2017年11月 

  

Popular ALBUM Review


「Carol Welsman/For You」(Welcar Music WMCD369)
 日本でもお馴染みのカナダ出身、今はロスアンジェルスを拠点に活躍するピアノ弾き語りシンガー、キャロル・ウエルスマンの最新アルバム。といってもこれは昨年、日本で発表された「This Is CAROL, Love Song 20」をベースにしたものだ。オール・アート・プロモーションの石塚孝夫氏のプロデユースでなじみ深いスタンダード・ナンバーを20曲、彼女のピアノ弾き語りで聞かせるというソロ・アルバムでピアニストとしても実力者の彼女だが、ピアノ・ソロは、封印して一曲一曲をストレートにワン・コーラスで歌うという特異な企画だ。銀座の山野楽器では、5か月も連続してトップ・セラーを記録した人気アルバムだが、今回のアメリカ盤は、ネットで20曲と彼女のファンの多い、フランス語圏向け何曲かのフランス語の歌を加えそのさわりを聞けるようにして、ファンの投票(特典付き)で16曲の収録曲を決めるという面白い制作過程を経ている。結果、日本盤にはない、フランス語の「Les Parapluies de Cherbourg」、「Les Moulins de Mon Coeur」そしてイタリア語の「Ti Guardero Nel Cuor」が収録された。音楽をダウンロードで買うのが一般的のアメリカらしい企画で音楽商売の変化を感じさせられる。いずれにしても歌詞の美しさを如何に表現するかに注力したキャロルの歌は、素晴らしい。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「ヴェロニカ・スウィフト/ロンリー・ウーマン」(インパートメントRCIP 0262)
 2015年のセロニアス・モンク・ジャズ・コンペティションで2位になった、今年弱冠23歳のヴェロ二カ・スイフトの話題の新作。2007年の富士通の100ゴールド・フィンガーズにも参加していたバップ・ピアニスト、ホド・オブラエンを父に、ジョン・ヘンドリックス・アンド・カンパニーでも一時、活躍し、11枚のリーダー・アルバムを持つベテラン・シンガー、ステファニー・ナカシアンを母に持つ生まれついてのジャズ・シンガーだ。彼女は、なんと9歳の時、リッチー・コールと初アルバムを作っている。そして12歳でハリー・アレンと共に2作目を発表して、本作は、3枚目のアルバムだ。オープニングからホレス・シルヴァーとジョン・ヘンドリックスの「Room 608」を両親とトランペットのベニー・ベンナック三世も入るバップ・ヴォーカリーズのコーラスで聞かせ、2曲目もベンナック三世との巧みなバップ・コーラスを披露する。母親のナカシアンは、ジューン・クリスティーに捧げるアルバムを作っていたが、その影響もあるのだろうタイトルの「Lonely Woman」をはじめ「Something Cool」、「Gone For The Day」などクリスティのレパートリーを幾つか取り上げ、両親の影響を強く感じさせる。次作は、ベニー・グリーンのトリオとのアルバムが予定されているというが、注目したい若手ジャズ・シンガーだ。(高田敬三)


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「スウィート・ドリームズ/西藤ヒロノブ」(キング KICJ-770)
 ニューヨーク、ハワイ、日本を拠点に世界各地のジャズ祭やライヴ活動している西藤ヒロノブも、着実に実力と知名度を高めてきた。バークレー在学中にスペインの名門ジャズ・レーベル、フレッシュ・サウンドからデビューして13年。今回初めてキングから第7作を発表した。自称であるアイランド・ジャズが基調ではあるが、広々とした穏やかな音楽世界はより生き生きとし、まろやかさと清涼感を増し、一段と高みに上った。バンドも録音場所も様々だが統一感があり、じつに美しい音で再現されている。その一端は世界最高峰テッド・ジェンセンのマスタリングによるところが大きい。西藤(g,ukulele),日野賢二(b)、マイロン・ウォルデン(sax)、ミルトン、マルコ等よき仲間に囲まれた好演で、大半が自作。新たな愛をたたえた「スウィート・ドリームズ」はじめ聞きやすく尚且つ底 が浅くない佳曲ばかりだ。スパニッシュほか多様な音楽性を取り入れたアーバン・ジャズ”Moving"も聴きごたえがある。(鈴木道子)


Popular ALBUM Review


「竹迫倫太郎/Union」(K&T RECORDS:KTRE-2001)
 2002年、琉球大学医学部在学中に沖縄のインディーズ・レーベルからミニ・アルバムを出してCDデビューした姫路市出身のシンガー&ソング・ライター&ドクター(小児科医)。これまではビーチ・ボーイズ系統に影響されたシティ・ポップスといった印象も強かったが、最新作では先年の一時的なロンドン赴任の経験が契機となったようで、自身がもう一つの音楽的な背景とするポール・マッカートニー(ウイングス以降〜ソロ)等のエッセンスを反映させた作風が中心となっている。いつもながら見事なまでにキャッチーな全10曲はイントロだけで勝負がつく?ともいえるほどで、収まり方もコンパクトですこぶる小気味良く、時節柄のXマス・ソング「Master Of Xmas」も。すべての楽器を単独でこなした一人多重録音による制作で‘ポールよりもポールらしい’とも評された1970年代初期のエミット・ローズを思い出した♪(上柴とおる)


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