2017年12月 

  

Popular ALBUM Review


「ジェフ・リンズELO/ウエンブリー・オア・バスト〜ライヴ・アット・ウエンブリー・スタジアム」(ソニー・ミュージック・ジャパン・インターナショナル:SICP-31129〜30)
 近年、新作や大々的なツアー敢行で現場復帰を果たしたジェフ・リン(ELO)。2017年6月24日の英ウエンブリー・スタジアム公演の模様をCD2枚に収めた今回のライヴ盤(DVDとのセット盤も同時発売)はその復活ぶりを実証するにふさわしく、「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」(1973年)から最新の「ホエン・アイ・ワズ・ア・ボーイ」(2015年)までを収めた全23曲はELOのキャリアを辿るドキュメンタリー作品のようにも思えて来る。レコードで聴いていた印象的なイントロやアレンジも変わらず。広大な会場を埋め尽くした6万人の観客はそれぞれの人生をELOの数多いヒット曲に重ねて聴き入り、至福のひと時を共に分かち合ったのだろう。そんな雰囲気が伝わる。大半が'お約束'の曲だが、ジェフも参加した“覆面グループ”トラヴェリング・ウィルヴェリーズの「ハンドル・ウィズ・ケア」(1988年)はいわばボーナス・トラックかも。年末(12月30日)にちょうど70歳を迎えるジェフ・リン自身の音楽人生の集大成とも言えるライヴ・アルバム。(上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「ウィーザー/パシフィック・デイドリーム」(ワーナーミュージック・ジャパン:WPCR-17867)
 1990年代の米オルタナティブ・ロック系バンドの中でもこの4人組ウィーザーはその奏でるメロディーの素晴らしさ、ポップ感覚においては一目置かれる存在だが、約1年半ぶりとなる新作(11作目!)はそんな彼らの魅力のエッセンスが全編に満ち溢れた目の覚めるような仕上がり。「どうしたのか?」とちょっと心配になるほど何ともストレートでメロウな楽曲が並んでおり、彼らがオルタナティブ・ロックと呼ばれていたことを忘れてしまいそう。ちなみに2曲目の題名は「ビーチ・ボーイズ」で続く3曲目が「フィールズ・ライク・サマー」。個人的には4曲目から7曲目へと至る「ハッピー・アワー」〜「ウィークエンド・ウーマン」〜「QBブリッツ」〜「スウィート・メアリー」の流れがあまりにも心地良過ぎる♪ちなみにジャケットの右端下方には縦書きの日本語で「太平洋で白日夢」(表題の日本語訳)との記載が。(上柴とおる)


Popular BOOK Review


洋楽マン列伝1

洋楽マン列伝2

「洋楽マン列伝1」「洋楽マン列伝2」篠崎弘著(ミュージック・マガジン)
 月刊誌「レコード・コレクターズ」の連載記事(2010年〜現在も継続中)が2巻に分けて書籍化された。レコード会社の宣伝・制作、海外アーティストの招聘、ラジオ局の制作といった仕事に携わり、実績と共に洋楽業界では'名物'としてその名を知られた方々の若かりし頃の「今だからこそ明かせる」裏話を中心としたインタビュー集。話の主体は1960年代〜1980年代で、個人の裁量であれこれぶっ飛んだことも出来た古き良き昭和の音楽業界の裏方さんたちのある種'武勇伝'と言える側面も(仕事でお世話になった方々も少なからずで個人的には興味深々♪)。外資の参入やネットの普及等で環境も激変し、個人プレイなどほとんどあり得なくなったと思われる今どきの業界にとって参考になるとは言い難いのだが、日本独自の洋楽業界史のいわばマニアックな'B面集'でもあり、当事者の方々の貴重な体験の数々を'復刻'するという作業には大きな価値を見い出したい。各巻とも360ページを超えるという分厚さから来る本自体の重みそのものがそれを物語っている。(上柴とおる)


Popular ALBUM Review


「Cherryl Bentyne/RE ARRANGEMENT OF SHADOWS」(Artist share AS0157)
 マンハッタン・トランスファーのシェリル・ベンティ—ンの最新作は、スティーヴン・ソンドハイムの作品を歌うもの。ソンドハイムを歌うアルバムというのは、過去にもジャッキー・アンド・ロイ、ジュリー・ウイルソン、ジェーン・ハーヴェイ、ジュデイ・コリンズなども作っているが、シェリルの今回の作品は、制作に半年以上かけたというだけに力の入った作品だ。アレンジャーが曲によって変わり6人が担当、会話調の多いソンドハイムの歌を一つ一つのストーリーとして演じるような華やかな彼女の歌を見事に支える。ジョン・ビースリイのピアノが素晴らしい。有名は有閑夫人の生態を描いた「The Ladies Who Lunch」では、ジャニス・シーゲルとティァニ—・サットンが共演して掛け合いで歌い見事な雰囲気を出している。この歌は、最後にボーナスとしてシェリルがソロで歌うヴァージョンもついている。有名な「Send In The Clowns」は、バック・アップ・コーラスをつけてカホーンとシェーカーだけの伴奏によるマーク・キブルの面白いアレンジで歌っている。なかなかユニークで楽しいアルバムだ。(高田敬三)


Popular CONCERT Review


「ラクネス / ブルンボルグ」(9月10日 横浜・エアジン)
 来日公演も多い人気者ふたりが、こんどはデュオでやってきた。アコースティック・ベース奏者スタイナー・ラクネスとテナー・サックス奏者トーレ・ブルンボルグ(マヌ・カチェのバンドにいたこともある)のデュオ・チーム“ラクネス / ブルンボルグ”だ。昨年は「ヨイク」(北欧少数民族サーミ族の伝統歌唱)の第一人者であるSara Marielle Gaup とのユニット“アルヴァス”で来日し、エフェクターやコンピューターで加工しまくったベース音を出していたスタイナーだが、このデュオではアンプもマイクも使わないセッティングで生音の美しさを徹底的に響かせた。もちろんトーレも生音で通し、とくに高音部のなまめかしさは絶品。オスロのレインボウ・スタジオで録音されたアルバム『BACKCOUNTRY』からの曲を中心に、ときに骨太、ときに幻想的な世界を満喫させてくれた。
(原田和典)


Popular CONCERT Review


「カリ・イコネン」(11月11日  柏・Nardis)
 フィンランドの気鋭カリ・イコネンが最新作『Ikonastasis』を携えてソロ・ライヴを開催した。昨年はトリオで来日し、賞賛を浴びたときくが、ぼくが彼の生演奏に接するのは今回が初めて。ジュリアス・ヘンフィル作曲賞を獲得しているだけあって、オリジナル曲がむちゃくちゃ面白い。サステイン・ペダルに対する細かなつま先さばきはまるで踊っているかのよう、内部奏法も冴えに冴え、曲によって登場するヴォイスも自由自在。オリジナル曲は美しく、どこまでが記譜されているのか、どこからがアドリブなのか皆目わからない。芳醇な音楽の渦の中に、有無を言わさず放り込まれたような気分だ。途中、ウェイン・ショーターの「ピノキオ」やジョン・コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」など古典的ジャズ・ナンバーもカヴァーしたが、これもイントロやテンポに工夫がこらされていて、メロディもそのままプレイするというよりは、解体されてパフォーマンス全体に散りばめられるような感じ。だがこれがまた興味深い。彼はたいへんな才人だ。もっとライヴを聴きたいし、アルバム(CDだけではなくLPも同時発売することが多い)も集めたくなった。(原田和典)


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