2017年6月 

  

Popular ALBUM Review


「The Company I Keep / Mark Winkler」(Café Pacific Records CPCD45135)
 マーク・ウインクラーは、ダウンビート誌で2015年の期待される男性ジャズ・シンガーに選ばれているが、すでに14枚の自分名義のCDを発表している。作詞家としても250曲以上を書きダイアン・リーヴス、ディ・ディ・ブリッジウォ—ター、ライザ・ミネリなど多くのコンテンポラリーなシンガーが取り上げている。15作目の本作は、最愛の「ハズバンド」を失って失意の中、タイトルのように多くの友達の協力を得て作りあげられた。ジャッキー・ライアン、シェリル・ベンティーン、スティ—ブ・トレイル、クレア・マーチン、サラ・ガザレクが参加してデュエットで歌い、ジョン・クレイトン、ジェフ・ハミルトン、デヴィッド・ベノワ、ジョシュ・ネルソン等々多くのミュージッシャンが参加する豪華な作品だ。12曲の中、半分は、彼の書いた作品で、後半分は、彼が尊敬するマーク・マーフィーに捧げる「Stolen Moments」(ここではマーフィーを讃える自作のヴォ—カリーズの歌詞を付け加える)、プリンスの「Strollin”」、亡くなったパートナーが好きだった「Lucky To Be Me」、彼の今の気持ちを歌うような「Here's To Life」等ジャズやポップスの名曲を気持ちの籠った歌で聞かせる。失意の中の録音だが、重苦しさはなく、前向きなクールでヒップな彼の歌だ。(高田敬三)


Popular CONCERT Review

「MARU with クリヤ・マコト〜I CAN HANDLE IT」 (4月30日・武蔵野公会堂)
 昨年12月にクリヤ・マコト・プロデュースのもと、初のジャズ・アルバムを発表したMARUのコンサートを吉祥寺音楽祭のステージで聴いた。自らを「新人のジャズ歌手です」と紹介するものの、R&B/ソウルの世界では10年以上のキャリアを持つ女性シンガー。豊かな声量、低域から高域までの伸びやかな声質、R&Bで培われた独特のグルーヴ感、聴衆を惹きつけるトーク、それらをバランスよく兼ね備えたステージは見ごたえ聞きごたえ十分。オープニングの「枯葉」に始まり、ジャズに生まれ変わった「Doesn't Really Matter」(ジャネット・ジャクソン)など新作アルバムの中から次々と心地よいスピート感テンポ感で曲を繰り出す。クリヤの見事なアイデアに乗せて歌う「Lover Man」「Misty」は出色だ。とても高度な歌唱技術であるスキャットは自然体の中から溢れ出てくるようだ。バックアップ・メンバーはクリヤ・マコト(p,com,arr)、早川哲也(b)、馬場孝喜(g)、松岡高廣(perc)。早川哲也は今回のレコーディング・メンバーではないが、ベテランの域に到達した息のあったプレイを聴かせた。アンコール曲「Everything Must Change」で90分のステージを締めくくった。(三塚 博)

撮影:週刊きちじょうじ


Popular CONCERT Review

「アンドレア・モティス・アンド・ジョアン・チャモロ・クインテット」(5月4日・ブルー・ノート東京 ファースト・ステージ)
 スペインのアンドレア・モティスとジョアン・チャモロのクインテット2年ぶりの来日公演。前回の日本初ツアーは、日本盤のレコードも出ていないのに各地で満員の観客を集めていた。今回は、初の米国のメジャー・レーベル「インパルス」吹き込みの日本盤の発売記念を兼ねての2日間の公演で、相変わらず補助席もでる盛況だった。7歳からトランペットを始め、13歳から歌も始めたという天才少女のアンドレア・モティスとバルセロナの少年少女によるセント・アンドリュー・ジャズ・バンドを主宰する彼女の師匠のベースのジョアン・チャモロのこのグループは、イグナシ・テラサ(p)ジョセップ・トレーヴァー(g)エスティ—ブ・ピイ(ds)の家族的な温かみを感じさせる不動のメンバーだ。おしゃまな少女といった一寸、鼻にかかった訛のある彼女の歌は、独特の魅力がある。トム・ハーレルやロイ・ハーグローヴが好きだというまろやかでメロディアスな彼女のトランペットは、歌と共に心地よい雰囲気を醸し出す。彼女は、アルト・サックスも吹くが、今回は、披露しなかった。快調なテンポのナット・キング・コールやダイアナ・クラルで有名な「I'm An Errand Girl For Rhythm」から入り、「On the Sentimental Side」、「He's Funny That Way」、「Never Will I Marry」等のスタンダードに、お得意のボサ・ノヴァの「Chage de Saudade」、「Flor de Lis」「Carinhoso」,そして彼等の地元カタルーニャ語の「Matilda」、「Louisiana o els Camps de Coto」、ピァノのイグナシのオリジナル「Emotional Dance」、聴衆の手拍子を誘って盛り上げたエイミー・ワインハウスの「Valerie」と変化のあるレパートリーで聴衆を魅了した。アンコールは、「Bessame Mucho」だった。5月に22歳になった彼女は、バンマスとしての自覚か落ち着いたステージさばきで前回より大きく見えた。(高田敬三)

写真:佐藤拓央


Popular CONCERT Review

「春のアルペジオ/ルシア塩満&イスマエル・レデスマ」 (5月7日・北区滝野川会館大ホール)
 ルシア塩満(平成18年度音楽賞受賞)が、毎年この時期に開催しているアルパ・フェスティバルは今年で27回目を迎えた。文化交流の担い手としてパラグアイ政府から国家功労勲章を授与されたルシアは、南米においては自身のコンサートを成功させ、日本国内では長年アルパの普及にも情熱を傾け、後進の指導育成に当たる。本コンサートは生徒たちの発表会という形式をとっているものの演奏の質は実に高い。すでにたくさんのプロ演奏家や指導者が育っていて、彼らがステージに登場して腕を競うのである。35人もの奏者が一堂に舞台に立ち演奏するポルカ「かささぎ」「春風にのって」は万華鏡を覗いているかのようだ。今回は第2部に特別ゲストとして10年ぶりにイスマエル・レデスマを迎えた。イスマエルはパラグアイ出身、現在はパリに活動の本拠を置き世界的に活躍するソリスタであるとともに、ラテン音楽に新たな道を求める作曲家でもある。時に高度なテクニックを駆使した奏法はフォルクローレを演奏する民族楽器という色彩に止まることがない。ルシアとイスマエルが互いを尊敬しあいながら、息のあったプレイを聴かせる姿には喝采が送られた。踊りだしたくなるようなポルカのリズム、日本人の心に染み入るような時にメランコリックなメロディ。3時間40分に渡る長丁場であったが、あっという間に時が過ぎた。(三塚 博)

写真:山崎陽一


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