最新号
布施明60thANNNIVERSARY LIVE TOUR『VOYAGE 旅路』に見る圧巻の歌声
久道りょう
大阪フェスティバルホールで開催された布施明のコンサートを2年ぶりに拝見した。
昨年12月に77歳になった彼は、デビュー60周年。
まさに圧巻の歌声だった。
私は2022年3月に彼のコンサートを初めて拝見した。
その少し前に、NHKの「SONGS」で歌声を披露していたからだ。
とても70代後半の歌声とは思えない色艶の良い響き、そして伸びのある歌声に、どうしても『君は薔薇より美しい』を生歌で聴きたくなった。
今のうちに聴いておかないと、いつ、この歌声が聴けなくなるかもしれない。
そんな思いに駆られて、急いでチケットを購入した記憶がある。
NHKの番組を拝見するまでの私の記憶の中の布施明は、歌声が少し落ちて来た、という印象を持っていた。
後から知ったことだったが、ちょうどその頃、彼は声帯にポリープが出来ていて、手術を受ける寸前まで行ったとか。
しかし、ある発声法を行なったことで奇跡的にポリープが消失。歌声を取り戻したというのだ。
私が久しぶりにNHKの番組を拝見したのは、彼が歌声を取り戻した後だったのだ。
そんなことも知らない私は、彼の歌声を聴いて、「歌声が戻っている」と感じた。
伸びのある歌声、艶のある響き。
布施明という歌手の持ち味が戻っているのを知って、どうしても生歌で聴きたくなった。そして、初めて聴いた彼の歌声は私の欲望を十分満足させる素晴らしいものだったのだ。
それから3年。
彼の歌声は全く衰えていなかった。
これが声の専門家として仕事をする私には驚嘆することなのである。
今回のコンサートでは、彼は60周年ということもあって、デビュー曲から数々のヒット曲までメドレーという形で歌い上げ、1時間40分、歌い続けた。
『霧の摩周湖』『シクラメンのかほり』『愛は不死鳥』など、次々に披露される曲は、私のようにファンとも言えない人間でも知っている曲ばかりだ。
そして、そのどれもが歌い上げていく歌ばかりである。
マイクを口元から遠く離して歌っても、完全にマイクを外してしまっても、彼の歌声はフェスティバルホールの会場の後方席まで響き渡っていた。
それは、まさに「歌声の芸術」と呼ぶのに相応しい。
そして、観客もステージ上のバンドメンバーも座っている中、彼1人、ステージに立ち続けたのである。
さらに驚いたのは、彼は歌えば歌うほど歌声が良くなったことだ。
最初、響きに少し混濁が見られた歌声は、後半になるにつれ色艶を増し、響きが見事に整えられていった。
もちろん、これはどの歌手にも良くあることだ。
コンサートの最初は、まだ身体も声帯の筋肉も温まっていないことが多く、後半になるにつれ歌声が良くなる歌手は多い。
しかし、それは若い世代に多いことで、中年以降は、普通、後半に疲れが見えてく人も少なくない。
しかし彼は違った。
若い世代と同じように歌えば歌うほど歌声が伸びていったのである。
そして歌い続けた後のアンコールの1曲目は『マイウェイ』
イントロが流れて来た時、「ああ、これもあった」と思った。
1時間半以上、歌い続けてきた最後の最後に大曲『マイウェイ』を歌い上げていく。
そんな70代後半の歌手がいるだろうか。
オペラ界でも見つけることは至難の技かもしれない。
コンサートの最初から最後まで全く声量も色艶も伸びも落ちない彼の歌声は、オペラグラスで観るのも憚られるほどの集中力を私達に示した。
オペラグラスを手にとっても、それを目元に持っていく瞬間も惜しいほど私の視線を釘付けにした。
彼の歌声から一瞬たりとも目を逸らしたくない。
ズドーンとエネルギーの乗った歌声の帯が客席の私達に届いてくる。
その歌声の帯の中に浸りたい。
歌声を遮りたくない。
まさに彼の美声を全身に浴び続けたのだ。
布施明の歌声がなぜ若い頃と全く変わらないのか。
それは彼と同い年の小田和正にも同じことが言える。
歌声というものは、長い年月歌い続け、声帯の加齢と共に変化する人が殆どである。
しかし彼らのように、若い頃と全く遜色のない歌声を保ち続けている人もいる。
その理由を私は今回、布施明の歌声を聴いて分かったような気がする。
そして、それを小田和正に当てはめてみると、まさに同じ理由であることがわかるのだ。
それだからこそ、彼らは70代後半になっても歌い続け、さらにここからも年数を重ねていくだろう。
そして、その歌声は決して死ぬまで変わらないかもしれない。
そんなレジェンドの歌声を聴くことが出来る同じ時代に生きていることの幸せを感じた一夜だった。
Little Glee Monster『晴れの舞台』に見るストロングヴォイスの魅力
久道りょう
今年結成10年を迎えるボーカルグループLittle Glee Monsterが絶好調だ。
10年前、若干15、6歳の少女達によって結成されたボーカルグループは、今、J-POP界の中で、唯一のボーカルグループとして、いわゆるアイドル路線やガールズグループとは一線を画した存在となっている。
世界に通用する女性ボーカリストの発掘を目的として「最強歌少女オーディション」の合格者を中心に集められたメンバーは、10年の間に離脱を繰り返しながらも、核となった3人(かれん、MAYU、アサヒ)によって、そのコンセプトはしっかり守られてきたと言っていいだろう。
名前の中にあるGleeは、男性の3部、又はそれ以上の声部から成り立つ無伴奏の合唱曲の意味を成すものだが、その名前の通り、彼女達のハーモニーは、3部以上に別れて多重構成されたハーモニーの楽曲も少なくない。
また、新しいメンバー(ミカ、結海、miyou)の3人が加わったことで、ハーモニーの構成に様々な組み合わせを作り出すことが出来ており、まさに歌声の旋律が交錯する世界を描き出している。
このような世界を描き出せるのは、各人の歌唱のレベルが拮抗していなければならず、後から入った3人の著しい成長無くしては決して実現出来ない世界とも言える。
いずれにしても、最近のリトグリは聞いていて非常に満足するのだ。
私のようにクラシック畑出身であり、コーラスやアンサンブルといったハーモニーの世界を経験してきた人間にとって、最近のリトグリは「本格的なハーモニーを味わいたい」という欲望を十二分に満たしてくれる存在である。
今回の楽曲『晴れの舞台』は、躍動感とスピード感に溢れた楽曲である。
その楽曲に相応しく、彼女達の歌声も躍動感に溢れ、ストレートボイスの直線的なハーモニーの世界を描き出している。
特に、歌声に関しては、どのメンバーも力強く、響きに一切のブレがない。
真っ直ぐな6本の歌声のラインが交錯していく世界を描き出している。
今回の楽曲に使われている彼女達の歌声は、「ストロングヴォイス」
その名の通り、力強い歌声だ。
真っ直ぐで力強い歌声が幾重にも重なり合って、さらに歌声の太い帯を作り出していく。
メンバーが6人になったことで、様々な形でのパートごとのコラボによるハーモニーの形が楽しめる厚みのあるハーモニーになっている。
また、この楽曲のスピーディーなテンポがハーモニーやコラボの変化を次々に聴いている側に与える為に、聴き手の渇望感を満たし、さらにボーカルサウンドの世界の魅力にハマっていくのだ。
10周年記念ライブ、私は7月の大阪を拝見する。
リトグリのライブに行くのは2年ぶり。
2023年、年明けの大阪での新メンバーお披露目ライブ以来だ。
その時の新メンバー達の初々しさと未熟でぎこちなかったハーモニーを覚えている。
あれから僅か2年。
大きく成長した彼女達のステージをワクワクするぐらい、今から楽しみにしている。
7月のライブでは、さらに進化したハーモニーを楽しみたい。
◆物故者(音楽関連)敬称略
まとめ:上柴とおる
【2025年2月下旬~2025年3月下旬までの判明分】
・2024.11/30:スティーヴ・アレイモ(米プロデューサー。マイアミ・サウンドの重鎮。元ポップ・シンガー)84歳
・2/21:加藤世紀(電子楽器メーカー「コルグ」社長)67歳
・2/21:カリル・フォン<方大同>(歌手。活動拠点は香港)41歳
・2/24:心臓ウリン(7人組女性アイドルグループ「マザリ」のメンバー)
・2/26:国弘よう子(映画評論家。ラジオDJ。1976年から14年間、FM東京「音楽の森」担当)
・2/28:デヴィッド・ヨハンセン(米シンガー・ソング・ライター。俳優。元ニューヨーク・ドールズ)75歳
★「デヴィッド・ヨハンセン:1982年のライヴ盤は(個人的に)興奮させてくれました」
https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1740917147
・3/01:アンジー・ストーン(米R&Bシンガー)63歳
・3/01:ジョーイ・モーランド(ゲイリー・ウォーカー&ザ・レイン~バッドフィンガーのギタリスト)77歳
★「ジョーイ・モーランドといえばゲイリー・ウォーカー&ザ・レイン♪」
https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1741014836
・3/04:ランディ・ブラウン(米R&Bシンガー)73歳
・3/04:ロイ・エアーズ(米ジャズ・ミュージシャン。ビブラフォン奏者。ソング・ライター。プロデューサー)84歳
・3/06:ブライアン・ジェイムス(英ロック・ギタリスト。ザ・ダムド、ローズ・オブ・ザ・ニュー・チャーチなど)70歳
・3/07:ドゥエイン・ウィギンス(米R&Bグループ、トニー・トニー・トニーのヴォーカル&ギタリスト)64歳
・3/09:サイモン・フィッシャーベッカー(英俳優。「ハリー・ポッターと賢者の石」など)63歳
・3/10:フィソン(韓国の歌手)43歳
・3/11:いしだあゆみ(歌手。俳優)76歳
・3/13:ソフィア・グバイドゥーリナ(ロシアの現代音楽の作曲家)93歳
・3/16:ジェシ・コリン・ヤング(米シンガー・ソング・ライター。元ヤングブラッズ)83歳
★「山下達郎のシュガーベイブの‘生みの親’ジェシ・コリン・ヤング」
https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1742382578
・3/16:廣石惠一(ドラマー。杉山清貴&オメガトライブ~クレイジーケンバンド)64歳
・3/17:佐藤秀光(クールスのリーダー。ドラムス担当)73歳
・3/21:ラリー・タンブリン(1960年代の4人組、スタンデルズのフロント・マン。キーボード)82歳