ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Dee Dee Bridgewater+Bill Charlap
ELEMENTAL

mack avenue music group

 2019年のある朝、ディー・ディ―・ブリッジウオーターの頭に突如ピアニスト、ビル・チャーラップの名前が浮かんだという。早速、彼に共演を申し込むと快く受けてくれた。最初彼はトリオによる伴奏だと思ったがデュオ共演の申し込みだったという。二人は、コロナ禍による中断を挟んで何度もデュオでライヴを行って来た。本アルバムは、それらの総まとめ的な作品でガーシュイン、コール・ポーターからエリントン迄有名なスタンダード・ナンバー、8曲を選んでそれらの曲の内容を理解して緩急とりまぜて彼等の思うままに描いて行く。すべて聞き慣れた曲なので、一聴、違和感を感じる人も多いかもしれないが、彼女のアドリブ、スキャットも交えた歌は、これぞジャズという物だ、チャーラップのそれに絡む、上手くスペースをとったり高音を効果的に使ったりするピアノが素晴らしい味わいを出す。口笛まで交えて遊び心いっぱいに演奏するファッツ・ウォーラーの「Honeysuckle Rose」を始め聴くほどにその面白さが味わえる作品だ。(高田敬三)

ALBUM Review

Emma Hedrick
NEW COMER

Pathways Jazz

 最近は、ヴォーカルの世界でも若い才能が次々と現れるが、「New Commer」とタイトルされたデヴュー・アルバムを発表のインディアナ出身の多くのコンテストで賞を獲得しているジャズ・シンガー、コンポーザー、バンドリーダーのエマ・へドリックもその一人と云える。本アルバムでは、彼女がこれまでに書いた曲の中から10曲が選ばれてコナー・ローラー(p)アントン・コット(ds)ソー・エイド・ヨハンソン(b)シェーン・マッキャンドレス(sax)のカルテットをベースにカレッジの仲間を中心に12人のゲストが加わる色々なグループと共演で行われる。彼女が師と仰ぐニューヨーク・ヴォィセスのピーター・エルドリッジ(v, p)がプロデュ―サーを引き受け3曲にヴォイスとピアノで参加している。「Spring Haiku Collection」の様に日本の俳句の表現手段を使ったりラングストン・ヒューズの詩をベースにしたり大好きなジョン・テイラーの歌からヒントを得たりと自由な発想で晴れやかな声で歌い演奏するコンテンポラリー・ジャズ、ポップスといった味わいの作品だ。デュ―ク・エリントンとエラ・フィッツジェラルドから影響を受けたと云われるが、彼等の陰は、ほとんど感じられない。(高田敬三)

ALBUM Review

Marina Pacowski
NEW JAZZ STANDARDS VOLUME7
The Music of Carl Saunders

SUMMIT RECORDS DCD 832

 マリーナ・パコウスキーは、フランス出身のクラシックのピアニストであり、ジャズのヴォーカリストでもある。室内楽のピアニストとしてヨーロッパ全土で活躍、2017年にロスアンジェルスへ移りピアノとジャズのインプロヴィゼイションを教える教室を開く。2023年には、最初のアルバム「Inner urge, JW Vibe」を発表、本アルバムは2作目となる。タイトルから7枚目と勘違いされそうだが、数々のロスのジャズ・ミュージッシャンに的を当てた「New Jazz Standards」というシリーズの7作目ということだ。今回は、2023年に亡くなった、彼女が大変親しくしていて、世話にもなったトランペットのカール・サンダースの作品を13曲歌うものだ。このシリーズの5作目では、そのカール・サンダースの「The Music Of Carl Saunders」が出ていた。マリーナ・パコウスキーは、高音域の素晴らしく奇麗な声で色々な組み合わせによるミュージッシャンとお得意のスキャットも交えて曲ごとに工夫を加えて快調に歌う。スインギーな「Do Be Do Be Do」は、全編ヴォ―カリーズだ。クラリネットのケン・ぺプロウスキーとピアノのジョッシュ・ネルソンをバックにヴォーカルのジョン・プルーとデュエットする「Sweet Talk」やネルソンとデュエットの「「Alone」,「Always In My Heart」が特に印象的だ。参加ミュージッシャンは、ジョン・クレイトン(b)、リッキー・ウダード(ts, ss)、ラリー・ク―ンズ(g),ロン・スタウト(tp)等などロスの逸材が顔をそろえている。最後に一曲、歌ではなく彼女のソロ・ピアノによるショパンの「The Minute Waltz」が追加されている。(高田敬三)

ALBUM Review

ベリンダ・カーライル
「Once Upon A Time In California」

(Edsel Records)EDSL0261

 ベリンダ・カーライルと言えばもうゴー・ゴーズ時代というよりも「ヘヴン・イズ・ア・プレイス・オン・アース」(1987年12月:米No.1)など4曲がベスト10に入ったソロ転向後の楽曲のイメージでよりよく知られているようにも思うのだが、ヒット戦線から離脱?後も気になるアルバムを出し続けていることを把握している人はそう多くないだろう。
 例えば1996年の「ア・ウーマン・アンド・ア・マン」では2曲目の「カリフォルニア」にブライアン・ウィルソンがバック・ヴォーカルなどでサポートしていたり(ベリンダはカリフォルニア出身)、2007年の「Voila(フレンチ・ソング・ブック)」は邦題通りでフランソワーズ・アルディやエディット・ピアフ、ジュリエット・グレコ、ブリジッド・バルドー等の楽曲をカヴァーしている。
 そう言えばソロ転向の初期にもフリーダ・ペインの「バンド・オブ・ゴールド」(1970年:米3位/英No.1)やザ・クリームの「アイ・フィール・フリー」(1967年:米116位/英11位)などを取り上げており、ベリンダのポップス歴の一端が伺い知れるが(ジャンルも幅広い)今回のカヴァー曲集はその総決算?と言えるかも。
 ベリンダ自身が生まれ育ったかつてのカリフォルニアに想いを馳せながら1964年~1973年にかけての全米ヒットばかりを全10曲歌っており、1958年生まれのベリンダが少女時代に慣れ親しんだ曲かと思われるが一見、スタンダードなヒット曲ばかりのように思えるも実はかなり個人的な思いを込めた(ありそうでない)選曲ではないかと。
 ◇Anyone Who Had a Heart(ディオンヌ・ワーウィック:1964年8位/シラ・ブラック:1964年・英No.1/バート・バカラック作品)◇If You Could Read My Mind(カナダのゴードン・ライトフット:1971年5位)◇One(スリー・ドッグ・ナイト:1969年5位/ニルソン作品)◇Never My Love(アソシエイション:1967年2位)◇The Air That I Breathe(ホリーズ:1974年6位、英2位/アルバート・ハモンド作品)◇Time in a Bottle(ジム・クロウチ:1973年No.1)◇Superstar(カーペンターズ:1971年2位)◇Everybody's Talkin'(ニルソン:1969年6位)◇Get Together(ヤングブラッズ:1969年5位)◇Reflections of My Life(マーマレード:1970年10位、英3位)
 先行公開していた「ゲット・トゥゲザー」のMVではキノコ(サイケデリック~ヒッピー時代を印象づける)をフィーチャーしており、アルバムの趣旨を探るカギがありそうな気もする。ベリンダは8月17日付で67歳になった。(上柴とおる)

ALBUM Review

「Play On: A Raspberries Tribute」

(Think Like a Key Records)TLAK1212CD

 1970年代前期に清涼感のあるサウンドとビートルズの香りも漂わせるポップな楽曲でハード&ヘヴィーなロックを好むファンの間でも人気があったエリック・カルメン率いる4人組、ラズベリーズ。リスペクトする後続のミュージシャンたちも少なからずで、これまでにも21曲入りの「ラズベリー・ジャム~ラズベリーズ・トリビュート」(1997年:パイオニアLDC)といったアルバムも出ているが(米盤のブックレットにはラズベリーズの伝記本を書いたケン・シャープのライナーも掲載)、今回新たに組まれた盤は全37曲(CD2枚組)という凄いボリュームもさることながら参加アーティストたちの顔ぶれもハンパじゃない。
 オープニングがリック・スプリングフィールドの「ゴー・オール・ザ・ウェイ」(ラズベリーズ最大のヒットで1972年に米5位)で‘つかみ’も言うことなし。著名なところではバングルズのヴィッキー&デビー・ピーターセン、ランナウェイズのシュリー・カリー、チープ・トリックのロビン・ザンダーの息子であるロビン・テイラー・ザンダー、元フォリナーのルー・グラム、「ミッシング・ユー」の米No.1ヒットを持つジョン・ウェイト(元ベイビーズ、元バッド・イングリッシュ)、トッド・ラングレンズ・ユートピアのカシム・サルトン&ウィリー・ウイルコックス、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのスタン・リンチとジョージア・サテライツのダン・ベアードが組んだシェフズ、さらにパワー・ポップ・ファンの間では良く知られたシューズやマーシャル・クレンショウ、スポンジトーンズなどなど。おまけになんとラズベリーズのオリジナル・メンバー、ジム・ボンファンティ(ドラムス)も4曲分の録音に参加している。
 今回のアルバムには前出のケン・シャープも企画やプロデュースに携わっているのだが、収録アーティストたちの編集盤や復刻盤にも企画やライナー等で関わって来たケン・シャープの人脈も奏功してこの豪華な顔ぶれが実現出来たのではないかと推察する。
 ラズベリーズのオリジナル・アルバム4枚分の総曲数(39曲)のほぼすべてがカヴァーされたこのアルバム。個人的には昨年(2024年)3月に74歳で亡くなったエリック・カルメンへのトリビュート盤でもあると受け止めたい。(上柴とおる)

LIVE Review

『彩Sayaワンマンライブ -融合-』 アルバム全曲再現 + 彩BEST

7月20日 高円寺HIGH

 那覇国際通りゲリラノイズ、灰野敬二とのユニット「精魂」、GENET率いる「AUTO-MOD DTD with 彩」などでも話題を振りまいてきた彩(旧名;沖縄電子少女彩)が待望の東京ワンマン公演を開催した。内容はライヴのタイトル通り、「ミュージック・マガジン」のJポップ部門年間ベスト10にランクインした『彩:Saya』の全曲“ライヴ化”に加え、これまでの代表曲もたっぷり披露されるという、盛りだくさんなもの。3部構成+アンコール(計30曲)という重厚な構成は、新規ファンと以前からのファン両方を深く満足させたと断言できる。靴をはかずに地面を踏みしめるようにして歌う彩の声の伸びと音域の広さは冴えわたり、HARIKU、東盛あいか、morota、廣山哲史といったゲストとのコラボレーションも極上。沖縄トラディショナル・ソングの「てぃんさぐぬ花」がこんなアレンジになるのかという驚き、与那国語ラップとウチナーグチが美しく融合した「夜の祭~ユル ヌ ウマチー~」(与那国島出身の東盛あいかとのコラボ)、後半で2度プレイされたパーティー・チューン「アッチャメー!」の高揚感、ひとつひとつが名場面だった。(原田和典)

MOVIE Review

映画『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』

9月19日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開

 ひとりで十人分ぐらいの活躍をした音楽家、というイメージがミシェル・ルグランにはある。なかでも規格外のメロディ・メイカーであるところに私は最も惹かれる。音楽家の父親との微妙な関係、ジャズとの出会い、ナディア・ブーランジェに学んだ日々、ジャック・ドゥミなど多くの映画監督に愛されたサウンドトラック作家としての一面、そして晩年のマエストロ然とした姿と、まさにルグラン一代記を目と耳でたどることのできる一作がこれなのだ、といっていい。結果としてラストとなったコンサートのシーンに関しては、はっきりいって「最後まで無事でいてくれたらいいが」とハラハラさせられるところもあり、個人的には元気バリバリのルグランが登場している場面の方がいい。歌でセリフが綴られる映画『シェルブールの雨傘』の音作りに関する説明で、“韻を踏まないようにした”と語っていたのもやけに印象に残った。徹底的に歌と語りの“きわ”を狙っていたのか。(原田和典)

©-MACT PRODUCTIONS-LE SOUS-MARIN PRODUCTIONS-INA-PANTHEON FILM-2024
監督・脚本:デヴィッド・ヘルツォーク・デシテス 脚本:ウィリー・デュハフオーグ
製作:マルティーヌ・ド・クレルモン・トネール ティエリー・ド・クレルモン・トネール デヴィッド・ヘルツォーク・デシテス 編集:マルゴッド・イシェール ヴァンサン・モルヴァン デヴィッド・ヘルツォーク・デシテス 撮影:ニコラス・ボーシャン リヤド・カイラット スタン・オリンガー 音響:テオドール・セラルド
音楽:デヴィッド・ヘルツォーク・デシテス ミシェル・ルグラン
出演:ミシェル・ルグラン アニエス・ヴァルダ ジャック・ドゥミ カトリーヌ・ドヌーヴ バンジャマン・ルグラン クロード・ルルーシュ バーブラ・ストライサンド クインシー・ジョーンズ ナナ・ムスクーリ
2024年/109分/フランス/原題:IL ÉTAIT UNE FOIS MICHEL LEGRAND/カラー/5.1ch/1.85:1
日本語字幕:大塚美左恵 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
配給:アンプラグド
公式HP:unpfilm.com/legrand

MOVIE Review

映画『レッド・ツェッペリン:ビカミング』

9月26日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかIMAX®同時公開

 4人の音楽家がどんなキャリアを積んだうえで出会い、ヤードバーズを脱皮してレッド・ツェッペリンとなり、ロック界の台風の目的な存在と化したか。それを克明に伝える一作だ。存命中のジミー・ペイジ、ジョン・ポール・ジョーンズ、ロバート・プラントの談話に加え、ジョン・ボーナム(1980年死去)が残したバイオグラフィ的なインタビューが挿入されていることも内容を充実したものとしている。1969年の、アルバムで言えば『レッド・ツェッペリンII』辺りまでの歩みで終わっているのだが、それにしては上映時間が長いのは、ライヴのシーンがたっぷり収められているため。「音楽ブツ切れで物足りなし」という気分になることなく、初期ツェッペリンの実演に没頭できる。カメラ・ワークも良いし、音質の太さも抜群。素晴らしいクオリティによる映像が残っていたものだなあ、そして、今これを見ることができるのは実に幸せだ、との気持ちが沸き起こる。オーラスで流れる楽曲が、「カモン・エヴリバディ」「サムシン・エルス」と、どちらもエディ・コクランのカヴァーであることも印象的だった。つまりそこが彼らの原点であるのだろう。(原田和典)

監督・脚本:バーナード・マクマホン(「アメリカン・エピック」) 共同脚本:アリソン・マクガーティ 撮影:バーン・モーエン 編集:ダン・ギトリン
出演:ジミー・ペイジ ジョン・ポール・ジョーンズ ジョン・ボーナム ロバート・プラント
2025年/イギリス・アメリカ/英語/ビスタ/5.1ch/122分/日本語字幕:川田菜保子/字幕監修:山崎洋一郎
原題:BECOMING LED ZEPPELIN/配給:ポニーキャニオン
提供:東北新社/ポニーキャニオン  ZEP-movie.com
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