ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review 2022年1月号

ALBUM Review

Adrianne Duncan
Gemini

Adrianne Duncan com

 アトランタ出身の歌手、ピアニスト、作詞作曲家、アレンジャーで今は、ロスで活躍のエイドリアン・ダンカンは、アトランタ・ユース・シンフォニーのピアニストの経験もあるクラシック畑出身のアーテイスト。その後、ジャズの興味を持ちジャズ・バンドで歌いジャズ・シンガーとなる。高校時代は、小説も書いていたというマルチなタレントだ。そんな彼女の最新アルバムは、彼女の歌とピアノを中心にDan Lutz(b)、Jimmy Branly (ds)Nick Mancini (vib)、John Tegmeyer (cl)とKatisse Buckingham (fl,sax)とロス近辺で活躍する精鋭ミュージッシャンと共に彼女自身の書いたナンバー4曲にスティングの「Roxanne」を交えフィクション・ラィターらしくストーリー性のある歌詞を浮遊感のある一味違う独特な表現で歌う。Nickのヴィブラフォンが効果的な「He’s Not Quite You」,John のクラリネットとKatisseのテナーが活躍の「elijah」と「Home at Last」、ヴァィヴのイントロから次第に熱気を帯びて歌い上げる「Roxanne」そして、唯一のインスト・トラックのタイトル曲等、すべて6分から9分の熱の入った歌と演奏を繰り広げる。大いに注目したい現代的な弾き歌いのヴォーカル・アルバムだ。(高田敬三)

ALBUM Review

With A Song In My Heart
Jane Hall & Ed Bickert

Muzak MZCF 1447

 ジェーン・ホールは、ギターのジム・ホールの奥さんだ。彼女は、プロのシンガーではなく、本業は、精神分析医だった。Jazz Waxのマーク・メイヤーの彼女とのインタヴューによると、子供の頃から歌うのは大好きでジム・ホールと知り合ってからは、毎日の様に彼の練習に付き合って歌っていたという。彼女が書いた曲2曲をジムがアルバムで録音しているが、音楽的素養もたいしたものだ。1978年の彼のアルバム「Commitment/哀愁のマタドール」で彼とデュオで「When I Fall In Love」を歌っているが、これが彼女の唯一の公式の録音だ。本アルバムは、ジムがヨーロッパ・ツアーに出た時、その前にツアー中も彼女の声が聴けるようにと誕生日祝いにプライベートで友人のエド・ビッカート(g)とデュオで吹き込んだテープだが、それがジムの死後、ひょんなことからCDで市販され大変好評を得たという。タイトル曲をはじめ「My Funny Valentine」,「Round Midnight」などスタンダード・ナンバー12曲を少女っぽい可愛らしい声の魅力的なフレージングで歌う気持ちの入った大変魅力的なアルバムだ。(高田敬三)

ALBUM Review

手越祐也1stアルバム『NEW FRONTIER』

 2020年6月にジャニーズ事務所を退所し、ソロ歌手としての歩みを始めた手越祐也の初めてのソロアルバム『NEW FRONTIER』が12月22日に発売された。
 これは、昨年7月にメジャーデビューした彼が新曲発表と同時に6ヶ月連続での新曲発表を告知し、12月にはそれらの楽曲を含むアルバムのリリースを予告していたものが実現した。楽曲は、全部で12曲。楽曲提供の作家は実に多彩で、『Bad Day』での世界的ヒットで有名なダニエル・パウター、ノルウェーやLAの新進気鋭のCo-writeチーム、またMISIAの『Everything』の松本俊明やAdoの楽曲などのボカロP、さらにはすりぃなどの新人作家まで多種多様な楽曲がラインナップされ、タイトル通り、様々な世界での彼の音楽の表現を楽しめる形になっており、まさにNEW FRONTIERを体現する世界になっている。
 これら12曲に共通するものは、ポジティブなエネルギーに溢れた世界。どの曲も非常に元気よく明るい世界観を感じさせる。まさに希望に満ちた新天地へと一緒に行こう、と彼の歌声がリスナー達を誘っていると言える作りだ。
 手越祐也は、このアルバムを通して、グループ歌手からソロアーティストへの転向を現実化したと言えるだろう。
 楽曲の中で印象に残ったものは、『Venus Symphony』
 夜会曲のコンセプトで作られたという楽曲は、全体的に耽美で怠惰な空気感が漂い、明るく元気な彼のイメージとは違う雰囲気を醸し出している。縦のリズムの多い楽曲の中で、この曲だけが横に流れるリズム感になっているのも印象的。
 手越祐也の様々な音楽を楽しめる1枚になっている。(松島耒仁子)

LIVE Review

小松亮太タンゴ五重奏+1

2021年11月19日 大田区民ホール・アプリコ大ホール

 バラエティに富んだ演奏、わかりやすくて楽しいMC(レクチャーといっていいほどだ)、ダンサーたちの華麗な動き。すべてを満喫できる、エンターテインメントとエデュケーションが一体化した実に“ためになる”コンサートだった。アルゼンチン・タンゴのカリスマでバンドネオン奏者のアストル・ピアソラ生誕100周年にちなみ、演奏曲は「アディオス・ノニーノ」「オブリビオン」「ウィスキー」などピアソラ関連のものが中心。曲によってはエフェクターをかけたエレクトリック・ギター、エレクトリック・ベース、ハモンド・オルガンなどもフィーチャーし、70年代の“エレクリック・ピアソラ”(ジャズでいうところの“エレクトリック・マイルス”に匹敵しよう)時代のサウンドも今日に立ちあがらせた。
 小松亮太は片足を台の上に乗せ、翼を広げるかのようにしてバンドネオンを操る。田中伸司のコントラバスの弓弾きはあくまでも美しく、鈴木厚志の奏でるピアノの音色も実に粒立ちが良い。白熱するサウンドに、ゲストダンサーとして登場したNANA&Axelの一糸乱れぬ動きが更なる彩りを加えてゆく。
 MCではアコーディオンとバンドネオンの違い、コンチネンタル・タンゴとアルゼンチン・タンゴの違い、ジャズとは異なるタンゴならではのコントラバスの役割、“ピアソラがタンゴをダンス音楽から鑑賞音楽に革新した”という俗説の否定、タンゴの代表的なステップなどをわかりやすく説明。ピアソラがあれほど開拓を続けることができたのは、伝統にしっかり根付いていたからだ-------それを改めて学ばせてくれた、実に気持ちのいい一夜だった。
(原田和典)