ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

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ALBUM Review

「THE GAMES – East Meets West 2018 - /向谷実」

ビクターエンタテインメント:VICJ-61778

 日本を代表するキーボード奏者、向谷実の待望の新作。日米のトップ・ミュージシャンが10名も参加。まず、メンバーがスゴい。向谷実(key)、ドン・グルーシン(key)、アーニー・ワッツ(sax)、ハーヴィー・メイソン(ds)、エイブラハム・ラボリエル(b)、ポール・ジャクソンJr.(g)、エリック・ミヤシロ(tp)、本田雅人(sax)、中川英二郎(tb)、二井田ひとみ(tp)の10名が、L.A.に一堂に集結して録音した。10人が同じ場所、同じ空気を吸いながらレコーディングするというのは、とても重要なことだと感心する。
 本作は、向谷実とドン・グルーシン(デイブ・グルーシンの弟)の友情のアルバムである。きっかけは、1982年、カシオペアの『4×4』というアルバム。ドン・グルーシン、ハーヴィー・メイソン、リー・リトナー(g)、ネイザン・イースト(b)の4人が来日して、カシオペアと一緒に録音をした。以来、向谷とドンは、友情をずっと育んできた。
 2016年11月6日、向谷実が行ったスーパー・ライブ「East Meets West」にも、もちろんドン・グルーシンが駆け付けた。他にリー・リトナー、ネイザン・イースト、神保彰、エリック・ミヤシロらが向谷のために最高の演奏をしてコンサートは大盛況だった。向谷とドンは、プロジェクトを更に発展させるべく、本作の制作が実現した。また、本作は、向谷実の25年ぶりのソロ・アルバムでもある。前作『Tickle the Ivory』は、1993年にリリースされ、高中正義(g)やカシオペアのメンバーたちが参加していた名盤だ。
 さて、本作は、向谷とドンの才能と友情が発揮された傑作である。そのサウンドは、カラリとした明るさと惚れ惚れするような格好良さがある。演奏内容は、1回だけのセッションの域をはるかに超え、まるで長く続いてきたバンドのような一体感がある。また向谷特有の都会的とも言えるセンスの良さに、すっかり虜になってしまうだろう。収録曲は、全部で9曲ある。まず向谷のオリジナルが3曲(2曲はカシオペア時代の楽曲を新アレンジ)、ドンが1曲。向谷とドンの共作が1曲。ハーヴィー・メイソン、ポール・ジャクソンJr、エイブラハム・ラボリエル、アーニー・ワッツの曲が、1曲ずつ入っている。またホーン・アレンジは、エリック・ミヤシロ、向谷とドンの3人が、分担している。
 アルバムは、向谷のオリジナル「フレンドシップ」から始まる。明るく優しい楽曲だ。テーマのホーン・アレンジが格好いい。ソロは、アーニー(ts)→ポール(g)→向谷(p)→ドン(キーボード)と白熱の競演が楽しめる。「コロナ」と「ワンス・イン・ア・ブルー・ムーン」は、向谷の曲で、カシオペア時代の楽曲を新アレンジでリメイクしている。ドンの「キャットウォーク」がワクワクする。これぞ、グルーシン・サウンドだ!ドンの生ピアノが心地好く鳴っている。ソロは、ドン(生ピアノ)→向谷(キーボード)→アーニー(ts)→ポール(g)。ハーヴィーの「アルゼンチン」は、綺麗な曲。ソロは、アーニー(ts)が切なく歌い上げる。「2 for 10000」は、ポールの曲。アップテンポで、思わず踊りだしたくなる。ホーン・アレンジ(エリック)が良い。ソロは、ポール(g)→アーニー(ts)。「レター・フローム・ホーム」は、アーニーの曲。躍動するナンバー。ソロ(即興演奏)の競演が素晴らしい。アーニー(ts)→中川(tb)→エリック(tp)→ポール(g)。中川英二郎とエリック・ミヤシロが火の出るようなソロを取る。「ザ・ゲームス」は、向谷とドンの共作。向谷はキーボード、ドンが生ピアノを弾く。希望に満ちた楽曲だ。ホーン・アレンジは、ドン。随所で流れるアンサンブルが心地よい。向谷のオルガンのサウンドによるソロが素敵だ。本作は、まさに夢の共演アルバムである。(高木信哉)

ALBUM Review

「Artifact(アーティファクト)/Primitive Art Orchestra(プリミティヴ・アート・オーケストラ)」

ディスクユニオン Playwright:PWT-050

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 Primitive Art Orchestra の3作目にあたる3年ぶりの最新作。バンドの一体感は更に高まり、バンドは最高の状態にあるのではないだろうか。心地好いグルーヴに乗って、美しくリリカルな木村イオリのピアノとキーボードが光る。情緒、風情といったものを絵画的に色彩感豊かに音に流している。Primitive Art Orchestra の憂いを帯びたセクシーなサウンドは完璧である。本作は、良質な短編集のようでもあり、“美しき抒情詩”と呼ぶにふさわしい作品でもある。
 Primitive Art Orchestraは、「bohemianvoodoo」の木村イオリ(p)、「TRI4TH」の伊藤隆郎(ds)、森田晃平(b)による3人組で、2014年にデビューした。バンド名は、素朴で原始的という意味での「Primitive」、トリオという限られた最小編成でも壮大な広がりを持たせたいという意味での「Orchestra」で名付けられた。最近とみに人気の高い「bohemianvoodoo」の特徴は、フロントがbashiry(g)と木村イオリ(p)の二人が奏でる「美しい音」である。しかし、木村イオリのピアノがたっぷり聴きたい人には、このPrimitive Art Orchestraが最適だ。さて、Primitive Art Orchestra の1作目は10曲中、9曲が木村の曲で、1曲だけ森田の曲だった。2作目は12曲中、4曲が木村の曲、5曲が森田の曲、木村と森田の共作が3曲だった。本作では10曲中、5曲が木村の曲、4曲が森田の曲、1曲だけヘンリー・マンシーニのカバーである。少しずつ変化を遂げながら、バンドの熟成度が高まっている。
 冒頭の「オータム・ラヴァー」は、森田が書いた美旋律曲。伊藤と森田を土台に、木村イオリの生ピアノが加わり、心地好いグルーヴが生まれる。木村は、抑えて弾き過ぎない。森田のアルコと伊藤のビートも良い。「ガーデニア」は、木村の曲。去年の6月に、木村が家の近所で見かけた<クチナシの花>をテーマにしている。木村の切ないイントロから始まり、テーマに入る。グルーヴに包まれ、目の前の風景に包まれるように暖かい気持ちになる。今度の木村は抑えない、徐々に情熱的になり、やがてカタルシスを迎える。素晴らしい演奏である。「オーシャン」は、8ビートに乗って、木村がNord Stageでエレピのような音を出して弾く。これが、実に気持ち良い。「Neuron」は、爽快な木村の曲。“脳科学”をテーマにしている。実は木村は理系なので、1作目は「Helix」、2作目は「Synapse」と各アルバムに1曲ずつ“脳科学”をテーマにした曲が収録してきたのだ。木村は、乗ったピアノ・ソロで魅せる。「May in Singapore」は、2016年にバンド全員で、シンガポール公演をした時に、シンガポールの街や文化に触れた体験を元に作曲した曲だ。木村の弾くNord Stageのサウンドを聴いていると、シンガポールの美しい海、船や雑踏が目に浮かんでくるから不思議だ。「アンソロジー・タブ」でのNord Stageの音は、絶妙である。「ウェイティング・フォー・スプリング」は、プリミティヴなリフレインから、大海や大地を思わせる壮大な展開になる。「“it” is Rainy」は、木村が書いた曲で、曲の由来が興味深い。昔、中目黒にあった“it”という名前のバーがあった。ある日、店長の提案で、木村はそのバーでソロ・ピアノを演奏するようになった。なぜか木村がソロ・ピアノをやる時に限って雨が降ったという。でも、そのバーの窓に雨で光が滲む様子が幻想的だったので、そんな穏やかなひと時を思い出しながら曲にした。そんな情景が浮かんでくるような幻想的な佳曲である。最先端のピアノ・トリオが楽しみたいときには、これぞ、最高の1枚だ。(高木信哉)

ALBUM Review

「Radiant/宮本京子」

New Vintage Records NVRC2934

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 名古屋をベースに活躍する宮本京子のジャズ・シンガーとしてのデビュー・アルバム。
彼女は、小さい頃からR&Bに魅せられてR&B系のレコードを良く聴いていた、その中、自分でも歌い始めて、バンドを結成して自らのオリジナルを歌うようになり、すでに「Search For Happiness」と「If You Need Me」と2枚の自作の歌を歌ったアルバムを作っている。その後、音楽をさらに勉強したいと名古屋音楽大学ジャズ・ポピュラー・コースに社会人編入で入り、ジャズに出会う。自ら歌を書いていたので、ジャズで歌われる楽曲の歌詞の奥深さや、いままで経験したことのない新鮮なリズムに触れる機会が多くなり、次第にのめりこんでいった。今回のアルバムは、上記のように初のジャズ・アルバムで、菊池太光(p)安田幸司(b)海野俊輔(ds)のピアノ・トリオをバックに歌った、「Louisiana Sunday Afternoon」,「I Can’t Make You Love Me」,「Sweet Love」等リズム・アンド・ブルース系のナンバーとジャズのスタンダード・ナンバー を上手くミックスしたものになっている。やはりR&B系のナンバーでは、彼女の年季を感じさせる歌を聞かせる。伴奏陣の好サポートも聴き逃せない。自分自身のものを持っている歌手で今後、どう伸びて行くか期待される。(高田敬三)

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ステイシー・ケント

ブルー・ノート 9月15日、ファースト・ステージ

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 2014年4月以来のステイシー・ケントの日本公演、会場は、補助席もでる超満員で彼女の人気のほどが知れる。旦那のジム・トムリンソン(ts、fl)、ジェレミー・ブラウン(b)、ジョシュ・モリソン(ds)、グラハム・ハーヴィー(p、key)と昨年度、ジャズ・ジャパン・アワードのアルバム・オブ・ザ・イヤー・ヴォーカル部門に輝いた最新作「アイ・ノウ・アイ・ドリーム」のメンバーと一緒にシックなパンツ・ルックで舞台に上がったステイシーは、簡単な器楽のイントロの後、最新アルバムから恋の不思議を歌うジム・トムリンソン作曲の「Make It Up」を快適なテンポで歌う。初期から彼女を聞いて来たファンには、多少、変化を感じさせた幕開けだった.。今回は、最新アルバムからこの曲の他、ニノ・フェラーリ作のフランス語の「La Rua Madureira」、最近よく取り上げる、彼女の崇拝する友人のノーベル賞作家、カズオ・イシグロの新幹線の中の恋の回想を物語る「Bullet Train」、そして、ジム・トムリンソンの「I Know I Dream」の4曲を歌った。イシグロの作品は、愉快な「Waiter Waiter」も取り上げていた。今回は、前作で共演したマルコス・ヴァーリの「The Face I Love」、英語で歌ったジョビンの「Dindi」やポルトガル語の「Aguas de Marco(三月の水)」、バーデン・パウエルの「Samba Sarabah」、エデュ・ロボの「Upa Negunho」とラテン・ナンバーも多く取り上げていた。素晴らしいい英詞が付いた曲です、と云って英語で歌ったジャック・ブレルで有名なシャンソン「Ne Ma Quitte Pas (If You Gp Away)」は、当夜のハイライトだった。ジム・トムリンソンは、作曲家としても活躍で、今回歌ったカズオ・イシグロとの「Bullet Train」をはじめ「I Know I Dream」「Thinking About The Rain」を書いているが、流石に夫婦、彼のスタン・ゲッツ風のテナーとフルートは、彼女の歌と一心同体と言った感じでステイシーの歌をサポートして、彼女の歌に対しての彼の影響力を強く感じさせた。彼女は、初期には良く知られたスタンダード・ナンバーを多く歌っていたが、ここのところ何年かは、旦那や、カズオ・イシグロのオリジナルやラテン・ナンバーに重心を移してきた感じで12曲歌った当夜もスタンダード系は少なかった。それなりに楽しいステージだったが、満員の聴衆は、どう受け止めたか興味あるところだ。(高田敬三)

CONCERT Review

ブルース・コバーン27年ぶり来日公演

ビルボードライブ東京 9月29日

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 1970年代の音楽シーンの中に浮上したカナダ・ブーム。ゴードン・ライトフット、ジョニ・ミッチェル等のシンガー・ソングライター、ポップ歌手アン・マレーはじめ多くのカナダ系アーティストがヒットを飛ばし、77年若手の注目株としてブルース・コバーンがマレー・マクロクランと共に初来日した。それから40年。91年の来日からでも27年ぶりだ。9月29日、ビルボード・ライヴのセカンド・ステージを見た。彼を待つ古くからのブルース・ファンで満員の客席には静かな熱気が感じられ、単身で登場したブルースは少し前屈みになった位で風貌も声も変わらぬ充実感に満ちていた。オープニングの「States I’m In」はじめ最新アルバム「Bone on Bone」からのレパートリーが中心で、その中に古くからお馴染の「トーキョー」「ロケット・ランチャー」「ウェイティング・フォー・ア・ミラクル」などが織り込まれており、多くのギタリストにも影響を与えた卓越したテクニックも抑え気味に音楽性と内面の充実がにじみだしたパーフォーマンスだった。
 いずれの曲も熱い声援に包まれ、ブルースはアクースティック・ギターから始め、次いでメタル・ギター、南米アンデス山脈のチャランゴでの「Mon Chemin」は足でウィンド・チャイムを鳴らしながらがらりと雰囲気をかえて新鮮な音楽性を発揮した。1時間以上のステージ。アンコールは70年代の懐かしい「ロード・オブ・スターフィールド」だった。
 初期からのブルースの歩みをトレースすると、自然賛歌(これが彼にカナダのイメージを与えた)にはじまり、宗教・思想に深い洞察力を見せ、北米から世界各国を巡り出すようになって時代も変わるに従って、彼の歌のテーマも社会問題、環境問題から政治にまで及び、世論を喚起するテーマを打ち出すようになる。今も周囲に目を配り前向きな姿勢を崩さず、未来に向けて積極的にものごとにかかわっていることがうかがえる。
 終演後ブルースと旧交を暖めたが、9年前に若いアメリカ女性と結婚して、今は米国サンフランシスコに居を移したという。彼は目下6歳の娘で手一杯であると嬉しそうに話していたが、従って稼がねばと、忙しく世界を飛び回っているとのこと。今73歳。最近は指がこわ張り出してきたと弱音も吐いていたが、次なるアルバムはインストを考えているというから、まだまだ現役バリバリ。自叙伝「Rumours of Glory:A Memoir」もハーパーコリンズ社から出している。(鈴木道子)

写真:Masanori Naruse