- 最新号 -
ALBUM Review
Hannah Gill
Spooky Jazz Vol.2
Turtle Bay Records
ハンナ・ギルは、ニューヨーク、ブルックリンを中心に活躍する今年27歳の若手スイング・ジャズ、リンデイ・ホップ系の歌手、子供の頃から30年~40年代のジャズの興味を持ち18歳でニューヨークへ出て7人組のホット・トデイズ・ジャズ・バンドに参加、その当時、「Spooky Jazz」というEPを吹き込んでいる。Spookyとは「お化けの出そうな気味悪い」という意味だが、Youtubeなどのネットで大変評判になる。2023年に「Everybody Loves A Lover」という初アルバムを発表したが、本作「Spooky Jazz Vol.2」は、2作目アルバムになる。お化けの仮装をして楽しむハロウインのお祭りにむけて作られたアルバム。ヴァイオリン、クラリネット、サックス、トランペット、トロンボーン、ギター、オルガン、ピアノ、ベース、ドラムによるバンドをバックに「I’d Rather Be Burned As A Witch(魔女として焼かれた方が)」とか「My Man’s An Undertaker(私の彼氏は葬儀屋)」と言った面白い歌から始まり「Love Is A Necessary Evil」、「That Old Black Magic」,「Hard Hearted Hanna」等聞き慣れた曲も含めてハロウイン・ムードの11曲を選曲して賑やかに楽しい歌を聞かせてくれる。(高田敬三)
ALBUM Review
Yvonne Monnett
YOU FASCINATE ME SO
(A Tribute To Blossom Dearie)
Larry Records
イヴォンヌ・モネは、ロードアイランド出身で同地を中心に活躍するピアニスト・シンガー。彼女と同郷の先日来日した同じピアノ弾き語りのダリル・シャーマンが紹介してくれた。二人は、1973年にロード・アイランドのシアターレストラン、「シャトー・ド・ヴィル」に出演している時知り合ったという。同年代だが、二人ともその時点では本人に会ったことはなかったが、ブロッサム・ディアリーに傾倒していた。ダリルは、少なからず彼女に影響された。ダリルは、翌年ニューヨークへ出たが、イヴォンヌは、ずっとロードアイランドにとどまって活躍している。本アルバムは、イヴォンヌの2004年の「Thanks For The Memories」に次ぐ久しぶりの2枚目のずばり、敬愛するブロッサム・ディアリ―に捧げる作品だ。彼女のピアノと歌の他アラン・バーンステイン(b)、ヴィニー・パガーノ(ds)グレイ・サージェント(g)ニコラス・キング(vo)に同郷のハリー・アレン(ts)が3曲と未だ元気だったマイク・レンジ(p)も2曲で参加している。ブロッサム風のウィスパリング・ヴォィスでブロッサムお得意のナンバー14曲を歌う。ダリル・シャーマン以上にブロッサム風の歌だ。ブロッサム・ファンには是非聞いてもらいたい作品(高田敬三)
MOVE Review
映画『デヴィッド・ボウイ 幻想と素顔の狭間で』
劇場公開日:2025年1月10日
“往年の仲間たちが語る、アーティスト デヴィッド・ボウイの青春時代”と名付けたくなる一作だ。期間でいえば大体、デラム・レコードからフィリップス・レコードに移り、シングル「スペース・オディティ」のヒット(デラム時代にも録音していた楽曲のリメイク)を出し、いわゆるジギー・スターダスト時代に至る頃。バンドでいえばザ・ハイプ、スパイダーズ・フロム・マーズの時代である。元妻でプロモーターのアンジー(ボウイをどう“見せていくか”に腐心した)のぶっちゃけた話には文句なしに引き込まれていくし、去る9月に亡くなったベース奏者ハービー・フラワーズの談話も貴重そのもの、ジギー期のボウイに関する著書も出しているドラマーのウッディ・ウッドマンゼイ(ウッドマンジー)の回想も実に雄弁だ。若き日のボウイのきらびやかなパフォーマンスを捉えた映像に混じり、ハービーの「俺たちはグラム・ロックなど目指していない」と、ウッディの「ゴールに着いた時(=ものすごく売れるようになった状態)よりゴールを目指している時の方が幸せなのだと、今になるとわかる」的な、スパイスの利いた発言が挿入されるあたり、個人的には目の覚める思いがした。
ヒューマントラストシネマ有楽町、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国公開。(原田和典)
LIVE Review
Smooth Ace ライヴ “avec Piano”
11月26日 東京・代官山 晴れたら空に豆まいて
2000年にメジャー・デビューを果たし、高橋幸宏、細野晴臣、清水靖晃、渡辺香津美、小西康陽らをプロデューサーに迎えて作品を発表。重住ひろこと岡村玄によるヴォーカル・デュオ“Smooth Ace”が約1年ぶりにライヴを開催した。ステージではふたりの左側にツヤトモヒコ、右側に星野みちるがアディショナル・ヴォーカリストとして立ち、タイトル“avec Piano”が示す通り、江草啓太がアコースティック・ピアノで絶妙なサポートを加える。4人の豊饒な歌声と、江草の磨き抜かれたピアノ・タッチは、まさに音楽の達人の技。中盤からはアカペラグループ“Rabbit Cat”のリーダーで日本最大級のアカペラYouTubeチャンネル「とおるすアカペラチャンネル」を主宰する、とおるすがゲスト参加し、いっそうの華やぎを加えた。レパートリーも「Nights have a morning」や「あしあと」などオリジナルはもちろん、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』からの「エーデルワイス」、YMOのカヴァー「ONGAKU」など、実に多彩。とおるすを含む全員がリードもとれるのも強みだ。声と歌と旋律とハーモニーの魅力にとことん浸らせてくれる一夜だった。(原田和典)
LIVE Review
ダヴィッド・ヘルボック
12月3日 東京・代官山 晴れたら空に豆まいて
1984年オーストリア生まれ、ピーター・マドセン(日本ではベーシスト藤原清登との共演で知られていよう)に師事した才人ピアニストが初来日を果たした。オリジナル曲のほかプリンスやエルメート・パスコアールやバッハの楽曲も演奏するビヨンド・カテゴリーな姿勢を持ち、フレッド・ウェスリー(元ジェイムズ・ブラウンの音楽監督)とも共演するファンキーな面もそなえ、エレクトリック・キーボードの名手でもあるのだが、この日はアコースティック・ピアノによるソロ。想像力を掻き立てる自作を中心に、敬愛するセロニアス・モンク、オーネット・コールマン、ジョン・ウィリアムズ(映画音楽家)らのナンバーにも独自の装いをほどこしながら、聴く者をひきこんだ。かなりの曲で内部奏法やプリペアド・ピアノを取り込んでいたのだが、これが“特殊効果”というよりは見事に“その楽曲に不可欠な要素”になっていたのはいうまでもない。そうした奏法と普通の打鍵が実にスムーズにつながっている背景には腕の長さも関係しているのだろう。(原田和典)