ヘレン・メリルは、“さよなら“コンサートを何度かやっている感じだが、米寿を前にした今回は、多分、本当に最後ということだろうか、会場は、殆ど満席だった。テッド・ローゼンタール(p)ショーン・スミス(b)テリー・クラーク(ds)と彼女のレギュラーのトリオが「If I Should Lose You」そして「Parisian Thoroughfare」をそれぞれのソロも交えて快調に演奏した後、係員に導かれて登場したヘレンは、「It Don't Mean A Thing」を思ったより力強い声で歌う。そして、スローな「Am I Blue」へと続くが、足元がふらついている様子で、これは大丈夫かなと心配させられた。その後、「転んで足を痛めたのよ」、と説明していた。お得意の「Summertime」、「Autumn Leaves」そして「I Got It Bad」と続くナンバーを彼女特有の節廻しで歌う。ここでベースのショーン・スミスのオリジナル・インスト・ナンバー「Margin Of Error」を導入部をハミングしながら紹介。続く「People Will Say We're In Love」もトリオの演奏で、彼女は、ピアノの後ろへ下がって一休みする。ビリー・ホリデイで有名なバラード「Lover Man」は、声が出なくて苦しそうだったが、それだけに迫力を感じさせるものがあった。「Bye Bye Blackbird」の後、「ブルーノートは、30周年になるそうですが、信じられないけど、私は、開店の年に前のブルーノートで歌ったのですよ。」というような話を織り込み、テンポの良い「Gee Baby Ain't Good To You」,そしてドラム・ソロから入る「All Of Me」をジャジ―に年季の入った歌で聞かせる。ここでスピーカーから若い声のヘレンの歌「You'd Be So Nice To Come Home To」が流れ、彼女は、唖然としてスピーカ―を見上げる。極め付きのクリフォード・ブラウンとのレコードからの録音だ。後半は、引き取って生の彼女が歌った。面白い仕掛けだ。満場総立ちの聴衆に送られて舞台を降りて行く。見たところ立っているのがつらそうだったので、アンコールは、無いだろうと思っていたら戻ってきて「'S Wonderful」を思い切ったロング・トーンも披露しながら力一杯という感じで歌った。