ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

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ALBUM Review

「ホーム・フォー・ザ・ホリデイ/グレッグ・カル―キス+シェルビー・フリント」

ミューザックMZCF1379

 グレッグ・カル―キス(Gregg Karukasカタカナ表記は、本人の指示通り)は、1956年生れ、ビートルズやモータウン系の音楽を聴いて育ったというスムース・ジャズ系のピアニスト。フェンダー・ローズを弾くことも多い。1986年にザ・リッピントンズで処女作「Moonlighting」の録音に参加、1987年に自己のデビュー・アルバム「The Night Owl」を発表、以降数多くのアルバムを発表してきている。大変耳に優しい音楽を聞かせるピアニストだ。本アルバムは、彼が「天使の歌声」と形容されるシェルビー・フリントを迎えて作った心地よいクリスマス・アルバム。彼女は、1961年に「Angel On My Shoulder」,1966年に「Cast Your Fate To The Wind」をヒットさせている。1961年に初アルバム「Shelby Flint」を発表して以来、その奇麗な歌声から根強いファンをもっている。本作で、彼女は、自作の「Star On The Horizon」,「Greetings Of The Season」の2曲とグレッグと共作の「Still」を含め6曲を歌っている。「WinterWondeland」では、フェイクからスキャットも交えて可成りジャジーな歌を聞かせる。「Silent Night]、「Jingle Bells」等のクリスマス・アルバム常連の歌は、グレッグの心地良いアコースティック・ピアノで聞かせるが、これがなかなか良いムードだ。聴き手をホリデイ気分にさせてくれる、一味違う大変楽しいクリスマス・アルバムだ。(高田敬三)

ALBUM Review

「THEN AND NOW(ゼン・アンド・ナウ)/Benny Green
(ベニー・グリーン)」

キング・インターナショナル KKE084

アーティスト写真

 素晴らしい!ジャズ・ピアノの新しい地平を開いた作品。オスカー・ピーターソンが、「ベニーこそ、自分の後継者である」と絶賛したピアニスト、ベニー・グリーンの最新作。
 ベニーは、1988年、アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズのピアニストとして名を上げた。1991年にトリオを結成して以来、徹底してトリオ・ジャズを究めてきた。
 ところが、本作では、5曲に女性シンガーのヴェロニカ・スウィフトを、3曲に女性フルート奏者のアン・ドラモンドをフィーチャーするという大変珍しい編成で演奏している。ヴェロニカは、2015年セロニアス・モンク・コンペティションで準優勝した。父親は、バップ・ピアニストのホッド・オブライエン(2016年没、享年80歳)。ヴェロニカは、スキャットを交えた透明感あるオーセンティックな歌唱を聴かせる。アン・ドラモンドはニューヨークで活躍中のフルート奏者。彼女が、アルバムにフレッシュな色彩感を与えている。
 いきなり1曲目の「ダニー・ハァス・ア・ウェイ」から驚く。パーカッションが加わり、フルートが爽やかにテーマを奏でている。まったく聴いたことがないベニーの新世界が広がっている。ベニーは、なんとエレピ(フェンダー・ローズ)を弾いている(合計3曲でローズを弾いている)。10代からずっと硬派なピアノを弾き続けて来たベニーは、55歳となり、今や世界でも有数なジャズ・ピアニストとなった。そんなベニーに、一体どんな心境の変化があったのだろう?しかし驚くなかれ、ジャズ史を紐解けば、ビル・エバンスは『FROM LEFT TO RIGHT』、オスカー・ピーターソンも『ナイト・チャイルド』というエレピを弾いた作品を残しているのだ。さて「フォー・レギュラー・オンリィ」(デクスター・ゴードン作)では、ヴェロニカのスキャットが鮮やかに炸裂する。「マイナー・コンテンション」(ハンク・ジョーンズ作)では、猛烈にスイングしまくるベニーのピアノが堪能できる。「セイ・ユーアー・マイン」(デューク・ピアソン作)は、ベニーの生ピアノが素晴らしい。クールでシックなピアノの響き&タッチ、そして見事な即興演奏に誰もがシビれてしまうだろう。
 『THEN AND NOW』のタイトル通り、“あの時と今”が融合したベニーの新世界が始まった。最後に、この作品のジャケット写真のお話。若く可愛いベニーがCDジャケットに写っているが、これは、7歳の時に、お母さんが撮った写真である。(高木信哉)

ALBUM Review

「バルーション/小川理子」

ウルトラアートレコ-ド UA-1002

アーティスト写真

 ジャズ・ピアニスト&シンガーの小川理子の最新作がついに出た。実に9年ぶり15作目の作品だ。小川は、マルチタスクな人物で、パナソニックで執行役員を務め、日本オーディオ協会の会長など多くの肩書を持つ。ピアノは3歳から始め、音楽教育を学んでいる。ジャズは大学生から始め、正統派のジャズ・ピアノを身につけた。クラシックとジャズの両方の良さを併せ持っている。一見地味ではあるが、味わい深いピアノを奏でる実力者である。
 本作は、充実した内容で素晴らしい出来。演奏も録音(音)も、本物である。そして、嬉しい驚きがある。2組の優れたサポート・メンバーが参加しているのだ。前半の6曲は、田辺充邦(g)山村隆一(b)バイソン片山(ds)。後半の6曲は、浜崎航(ts,fl) 中平薫平(b) 吉良創太(ds)である。日本を代表する実力者が集結した。まったく趣きが異なる編成を得て、手練れの小川理子は、誰もが知っている名曲の解釈に新しい視点を感じさせている。本作の前半、後半をLP時代のA面、B面と思いながら聴くと楽しいだろう。
 前半は、バイソン片山の心地好いリズムに乗って、小川は流れるようにスイングする。また、日本のバーニー・ケッセルと称される名ギタリストの田辺充邦が抜群の即興演奏を聴かせる。特に「ラブ・フォー・セール」の田辺のギター・ソロが、素晴らしい。小川は、デューク・エリントンの「ドゥー・ナッシン・ティル・ユウ・ヒアー・フロム・ミー」で、美声を聴かせる。エリントンの「イン・ア・センチメンタル・ムード」の小川のピアノが、とても綺麗だ。後半は、サックス奏者の浜崎航を中心にパワフルな演奏を聴かせる。エリントンのテーマ曲「A列車で行こう」では、勢いに乗った小川のピアノがスイングしまくる。チャップリンの「スマイル」では、小川が情感のこもった歌声で魅了する。最後は、ビートルズの「レディ・マドンナ」で、小川がファンキーに熱演する。素敵な作品である。(高木信哉)