- 最新号 -
ALBUM Review
Jeffrey Gimble
BRAND NEW KEY
Café Pacific Records No Number
ジェフリー・ギンブルは、テキサス州のヒューストン出身。バンド・リーダー、メイナード・ギンブルの息子で小さな頃からジャズに接して来たという。20代でニューヨークへ出て、ミュージカルの舞台や映画で活躍していたが、数年前にロスアンジェルスへ移り、歌手に専念するようになる。2013年に初アルバム「Beyond Up High」をマーク・ウインクラーのプロデュ―ス、タミール・ヘンデルマンのピアノとアレンジで発表。今回のアルバムは、遅まきながら第2作目になる。ファンキーなアップビートでR&B調に歌う「Bye Bye Blackbird」から始まり60年代70年代によく聞いたメラニー・ソフィカの「Brand New Key(心の扉を開けよう)」、ローバタ・フラックのヒット曲「Tryin Times」や、ママズ・アンド・パパズの「Somebody Groovy」等を含めジョッシュ・ネルソン(p)、ラリー・ク―ンズ(g)、ダン・ルッツ(b)、ダン・シュネル(ds)というロスを代表するミュージッシャンに囲まれて渋い声で個性的な歌を聞かせる。ジョッシュ・ネルソンも曲によってオルガンを使ったりラリー・ク―ンズは、いつもよりワイルドな演奏聞かせたりする。ピアノとベースをバックに聞かせる「The Nearness Of You」やシャーリー・ホーンで有名な「Quietly There」のバラードが特に印象に残る。(高田敬三)
ALBUM Review
Michelle Nicolle &Larry Koonse
THE SILENT WISH
Purple Lead Music PLM 2401
ミッシェル・ニコールは、オーストラリアのベテラン・ジャズ・シンガー、ソングライター、アンド・エデュケーター。彼女は、自分のバンド、ザ・ミッシェル・ニコール・カルテットを持ち過去26年間に10枚ものアルバムを発表してきて、2009年には来日公演もしている。今回の彼女の11枚目の作品は、アメリカへ渡ってロスアンジェルスで名ギタリスト、ラリー・ク―ンズとデュオで録音した初のアメリカ吹込み。以前、エラとジョー・パスのアルバムを聴いて自分もギターとデュオの作品に挑戦したいと思っていたという。スタンダード・ナンバーを8曲に80年代にオーストラリアで大ヒットした「I Hope I Never」に自作「Putting It Off」を加え10曲を歌う。中でも気持ちの籠った歌でスローにワン・コーラスで歌いきる「I’m Glad There Is You」,ク―ンズの快調なギターと絡んで後半スキャットも交えて奔放な感じで歌う「All The Things You Are」が大変印象に残る。ミッシェルのアメリカでの新たな出発となるだろう。(高田敬三)
LIVE Review
もるつオーケストラ「Guten Tag!! SHI·BU·YA!! vol.2 “2025門出” -Malts Orchestra One man live-」
4月6日 渋谷La.mama
ファンキーでダンサブルで、ひとさじの洗練を忘れない音楽性を持つバンドといえようか。「メイドに土産」、「新潟の潟っていう字が難しい」、「タツオのかたき」など曲名を並べていくだけでも、聴きたくなる気持ちを抑えられなくなるはずだ。ヴォーカル&ギターのGOOD之介を中心に2008年に結成され、昨年はドイツのポップパンク・バンド“ディ・エルツテ”が6万人を集めて行なったベルリン公演のオープニング・アクトを担当。久々のアルバム『イリオモテヤマネコの臭い嗅いだことあるか?』も好評だ。この日のライヴでは同作のタイトル曲(猫の手を真似た振りも観客を沸かせた)、大阪時代からのレパートリーである粘っこいソウル調「Everyday I have a soy sauce」、彼らの名を一気に広めた「四国アイランド講座」などを、軽妙で長いMCを交えつつたっぷりと聴かせた。アンコール前には「ハイライト」と題し、その日それまでに演奏した曲を数小節単位で抜粋して“生マッシュアップ”形式で振り返った。各プレイヤーの持つ技量の高さ、呼吸を合わせる力、エンタテイメント精神に脱帽!(原田和典)
MOVE Review
映画『ボサノヴァ~撃たれたピアニスト』
劇場公開日:2025年4月11日~
ブラジルのピアノ奏者テノーリオ・ジュニオールに関する事柄をアニメ化したもので、物語は米国の音楽ジャーナリストであるジェフ・ハリスの目線で進行する。テノーリオはハウル・ヂ・ソウザ(昔の表記はラウル・ジ・スーザ)、ミルトン・ナシメント、トッキーニョ、ヴィニシウス・ヂ・モライスらと共演したミュージシャンズ・ミュージシャンというべき存在。彼が巻き込まれた誠に不運な事件について、私は言葉を見つられないまま悔しく悲しい思いをすることしかできないが、サックス奏者のバド・シャンクが米国にテノーリオを招聘しようとしたが実現せずにセルジオ・メンデスが来たこと、テノーリオがビル・エヴァンスの大ファンで一緒に食事をしながら語り合ったことなどなど、エピソードの数々には耳をそばだてずにはいられなかったし、演奏シーンも、ハウルのトロンボーンが“スライド”ではなく“ヴァルヴ”であること、エヴァンス・トリオのドラマーが左利きのセッティングで演奏していること(つまりエリオット・ジグムンドを暗示している)など、アニメ化に際してしっかり調査をしたことがわかる。テノーリオのリーダー・アルバム『エンバーロ』からの演奏も再録されているが、リマスターの成果なのか、とびあがりたくなるほど良い音で楽しめたのも収穫だ。ほかジョアン・ジルベルトらのギター演奏を吹き替えた、スペインの名手ニーニョ・ホセーレの尽力も讃えたい。(原田和典)
© 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.
監督・脚本:フェルナンド・トルエバ 監督:ハビエル・マリスカル 声の出演:ジェフ・ゴールドブラム アニメーション監督:カルロス・レオン・サンチャ キャラクターデザイン:マルセロ・キンタニーリャ 編集:アルナウ・キレス サウンドエディター:エドゥアルド・カストロ 2023年/スペイン・フランス・オランダ・ポルトガル/英語・ポルトガル語・スペイン語/カラー/4Kシネスコ/5.1ch/103分
原題:THEY SHOT THE PIANO PLAYER © 2022 THEY SHOT THE PIANO PLAYER AIE – FERNANDO TRUEBA PRODUCCIONES CINEMATOGRAFICAS, S.A. – JULIÁN PIKER & FERMÍN SL – LES FILMS D’ICI MÉDITERRANÉE – SUBMARINE SUBLIME – ANIMANOSTRA CAM, LDA – PRODUCCIONES TONDERO SAC. ALL RIGHTS RESERVED.
後援:インスティトゥト・セルバンテス東京/ギマランイス・ホーザ文化院 日本語字幕:草刈かおり 配給・宣伝:2ミーターテインメント/ゴンゾ 協力:キュードーガ DCP制作:クープ
MOVE Review
映画『ロックの礎を築いた男:レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点』
劇場公開日:2025年5月23日~
レッド・ベリー(1888年生まれ、1949年死去)のドキュメンタリー映画! それだけで驚きと嬉しさが同時にやってくる。私はギル・エヴァンスやクリフォード・ジョーダンなどによる楽曲カヴァー、およびバンク・ジョンソンとの共演ライヴなどジャズ方面から彼の存在を知ったが、ロックやブルース界でもビートルズ、ジャニス・ジョプリン、ドアーズ、ボブ・ディラン、B.B.キング、ハリー・べラフォンテなどが彼に表敬しているし、クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルらが演唱した「ミッドナイト・スペシャル」はロックの大スタンダードになってしまったといえるだろう。そしてレッド・ベリーはシンガーソングライターの草分け(songster)であるとともに、ブルースの先駆者、12弦ギターの達人であった。この映画は彼の生涯や音楽的功績がわかりやすく描かれており、しかも、1930年代だったかに本人が出演した貴重なドラマ仕立てのフィルムが再録されているのも、そこで描かれている内容は人種偏見たっぷりの、この偉大な芸術家に対しあまりにも失礼なものであるとはしても、ひとつの時代の証言ではある。(原田和典)
2021年/80分/アメリカ 原題:Lead Belly: Life, Legend, Legacy 監督:カート・ハーン 字幕監修:ピーター・バラカン、朝日順子 配給:NEGA