三浦大知の新曲「ALOS」から感じる
三浦大知の内容律の高さ
久道りょう
先日、国内で開発を進めている新型国産ロケット「H3」の打ち上げが中止されたが、このロケットは、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)が三菱重工と共同開発したもので、次世代の大型ロケットである。このロケットには「だいち3号」が搭載されていた。
「だいち3号」は、JAXAが2006年〜2011年に打ち上げた陸域観測技術衛星「だいち」シリーズを引き継ぐもので、このシリーズ衛星のイメージソングということで「ALOS」が発表され、同時に彼がシリーズ衛星の応援アンバダサーに就任したということも発表されたものである。
楽曲は、作曲をUTAと三浦大知、作詞が三浦大知という数々の曲を作ってきた黄金カップルによるもの。
この楽曲を聴いた時、私は彼の新しい世界の広がりを感じたのだった。
音楽的見地から分析すれば、楽曲はR&Bの王道的なリズムの楽曲だが、バックに歌声を被せてくるところが何ヶ所もあり、これがメロディーとは全く違うリズムで音楽を刻んでくる。
即ち、1つのメロディーラインに2つのリズムが存在するということになる。
サブパートがメロディーを追いかける、歌声を下支えする、ハーモニーをつけてメロディーに厚みを出す、というだけでなく、このパートがあることで、音楽が前へ前へと滑っていくのを後打ちのリズムによって、その場所でリズムを刻ませるブレーキ役になっている。このことによって、音楽はその場所にしっかりと留まり続けることになる。
このコンポーズの仕方が非常に面白いと感じた。
これも彼の中での1つの新しい試みなのかもしれない。
三浦大知という人は、常に新しい試みを仕掛けてくるアーティストでもある。
確かなダンス力に支えられた「踊って歌えるアーティスト」という肩書きに留まらず、アルバム『球体』では、誰も行ったことのないような映像と音楽と、そしてダンスパフォーマンスによるステージを展開し、1つの音楽劇のような世界を作り出した。
そうかと思えば、昨年大ヒットした『燦燦』のように優しく温かい歌の世界をしっかり歌い上げてくることで、「歌って聞かせる」アーティストの面も見せてくる。
「動」と「静」という2面性を見事に三浦大知というアーティストによって作り上げてくるセルフプロデュース力を発揮し続けているとも言える。
今回の楽曲が「だいち」のイメージソングとして、また彼自身がアンバダサーに就任したということは、三浦大知というアーティストの活動が社会的にも音楽という狭い世界に留まらず、非常にバランスの取れたアーティストとして社会貢献出来る人物であるということを別分野からも認知されている、ということになるのだろう。
これが、いわゆる民間企業の商品のアンバダサーに就任することとの大きな違いであるとも言える。
そして、この楽曲を歌う彼の歌声はまた進化した。
この楽曲ではヘッドボイスの細く尖った透明感のある響きの歌声と、中音域の甘いミックスボイス、そしてソフトで幅広い響きの低音部と、3つの歌声が交互に現れ、その対比の色彩の違いが見事なのだ。
この色彩の違いによって、音楽の色が幅広く変わり、その中で、音楽の広がりを感じさせる。この広がりは、そのまま、宇宙の広いイメージを感じさせるものになっているのも、この楽曲の特徴と言えるだろう。
三浦大知は、いつも変化し、進化し続ける。
その変化は、単に音楽的変化というものではなく、その裏側に三浦大知という人間の内容律の変化が潜んでいるということなのだろう。
彼は今年、どんな進化を遂げるだろう。
風の時代と共に、決して同じ場所に留まらない彼の音楽の世界を今年も楽しみたい。