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ALBUM Review
『ソロ・スコット/ソロ・ジョン/ソロ・ゲイリー:ウォーカー・ブラザーズの軌跡』
(オールデイズ レコード) ODR7452
1960年代後期、英米は言うまでもないがとりわけ日本においてはビートルズやモンキーズと肩を並べるアイドル人気を誇ったウォーカー・ブラザーズ。その発火点はイギリスだったがスコット・エンゲル、ジョン・マウス、ゲイリー・リーズの3人は元々がアメリカ出身。ウォーカーズを結成して世に出るまでの彼らはそれぞれにソロやデュエット、またグループの一員として地道に活動を続けていたのだが、そんな下積み時代の楽曲やウォーカーズ在籍時に出していたソロ音源、さらには解散後に新たにソロとして放ったヒット曲も交えて3人の音楽的な軌跡を追った日本独自の編集盤(Another Story of The Walker Brothers)である。
ウォーカーズの大ブレイク後、発掘された‘下積み音源’が日本でも複数のレコード会社から出されていたが、それらの楽曲も当時の日本発売に沿って(シングル・カットなど)ピック・アップされている。
スコットとジョンのレコーディング・アーティストとしてのキャリアは古くて1950年代後期の少年時代からスタートしており、チャートに入るようなヒット曲は無かったもののそれぞれがそれなりに興味を引く作品を残している。
エディ・フィッシャーに‘内弟子’としても可愛がられていたスコットの声変わり以前の初々しい歌声やジョンが姉と組んでいたデュオ、ジョン&ジュディで聴かせるホワイト・ドゥー・ワップ、そして日本では‘ウォーカー・ブラザースのジョンとスコット’という紛らわしいデュオ名でシングル「太陽と踊ろう」などが発売されていたダルトン・ブラザーズ(ジョンはジョン・マウスではなく、のちウォーカーズにも曲を提供するソング・ライターのジョン・スチュワート)も。またウォーカーズ在籍時に発売されて英TOP30内に入ったゲイリーのソロ・シングル2枚はB面曲も含めて計4曲分が収録されている。全26曲。
このような内容が1枚のアルバムとして成立してしまうのは恐らく日本だけかと思われるが、それほどまでにこちらでのウォーカーズ人気には海外ではあり得ないほど格別なものがあったということだろう。(上柴とおる)
LIVE Review
松山千春コンサート・ツアー2025
2025年12月12日 東京国際フォーラム ホールA
松山千春が60代最後におこなった東京コンサートに足を運んだ。演目は1977年のファーストアルバム『君のために作った歌』に入っている「銀の雨」や「大空と大地の中で」から、できたての新曲だというギター弾き語りナンバー「葉子」まで、文字通り、初期から現在のものまでをずらりと揃えていたが、歳月を超えて一貫した“千春節”“千春サウンド”がメロディにこめられているのは、やはり驚異的であり感動的だ。いかに長期間にわたってブレのない、いいかえれば自分の内部にあるものを掘り下げて表現してきたか、ということだろう。背後のスクリーンには歌詞が映し出されるので、シングアロングする観客も少なくなく、これもこの場合は場内のあたたかみに加味していた。33年間ともに活動を続けているというキーボード奏者の夏目一朗をはじめとするメンバーも、歌を引き立てる技を心得たプレイヤーばかり。ダブルアンコールの「雪化粧」ではスノーホーン(液化炭酸ガスによる降雪装置)を用い、広い国際フォーラムに、あの、北海道のしばれる冬景色を立ちあがらせた。(原田和典)
LIVE Review
パーク・スティックニー
2025年11月26日 東京・晴れたら空に豆まいて
1969年ニューヨーク生まれ。ジュリアード音楽院で学び、ロンドンの王立音楽院とフランスのリヨン国立高等音楽院で教鞭をとり、演奏場所はホワイトハウスからヨルダン川、スイス鉱山まで。ハープひとつで国境もジャンルも飛び越えるパーク・スティックニーがソロ公演を開催した。キング・クリムゾンやフォリナーで活動したイアン・マクドナルドのアルバムにも参加している彼だが、この日はマイルス・デイヴィスの「オール・ブルース」など既成のジャズ・ナンバーも彼独自のアプロ―チ、ハープの独特のソノリティを十二分に加えて実に新鮮に演奏。加えて、オリジナル曲の数々のすこぶる面白かった。きけば、スティックニーは数学に造詣が深く、数列などからもインスピレーションを受けて曲作りをしているという。しかも彼はルービックキューブの達人である。観客のひとりにルービックキューブを渡し、それをぐちゃぐちゃな並びにしてもらった後、片手にルービックキューブを持ってハープの即興演奏を始め、10分ほどのプレイが終わった頃には6面揃っている、というパフォーマンスでは、客席のいろんなところから驚きの声があがった。(原田和典)
MOVIE Review
映画『クリーム フェアウェル・コンサート1968』
監督:トニー・パーマー 2月6日よりTOHOシネマズシャンテ他 全国順次公開
ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカー、エリック・クラプトンからなる3ピース・バンド“クリーム”のフェアウェル・ツアーの、まさしくフェアウェルにあたる1968年11月26日「ロイヤル・アルバート・ホール」でのコンサートを中心にした貴重すぎる映画が、この2026年に劇場公開されるとは喜びに堪えない。自分がクリームで特に好きなのは、歌のあとだ。それまでのバンドのそこは大体“間奏”だった。だがクリームでは、インプロヴィゼーションによる新たなクライマックスが始まる。ジンジャーとジャックの体内にあるジャズの血が騒ぎだし、それに煽られるかのようにつづられるクラプトンのソロは、私にとっては至高のモード的アプローチである。画面にはサイケデリックなエフェクトもたっぷりだが、それもまた時代のひとこまであり、まだロックが「直ちに価値判断しがたい新しいもの」であったことを生々しく伝えるアナウンサーの解説も歴史的に貴重といえるだろう。クラプトン自身による“ウーマン・トーン”の奏法解説、むちゃくちゃスウィンギーなドラム・ソロを挟みつつあれこれ自身のプレイについて語るジンジャー等、インタビューのパートも見どころたっぷりだ。(原田和典)
原題:Cream / Farewell Concert プロデューサー:ロバート・スティグウッド
提供: S-O-C-K-S INC. 配給: REWINDERA PICTURES /WOWOW 配給協力: LITTLE MIRACLE
写真クレジット:(C)1969 Robert Stigwood Organization