ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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エッセイ

最新号

Seiko Summer Jazz Camp(SSJC)レポート

高木信哉

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集合写真
 8月12日(月)~15日(木)の4日間、今年で4回目を迎えた「Seiko Summer Jazz Camp2019(以下SSJC)」が、尚美ミュージックカレッジ専門学校のキャンパス(東京・本郷)を舞台に開催された。SSJCは、将来プロのジャズ・ミュージシャンを目指す日本に居住する16歳から25歳までの若者(誰でも応募できる)に、世界で活躍する実力派ミュージシャンである講師陣が、演奏技術と理論に加え、ジャズとの向き合い方を熱血指導する。料金は無料で、今年も全国から多数応募が寄せられ、講師による厳正なる審査の結果、16歳から25歳までの男女40名が参加した。その内訳は、ヴォーカル が女性5名、ピアノが男性4名&女性1名、ベースが男性3名&女性2名、ドラムスが 男性5名、ギター が男性5名、トランペットが男性3名&女性2名、トロンボーンが男性3名&女性2名、サックスは、アルトが男性1名&女性1名、テナーが男性1名&女性1名、バリトンが男性1名ある。すなわち、女性14名(比率35%)と男性26名(65%)である。
 気になる講師陣は、ニューヨークで活躍するマイケル・ディーズ(Trombone / 講師リーダー)、ディエゴ・リヴェラ(Sax)、ベニー・ベナック(Trumpet)、大林武司(Piano)、中村恭士(Bass)、クインシー・デイヴィス(Drums)、ヨタム・シルバースタイン(Guitar)、シェネル・ジョンズ (Vocal)と日本で活躍する守屋 純子(特別顧問 / Piano / 編曲)という素晴らしい面々である。
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先生の見本演奏
 SSJCは、企画制作がスパイスオブライフ株式会社、特別協賛がセイコーホールディングス株式会社、特別協力が尚美ミュージックカレッジ専門学校にて運営されている。
私は、4日間見学させてもらった。驚いたのは、日本全国各地から集まったミュージシャンの卵たちは、わずか4日間で、別人のように大きく成長したことだ。講師陣の年齢が若いので、受講生たちは緊張せずに先生に溶け込めた。また、ほぼ全ての講師がミュージシャンとして活躍しながら大学などで先生を務めているジャズ教育のプロたちで、親身になって熱心に指導した。
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ビッグバンドのレッスン
 さて、心に残った授業を紹介しよう。初日の「ビッグバンド・アンサンブル」は、全員参加でビッグバンドを学ぶ講座。講師のマイケル・ディーズは、まずデューク・エリントンの作品で有名でバディ・リッチ・オーケストラのためにオリバー・ネルソンが編曲した「イン・ア・メロウ・トーン」の譜面を配り、音出しを開始。まだホーン・セクションだけである。緊張のためか、バラバラ。まったく音にならない。次にマイケルは、曲に必要な「リズム」を教える。「足踏み」、「フィンガースナップ」。それから、曲を歌わせた。歌詞は気にせず、メロディを大きな声で歌う、歌わせる。音の長さ、リズムの切り方も教える。そういえば、今年のSSJCのスローガンは、“If You Can Sing It, You Can Play It”である。なるほど、そういうことか。再び音出しをすると、音がぐんぐん良くなっていく。次は、スタンダードの「オールド・フォークス」。ここから、リズム・セクションも加わる。次は、マイケル・ブレッカーが作曲した「Tambleweed」。譜面は、デビッド・サンボーン・クインテット用にマイケル・ディーズがアレンジした譜面をビッグバンド用に再アレンジしたものが配られる。コンテンポラリーなグルーヴ感覚が、受講生たちには中々つかめない。最後は、ジョン・コルトレーンの名曲、「ジャイアント・ステップ」。ディエゴ・リヴェラのアレンジである。ここでも、ディエゴが曲を皆に歌わせた。結局、90分の授業を3回(3日間)やって、木曜日のガラ・コンサートで、お披露目した。「ビッグバンド・アンサンブル」は、堂々としたビッグバンドの演奏ができるようになっていた。見事である。
 2日目の全員参加の「マスタークラス」は、ベニー・ベナックが教え、大林武司が通訳した。テーマは、“IMPROVISATION IS CONVERSATION!”(即興演奏とは会話である)。ジャズの大きな特徴は即興演奏だ。題材にマイルス・デイヴィスの「NO BLUES」を使用した。
 まず、マイルス・デイヴィス(tp)、ジョン・コルトレーン(ts)、ウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コブ(ds)の1959年の演奏とマイルス・デイヴィス(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウイリアムス(ds)の1965年の演奏を聴き比べる。前者のリズム・セクションは、波風たてないリズムをキープする演奏だが、後者は大胆に踏み込んだバンド・メンバーの関与がわかる。後者は、ブルースの基本を守りながらも、メッセージ性の強いクリエイティブな演奏をしている。次いでエラ・フィッツジェラルド(ヴォーカル)とルイ・アームストロング(ヴォーカルとトランペット)のコラボレーション・アルバムは『エラ&ルイ』(1956年)の「They Can't Take That Away from Me」音源を聴く。ジョージ・ガーシュウィンの名曲である。エラが歌う時は、ルイは吹かないが、歌の直後に絶妙なタイミングでルイは即興演奏を加える。まさにその非の打ちどころない表現を、ベニーは受講生に教えた。そして、最後は、ステージに受講生たちを次々とあげ、生演奏をさせた。講師たちも加わり一大セッションとなった。実践的なレッスンは効果大と感じた。
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シェネル・ジョンズのレッスン
 3日目のシェネル・ジョンズによる「ヴォーカル・クラス」。シェネルが、まず受講生(女性5名)と一緒に体操を始める。呼吸を整える。そのまま発声練習となる。半音ずつ音をあげていく。今度は、「プルプルプルプル」とか「ミー」とか「アーウイイー」とかを腹の底から音を出させる。B♭のブルースになる。アクセントや強点の置き方(歌い方)を教える。そして、今度は、名シンガー、ナンシー・ウイルソンが、24歳の時に吹き込んだ『ナンシー・ウイルソン&キャノンボール・アダレイ』の収録曲「ザ・マスカレード・イズ・オーバー」を受講生に聴かせる。ビブラートのコントロールや歌い方のコツを教える。音源を何度も聴かせる。やがてシェネルは、音源のナンシー・ウイルソンに合わせて歌い出す。皆も歌い出す。次は、ピアノをバックに、「ザ・マスカレード・イズ・オーバー」を歌う練習を指導する。理にかなった見事な教え方と思う。
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大林武司のレッスン
 3日目の大林武司による「ピアノ・クラス」の後半を見学した。ピアノに対する位置関係。手首やひじを保ちながら、スムーズに弾く方法を伝授した。指だけを動かして弾くと、疲れてしまう。正しい姿勢で、体幹をしっかり保ちながら、指だけに頼らず“回旋運動”を丁寧にひとり一人に説明して、実際に弾かせて伝授した。とても重要と思った。
 4日目は、尚美ミュージックカレッジの中にあるホールにて、“ガラ・コンサート”を行った。5組の「スモール・アンサンブル(コンボの演奏)」で、受講生の各人が、歌や演奏(即興演奏)を披露して競い合う。中々見応えがあった。次いで「ビッグバンド・
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コンボのレッスン
アンサンブル」の演奏。初日の演奏が嘘のような見事な演奏に息を吞む。ニューヨークのトップ・ミュージシャンである講師陣の指導によって成長した成果を遺憾なく発揮した受講生たちの演奏は、記憶に残る瞬間の連続だった。
 そして授賞式が行われた。受賞者は、以下の通りである。最優秀賞を受賞した治田七海のトロンボーンの演奏には、あふれんばかりの才能を感じた。
最優秀賞:治田七海(トロンボーン)17歳。
優秀賞:谷澤友和(ギター)25歳、佐藤肖一郎(テナーサックス)23歳、アイ・ヤン(ヴォーカル)25歳。
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受賞者
優秀賞(作曲):眞崎康尚(ピアノ)21歳。
特別賞:窪みさと(トランペット)22歳。
Spirit of Jazz 賞:高橋里沙(ベース)21歳。
 最後に講師により模範演奏があった。これは、最高に素晴らしかった。最後の最後は、リーダーのマイケル・ディーズが書いたオリジナル「セイコー・タイム」。ホール全体で歌って、ものすごく盛り上がった。このようなユニークで有意義なジャズ・キャンプは、大変珍しい。「Seiko Summer Jazz Camp」を多くの人々に知っていただきたい。

集合写真、受賞者写真(合計2枚)
写真提供:(株)スパイスオブライフ
撮影:土居政則

その他の写真(合計7枚)
撮影:白木俊二