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エッセイ

最新号

Ado SPECIAL LIVE「心臓」国立競技場ライブ批判に見る野外ライブの難しさ

久道りょう

4月27、28日に国立競技場で行われたAdoのライブの音響について、一部の観客(なのか、ただの外野なのか不明だが)から不満が噴出しているという。

このライブは、ワールドツアーから戻ったAdoが女性アーティストとして初めて国立競技場で行うということで、開催前から、ずいぶん話題になっていた。

私は、今回、運よく初日の27日にチケットが当選し、知人男性三人と、このライブに参加してきた。当選した席は、アリーナの一番前方右端のブロックの13列目という、非常に恵まれた場所での観覧となった。
アリーナ席だったからか、私達の場所では、批判されているような音響の問題はほぼ感じられなかったと言っていい。
ライブでは、彼女特有の檻の中に入ったシルエットに背景に映し出されるバーチャル映像、そして、音楽とレーザービーム。これらが交錯した中でのライブで、昨年の夏に大阪城ホールで拝見したライブより、会場だけでなく、これらの演出効果のスケールがさらにバージョンアップしていることをまざまざと感じさせるような演出だった。

もちろん、彼女の歌唱力やパフォーマンス力は言うまでもなく、この日は、彼女が、なぜ、この道に入ったのか、過去の辛い時期に何に救われてきたのか、という話や、ワールドツアーを経験して、これからさらに一層、何を目指していくのかについて語るという場面があり、彼女の並々ならぬ決意をあらためて聞かせて頂くこととなった。

彼女の目指すバーチャルな世界とリアルな歌手との一体化した世界というものは、日本の新しい文化であり、海外にアピール出来る強力なコンテンツの1つになるだろう。
そして、若干、21歳そこそこの若者が、「日本の文化、日本の良さを海外に伝えたい」と宣言することに、私のような中高年世代は、自分の過去を振り返って、意思の強さとそれを実行してしまう行動力に驚嘆するのである。

この日、一緒にライブ参戦したおじさん達は、「凄い」の連発しかなかった。
国立競技場をアリーナ席から見渡せば、配布されたリストバンドのライトが波のように揺れ、圧巻の風景がそこに広がっている。
屋根の上には、花火が何度も打ち上げられ、夜空を彩る色の洪水の中に身を置くようだった。
そんな印象的なライブを体験した私達には、今回の音響問題に関する批判は、ただただ残念としか言いようがない。
確かに、音響は、どの会場でもスタッフを最高に悩ませる問題と言えるだろう。
どんなにリハーサルを重ねても、観客が入れば、音の響きは明らかに違ってくる。
ましてや、それが野外ともなれば、その時の風向きや天候などによって大きく影響を受けることは明らかなのである。
それらのことを十二分に計算した上で、ライブを提供するのが当たり前ではないのか、という正論はもっともと言える。
それでも、私は様々なアーティストやバンドのライブを拝見した経験から言えば、音響という部分で満足できるホールは、ほんの数カ所しかないのではないだろうか。
玉置浩二や平原綾香などの実力派シンガーが好んで使う大阪フェスティバルホールは、歌手がマイクを外してアカペラで歌えるホールとして有名だが、そんなホールでさえ、アーティストによっては、バンドの使う機材の種類で、音が反響しすぎて歌が聞こえにくい、という印象を持ったライブもある。
特にAdoの場合、生のバンド音だけでなく、幾つもの音を重ねて音楽を作ってきているであろうから、それらの反響音というものも微妙に影響を与えたのかもしれない。

いずれにしても、野外コンサートである以上、席の場所によっては、非常に音が聴きづらくなるということをある程度承知した上で、観客もチケットエントリーを考える時代が来ているように思う。
ドーム公演や、スタジアム公演など、元々、音楽の為に作られたホールではなく、スポーツの競技場でライブを行うこと自体が、既に音響を完璧には出来ない前提があるように感じるからだ。
大きな箱でライブを行わなければ、とてもペイできないほど、ライブというイベントは興行的に言えば、全く割の合わない催し物である。
それでも生の歌声を提供したいという熱意のみで実現している現在の状況から考えれば、いずれライブそのものが行われなくなる可能性もないとは限らない。

いずれにしても、アリーナ席で十二分に彼女のパフォーマンスを堪能した私達にとっては、彼女とスタッフに感謝したくなるほど素晴らしいコンサートだったということだけ、最後に書き加えておこう。

◆物故者(音楽関連)敬称略

まとめ:上柴とおる

【2024年4月下旬~2024年5月下旬までの判明分】

・4/21:フジコ・ヘミング(ピアニスト)92歳
・4/24:マイク・ピンダー(ムーディー・ブルースのキーボード奏者)82歳
・4/30:デュアン・エディ(ロックン・ロール・ギタリスト)86歳
・5/6:菅弘典(3人組ロック・バンド「壬生狼」のドラマー)54歳
・5/7:小宮守(音楽ユニット、Cockroacheee'zのラッパー)
・5/7:スティーヴ・アルビニ(レコーディング・エンジニア。プロデューサー。ニルヴァーナ、ピクシーズなど数多く担当)60歳
・5/08:ジョン・バーベイタ(米ドラマー。センチナルズ、タートルズ、CSN&Y、ジェファーソン・エアプレイン、ジェファーソン・スターシップなどなど。セッションも多数)79歳
・5/09:ダディ竹千代(音楽プロデューサー。ダディ竹千代&東京おとぼけCATS)70歳
・5/12:デイヴィッド・サンボーン(米サックス奏者)78歳
・5/12:くぅ(村上蔵馬:ロック・バンド「NEE」のギター&ヴォーカル担当)25歳
・5/14:キダ・タロー(作曲家。タレント)93歳
 *2024年5月15日付ブログ「32年前、このCDの発売を大歓迎したのは関西人だけではなかったと思います。」
 https://merurido.jp/magazine.php?magid=00012&msgid=00012-1715791148
・5/14:ジミー・ジェイムス(ジミー・ジェイムス&ザ・ヴァガボンズ)83歳
・5/18:ジョン・ワイサッキー(米バンド「ステインド」の元ドラマー)53歳
・5/18:パレ・ダニエルソン(スウェーデンのジャズ・ベーシスト。キース・ジャレット・カルテットなど)77歳
・5/19:ペギー・ブルー(米R&B歌手。セッション多数。1987年にR&Bチャートで2曲ランク・イン)78歳
・5/21:ウェルナー・ヒンク(バイオリニスト。元ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団コンサートマスター)81歳
・5/21:YASS(ロックバンド「LORAN」のボーカリスト。シンガー・ソングライター。プロデューサー)58歳
・5/22:真島茂樹(振付師。ダンサー。「マツケンサンバII」など)77歳
・5/22:チャーリー・コリン(米バンド「トレイン」の元ベーシスト)58歳
・5/24:ダグ・イングル(アイアン・バタフライのリード・ヴォーカル、オルガン奏者)78歳
・5/25:リチャード・シャーマン(米作曲家。ディズニー楽曲のレジェンド。「メリー・ポピンズ」「イッツ・ア・スモールワールド」など。「チム・チム・チェリー」でアカデミー賞とグラミー賞を受賞)95歳