1994年。ストーンズの「Voodoo Rounge US Tour」をニューヨークのジャイアンツスタジアムで見た後に、夏のカリブ海のクルーズでバハマに行った。クルーズのナイトショーでチャック・ベリーが出演するのだと、船で友達になったアメリカ人夫妻に聞き驚いた。まさか同じ船であのロックの伝説のギタリスト、チャック・ベリーのギターリフに出会えるとは…! 夢中で写真を撮ったのを覚えている。
もし世界の終わりが来るのなら、私はウィーンに行く。あそこでは、全てが50年遅れて起こるから(Wenn die Welt einmal untergehen sollte, ziehe ich nach Wien, denn dort alles passiert fuenfzig Jahre spaeter )
その数日後ウィーン交響楽団のベートーヴェン交響曲4番と5番の演奏会に行った。
演奏会の翌日、Die Presse紙に「ベートーヴェンの自由への危険な道」(Beethovens gefaehrlicher Weg zur Freiheit)と題した批評記事が載る。書かれていたのは、主に指揮者フィリップ・ヨルダンの指揮ぶりについてであった。ベートーヴェンの音楽の最も素晴らしい特性の一つがその躍動するリズムにあることは、この記事の筆者ヴィルヘルム・スィンコヴィッチ氏も認めている。だが、そればかりではないことも又自明だ。フィリップ・ヨルダン氏の殴りかかるような暴力的な動きとも相まって、音楽は息もつかせぬほどの粗野なリズムで即物的に進み、終わった。のどの渇きとザラッとした嫌な感じが体に纏わりつく。スィンコヴィッチ氏は直接的な批判は何も書かなかった。だが、「自由への危険な道」とタイトルを付けて彼は何かを暗喩したのだろうか。