ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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エッセイ

最新号

玉置浩二×️平原綾香「マスカット」に見る
歌手としての真髄

松島 耒仁子(クニコ)

写真  NHKが年に数回、放送している「玉置浩二ショー」
 毎回、数人のアーティストとのコラボのコーナーがあるが、今回は、平原綾香。彼女と玉置がコラボして歌った「マスカット」の歌唱が抜群だった。

 「マスカット」は平原綾香に玉置が提供した楽曲だ。
 2016年に発売された彼女のアルバム『Love』に収録された楽曲であり、彼女自身が玉置浩二に楽曲提供を依頼している。
 小さな頃からだんだん大きくなっていく成長の様を葡萄の実に例えて作ったというこの曲は玉置浩二の作詞作曲によるものであり、それを歌うなら自分との関係性において「平原綾香しかいない」と言った彼。それは平原綾香の父であるサックス奏者平原まことが一時期、安全地帯にいたことからの関係性であり、当然、彼女の小さい頃を知っているという関係性を指すのだろう。

 二人の歌唱は圧巻だった。
 何が圧巻なのかといえば、歌手としてのテクニック。
 この曲を二人は非常に軽く歌っている。言葉数が多く、細かい刻みで作られているこの楽曲を言葉を明確に伝え、メロディーを正確に歌うことは非常に難しい。この難曲を二人は鼻歌のように軽く歌っている。
 テクニック的にはブレスコントロールと発声ポジションの固定化、支えを固定化することで、声帯が自由に動ける。それぐらい体幹部分の腹筋力が必要される難曲だ。
 特に平原綾香が素晴らしい。ソフトで太い響きの低音部、正反対の細く軽い高音部。見事にコントロールされた歌声をこの一曲で堪能することが出来る。その上での言葉の明確さ。何を伝えるのか、メッセージがきちんと伝わってくる。ここまで歌声をコントロールできるのは見事としか言いようがない。
 2016年アルバム発売当時の彼女の歌唱と聴き比べたが、長足の進歩を感じさせた。近年の彼女の歌は、本当に申し分ないのだ。

 写真 それに対しての玉置浩二の歌は、彼女の歌を根底からしっかりと支え、寄り添っている。彼女が軽く歌えばそれに応え、エネルギッシュに歌えば、それに呼応する。ピッタリと寄り添って離れない歌声は、まるで番の鳥のようだ。そこに彼女の成長を見守る親鳥のような温かい感情が流れているのを感じる。
 玉置浩二という大きな器の中で、平原綾香が自由に飛び回っている。
 そんな歌だった。

 自由にコントロールされた歌声は、どこでも、どこまでも自由自在に動ける。それを立証するかのような二人の歌声は、歌手として二人が最高峰にいることを証明している。
 平原綾香の進化は、彼女の弛まない努力の証であり、玉置浩二の安定感は、歌い続けてきた人間、音楽に真摯に向き合ってきた結果以外の何者でもない。

 久しぶりに本物の歌を聴いた。聴き終わった後、ため息しか出なかった。それぐらい二人の歌の世界に集中していたのだ。