「島田歌穂&島健 Duo Xmas Special vol.7」 (12月18日・青山スパイラルホール)
“ヴァーサタイル(versatile)”という言葉がこれほど似合うシンガーを、ぼくは島田歌穂以外に知らない。50〜60年代にはカテリーナ・ヴァレンテがさまざまな言語でいろんなジャンルの歌を歌いこなして人気を集めたが、いうまでもなく音楽そのもののカテゴリーが当時よりもさらに多彩になっている。しかし島田は絹のように滑らかな美声と幅広い音域で、どの曲にも自身の確固たる個性を刻む。外国語のディクションも美しい。夫君・島健(ジョー・ヘンダーソンやフレディ・ハバード等、ゴリゴリのジャズ・ミュージシャンとの共演歴もあり)のピアノは今回も極上の響き。決して前面に立つことはないが、ハーモニー、オブリガート、そしてソロで見事にヴォーカリストをリードする。イントロづくりも実に巧みだ。ビリー・ジョエルの「素顔のままで」、ケルティック・ウーマンのカヴァーで有名になった「ユー・レイズ・ミー・アップ」、夫妻でヴォーカル・デュオを聴かせた「アンフォゲッタブル」なども強く印象に残ったが、個人的な圧巻は「ゲス・フー・アイ・ソー・トゥデイ」だった。カーメン・マクレイやナンシー・ウィルソンが得意とした、別の女性と密会している夫をネチネチとなじる、聴いている男性にとっては怖く、歌う女性にとっては難しい(に違いない)歌。歌詞をかみしめるように島田は歌い、最後に“(今日みかけた、その浮気男は)あなたよ”と、声のトーンを落とす。その絶妙なタイミングと巧みなコントロールに、鳥肌を抑えられなかった。(原田和典)
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