ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

サウダージ /野力奏一with Special Guest 渡辺貞夫

NorikiMusic :NMSC1002

 ピアニスト、野力奏一の最新作。昨年発表した『ピアノ・ソロ』シリーズの第2弾で、今回はブラジル音楽にフォーカスした作品である。前回に引き続き、名調律師、宮﨑剛史の調律によるNYスタインウェイで、野力が得も言われぬ美しい音を聴かせてくれる。
 また、特別ゲストに渡辺貞夫が2曲参加していることが嬉しい。アルバムの価値も高めている。野力は、かつて10年間、渡辺貞夫のバンド・メンバーだった。収録曲は、メロディの綺麗な曲ばかりで、アントニオ・カルロス・ジョビン3曲、イヴァン・リンス2曲、パット・メセニー1曲、渡辺貞夫1曲、野力オリジナル1曲など全11曲、選曲もセンスが良い。冒頭の「アイランド」は、イヴァン・リンスの曲。リンス本人も気にいっていて、何度もリメークしている。野力の綺麗なピアノにうっとりとしてしまう。倍音の響きも良い。「ワン・ノート・サンバ」は、ジョビンの曲。野力が新たに付けたイントロも素敵だ。テーマもアドリブも、一音一音が吟味されたタッチで、哀愁(サウダージ)がある。「エリス」は、渡辺貞夫がエリス・レジーナに捧げて書いたオリジナルだ。貞夫さんのアルトの音色が美しい。そして唯一無二の歌心がある。「オールウェイズ・アンド・フォーエバー」は、パット・メセニーの曲。この曲にもサウダージが感じられる。野力のピアノ・ソロは、味わい深くどこまでも美しい。素敵なアルバムである。(高木信哉)

ALBUM Review

琴線(THE CHORD)/納浩一

キングレコード:KICJ-744

 ベーシスト、納浩一の代表作(2作目)。クリヤ・マコト(p)、則竹裕之(ds)、小沼ようすけ(g)という日本が誇る名手達が参加した。多様な楽曲を、納が全編ウッド・ベースで臨んだ価値ある一枚である。冒頭の「アクチュアル・プルーフ」は、ハービー・ハンコックの曲。近年のコンサートで、毎回、1曲目に演奏する人気曲だ。このアルバムで、唯一、全員で演奏している曲だ。こんなファンク・チューンを、エレクトロニックを用いず、あえてアコースティックのウッド・ベース1本で、演奏していることに驚嘆する。バンドが一体になって、スリリングでエキサイティングな演奏を展開する。後半の納のベース・ソロ、則竹裕之の怒涛のドラミングが物凄い。ファンクといえば、もう1曲、ブレッカーブラザーズの「サム・スカンク・ファンク」をギター・トリオで演奏している。このウッド・ベースにも驚く。小沼のギターも則竹のドラムも素晴らしい。
 ジャコ・パストリアスの「スリー・ビューズ・オブ・ア・シークレット」で、納は全編に渡って、美しいソロを聴かせてくれる。このベースの雰囲気、ピアノ・トリオの演奏は、素晴らしい。そういえば、この3人は、「アコースティック・ウェザーリポート」のメンバーだ。ジャコと言えば、チャーリー・パーカーの「ドナ・リー」の演奏が有名だが、ここでは納がドラムの則竹と二人だけで演奏している。納は、高速運指で見事に演奏する。則竹のドラムとの一体感もスゴい。「ムード・インディゴ」は、テーマをアルコ(弓弾き)で美しく奏で、ピッチカートでソロを取る。このアルコの音は、味わい深く醸し出す雰囲気が素晴らしい。ウイントン・マルサリスのバンドに加わったヨーヨー・マが弾いた美しいチェロを思い出す。続くクリヤ・マコトのピアノのソロも最高である。「アイ・ウィッシュ」は、スティービー・ワンダーの曲。この名曲を前半はドラムとのデュオ、後半をトリオで演奏。テーマ、そしてベース・パターン。これを聴いただけで、ウキウキして踊りだしたくなる。このグルーヴ感は、なかなか出せるものではない。納のウッド・ベースは、より深い次元で、音楽の本質に触れることができるだろう。(高木信哉)

ALBUM Review

Deb Bowman
FAST HEART

Mama Bama Records

 アラバマ出身、今はニューヨークを中心に活躍の歌手、キャバレー・アーティスト、TVや舞台女優でもあるデブ・ボウマンの2011年の「Addicted To Love Songs」に続く2作目。ロック・ジャズというジャンルを作ったといわれるクロスオーヴァーのピアニスト、エリック・ルイスを迎えてモンクの「Panonica」、ハービー・ハンコックの「Butterfly」、ジェームス・ムーディ―の「Moody’s Mood For Love」等のジャズ・ナンバー、フランス語でピアノとデユオで歌うピアフの「La Vie En Rose」,ゴスペルから出発した彼女らしいソウルフルな「Georgia On My Mind」に加えて彼女の自作のナンバーも4曲披露する。本アルバムは、卵巣がんの為に2009年に亡くなった姉のパティに捧げるものでアルバム・カヴァーの蝶々と蝶の恰好をしている彼女の写真が物語るように、タイトルや歌詞にパティが好きだった蝶々が出てくるものが多く選ばれている、女性らしいピッチの高い柔らかい声でヴァラェティに富んだ内容のいろいろなスタイルの歌を彼女流に聞かせるが、コーラスとオルガンを使って歌い上げる自作のゴスペル「Shelter Me From The Storm」や恋心を歌うタイトルの「Fast Heart」等自作の歌が光っている。(高田敬三)

ALBUM Review

Mark Winkler
I’M WITH YOU

Café Pacific Records CPCD4075

 マーク・ウインクラーは、ジャズ・シンガー、作詞家、レコード・プロデューサー、音楽教師として幅広く活躍しているアーティスト。CDも今まで数多く出していて、2002年に「Sings Bobby Troup」という「Route 66」の作者として知られるシンガー、ソングライターのボビー・トゥループの作品を歌ったアルバムを発表しているが、今回も、ボビー・トゥループに捧げる作品だ。ボビーの娘から彼の未発表の譜面等を多数譲り受けて思い立ったものだという。マーク自身は、ボビーと歌のスタイル、考え方など共通するものが多いのでボビー作の「I’m With You」をタイトルにしたという。12曲歌っているが、「Lemon Twist」、「Hungry Man」、「Three Bears」は、以前のアルバムで録音したもの、「Their Hearts Were Full Of Spring」は、以前のアルバム「Sweet Spot」からで、トゥループのあまり知られない歌も含めて8曲が新たに録音されたもので、彼自身が書いたトゥループ風の「In No Time」や「Hungry Man」のパロデイ版も含まれている。ユーモラスでウイットに富んだ、それでいてロマンチックなトゥル―プの作品をマークのクールで小粋なスタイルにより現代風に蘇らせる大変楽しいアルバムだ。(高田敬三)

CONCERT Review

カーリン・アリソン

コットンクラブ 7月25日 ファースト・ステージ

アーティスト写真
アーティスト写真

 2002年の富士通ジャズ・エリート・コンサート以来だろうか、久しぶりのカーリン・アリソンの来日公演だった。初の全編自作曲のアルバム「Some Of That Sunshine」を携えてアルバムでも共演の新鋭ピアニスト、ミロ・スプレイグとリンカーン・センターで活躍のベースのジョージ・コラー、カナダからのドラムスのジェローム・ジェニングスとの登場だ。黒いタンクトップ風の軽快な衣装で現れたカーリンは、きびきびした動きでリナ・ホーンも歌った「Joy」を楽し気に歌い幕を開く。続く「枯葉」は、スイング・テンポでフランス語、英語からピアノとベースのソロを挟んで後半はスキャットも交えてジャジーに歌った。アルバム「Azure Te」で歌っていた「Blame It On My Youth」は、ピアノのソロも交えしっとりと歌う。ここからは、ニュー・アルバムからで「Wish You Are Mine」は、シェーカーを手にしてビートに乗ってソウルフルに歌う。アルバムのタイトル曲「Some Of That Sunshine」は、ピアノから始まり、後半はスキャットも交えてドラムスとの掛け合い、ピアノのソロも挟んでテンポ良く歌った。「Shake It Up」は、タンバリンをもって聴衆の参加を誘うが知られない曲の為に、反応は悪かったが良い乗りでリズミックに歌った。其の後、ピアノをミロと交代して、彼女がピアノの席に座り、ミロはドラムスの横のフェンダーローズ・スーツケースに移って、ミュージカル「南太平洋」からの「You’ve Got To Be Carefully Taught」、「Something Wonderful」、「Something Good」等ロジャース・ハマースタインを歌うアルバムから4曲をジョージ・コラーのベースやミロのフェンダー・ローズのソロも交えてピアノ弾き語りので披露した。メンバー紹介の後「リクエストは、ありませんか」と会場に問い。前の席から声のあった「It Might As Well Be Spring」を受けて心地よく歌う。アンコールは、これもリクエストのあった「Moanin’」をドラム・ソロからピアノとベースのソロも交えて彼女らしいグルーヴィ―な歌で聞かせた。5度もグラミー賞にノミネートされている彼女らしくヴァラエティに富んだ内容の歌を少し鼻にかかった独特の落ち着きのある声で聴かせる素晴らしいコンサートだった。実績実力のあるベテランの割に今一つ日本では、知名度が低いのは残念だ。(高田敬三)