2017年10月 

  

Popular ALBUM Review


「The Bookmarcs/Bookmarc Music」(FLY HIGH RECORDS/配給=ヴィヴィド・サウンド・コーポレーション:VSCF-1763)
 シンガー・ソング・ライター、アレンジャー、プロデューサーとしてのマルチな才能を生かしたキャリアを持つ近藤健太郎&洞澤徹の男性ユニット(結成は2011年)が満を持して発表したファースト・フル・アルバム。全12曲のすべてが“耳に覚え”があるようなサウンド・タッチだが、いかにも“狙った”風な感じではなく、自分たちが本来思うところを自然に描き出して見せたような印象。控え目でほのかな華やかさ+ほど良い甘酸っぱさ。もしこれが1980年代後期〜1990年代前期あたりに出されていたら流行?の“おしゃれアルバム”として扱われたかも知れない。曲作りにおける優しげなポップ感覚が全体を包み込み、出しゃばらない心地好さがある。時流にかかわりなく、思わずブックマークしたくなるような親しみと温かさを感じさせるアルバムだ。(上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「ジャクソン・ブラウン/ザ・ロード・イースト-ライヴ・イン・ジャパン」(ソニー・ミュージック・ジャパン・インターナショナル:SICX-30050)
 10月の来日公演にタイミングを合わせた日本独自発売のアルバムで、日本のファンに格別の思いを抱くジャクソン・ブラウン自身が前回の日本公演(2015年3月)から10曲をセレクト。1970年代〜2000年代までの楽曲から著名なヒット作というよりもコンサート会場に足を運ぶファンが思いを寄せるような楽曲が選ばれているが、一番の注目作はやはり4曲目の「ザ・クロウ・オン・ザ・クレイドル」。自身のアルバムではなく1979年のライヴ盤「ノー・ニュークス(原子力発電所建設反対運動)ミューズ・コンサート・ライヴ!」でグレアム・ナッシュと一緒に歌った楽曲(ジャクソンが15歳の頃に聴いた英フォーク歌手シドニー・カーター作の反戦歌)。“特別な場所”でもある広島公演で歌い終えた際の観客とのやりとり等もそのまま収められるなど日本との絆をより深めるジャクソンは、今年がデビュー45周年。(上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「ドアーズ/ザ・シングルズ」(ワーナーミュージック・ジャパン:WPCR-17892-3)
 「ハートに火をつけて」(1967年7月:米No.1)で大ブレイク、グループの人気にも火がついて今年でちょうど50年。2枚組全44曲のアルバムにはアメリカでの全シングル20枚分(AB面40曲)+ラジオ用のシングル・エディット音源(4曲)が収録されている。実はシングル・ヒットも数多く放ち(HOT100入りは17曲、TOP40入りは8曲)、ポップ・ミュージックとしての魅力にも秀でていた彼らだが、アルバムではなくシングル楽曲のみを改めて時系列に沿って聴いてみると当時のドアーズが世間的にはどういうウケ方をしていたのか等も伺い知れるようでより興味も深まる。ちなみに6枚目のシングル曲「ハロー・アイ・ラヴ・ユー」(1968年8月:米No.1)からはステレオ音源になっており「(彼らが所属する)Elektraは他社よりもシングル盤のステレオ化を早々に進めていたのか」とも実感。(上柴とおる)


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「ティー/インターステラー」(JUMP WORLD:DDCZ-2164)
 新人女性歌手、teaのデビュー作品。インドのプネ出身。R&B、JAZZ、CLASSICから伝統のインド音楽まで幅広くこなすシンガー・ソングライターだ。母国でプロ歌手として活動後バークリー音楽院に学び2013年に卒業するとニューヨークやサンフランシスコで活動を開始、昨年その拠点を東京に移した。圧倒的な歌唱力と表現力は今後大いに期待が持てそうだ。本作品は全11曲を収録、8曲がオリジナル。サウンド・プロダクションと編曲で重要な役割を果たしているのが時枝弘。彼が曲を提供しteaが詞を書き上げるというコンビネーションは二人がバークリー在学中に始まった。一曲一曲の作品の質の高さがプロデューサーの目に止まり今回のレコーディングとなったという。「Another Brick in The Wall,PartII」「Eleanor Rigby」「But Not For Me」3曲のカバーは時枝の手で斬新なアレンジが施されている。石若駿、市原ひかり、井上銘、土方隆行など注目のアーティストから実力派まで要所要所に起用しながらアルバム作品として丁寧に仕上げている。teaは今後日本を拠点にアジア、ヨーロッパでの活動を目指す。時枝弘はtea プロジェクトはじめ他のアーティストのサポートやジャムセッション、編曲やトラックメイキングと活動の幅を広げていくという。(三塚 博)


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「Josh Nelson / The Sky Remains」( Origin 82741)
 ジョシュ・ネルソンは、ロスアンジェルスを中心に活躍する1978年生まれのジャズ・ピアニスト。19歳の時、デビュー・アルバム「First Stories」を発表、オリジナルを中心にしたアルバムを次々と発表してきた。彼は、ナタリー・コールの伴奏者として6年間、世界各地をツアーしていた。又、10年近く、サラ・ガザレクのミュージカル・ディレクターをしていて、彼女とは何度か来日して、彼女の最新作「Dream In Blue」も含めCDでも共演している。彼は、ザ・デイスカヴァリー・プロジェクトと言ってサイエンス・フィクション、火星などをテーマにした映像も使ったマルチメディア音楽を発表してきたが、今回もその一環でテーマは、ロスアンジェルスの街だ。ギターのアンソニー・ウイルソン、アルト・サックス、フルートのジョシュ・ジョンソンなどを含むバンドでロスの名所旧跡など街の近代史を振り返る壮大な企画。。タイトルの「Sky Remains」は、街の景色は、どんどん変わるが、空は、変わらないという意味だ。ライヴでは映像も使って演奏するというが、映画音楽のような色彩豊かな音楽だ。曲によりキャスリーン・グレースとリリアン・セングピエールによるヴォーカルも活躍する。(高田敬三)


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「Jackie Allen / Rose Fingered Dawn」(AVANT BASS 2017)
 シカゴをベースに活躍するシンガー、ジャッキー・アレンの通算12枚目のアルバム。彼女は、30年以上の歌手歴を持ちジェームス・テイラー、スティング、ジョニ・ミッチェル等ジャンルにこだわらずフォーク、ポップなどの分野の歌もジャズ的に料理して歌ってきたベテラン・シンガーだ。今回のアルバムは、旦那でベース奏者で作詞作曲家でもあるハンス・スタームの書いた歌10曲を基本的には、ジョン・モウルダー(g)トム・ラーソン(Keyboads)デーン・リッチェソン(ds)のハンス・スタームのカルテットに所々で三管のはいる伴奏で歌う。ガーナの旅で作ったデーンの歌うイスラム詠唱歌からジャッキーがラップ風に語る一曲目から吃驚させられる。ニューオリンズを旅した時のデキシー風あり、カンサスで作ったファンキーな歌あり、スロー・ボッサあり、ブルースありとハンスがこれまでジャッキーの為に書いたヴァラェティに富んだ作品をユニークなアプローチで歌う。どんなスタイルでもこなしてしまい、又それが好きなジャッキーをよく知るハンスならではの作品集だ。聞き取り難い歌詞を載せた冊子がついているのも有難い。(高田敬三)


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