ALBUM Review
Pierre L. Chambers
Shining Moments
Dash Hoffman Records DHR1028
ヴォ―カリストで詩人のピエール・L・チェンバースは、有名なベーシスト、ポール・チェンバースの子息。40年以上歌に携さわってきたが、これが初アルバムになる。彼は、ニューヨークで生まれ、デトロイトで育ち、最近25年程は、ロスアンジェルスに住んでいる。父親は、留守のことが多く、音楽好きだった母親のアニー・チェンバースに影響されることが大だったという、学生時代は、バンドでサックス、クラリネットを吹いたり合唱団で歌ったりして、後にプロの合唱団でも活躍、1996年にロスに移ってからは、ランバート・ヘンドリックス&ロスの模倣グループを作り活躍している。そんな中、歌手でプロモーターでもあるキャシー・シーガル・ガルシアと出会い、このソロ・デビュー・アルバムが企画された。メンバーは、地元のカレン・ハンマック(p)ヘンリー・フランクリン(b)クレイトン・キャメロン(b)のトリオに曲によってジェフ・ケイ(fh)、ドリ・アマリロ(g)が加わる。「Work Song」、「My Favorite Things」、「The Nearness Of You」を柔らかのバリトン・ヴォイスでベテランらしい説得力のある歌で披露した後、父親のポール・チェンバースが妻のアン・チェンバースの為に書いた「Dear Ann」に作詞して歌う、そして語りで母親に関する自作の詩を朗読する。後に父親への詩も朗読するが、全11曲、温かい彼の人間性が滲み出ている感じで心を落ち着かせてくれるアルバムだ。(高田敬三)
ALBUM Review
高樹レイ
DUO Complete Edition
Uplift Record UJRN 23017
高樹レイは、2013年にサックスの竹内直と「Two Voices」という大変野心的なアルバムを発表した。スタンダード曲に加えて、ビル・エヴァンス、ウエイン・ショーターの器楽曲、イヴァン・リンス、モンゴ・サンタマリアの曲まで幅広いレパートリーをレイの歌にオーヴァーダヴィング等も使って竹内のサックスと対話する二人だけのユニークな世界を創造するものだった。このアルバムを聞いた時、友人のノルウエーのヨーロッパを代表するジャズ・シンガー、カーリン・クローグの名前が浮かんだ。彼女もトラッドからアヴァンギャルドまで幅広い音楽に挑戦してきた実験精神旺盛なシンガーだ。彼女の感想を聞いてみようとアルバムを送ると、「レイは、大変チャレンジングで難しいことを見事にやっている。こちらでも紹介してあげたい」と大変好意的な感想が返って来たことが思い出される。
この「Two Voices」の成功の結果、他の楽器とのデユオによるミニ・アルバムが企画された。当初、ギター、トランペット、ピアノが考えられたが、結局、トランぺットではなくベースによる三部作となった。先ず、最初は、ギターでギターなら、この人の他に居ないと、永年一緒に仕事をして来ている中牟礼貞則と組み、2015年にスタンダード・ナンバー6曲をお得意のバラードで歌った作品を発表。2作目は、ピアノの伊藤志宏が選ばれた、彼は、ソロ活動やベース、ドラムなしの変則的フォーマトでの演奏に定評のあるピアストだ。彼とはギルバート・オサリヴァンの「Clair」やコルトレーンの「Naima」等6曲を2016年に録音した。第3作目のべースは、ジャコ・パストリアスで有名なフレットレス・ベースの織原良次が選ばれ彼との見事なコラボで「Left Alone」、「Maiden Voyage」等8曲を2018年に録音した。
本アルバムは、これら3部作の後に高樹レイの初LPの本アルバムが予定されており、残り物ではなく、その時一緒に録音されたギター3曲、ピアノ3曲、ベース2曲の別テークも入れて未発表録音8曲から成っている。それぞれのデュオ・アルバムを聞くのも良いが、こうして楽器を変えたデュオを一枚のアルバムで聞くのも興味深い。レイは、大変チャレンジングで難しいことをやって素晴らしい結果を出している。欲をいえば、トランペットとのデュオも2曲位聞いて見たかった。LPというとジャケットの装丁が大事だが、ジャケットのデザインも素晴らしことを付け加えておこう。(高田敬三)
ALBUM Review
ディオンヌ・ワーウィック
「Complete Scepter Singles 1962-1973」
RGM1555(Real Gone Music)輸入盤
バート・バカラックと最も付き合いが深く、そして長かったアーティストは(元妻のシンガー・ソング・ライター、キャロル・ベイヤー・セイガーを除いては)‘筆頭弟子’とも言えるディオンヌ・ワーウィックだったということが今回の3枚組CD(全74曲)で改めて実感出来る。
記念すべき初ヒットとなった「Don’t Make Me Over」(1963:21位)を皮切りに1970年代初期に至るまでの約10年間、ディオンヌはバカラックの秘蔵っ子としてバカラック(&ハル・デヴィッド)の作品を数多く歌い、1960年代を代表する‘ポピュラー・シンガー’としての地位を築き上げ、以降1970年代~1980年代にかけても大きな実績を残しているのは言うまでもない。
バカラック自身もディオンヌの華やかな活躍ぶりと共にその知名度やステイタスを高めて時流を形成して行ったのだが、スタンダード・ナンバーとして世に知られている楽曲の多くはディオンヌの十八番のレパートリーであることも再認識。「Anyone Who Had a Heart」 「Walk On By」「You’ll Never Get to Heaven (If You Break My Heart)」「Trains And Boats and Planes」「I Just Don’t Know What to Do with Myself」「Alfie」「I Say a Little Prayer」 「Do You Know the Way to San Jose」「This Girl’s In Love With You」「I’ll Never Fall in Love Again」などなど。収録された74曲のうち実に8割がバカラック作品である。
ディオンヌのベスト盤は過去にもそれこそヤマのように出てはいるが、しかし、セプター・レコード時代の全シングルのAB面をすべて収めた(+Musicorからの2曲も)という今回のような編集盤はこれまでありそうでなかった実は貴重なレア音源集と言えるかも(当時のシングル音源を使用♪)。
当方が最初に接したのは1966年の「Message To Michael(マイケルへのメッセージ)」。その魅力に取りつかれたのがきっかけで、その後「I Say a Little Prayer(あなたに祈りをこめて) /(Theme From) Valley of The Dolls(「哀愁の花びらたち」のテーマ)」の両面大ヒット盤を高校時代に購入(1968年6月2日)。まだバカラックうんぬんなどウンチクを垂れることもなく(というか、そんな知識もなかった)しなやかで品がある素敵な楽曲の数々に浸っていただけの純粋な時代を思い起こさせてくれるのもこの3枚組。
ちなみに今年(2023年)はバカラックの生誕95周年。(上柴とおる)
LIVE Review
KOBUDO-古武道- アコースティック・コンサート
2月27日 銀座・ヤマハホール
ブルース・ハープ奏者のようにさまざまな尺八を持ち替えて途方もなく表情豊かな音世界をつくりだす藤原道山、“ストリング・セクション”と呼びたくなるほどの雄大な響きをチェロ一本でつくりだす古川展生、伴奏パートにもソロパートにも途方もないセンスの良さを輝かせる妹尾武。純邦楽、クラシック、ポップスのツワモノが集まったユニット、古武道が一切のマイク、PAなしのコンサートを開いた。昨年、結成15周年を記念してリリースされたアルバム『光』でもジャンルの越境ぶりは際立っていたが、この日も、ホルストの「ジュピター」、ガーシュウィンの「ラプソディ―・イン・ブルー」、ピアソラの「リベルタンゴ」、藤原の多才ぶりが際立つ「瀧~Waterfall~」をはじめとするメンバーの自作を揃え、“国籍も時代もジャンルも超えて、ただ良いメロディと卓越した演奏あるのみ”と呼びたくなる世界へと案内。曲間の軽妙なトークや、第1部と2部で服装を変えて登場したところには快いサービス精神も感じられた。(原田和典)
LIVE Review<
BIGYUKI JAPAN TOUR 2023 NEON CHAPTER
at BLUE NOTE TOKYO
3月18日 南青山・ブルーノート東京
今、最も強力な鍵盤奏者のひとりといっていいだろう。最近もホセ・ジェイムズやアンドレア・モティスの最新作で卓越したプレイを聴かせていたが、今回は2019年以来となる自身のグループでの来日だ。ホセのグループで親しくなったジャリス・ヨークリー(ドラムス)、バークリー音大時代からの仲間であるランディ・ラニヨン(ギター)とのトリオを軸に、日本在住のパトリック・バートリー(アルト・サックス)を曲によって加えながらの展開は、“白熱”のひとこと。ここまで、意識が飛びそうな気分にさせてくれたライヴは本当に稀だ。左手から繰り出される超絶的なベース・ラインはBIGYUKIのトレードマークと言っていいものだが、生のステージで、低音を思いっきり利かせた、服が震えるほどの圧を有する音響でそれが堪能できるのは喜びしかない。鍛え抜かれた身体、キーボード間を飛び交う両腕の華麗な動き、意表突きまくりのフレージングの面白さにひたすら酔わされ、アコースティック・ピアノに転じたパッセージにおける抒情に打たれた。「Chiron」、「Soft Places」、BIGYUKI流のジューク・ナンバー「LTWRK」等、どれも心が灼けつくほどヒリヒリさせられた。(原田和典)
撮影 : グレート・ザ・歌舞伎町