ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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エッセイ

最新号

「世界へ向かうJ-POP」の現在地
―MUSIC AWARDS JAPANに見た、藤井風とMrs. GREEN APPLEの“世界性―

久道りょう

先日開催された日本最大級の音楽アワード、MUSIC AWARDS JAPANは、単なる国内音楽賞ではなかった。そこには「J-POPを世界へ届ける」という明確な意志が感じられた。
そして、その象徴として強い存在感を放っていたのが、藤井風とMrs. GREEN APPLEである。

藤井風は、アルバム『Prema』でベストアルバム賞を受賞。ステージに現れた瞬間、会場の空気は一変した。彼のパフォーマンスには、過剰な演出がない。だが、その“静けさ”こそが圧倒的だった。
日本語の響きを大切にしながら、R&B、ゴスペル、ジャズ、ソウルといったグローバルな音楽文脈を自然に吸収し、“日本語で世界基準を成立させる”という極めて稀有な表現を実現している。

特に印象的だったのは、彼の声の在り方だ。力で押し切るのではなく、余白と呼吸で聴き手を包み込む。その声には、日本的な「間」の感覚が宿っている。
近年、世界では「強さ」より「真実味」や「人間性」が求められているが、藤井風はまさにその時代性と共鳴しているアーティストだと言えるだろう。

一方、Mrs. GREEN APPLEは、2年連続で最優秀ベストアーティスト賞を受賞した。
彼らの凄さは、“J-POPの情報量”を極限まで高めながら、それをエンターテインメントとして成立させている点にある。

楽曲は転調が多く、メロディも複雑。しかし不思議と耳に残る。
そこには、大森元貴の卓越したメロディメーカーとしての才能がある。さらに、楽曲に込められた感情の起伏が非常にドラマティックで、まるで一本の映画を観ているような感覚を生み出す。
そして何より、彼らは“日本語のまま”世界に届こうとしている。
かつては「世界進出=英語化」という時代があった。しかし現在、世界で求められているのは、その国固有の文化性や言語の響きそのものだ。
J-POPのメロディと日本語の母音的な響きは、実は非常に相性が良い。そこにアーティスト固有の声の個性が重なることで、J-POPならではの感情世界が立ち上がる。

今回のMUSIC AWARDS JAPANで見えたのは、日本の音楽が“海外に合わせる”段階から、“日本の感性のまま世界へ届く”段階へ入ったという事実である。

藤井風の静かな普遍性。
Mrs. GREEN APPLEの濃密な感情表現。

その両極とも言える表現が、同時に世界へ届き始めている。
今、J-POPは確実に新しいフェーズへ進もうとしている。

なぜ、藤井風は“世界基準”になったのか―『Prema』受賞が示したもの―

久道りょう

藤井風が、アルバム『Prema』でベストアルバム賞を受賞した。
授賞式で披露されたパフォーマンスは、単なる“受賞記念ステージ”ではなく、日本の音楽が世界へどう届いていくのかを象徴するような時間だった。

藤井風の魅力は、圧倒的な技巧を見せつけることではない。むしろ彼は、過剰に感情を演出せず、自然体のまま空間を支配していく。その“静かな圧倒性”こそが、今の世界のリスナーに強く響いている。

彼の音楽には、日本的な繊細さがある。一方で、R&B、ゴスペル、ジャズ、ソウルといったブラックミュージックの要素も、ごく自然に溶け込んでいる。しかしそれは“海外を意識したJ-POP”ではない。最初から世界の音楽言語で呼吸している感覚があるのだ。
だからこそ、海外のリスナーも言葉を超えて反応する。

今回の『Prema』で藤井風が描いたのは、“愛”や“祈り”という普遍的なテーマだった。
しかしそこには押しつけがましさがない。彼は音楽を通して、人間の内側にある静けさを呼び覚ましていく。
情報も感情も過剰になりがちな時代において、藤井風は真逆の方向へ向かう。
静けさ、余白、呼吸。その空気感が、むしろ世界では新鮮に映るのかもしれない。
授賞式のステージでも、それは際立っていた。多くのアーティストが“魅せる”パフォーマンスを展開する中で、藤井風は“空間そのものを変える”ような存在感を放っていたのである。

これは単なる歌唱力ではない。声、間、視線、身体の重心、そして“在り方”まで含めて成立する表現だ。

藤井風は、無理に“世界仕様”になろうとしていない。だが、その自然体こそが、結果的に世界へ届いている。

今回の『Prema』受賞は、日本の音楽が「海外で通用するか」を問う段階を越え、世界の感性の中へ静かに入り始めていることを示した出来事だったのではないだろうか。

なぜ、Mrs. GREEN APPLEは時代の心をつかむのか

久道りょう

MUSIC AWARDS JAPANで、Mrs. GREEN APPLEが2年連続となる最優秀ベストアーティスト賞を受賞した。
この結果は、単なる人気の高さを示すものではない。むしろ今の時代、人々がどのような音楽に心を預けているのかを象徴する出来事だったように思う。

彼らの音楽には、現代人の抱える孤独、不安、自己否定、そして再生への願いが繊細に描かれている。しかも、それを重苦しく提示するのではなく、ポップミュージックとして成立させている点に、大森元貴の突出した才能がある。

彼らの楽曲を聴くと、「頑張れ」と励まされる前に、まず自分の弱さや痛みを理解してもらえたような感覚になる。だから聴き手は安心して感情を預けることができるのだろう。

特に大森元貴のメロディは秀逸だ。
単に耳に残るだけではなく、人間の感情の揺れそのものが旋律に組み込まれている。
切なさ、希望、焦燥、解放感――そうした感情の起伏が、メロディとして自然に流れていく。
彼らの音楽は、高度な音楽性を持ちながら、極めて“開かれたポップス”である。複雑な構成や緻密なアレンジを持ちながらも、決して難解にならない。
この「音楽的知性」と「親しみやすさ」の両立こそ、Mrs. GREEN APPLEが幅広い世代から支持を集める理由ではないかと思う。

そしてもう一つ重要なのは、“声”である。
大森元貴の声には、繊細さと危うさ、優しさと痛みが同時に存在している。
私は以前から「声には人間性が現れる」と書いてきたが、彼の歌声には、人の感情を深く理解しようとする感性が滲んでいる。

彼らは、まだ本格的なワールドツアーを行っていない。それでも海外で支持が広がり始めているのは、彼らの音楽が言語以前に“感情”として届いているからだろう。

Mrs. GREEN APPLEは、単なるヒットバンドではない。今という時代の感情そのものを映し出している。
だからこそ、多くの人が彼らの音楽に自分自身を重ねるのである。

◆物故者(音楽関連)敬称略

まとめ:上柴とおる

【2026年5月25日~6月24日までの判明分】

・4/14:篠田ミル(バンド「yahyel=ヤイエル」のメンバー。音楽プロデューサー。作曲家)34歳
・5/23:ジェームス・アンソニー・カーマイケル(米プロデューサー、アレンジャー。モータウン・レコードでコモドアーズやライオネル・リッチー、ダイアナ・ロスなどの制作を担当。アトランティック・スターなども)84歳
・5/25:ソニー・ロリンズ(米テナー・サックス奏者)95歳
・5/26:ジョン・マクレイン(A&MレコードのA&Rマンとしてジャネット・ジャクソンやシャニースなどを手掛けたあと「マイケル・ジャクソン財団」執行役員に。ジャーメイン・ジャクソンとは同級生。映画「Michaelマイケル」ではエグゼクティヴ・プロデューサー)71歳
・5/30:フォスター・シルヴァーズ(ファミリー・グループ、シルヴァーズ)64歳
 ★「一時はマイケル・ジャクソンの‘対抗馬’とも目されたフォスター・シルヴァーズ」
 https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1780421071
・5/31:ロナルド・ラプリード(元コモドアーズのベース&ヴォーカル)75歳<逝去日は公表日>
・5/31:菅原洋一(歌手。「知りたくないのに」「今日でお別れ」など)92歳
・5/31:デクスター・ワンセル(米キーボード奏者。ソング・ライター、アレンジャー、プロデューサー。MFSBでも活躍)75歳
6/03ピーボ・ブライソン(米R&Bシンガー。ディズニー・アニメ「美女と野獣」「アラジン」の主題歌など)75歳
 ★ 「‘ピーボより上手いのはピーボだけ’とも言われた希代の‘デュオ男’」
 https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1780589443
・6/03:ジェイムス・ブラッド・ウルマー(米ジャズ、フリー・ファンク、ブルースのギタリスト&シンガー)86歳
・6/04:マルジャン・サトラピ(イラン系フランス人の作家、映画監督。自伝的コミック「ペルセポリス」は)長編アニメ映画に)56歳<日付は公表日>
・6/04:中牟礼貞則(日本のジャズ・ギタリストの草分け的存在)93歳
・6/07:キム・ユンソル(韓国の歌手)28歳
・6/11:ストレンジャー・コール(1960年代初頭から活動を続けたジャマイカのシンガー)83歳
・6/13:ディー・パーマー(元デヴィッド・パーマー:英キーボード奏者。アレンジャー。ジェスロ・タルのメンバーとしても活躍)88歳
・6/13:ザック・ローチ(米ギタリスト、ベーシスト。ポスト・ハードコア・バンド、センシズ・フェイルなどで活躍)
・6/15:デイヴ・グリーンスレイド(英キーボード奏者。ジャズ・ロック~プログレッシヴ・ロックのコロシアムやグリーンスレイドなどで活躍)83歳<日付は公表日>
・6/15:アブドゥーラ・イブラヒム(南アフリカ出身のジャズ・ピアニスト)91歳
・6/16:フレッド・アレクサンダー(米R&Bファンク・バンド、レイクサイドのドラマー)<日付は公表日>
・6/16:ロバート・“ボビー”・キャスキン・プリンス3世(ボビー・プリンス:ゲーム音楽作曲家。「DOOM」サントラなど)
・6/17:ウォルター・パラゼイダー(シカゴの創立メンバー。サックス奏者)81歳
・6/18:ジャスティン・キャリー(シックスペンス・ノン・ザ・リッチャーのベーシスト)50歳
・6/19:テイ・キース(米音楽プロデューサー)29歳<日付は公表日>
・6/21:山本邦彦(映画監督。脚本家。ザ・スパイダースの「にっぽん親不孝時代」「ザ・タイガース 華やかなる招待」「走れ!コウタロー 喜劇・男だから泣くサ」「おくさまは18才 新婚教室」「法医学教室の事件ファイル」など)92歳<日付は公表日>
・6/22:クライヴ・デイヴィス(米音楽プロデューサー。Columbia~Aristaなどの社長を歴任)94歳