ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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ALBUM Review

「ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ/トニー・ベネット&ダイアナ・クラール」

ユニバーサルミュージック:UCCV-9677/UCCV-1173

 ヴォーカル界の巨匠、トニー・ベネットと女性ジャズ・ヴォーカルNO.1のダイアナ・クラールによる夢の共演盤。テーマは、生誕120周年を迎えた、ジョージ・ガーシュウィンの作品集というのだから嬉しい。ガーシュウィン(1898年9月26日~1937年7月11日)は、20世紀の米国音楽界の最大の作曲家である。惜しくも38歳の若さで亡くなってしまったが、彼が書いた多くの名曲は、今も世界中の人々に深く愛されている。
 トニー・ベネット(1926年生まれ)は、今年の8月3日に92歳になった。人気シンガーのレディー・ガガは、トニーについて「彼はいいワインのようなものだわ。歳を重ねるごとに味わいを増す一方だと思うの」と語っている。確かにトニーの近年の活躍ぶりには、目を見張るものがある。2014年にはレディー・ガガとスタンダードをデュエットした『チーク・トゥ・チーク』をリリース、ビルボードで初登場1位を記録し、グラミー賞を受賞。2015年は、作曲家のジェローム・カーンに捧げた『ザ・シルバー・ライニング/ザ・ソングス・オブ・ジェローム・カーン』を発表し、再びグラミー賞を受賞。ここで、ピアノと編曲を担当したのが、ビル・チャーラップ(1966年10月15日生まれ)だ。彼ほどスタンダードを品よく演奏できるピアニストは他にいないだろう。本作でのピアノと編曲も、ビル・チャーラップが担当した。2016年9月15日には、トニーの90歳を祝うコンサートがニューヨークにて盛大に開催され、レディー・ガガ、ビリー・ジョエル、エルトン・ジョン、スティーヴィー・ワンダーなど豪華スターが集結した。この奇跡の瞬間を収めた作品『ザ・ベスト・イズ・イエット・トゥ・カム:トニー・ベネット90歳を祝う』を同年12月に発表した。
 ダイアナ・クラール(1964年カナダ生まれ)は、バークリー音楽大学卒業後(同期は小曽根真)、プロ入りした。現在、世界で最も人気のある女性ジャズ・シンガーである。トニーとダイアナは、20年以上に渡り友情を育んできた。二人は、2000年にツアーを一緒に廻り、トニーの2枚のリーダー作『ウィズ・マイ・フレンズ』(2001年)、『デュエッツ』(2006年)にて、各々1曲デュエットを披露してきた。今回、二人は遂にフル・アルバムを完成させたのだ。しかも、テーマは、ジョージ・ガーシュウィンの作品集。二人が燃えないはずがない。本作には、トニーとダイアナが、ビル・チャーラップ・トリオをバックに、ガーシュウィンが書いた珠玉の名曲を14曲収録(デュエットで10曲、ソロで各々2曲)している。
 トニー・ベネットは、豊かな音量で力強く歌う。それでいて味わい深い。喜びに満ちて高く舞い上がるようだ。ダイアナ・クラールの特徴は、しっとりした優しい歌声。歌はとてもわかりやすい発音で、メロディはあまり崩さずに歌う。だから心に沁みるのだ。
 さて、「ファシネイティング・リズム」は、1924年に書いた曲。アイラ(兄)とジョージ(弟)の兄弟が初めて合作した曲。トニー・ベネットにとって、ゆかりの深い曲だ。実は、1949年に発売したデビュー・シングルがこの曲だった。当時は、「ジョー・バリ」という芸名だった。1959年のカウント・ベイシーとの『イン・パーソン』と1962年のカーネギー・ホールでのライブ盤にも収録した。今回が初めてのデュエットの録音となった。
 ここでは、トニーは、力強く踊るように歌っている。ダイアナは、優しくまろやかに歌う。ビルのピアノ・ソロも素晴らしい。トニーとダイアナの掛け合いもとても楽しそうだ。「ス・ワンダフル」は、ガーシュウィン兄弟が1927年のブロードウェイ・ミュージカル『ファニー・フェイス』のために書いた曲。フレッド・アステアとアデール・アステアが通算公演250回を記録し、彼らの代表曲と知られるようになった。ここでは、ゆったりとしたテンポで始まる。トニーは丁寧に歌う。ダイアナは軽やかに歌詞を大事に歌う。短い間隔で、トニーとダイアナが掛け合う。チャーラップのピアノ・ソロも申し分ない。
 「ナイス・ワーク・イフ・ユー・キャン・ゲット・イット」は、ガーシュウィンの死の直後に公開されたフレッド・アステア主演の映画『踊る騎士』の挿入歌として、作曲されたもの。フレッド・アステアとトニーは、若い頃から親友だった。トニーは彼ならではの味わいを表現する。ダイアナは、微妙に抑揚をつけて歌い魅力的である。ほかの曲も、自然にさりげなく歌っており、どれも素晴らしい。デュエットとは、かくあるべしという印象を受けた。本作には、ジャズ・ヴォーカルの伝統、最高のエッセンスがある。(高木信哉)

ALBUM Review

「CAPTURISM(キャプチャリズム)/fox capture plan」

ディスクユニオン Playwright:PWT-048

アーティスト写真

 絶好調のfox capture planの7作目にあたる1年ぶりの最新作。fox capture planは、井上司(ds)、岸本亮(p)、カワイヒデヒロ(b)による3人組で、2011年にデビュー。彼らの新作が出るたびに、「これが1番」と感じるが、「本作こそ1番」だ。素晴らしい作品である。1曲目は、まさにfox capture planらしい高速変拍子の曲。F1カーを運転しているような気分になれる。曲名の「CAPTURISM」とは、キャプチャー主義といった感じだろう。ライブで頻繁にやっている「グレイテスト・ブルー」が最高だ。ハービーハンコックの「処女航海」のイントロによく似たイントロから始まる。テーマは、もちろん異なる。3分40秒目から岸本のピアノの素晴らしい即興演奏がたっぷりと楽しめる。演奏は、徐々にテンポアップしていく。そしてバンドは一体となって、燃え上がって飛んでいく。「ウィ・アー・コンフィデンスマン」は、TVドラマ『コンフィデンスマンJP』(長澤まさみ主演)のメインテーマ。ドラマではビッグバンドのアレンジになっていたが、ここでは<ピアノ・トリオ+ストリングス>という新しいアレンジで演奏している。この曲が特に格好いい。重低音のベースとドラムから始まる。そこにストリングスとピアノが絶妙に絡まる。ストリングスは、4作目からずっと入っているが、時は流れ、今が最高の状態(本作は7作目)で、fox capture planと一体化している。6月のブルーノート東京公演でも<ピアノ・トリオ+ストリングス>のサウンドがとても素晴らしかった。核となる井上の重厚なビート、カワイのベース・ソロ、岸本のピアノ・ソロ、トリオ+ストリングスによるハーモニー、文句なしの名演である。またfox capture planの劇伴音楽作りも、一段とよくなった。昨年のTVドラマ『カルテット』(松たか子主演)が特に良かった。現在もTVドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』(吉岡里帆主演)の劇伴を担当中だ。「ビコーズ・オブ・ユー」は、Ne-Yo(ニーヨ)のヒット曲。fox capture planが丁寧にメロディを奏でるだけで、私たちは「今という困難な時代を勇気を持って歩かないといけない」という気分にさせてくれる。岸本が、本作で弾くピアノ< Fazioli >の音がたまらなく綺麗だ。< Fazioli >は、foxによく合ったサウンドと思う。
(高木信哉)

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「Kate Reid/The Heart Already Knows」

Katereidmusic

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 ロスやマイアミを中心に活躍するピアニスト、シンガー、ケート・リードの2000年の「Sentimental Mood」、2011年の「The Love I’m In]に次ぐ第三作目。今回は、ニューヨーク・ヴォィセスのピーター・エルドリッジのプロデユ―スで、フレッド・ハーシュ(p)と3曲、ポール・メイヤー(g)ラリー・クーンス(g)ロメロ・ラバンボ(g)テイラー・エイグスト(p)と錚々たるミュージツシャンとそれぞれ2曲づつをデユオで歌うインティミットな作品。「ジャズの神髄は、自然発生的なもの」と彼女は、言っているが、5人の中4人とは以前仕事をしたこともなく、スタジオで初めて会って彼女のアレンジで殆どリハーサルもなく録音したという。緊張感のある素晴らしい作品になっている。彼女の低めでムードのあるセクシーな声が魅力だ。彼女は、スタジオやセッション・シンガーとしても映画、TV等で広く活躍しているが、博士号を持つて、いくつかの学校や機関で後輩の指導にもあたっている。(高田敬三)