ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

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ALBUM Review

「B’Ridge(ブリッジ)/佐山雅弘・織原良次・福森康」

キングレコード:KICJ-786

 日本を代表するジャズ・ピアニスト、佐山雅弘が新プロジェクト“B’Ridge”を結成したのは、2015年のこと。遂にヴェールを脱いだ新プロジェクトのデビュー作が完成した。今までまったく聴いたことがない佐山雅弘の新世界が広がっている。今から4年前、佐山は大病を患ったが、快復した。退院後、寺井尚子バンドに参加し、目の覚めるような演奏で寺井バンドに新風を吹き込んだ。それ以外の活動は一切中止していたが、織原良次(b),福森康(ds)という才能ある若手と出会い結成したのが“B’Ridge”である。昨年、録音を行おうとしたが、再び病魔が襲った。大変だったが復帰し、遂に録音を敢行することが実現した。
 「バラード・フォー・ヤスシ」は、佐山のオリジナルだ。ヤスシとは、福森康のこと。福森のエッジの効いた強烈なビートの中で、佐山が可憐で落ち着いた丹念なバラードを弾く。一見対峙する中の間の感覚がいい。聴いたことがない新しい感覚である。「ラジオ・ソング」は、若き天才、エスペランサの2013年のグラミー賞・最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム受賞作品の表題曲。これには、驚いた。これほど完成度と構築性の高い曲のカバーは、普通のミュージシャンは手を出さないであろう。それを見事にやってのけるのが、“B’Ridge”の底力と感服する。曲は、佐山の軽やかなピアノから始まる。エスペランサの歌声のようだ。織原のベース音は、ジャコ・パストリアスを彷彿とさせるほど躍動感がある。福森のビートは、しなやかだ。佐山は、水を得た魚のようだ。すごい。深い感銘を受けた。「スぺース・ブリッジ」は、アップ・テンポの曲でライブ感がスゴい。織原のベース・ソロと佐山のピアノ・ソロが大活躍する。福森のドラムは、アントニオ・サンチェスを想起させる素晴らしさ。「海」「空」「陸」は、一篇の詩のようである。「ララバイ・オブ・ベーシスト」は、佐山のオリジナル。ベーシストとは、もちろん織原良次のこと。まるで良質なクラシックのように聴こえる。織原のベースは、まろやかで濃厚だ。そして、佐山雅弘の綺麗なピアノの響きにワクワクする。ピアノの生音に浸る喜びを自らも感じているように思える。最後の曲「スリー・ウーマン」は、ジャコ・パストリアスのオリジナル。なんと佐山がソロで弾く。ロマンチックな詩情ただよう美しいピアノが響き渡る。“B’Ridge”は、佐山雅弘の新しいジャズの輝きがある。また新バンド“B’Ridge”の魅力が、余すところなく伝わってくる。彼らの今後のライブ活動と次回作が、とても楽しみである。(高木信哉)

ALBUM Review

「CLASSIC meets JAZZ/Kazumi Tateishi Trio(立石一海トリオ)」

ビクターエンタテインメント:NCS-927

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 人気ピアニスト、立石一海の新作(通算8作目)。立石一海は、2010年、『GHIBLI meets JAZZ』 でデビュー。「千と千尋の神隠し」や「となりのトトロ」などジブリの名曲を見事にジャズ化して人気が出た。作品はロングセラーを続け続編も作られ、子どもたちやお母さんたちが、立石のコンサートに足を運ぶようになった。今回のテーマは、「クラシック」だ。誰もが学校の音楽の授業で習ったことのあるクラシックの名曲が素敵なジャズに生まれ変わっている。シューマンの「トロイメライ」は、ゆったりと漂うイメージで演奏される。ショパンの「ノクターン第2番」は、美しいメロディはそのままに、とても明るくスインギーに演奏される。圧巻は、チャイコフスキーの「白鳥の湖」。有名なバレエ音楽だ。バレリーナは、全身を使って、喜怒哀楽を表現する。ここでは、立石一海のトリオが一丸となって、「白鳥の湖」の曲の新たな魅力を描き出す。即興演奏こそがジャズの醍醐味である。立石は軽やかに強烈な響きで、ピアノを鳴らしきる。「ジュ・トゥ・ヴ」は、サティの書いた大人気のラブ・ソング。立石は、前半では綺麗にメロディを奏で、後半はテンポを速めてスインギーな心地好いタッチの即興演奏で魅了する。こんなにも楽しくジャズになったクラシック作品は珍しい。「クラシックを聴きたいけど、敷居が高そうで聴くきっかけがない」。「ジャズを聴いてみたいけど、難しそう」。そんな方々にぴったりの1枚だと思う。もちろんベテランのジャズ・ファンにも納得のジャズ・ピアノ・アルバムになっている。(高木信哉)

ALBUM Review

「Jam Ka Deux(ジャム・カ・ドゥ)/小沼ようすけ」

フライウェイ(Flyway):DDCZ-2126

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 小沼ようすけの最高のギターと音楽が聴ける傑作である。2001年に『nu jazz』で、衝撃的なデビューを飾った小沼ようすけは、大きな成長を遂げ、今や世界に誇れるギタリストになった。本作は、カリブ海に浮かぶフランス海外県グアドループの民族リズム<グオッカ>を取り入れた『Jam Ka (ジャム・カ)』(2010年)の続編として、満を持してリリースされた素晴らしい作品。パリで録音された。小沼のために、アメリカ、アフリカ、カリブなど様々な人たちが集まって録音された。国境を越えて制作された音楽で、パリで活性化する“クレオール・ジャズ”と親和性があり、同時進行形と言っても過言ではない。
 この『Jam Ka Deux』は、まず綺麗なブルーのジャケットに引きつけられる。佐東明が描いたという絵だ。まさにアルバムにぴったりくる。サーフィンが好きな小沼は、世界中の海をたくさん見てきたはずだ。海には、ありのままの自然があり、波があり、青空があり、雨があり、風があり、四季があり、悲しみもあり、喜びもある、人生もある。そんな海と音楽を愛する小沼の想いが音やジャケットにも反映しているのだろう。ジャケットを見ながら、『Jam Ka Deux』を聴くといい。全13曲(ほぼ小沼のオリジナル)収録されているが、曲毎に音は様々に変化する。それは、小沼と一緒に世界の海を旅しているようでもあり、良質な短編集のようでもある。冒頭の「モアイズ・ティハイ」が格好いい。パワフルな独特なリズム<グオッカ>に、パーカッションの“Ka”が有機的に絡み、心地好いグルーヴが生まれている。その独自のグルーヴに乗って、小沼はスピード感溢れるギターで疾走する。パーカッションの“Ka”は、アルバム全般でフィーチャーされていてとても印象的だ。「フローイング」は、鳥取のために書いた美しい曲。鳥取の海岸と海をイメージしている。小沼の切ないギター・ソロが胸に沁みる。「ジ・エレメンツ」も美しい曲。小沼とグレゴリー・プリヴァのピアノが寄り添いながらテーマを奏でる。マルティニーク出身の俊英、プリヴァのピアノ・ソロがとても美しい。そこに小沼が重なり、同時進行で即興演奏が進んでいく。徐々にテンポアップして感動が倍加していく。ぜひライブで聴きたい曲だ。「フェローズ」は、小沼の生ギターとジョー・パワーズのハーモニカが共演する。ブルージーなパワーズのハーモニカが心地好い。更にエルヴェ・サムのギターも加わり、熱くも爽やかなムードが醸し出される。「ビヨンド・ザ・シー」は、小沼の生ギターの魅力が全開する。そして、グレゴリー・プリヴァのピアノも素敵である。この『Jam Ka Deux』には、心が震えるほど感激した。(高木信哉)

ALBUM Review

「宇佐美真紀/ラッキー・トゥ・ビー・ミー」

MJBL-0001

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 ベルギー帰りのジャズ・シンガー、宇佐美真紀のデビュー・アルバム。2012年からブリュッセルに住み、当地のミューシャンと交流して活躍していた。これは、ベルギーを代表するピアノ・トリオ「Trio Johan Clement」のヨハン・クレメント(p)バート・ドウ・ノルフ(b)ルウ・ヴァンデン・ボス(ds)との共演盤だ。デビュー・アルバムだが、9曲中5曲が普段歌っている歌ではなく、新しいレパートリーに挑戦しているところに彼女の心意気を感じさせる。彼女は、「せっかく素晴らしいミュージツシャンとレコーディングするのだから自分の歌いたい曲を新鮮な気持ちで歌いたかった」と語っている。好きなビル・エヴァンスの「Waltz For Debby」のアルバムから4曲、それに歌詞が長く、英語に自信がないとなかなか歌えない、ボブ・ドロウの「I’ve Got Just About Everything」やフラン・ランデスマン・トミー・ウルフの「Spring Can Really Hang You Up The Most」等も少し鼻にかかった特徴のある声で見事なニュアンスで歌っている。響きの良い奇麗な音のヨハン・クレメントのピアノを中心にトリオのサポートも特筆ものだ。早くも次作を期待させる。(高田敬三)

ALBUM Review

「ユー・アー・ゼア/ジャネット・サイデル」

ミューザックMZCF 1377

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 オーストラリアの「ファースト・レディ・オブ・ソング」といわれたジャネット・サイデルが亡くなって8月7日で早くも一年になる。本アルバムは、彼女の一周忌をむかえて兄のベース奏者、デヴィッド・サイデルが彼女の未発表録音から編集した追悼盤。タイトルとなったディブ・フリッシュバーグとジョニー・マンデル作の「You Are There」は、彼女のアルバム「Art Of Lounge 3」の録音の合間に、当時この歌を練習していた彼女がワン・テークで録音したものだ。当時、親友のトム・ベイカーを亡くしてすぐ後だったので思い入れの入った素晴らしい歌を聞かせる。その後、この歌は、録音していないが、死の直前までこの録音の話をしていたという。他の曲の多くは、彼女のライヴ録音から、彼女の好きな歌だったものや、アルバムでは歌われなかったもの、内容が素晴らしかったものなどから選ばれている。彼女は、聴衆を前にして歌う時は、スタジオ録音とは、一味違うリラックスしたパーフォーマンスを披露していた。彼女が甦ってくるような魅力あるアルバムだ。今後も第2、第3集、と続く予定だというので楽しみだ。(高田敬三)

CONCERT Review

ニコール・ヘンリー

丸の内コットン・クラブ 7月25日ファースト・ステージ

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 彼女の3枚目のアルバム「The Very Thought Of You」の発売から10年を記念するコンサートと銘打ったライヴ。デヴューから10年、というのはよくあるが、3枚目の発売記念からというのも珍しい。ヒット・アルバムだからということだろう。彼女のバック・ミュージツシャンは、毎回のように変わるが、今回は、John Di Martino (p) Tom Guarna (g) Richie Goods( b) Jonathan Barbar (ds)というメンバーだ。彼女は、軽やかな「Almost Like Being In Love」から入り、続いてガーシュインの曲ですと説明して比較的知られていない「I Can’t Be Bothered Now」を、後半で次第にブルージーなフィーリングになる歌唱て披露。シナトラでお馴染みの「All The Way」、ジョビンのボサノヴァ「Waters Of March」と続いた後、バーリンの「What’ll I Do」をギターをフィーチャーしてしっとりと歌う。そして再び、ギターのソロの入れてポップ・ナンバー「I Found You」を語るように歌った。お馴染みの「Moon River」は、ブルージーなムードで披露。「I’m Gonna Lock My Heart」は、ギター、ベース、ピアノとソロを廻してスインギーに歌った。結婚式の時,良く使われる言葉です。日本でも同じですか?と話して, 映画「サンバレー・セレナーデ」からの愛の歌「At Last」をソウルフルに歌い上げる。「The Very Thought Of You」は、ストゥ―ルの腰かけてピアノだけの伴奏でしっとりと歌った。当夜のハイライトだった。最後は、これでおしまい、ということか「That’s All」を軽快に歌ってステージを締めた。アンコールでは、ナンシー・ウイルソンがアルバム「Now I’m A Woman」の中で歌った「The Real Me」をソウルフルに歌った。伴奏陣のソロは、通常より少なかったようだが、ギターの活躍が目立つた。彼女は、ポップ、R&B,ゴスペル、ジャズの要素を適度に併せ持つシンガーで、背も高く見た目も大変魅力的で人気の程が感じられるステージだった。歌ったナンバーは、「The Very Thought Of You」のアルバムから「All That I Can See」を除いた11曲というのも面白い企画だ。(高田敬三)

写真提供/COTTON CLUB
撮影/米田泰久