最新号
紅白に見るB'zの圧倒的存在感
久道りょう
毎年の紅白の視聴率が揶揄されるようになって久しい。
昨年の視聴率は前半は29%、後半は32%だったそうで、なんとか下げ止まりを阻止したとのこと。
TVでリアルタイムで番組を観る習慣が無くなり、自分の生活スタイルに合わせて必要な媒体を使って本当に観たいものだけを見るという時代になった。
そんな中、視聴率30%前後を叩き出す紅白は、年末にある数々の音楽番組の中でも特別な存在と言えるだろう。
今回の紅白は、白組の勝利。
あれだけのラインナップを揃えれば当然の勝利とも言える。
NHKの後出しジャンケンとも言えるサプライズは恒例となっているが、今年は玉置浩二、米津玄師、B'zと、現代のJ-POP界を象徴するようなアーティストが次々と発表された。
その中でも特筆すべきは、B'zの出演だろう。
彼らが収録済みの映像で演奏する、または、スタジオでの演奏、というのは誰もが想像したものだったかもしれない。
なにせ、彼らは、朝ドラのテーマソングを歌っているのだから。
朝ドラのテーマソングに選ばれる、ということは、紅白に出場する、ということがお約束ごとのようになっている近年である。
しかし、「おむすび」の主題歌歌唱が終わった後に、彼らがNHKホールのステージに現れ、生の歌唱を披露するというのは、誰もが想像を超えた体験だっただろう。
そして、『LOVE PHANTOM』『Ultra soul』という彼らの代表曲である2曲を熱唱したのだ。
この歌唱には、観客だけでなく、この日の多くの出演者達がただのファンに成り下がった瞬間だったかもしれない。
誰もが知る楽曲を引っ提げて、今年、64歳と61歳になる2人が熱唱したのだ。
彼ら2人の熱いパフォーマンスと歌声は、彼らが現役であることの確たる証となった。
ボーカルの稲葉浩志の歌声は、到底、60代とは思えない。
彼が自分の声帯というものに対する非常にストイックな自己管理をすることは有名な話だが、その小さな意識の積み重ねが何十年経っても色褪せない歌声に繋がっていくのだということを証明した夜でもあった。
紅白は、一年の締め括りとも言うべき音楽番組である。
年末には、多くの音楽番組の特番が組み込まれるが、老若男女、誰もが安心して、世代を超えて一緒に観ることが出来る音楽番組と言える。
「最近の歌はさっぱりわからない」と思う世代も、
「昔の歌は古くさーい」と思う若者も
一緒になって、
今年、流行った歌を知る。
「紅白なんて何の価値もない」
「紅白に出ることだけが全てではない」
そう言いながらも、
初めて出場が決まったアーティスト達は、口を揃えて、紅白に出られることの喜びを語る。
「おじいちゃんやおばあちゃんが喜んだ」
「紅白に出ることだけを目標にしてきた」
そんな言葉を口にする。
そして、何回、何十回も出場しているアーティストや、レジェンドと呼ばれる日本の先輩達のパフォーマンスを肌で感じ取る。
そんな場所が「紅白歌合戦」という場所だ。
今まで一度も出場したことのなかったB'zが紅白に出たというだけで、紅白の評価は上がり、B'zのファンクラブは1万人も登録が増えた。
再入会や若者世代の入会が増えているという。
そしてそれに合わせて発表された彼らのドームツアー。
チケットは間違いなく争奪戦になるだろう。
誰もが一度は耳にしたことのある「ウルトラソウル!」の掛け声と共に、彼らのステージを見たことのなかった若い世代をも虜にしていく。
彼らは、紛れもなく日本のレジェンドだ。
その存在感をあらためて感じさせた夜だった。
ゆず「ARIENA TOUR図鑑」(大阪城ホール)に見る時代との融合性
久道りょう
1月11、12日に大阪城ホールで開催されたゆずの「ARIENA TOUR図鑑」を拝見した。
この日のセトリは、アルバム『図鑑』からの曲をメインに年末に発表されたという新曲『flowers』があり、お馴染みの『夏色』や『Chururi』『栄光の架け橋』というふうに、私のように彼らのファンと言えない一般客も楽しめる構成になっている。
これがヒット曲を数多く持つアーティストの強みだろう。
仕事柄、さまざまなアーティストのライブに出かけるが、いつも興味を持って必ず拝見するのは、ファンの年齢層や男女比だ。
女性ばかりの客席もあれば、男女比が混合のところもあり、また年代も若い世代が中心のところもあれば、若年層から高齢層まで幅広いところや、親子連れ、祖父母と孫のような世代の客席も見かける。
それらのファン層がそのアーティストのファン社会のカラーを作り上げており、それらを拝見することによってアーティストの魅力や人間性を感じ取ることも多く、また長く活動してきたアーティストとファンとの関係性を知ることも出来る。
今回、拝見したゆずの観客席の印象は、一言で言えば、「非常に穏やか」
終始、彼らの楽曲に合わせて手拍子やアクションなど。
非常にアットホームで暖かい雰囲気を醸し出していた。
この温かみが、ゆずの魅力なのだと感じた。
それは彼らの楽曲にも現れている「人生の応援歌」のようなもの。
ギター一本の弾き語りというスタイルで中学生の同級生同士で始まった音楽デュオは、常に日常生活の穏やかなワンシーンや、誰もが経験する小さな出来事、さらには青春や人生の1ページを飾るような出来事から生まれた歌が多いのが特徴でもある。
ギターの弾き語りという音楽の原点ともいうべきスタイルは、素朴で音楽そのもので人の心を掴んでいくもの。
彼らがデビューした1997年頃のダンスミュージック全盛期から、現代のK-POPフィーバー、そして、VOCALOIDという新しい音楽スタイルまで、J-POPは常に変化を続けてきた。
その中で28年間という長い時間、彼らのスタイルは揺らぐことなく、ギターの弾き語りとしての「音楽の原点の魅力」を放ち続けている。
それは、単に音楽の原点スタイルに拘り続けているだけでなく、常に新しいものを吸収しながらも、「弾き語り」というスタイルを崩さず、その中で自分達の音楽との融合性を図ってきたようにも感じる。
特に、北川と岩沢の見事な力強い歌声に支えられたハーモニーは、フォークソングが決して弾き語りだけでなく、情熱的な音楽であることも同時に伝えている。
この日、「年末に作った新曲を披露します」と北川が紹介した『flowers』は、今までの彼らの魅力と新しいステージの予感を感じさせるものになっていた。
今回、大阪公演で披露された新曲『flowers』はゲームアプリ「モンスターストライク」とのコラボレーションソングとのこと。
北川の歌詞と曲に加えて、作曲に音楽プロデューサーTeddyLoidが加わって制作されたもの。
MVの映像の世界観は言うまでもなく、今までの彼らのイメージとは違うエレクトロニックでリズミカルな音楽が叩き出されている。
サビのフレーズ「咲け try try try 〜」から始まるアップテンポなメロディーは、今、流行りのJersey Clubから生まれたリズムのアレンジを彷彿させるものとなっており、非常に軽快で中毒性のあるフレーズだ。
また、彼らのエネルギッシュなギターサウンドと歌声に彩られ、一度で覚えられる印象的なサビになっている。
誰もが一度聞けば、すぐに覚えられるもの、繰り返し歌いたくなるもの。
そんな魅力に溢れたフレーズになっている。
また、楽曲全体は、彼らのアコースティックギターサウンドがデジタルサウンド化され、冒頭からインパクトの強い音楽になっている。
MVの映像美と共に、今回のライブで、私の中で、一番印象に残ったシーンだった。
彼らは、28年もの間、走り続け、その間に多くのJ-POPの音楽の流行があったにも関わらず、揺るぎないポジションを保ち続けている。
それは、今回の『flowers』にも見られるような、新しい感覚や音楽を取り入れる柔軟性と自分達の音楽スタイルとの融合性によって、原点である「弾き語り」というスタイルを決して崩さなかったからに違いない。
彼らの新しい試みは、「弾き語り」という音楽のジャンルが膨らみ新しい音楽への拡大の可能性があるものとして、今後も彼らの手によって音楽の魅力を伝え続けることになるだろう。
それがフォークデュオ「ゆず」の魅力の最たるものだと感じさせる夜だった。
◆物故者(音楽関連)敬称略
まとめ:上柴とおる
【2024年12月下旬~2025年1月下旬までの判明分】
・12/22:知名宏師(沖縄のオーディオ・メーカー、知名御多出横<知名オーディオ>創業者)77歳
・12/24:リチャード・ペリー(米プロデューサー。ポインター・シスターズなど多数担当)82歳
・12/26:冬木透(作曲家。「ウルトラセブン」「帰ってきたウルトラマン」「鳩子の海」「牧場の少女カトリ」など)89歳
・12/27:オリビア・ハッセー(俳優。「ロミオとジュリエット」「復活の日」など。ディノ・マーティンや布施明と結婚)73歳
・12/27:チャールズ・シャイア(米映画監督。脚本家。「パートリッジ・ファミリー」「おかしなカップル」「花嫁のパパ」など)83歳
・12/28:バール・フィリップス(フリー・ジャズ系ベーシスト)90歳
・12/28:鈴木央紹(ジャズ・サックス奏者)52歳
・12/29:ジミー・カーター(元米国大統領。‘ロックン・ロール・プレジデント’。ノーベル平和賞受賞。歴代大統領経験者では最高齢)100歳
・12/31:ジョニー・ウォーカー(イギリスの人気ラジオDJ)79歳
・12/31:ドン・ニックス(米シンガー・ソングライター。プロデューサー)83歳
・1/01:ウェイン・オズモンド(オズモンド・ブラザーズ)73歳
・1/03:ブレントン・ウッド(米R&Bシンガー)83歳
★「ブレントン・ウッド逝去の報に感じた‘違和感’」
https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1736335794
・1/05:井上正(16TONSのヴォーカル、アコーディオン、ギター)
・1/07:ピーター・ヤーロウ(PP&M)86歳
★「PP&Mで一番好きなポップ・ヒットはもちのろん『ロック天国』!」
https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1736536772
・1/07:汐澤安彦(指揮者。東京音大名誉教授。東京佼成ウインドオーケストラなどで常任指揮者を歴任。トロンボーン奏者)86歳
・1/08:新川博(作・編曲家。光GENJI、SMAP、KinKi Kids、松田聖子などを担当。松任谷由実のステージ監督(音楽)も。ハイ・ファイ・セットのバックバンド出身)69歳
・1/10:サム・ムーア(米R&B歌手。サム&デイヴ)89歳
・1/10:朝野由彦(名古屋のシンガー・ソング・ライター。「春一番コンサート」など)73歳
・1/10:コリン・カーター(元フラッシュのヴォーカル)
・1/10:佐野成宏(テノール歌手)59歳
・1/11:三浦洸一(ビクター専属の最古参歌手。日本歌手協会会員)97歳
・1/13:オリビエーロ・トスカーニ(イタリアの写真家)82歳
・1/15:リンダ・ノーラン(ノーランズ)65歳
・1/16:デヴィッド・リンチ(米映画監督。「マルホランド・ドライブ」「エレファント・マン」「ツイン・ピークス」など)78歳
・1/16:トビー・マイヤーズ(米ベーシスト。ジョン・メレンキャンプを長年サポート)75歳
・1/18:マイク・ミラー(米L.A.のAOR/フュージョン系セッション・ギタリスト。2024年2月のボズ・スキャッグス来日公演に同行)71歳
・1/18:藤井一興(ピアニスト。作曲家。東邦音楽大や桐朋学園大で教鞭)70歳
・1/20:アイ・ジョージ(歌手。俳優)91歳
・1/21:ジョン・サイクス(ロック・ギタリスト。タイガース・オブ・パンタン、シン・リジィ、ホワイトスネイク、ブルー・マーダーなどで活躍)65歳
・1/21:ガース・ハドソン(ザ・バンド)87歳
・1/22:バリー・ゴールドバーグ(米キーボード奏者。エレクトリック・フラッグ、バリー・ゴールドバーグ・リユニオン、KGBなどを歴任)82歳
★「バリー・ゴールドバーグ・リユニオン」
https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1737805108
・1/23:バリー・マイケル・クーパー(米脚本家。1990年代に「ニュー・ジャック・シティ」「ビート・オブ・ダンク」「シュガー・ヒル」など)66歳