ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

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ALBUM Review

Soft Winds and Roses/カヴァーズ~私の好きな歌/ダイアナ・パントン
Diana Panton

Spoon FSPC1001

 カナダのグラミー賞にあたるジュノ賞の常連的ジャズ・シンガー、ダイアナ・パントンの2022年の「Blue」以来久々の通算15枚目の新作スタジオ・アルバム。ゴードン・ライトフット作の「Pussywillows Cat Tails(ねこやなぎ)」中のフレーズ、Soft Winds And Rosesから取ったタイトルが示す様にそよ風のような彼女のやわらかく優しい歌で愛(Roses)を歌うといった感じの心の残る素晴らしいアルバムだ。彼女の言葉によるとこのアルバムは、彼女のファンの多い台湾や日本で出したコンピレーション・アルバムのボーナス・トラックを中心に企画したアルバムだという。通常は、先ずアルバムのコンセプトを考えて、そして歌を選ぶことが多いが、今回は、いくつかの歌が先に有ってそれらを中心に愛の心を歌う「Secret Heart」、「Valentine」等も加えて一つのコンセプトに纏めたものだ。彼女は以前カラーをコンセプトとした「Pink」、「RED」、「Blue」というアルバムを作っているが、今回は、香水の芳香というものを頭に描いて考えを纏めたという。いつものドン・トンプソンのピアノ、ヴァイブ、ベースと、レッジ・シュワガ―のギターの彼女に寄り添うセンシティブな二人だけの伴奏で子供に優しく語りかけるように歌う何度も聞きたくなる心温まる作品だ。(高田敬三)

ALBUM Review

Elaine Dame
REMINISCING

elaindame.com

 エレイン・デイムは、シカゴ中心に活躍しているジャズ・シンガー。彼女は、2005年に「Comes Love」、2014年に「You‘re My Thrill」という2つのアルバムを発表している。いずれもグレート・アメリカン・ソングブックの中の所謂、スタンダード・ナンバーを中心に歌うものだった。コロナ禍を挟んで企画した今回の作品は、彼女が青春時代を過ごした70年代によくラジオで流れていた歌をジャズ的の料理しようというものだ。70年代は、デイスコ、ロック、R&B,フアンク、フュージョン、ソウルといった音楽の全盛の時期であった。彼女とテナーとソプラノ・サックスのクリス・マディソンのアレンジでチャカ・カーンの歌った「Tell Me Something Good」、ビル・ウィザーズの「Use Me」、ピンク・フロイドの「Wish You Were Here」、情感豊かな歌唱をきかせるマリア・マルダーの「Midnight At The Oasis」や、ドナ・サマーの「Last Dance」といったヴァラェティに富んだナンバー9曲をトランペットのアート・デヴィス、ヴィクター・ガルシア、ギターの二―ル・アルガー、ピアノ、オルガン、キーボーズのトム・ヴエイトサス、ベースのサム・ピーターズ、ドラムスのジョン・ディテマイヤーといったシカゴ在住のメンバーをバックに歌う。最近、ジャンルの垣根を超えた歌を聞かせるシンガーが増えているが、彼女もそんな一人で、新たな企画にチャレンジする気合の入った歌を聞かせる。(高田敬三)

ALBUM Review

Mafalda Minnozzi
RIOFONIC

Musica Popolare Itariana MPI 2321

 イタリアのパヴィーア出身のマファルダ・ミノーシは、イタリアは、もとより、アメリカ、ブラジルでも活躍。ブラジルには永く住んでリオデジャネイロの名誉市民でもあり、ミルトン・ナシメント、ジョアン・ボスコ、レニー・アンドレ―ド等と20枚ものアルバムを残している。本アルバムは、ニューヨークのギタリスト、ポール・リッチの監修でリオデジャネイロで作られたアメリカ・マーケット向けの4枚目の作品になる。曲によってトロンボーン、サックス、フルート、トランペット、フリューゲルホーンなどのソロも入る。アメリカ・マーケットを意識したか「Voce(You)」、「The Gentle Rain」、「Postcard from Rio」など英語で歌うナンバー、イタリア語のナンバー、そして「Agua De Beber (おいしい水)」「Garota De Ipanema(イパネマの娘)」等良く知られたナンバーも含め彼女自身とロベルト・メネスカル、ポール・リッチのアレンジで14曲を楽しめるボサ・ノヴァ・ジャズ・アルバム。彼女と一緒に、ギターで作編曲家のロベルト・メネスカルの歌も彼の書いた「O Barqinho」、「Telephone」「Voce]などで聞かせる。彼女の若々しく可憐な声で軽やかに歌うボサ・ノヴァは、大変魅力的だ。(高田敬三)

LIVE Review

チーナ「チーナできたよ!CDリリースワンマン2024」

2024年11月22日 渋谷WWW

 テレビ番組「シナぷしゅ」や、ダンサー菅原小春の公演への楽曲提供でも知られるグループ、チーナ(2007年結成)が3年ぶりの新作『iroiro』の発売記念ライヴを開催した。同アルバムからの全曲に加え、「愛とか恋とか」「世界が全部嘘だとしても」など2010年代に音盤化されたレパートリーも含む、「ついに今回初めてチーナのライヴを聴く」というリスナーにとっても実に嬉しいステージだ。このグループの際立った魅力の一部に、1)ヴォーカル・鍵盤・作詞作曲を手掛ける椎名杏子による、非常にニュアンスに富むメロディ・ラインや歌唱。2)リズミカルな指弾きとクラシカルな弓弾きの双方を駆使する柴由佳子のヴァイオリンと林絵里のアップライト・ベース、そこにワイルドな興奮を持ち込むリーダーのギター、錨のような頼もしさを感じさせるHAPPYのドラムスが生み出すコントラスト。3)演唱はもちろんMCからもたっぷりと伝わる抜群のチームワーク、がある。そのピースフルな雰囲気は客席にも充満していて、私が聴いていた場所の近くでは幼い子供が楽しそうに踊っていた。(原田和典)
撮影;櫻本麻純

LIVE Review

氷川きよし「KIYOSHI HIKAWA+KIINA. 25th Anniversary ConcertTour~KIIZNA~」

1月16日 東京ガーデンシアター

 昨年8月から延期になっていたコンサートが盛大に開催された。活動再開後のライヴを私が聴くのは今回が初めてだが、声の伸び、厚み、豊かな声量、まったく見事で、「すごいなあ」と何度も心の声がもれた。体つきやアクションも含めて、人前に出ていなかった時もたゆまぬ鍛錬を続けていたであろうことが容易に想像できた。内容は休憩なしの約3時間。本人は着替えのためにしばしばステージからはけるが、巧みな演出が会場をだらけた空気にはさせない。演目は演歌系とポップス系が半々か、後者の方が少々多めな感じ。「箱根八里の半次郎」と「ボヘミアンラプソディ」をひとつのコンサートに同居できるのは氷川きよしならではといえる。あまりにも多彩な楽曲の数々を的確にプレイするバンドの面々(ストリングス入り)の技量の高さにも唸らされた。途中、友人である彦摩呂とのトークや、TM NETWORKの木根尚登とのコラボレーション「SEVEN DAYS WAR」などを挟んだり、初期の歌唱映像を背後に流しながら今の氷川きよしが熱唱するシーンもあった。美空ひばりのカヴァー「歌は我が命」も実に秀逸。今後の氷川きよしは、歌い手として、エンターテイナーとしていっそうの飛翔をとげていくことだろう。(原田和典)

LIVE Review

ロビン・フェアハイエン

1月28日 横浜エアジン

 1983年ベルギー生まれのテナー&ソプラノ・サックス奏者であるロビン・フェアハイエンが、ソロ・ツアー開催のため来日した。無伴奏サックスといってもいわゆるフリーフォームではなく、楽曲をしっかり演奏する。師のひとりであるというデイヴ・リーブマンのようなゴリゴリのモーダル路線でもなかった。終演後に少々話をしたら尊敬している演奏家にジーン・アモンズをあげていた。テナーはカイルベルトのヴィンテージを使用、マウスピースはエボナイトで木製のリガチャーをつけている。サブトーンを含む音色は暖かにして芯があり、テーマ吹奏は丁寧、アドリブ・パートはメロディアスでありながらもロジカルで、同時にベース・ラインが聴こえてくるような錯覚に陥る箇所もあった。演目は「バッハ パルティータより」、セロニアス・モンク「フォー・イン・ワン」、スティーヴ・レイシー「プロスペクタス」、ソニー・ロリンズ「エアジン」、オーネット・コールマン「ブロードウェイ・ブルース」、スタンダード・ナンバーの「アイム・ゲッティング・センチメンタル・オーヴァー・ユー」「マイ・アイデアル」など。指使いやアンブシャーの美しさに見とれ、マイクを一切介しないサックスの生音のおいしさを満喫するうちに時があっという間に過ぎた。(原田和典)