシー・スミス、ダイナ・ワシントン、ジェイムズ・P・ジョンソン、ファッツ・ウォーラー等、その楽曲に関わった面々を紹介した後に、深い声、快い節回しで歌いこんでいく。「アーリー・イン・ザ・モーニング」や「アフター・ザ・ライツ・ゴー・ダウン・ロウ」などの粋な楽曲を、いまどき、日本で、ほかにどこのライブで聴けるというのか。(原田和典)
Photo by Tsuneo Koga
LIVE Review
THE ORAL CIGARETTES 「AlterGeist0000 ARENA TOUR 2025」
4月13日 横浜アリーナ
2010年結成の4人組バンド、THE ORAL CIGARETTES が6年ぶりのアリーナツアーを終えた。原点に返ろうということか、数年間にわたってライブハウス中心のパフォーマンスを積み重ねてきてからの、満を持しての今回の大会場でのステージだ。私は横浜アリーナの2日目に足を運んだが、巨大スクリーンから放たれる映像の効果、その映像と音楽のタイトな合い方も含めて、「万のオーディエンスを惹きつけるとはこういうことなのだ」と納得させられずにはいられない時間を得た。メンバーの演唱は「鉄壁」といってよく、時にポップ、時にキャッチー、時にアグレッシヴな楽曲が次々とテンポよく放たれる。ヴォーカルとギターを担当する山中拓也のMCには観客のひとりひとりに直接語り掛けるような親密さがあり、見る者と演者が一緒に作り出してゆく距離の近さはライブハウスでもアリーナでも変わらない感じだ。セットリストは最新作『AlterGeist0000』からのナンバーを軸に、Hiro (MY FIRST STORY)との「BLACK MEMORY」、SKY-HIとの「カンタンナコト」など2010年代からの人気レパートリーも含む多彩なもの。“アリーナが轟く”感覚が痛快だった。(原田和典)
Photo by SHOTARO
LIVE Review
ラブリーサマーちゃん New Mini Album Release Tour-Tour For Walking (Out Of The Woods)
4月25日 東京・渋谷 CLUB QUATTRO
ラブリーサマーちゃんは2016年にソロデビューを果たしたシンガーソングライター。今回のライブはミニアルバムのリリースを記念して行われた。「立錐の余地もない」という言葉はこういう時に使うのだろう、と深く思わされたひとときであった。扉が吹き飛びそうになるほど多くの人々がつめかけたのだ。当然ながら場内には熱狂的といっていい興奮が生まれるのだが、バラードでは誰もが静かに聴き入り、MCの場面ではラブリーサマーちゃんの発する言葉を楽しみにしている感じだ。私は初期の楽曲「私の好きなもの」でその才能を強烈に印象づけられたのであるが、レーベル移籍後の『THE THIRD SUMMER OF LOVE』、そして今回の『Tour For Walking (Out Of The Woods)』と音作りには重みが加わり、この日のステージでも厚みのあるバンド・アンサンブルの中からクリアに浮かび上がる歌声に引きつけられた。「ベッドルームの夢」など初期の楽曲、近作シングル「歌詞のない日常」「Garden of Remembrance」の連続披露などから、スマッシング・パンプキンズのカヴァー「Mayonaise」まで、曲の流れも絶妙だった。(原田和典)