結成10周年を迎えるLittle Glee Monsterの存在感
久道りょう
Little Glee Monster(通称リトグリ)と聞いて、あなたはどういうイメージを持つだろうか。
若い女の子のグループ。
アイドルグループとは違って、歌が上手い。
メンバーが入れ替わるグループ。
ハーモニーが綺麗。
そんなところだろうか。
リトグリは、今年結成10年目を迎える。
結成当時、15、6歳が中心だったグループも、何度かのメンバー脱退や入れ替えを経て、現在のメンバーになったのが、2022年11月。メンバーが病気などで脱退した後、オーディションを大々的に開催して、新規メンバーを決定した。
女性グループの難しさは、メンバーの固定化にある。
特に10代の若い時期に結成されたグループというものは、思春期や身体の変化などに伴い、女性特有の不安定さから、脱退や活動休止、または解散などに至るグループも少なくない。
リトグリも安定した5人メンバーだった時から、2人の脱退に伴い、グループ自体の存続が危ない時期も確かにあった。
その時、あくまでもLittle Glee Monsterというグループに拘り続けた3人のメンバーの活動継続によって、グループを存続させることが出来たと言えるだろう。
グループに残ったメンバー3人が、リトグリというグループの持つサウンドや存在意義というものを十分に承知していた結果、新しいメンバーを加えて再出発する、という選択肢を可能にすることができたと思う。
女性のボーカルサウンドグループというのは、私の記憶の中でも、これといったグループを思い出せない。そもそも、女性でボーカルグループというものが、リトグリ以前に存在しただろうか。
〇〇坂などのアイドルやK-POP真っ盛りの昨今、多くのガールズグループは存在するが、どのグループを聞いても、「サウンド」という点で私の欲求を満足させてくれるグループは、見当たらない。
ボーカルサウンドグループの魅力はなんといっても、そのハーモニーの世界にある。
声と声とを重ね合わせて作り出すハーモニーの世界は、人間の声の魅力と不思議さを十分に堪能させてくれる。特に、アカペラで声を重ねて作り出すハーモニーの醍醐味は、それを聞いた途端に鳥肌が立つほど感激する人も少なくないだろう。
私は長年コーラス指導をしてきた経験や、自分自身もコーラス、ボーカルグループで歌ってきた経験から、ハーモニーの魅力、声を合わせることによって得られる快感というものが堪らない。
だから、リトグリのサウンドを知った時は、若い女性達がアイドルに向かうことなく、本格的なサウンドボーカルを極めようとしていることに感動したものだった。
そして、彼女達は、紛れもなく私の欲求を満たしてくれるだけのハーモニーを作り上げてきていたのだ。
しかし、リトグリは、2年前にメンバー脱退という困難を抱えることになった。
ボーカルグループのメンバー脱退、または、メンバーの入れ替えほど難しい問題はない。なぜなら、サウンドというものは、固定化したメンバー間で作り上げられてくるものだからだ。そこには、楽譜には書かれていないメンバー同士の信頼や長年の経験に基づいた阿吽の呼吸のようなものがある。
それは、たとえば、どんなに正確に音程を取れるメンバーであっても、その時の体調などによって、わずかに音がうわずったり、下がったりすることがある。その僅かなズレを、他のメンバーが聞き逃して、正しい音程を取れば、音程の距離感にずれが生じて、綺麗なハーモニーが作れない。
うわずった音に対しては、その音を基音としたズレの中でのハーモニーを一瞬で作ることによって、聞いている人達に違和感のないハーモニーを届けることが出来るのだ。そういう対応が瞬時に出来るかどうかは、メンバー間の信頼と経験値によるところが大きい。
そして、それらの高度なテクニックを作り上げていくには、固定化したメンバーによるある程度の時間が必要になる。そういう意味で、メンバーが変わるというのは、グループにとって大きなリスクを抱えることになるのだ。
そもそも、メンバーが変われば、声自体が変わるのだから、それまでのハーモニーは維持できなくなり、新しいハーモニーを作り直すことになる。
これらのリスクを乗り越えて、今、新生リトグリは、新しいハーモニーを構築し出している。
結成当初、新旧のメンバー間にあったボーカル力の差というものは、今、殆ど感じられない。
それは昨年後半ぐらいから徐々に改善され、今は、メンバー間の差は、フラットな状態になっている。
過去のサウンドでは、個人の声の個性を生かした上でのサウンドというものを感じたが、今のメンバーのサウンドは、「一体感」というものが大きな特徴となっており、6人の声の統一感が素晴らしい。
そして、新しいメンバーの歌声の透明感というものがグループ全体のハーモニーの基盤になっていると感じる。
新しいハーモニーの兆候は結成半年後の昨年後半から、徐々に完成されていったように感じられ、現在では、ほぼ完成された形と言えるだろう。(もちろん、ここからはさらに進化すると考えられる)
僅か半年ほどで、1つのサウンドを構築した陰には、新しいメンバー3人の並々ならぬ努力があったに違いない。
先日、公開された動画『Little Glee Monster アカペラメドレー 2024』(https://youtu.be/T0NIU8Eum18?si=gbHGfL0SxXCjfBL-)におけるサウンドは、新生リトグリの魅力満載の動画であり、彼女達がこの2年近く、新しいハーモニーを構築するのに真剣に音楽と向き合った結果が十分感じられるものとなっている。
若い女性のボーカルグループの存続は、はっきり言って非常に難しい。
しかし、彼女達には期待してしまう。
なぜなら、リトグリ、というグループの存在意義を十分に熟知したメンバー達によって構成されていると感じるからだ。
今後、彼女達のサウンドが世界に広がりを見せることを大いに期待する。
唯一とも言える女性本格派のボーカルサウンドグループとしての一層の活躍を楽しみにしている。