ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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エッセイ

最新号

ミュージック フロム ジャパン 5

森本 恭正

Nancy Malitz
John Fleming
 「音楽による出会い 日本・米国・カナダ」と題して、コンサートとシンポジウムを開催するため、ミュージック フロム ジャパン(MFJ)は北米音楽批評家協会と提携し、北米で活躍する音楽批評家10人を連れて今年7月に来日した。筆者はこのうち5名の音楽批評家にインタビューする機会を得た。先月に引き続き、今月はその五人目ジョン・フレミング氏(タンパ ベイ タイムズ紙)である。
 日本と米国との文化交流を考えるとき、まず、米国は政府が主導して何か若しくは誰かを日本へプレゼンテーションすることはない。ほぼ全てが民間に委ねられている。が、しかし、為政者の姿勢が民間に影響を及ぼさないわけではない。月に書籍を1冊も読まないといわれている文化とはおよそ縁遠いトランプという人物が大統領になって、日米間の文化交流は退潮している。そんな中、米国在住の三浦尚之氏の長年による尽力に拠り、今回のMFJ公演は行われた。その功はとても大きい。
 米国の音楽事情に関していえば、西海岸からミニマルミュージックが世界中に拡散していった70年代から80年代の方が、私たちは多くの情報を得ていたのではないかと思う。例えば現在、アメリカの重要なオーケストラといってすぐに、恐らく誰でも思いつくのは、ニューヨーク・フィルハーモニックやボストンシンフォニーだろう。
 フレミング氏の意見は違った。
 「現在最も重要で革新的なアメリカのオーケストラはサン・フランシスコ交響楽団とロス・アンジェルス交響楽団です」
 「ほう、それは何故?」
 「彼らの作るプログラムをみればわかります。この二つのオーケストラは必ずと言っていいくらい新作をプログラムにいれている」
 「それは、ニューヨークやボストンなどよりも頻繁にということですか」
 「勿論です!ニューヨークやボストン等よりずっとずっと頻繁に!さらにいえば、クリーブランドやシカゴよりも頻繁にです。多分この四つのオーケストラ全部含めても新作の上演回数はサン・フランシスコとロス・アンジェルスに及ばないでしょう。それは西海岸在住の作曲家ジョン・アダムスや新しいプログラムの開拓に熱心な指揮者のマイケル・ティルソン・トーマスの影響も大きいのですが」
 「かつてのアメリカ文化の伝統のように、新しい風は西から吹く、ということでしょうか」
 「その傾向は少なからずあるのかもしれません。それと、映画やTV産業の拠点が西海岸にあるということも大きい。作曲家はより高額な報酬を求めて西海岸へ移動する。最近でもテッド・ハーン(Ted Huarne1982-)のような若い優秀な作曲家がLAへ移住しました」
 ハーンの場合は南カリフォルニア大学の作曲講師陣に加わったことが移住の大きな理由かもしれないが、いずれにしても、米国のメディアで報酬を得ようとするならば、西海岸にいた方が、人脈を作れるということだろう。
 考えてみれば、オーケストラで新作が取り上げられなくなってもう20年以上になるような気がする。戦後のヨーロッパでは、各国の放送局に付属するXX放送交響楽団というものが雨後の竹の子のように出現した。ちなみに我が国のNHK交響楽団もNHKつまり日本放送協会交響楽団である。そうした放送局おかかえの交響楽団が挙って新作の交響曲を演奏した時代が過ぎ、やがてそれらは次々と経営に困窮し潰れていった。今では、ヨーロッパのメジャーオーケストラが新作の現代曲をプログラムに入れることは年に数回あるかないかだ。それだけ、現代作品ひいて言えば現代音楽が嫌われてしまったということかもしれないが、アメリカ西海岸でのこのオーケストラの頑張りは特筆に値することではないだろうか。
 一方、東海岸では何も新しい試みがされていないかというと、そんなことはなく、今回インタビューしたうちの何人かが、低予算で小編成な新作の室内オペラの大盛況であると語った。そんな中、きっと、自ら台本も音楽も書いたスティーブン・ソンドハイムのような人間が何人も生まれてきているに違いないのだが。情報の手がかりがない。事実、私も拙稿を書くに当たってハーンの名前を初めて知った一人である。

東宝ミュージカル「ピアフ」に魅せられて!!!

本田浩子

写真
熱唱する「愛の讃歌」
 2013年に初演以来、4度目の再演となる同公演だが、エディット・ピアフが憑依したかといわれる、大竹しのぶ主演の舞台は大評判で、発売と同時に売り切れとなってしまうが、11月14日に見られる幸運に恵まれた。
 一幕は少女時代から始まる・・・フランスの貧民街で生まれたエディットは、生活の為に路上で歌っていた。みじめな生活を送る娘を歌う「♪雀のように」は路上で歌うエディットにピッタリで印象的。騒がしい路上で聞こえるように、大声を張り上げて歌う様子に、ナイトクラブのオーナーにスカウトされる。その喜びは大きく、親友で娼婦のトワーヌ(梅沢昌代)と幸運を喜び合う。
 本名のエディット・ガシオンから、「小さな雀」のピアフと名付けられた彼女の、全身全霊で歌う愛の歌は、たちまち評判を呼び、人気は増すばかりだが、トワーヌとまではいかないまでも、男には目のないエディットは、いつも愛を求め続けていて、なかなか報われない。そんなエディットはボクシングのチャンプ、マルセル・セルダン(駿河太郎)に出会い、真実の愛を知る。楽屋に訪ねてきたマレーネ・ディートリッヒ(彩輝なお)と歌う「♪バラ色の人生」は圧巻。初めて真実の愛に出会ったピアフだが,巡業に出たマルセルを見送り、神様、愛する人と共に過ごす時間を下さい。と歌う「♪私の神様」は、マルセルの非業の死を予告する魂の歌として会場に響き渡る。不運にも、マルセルは飛行機事故に会い、帰らぬ人となる。「♪美しい恋の物語」は、ピアフのマルセルへの思いを綴った胸を打つ名曲。大竹ピアフの圧唱に会場は静まりかえり、一幕の終わりとなる。
写真
アズナブールと
 二幕が始まると、客席は期待で緊張感すら漂う。
 ピアフは、富と名声で多くの男性歌手を育てている。そんな一人イブ・モンタン(太田翔)は、急に舞台に出られなくなった歌手の穴埋めで、オーディションでその才能をピアフに認められる。彼の歌う「♪帰れソレントへ」の歌声は爽やかに会場に響き渡り、会場から大きな拍手が響き渡る。順風満帆に見えるピアフだが、数回の自動車事故後遺症の苦しみから、モルヒネを常用するようになる。そんな時に出会ったシャルル・アズナブール(宮原浩暢)は、ピアフに認められ、8年間に渡り、彼女の家に住み込み、ピアフの薫陶を受けて、類まれな才能を開花する。シャルルの歌う「♪忘れじのおもかげ」は秀逸。歌手としては成功続きで、華やかにみえるが、ピアフの体はモルヒネ常用と酒害から、ボロボロになっていた。そんな彼女の前に現れたのは、20歳も年下のテオ(上遠野太洸)、ピアフがテオ・サラボと名付けたこの男とピアフは結婚、テオは彼女の最期まで、優しく見守る。二人のデュエット「♪愛はなんの役に立つの」は心地よい。劇中で、精魂込めて10数曲を歌う大竹は、その演技も又、孤独で愛を求め続けた、ピアフ自身が舞い降りたようで圧倒される。ピアフの親友、梅沢演ずるトワーヌの熱演と、又、出番こそ少ないが、彩輝なおマレーネの存在観は抜群で、舞台に華を添える。
 パム・ジェムス作、栗山民也演出のこの作品は、大竹しのぶという稀有の才能を得て、文句なく観客を引っ張り続ける。

舞台写真提供:東宝演劇部

黒澤明監督の映画「生きる」がミュージカルになった!!

本田悦久 (川上博)

アーティスト 1952年の映画が66年後の今年2018年、黒澤明没後20年記念作品として、ミュージカルになった。
 制作はホリプロ。10月8日から28日まで、赤坂ACTシアターで上演された。作曲・編曲はジェイソン・ハウランド。脚本・作詞は髙橋知伽江、演出は宮本亜門。
 (ストーリー) 役所の市民課に勤務して30年になる渡辺勘治 (鹿賀丈史と市村正親のダブル・キャスト、筆者の観劇日23日は鹿賀丈史) は、課長という肩書きはあるが、いるのかいないのか判らないくらい 存在感が薄い。あとわずかに迫った定年まで無事に勤められればいいのだ。妻を早く亡くし、家では息子夫婦と同居しているが、会話もあまり無い。ある日、体調不良で病院に行くと、胃癌に冒されていた。残された時間は半年位だそうだ。
 そんな時、渡辺は部下の若い女性、小田切とよ (渡辺一枝) と街で偶然に出会う。「私、お役所辞めるつもりよ・・・」という彼女の明るさに惹かれて、彼女とよく出かけることになる。そして自分が胃癌であることを打ち明けると、彼女は「何か作ってみたら・・・」と渡辺に助言する。これから自分に出来ることがあるだろうか? と自問自答する渡辺が歌う「二度目の誕生日」。遅くはないのか 間に合うのか まだ今のままならば 死ぬ日を待つだけになる・・・静かに歌うこの歌が観客席に響き渡る。
 悩んだ渡辺は市役所で懸案になっていた公園づくりを思いつく。
写真 「青空に祈った」誰もが笑顔にあふれ、心がつながるように、公園をここにつくりたい。これから生まれる子供たちのためにも・・・ この「青空に祈った」は明るく力強く、希望が客席に満ちてくる。
 それから5か月後、渡辺は死んだ。他の市職員が協力もしない中、孤軍奮闘しながら彼が創った新しい公園は、子供たちの笑い声で溢れていた。
 出演者の渡辺一枝、小田切とよ、唯月ふうか他の熱演も素晴らしいが、狂言回し役の新納慎也の存在観は、特筆に値する。他に俗物を体現するような助役役の山西惇の存在も見逃せない。主役の鹿賀丈史の出演作はいろいろ観てきたが、今回のような平凡な男の苦しみを描く作品での歌と演技は、初めてだ。生きる悩み、喜びを見事に演じ切っていた。
 「ゴンドラの唄」「二度目の誕生日」「青空に祈った」は物語に欠かせない佳曲だが、他に「仕事を休んだことはない」「自由な時代が来た」[貴方の心が見えない」「ワクワクを探そう」「金の匂い」等のミュージカル・ナンバーが、人間の心情をよく表していて見事だった。

舞台写真撮影:引地信彦