ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Jo Harrop
THE HEART WANTS

Lateralize LR011CD

 ジョー・ハーロップは、ノースイースト・イングランド出身の最近英国で注目されるシンガー、ソングライター。10代の頃はニーナ・シモン、ビリー・ホリデイ、アレサ・フランクリン等のレコードを聴いていたが、トニー・ベネットの生の舞台に接して自分も歌手になろうと目覚めたという。ロンドンへ出て、ニール・ダイアモンド、ロッド・スチュアート等のセッション・シンガーとして歌ったりしている中、クラブ・オーナーに見出だされ2000年に初アルバム「Weathering the Storm」をギターのジャミ―・マッククレディとデュオで発表する。今回のアルバムは、彼女の2枚目の作品になる。ソングライターとしての才能も並々ならぬものを持つ彼女は、全13曲中、9曲の彼女のオリジナルをハンナ・ヴァサンス(p)とジャミ―・マッククレディのアレンジで歌っている。パンデミックで世の中が止まったようになったこの時期、時間もあり完成した以前から考えていたプロジェクトだという。ちょっとダーク・ブルーで柔らかいが芯のある魅力的な声で微妙な人間関係を歌う彼女のフォーク・バラード風の歌は、聞き手の心に染み入るようだ。アンディ・デヴィ―スのランペットがフィーチャーされる一曲目の「The Heart Wants」そしてクリスチャン・マクブライトのベースとデュオで歌うスタンダード「All Too Soon」と出だしから聞き手を彼女の世界へ引き込んで行く、ボーナス・トラックとして最後の合唱も入り愛の尊さを歌い上げた第1作目のタイトル作の「Weather The Storm」で締めくくる。今後、大いに注目したいアーティストだ。
(高田敬三)

ALBUM Review

Mark Christian Miller
MUSIC IN THE AIR

Sliding Jazz Door Productions

 マーク・クリスチャン・ミラーは、アイオワ州ストーム・レーク出身、現在は、ロスアンジェルスを中心に幅広く活躍するヴォーカリスト、ピアニスト、プロモーターでもある。今回のアルバムは、通算4枚目になる。2000年にペイジ・キャバノウと出会い、彼と歌うようになり、2004年に初アルバム「Dreamer With A Penny」をペイジ・キャバノウ、ジョイス・コリンズ、ジェーン・ゲッツ等と録音する。2011年には、ベティ・ブライアントのアルバム「Together」の中で彼女と共に6曲を歌った。そして2015年にはジョッシュ・ネルソンの伴奏で「Crazy Moon」を発表している。さて、本アルバム、ジャミ―ソン・トロッターのピアノと軽やかなアレンジでジャズの器楽曲に歌詞が付いたナンバーを中心に言葉を大切に聞き手に語りかけるような独特のスタイルで歌う。彼のジャズへの傾倒ぶりが感じられる、一曲目は、キャノン・ボール・アダレイのベースのサム・ジョーンズ作曲の「Del Sasser」に歌詞をつけた「If You Never Fall In Love With Me」ダニー・ジャンクロウのアルト・ソロの後、伴奏陣とユニゾンでスキャットなども交えて快調に歌う。ジジ・グラィスの曲にジョン・ヘンドリックスが歌詞をつけたタイトル曲、タド・ダメロンの「If You Could See Me Now」やエリントンの有名な「Prelude To A Kiss」等ジャズの器楽曲を軽やかに歌うところが本アルバムの聞きどころ。「I Wished On The Moon」や「You Could See Mew Now」で聴かせるラリー・ク―ンスのギター・ソロも聞きものだ。(高田敬三)

ALBUM Review

ナンバーワン80sムービー・ヒッツ1980-1990

SICP-31525~6(ソニー・ミュージック)

 このアルバムのリリース情報を見た時「えっこれって新譜?」。思わず目を疑ってしまった。映画のサントラに使われて大ヒットした洋楽ナンバーを寄せ集めたアルバムなのだが、かつて(というしかないのだが)たくさんのコンピレーション盤が企画され、どんどん売れていた1990年代~2000年代(前期)には映画楽曲を組み込んだ‘ムービー・ヒッツ’ものも定番の人気だった。しかし今は2020年代。令和の時代である。この類のアルバムの使命はもうとっくに終わったと思い込んでいたのでちょっと驚いたというのが第一印象。
 なんで今どき?と思いきやトム・クルーズの出世作「トップ・ガン」(1986年)の続編「トップ・ガン マーヴェリック」がようやく日米で同時公開される(2022年5月27日)のを記念しての企画で2枚組(全40曲)。そう言えばこの続編は製作の遅延やコロナ禍のせいで公開が何度も延期されており(当初の予定は3年前の2019年夏)映画館ではそのたびに予告編を見せられて来たので‘今さら感’が無きにしも非ずだが、この2枚組には「デンジャー・ゾーン/ケニー・ロギンス」「愛は吐息のように/ベルリン」など第1作「トップ・ガン」からの3曲が収められており、やはり続編公開のタイミングに合わせてのリリースに。
 ジャケットからも懐かしさを感じさせられるような企画でおなじみの曲も多く一見ベタにも思えるが、しかしかつてとは日本のレコード会社におけるレーベル事情も異なり(BMGやEMIの移動等)選曲の自由度も増したのか、ジャニス・イアンの「ユー・アー・ラヴ」(1980年:角川映画「復活の日」)や「イッツ・ア・ロング・ロード/ダン・ヒル」(1982年:「ランボー」)など「おっこういう曲も入ってるのか」も。ただし「フラッシュダンス。。。ホワット・ア・フィーリング/アイリーン・キャラ」(1983年:映画もこのタイミングで4月に4Kで再上映。再鑑賞済!)が(権利や音源に事情があるにしても)1995年の再録音ヴァージョンというのは残念(ファンは当時の思い出に浸りたいのにシラケるかも)。収録から外すという選択肢はなかったのかと。
 1980年~1990年までの10年間。映画と音楽のコラボからたくさんのヒット曲が生まれていた蜜月時代。この2枚組は‘ベスト・オブ・エイティーズ・ヒッツ’とも言えるが、YouTubeもダウンロードもサブスクもある今の時代ながらこのようなパッケージ商品にもまだまだ需要があるならばちょっと前向きな気分に♪(上柴とおる)

ALBUM Review

サム&デイヴ「ザ・ソウル・クラシックス」

BSMF-7660(BSMF RECORDS)

 「ホールド・オン」「ソウル・マン」「アイ・サンキュー」「僕のベイビーに何か?」「おしえておくれ」等々のヒットを放っていた‘ダブル・ダイナマイト’の全盛期は間違いなく1960年代後期。しかし、解散~再結成を繰り返しつつ実は1981年までサム・ムーアとデイヴ・プレイターのコンビは活動を続けており、ライヴやレコーディングを行なって来た。
 今回の2枚組は彼らの‘晩年’(1970年代後期~1980年代初期)の記録でDISC-1が往年のヒット曲の再録音やR&Bを中心としたカヴァーで(1960年代のオリジナル・アルバムでは聴けなかった曲も!)全21曲。全盛期からはすでに10年ほどが経過しているもののサムの歌唱は枯れることなくパワーがみなぎっている。
 個人的にはマイナー・ヒットながら「Don't Pull Your Love」(1971年:102位/R&B・36位)の再演が嬉しい限り。オリジナルは何とダンヒル・ポップス(ハミルトン、ジョー・フランク&レイノルズ「恋のかけひき」1971年:4位)。
 DISC-2は1979年9月21日「N.Y.Palladium」での未発表ライヴ音源。ブルース・ブラザースが彼らの「ソウル・マン」をカヴァー・ヒットさせ(1979年:14位)、映画「ブルース・ブラザース」の全米公開(1980年6月)を前にした時期でサム&デイヴに新たな風も吹いていたということもあってか熱っぽさが凄い!たっぷりこってり約1時間。しかも1曲が長くて6分、7分、10分超えも。サム&デイヴの単独でのライヴ盤というのは過去にはなく、貴重な資料でもある(決して良いとは言えない録音状態だが)。当時、二人は40代前半。実は脂が乗り切っていたのではないかとも思えるほどだが、ステージ以外では仲がよろしくなかったという二人だけに活動が続かなかったのは誠に残念。(上柴とおる)

BOOK Review

朝妻一郎著「高鳴る心の歌」

ISBN978-4-86559-251-1(アルテス パブリッシング)

 当方がポップス界に‘入門’した1966年、朝妻さんは勤務先の石川島播磨重工業を退職されて新興の「パシフィック音楽出版(PMP)」設立と同時に入社(当時23歳)。しかし、その後も並行してレコードの解説や音楽雑誌等の原稿を書かれていたので当時中3だった当方のイメージは「朝妻一郎=音楽評論家」。音楽出版社の存在など知る由もなかった。熟読していた月刊「ティーンビート」(発行:映画と音楽社)にもしょっちゅう朝妻さんの興味深い記事が掲載されており、座談会等ではいつも亀渕昭信さんや木崎義二さん(ティーンビート編集長)と一緒に並んでおられた。その当時は当然ながら何もわからなかったのだが、実は皆さん方は1本の線で結ばれていたということがあとで判明。キーワードは「高崎一郎」さん。高崎さんはニッポン放送のアナウンサーだが「PMP」の専務もされていた。
 所有する「ミュージック・ライフ」1964年4月号の特集記事「ファン・クラブの親分たち おおいに気炎をあげる!!」(全4ページ)に朝妻さんはポール・アンカのファン・クラブ会長として出席されている。そんなご自身の音楽経歴(仕事歴)を音楽業界誌「ミュージック・リポート」(発行:レコード特信出版社)に「あの日あの頃」として連載(2017年11月~2020年3月)されていた記事に書下ろしを加えて仕上げられたこの本は元々が業界誌向けなので一般の音楽ファンには内容的に馴染みにくいかと思うが(当方も海外の業界人のことなどはわからないし)朝妻さんがその誕生に立ち会われた「帰って来たヨッパライ」や「白い色は恋人の色」など数多くの大ヒットや名曲誕生の経緯を音楽出版サイドという別の角度から眺めてみるとまた新たな興味が芽生えて来るかも知れない。日本の音楽業界史の貴重な資料ともなる1冊である。(上柴とおる)

BOOK Review

至宝のジャズ・ドラムを聴け!
問答無用の名演ディスク・ガイド200

シンコーミュージック・エンタテイメント

 ディスク・ガイド数あれど、ジャズ・ドラムに的を絞り、しかも筆者が現役のドラマー(小宮勝昭、三浦晃嗣、芳垣安洋、藤掛正隆、大坂昌彦、江藤良人)であるという点で、この本は飛び切りの異彩を放つ。と同時に100年を超えるジャズ・ドラムの変遷をレコーディングでたどっているので、登場ミュージシャンの幅も尋常ではない。いまのようなドラム・セットが普及する前、ライヴはさておきレコーディングの場では録音技術(いわゆるラッパ吹き込み)の制約もあって小物をチャカチャカ鳴らしていた頃のトニー・スバーバロ(1917年)に始まり、ヒップホップやネオ・ソウルとも共鳴するネイト・スミス(2021年)まで、激動のジャズ・ドラム・ヒストリーをこの1冊でたどることができる。サイドマン参加作も数多く登場するので、たとえば「あのサックス奏者のリーダー・アルバムがドラマー視点で紹介されるとこうなるのか」的な新鮮な気分を味わえて楽しい。同業者だけあって、この本の筆者たちは、レコードに参加しているドラマーのシンバルやスネアの形状や、場合によってはメーカーまでわかってしまう。しばらく、いろんなアルバムを“ドラム推し”で聴く日々が続きそうだ。
(原田和典)

LIVE Review

杏沙子 ONE MAN LIVE 2022「LIFE SHOES LIVE」

3月21日 渋谷duo MUSIC EXCHANGE

 aiko、熊木杏里、安藤裕子などのサポートでも知られる石崎光をプロデューサーに迎えた新作『LIFE SHOES』も好評の杏沙子が、約1年半ぶりにワンマン・ライヴをおこなった。石を投げると女性シンガー・ソングライターに当たるのではと思えるほど活況を呈しているこの世界だが、杏沙子は「恋愛模様をわかりやすく深みのある言葉で表現すること(悲恋のモチーフが多めか)」、「そこに美しく起伏のあるメロディを乗せること」、「やさしく歌いかけるところから声を張って歌いあげるところまで、レンジが非常に幅広く、なおかつ流れがとてもスムーズであること」において卓越している。楽曲が出るごとに「また音世界が広がったな」、「また新たな境地に突入したな」と思わせてくれるアーティストなど、そういるものではないはずだ。この日は「ダンスダンスダンス」や鈴木愛理もカヴァーした「見る目ないなぁ」等もとりあげたが、圧巻はやはり『LIFE SHOES』の全曲披露。なかでも、6年間の交際の内にどんどん醒めていく彼氏に“あなたしかいないの”と訴えるように歌う「女の子にしてよ」、いきなり“振られた”と歌い出す「負けたんだ」は、実演で聴くとさらに威力が増す。ドラマティックな歌唱、メリハリの利いたアレンジ、コントラストを生かしたライティングがひとつになった充実のステージに接して、今後の杏沙子の活動がさらに楽しみになった。(原田和典)