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「ロッシーニ序曲集:〈絹のはしご〉序曲、〈ブルスキーノ氏〉序曲、〈セビリャの理髪師〉序曲、〈シンデレラ(チェネレントラ)〉序曲、〈セミラーミデ〉序曲、〈コリントの包囲〉序曲、〈ウィリアム・テル〉序曲、アンダンテと主題と変奏/アントニオ・パッパーノ指揮、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団」(ワーナーミュージック・ジャパン、ワーナー・クラシックス/WPCS-12870)
パッパーノとサンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団の来日記念盤でもある。このCDを聴いた時、これぞパッパーノと思ったのが最初の「絹のはしご」序曲冒頭、第1ヴァイオリンによる4つの四分音符すべてに複前打音が付けられていたことである。これはパッパーノの歯切れの良さを強調する表現であり、長いフェルマータの次に来るアンダンティーノでオーボエに自由に吹かせる美しい歌を目立たせているのだ。聴衆に対して、よりロッシーニを楽しませる技としてパッパーノが考えたことだろう。聴いていても気持ちが浮き立つ。パッパーノ方式とも言えるようなダイナミックスと緩急のコントラストによる急な変化は、彼独特の表現力の素晴らしさであり、これが彼の人気の秘密とも言えるものだ。そしてPPからアチェッランドしながらクレッシェンドする様は何とも爽快であり、パッパーノが演じるロッシーニの世界に聴く人を完全に引き込んでしまう。この曲に続く2曲目の「ブルスキーノ氏」でロッシーニは第2ヴァイオリンでF音のコル・レーニョ(弓の毛の反対側である木部で弦を叩く奏法)を指定している。ここは大御所ロッシーニの愛すべきジョークだ。この他の有名な「セビリアの理髪師」、「ウィリアム・テル」を含む8曲すべてに楽しさが横溢している。そして彼の手兵、サンタ・チェチーリア国立アカデミー管がパッパーノの考えを見事に表現するアンサンブルは素晴らしい。その中でも木管、特にソロ・オーボエが光っている。 (廣兼 正明)
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