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「ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60、第5番「運命」 ハ短調 作品67 / ニコラウス・アーノンクール指揮、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(オリジナル楽器使用)」(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル、ソニー・クラシカル/SICC -30250)
アーノンクールが昨年の誕生日前日、60年を超える演奏活動から引退する旨の表明に、残念がるファンも多かったに違いない。その結果昨年5月に録音され、この2月日本でも発売されたベートーヴェンの第4番、第5番が彼の最後のレコーディングとなってしまった。本来はこの1枚が彼としては2度目の交響曲全集の第1巻となるはずのものだったという。そして筆者はこの1枚のCDを聴いて新しく考えられていた全集が今後実現する術が全くない事を心から残念に思う。何故ならばこの2曲の出来映えが誠に素晴らしく、そして何よりもアーノンクールの個性そのものだからである。兎に角アーノンクールの今までの演奏では感じたことのない神の導きで作り上げたような孤高とも言える音楽がそこにあるからだ。そしてこの2曲以外の7曲がどのような演奏になるかを考えることは不可能とも言えよう。例えば第4番第1楽章に於ける序奏の美しさから主部に入った時のダイナミックスの新しい感触は今まで聴いたことのない鋭ささえ感じる。これは今まで第4番の第1楽章で言われてきた軽快な解釈とは全く異なる異次元の解釈と言える。第5番「運命」も鋭さに満ちた新鮮な感触を持つ演奏であることに違いない。そして両曲の緩徐楽章のテンポも速く、アーノンクールはテンポもダイナミックスも自由自在に作り上げ、特別な効果を生み出すことに成功している。先ずは何と言っても聴いていただくことが1番ではなかろうか。彼の手兵コンツェントゥス・ムジクス・ヴィーンも彼の意のままに演奏しており、ここに驚くべきアーノンクールの偉大なベートーヴェンが出来上がったと言って良いだろう。(廣兼正明) |