ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Mon David
DNA CONTINUUM

Dash Hoffman Records DHR1031

 モーン・ダヴィッドは、フィリピンのパンパンガ州出身のバリトン・シンガー。15歳の頃からギターとドラムを始め、ポップ・チューンを歌っていたがマーク・マーフィーのレコードを聴いてジャズに目覚めたという。ジャズ・ヴォーカリストを目指して2007年にロスアンジェルスへ移住して現地で活躍を始め2009年にアメリカでの初アルバム「Coming True」を発表する。そして2020年、ピアノのジョッシュ・ネルソンとデュオでアルバム「DNA」を発表した。今回の作品は、その続編で、今回はギターのラリー・ク―ンズが加わっている。先ず彼の魅力は、奇麗なバリトン・ヴォイスだろう。そしてマーク・マーフィー譲りのヒップなフレージングだ。この中でマークを賞賛する自作の「Murky!」という歌を歌っているが、マーク・マーフィーの姿が目に浮かんでくるようだ。マイルスの「Four」は、バップ・スタイルで歌い、エリントンとストレイホーンに捧げる「Duke and Billy」では「Lush Life」や「Take the A Train」を引用したり、Bill Evans の「The Two Lonely People」では、ジョッシュ・ネルソンのオーケストラを思わせる大きな広がりのピアノをバックに素晴らしいバラードを聞かせる。パンパンガ語で2曲歌っているが、違和感を感じさせない。ジョッシュとラリーという名手と共にクリエ―ティヴで素晴らしい作品に仕上げている。(高田敬三)

ALBUM Review

Judy Wexler
NO WONDER

Jewel City Jazz JCJ1215

 ロスアンジェルスを中心に活躍するベテラン・ジャズ・ヴォーカリスト、ジュディ・ウェックスラーの7枚目のアルバム。彼女は、ポップ・ナンバーをジャズにアレンジしたり、ジャズのインスト・ナンバーを歌ったりとアルバムごとに趣向をこらしてきたが、今回は、ルグランとバーグマン夫妻の「The Summer Knows」、フランク・レッサーの「Never Will I Marry」、ヴィクター・ヤングの「A Weaver Of Dreams」、マット・デニスとトム・アディアの「The Night We Called It A Day」等々比較的歌われる機会が少ないグレート・アメリカン・ソングブックからのナンバーを友人のシンガー、ルシアナ・スーザのタイトル曲も併せて12曲、ルー・ロウルズの音楽監督で永年彼女とも仕事をしてきたピアノのジェフ・コレラの3管を使った気の利いた編曲で歌うものだ。伴奏にはダニー・ジャンクロウ(sax, fl)、ボブ・シェパード(ss、cl)ジェイ・ジェ二ングス(tp、fhn)ラリー・ク―ンズ(g)、ゲイブ・デヴィス(b)、ステーブ・ハス(ds)というロスで活躍する腕達者なミュージッシャンが選ばれている。それぞれの歌の意味するところを掘り下げて表現する彼女の温かみのある親しみ易い歌は、何度も聞きたくなる「疑いなく」素晴らしいものだ。(高田敬三)

LIVE Review

ケイティ・ジョージ

2024年12月23日 丸の内・コットンクラブ

 「カナダのグラミー賞」こと「JUNO Award」の年間最優秀ジャズ・ヴォーカル賞に輝くケイティ・ジョージがクリスマス・シーズンに来日した。彼女はジョン・レノン・ソングライティング・コンテストに入賞経験もあるシンガーソングライターでもあるのだが、この日はクリスマス・ソングを含むスタンダード・ナンバー主体のステージ。声は軽やかで良く伸び、ディクションはききとりやすく、1コーラス目はメロディに忠実に、2コーラス目以降は軽くフェイクしたりスキャットしたりする。私は久しぶりに、「ジャズ・ヴォーカルの定型」にライヴでたっぷり触れたという気持ちになり、逆に新鮮味を覚えた。ピアニストのマーク・リモーカーをはじめとするメンバーも、ちょっと下がってあくまでも歌の助演をしている感じ。だがこれも1950年代のヴォーカル・レコードに通じる風情が感じられて快かった。また、歌い出す前の紹介で、リチャード・ロジャース、フランク・レッサーなど作者の名をしっかりアナウンスしていたところにも好感が持てた。暖かで、品のある、今後をいっそう楽しみにさせる歌い手だ。(原田和典)

写真提供/COTTON CLUB
撮影/ 山路ゆか 

MOVE Review

映画
ドキュメンタリーフィルム『blur:To The End/ブラー:トゥー・ジ・エンド』

コンサートフィルム『blur:Live At WembleyStadium/ブラー:ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム』

劇場公開日:2025年1月31日

 1990年代ときいてもさほど大過去という感じがしないのは自分がトシをとったからか。当時、一挙一動一作品が話題の的になっていた観もあるブラーも、いまやロック史の中に、しかも「歴代ヒーロー」の系譜の中にしっかりいる。そしてこのたび、彼らの再始動への軌跡を追うドキュメンタリー(新作のレコーディング・シーンもたっぷり)と、大復活祭というべき2023年のウェンブリー・スタジアム公演を収めたライヴ映像が劇場で同時公開されることになった。すっかり年を重ねたメンバーが集まり、徐々に呼吸やグルーヴ感を取り戻し、やがては「今のプレイの方が昔より全然いい」的な境地に達する前者(デーモン・アルバーンとグレアム・コクソンが母校を訪ねるシーンも楽しい)、幅広い年齢層の観客の猛烈な反応を受けて、惜しげもなく代表曲の数々を、しかも熟成を加えたパフォーマンスとして届ける後者、この2作品はふたつでひとつだ。併せて見るとほぼ4時間だが、ぜひその日はブラー・デイとして、徹底的に彼らの音に浸ってほしい。(原田和典)

『blur:To The End/ブラー:トゥー・ジ・エンド』
監督:トビー・L/出演:デーモン・アルバーン、グレアム・コクソン、アレックス・ジェームス、デイヴ・ロウントゥリー
2024年/イギリス/104分/ビスタサイズ/5.1ch/原題:blur:ToThe End/字幕翻訳:チオキ真理/字幕監修:粉川しの
配給:KADOKAWA/協力:ワーナーミュージック・ジャパン/後援:ブリティッシュカウンシル/© 2024 Copyright Up The Game Limited & blur

『blur:Live At Wembley Stadium/ブラー:ライヴ・アット・ウェンブリー・スタジアム』
監督:トビー・L/出演:デーモン・アルバーン、グレアム・コクソン、アレックス・ジェームス、デイヴ・ロウントゥリー
2024年/イギリス/128分/ビスタサイズ/5.1ch/原題:blur:Live At Wembley Stadium/字幕翻訳:チオキ真理
配給:KADOKAWA/協力:ワーナーミュージック・ジャパン/後援:ブリティッシュカウンシル/©2024 Copyright Up The Game Limited & blur

MOVE Review

映画『ヒプノシス レコードジャケットの美学』

劇場公開日:2025年2月7日

 世界で最も有名な牛、世界で最も有名な三角形(プリズム)、世界で最も有名な“握手をしながら燃えてゆく男”をつくりだしたデザイン・チーム、私にとってはそれがヒプノシスである。オリジナル・メンバーはストーム・トーガソンとオーブリー・“ポー”・パウエルのふたり。1968年から83年にかけて、途方もない発想と、お茶目にしてかっこいい構図や色使いで、ロックという音楽が“ジャケットを見て想像力をかきたてるもの”であることをも伝えた。この映画はさしずめ、ヒプノシスの興亡といったところ。ピンク・フロイド、ピーター・ゲイブリエル、レッド・ツェッペリン、10ccなどの名盤ジャケット誕生の背景が、ミュージシャンたちやオーブリーの生々しい発言によって紹介されてゆく。“ヒプノシス・チルドレン”的立場として、ノエル・ギャラガーの談話も挿入されており、これまた興味深い内容で唸らされた。それにしてもチーム解散から40数年が経ってしまったとは驚くしかないが、もっと驚かされるのは彼らのジャケット・デザインが今も圧倒的に「異端」で「突出」していて「孤高」の趣すらあること。時代に飲み込まれていないし、主流になったとも思えない。なのに、しっかり売れて、今なお愛され続けている。なんという美しい矛盾であることか。
(原田和典)

【画像】©Cavalier Films Ltd
【作品概要】ヒプノシス [原題:Squaring the Circle (The Story of Hipgnosis)]
監督:アントン・コービン / 字幕:山口三平 / 2023年 / イギリス制作 / 101分 /
出演:オーブリー・パウエル、ストーム・トーガソン(ヒプノシス)、ロジャー・ウォーターズ、デヴィッド・ギルモア、ニック・メイスン(ピンク・フロイド)、ジミー・ペイジ、ロバート・プラント(レッド・ツェッペリン)、ポール・マッカートニー、ピーター・ガブリエル、グレアム・グールドマン(10cc)、ノエル・ギャラガー(oasis)他