- 最新号 -
ALBUM Review
Brenda Earle Stokes
MOTHERHOOD
ASNM 008
カナダ生まれ、ニューヨークで活躍するピアノ弾き語り歌手で作曲家のブレンダ・アール・ストークスの2006年の「Bebop Spoken Here」以来6枚目の新作。息子が生まれ母親になって感じること、考えること、出来事などを歌にした自作曲10曲をエヴァン・グレゴー(b)ロス・ぺデルソン(ds)にやはり母親のイングリッド・ジェンセンの温かみのあるトランペットが加わるグループで歌う。曲によりメリッサ・スティリアノウ、ニコール・ズレイティスと女性2人のバック・ヴォーカルも加わる。日々アイディアを記録してきたが、最終的には8曲を9日で書き上げたという。若々しく力強い声で歌う彼女の歌と力強いタッチのピアノは、聴き手の心に響く。ラップ風の話ことばによる「Sharp Edges」、ブルージーな「Loose Tooth Blues」、バック・ヴォーカル入りのゴスペル調のバラードの「The Strength Of A Woman」など色彩に富んだ編曲で10曲を快調に歌い、明るく楽しい「Happy Mother’s Day」で締めくくる。(高田敬三)
ALBUM Review
Cathy Segal-Garcia
SOCIAL ANTHEMS Volume 2
Dash Hoffman Records DHR 1030
キャシー・シーガル・ガルシアは、ロスアンジェルス・ジャズ・シーンの中心的存在のジャズ・シンガ―で同時にソング・ライター、ジャズの教師、ライターであり、コンサートの主催などもやっている多才な人だ。1990年以来、度々来日してヴォーカル教室なども開いているので日本人の生徒も多い。歌手としても既に15枚のアルバムを発表している。本アルバムは、そんな彼女が2021年に出した「Social Anthems Volume1」に続く作品。「社会賛歌」というタイトルが示すように現代の落ちつかない社会情勢に対応した、彼女が青春時代を送った70年代から90年代のスティービー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、スティング、ピーター・ブライアン・ガブリエルなどの歌を現代風に編曲し、自作曲も交え全8曲をカレイ・フランク(p、B3.synse)、ニック・マンシーニ(vib)、ウイル・ブラーム(g)にベースは、アレックス・ボーンハム、デヴィッド・ピッチ、ジョン・レフトウイッチ、ドラムスは、スティーブ・ハス、ジェイ・ベルローズ、クリス・ワビッチが入れ替わり担当し曲により3人のバック・ヴォーカルが効果的に参加する編成で歌われるものだ。彼女が何度か共演して来たモン・デヴィッドとポウル・ジョストも曲によりゲスト・ヴォーカリストとして参加している。低めのアルト・ヴォイスで優しく歌いかける彼女の歌は、こうした企画にピッタリで大変説得力がある。ニック・マンシーニのヴァイブも大変有効に活躍する。(高田敬三)
ALBUM Review
「忘れじのドーナツ盤シリーズ:続・Youはどうして日本語で?」
ODR-7357 (オールデイズ レコード)
2023年10月号で取り上げた「忘れじのドーナツ盤シリーズ:Youはどうして日本語で? 女性歌手編」に続く第2弾は男性歌手や男女デュエットも交えてヴァラエティーも豊かにグレード・アップ。1960年代の日本のポップス・シーンを語る際に外せないのがこういった海外歌手による日本語歌唱盤だが、自らの持ち歌だけではなく、あえて和製楽曲を歌うケースも少なくなかった。
そういったムーヴメント?を牽引した一人が「涙くんさよなら」「ユー・アンド・ミー」「バラが咲いた」「バラのため息」「恋のヨット」と連発したジョニー・ティロットソン。シングルのA面が英語でB面が日本語というスタイル(以上の5曲を今回収録)。元々日本でも大きな人気を誇っていたティロットソンとの距離がより近くなったとも言えるが「涙くんさよなら」は同名の青春映画にもなりティロットソンも出演した。作詞・作曲を手掛けた浜口庫之助はペギー・マーチがベニー・トーマスと組んだ「愛して愛して愛しちゃったのよ」(今回収録/和田弘とマヒナ・スターズ+田代美代子のヒット)の作者でもある。
「ユー・アンド・ミー」(作曲・鈴木邦彦、作詞・高崎一郎)やバエーナの「サボテン娘」(作曲・鈴木邦彦、作詞・なかにし礼)などこういった動きは作詞・作曲面での新たな才能の開花にもつながったように思う。
あとマージョリー・ノエル(和製楽曲)やジョニー・ソマーズ、ブレンダ・リー、ポールとポーラあたりは定番だが、ジニー・アーネルやミリー・スモールはレアかも。ドン・ホー、ボブ・マグラス、ナット・キング・コール、ハリー・ベラフォンテといった大人世代の歌手に加えてニュー・クリスティ・ミンストレルス「山男の歌」やトリオ・ロス・パンチョス「有難や節」などちょっと意外?な楽曲も。個人的には乙女チックな歌詞(安井かずみ)で母国語盤以上に可憐さを感じさせるフランス・ギャルの「すてきな王子様」に胸キュン♪
(上柴とおる)
ALBUM Review
ジェイク・シマブクロ&ミック・フリートウッド
「ブルース・エクスペリエンス」
BSMF-9007(BSMFレコーズ)
ハワイ(ホノルル)出身のウクレレ奏者としてもう20年余り前から何枚ものアルバムを出しているジェイク・マサオ・シマブクロ(日系5世)が、世界的なスーパー・グループ、フリートウッド・マックのドラマーであるミック・フリートウッドと共演したインスト・アルバム。当初は「いったいどういう接点から?」と不思議に思ったが、実はうんと前の1990年代後半には知り合っていたという旧知の間柄。今回の企画は「新しい解釈でブルースのアルバムを作ろう」とミックの方から持ち掛けたとか。
イギリス出身のフリートウッド・マックはアメリカに渡りポップ・ヒットを連発して空前のセールスを記録する以前はブルース・ロックのバンドだったが、今回のアルバムでは当時のマックの小ヒット「Need Your Love So Bad」(1968年:英31位/リトル・ウィリー・ジョンのカヴァー)やスタンダードな「Rollin' N Tumblin'」(筆者はキャンド・ヒートやジョニー・ウィンターで聴いていた)を新たに二人で演奏するだけではない。他の選曲がなんとも新鮮。ジェフ・ベックの名演でも知られる「Cause We've Ended As Lovers(哀しみの恋人達)」やゲイリー・ムーアの「Still Got The Blues」、さらには何とニール・ヤングの「Rockin' In The Free World」や超有名なプロコル・ハルムの「青い影」も。これがミックが言うところの‘新しい解釈のブルース’かと。ある意味、目からウロコなアルバムながら心地好い仕上がり。(上柴とおる)
BOOK Review
アーティスト伝説:レコーディングスタジオで出会った天才たち
新潮社
昨今、かつて音楽ディレクター、プロデューサーとして大きな実績を残されたレコード会社の大御所の方々による‘回顧本’が相次いでいる。稲垣博司さん(CBS・ソニー~ワーナー・ミュージック)の「1990年のCBS・ソニー」(MdN新書)や本城和治さん(ビクター~日本フォノグラム~NECアベニュー)の「また逢う日まで 音楽プロデューサー本城和治の仕事録」(シンコーミュージック・エンタテイメント)はすでにこのHPでも紹介済みだが、新たに加わったのが新田和長さん(東芝音工⇒東芝EMI~ファンハウス~ドリー・ミュージック)の「アーティスト伝説 レコーディングスタジオで出会った天才たち」(新潮社)。
まず確実に言えることは「この本が一番分厚い!」。なにせ350ページにも及ぶ。しかし寄る年波で目もすぐ疲れてしまって読書はしんどい昨今なのだが、今回は「早く次の章を読みたい♪」と、どんどん気持ちが前進。項目は全21章だが(+プロローグ、エピローグ)40年~50年以上も前の出来事にも関わらず、実に詳細に記述されているのには驚くしかない。アーティストたちとの出会いと交流、社内での動き、そして何よりもレコーディングの様子。専門的過ぎて当方には理解出来ない部分も多いのだが、まるでドキュメンタリー映画の紙上再録みたいな臨場感も。アーティスト出身の新田さんならではと言えばそれまでだが、しかし、これほどまでに詳細な録音現場の記録を読んだ記憶はない。
新田さんは早稲田大学時代の1968年に5人組のザ・リガニーズ(ザリガニから命名)として東芝音工からシングル「海は恋してる」をリリースしているが(オリコン誌:37位/作曲・新田和長)早稲田の先輩でもある高島弘之さん(日本におけるビートルズの初代ディレクター)からスカウトされて東芝に入社。忌野清志郎、財津和夫、赤い鳥、オフコース、長渕剛、平原綾香といった才能を発掘するだけではなく、かまやつひろしや加山雄三、坂本九の‘再生’にも尽力。先のドキュメンタリー映画「トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代」にも登場して語られたような加藤和彦や著名な英国人プロデューサー、クリス・トーマスらとの交流もさることながら、あのジョージ・マーティン(ビートルズのプロデューサー)に‘弟子入り’して薫陶を受けたのも大きな‘功績’と言えるかも♪ (上柴とおる)
LIVE Review
SUAI 1st Album “Funky Kitty Cat” Pre Release Party!!
9月7日 東京・SHIBUYA THE GAME
アニメ「わがまま☆フェアリー ミルモでポン!」に感銘を受けて10歳からフルート演奏を開始/東京音楽大学器楽科フルート専攻卒業/アイドルグループ「アイオケ」に在籍したことあり/準ミス・ワールド日本代表、などなど実に広がりのある活動を続けてきたSUAIは、今、ファンキーなポップ・フルーティストとして新たなフェイズに突入している。ファースト・アルバム『Funky Kitty Cat』のリリース直前に行われた当ライヴでは、オープニングアクトのDJ KEINとRYO from ORANGE RANGEが場内を思いっきり熱くした後、ホーン・セクションやバック・コーラス兼ダンサー等を含むバンドを率いて登場。アルバム収録ナンバーでソウル・ミュージック、ファンク、ジャズ、ロック、クラシックの快い融合を届けるとともに、ジェイムズ・ブラウン「アイ・ガット・ユー(アイ・フィール・グッド)」やローリング・ストーンズ「ペイント・イット・ブラック」といったカヴァー曲でもたくましい音色を響かせた。軽やかなアクション(キメキメのポーズと視線で演奏する“撮影タイム”もファンを喜ばせた)やフレンドリーなMCには、アイドルとしての経験もいい形で反映されているようだ。アルバム・プロデュースを務めたシライシ紗トリも冴えわたるギター・プレイを展開。今後のSUAIとシライシによる、さらなるファンキー・ミュージックに早くも期待が高まってくる。
(原田和典)
LIVE Review
インギ・ビャルニ・クインテット
10月14日 千葉・稲毛Candy
トリオ・アルバム『フンドゥル』が国内盤化されてから早6年。アイスランドの首都レイキャビク出身のピアノ奏者インギ・ビャルニがクインテットを率いて10月前半に来日ツアーを開催、私はその最終日に足を運んだ。他のメンバーは、デンマークの自治領であるフェロー諸島出身のバールドゥ―ル・ライネスト・パルセン(ベース)、ノルウェー出身のトゥーレ・ユーケルソイ(ドラムス)とヤーコブ・エリ・ミューレ(トランペット)、エストニア出身のメリエ・キャグ(ギター)。ベース奏者以外、2023年作品『Farfuglar』と同じメンバーだ。記譜されたパートの多い楽曲を前もって決めたセットリストに沿って演奏していくのかな、と勝手に予想していたのだが、それは見事に裏切られた。前の曲が終わってから次の曲名をインギが示す場合もあるし、アイコンタクトをしあいながら演奏の表情をどんどん変えていったり、「この先どうなっていくのだろう」とわくわくせずにはいられない展開に突入したり、その成り行きにミュージシャン自身が驚いたり喜んだりして演奏を続けている様子も感じられて、つまり猛烈に生々しい。4ビートではないし、一定のコード進行に乗って各奏者のアドリブが続くわけでもないけれど、「とてもいいジャズを聴いた」と爽快な気持ちにさせられた。スペインのソウレッツァ社の楽器から甘美な音色を引き出すメリエ、ミュートもフリューゲルホーンも用いずにトランペットから硬軟織り交ぜた音色を導き出すヤーコブの妙技にも拍手を送りたい。(原田和典)