2017年7月 

  

Popular ALBUM Review


「Calabria Foti / In The Still Of The Night」(Moco 23-05)
 ジャズ・ポップ・シンガーでバーブラ・ストレイサンドやポール・マッカ—トニー等の録音にも参加したヴァイオリニストでもあるカラブリア・フォーティーのソロとしては2012年の日本盤も出た「恋に過ごせし宵」に次ぐ3作目のアルバム。彼女は、ピーター・マーシャルやセス・マクファーレンなどともアルバムを作っている。今回は、有名なコール・ポーターのナンバー11曲をピアノのマイケル・パターソンのアレンジでインティメートな雰囲気で歌う。彼女の声は、多くの映画やTVでも使われていて、ジョニー・マティスが絶賛したというほど魅力的なものだ。エディ・ダニエルスのクラリネットやジーン・バートンシーニのギター、リチャード・ロッカーのチェロ、ボブ・マクチェスニーのトロンボーンを使った室内楽的なアンサンブルは、フォーティーの描くコール・ポーターの恋の世界を上手く色付けする。軽くスイングする「It's Alright With Me」の他は、ボサ・ノヴァもあるが、全体にゆっくりとしたテンポでしっとりと味わいのある歌を聞かせる。チェロとピアノだけのバックで歌うタイトル曲が特に印象的だ。(高田敬三)


Popular CONCERT Review

「AQUAPIT」 (4月11日 横浜・モーション・ブルー・ヨコハマ)
 モーション・ブルー・ヨコハマの開店15周年ウィークに、AQUAPIT(アクアピット)が登場した。オルガン、ギター、ドラムスの編成でひたすらグルーヴ感あふれる音楽を追求するユニットだ。1997年に結成され、2001年にファースト・アルバムをライヴ・レコーディング(自分もその現場にいた)。20周年を迎える今年、オルガンの金子雄太をリーダーとするバンドに体制を変更し、新たに吉田サトシ(ギター)、横山和明(ドラムス)という気鋭を抜擢した。この日は最新作『Dance with Ancients』のリリース記念ライヴということで、同作に収録されている入魂のナンバーを次々と演奏。“ダンス”をテーマにしたという親しみやすいオリジナル曲はもちろんのこと、セロニアス・モンクの「モンクス・ドリーム」、ジャクソン5の「さよならは言わないで」なども独創的なアレンジでカヴァー、CDよりもさらに長く、アグレッシヴなパフォーマンスで酔わせた。3月1日に亡くなった、ムッシュかまやつに捧げた「やつらの足音のバラード」(これはCDに入っていない)も見事なジャズになっていた。(原田和典)


Popular CONCERT Review

「スペンサー・ウィギンス featuring パーシー・ウィギンス & ホッジズ・ブラザーズ」(4月18日 六本木・ビルボードライブ東京)
 奇跡の初来日と呼びたい。60年代からメンフィスを中心に活動を続けるシンガー、スペンサー・ウィギンスが日本にいながらにして聴ける日がついにやってきたのだ。しかもバックにはチャールズ・ホッジズ(オルガン)、リロイ・ホッジズ(ベース)もいる。本来なら故ティーニー・ホッジス(ギター)にもいてほしかったところだが、とにかく、ホッジス兄弟がまだふたり生きているのは大きな喜びだ。ステージにはまず、弟のパーシー・ウィギンスが登場。1943年生まれとのことだが動きは若々しく、声も軽妙だ。「アイヴ・ネヴァー・ファウンド・ア・ガール」における歌唱の歯切れよさに酔わされた。パーシーが場内を十二分に暖めた後、いよいよスペンサーが登場する。わずか1歳違いだというのに、見た感じ15歳はパーシーより年上に見える。どっしりした動き、深く濃い声。余計な動きはせず、“レス・イズ・モア”の要領でひたすらじっくり歌い込む。定番「アップタイト・グッド・ウーマン」はシングル・レコードでは2分30秒ほどなのだが、この夜はリフレインを延々繰り返し、恐らく10分はパフォーマンスしたのではないか。このコテコテのしつこさ、くどさがまたブラック・ミュージック・ファンにはたまらないのだ。観客も「ほら来た、もっといけ」とばかりに、一層エキサイトする。手の甲をオルガンの鍵盤に押し付けるようにして、何度も濃厚なグリッサンドを繰り広げたチャールズの名人芸にも胸が熱くなった。(原田和典)

写真:Masanori Naruse


Popular CONCERT Review

「すみれいこオーケストラvol.2@渋谷JZ Brat」(5月3日 渋谷・JZ Brat)
 マリア・シュナイダー・オーケストラもパトリック・ジマーリも素晴らしい。が、日本にもこんなに充実した、狂おしいほど美しい音を出す大編成楽団があるのだ。リーダーをつとめる栗林すみれ(ピアノ)、山本玲子(ヴィブラフォン)両名の作編曲は幻想的で冒険的、まだ見ぬ風景へと連れ出してくれる。ヴァイオリン、チェロ、木管、ヴォイスなどが絡み合いながら高まり、弓弾きヴィブラフォンの透徹した音色が響き渡る。なんという酩酊感。発足して6年になるそうだが、各人のコンボ作品はともかく、オーケストラ自体の作品はまだ出ていない。こんなに格調高く、荘厳でありつつ、しかも楽しく、スウィングするところではがっちりスウィングするラージ・アンサンブルは決して多くないのではないか。息をのむような展開を持つ「Vibrant Line」、幻想的な風景の中にシャープな陽光が差し込むような「カリヨンと小さな教会」、そして、緊張感をときほぐしすぎるほどの破壊力を持つコミカルな「すみれいこのうた」。なんたる幅広さ、なんたる高テンションと緩さの対比。ジャズ好きにはもちろん、現代室内楽ファンにも思いっきりお勧めしたいと感じた。(原田和典)


Popular CONCERT Review

「サニーデイ・サービス presents 忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー」(5月9日 中野サンプラザ)
 今年もこの日がやってきた。会場は忌野清志郎の魂に会いに来たファンで溢れんばかりだ。今回、フィーチャーされたのはサニーデイ・サービスの面々。ヒックスヴィルの木暮晋也もギタリストとして参加し、分厚いサウンドとコクのあるアンサンブルで、奇妙礼太郎、佐藤タイジ(シアターブルック)、志磨遼平(ドレスコーズ)、ワタナベイビーら豪華ゲストの歌声をバックアップした。第1部はRCサクセション(清志郎が1990年まで率いていたバンド)が85年に出した『ハートのエース』をLP盤の曲順そのままに、サニーデイ単独でカヴァー。MCを省いたままの10曲連続演奏だ。70年代後半から清志郎と交友のあったサックスの梅津和時も曲により参加し、快演した。第2部は前述のゲスト等を迎えた、色とりどりのステージ。RCで一緒になる前からの盟友だった仲井戸“CHABO”麗市は清志郎の家に遊びに行った時の思い出を語り、初めての合作曲であるという「コーヒーサイフォン」を歌った。第3部は「ダイナミックLIVE」と題された、清志郎の映像集。今からちょうど30年前、同じ中野サンプラザで行なわれた「RAZOR SHARP TOUR」からの映像が、とりわけ心を揺さぶった。(原田和典)

写真:山本倫子


Popular CONCERT Review

「トータス」(5月17日 六本木・ビルボードライブ東京)
 デビュー・アルバムから、もう23年。しかしサウンドの鮮度はまったく落ちていない。世間ではポスト・ロックの重鎮といわれているようだが、ぼくが彼らの音楽を聴き始めた頃は、まだそんな言葉は生まれていなかったと記憶する。歌が入っていないということ、だがジャズともクラシックとも異なるということで、いまなおぼくはなんだかヴェンチャーズやマーティン・デニーの側に引き寄せて楽しんでいる。2台のドラムスが向かい合うようにセッティングされていて、その外周に2台のヴィブラフォン(ひとつはマレット・シンセ)が対峙する。ぼくの席はステージよりかなり高いところだったので、メンバーがコロコロ担当楽器を変え(ステージを動き回り)、プレイを続けていくところを見下ろすことができたのも収穫だった。多種の楽器に精通するメンバーが偶然にも揃ったからこそできる離れ業なのかもしれないが、もちろんメロディはキャッチ—そのもの、リズムもよく練られていて、アンサンブルは一糸の乱れもない。
(原田和典)

写真:Masanori Naruse


Popular CONCERT Review

「ジョン・ポール・インダーベルグ」(5月19日 中目黒・楽屋)
 ジョン・ポール・インダーベルグ(本来は“ヨン”と表記すべきなのだろうが、本人は“ジョン”のほうがいいのこと)は1950年、ノルウェー生まれ。世代的にはフュージョンの洗礼を受けていてもおかしくないのだが、一貫してリー・コニッツ、ジェリー・マリガンなど50年代のコーカサス系アメリカ人モダン・ジャズを信奉している。そして指導者としてもスタイナー・ラクネス等、数多くの逸材を世に送り出している。この初来日公演は今年30歳のTrygve Waldemar Fiske(ベース)、1975年生まれのHåkon Mjåset Johansen(ドラムス、“”のメンバーとしても知られていよう)とのトリオによるステージ。バリトン・サックスによるピアノレス・トリオはマツ・グスタフソンやジョン・サーマンも取り組んでいた編成だが、インダーベルグのプレイはあくまでも軽妙。「パーカー51」「ケリーズ・トランス」「サブコンシャス・リー」など選曲もマニアックかつ、一切ブレのないものだった。(原田和典)


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