ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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エッセイ

最新号

「ロックジャーナリズムの風雲児・渋谷陽一氏を悼む」

櫻井隆章

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渋谷陽一 1951-2025  

 ロック評論家の渋谷陽一氏が亡くなった。享年74歳。氏は、高校生当時から各種の音楽雑誌に投稿していたそうで、1972年にミニ・コミ誌の体裁で『rockin’ on』誌をスタートさせた。この雑誌が徐々に人気を集め、大きくなって行ったのである。

 1960年代後期の、ロックが複雑化、巨大化していった時代は、日本では「女の子はグラビアも充実している『ミュージック・ライフ』誌、男の子は読み物も多い『ニュー・ミュージック・マガジン』誌」という一種の「棲み分け」が出来ていた。そこに不満を感じ、ロック雑誌の世界に一石を投じたのが『rockin’ on』誌だった、という格好である。『ミュージック・ライフ』誌はとっくに廃刊となり、『ニュー・ミュージック・マガジン』誌は『ミュージック・マガジン』誌と名前を変えた今でも、『rockin’ on』誌は健在だ。

 元々、ロックを論文の対象と捉えた『ニュー・ミュージック・マガジン(以下、「NMM」と略記)』の編集方針に異議を唱え、よりディープで理屈先行の記事が多い雑誌として、『rockin’ on』誌は支持を集めた。どころか、公然と『NMM』誌、及び編集長である中村とうよう氏を批判。ある意味では「骨太な編集方針」を貫いてきたとも言えるのだ。

 また、1970年代前期から(『rockin’ on』誌発行直後から)ラジオDJとしての活動も開始。彼に目を付けた番組制作者がいたのであろう、NHK-FMを主戦場に、様々な番組にDJとして出演し、その方向で渋谷氏の名前を知ったリスナーも多かった筈だ。

 渋谷氏の才能は、そうしたところだけに現れたのではない。実業家としての才能も発揮した。まず、雑誌発行に関しては、発足させた自身の会社から数多くの雑誌を発行。多様化する読者のニーズに応え、日本のロックの専門誌やら何やらをスタートさせ、事業を拡大化させていった。

 さらに氏の名前を広く知らしめることとなったのが、ロック・フェスをスタートさせたことだろう。1990年代の後期には幾つかのロック・フェスが順調に開催されていたが、氏は2000年に「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」を始めた。それまでの音楽イベントは、ほぼ総てがコンサート・プロモーターによる開催であったのに対し、雑誌メディアが主催するイベントという珍しさと、イベント自体が主張する意味合いが広く支持を受けた。上記のイベント以外にも複数のフェスを開催し、今に至っている。

 このように、ロック評論家、DJ、雑誌編集者というだけではない渋谷陽一氏の功績は圧倒的であった。心から、ご冥福をお祈りする。

ちゃんみな「AREA OF PINK DIAMOND3」に見るアーティストとファンの関係

久道りょう

6月29日に代々木第一体育館で行われたちゃんみなの「AREA OF PINK DIAMOND3」を拝見した。

全てが魅力的だと感じた。
ちゃんみな、というアーティストそのものが愛される存在であるということを青山テルマやTAKUYA∞(UVERworld)がコラボし、ワンオクのTaka、さらにはマイファスのHiroなどが客席を彩る人脈の広さが物語っている。

今回のツアーは、彼女の結婚、出産など、人生そのもののフェーズが変わった時期のツアーということもあり、女性として、アーティストとして、よりメッセージ性の強いものになったように思う。

私は彼女のライブを拝見するのは、今回が2度目。
出版社の連載で彼女を扱うまで、正直、名前を知っている程度で、歌を聴いたこともなければ、ステージを拝見したこともなかった。

ところが2023年末の音楽番組で彼女の「B級(B list)を拝見して、ハマった。
元々、連載に掲載する為に彼女の生い立ちからデビューの経緯、またその後などを調べる中で、非常に惹かれるものがあった上のことだったので、どうしてもステージを拝見したいと思い、昨年、初めて拝見。
それまでヒップホップ音楽にどうしても馴染めない耳だったものが、彼女の音源ラップというスタイルのヒップホップなら、耳に馴染んだのが正直なところだったのかもしれない。

歌は申し分ない。
どの歌もエネルギッシュで、パワフル。
バラードは、しっとりと聴かせる。
透明性の高い歌声と、パワフルで濃厚な響きの2種類の歌声の濃淡を使い分けて歌っている、という印象だった。
そして歌だけにあらず、宙吊りやランニングマシーンなど、彼女ならではのパフォーマンスは、エンターテナーとしての存在感を観ているものに与え、エネルギッシュなパフォーマンスは、そのままエネルギーが客席に注入される。
2時間あまり、ほぼ立ちっぱなしのライブでも全く疲れを感じなかったほど楽しいステージだった。

会場は、若い世代だらけ。
10代、20代の若い女子に圧倒的な支持を受けているのがわかる。
アイドルでもない彼女が多くの女子から支持を受けるのは、彼女の語るメッセージ。
飾ることのない本音のメッセージが、そのまま心に響いてくる。
26歳という、少しお姉さん世代に入りかけている彼女の人生スタイルそのものが、多くの女子の手本になることは確かなことかもしれない。

とかく過激でエロティックな衣装やパフォーマンスとは裏腹に、彼女のメッセージからは、真面目で誠実で物事へのひたむきさを感じさせる。
結婚した韓国のラッパーである ASH ISLANDをさりげなくライブに登場させ、ファンに臆せず披露する。
2人で歌とパフォーマンスを行い、会場を彼女達の愛で包み込む。
ファンに自分達の私生活の一片を語ることで、ファンをも巻き込み、自然に応援して貰える形を作る。

そういう全ての形が今までのアーティストにはなかったやり方なのかもしれない。そして、それがアーティストとファンとの新しい形だと提示しているようにも見える。

さりげなく語った私生活の一片。
「ツアー中だから、喉の為に加湿器を寝室に持ち込んでいて、26度という室温になっている。朝、起きたら、彼がいなくて、寝室の外の廊下やリビングの床で寝ていたのよ〜。でもおかげで2時間歌い続けても声が枯れません」
彼女の発言に会場はドッと湧いたが、ここにも彼女のアーティストとしてのスタンスが垣間見える。
声帯にとって、夏のクーラーは大敵。
寝ている間に喉周りの筋肉は冷え、さらに冷房で乾燥した空気は、声帯をバリバリの状態にする。
声帯にとって乾燥した冷たい空気は大敵だ。
B'zの稲葉浩志が冷気を嫌って、ライブ会場の楽屋の扉を目張りして防ぐのは有名な話。
それと同じぐらい、彼女も自分の声帯を守ることに気を遣っている現れであり、そのこと1つを取っても、彼女の歌に懸ける情熱が伝わってくる。

ライブに行くと、そのアーティストの日頃知らない部分、見ない部分を垣間見ることが出来る。
歌うことが仕事である彼らは、音楽番組では自分の歌を歌えば画面から消えてしまう。
しかし、ライブへ行けば、さまざまな話を自分の言葉で語る。
その言葉にアーティストのスタンスが見える。

ちゃんみなに、なぜ、多くの若者が惹かれるのか、それがわかる。
彼女自身が愛に溢れているからだ。
だから、多くの人から愛を受ける。

ちゃんみなは、彼女そのものが愛される存在なのだということ。
それがよくわかるライブだった。

◆物故者(音楽関連)敬称略

まとめ:上柴とおる

【2025年6月下旬~2025年7月下旬までの判明分】

・6/15:ジョン・リード(スコットランド出身のDJ&ソング・ライター。ハウス・ミュージック・プロジェクト「ナイトクローラーズ」主宰)61歳
・6/23:レベッカ・デル・リオ(米シンガー・ソング・ライター。俳優。映画「マルホランド・ドライブ」での歌唱など)57歳
・6/24:ボビー・シャーマン(米シンガー。俳優。救急救命士~ロサンゼルス市警察官)81歳<ブログ追記>
 ★「ボビー・シャーマンは‘ティーンエイジ・アイドル’だったのか!?」
 https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1750953156
・6/25:村川千秋(指揮者。山形交響楽団創立名誉指揮者)92歳
・6/26:ラロ・シフリン(作曲家。編曲家、指揮者。ジャズ・ピアニスト。「スパイ大作戦(ミッション:インポッシブル)」「ブリット」「燃えよドラゴン」など)93歳
・6/26:ウォルター・C・スコット・ジュニア(ウィスパーズの創設メンバー)81歳
・6/28:三善清達(音楽評論家。NHKで音楽番組を企画・制作~東京音大教授)98歳
・7/04:マーク・スノウ(米作曲家。SFドラマ「Xファイル」のテーマ曲など)78歳
・7/04:ルイス・ジャーディム(パーカッショニスト。ABC、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドなどと仕事)75歳
・7/04:ケヴィン・リドルズ(エンジェル・ウィッチ~タイタンのベーシスト)68歳
・7/06:DJ SHINKAWA(ハウス、テクノ、トランス系のクラブDJ)
・7/09:和泉雅子(俳優。歌手。冒険家)77歳
 ★「改めて話題に上がるベンチャーズ『二人の銀座』と和泉雅子の‘秘話’」
 https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1753031830
・7/13:デイヴ・カズンズ(ストローブスの創設メンバー)85歳
・7/14:渋谷陽一(音楽評論家。「rockin’on」を創刊。編集者、ラジオDJ、ロック・イベント・プロデューサー)74歳
・7/16:コニー・フランシス(米シンガー)87歳
・7/18:ロジャー・ノリントン(英指揮者。「古楽」演奏のパイオニア)91歳
・7/20:プレタ・ジル(ブラジルの歌手、俳優。司会者、実業家。父はジルベルト・ジル)50歳
・7/22:オジー・オズボーン(英ロック・アーティスト。ブラック・サバス)76歳
 ★「36年前、せっかくオジー・オズボーンに会えたというのに。。。」
 https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1753292965
・7/22:ジョン・マイケル・"ポリ"・パーマー(英ロック・アーティスト。元ファミリーなど。ピーター・フランプトンやピート・タウンシェンドなど共演多数)82歳
・7/22:チャック・マンジョーネ(米トランペッター。フリューゲルホルン奏者。ジャズ/フュージョン界で活躍)84歳
・7/23:皆川おさむ(歌手。「黒ネコのタンゴ」など。「ひばり児童合唱団」代表)62歳
 ★「真夏の『快談黒猫伝』」
 https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1753767515