2014年7月 

  

ASCAP Jazz Wall Of Fame  5月5日・・・・・・・・・高田敬三
 ASCAP(米国作詞家作曲家出版者協会)では1997年以来、毎年、過去現在、ジャズ界で活躍の偉大なアーティスト達の功績を讃えて「ASCAP Jazz Wall Of Fame」に選出してきている。今年は、「リヴィング・レジェント」として歌手のヘレン・メリルがギターのケニー・バレル、ピアニスト・作曲家のディック・ハイマンと共に選出された。ASCAPの会長のポール・ウイリアムスからの授賞式は、6月9日にニューヨークの技術協会会館で行われる。因みに過去の受賞者は、ベニー・グッドマン、ビリー・ホリデイ、オスカー・ピーターソン、デューク・エリントン、アート・ティタム、チャーリー・パーカー、カウント・ベイシー、ニ−ナ・シモン、ランディ・ウェストン、アーテューロ・サンドヴァル、オーネット・コールマン、バディ・リッチ、ペギー・リー等がいる。
 ヘレン・メリルは、1952年にアール・ハインズ楽団でデヴュー、1954年にクインシー・ジョーンズのアレンジによるクリフォード・ブラウンとの共演によるエマーシーの初アルバムを発表して以来、世界で最も尊敬され愛されるジャズ・シンガーの一人として永い間、活躍してきている。彼女は、ギル・エヴァンス、スタン・ゲッツ、テディ・ウイルソン、ゴードン・ぺック、ロン・カーター、エンリコ・モリコーネ、ステファン・グラッぺリ、ディック・カッツ、ウエイン・ショーター、ジョン・ルイス、ビル・エヴァンス、そして彼女の最愛の夫、アレンジャー、コンダクターの故トリー・ジトー等と50枚以上のアルバムを発表している。
 4月にヘレン・メリルの病気で中止になったブルー・ノート東京公演は、秋に延期されて行われる予定。(高田敬三)
撮影:James Gavin

瀬川昌久Presents JAZZ I LOVE・・・・・・・・・・三塚 博
 瀬川昌久Presents JAZZ I LOVE〜サッチモから日本のジャズソングまで〜と題した催しが6月17日(火)、渋谷区文化総合センター大和田伝承ホールで開催された。サッチモ・ジャズがいかにその後のジャズシーンに影響を及ぼしたか、さらにはそれが日本JAZZにどのようなつながりをもたらしたのかを音と映像、生演奏とトークで解き明かして行く。
 会場は往年のジャズファンや年配の音楽ファンで桟敷席まで満員。司会進行役の鈴木治彦、解説役の瀬川昌久両氏の話をうなずくように聞き入る観客の姿は印象的だ。とりわけ「Dippermouth Blues」を題材に、ハリー・ジェイムスやグレン・ミラーらのワンフレーズを聴衆に聞いてもらいながら、ルイ・アームストロングの影響力を解説していく部分は強い説得力を持つ。呼応するかのように外山喜雄とデキシーセインツの演奏が聴衆をさらに舞台に引き込む。スキャットはサッチモが発明したという逸話を、外山喜雄がその場面を再現して会場の笑いを誘ったり、30年代に吹き込まれた音が会場に流れそれがいつの間にかデキシーセインツの演奏にとって変わっていたりと次々に仕掛けが繰り出されるから目が離せない。
 ところでこの音楽会にはもうひとつのサブタイトルがついている。「ミュージック・ペンクラブ特別功労賞受賞記念」。第26回(2014年)ミュージック・ペンクラブ音楽賞で特別功労賞を受賞された瀬川先生の記念イベントでもある。第一部の最後に、鈴木道子MPCJ副会長からご挨拶のスピーチと花束贈呈があった。
 ステージに話をもどすと、ゲストも多彩で菊地成孔さんのトーク、白川希、三寺郷美両氏のタップ・ダンス、祥子さんの昭和ジャズソング再現などもあって、まさに盛りだくさんの音楽会。「ラグタイム・ジ・エンターテイナー」に始まり「ハロードーリー」までの2時間はあっという間に過ぎた。最後にステージに登場したのが北村英治、阿川泰子、寺井尚子の各氏、デキシーセインツの面々と「スワンダフル」を演奏してステージは盛り上がり、観客も拍手で応える。楽しくて、ためになる一夜だった。 (三塚 博)

マイケルは、何処に「エスケイプ」したのか。・・・・・・池野 徹
 あれから5年経つ。2009年、6月25日。マイケル・ジャクソンは、この世から「Xscape」エスケイプした。私はグアム島のホテルで米国のテレビニュースの映像を見て愕然としたのを思い出す。マイケルの言動からある種のエスケイプを感じていたが、見事なこの世からの脱出劇が、突如演じられた。ある種、スーパースターの宿命だったのだろうか。

 5人の黒いセキュリティに囲まれて、マイケルが歩いて来る。手を差し伸べてくれ握手した。その手はやや、ガサッとした痩せた白い手だった。そして、カルバンクラインの強烈な香りとともに去っていった。1998年、7月27日。お忍びで来日していたマイケルとホテルオークラで出会えたのは、ジョー山中のおかげだが、今、この2人ともエスケイプしてしまったのだ。何ともやりきれない。エスケイプした先は、南の島のパラダイス? 何処?

 好きだった歌い手の歌は、彼等が生きている時は、渇望したものだが、幻影の今では、CDをスタートする気にもなれない。あの、共にエンジョイした頃と「ナマ」の肉声と「ナマ」のパフォーマンスの魅力を知り過ぎたために。

 マイケルの未発表新曲がリリースされた。「Xscape」である。8曲あるが、そのオリジナルも8曲も入っている。マイケルにしては、やや、トーンの低いヴォイスにかっての緊張感あるハイトーンはない。あのしゃくり上げるシャウトは多い気がする。このテイクはお蔵入りしていたものから丹念に探し出して、プロデュースした、エピックレコードのCEO、L.A.リードは、マイケルを知るディレクターで、見事な新しいアレンジをしているのは、添え付けのDVDから、その苦心がよく解る。マイケルをここまで復活させるのは、さすがである。もう1人のマイケルが甦って来る。

エスケイプ、逃げるんだ
世界を支配するシステムから
エスケイプ、逃げるんだ
人間関係のプレッシャーから
エスケイプ、エスケイプ...........
(池野 徹)

Photo by Tohru IKENO

東宝ミュージカル・「Catch Me If You Can」を楽しむ・・・・・・・本田浩子
 6月24日、シアタークリエでブロードウェイ・ミュージカル「Catch Me If You Can(キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン)」を見る。1980年に出版されたフランク・W・アバグネイル・Jr.著の自伝小説「世界をだました男」を元に製作された同名映画(2002年)のブロードウェイ・ミュージカル版の日本初演を見逃す手はない。「できるもんなら捕まえてみろ」というタイトルも人を食っているし、実際に16歳で家を出て、詐欺稼業?を始めたというフランクJr.を、ミュージカル「タイタニック」、「ファンタスティックス」他、様々なジャンルで活躍する松岡充主演となると、見る前からワクワクしてしまう。 http://www.musicpenclub.com/talk-201212.html
(上記ページ下段に「ファンタスティックス」の記事を掲載。)
 舞台は1960年代のマイアミ国際空港、16歳から21歳までに、250億ドル以上稼ぎ出したと言われる天才詐欺師フランクJr.が、まさかほんの少年とは思いもよらず、折角出会っても、取り逃がしてしまったりのご難続きのFBI捜査官カール・ハンラティ(今井清隆)は、ようやくフランクJr.を追い詰め、捕まえようとする。
 フランクJr.は、僕だって色々と説明する権利がある筈とカールにかけあい、空港でのテレビ・ショーさながらに数年間の経緯を繰り広げる。16歳のフランクJr.の父フランクSr.(戸井勝海)と母ポーラ(彩吹真央)に可愛がられてきたが、大恋愛で結ばれた両親が、離婚することになり、父か母かどちらかを選ばなければならないことに耐えられずに家を飛び出す。
 一人で生きていこうと決心したフランクJr.は、そんな状況下、隠れていた詐欺師の才能?が芽生え、小切手の偽造を繰り返しては、巨額の資金を作り、20世紀アメリカの繁栄の象徴だったパン・アメリカン航空(1991年に倒産)の副操縦士になりすまし、世界中を飛び回っていた。身辺が危ないとなると、次は医師になって、ブレンダ・ストロング(新妻聖子と菊池美香のダブル・キャストだが、この日は新妻聖子)という、看護師に恋をしてしまい、結婚したいと真剣に思い詰める。ブレンダの両親ロジャー(治田敦)とキャロル(小野妃香里)にもウソの連続で結婚を許してもらうが、身の危険を察知して、愛するブレンダを残して、フランクJr.は、結婚式当日逃走する。しかし、彼を追うブレンダをつけてきたカール達に、マイアミ空港でいよいよ追い詰められてしまう。
 そんなウソのような本当の話を、「蜘蛛女のキス」他、様々な作品で知られるテレンス・マクナリーの脚本、ミュージカル「ヘアスプレー」の作曲作詞コンビのマーク・シャイマンとスコット・ウィットマンの紡ぎ出す、60年代の香り一杯のカントリー・ウエスタン、ロック、ジャズっぽい曲は、ミュージカルの楽しさに溢れている。奇想天外の物語に加え、歌とダンスの楽しさが加わり、実力者揃いの役者たちが競い合うように繰り広げる舞台は、もう劇場に足を運んでSeeing is Believing.(百聞は一見に如かず)を体験するしかない気がする。
 現実性と非現実性を併せ持つような松岡允の存在は圧倒的だが、今井清隆のどことなく哀調とユーモアのあるキャラクターも見逃せない。割とお堅い役で見慣れている戸井勝海が妻役の彩吹真央に愛想を尽かされて、殆どアル中のようになりながら、尚、夢を追う姿には泣かされる。そんな父親が大好きで、事業を再開して立ち直ってもらおうと、その資金作りの為に詐欺師を続けてきたフランクJr.だが、カールから父の死を告げられ、崩れるようにへたり込む。
 余談だが、現在フランク・W・アバグネイル・Jr.は、詐欺師に立ち向かう金融詐欺コンサルタントとして活躍しているという。 (本田浩子)
写真提供:東宝演劇部

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