2014年11月 

  

Popular ALBUM Review


「ハヴァナ・ロックス/セシリア・ノエル」(BSMF RECORDS:BSMF-9005)
 'The Queen of Salsoul.'と呼ばれるリマ出身のセシリアが1980年代の著名なロック・ヒット10曲をラテン色に染め抜いてしまった。ヴァン・ヘイレンもデヴィッド・ボウイもクイーンもゲイリー・ニューマンもフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドもAC/DCも。。。あっけらかんとしたお陽気なラテンとサルサのアレンジですっかり'骨抜き'に♪(笑)。夫君がオーストラリア出身のメン・アット・ワークのリード歌手コリン・ヘイということであの「ノックは夜中に」も歌われているがこれは'異色'というよりも原曲のエッセンスが'移植'されたような印象。一番の仕上がりはオーストラリア出身のグループ、ディヴァイナルズの代表作「アイ・タッチ・マイセルフ」で、紅一点クリッシー・アンフレットの妙な妖しさをしっかり引き継ぎ官能的♪昨年病死したクリッシーへのトリビュートの意が感じ取れる。(上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「パートナーズ/バーブラ・ストライサンド」(ソニー・ミュージック ジャパン インターナショナル:SICP-30729)
 昨今流行ともいえるデュエット・アルバムだが、今回のバーブラ盤は単なる話題作りとも思えない豊潤な仕上がり♪各曲についてバーブラ自身が選曲とデュエットの相方についてコメントしているのを読めば「なるほど」と納得。当初「あ、バーブラもこういうの出したのか」とタカを括っていたのだが、解説で鈴木道子先生が「流れるような統一感があって実に聴き心地がいい」と書かれている通り。。。見事にハマッてしまった(!)。'相方'の年代やジャンルもさまざまだがバーブラは相手の男性を引き立てながらも存在感を醸し出す。スティーヴィー・ワンダーと歌った代表曲「ピープル」の洒脱さ、プレスリーと'合体'した「ラヴ・ミー・テンダー」の贅沢さ、そして息子ジェイソン・グールド(47歳。バーブラは72歳!)と組んだ「愛は海よりも深く」で感じさせる母子の情愛、などなど。ふと気が付いたら。。。目が潤んでいたりして♪(上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「ハロー・ユア・スマイル/伊豆田洋之」(Pearlnet Recods/FLY HIGH RECORDS=販売ヴィヴィド・サウンド・コーポレーション:PEAR-3002)
 ポップなシンガー・ソング・ライターとしてデビュー後、30年。メロディー作りのセンスには定評があり、2007年からはサエキけんぞうがプロデュースするイベント「伊豆田洋之ポール・マッカートニーを歌う」を開催中。3年ぶりとなる新作は全10曲で書き下ろしが5曲(曲・伊豆田/詞・サエキ)、弦楽四重奏団Moment String Quartetと共演したライヴ音源(8月24日:神戸で収録)が5曲。伊豆田、サエキ、鈴木雄大の3人共同制作になるが、派手さも仕掛けも作り物っぽいところも何もなく、素朴で自然なやさしさがにじみ出るポップ作に仕上がっている。ポール・マッカートニー風でもあり、加えて楽曲のトーンやスケール感などギルバート・オサリバンを思い浮かべたりもするが(4曲目「手のひらのアイ・ラブ・ユー」など)、いずれにせよ有能な先人たちの優れたDNAを受け継いでいるかのように思わせられる内容だ。(上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「ビタースイート〜アン・バートンに捧ぐ/イヴォンヌ・ウォルター」
(ミューザックFab MZCF-1297)
 前作のコルトレーンの名作「バラーズ」を基にしたピアノとベースだけのシンプルなバックで歌うバラード集で話題になったオランダ出身、今は、ベルギーで活躍するイヴォンヌ・ウォルターがオランダの先輩アン・バートンに捧げるアルバム。彼女の代表作「Ballads And Burton」「Blue Burton」から4曲をはじめアンの歌ったナンバーに彼女の出自であるユダヤ系の歌も交えて柔らかい深みのあるアルト・ヴォイスで歌う。アン・バートンは、「アンネの日記」の様にナチに迫害された過去を持ち、昔の事は、語りたがらなかったが、イヴォンヌにとっては、そんな彼女の陰りのある部分が印象的だったのだろう。全体的にタイトル通りビタースイートでブルーなムードの歌を聴かせる。彼女の歌詞の内容をしっかり伝えるナレーティヴな歌唱は、アン・バートンに通じるものがあり聴き手の心に響くものがある。日本盤ボーナスとしてアンがコンサートで良く歌った「A Lovely Way To Spend An Evening」が付いている。(高田敬三)


Popular ALBUM Review


「チァーズ・フォー・ティアーズ/清水ひろみ」(Blue Jive DQC-1368)
 清水ひろみは、大阪のジャズ・クラブ「Jazz On Top」のママさんでNYの「ブルー・ノート」「キタノ」やイタリアのウンブリア、フランスのジュアン・レ・パンのジャズ祭に出演したり、ジャズ・ピアノの巨匠ケニー・バロンやドン・フリードマンとレコーディングを行ったりしてきた国際派のシンガーだ。彼女の前作は、2011年にNYでケニー・バロンと録音した「Love Letters From New York」だった。その後、彼女は、2012年2月に父親と共に新会社「ブルー・ジャイヴ」を設立、清水ひろみレーベル「Hiromi S」を立ち上げた。本アルバムは、彼女のその新レーベルでの第一弾ということになる。メンバーは、良く一緒に活動している同年代の女性、井上ゆかり(p)里見紀子(vln)とのユニットによるもので、気の合う3人(Splash Diva)でのセルフ・プロデュースによる作品だ。歌、ピアノ、ヴァオリンという構成は、前作と同じだが、創意工夫に溢れたアレンジと演奏で全く違うムードの女性らしい優しさ溢れる心安らぐ作品になっている。(高田敬三)


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「ライヴ・イン・ジャパン・コレクション1966-1993/鈴木道子編」(河出書房新社)
 公演プログラムの一冊一冊には物語がある。音楽評論家鈴木道子氏がこれまでに収集した800冊を越える来日公演プログラムの中から名論考を厳選して編んだポピュラー音楽資料史だ。武道館がコンサートに開放され、1ドル360円時代が終わり変動相場制になって、海外ものを扱う音楽事業が花盛りになっていくのがこの時代だった。大物アーティストを招聘するプロモーターの苦労は並大抵ではなかったろうが、素晴らしいコンサートをいくつも身近に観ることができるようになった。豪華な公演プログラムは、今まさに目の前に登場するアーティストの貴重な写真で埋め尽くされ、第一人者と自他共に認める執筆人が才筆を振るっていた。音楽評論家、音楽家、写真家、服飾デザイナー、イラストレータ、編集者、ディスクジョッキー、ジャーナリストと多様な人々の熱のこもった解説は楽しみの一つでもあったし、今読み返してみると当時のホットな息吹をストレートに伝えてくれる。若い人にはヒストリーとして、同時代を駆け抜けた人には“なつかしのあの時代”を映す鏡として手元において欲しい一冊。(三塚 博)


Popular CONCERT Review


「高橋和也のハンク・ウィリアムス物語」9月13日 新宿文化センター 小ホール
 カントリー・ミュージックのイノヴェイター(その重要性はチャーリー・パーカーに匹敵すると思う)、不世出の天才ハンク・ウィリアムスの生涯を追題材にしたドラマライヴ(演劇+ライヴ・パフォーマンス)が上演された。歌は基本的に英語、セリフのやりとりは日本語だ。
 ハンクに扮したのは元“男闘呼組”の高橋和也。父親の影響で少年時代からカントリーに親しみ、今日もレギュラーでライヴ活動を続けている。歌声は張りがあり滑らか、英語の発音もよどみない。ハンクの遺したパフォーマンスを丹念に聴き、あの独特のリズムへの乗り方を身につけたことがうかがえたのも嬉しかった。最初の妻、オードリー役を担当したのはカントリー界有数の女性シンガーである石田美也。父・石田新太郎(本公演のプロデューサーを務めた)率いる“シティライツ”でも活動している彼女が、役者としての姿を見せてくれたのも収穫だ。この二人の間に生まれたハンク・ジュニアにはやはり大変な実力派の片山誠史が扮する。ハンクはジュニアが3歳の時に亡くなっている。しかし当ストーリーにはハンクと“大人になった”ジュニアが共演する一幕まで盛り込まれた。これぞ演劇ならではのファンタジーであり、楽しさである。(原田和典)
写真:羽田野秀男


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「ティグラン・ハマシャン」9月26日 丸の内・コットンクラブ
 ジャズ界で最も権威のあるコンテストといわれる“セロニアス・モンク・ジャズ・コンペティション”で優勝、さっそうとシーンに飛び出したのは2006年のことだ。個人的にはデビュー当初、トランペット奏者テレンス・ブランチャードのバンドで一生懸命モダン・ジャズを演奏していた姿を思い出すが、現在はワン&オンリーのエレクトロニカ道を突き進んでいる。電子楽器類の、なんともいやったらしい、いびつで爆発的な響き。何拍子か数えるのも面倒くさくなるリズム。会場では猛烈に生きのいい音がピュンピュンしていた。拳をあげて踊りたくなった。彼の生まれたアルメニアの音楽については正直知らないので、言及しようにもできないが、伝統的なジャズを志向する若者の登竜門的なモンク・コンペのウィナーが今、こういう音楽に取り組んでいるという事実は、進行形の響きを創造しようと腐心するアーティストたちに大きな勇気を与えるものと思う。
(原田和典)
写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久


Popular CONCERT Review




「齋藤順」9月22日 JZ Brat
 日本を代表するコントラバス・ベース奏者齋藤順の人気ライヴ・シリーズ “Voclassic Night 4”は、マルチ・リード鈴木直樹、ピアノ阿部篤志、ドラム・パーカッション東佳樹という永年の付き合いの腕利きミュージシャンとの和気あいあいとした肩の凝らない楽しい内容だった。1部は、元々「コントラバスの夕べをライヴハウスで」と言う事をモットーに始めたライヴなので、クラシックを演奏するのだが、厳かにピアノとのデュオによるH.Ecclesの「ソナタ ト短調」で始まり、3大コントラバス作曲家G.Bottesini、SKoussevitzky、D.Dragonettiの「小さなワルツ」、「夢」、「コンチェルト ト長調」では、齋藤が如何に優れたいや天才的なコントラバス奏者であるかをその運指と弓使いや優しさに満ちた柔かい演奏で示した。続くV.Montiの「チェルダッシュ」は、クラリネットとドラムも加わり、ユニークなアレンジで観客を喜ばせ、ベートーヴェン・メドレーは、齋藤の天才的アレンジが発揮され、「運命」「第九」と来て「歓喜の歌」と「アナ雪」のコード進行が同じと言う事で、スクランブル演奏となる。この演奏は齋藤自身もコントラバスとベース(弓と指)を弾き分け、圧倒的な迫力で徹底的に観客楽しませ、同時に自分達がセッションの様に楽しんでいた。2部は、齋藤のオリジナルを中心に、優しさに包まれた曲を丁寧に演奏した「夏の日の夜に---」から、齋藤の名曲「伝えたい気持ち」をビブラフォンとクラリネットのアレンジが絶妙な演奏で、観客を魅了した。また、父親譲りと言うべきか最も齋藤らしい「いにしえの彼方から」は、日本的な景色を想像させ、誰もが知る名曲「リベルタンゴ」では、誰もやらないアレンジで、聴く者の心を震わせた。アンコールでは、チック・コリアの「スペイン」でラテン、「アメージング・グレース」でジャズと何でもありのライヴは幕を閉じた。齋藤順は、単にコントラバス・ベース奏者と言うだけでなく、コンポーザー・アレンジャーとして、もっと多くの方に注目して欲しいミュージシャンである。
(上田 和秀)
写真:手塚昌人


Popular CONCERT Review


「ナイト・レンジャー」10月5日 渋谷公会堂
 80年代を代表するバンド ナイト・レンジャーのライヴは、「タッチ・オブ・マッドネス」でノリノリに始まり、百戦錬磨のブラッド・ギルスは、玩具の様に例のカスタム・ストラトを操り、面白い様にアーム・プレイをキメまくる。リズム隊の二人ジャック・ブレイズ(B,Vo)とケリー・ケイギー(Ds,Vo)が、ツイン・ヴォーカルである為、歌っている最中はリズムが単調になる等はあるが、そんな事はお構いなく代表曲で軽快に疾走する。ユニークだったのは、新ギタリストのジョエル・ホークストラが、エイト・フィンガー奏法を無理にキメ様としていた点である。アンコールの「ペニー」、「シスター・クリスチャン」、「ロック・イン・アメリカ」まで、怒涛のライヴは観客の歓喜の渦の中終了した。何はともあれ、80年代のロックは、ノリが良くて、キャッチーなフレーズで、ハードなロックンロールとメロディアスなロッカ・バラードで決まり。ワンパターンと言えばそれまでだが、華やかなバブル期の産業ロックは、カッコ良ければ良いのです、と言うかカッコイイ!!!(上田 和秀)
写真:Hiroyuki Yoshihama


Popular CONCERT Review


「マライア・キャリー」10月6日 横浜アリーナ
 完全復活を目指し、ワールド・ツアーを開始したマライアだが、華やかなドレスやステージに反して、悲しい程声が出ていない。全盛期に比べ、全くと言って良い程高域の伸びが無い。ましてや全曲本当に歌っているのかも疑問であり、バック・ダンサーも決して一流とは思えず、ファンク中心の曲調にも今一迫力が無い。バック・ミュージシャンもソロと間奏では、素晴らしい演奏を聴かせるが---。8年振りの日本公演に集まった多くのファンに対し、アンコールも無とはどうしたものか。ゴージャスさと貫禄を兼ね備えた最後のディーヴァ(歌姫)なだけに、一番重要な歌で、観客を魅了し実力を見せつけて欲しかった。(上田 和秀)
写真:Masanori Doi


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「BOSTON」10月9日 日本武道館
 半分諦めた様に待ち続けた(35年振り)BOSTON号(=トム・シェルツ)が、2014年の秋に日本へ飛来した。それも37年前のデビュー当時と変わらぬ(進歩はあるが)BOSTONサウンドと長旅の途中で交代したメンバーに、若くて可愛い女性まで加えて帰って来た。いきなり「ロックンロール・バンド」、そう毎晩クレージーにライヴをやって欲しい、正に最高のロックンロール・バンドがBOSTONなのだ。続く「スモーキン」ではトムがオルガンの前に、ギターと同様にいやそれ以上にこの人がキーボードを弾くとこのバンドにしかない唯一無二のサウンドが炸裂する。何と言おうともBOSTONは、アルバム『宇宙の彼方へ』、『ドント・ルック・バック』、『サード・ステージ』なのだが、ライヴもこの3枚のアルバムの楽曲を中心に演奏され、観客を喜ばせてくれた。初代ヴォーカルのブラッド・デルプ不在とピアノを用意していなかった為なのか、「ア・マン・アイル・ネバー・ビー」が演奏されなかったのは寂しいが、「宇宙の彼方へ」、「ピース・オブ・マインド」、「ドント・ルック・バック」、「アマンダ」等ヒット曲に加え、アンコールの「アイ・シンク・アイ・ライク・イット」、「パーティ」まで、BOSTONワールド満載のライヴに酔いしれた。「又のご来航を心よりお持ち申し上げます。」これが、ファンの心の叫びだ。(上田 和秀)
写真:Hiroyuki Yoshihama


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