ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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エッセイ

最新号

billboard classics 玉置浩二
「LEGENDARY SYMPHONIC CONCERT 2024 "Pastorale"」ライブレビュー

久道りょう

3月20日、春分の日に大阪フェスティバルホールで行われた「billboard classics 玉置浩二 LEGENDARY SYMPHONIC CONCERT 2024 "Pastorale"」を拝見しました。

この企画は、今年10年目とのこと。私が初めて拝見したのは、2019年6月でした。それから5年。コロナ禍を除いて、毎年、拝見しています。

初めて拝見した時には、その声の存在感に圧倒されたことを覚えています。
私は元々、クラシック畑出身なので、マイクを外して歌うことは当たり前の世界で生きてきました。
ですが、普通、J-POPではマイクを使うのが当たり前。アーティストによっては、舐めるようにマイクを使う人も少なくなく、J-POP歌手とマイクは切っても切れない関係と思っていました。
その概念を壊したのが、玉置浩二でした。

今では考えられませんが、チケットは幸運にも一般発売で取ったものでした。
私はその前年から、音楽評論を本格的に書き始めていて、松田聖子や氷川きよしなど、思い浮かんだ歌手のコンサートに行き始めたばかりでした。
ふと、玉置浩二の歌が聴きたいと思い、検索をかけてみると偶然にも大阪フェスティバルでのコンサートのチケット販売中でした。それで何の躊躇もなく、娘と2人分のチケットを購入したのです。それも人気の高いクラシックコンサートのチケットを、です。
その後、友人も行きたいと言って、検索をした時には、もう完売でしたから、本当にタイミングが良かったとしか言いようがありません。
そうやって、私は初めて彼のコンサートを拝見しました。
ですが、何の予習もなく、私の記憶に中にある彼の曲と言えば、『ワインレッドの心』と『夏の終わりのハーモニー』ぐらい。
有名な『田園』すら全く知らず、『メロディ』に至っては、記憶も曖昧…
そんな状態で出かけたのでした。

そして、体験した初のライブで、私は彼の歌声に圧倒されました。
初めて聴く曲ばかりの第1部から、聞き覚えのある楽曲の第2部。そして、アンコールの『田園』と『メロディ』まで。
私の耳は彼の歌声に釘付けになったのです。
マイクを外し、3階の後部座席(私達の席)まで響いてくる歌声に圧倒されたのです。

マイクを外して歌う。
私が知らないだけで、そんな歌手は、彼以外にもいるかもしれません。
ですが、彼の歌声の何が素晴らしいかといえば、いわゆるピアニッシモ、極々弱く小さな歌声。
その歌声でもマイクを外して聞こえて来たことです。
これに圧倒されました。
なぜなら、ピアニッシモの発声ほど難しいものはないからです。
ピアニッシモの歌声で、ホールの隅々までマイクなしで響かせるのは、クラシックの歌手でも非常に高度なテクニックを要求されます。
世界的にトップレベルの歌手でも難しい歌声を、J-POPのアーティストが出せること。
これに私は衝撃を受けた、と言うのが、正直なところです。
なぜなら、私の中の玉置浩二のイメージは、歌が上手い、という簡単な認識でしかなかったからです。
彼の歌声は私のそんな認識を一瞬で覆したのでした。

それからはスケジュールのつく限り、必ず、クラシックコンサートに参加しています。やはり、クラシック出身の私としては、フルオーケストラの音色に載っての歌声が魅力的だからです。
そして、アンコール曲の『田園』
このベートーヴェンの交響曲と、彼の『田園』のコラボを最初に考えついた人は誰なんだろう、と毎回思わずにはいられません。
ベートーヴェンの『田園』のメロディーから、徐々に玉置浩二の『田園』のメロディーが出現し、すっかり彼の『田園』へと塗り替えられていく様は、第9交響曲の『歓喜の歌』のメロディーが出てくるのと同じ高揚感に包まれるのは、私だけだろうか、と思いながら、毎回、聴いています。

この日のオケは京都市管弦楽団。
非常に若いコンマスで驚きましたが、それ以上に感じたのは、弦楽器の音色の美しさです。
管楽器も含めて、全体のバランスと音色の響きが美しく、今までの私の記憶の中では一番綺麗な澄んだ音色を奏でていました。
また、『JUNK LAND』の見事な歌唱の後、観客と共に、オケのメンバーが拍手をしていたのが、非常に印象的でした。
音色だけでなく、非常にアットホームな感じで、観客とアーティストとの一体感を大切にしているオーケストラという印象を持ちました。
玉置浩二の歌声の響きによくあった非常に質の高い音色を奏でていたと思います。
クラシックコンサートは、オーケストラと指揮者も重要なアイテムの1つになります。歌を含めて、全体に質の高いものを提供できるかどうかは、3者のバランスが整って初めて提供できると思うからです。
そういう点で今回のベテラン指揮者である湯浅卓雄が京都市管弦楽団の良い音色を引き出し、非常にいいチームワークだったと感じました。

最後に彼が必ず歌う『メロディ』
しんと静まり返った会場に響き渡る彼の歌声は、5年前の歌声と何の遜色もありません。
今年も変わらず歌声を拝聴し、来年もまた、同じ歌声に出会うことを願います。
とにかく健康で歌い続けて欲しい。
そして、聴けるうちに出来る限り聴いておきたい。
そう思いながら、会場を後にしました。

「また逢う日まで 音楽プロデューサー本城和治の
仕事録」(構成:濱口秀樹)

(シンコーミュージック・エンタテイメント) ISBN9784401654604

上柴とおる

写真 これはまた凄い備忘録とも言えるような本である。当時の‘本当の’話が読める、というかご本人から直接お話を聞かせていただいているようで楽しく、そして「へぇ~」の連続。1960年代~1980年代の洋楽・GS・邦楽(ニュー・ミュージック~シティ・ポップ)にまつわる担当ディレクターの体験談。
 1939年12月14日生まれの本城和治さんはビクター(フィリップス)~日本フォノグラム~NECアベニューで活躍された有能で著名なレコード業界人。当方は1960年代後期、「ミュージック・ライフ」誌の‘ディレクター紹介’で拝見したのを覚えているが、おなじみの国民的なヒット曲の数々を時代を超えて操っておられたのを改めて認識させられた。  ご本人の個人史も交えながらの展開なのでいわば‘回顧録’という印象もあるが、個人的には自身の音楽聴取歴とほぼリアルタイムで並行する内容なので「そうだったのか」とこれまでの表層的な知識にボーナス・トラックが惜しげもなく追加されて行くような気分になる。
 フランス・ギャルの「夢みるシャンソン人形」という邦題は本城さんと上司の伊藤信哉さんの‘合作’だったとか(本城さんの案は「夢みる歌人形」)そのフランス・ギャルはクロード・フランソワと恋仲だったとか(当時は知らされず)ミリー・スモールが1965年の来日時に日本語で録音した「あなたが好きなの」の歌詞は本城さんが書いたものの漣健児名義で出されたとか、本城さんと同い年のダスティ・スプリングフィールドが1967年にプロモ来日した際、「ザ・ヒット・パレード」への出演を巡ってプロデューサーのすぎやまこういちさんとトラブって降板した時の詳しい?事情とか(音楽雑誌で読んではいたが他にそんな理由もあったのか?と)映画「ブーベの恋人」のサントラ盤は日本独自で‘作り上げた’ヴァージョンだったとか、GSが終焉を迎えた‘本当’の理由、などなどキリがないほど面白い♪
 中には「ウォーカー・ブラザーズは本国アメリカでは芽が出ず」(実際は全米トップ20ヒットが2曲あり)「シェイラはカバー曲が多く、日本では単独のアルバムを出せなかった」(当方はシェイラの12曲入り邦盤アルバム「パリのアイドル シェイラは歌う」SFX-7042を所有)といった箇所も。ともあれ192ページ(以下は内容の見出し)。
第1章:あの時君は若かった 〜少年時代
第2章:君の瞳に恋してる 〜洋楽ディレクターとして
第3章:どうにかなるさ 〜スパイダースとの出会い
第4章:好きさ好きさ好きさ 〜GS旋風の到来
第5章:バラが咲いた 〜和製フォークの開花
第6章:愛は突然に... 〜新しい才能との邂逅
第7章:朝焼けが消える前に 〜シティポップの萌芽と隆盛
第8章:メリー・ジェーン 〜ジャズとロックと歌謡曲と
第9章:さとうきび畑 〜忘れ得ぬアルバムと収録曲
第10章:また逢う日まで 〜わが音楽人生を振り返る

写真 この本のサントラ盤とも言える同名の全42曲(邦楽)収録の2枚組CD「また逢う日まで〜音楽プロデューサー本城和治の仕事録」(ユニバーサル ミュージック:UICZ4671-72)も同時リリース。 

◆物故者(音楽関連)敬称略

まとめ:上柴とおる

【2024年2月下旬~2024年3月下旬までの判明分】

・1/18:稲垣次郎(サックス奏者。フランキー堺とシティ・スリッカーズ、稲垣次郎クインテット、稲垣次郎とソウル・メディアなど)90歳
・3/01:アーネスト・ビルボ・バーガー(ヒートウェイヴのオリジナル・ドラマー)73歳
・3/02:ジム・ビアード(キーボード奏者。ジョン・マクラフリン、ウェイン・ショーター、パット・メセニーらとコラボ。スティーリー・ダンのツアーにも同行)63歳
・3/03:篠原眞(作曲家。大阪市出身。オランダ在住。カールハインツ・シュトックハウゼンら現代音楽の巨匠に師事。東京藝大中退)92歳
・3/03:ブリット・ターナー(ブラックベリー・スモークのドラマー)57歳
・3/04:アンソニー・“ベイビー・ギャップ”・ウォーカー(ギャップ・バンド)60歳
・3/08:TARAKO(声優。「ちびまる子ちゃん」など。シンガー・ソング・ライター)63歳
・3/10:カール・ウォリンジャー(ワールド・パーティー、ウォーターボーイズなど)66歳
・3/10:T.M.スティーヴンス(米セッション・ベーシスト)72歳
・3/--:エリック・カルメン(米シンガー・ソング・ライター。元ラズベリーズ)74歳
 *2024年3月13日付ブログ「26年前の冬、一緒に鉄板焼きを食べた思い出が。。。エリック・カルメン(74歳)」
 https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1710258694
・3/11:エヴェレット・コリンズ(米ドラマー。アイズレー・ブラザーズなど)70歳
・3/--:ピンキー青木(‘ネオGS’ザ・ファントム・ギフトのヴォーカル)62歳
・3/13:アリベルト・ライマン(ドイツの作曲家。オペラ「リア」など)88歳
・3/17:スティーヴ・ハーレイ(コックニー・レベル)73歳
・3/23:マウリツィオ・ポリーニ(イタリアのピアニスト)82歳
・3/24:ペーター・エトベシュ(ハンガリーの作曲家、指揮者)80歳

<注>「--」は現時点で逝去日が不明。