ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
ミュージック・ペンクラブ・ジャパン

第31回MPC音楽賞授賞式

写真

2019年4月16日(火)14時より文京区シビックセンター・スカイホールにて第31回MPC音楽賞授賞式が行われた。以下、当会の鈴木道子会長の挨拶および、各受賞者もしくはその代理の方々のご挨拶文を掲載する。

鈴木道子MPCJ会長

写真  今日はようこそお越しくださいました。桜の花はもう峠を越してしまいましたが、本日は好天にも恵まれまして、皆様方はその桜のように日本を代表するスターでいらっしゃいます。それは日頃のご精進の賜物で、本日ここにその業績と素晴らしい作品をお持ちくださったと思っております。この31回の音楽賞授賞式は、平成最後の授賞式になります。振り返りますと、この会の前身である『音楽執筆者協議会』が音楽賞を発足しましたのが、1988年でした。その年は、クラシックの当会会員でない方の著書、ポピュラーはゲストの作品、オーディオは該当なしということでした。その後いろいろと賞が増え、多い時は18部門ありました。今年は15部門ございまして、いずれも素晴らしいものばかりです。今後ますますご精進と一層のご活躍をいただいて、後世に残る仕事をしていただきたいと思っております。改めまして本日は皆様、本当におめでとうございます。

受賞のスピーチ
■クラシック部門

●独奏・独唱部門賞「佐藤俊介(ヴァイオリン)」
佐藤晴恵様(受賞者のご尊母)

写真  皆様、ありがとうございます。佐藤俊介は、現在オランダでバッハ受難曲のツアーの最中でして、あいにく参加できません。皆様の温かいご支援がありまして、今日活躍できる状況になってまいりました。心から感謝申し上げます。またよろしくお願いいたします。

●室内楽・合唱部門賞 「新国立劇場合唱団」
公益財団法人 新国立劇場運営財団 制作部オペラ・プロデューサー 高橋徹様

写真  代表が海外出張ということで、私が代わりまして受け取らせていただきました。この度はたいへん光栄に存じます。受賞の際のご紹介内容の繰り返しになりますが、1997年に新国立劇場ができ、翌98年に合唱団が発足して活動が始まりました。オペラ劇場での活動がほとんどですが、劇場を出てのコンサートのお誘いを受け、外部での活動をさせていただくようになりました。合唱団のメンバーは、厳正な審査の元、技術向上と芸術に対する高い意識を持った者たちで構成され、三澤洋史、冨平恭平という優れた指揮者にも恵まれたというのが、今回の受賞にも大きく寄与していると思っております。新国立劇場以外での劇場やオーケストラとの共演だけでなく、小学校中学校での演奏など、近年はクラシック以外の活動も多岐にわたり、ご協力いただいている方々には心より感謝いたします。新国立劇場合唱団は、内外の芸術家と共に、客席にお座りのお客様の期待に応えるという点を肝に命じております。劇場のメニュープログラム「心豊かで、活力のある社会の発展に貢献する」というポリシーで、芸術監督の大野和士の指導の元、世界に発信できる日本の舞台芸術の基盤をつくり、身近に感じていただけるよう、努力を怠ることなく邁進してまいります。ありがとうございました。

●オペラ・オーケストラ部門賞「NHK交響楽団」
公益財団法人 NHK交響楽団 理事長 根本佳則様

写真  ペンクラブの皆様、審査いただいた皆様には心から御礼申し上げます。オーケストラの演奏活動に対して賞を頂けるというこのような例はあまりないことでして、たいへんありがたいと思っております。N響のオーケストラとしての基礎を築きましたのは、昭和11年にドイツから指揮者のローゼンストック氏をお招きして以来で、今回の受賞理由の中でも、楽団の柔軟性を評価していただきましたが、楽団員の1人1人が長年に渡って研鑽を重ねた結果であり、今後もより多くの方々に、よりよい音楽を届けて参りたいと思っております。なお一層の精進を重ねていきたく、引き続きご支援をよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

●現代音楽部門賞 「オペラ《松風》」
細川俊夫様

写真  今回はこのような立派な賞を頂き、心から感謝しております。<松風>は今からちょうど10年前に作曲いたしまして、2011年の5月 にモネ劇場で初演いたしました。昨年2月の 東京公演がちょうど50回目の演奏でした。<松風>の演出は全部で3つあり、ひとつは東 京でやりました素晴らしいものなのですが、残りの2つはかなりひどいものでして(笑)、 初演はかなりお金がかかったのですが、それと同じ演出を東京でやっていただきました。本当に心から感謝しております。今回一緒に受賞された新国立劇場の合唱団の皆さんにも出演頂き、素晴らしい演技と歌唱をして頂いて、その結果これまでの<松風>と比べてもよりよいものになったと感じております。ありがとうございました。私は<松風>以降4 つのオペラを作曲いたしましたが、そのうちの3つはまだ演奏されていません。それをぜひ皆さんに聴いて頂きたいと思っています。本日はありがとうございました。

●研究・評論部門賞 「礒山雅」
いずみホール 森岡めぐみ様

写真  この度は、私共の音楽ディレクターでもありました礒山先生にこのような賞を頂きましてありがとうございました。ご家族の一任を受けまして、先生に代わって私が受け取らせていただきました。ご存知の通り先生は、昨年1月に事故に遭われ、帰らぬ人となってしまいました。その3日前まで、いずみホール でイザベル・ファウストさんのバッハ無伴奏の演奏会を聴いていらっしゃいました。1日目の前半が終わられたところでロビーに降りてこられ、「素晴らしい客席だね」とおっしゃったんです。もちろん演奏も素晴らしかったんですが、それを受け取られる聴衆の方々の反応に感心されていたのだと思い、「その客席は先生がつくられたんですよ」と、柄にもないことを言ってしまったのですが、それが先生と私の最後の会話となってしまいました。先生の功績は、評論や教育に加え、たいへん多くの場面でたくさんの方々にコンサートの魅力を言葉でお伝えになりました。私は長年編集者として先生の原稿を受け取って参りましたが、そのお言葉の中でたいへん印象深かったものをご紹介してご挨拶に代えさせていただきます。「名曲を人はなぜ繰り返し聴くのか」というエッセイの中で、こう書かれています。「それは音楽が同一の時間を求める営みの結晶であるからだ。時間は過ぎ去り、失われるというマイナスの姿で、日常それを限りないプラスに変化、転化するのが音楽である。だから音楽に感動した時、生きていてよかったと人は思う」。今日はどうもありがとうございました。

●功労賞 「岡山潔(ヴァイオリン)」
岡山芳子様

写真  岡山潔の妻でございます。今日はミュージックペンクラブ音楽賞を頂きまして、誠に光栄に存じます。故人に代わりまして厚く御礼申し上げます。50数年に渡る音楽活動でしたが、周りの方の温かいご支援とご指導を賜りまして、彼の信念に基づいた活動を思う存分できたことにいつも感謝しておりました。本当にありがとうございました。

■ポピュラー部門

●最優秀作品賞 「《初恋》宇多田ヒカル」
株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ エピックレコードジャパン
オフィスRIAゼネラルマネージャー 沖田英宣様

写真  皆さま、この度はポピュラー部門の最優秀作品賞に<初恋>を選出頂き、誠にありがとうございます。宇多田ヒカルは、現在ロンドンに住まいを構えており、育児に奮闘する1人の母でもあり、この場に来ることが叶いませんでした。私の方から一言お礼を述べさせて頂きます。宇多田ヒカルは昨年デビュー20周年を迎え、これまで7枚のオリジナルアルバ ムを発表してきました。たった7枚といってもいいかもしれません。そしてこれまでたくさんの栄えある賞を頂いて参りました。しかし今思い出しますと、たくさん売れたから頂いた賞も多かったのかなと思います。それよりも今回は、宇多田ヒカルの音楽性にフォーカスを当ててくださって頂いた賞ということで、たいへん光栄に思っております。宇多田ヒカル自身も、このアルバムと、昨年の20周年ツアーなど、精力的な活動に対してこうした賞を頂いたことを光栄に思っていると申しております。ミュージックペンクラブ並びにメンバーの皆さまに感謝申し上げます。ありがとうございました。

●イベント企画賞 「内田裕也企画 ニューイヤーズワールドロックフェスティバル」

写真 シーナ&ロケッツ:鮎川誠/カイキゲッショク:HIRO/白竜/株式会社内田裕也オフィス代表石山夕佳各氏が登壇された。

鮎川誠様

 今日は僕たちや日本のロックがたいへんお世話になり、導いてくれ、46回も毎年大晦日にニューイヤーロックフェスティバルを開催してくれた、日本のロックの開拓者といってよい、そして最後のステージでもロックを歌ってくれた内田裕也さんがミュージックペンクラブの賞を受賞し、46回のたくさんのロックミュージシャンを代表して僕たちがそれを受け取ることに心からお礼と喜びを申し上げたいと思います。ありがとうございます。裕也さんはこの受賞を聞いて、先月まで元気でおられたし、本当はここで裕也さんに「ロックンロール!」と言って欲しかったんですが、 残った僕たちが裕也さんのスピリットを共有して、ロックをやり続けていきます。本当に今日はありがとうございました。

HIRO様

 これが裕也さん愛用の杖です。きっとここでこう言いたかったと思います。Rock’n Roll!

●新人賞 「甲田まひる」
甲田まひる様

写真  はじめまして。甲田まひるです。この度はこのような賞を受賞させていただき、本当にありがとうございました。4月で高校3年生になりました。最初にCDの話を頂いた時、自分はまだ勉強中で、迷いもあったんですけれど、今となってみると16歳の記録を残せたことに本当に光栄に思います。すべて初めての経験だったので、たいへんなこともたくさんあったんですけれど、ミキシングやマスタリングの音づくりまでこだわらせていただいたり、ジャケットの構成に至るまですべての工程に関わらせて頂いて、すごく納得のいく作品に仕上がったと思っています。自分がずっと弾いてきたジャズのビバップというスタイルをベースに、時にはそれにこだわらずに自分の好きな音楽を残したいという思いと、自分の同世代や若い人にも偏見を持たずに聴いて欲しいと思って作ったので、いろんな方から感想を聞けてとても嬉しかったです。自分のこれからやりたいことにつながるいい経験をさせてもらいました。プロデューサーの渡辺康蔵さんを始め、関わってくださったすべての方に感謝しています。今日は本当にありがとうございました。

●最優秀著作出版物賞「三井徹著 戦後洋楽ポピュラー史1945~1975」
三井徹様

写真  本日はこのような賞を頂きましてたいへん嬉しく思います。ミュージックペンクラブの会員の皆様に感謝申し上げます。先ほど1945年というご紹介をいただきましたが、本書は昭和20年の日本の敗戦の1ヶ月後から、昭和50年までの30年で区切っております。先ほど 受賞された内田裕也さんが私と同い年であることに気づきました。本当は今日お会いして色々なお話をしたかったのですが、それは叶わないことになって非常に残念に思っております。しかし、こうして同じ時期に賞を頂くことになったこともたいへん嬉しくも思っております。といいますのも、実は私もロックンロールを歌うことから始めまして、17歳から19歳まで福岡でバンド活動をしていたからなのです。本日はありがとうございました。

●特別賞「外山喜雄・外山恵子」

写真

外山喜雄様

   今日、このような映えある方々と一緒に賞を頂くことができたのは、身に余る光栄と思っております。ありがとうございます。夫婦でニューオリンズ・ジャズ、ディキシーランドジャズを演奏して半世紀になります。50年間をルイ・アームストロングに捧げてきたようなものでございまして、その中で25年くらいはニューオリンズに参りまして、のべ1000万人ぐらいの方に演奏を聴いていただきました。初めてルイ・アームストロングに接したのは高校生時代でした。その5年後には、運命的な出会いがありました。ひとつは来日したルイ・アームストロングに会えたことで、楽屋に忍び込んでトランペットをちょっと触ることができたこと。もうひとつは、この方(注:奥様)に会えたことです。以来、彼女が居ませんでしたら、こういう活動はできなかったと思います。アメリカにはたいへん世話になりましたので、25年前に日本ルイ・アームストロング協会というのを設立したことをきっかけに、災害時の支援、銃撃事件なども絶えなかった時期でしたので、日本で使わなくなった楽器を寄付していただいて、それをニューオリンズに贈る活動を始めました。ルイ・アームストロング自身も小さな頃の銃の事件で少年院に入って、そこで楽器に出会ったということもありました。25年で850点にもなりました。そういったことも評価していただき、この賞は夫婦でいただけたものと思っています。

外山恵子様

 この度はこのような栄えある賞をいただき、私まで名前を連ねていただいたご配慮に本当に感謝しております。ありがとうございます。こうした音楽活動を50年、ルイ・アームストロング協会で25年になりますが、私達は個人的な活動でした。資金もなければスポンサーもいなかったのですが、振り返ってみますと、ジャズを通してお互いに心の通った感動をたくさんいただきました。お金がなくてもこんなに素晴らしいことができたということに、安心してあの世にもいけるかなと思っております。ほんとにありがとうございました。

■オーディオ部門

●技術開発「テクニクスSL-1000R」
パナソニック株式会社アプライアンス社スマートライフネットワーク事業部ビジュアルサウンドビジネスユニット
主幹技師 志波正之様

写真 この度のミュージックペンクラブの音楽賞受賞をひじょうに光栄に思っております。たくさんの音楽家やプロデューサーの方々とご一緒させていただいたことはたいへん嬉しく、我々はそうした方々が制作された思いや情熱をできるだけ忠実に再生して聴き手に伝えるということを目標にして開発しておりますので、この上ない喜びです。本製品は、過去の諸先輩方が開発したSP-10という名声を得たターンテーブルがあったのですが、その名に恥じぬよう、担当技術者が全身全霊で臨み、持てる力と情熱を注ぎ込んで開発したものです。ひとつだけ技術的なお話をさせていただきますと、専用開発した大型のモーターユニットを独自のアルゴリズムで回転させ、さらには学習制御という方式を搭載することで、これまでにない高い回転性能を実現しております。また、硬くて重いタングステンをターンテーブルの最外周に埋め込んで、なおかつ3層の金属を組合せることで、高い慣性モーメントと振動性能を実現し、高いS/Nを達成することができました。外部の振動をシャットアウトするインシュレーターと組んだ重量級のシャーシや、マグネシウムという理想的な素材をトーンアームに採用したことで高感度と高精度が実現でき、これまでにないレコードの無音部分の静謐性を実現しております。ぜひとも弊社のショールームや試聴会でご体験いただければと思います。今後もオーディオを通じて世界中に音楽の感動を届けていきたい所存です。本日はどうもありがとうございました。

●優秀録音作品「マーラー交響曲第10番/ブルックナー交響曲第9番 ジョナサン・ノット指揮/東京交響楽団 株式会社オクタヴィアレコード」
株式会社オクタヴィアレコード取締役副社長 小野浩様

写真 平成最後の年にこのような賞をいただき、ひじょうに感慨深く思っております。また、当社は今年設立20周年を迎えまして、その節目に賞を頂けたことも嬉しく思います。会社設立の頃から音楽の内容、音質にこだわって、業界トップのレーベルにしたいと思ってやってまいりました。最近はデジタル録音が進歩してきて、誰でも高音質に録音することができるようになってきましたが、先ほどテクニクスさんがアナログプレーヤーで賞を獲られ、古いオーディオの方式にまだ改善の余地があるということで、私共もアナログのいいところと最先端のデジタル技術のいいところを吟味しながら、いい録音作品を世の中に提案してきたつもりです。今後よりも高処を目指してつくっていくことで皆様にいい音質でいい音楽をお届けしたいと思っています。このCDをお手にとってくださった一般の方々を始め、評論家の方、筆者の方に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

同 取締役プロデューサー 平井宏様

 お礼の言葉については、いま小野が話した通りでございますが、ひじょうに個人的なお話をひとつだけさせていただけたらと思います。今日この場でたいへん嬉しかったことは、先ほどバッハ研究でたいへん有名な磯山雅さんが受賞されたことでございます。磯山さんとは30代の時に多くの交流がありました。私は当時日本フォノグラム/フィリップスにおりまして、レコード芸術の編集長の方にご紹介いただきました。同い年ということもありすぐに意気投合いたしまして、国立のお家にも遊びに行きました。これから新しくお家を建てられるということで、新しいオーディオを揃えたいんだが100万円くらいかかるので どうしたものかとおっしゃっていたので、借りるお金に一緒にいれてしまえばいいんじゃないんですかとお話したことを覚えております。その他、いろいろとお話したこととが走馬灯のように浮かんできまして、たいへん懐かしく思いました。磯山さんが今日もしご列席でしたら、そんな話もできたかと思います。本日はどうもありがとうございました。

●功労賞「菅野沖彦」
代理受賞 MPCJ副会長 潮晴男様

写真  菅野沖彦先生は、私たちの大先輩であられまして、オーディオ評論の分野の確立だけでなく、自らレコード制作という音楽家としての顔もお持ちでした。ずっと病に伏されていらっしゃいましたが、残念ながら昨年お亡くなりになりました。この功労賞を喜んでくださると思います。