2009年10月 

 
Popular ALBUM Review

「アイ・ルック・トゥ・ユー/ホイットニー・ヒューストン」(BMG JAPAN/BVCP40096)
 ≪最もアワード受賞回数の多い女性アーティスト≫としてギネスブックに認定され、売り上げ枚数も抜群。ポップ/ソウルの第一人者だったホイットニーだが、私生活などのトラブルで芸能界から遠ざかっていた。それが7年ぶりで復帰した。デビュー時から面倒を見てきたクライブ・デイヴィスの息の掛かったこの第6作は、多少往年よりは艶が失われたかにも思えるが、奇を衒わず焦らずに、自分を見つめた作りでよく歌っている。シングル第1弾の「アイ・ルック・トゥ・ユー」はオーソドックスなバラードでしっかり歌っているし、ダイアン・ウォーレン曲、デヴィッド・フォスターがプロデュースの「夢をとりもどすまで」はしっとりとした佳曲で深みも増した。カーペンターズやダニー・ハサウェイで知られるレオン・ラッセルの「ソング・フォー・ユー」も変化のある歌唱でいい。(鈴木 道子)

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通常盤

限定盤

「ウィンターズ・ナイト/スティング」
(ユニバーサルミュージック/UCCH-1028=通常盤 UCCH-9008=限定盤/SHMCD+DVD)
 リュートだけをバックに16世紀の英国人音楽家ジョン・ドウランドの作品を歌った『ソングズ・フロム・ザ・ラビリンス』につづくドイツ・グラモフォンからの第2弾。ただし、本人によれば、続編を意識したものではなく、レコード会社からの「クリスマス・アルバムをつくりませんか」という打診をやんわりとかわす形で、古代からの潜在心理、キリスト誕生の物語、雪の向こうに見え隠れする精霊や幽霊などを通奏音として奏でながら、「冬」の意義や魅力をさまざまな角度から描いたものだという。古い民謡や子守唄、シューベルトやパーセル、バッハらの作品を核に、味わい深いアコースティックな音で表現した冬に、さまざまな意見があるとは思うが、僕自身を強く引き込まれた。ザ・ポリスの再結成をめぐる喧噪のあとに、なにごともなかったかのように、こういう作品をつくってしまうところが、いかにもスティングらしい。もう少し寒くなったらこのディスクを聞きながら、ユングでも読み返してみようか。(大友 博)


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「ビフォア・ザ・フロスト/ブラック・クロウズ」
(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル/SICP-2411)
 早いもので、ブラック・クロウズが南部の香り豊かな、ザックリとしたイメージのロックンロールを引っ提げて登場してきたあの日から、間もなく20年。何度か編成を変えながらも、トレンドに流されず、ぶれることなく自分たちのロックを追求しつづけてきたロビンソン兄弟がその節目の時期にタイミングをあわせて送り出してきたのは、NY州ウッドストックにあるリヴォン・ヘルムのスタジオで制作されたものだ。ベーシックな録音はそこに少人数のファンを招き、5日にわたって行なわれたものだとか(オーディエンス・ノイズも生かされている)。ライヴ・ユニットとして高い評価を確立しながら、ソングライター・チームとしても成長をつづけてきた、その両方の要素をきちんと表現することを狙ったのだろう。結果的に、期待を裏切ることのない堂々とした作品に仕上がっている。(大友 博)

 来年デビュー20周年を迎えるブラック・クロウズのニュー・アルバム。ウッドストックにあるリヴォン・ヘルムのスタジオにファンを招いて、スタジオ・ライヴの形式で収録した。グラマラスでゴージャスなロックンロール・パーティーの季節は過ぎ去ったが、70年代ロックのエッセンスを、肩の力の抜けた表現力を見事に活かして、十分に伝え切った作品。(細川 真平)

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「ザ・ブループリント 3/ジェイ・Z」 (ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13675)
 昨年まではレーベルの社長としても活躍したジェイ・Z。昨年の『アメリカン・ギャングスター』でラッパーとして現場復帰への思いを強くし、本格的な現役復帰作となるのが本作『ザ・ブループリント3』。カニエ・ウェスト、ノーID、スウィズビーツなど気鋭のプロデューサー陣を揃え、今現在最も王道にして、かつ刺激的なヒップホップを聴かせる迫力の内容。常にシーンを揺るがしてきた『プループリント』シリーズの名に恥じぬ内容。(高見展)

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「チェンバー・ミュージック/ウータン」(ビクターエンタテインメント/VICP-64758)
 1990年代に登場して以来、ヒップホップでは最もラディカルで重要なグループとしてリスペクトされてきたウータン・クラン。常にヒップホップの原点を問い直してきたウータンだが、今回はグループ自身の原点を問い直す作品で生バンドのサウンドを独自に処理することで傑作と謳われるファーストのサウンドを蘇らせたところが画期的。ただ、グループ一部のみの参加なのであくまでもジャケット・クレジットは≪ウータン≫だけだ。(高見展)

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「アンストッパブル/ラスカル・フラッツ」(エイベックス/ CTCW-53110)
 過去の作品の合計売り上げが全米だけで1900万枚を超える、大人気のポップ・カントリー3人組、“Greatest Hits, Vol. 1”(日本未発売)に続くオリジナル第6作。今作でもキラー・チューンとも呼べる先行シングル「ヒア・カムズ・グッバイ〜さよならの瞬間〜」をはじめとするバラードや、「サマー・ナイツ」のようなノリノリのナンバーがうまく配分されているが、サウンドはここ数作よりもシンプルに仕上げた。もちろん彼らの特徴である美しいメロディーとヴォーカル・ハーモニーは変わることはない。日本盤にはボーナス・トラック2曲収録。(森井 嘉浩)

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「バック・トゥ・テネシー/ビリー・レイ・サイラス」(エイベックス/ CTCW-53117
 1992年にシングル「エイキィ・ブレイキィ・ハート」、そして同曲を含むデビュー・アルバムを全米で大ヒットさせたビリー・レイ・サイラス。その後も着実に作品を発表する傍ら、今世紀に入ってからは俳優としても活躍。特に愛娘:マイリー・サイラスと役の上でも親子を演じるディズニー・チャンネルのTVドラマ『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』は、マイリーをトップ・アイドルにしただけでなく、ビリー・レイ自身の音楽キャリアにも好影響を及ぼした。今作はディズニー・レコード移籍第2作で、彼の持ち味であるサザン・ロック風味のカントリーが存分に楽しめる。またマイリーと共演した映画『Hannah Montana – The Movie』(日本公開は来春予定)の挿入歌も収録。ディズニー移籍第1作「ホーム・アット・ラスト」(CTCW-53116)も同時発売。(森井 嘉浩)

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「ザ・リアル・アルバム/ザ・リアル・グループ」(スパイス・オブ・ライフ/RG-0001)
 結成は1984年、スウェーデンのストックホルム、王室音楽アカデミーでという長いキャリアをもつ混声5人組、ザ・リアル・グループは、ボビー・マクファリン、ヴァン・モリソン他や管弦楽団との共演でも知られるが、世界的なアカペラ・ヴォーカル・グループとしてファンが多い。今まで不動のメンバーだったがソプラノが変わり、今回4年ぶりの新作を発表した。繊細で美しいハーモニーが特徴。冒頭の「バンブル・ビー」は熊蜂の羽音を模した細やかに刻まれるハーモニーの動きも見事。粋な曲、カントリー調を取り入れた陽気でポップな仕上げの曲もある。ハーモニーは文句なしだが、生きたスウィング感や今ひとつ生気が欲しい気もする。(鈴木 道子)

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「ロッキン・ウィズ・ムッシュ/ブルース・ザ・ブッチャー&ムッシュかまやつ」
(P-VINE/PCD-18537)

 ムッシュかまやつさんが永井ホトケ隆、沼澤尚、中條卓、KOTEZと共演しているゴキゲンなブルース・アルバム!ミスター・ムッシュの大好きなロックンロールやストーンズ・ナンバーをとても楽しそうにブルースにしているのだ。大ベテランならではの≪技≫がそこにある、それが実にリラックスしているというか、イージーで素晴らしいのだ。ロックもブルースも分け隔てなく愛し続けている音楽魂が見事に噴出している。「ウォーキング・ザ・ドッグ」「ルート66」、そして7分40秒ヴァージョン「サティスファクション」。ライド・オン!なのだ!!もちろんホトケたちの演奏も光っている。(Mike M. Koshitani)

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「ファースト・ラヴ/エミー・ザ・グレイト」(YOSHIMOTO R and C/YRCG-90017)
 近年イギリス方面からの若い女性シンガーは総じてレトロっぽい風味を持っている。このエミー・ザ・グレイト(=エマ・リー・モス)はアコースティックなフォーク・タッチで登場したが、サウンド的にかなり新鮮というだけではなく、歌詞の文学性にも高い評価がなされており「これはこれは」という印象。歌詞に散りばめられたレナード・コーエン、ディラン、エルトン・ジョン、k.d.ラング、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック、ビリー・ジョエル、デヴィッド・ボウイ、ウディ・アレンにアニー・ホール。。。といった固有名詞がどういう扱われ方をしているかは是非CDを手に取って聴いてみて欲しい。父がイギリス人で母が中国人。香港生まれの25歳。(上柴 とおる)

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「サンキュー・フォー・ビーイング・ア・フレンド/カーリー・ジラフ」
(BURGER INN RECORDS/BUCA-1030)
 4月の当レビュー欄で3作目『New Order』をご紹介したばかりのカーリー・ジラフ(元ロッテン・ハッツ〜GREAT 3の高桑圭のソロ・プロジェクト)の楽曲を全編カヴァーしたアルバム。当人をも含む4人編成のバンドをバックに、これまでジラフが裏方としてサポートしてきた仲間内の女性シンガーたち8組をフロント・ヴォーカルに据えて過去の作品を新たに輝かせている。新居昭乃、Cocco、木村カエラ、BONNIE PINK、Chara、LOVE PSYCHEDELICO、安藤裕子、平岡恵子といった贅沢で華やかな顔ぶれがふくよかでゆったりとした魅力を持つジラフの曲をよりいっそう引き立てており、聴くうちに何とも幸せな気分になって来る。この先、大切にとっておきたいと思える1枚だ。(上柴 とおる)

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2CD



CD



DVD
「セレブレイション〜マドンナ・オールタイム・ベスト/マドンナ」 (ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13680〜1=2CD WPCR-13679=CD WPBR-90698〜9=DVD)
 キャリア25年を凝縮させた究極のベストが、CDと2枚組CD、DVDの3種類の形でリリースされる。定番になりそうな2枚組CDは、タイトル・チューンと「リヴォルヴァー」の2曲の新曲でサンドイッチする形で、これまでのヒット曲/名曲をぎっしり収録。これまであまりセレクトされなかった「エロティカ」のような問題作が、「ライク・ア・ヴァージン」などの定番と自然に並んでいることがキャリアの重さを実感させる。個人的にはいつも聴いている曲ばかりなのでなつかしさはないが、彼女の曲には古さより常に新しい時代にリンクする普遍的な魅力があると思う。DVD版は彼女のキャリアだけでなく、1980年代から現在までのPVの歴史という趣。音楽とシンクロさせた映像美を満喫したい。(村岡 裕司)

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「シングル・コレクション vol.2/Queen 」
(EMIミュージック・ジャパン/TOCP-70771〜83)
 1979〜84年の間に発売されたシングル盤CD13枚全26曲を、アルバムならば2枚で済むところをあえて貴重な紙ジャケットで再現し、BOX仕様にまとめたシングル・コレクションの第2弾が届いた。全米No.1を獲得した「愛という名の欲望」、「地獄へ道づれ」を始め、MTVで放送禁止になった問題作「ボディ・ランゲージ」、ロジャー・テイラー作曲の大ヒット「レディオ・ガ・ガ」、欧米以外の地域で自由へのシンボルとして多くの人々に指示された「ブレイク・フリー」、To Be Continuedの筈が---ご愛敬となった「フラッシュのテーマ」等、やはりQueenはこの4人のメンバーでなくてはならないというファンには、たまらないコレクションだろう。ブライアン・メイのギターは、独特のギター・オーケストラからロックンロールまで幅の広さを聴かせ、決して目立った存在ではないがジョン・ディーコンのベースは、バンドを良くまとめている。ロジャー・テイラーのドラムは、この時期素晴らしいドライヴを聴かせる。この頃からシンセサイザーを効果的に使用したサウンドに変化し、ロック・オペラとも言うべきフレディ・マーキュリーのヴォーカルとコーラスは頂点に達する。リアルタイムにQueenを知らず、CMや現在のQueen &ポール・ロジャースしか知らないファンには、お奨めのアイテムである。ポール・ロジャースではない、充実期を迎え貫禄さえ感じさせるフレディ・マーキュリーの歌声がそこにある。(上田 和秀)

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「エルヴィス・イン・メンフィス・レガシー・エディション/エルヴィス・プレスリー」
(BMG JAPAN/BVCP40070〜1)
 40年前のアルバム『エルヴィス・イン・メンフィス』は、ザ・キングがメンフィスのアメリカン・サウンドでレコーディング。「イン・ザ・ゲットー」ほかのヒット・チューンも収録。今回のレガシー・エディションでは『バック・イン・メンフィス』、モノラル・シングル・トラック(オリジナル)なども加えての構成で、エルヴィスが音楽のシーンに帰ってきた時代の実に生き生きとした歌いっぷりが堪能できる。ソウルフルでカントリーでロックンロールする作品が次々に披露されていく。エルヴィスがアメリカのロックンロールの歴史そのものであることをこの作品でも改めて実感させられるのだ。エルヴィス・イズ・フォーエヴァー!(Mike M. Koshitani)

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「シカゴ I(シカゴの軌跡)/シカゴ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13635)

「シカゴ II(シカゴと23の誓い)/シカゴ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13636)

「シカゴ III /シカゴ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13637)

「シカゴ V /シカゴ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13638)

「シカゴ VI (遥かなる亜米利加)/シカゴ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13639)

「シカゴ VII(市俄古への長い道)/シカゴ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13640)

「シカゴ VIII(未だ見ぬアメリカ)/シカゴ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13641)

「シカゴ X(カリブの旋風)/シカゴ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13642)

「シカゴ XI /シカゴ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13643)


 シカゴ・トランジット・オーソリティ(シカゴ交通局)としてデビューし、直ぐにシカゴとバンド名を変更した世界を代表するブラス・ロックの雄シカゴの初期9枚(ベスト盤、ライヴ盤を除く)のアルバムが、デビュー40周年記念(来日記念・完全生産限定盤SHM-CD仕様)紙ジャケット・コレクションとして登場した。
 『シカゴ I(シカゴの軌跡)』は、新人バンドとしては異例のLP2枚組アルバムであり、内容は時代背景を反映し政治色の強い物であるが、当時の若者を中心に英米共にヒットした記念すべき1969年のファースト・アルバムである。「ビギニングス」は、今聴いても少しも古さを感じさせないアレンジであり、「いったい現実を把握している者はいるのだろうか?」は、現代にも通じるテーマだ。
 初期のシカゴは、創作意欲に溢れていたことが良く分かる。その証拠に、セカンド・アルバム『シカゴ II(シカゴと23の誓い)』もLP2枚組アルバムであり、名曲「長い夜」、「ぼくらに微笑みを」、「ぼくらの世界をバラ色に」等含むだけでなく、「バレエ・フォー・ア・ガール・イン・バキャノン〜ぼくらに微笑みを」、「栄光への旅路」等長尺のメドレーまで作り込んだ渾身の傑作であり、ロックを代表する名作となった。
 『シカゴ III 』もファースト、セカンド・アルバムに続きLP2枚組アルバムの大作だ。ピーター・セテラ、ロバート・ラム、テリー・キャスという3人のコンポーザー兼リード・ヴォーカリストの存在がシカゴをトップ・バンドに手が届く所まで導いた。
 『シカゴV』は、最近CMでよく耳にする全米チャート3位のヒット曲「サタディ・イン・ザ・パーク」を含む、シカゴ初の全米No.1を獲得した大ヒット・アルバムである。
 『シカゴVI (遥かなる亜米利加)』は、「君とふたりで」、「愛のきずな」の大ヒット曲を含む、全米No.1を獲得した大ヒット・アルバムであり、シカゴはこの時点で頂点に達した。
 『シカゴVII(市俄古への長い道)』は、ゲストにビーチ・ボーイズ、ポインター・シスターズを招き、全米No.1を獲得した大ヒット・アルバムであるが、そのこと以上にインストゥルメンタル・パートとヴォーカル・パートを分けるという構成が話題になった問題作であり、力作である。
 『シカゴVIII(未だ見ぬアメリカ)』は、パーカッションのラウヂール・オリヴェイラが正式加入し8人編成となり、一段とパワフルになって制作され、「明日のラブ・アフェア」、「拝啓トルーマン大統領」、「追憶の日々」等含む、全米No.1獲得の大ヒット・アルバムである。
『シカゴX(カリブの旋風)』は、「愛ある別れ」、「雨のニューヨーク」、「君のいない今」等ヒット曲を含みはするが---。
 『シカゴXI』は、1978年に不慮の事故で他界したテリー・キャスが参加したラスト・アルバムであり、ゲストにビーチ・ボーイズ、チャカ・カーンを迎え、ヒット曲「朝もやの二人」を含むセンチメンタルな作品である。
 悲しいことにロバート・ラムの足の骨折により、日本公演は延期となった。こんな時こそこのデビュー40周年記念紙ジャケット・コレクションを聴いて、シカゴの来日を心待ちにしては如何だろうか。(上田 和秀)


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「「ドゥービー・ブラザーズ・ファースト/ドゥービー・ブラザーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13653)

「トゥールーズ・ストリート/ドゥービー・ブラザーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13654)

「キャプテン・アンド・ミー/ドゥービー・ブラザーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13655)

「ドゥービー天国/ドゥービー・ブラザーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13656)

「スタンピード/ドゥービー・ブラザーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13657)

「ドゥービー・ストリート/ドゥービー・ブラザーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13658)

「運命の掟/ドゥービー・ブラザーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13659)

「ミニット・バイ・ミニット/ドゥービー・ブラザーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13660)

「ワン・ステップ・クローサー/ドゥービー・ブラザーズ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13661)

 70年代絶大なる人気を得たカリフォルニア・ロックの雄ドゥービー・ブラザーズの9枚(ベスト盤、ライヴ盤を除く)のアルバムが、来日記念・完全生産限定盤SHM-CD仕様・2009年最新リマスタリング音源・紙ジャケット・コレクションとして登場した。
 1971年に『ドゥービー・ブラザーズ・ファースト』でデビューしたドゥービー・ブラザーズは、トム・ジョンストンとパット・シモンズという個性も音楽の方向性の異なった二人のギタリストを中心としたバンドである。この記念すべきデビュー・アルバムは、ヒット曲こそないが、心地よく歯切れの良いギターと厚みのあるコーラスとハーモニーにドゥービーの基本的スタンスを見ることが出来る。
 名曲「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」、「希望の炎」を含むセカンド・アルバム『トゥールーズ・ストリート』から、ツイン・ギター&ツイン・ドラム体制となり、更なる飛躍を開始する。
 大ヒット曲「ロング・トレイン・ランニング」、「チャイナ・グローヴ」を含む『キャプテン・アンド・ミー』は、メロディアスでせつない「サウスシティ・ミッドナイト・レディ」等で音楽性の広さも証明した初期の名盤である。
『ドゥービー天国』は、ドゥービー初の全米No.1ヒット「ブラック・ウォーター」を含み、ジェフ・バクスター、メンフィス・ホーンをゲストに迎えた意欲作である。
 『スタンピード』は、元スティーリー・ダンのジェフ・バクスターを正式メンバーに加えトリプル・ギター編成となり、ドライヴ感が一段とまし、加えてライ・クーダー、マリア・マルダ、カーティス・メイフィールド等豪華ゲストの参加により、アメリカン・ロックの頂点を極めた歴史的大ベストセラー・アルバムとなった。
 『ドゥービー・ストリート』は、ツアー途中に病に倒れたトム・ジョンストンに代わって元スティーリー・ダンのマイケル・マクドナルドが加入したことにより、ギター・バンドからキーボード・バンドへ移行する経過をみることの出来るアルバムだ。
 『運命の掟』は、マイケル・マクドナルドが前面に出て、ジャズ・フュージョン色が強い洗練されたソウルフルな作品だ。
 『ミニット・バイ・ミニット』は、「ホワット・ア・フール・ビリーブス」の大ヒットとグラミー賞受賞により、後期ドゥービーの最高傑作であると共にアメリカン・ロックを代表する歴史的名盤となった。しかし、それと引き替えに初期のドゥービーはいなくなった。
 『ワン・ステップ・クローサー』は、ブラック・コンテポラリー色全開のアルバムである。
 確かに、時代背景としては正しい選択なのかも知れないが、遂にドゥービーは、マイケル・マクドナルド中心の完全なAORバンドとなった。
 時代の流れと共にメンバー交代を進め、楽曲・演奏内容さえも変えていったドゥービーの真実がここにある。最後に、ビートルズだけがリマスターではないことをロック・ファンに分かって欲しい。(上田 和秀)


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「イントゥ・トゥモロー/渡辺貞夫」(ビクターエンタテインメント/VICJ-61608)
 日本を代表するアルト・サックス奏者、渡辺貞夫のなんと70枚目のリーダー・アルバムである。淡々と成熟した楽想で歌い上げており、自作ぞろいだが、印象的で美しいメロディーの曲が多く、親しみやすくて楽しめる。76歳だが少しも年を感じさせず、若い有能なミュージシャンを起用し、アルバム・タイトル通り、明日に向ってのみずみずしいプレイを展開しているのが聴きどころだ。共演の3人の中でも、とくにピアノのジェラルド・クレイトンが注目される。いまN.Y.で一番すぐれた新進ピアニストだ。他にベン・ウイリアムス(b)、ジョナサン・ブレイク(ds)が加わっている。(岩浪 洋三)


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通常盤

限定盤
「プレイス・トゥ・ビー/上原ひろみ」
(ユニバーサルミュージック/UCCT-1218=通常盤 UCCT-9012=限定盤)
 上原ひろみの初ソロ・アルバムは、20代最後の年に、節目の作品として作られた。通算6作目に当たる。今回は2日間で13曲を録り上げたという驚異的な速さと言うか、実に精力的に録音された、旅がテーマ。激しく行き交う車の流れ、「BQE」でニューヨークを出発し、かつて訪れた場所を歴訪しながら、まだ公演を行っていないラスヴェガスをテーマにした3部作など。しっとりと美しい「サムウェア」、秀作「プレイス・トゥ・ビー」、「シシリアン・ブルー」では哀愁ものぞく。ソロであるだけに彼女のピアノ・タッチの繊細な美しさが際立ち、卓越した描写力、落ち着きも感じられて、また一つ成長の跡がうかがえる。ボーナスの矢野顕子のヴォーカル入り「グリーン・ティー・ファーム」の懐かしさも心温まる。(鈴木 道子)

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「ジェントルメン・フォー・スイング/谷口英治セクステット」
(アートユニオン/ARTCD-115)
 今年はベニー・グッドマンの生誕100年に当るので、それに合わせたアルバムもいくつか発売されているが、中でも本作は出色の出来栄えだ。谷口英治はスイングの得意なクラリネット奏者だが、必ずしもグッドマンにこだわらず、「ウオーキン」「チュニジアの夜」といったモダン・ジャズ曲も加えて演奏しているのがかえって新鮮だし、右近茂(ts)、片岡雄三(tb)を加えて、モダン・ジャズ的なサウンドを生み出しているのも聴きものだ。またレハールの「ビギン・ザ・ビギン」「フランスキータのセレナード」といった選曲も楽しい。また「メモリーズ・オブ・ユー」「サニー・サイド」「アザレアに寄せて」の3曲に日本のキング・オブ・スイング、北村英治が加わり、すばらしいクラリネットを聴かせ、谷口と共演しているのも、大いにアルバムの価値を高めている。(岩浪 洋三)

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「MUSICALITY/JULIE ANDREWS」(Stage Door/STAGE 9012)  *輸入盤
 ジュリーのブロードウェイ・デビュー作「ボーイ・フレンド」(1954) から3曲、出世作「マイ・フェア・レディ」(1956) から6曲、ビング・クロスビーと共演したTVミュージカル「ハイ・トア」(1956) から1曲、ロジャース&ハマースタインのTVミュージカル「シンデレラ」(1957) から4曲、その他にジュリー自身は出演していない作品「キス・ミー・ケイト」「ブリガドーン」「レディ・イン・ザ・ダーク」「ファニー・フェイス」等から12曲。ジュリーの素晴らしい歌唱が26曲たっぷり味わえる。共演者ジョン・ヒュワー、レックス・ハリスン、ロバート・クート、ジョン・サイファーとのデュエットもある。(川上 博)

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「Lerner and Loewe's GIGI」(Stage Door/STAGE 9013)  *輸入盤
 「マイ・フェア・レディ」のラーナーとロウ作詞作曲による1958年のミュージカル映画「ジジ (邦題「恋の手ほどき」) は、アカデミー賞・作品、音楽、歌曲を含む9部門で受賞した傑作。本CDは当時RCAがゴギ・グラントとトニー・マーティンを起用して制作したアルバム11曲に、モーリス・シュヴァリエ、サッシャ・ディステル等によるフランス語サントラ盤から6曲、アンドレ・トッフェル他によるスペイン語サントラ盤から3曲加えた豪華盤。「シャンベンを発明した夜」「ジジ」他、全23曲。ディジタル・リマスタリングにより、良い音で楽しめる1枚。(川上 博)

Popular MOVIE Review


CD


「パイレーツ・ロック」
 1960年代にイギリスで実在した海賊ラジオ局を舞台にした作品。原題「The Boat That Rocked」のとおり、それらは当局の目の行き届かない北海沖に停泊した船上から、国営放送では飽き足らないティーンエイジャーの為に日夜ポピュラー音楽を送り続けていた。劇中では50曲近くが使用され、タートルズの「エレノア」や、レナード・コーエンの「さよならマリアンヌ」といったわが国では比較的マイナーな曲が、重要な場面でフィーチャーされていたのが興味深かった。エンドロールで流れるダフィーによる「ステイ・ウィズ・ミー・ベイビー」も情感溢れる素晴らしい出来だ。
 同映画のサウンドトラック(ユニバーサルミュージック/UICY-1450〜1)には、キンクス、ザ・フー、ジミ・ヘンドリックス、ビーチ・ボーイズをはじめ、ボックス・トップスの「あの娘のレター」やプロコル・ハルムの「青い影」など、60年代のビッグ・ヒットが目白押し。そのまま同時代のベスト盤としても楽しめる内容となっている。ただ、劇中で使用されていたローリング・ストーンズや前述のレナード・コーエンの曲が未収録になってしまったのはちょっと残念。(町井ハジメ)
*映画は10月24日(土)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ、みゆき座ほかで全国公開。
 配給:東宝東和 写真:(C)2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
http://www.pirates-rock.jp/


Popular CONCERT Review

「パティ・オースティン」 8月22日 Billboard Live TOKYO
 2007年発表作『ガーシュイン・ソングブック』で減量とジャズへのシフトを同時に実現してイメージ・チェンジを成功させたパティ・オースティン。同作に連動した来日公演も行っているが、今回は≪AOR SET≫と題していたので1970〜80年代のレパートリーを期待していた。クインシー・ジョーンズの「ストンプ」で幕を開けて、いきなり期待が現実になると、さらに「ギヴ・ミー・ザ・ナイト」〜「ラズマタズ」のクインシー・ジョーンズ・メドレーへと展開。パティのキャリアが飛躍する上で重要な役割を果たした恩師ゆかりの選曲で、会場はヒート・アップ。口笛やトランペットの口真似で芸達者なところを見せてくれたのもファン・サービスとなった。後半になるとグレッグ・フィリンゲインズ(key)をフィーチャーしたコーナーが用意され、「セプテンバー」が飛び出すと大盛り上がり。キャリア豊富なパティが引き出しの多さと歌唱力を印象付けた一夜であった。(杉田 宏樹)
写真:acane


Popular CONCERT Review

「エイミー・マン」 8月25日 Shibuya AX
 ティル・チューズデイ時代の女性ロッカーとしての活躍ぶり、自ら手がけた映画音楽でのぞかせた前衛的な一面、そして最新アルバムで見せたアコースティックなシンガー/ソングライターとしての底力。ここ20年以上に渡って様々な顔を見せてきたエイミーの4年ぶりのソロ公演は最新アルバムに沿ったもので、彼女のアコースティック・ギターを中心にしたトリオ編成。但し、曲目は映画『マグノリア』やティル・チューズデイ時代のものも含めたグレーテスト集といったものだったが、かつての曲もすっきりとアレンジし直して終始、シンプルかつタイトな演奏を聞かせてくれた。決してヒット曲が多いわけでもなく派手な個性もないが、エイミーのような人が実はアメリカの良質なロック・シーンを支えているのではないか。彼女のまっすぐな歌声を聴きながら、そんな思いを強くした。(滝上 よう子)
写真:畔柳ユキ


Popular CONCERT Review


「クリスチャン・マクブライド」 8月29日 COTTON CLUB
 前回≪コットンクラブ≫に出たときは、エレクトリック・ベースを多用してファンキーなサウンドを聴かせてくれたが、今回はアコースティック・ベース1本、4ビートで通した。内容はモードがかったハード・バップといったところ。10代の頃から多彩なキャリアを積んできたマクブライドが今なぜこの懐古的なサウンドを? という疑問はぬぐえなかったが、ようするに今はこれをやりたい気分なのだろう。テーマ〜アドリブ(ソリストの順番は殆ど同じ)〜テーマという構成を、ここまで繰り返すジャズ・バンドもこの現代、珍しいのではないか。天才的なソリストがいない限り、このフォーマットにもう可能性はないと思う。むろんマクブライドのプレイだけは傑出しているし、スタンダード曲「テンダリー」におけるバッキングの音の取り方にも惚れ惚れさせられたが・・・。(原田 和典)
写真提供:コットンクラブ


Popular CONCERT Review

「TOKYO MARUNOUCHI JAZZ CIRCUIT 2009 レンチ・ジャズ・クオーター」 9月4日 東京・丸ビル/マルキューブ
 日本最大のジャズ・フェスティバル≪東京JAZZ≫の一環として、フランスの気鋭ピアニストが、それぞれのトリオを率いて登場した。トーマス・エンコは、先ごろ出た国内盤CDの姿が別人に思えるほど骨太でスインギーなスタイル。ビル・エヴァンスの演奏で有名な「ソーラー」等をとりあげた。バティスト・トロティニョンは文字通りベース〜ドラムスと会話するようなステージを展開。セロニアス・モンクの「セロニアス」を交えた選曲は緩急自在の妙に満ちていた。ラファエル・ルモニエはオスカー・ピーターソンやモンティ・アレキサンダーを思わせるヴァーチュオーソ・タイプ。ベース、ドラムスは脇役に徹して彼のピアノを引き立てる。「スイート・ジョージア・ブラウン」、「キャラヴァン」等を、エンタテインメント性たっぷりに聴かせた。(原田 和典) 


Popular CONCERT Review

「ケアリイ・レイシェル」 9月5日 日比谷野外音楽堂 
 ケアリイ・レイシェルは1995年にCDデビューして今年で47歳。遅咲きのアーティストだが音楽家としてまたクムフラとしてハワイはもちろん日本でもカリスマ的な人気を保ち続けている。初来日から今年で10周年を迎えた節目のライヴを観た。秋の気配を感じさせる日比谷野音は立見席まで満員、3000人を超す観客の7割がたは女性客だ。ケアリイは下帯姿でチャントとともに客席から登場、ステージではカヒコが展開されるといやがうえにもハワイの伝統文化のにおいを感じさせる。衣装換えして再登場した彼は2ギター、ベース、コーラス・トリオそして弦カルテットをバックに、フラ・ダンサーたちを次々と登場させては歌いついでいく。おなじみの「アカカ・フォールズ」や「エ・オ・マイ」、「ププ・アオ・エヴァ」や「カ・ノホナ・ピリ・カイ」では聴衆の拍手も一段と高くなる。2時間ほどのパフォーマンスは中盤あたりからやや単調にも感じられたが、ゆったりとした自然なノリは、とりわけフラ・ダンスの愛好家たちを魅了したに違いない。(三塚 博)


Popular CONCERT Review

「ベンチャーズ」 9月6日 中野サンプラザホール
 今年の夏も(正式には9月まで)テケテケ・サウンド、ザ・ベンチャーズの全国津々浦々を回ってのジャパン・ツアーが行なわれた。後半に入ってから、中野サンプラザホールで楽しんだ。ドン・ウィルソンと故ボブ・ボーグルのふたりがグループを結成したのは1959年のこと。今年は50周年なのだ。その記念すべき年ということもあって、いつも以上に多くのファンが各会場を埋め尽くし、この日も大入り。「ウォーク・ドント・ラン」で幕開けし、「パーフィディア」「木の葉の子守唄」、メドレー「京都の恋〜黒くぬれ!〜さすらいのギター」、そして「10番街の殺人」「ウォーク・ドント・ラン ’64」「ワイプ・アウト」。第二部では「テルスター」「雨の御堂筋」「京都慕情」「北国の青い空」・・・「二人の銀座」も登場したのだ。エンディングからアンコールの「ハワイ・ファイブ・オー」「ダイアモンドヘッド」「パイプライン」「キャラヴァン」。ベンチャーズのゴールデン・ヒットに多くの往年のファンは大手拍子。そんな中で、若いギター・キッズ達もドンはじめ、ジェリー・マギー(彼はエルヴィス・プレスリーの録音にも参加したことがある)、ボブ・スポルディング(ボーグルが体調を崩してからはメンバーとして来日、その前からベンチャーズ・ファミリーとして録音などに参加していた)らの演奏を熱心に聴き入っていたのも印象的。故メル・テイラーの息子、リオンもすっかりベンチャーズ・サウンドの屋台骨を担っていたのだ。ドンは僕にこう語ってくれた、「もちろん来年も第2の故郷に戻ってくるよ!」。(Mike M. Koshitani)


Popular CONCERT Review

「ヒラリー・コール」 COTTON CLUB  9月11日 
 初アルバム『魅せられし心』の発売と6月のジョン・ピザレリとのCOTTON CLUBでのジョイント・ライヴで一躍人気のヒラリー・コール。今回は、自分のカルテット、アンディ・エズリン(p)ジョン・ハート(g)ポール・ギル(b)カーメン・イントール(ds)との単独公演、客席は満員で注目度の高さを示していた。アルバムと同じく「イッツ・ラヴ」そして「ゼアズ・ア・スモール・ホテル」と続きCDで歌ったものを中心にした13曲のプログラム。オフ・ブロードウエイの「アワ・シナトラ」等で少女の頃から歌っていただけに確かな歌唱だ。「ミスティ」では、サラ・ヴォーンの名唱を彷彿とさせる素晴らしいものがあった。CDと同じく「ブラックベリー・ウインター」は、ピアノの弾き語りできかせた。来年2月にオスカー・ピーターソン、ハンク・ジョーンズ、ミッシェル・ルグラン等の巨匠達との録音がCD化されるという。更に大きな話題になることが予測される。(高田 敬三)
写真提供:コットンクラブ


Popular CONCERT Review

「イル・ディーヴォ」 9月14日 日本武道館   
 女性ファンに圧倒的な人気を誇るイル・ディーヴォのコンサートを観た。オペラのアリアや世界の名曲をオペラティックに歌う美男4人組は、朗々たる美声を響かせながら代わる代わるメロディーを歌っていく。「サムホエア」「カルーソー」「マイ・ウェイ」など23曲、20分の休憩を挟んで2時間10分たっぷり、女性たちのため息と歓声を浴びながら華麗なステージを繰り広げ、ソロ、ハーモニーとも文句なく美しい。以前より自信をつけて声も一段と艶を増したかに思えたし、上手な日本語で司会しながら余裕あるステージは見事だった。エンターテイメントとしては十分だと思う。が、どの歌も同じように旋律重視。わずかに「ウィズアウト・ユー」は前半哀しみを静かにかみ締め、後半大きく訴えかけるように歌っていたのが例外か。芸術性を加味するなら、メロディーだけでなく曲の内容をくみ上げる表現が必要だろう。いずれにしてもファンには満足のいく華麗なステージだった。(鈴木 道子)


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「エディ・パルミエリ・イ・ラ・ペルフェクタII」9月23日 Blue Note TOKYO   
 エディ・パルミエリはいうまでもなくニューヨーク・ラテンの立役者であり、その後のサルサ・ムーヴメントに大きな影響を与えた。彼が作り出すサウンドはとても実験的な響きに感じられ、一方その斬新さが受け入れられ、サルサは世界を席捲してゆくことになる。今回の来日は原点ともいえる1960年代のトロンバンガ編成によるものだ。2本のトロンボーンをフィーチュアした10ピースのオーケストラで、構成メンバーもHerman Olivera(vo)をはじめとした実力者ぞろい、特別ゲストにJimmy Bosch(tb)を迎えての演奏は「AJIACO CALIENTE」をオープニング曲に日本語をモチーフにした「JAPONGO」など、アンコール曲を含めて8曲がよどみなく繰り出された。着飾ることのない、生活感あふれるパーカッシヴなサウンドの1時間を堪能した。(三塚 博)  
写真:Great The Kabukicho


Popular CONCERT Review



「ドゥービー・ブラザーズ & デレク・トラックス・バンド」  9月26日 東京国際フォーラム ホールA   
 3年前、エリック・クラプトンのツアー・メンバーに抜擢されたことで知名度が急上昇した若きスライド・マスター、デレク・トラックス。だが、正式メンバーになっているオールマン・ブラザーズ・バンドでの、また自ら率いるデレク・トラックス・バンド(DTB)での活動で、以前から米南部音楽ファンを中心に、熱烈な指示を集めてきたギタリストだ。≪上手い≫とか≪素晴らしい≫ではなく、≪すさまじい≫とでも表現したくなるスライドに、案外見落とされがちだが、それと同じぐらいに圧倒的な押弦プレイを絡めて作り上げる彼の音世界は、タイプは違えどもジェフ・ベックのそれと同じぐらい、世界のギター・シーンの中で飛びぬけ、抜きん出ていると思う。
 さて今回のライヴは、ブルースをルーツに、ジャズ、R&B/ソウル、ワールド・ミュージックを、ジャム・バンド的なインプロヴィゼーションを核にしてまとめ上げるという、DTBのエッセンスを凝縮したものだった。ただ、デレクのプレイは少し抑え気味な印象。個人的には、もっと弾きまくってほしいという気持ちもした。だがそれは、今この時点でのデレクの方向性(プレイにしろ音楽性にしろ)を感じさせるものであったし、それはすでに最新スタジオ作『オールレディ・フリー』で提示されていたのだったとも気づかされた。雑多なジャンルを吸収した、何でもござれのスーパー・ギタリストから、ある程度絞った音楽性の中で自分自身をより濃く表現していくアーティストへ・・・今、デレクは、そんな重要な変化の途上にいるのかもしれない。
 一方のドゥービー・ブラザーズは、しっかりと練り上げられ、完璧にパッケージングされたロックンロール・ショーを見せてくれた。観客もほとんどがドゥービー目当てだったらしく、1曲目から総立ちで盛り上がる。トリプル・ギターにツイン・ドラムから繰り出される音量・音圧、そしてメンバー一人ひとりの芸達者ぶりから来る、めまぐるしいまでの見せ場の豊富さには、圧倒されるしかなかった。
 「ロング・トレイン・ランニン」「チャイナ・グローヴ」「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」などの大ヒット曲を持つのも彼らの強みだ。そのため、選曲にもまったく隙がない。それに加えて、来年リリースするというニュー・アルバムからの新曲も取り上げ、けっして懐メロ・バンドではないというところも、しっかりとアピールしてくれたのだった。
 26日の目玉としては、前日にはなかったデレクのゲスト参加が実現したことだ。曲はサニー・ボーイ・ウィリアムスンのブルース・ナンバー「ドント・スタート・ミー・トゥー・トーキン」。パット・シモンズ、トム・ジョンストン、ジョン・マクフィのドゥービー3人組を向こうに回し、デレクはいつもどおりクールな表情でホットな演奏を聴かせてくれた。ソロを終わろうとしたデレクにパットが「もっと続けろ」とジェスチャーで合図して続けさせるという一幕もあった。きっとパットも、デレクのソロをもっと聴いていたかったに違いない。(細川真平)


Popular BOOK Review

「THE DIG Special Issue ザ・ビートルズCDエディション」(シンコーミュージック・エンタテイメント)
 リマスター盤発売にあわせてビートルズのCDの歴史を総括した特集を軸に、多面的にビートルズの魅力を描いたムック。とりわけ、パソコンによる同期再生という手法を駆使して、ビートルズの全CDを検証した特集は画期的で読み応えも十分。また、ビートルズの魅力を日本に紹介し続けた『ミュージック・ライフ』編集長の星加ルミ子×同誌カメラマン長谷部宏の対談、さらにはパティ・ボイド・インタビューなどがムックに彩りを添え、全体としても秀逸な仕上がりとなっている。(高見 展)


Popular BOOK Review

「Rockin’on BOOKS Vol.1 THE BEATLES」(ロッキング・オン)
 ロッキング・オンによる洋楽アーティストの単行本シリーズRockin’on BOOKSの第1弾。ビートルズのリマスター盤発売にあわせて刊行された。アルバムを軸に、エッセイ、レビュー、インタビュー、さらには写真やドキュメントなどで構成されており、ビートルズを聴きはじめたばかりという人にとっては必要充分な情報を得ることができるようになっている。リマスター盤発売を機に玉石混交のビートルズ本が店頭をにぎわしているが、そのなかでもセンスの光る一冊で、入門書としての役割は十分に果している。第2弾の予告はないが、ロックの魅力を新しい世代に伝えていくきっかけとなるシリーズ本として今後の展開にも期待したい。(広田 寛治)


Popular BOOK Review

「ザ・ビートルズ レコーディング・セッション完全版/マーク・ルーイスン著 内田久美子・訳」(シンコーミュージック・エンターテイメント)
 しばらく入手困難となっていた1998年に刊行された名著『レコーディング・セッション』の増補改訂版。リマスター盤発売というタイミングでの再刊は、ビートルズをより深く知りたいと思う人には大きなプレゼントだった。今回は、著者自身の増補改訂ではなく、その後の情報を日本側で追加し、誤訳等を修正し、図版類を追加さしかえたもの。ていねいに監修・編集されており、また旧版よりも判型活字とも大きくなり、とても読みやすく使いやすくなっている。ビートルズのレコーディングに関する研究には今後も欠かせない一冊なので、つぎこそは著者自身の正真正銘の増補改訂を期待したい。(広田 寛治)


Popular BOOK Review

「ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実〈新装版〉/ ジェフ・エメリック&ハワード・マッセイ著 奥田祐士・訳」(白夜書房)
 2006年に発売されたジェフ・エメリックの回想録の新装版。エメリックは1966年の『リボルバー』から1970年の『アビイ・ロード』まで、レコーディング・エンジニアなどとしてビートルズのレコーディング現場に立ち会った人物。彼が体験し見聞きした数々のエピソードは,ビートルズ・サウンドの深層を解明する上で多くのの示唆を与えてくれる。ビートルズのレコーディングの具体像を知りたい方には、プロデューサー/ジョージ・マーティンの回想録『ビートルズ・サウンドを創った男』ともども、必読の書といえる。旧版との相違は、日本版特別解説座談会の代りにエメリックによる日本語版読者にあてたメッセージを収録したこと。紙質の改善で読みやすくなって1000円安のお買い得価格になった。(広田 寛治)


Popular BOOK Review

「新装版・全曲解明!!ビートルズサウンズ大研究 / チャック近藤・著」(ブルース・インターアクションズ)
 9月9日全世界同時発売のビートルズ21世紀リマスター盤をはじめ、今年1年は久し振りにビートルズの年になりそうな気配だが、ここにビートルズサウンズを完全コピーしたチャック近藤による全213曲の分析・解明本が届いた。実際にレコーディングされた順番にアルバムを並べ(パスト・マスターズは、曲目のレコーディングに合わせ)オリジナル曲、カヴァー曲全てにおいて、作者・Key・レコーディング日・演奏内容(詳細は楽譜を交え)をこと細かく説明し、それに加え使用楽器と本文中の音楽用語までも説明している。細かいミストーンも見逃さずに記載しているところは、相当神経質ではあるが見事の一言に尽きる。ビートルズ・バンドとして完全コピーを目指すのであれば、本書と全曲TAB譜付き楽譜があると一層コピーしやすいだろう。今流行の親父バンドばかりでなく、若者のビートルズ・バンドが増えることを期待したい。しかし、さすがのチャック近藤もアルバム『ザ・ビートルズ』に収録されている「コンティニューイング・ストーリー・オブ・バンガロウ・ビル」のイントロのガット・ギターは、当時出始めたメロトロンによる録音であることは知らなかったようだ。従来のCDに比べ、細かい内容が聞こえてくる21世紀リマスター盤を聴いた後では、本書の内容が変わるのかどうか気になるところだ。(上田 和秀)


Popular BOOK Review

「スライ&ザ・ファミリー・ストーンの伝説/ジェフ・カリス著 村上敦夫・訳」(ブルース・インターアクションズ)
 1960年代後半、アメリカの音楽シーンから登場したスライ&ザ・ファミリー・ストーン。それまでのロック、R&Bの境界線を完全に取り外した新たなるサウンドでファンを驚かせた。でも、僕はストーンズもオーティス・レディングもキャノンボール・アダレイも全く同じスタンスで楽しんでいたので、彼らのブラック・ロックとも呼ばれた演奏ぶりに実に大きな魅力を感じてしまった。多くのヒット曲でダンスしたのを憶えている。その後のスライの奇才ともいえる行動はいろいろと取りざたされたが、音楽そのものはその後のシーン発展に大きく寄与した。本書はスライ自身も認める、まさに彼のファンクなバイオグラフィーなのである。(Mike M. Koshitani)


Popular BOOK Review

「ジャズの歴史物語/油井正一」(アルテスパブリッシング)
 本書は以前スイング・ジャーナル氏で出版された単行本の覆刻版で、1967年から72年にかけて同誌に連載された原稿がオリジナル。エピソードを多数盛り込んでおり、固苦しい歴史本と違って読んでいてとても面白い。氏はたびたび渡米したわけではなく、世界のジャズ文献とレコード、そして自分の研究を基にして書き上げた労作であり、35年以上経った今でも読み応えがある。ジャズ評論の先人たちの野口久光、河野隆次、そして油井氏は実によく洋書を読んで勉強していた。今の若いジャズ評論家はレコード・コレクター上がりが多く、自分の感性だけを頼りに、得意分野についてだけ書いている人が多い。ただ、海外で書かれているジャズ本はそのほとんどが白人の手になるもので、白人の聴き方、見方、考え方に基づくものなので本書も白人的見方に片寄っているところがあるが、それは油井氏の責任というよりは、多分に時代的な限界だといえる(黒人によるジャズ論は1960年代後半に出始めたが、白人を意識して黒人中心になりすぎていた)。本書では、ハーレムとカンザス・ジャズに関する記述が極端に少ないが、それはそのままアメリカの白人評論家の傾向であった。また油井氏は黒人については深く考案しているが、白人間の人種差別や人種の違い、例えばユダヤ人とジャズ関係については触れていない。これらについては後進の我々が扱う問題であろう。また、油井氏の考え方に必ずしも賛同できないものもあるが、問題を提起してくれている点で、十分に価値がある。ジャズのスタイルにもこだわるのもそのひとつで、スイング、ハード・バップとかクールとかすべてジャーナリズムが名づけたもので、ミュージシャンが名づけたスタイルはバップくらいのものである。
 本書の解説を新しく村井康司氏が書いているが、これが問題だ。絶賛につぐ絶賛の嵐で、まるでホメ殺しのような文句が並んでいて、読んでいる方が恥ずかしくなる、もっと冷静に読んでも面白いのだ。また、村井氏がもっとも共感したといって引用した文章にもちょっと疑問がある。それは、≪民族音楽としてのジャズ≫だというのだが、僕は、ジャズは民族音楽ではないと思う。ジャズは生まれたときからフュージョンであり、インターナショナル・ミュージックだった。だから西洋音楽の発達している日本をはじめ世界各国に広まったのだ。また、関連書として相倉久人や中村とうようの本を持ち出しているが、ふたりは油井氏とはジャズ観が異なる。相倉氏や中村氏のジャズ観が通用する時代は終わっており、なぜ彼らの本を持ち出したのか、その訳がわからない。もっと的確な解説を書いて欲しかった。(岩浪 洋三)


Popular BOOK Review

「ディスク・ガイド・シリーズ ジャズ・ピアノ/監修・原田和典」(シンコーミュージック・エンターテイメント)
 昨年発売された『ディスク・ガイド・シリーズ ジャズ・サックス』に続いて、今度はピアノ編を監修させていただいた。日本で最も売れているジャズCDはピアノ関連だという話を僕はどこかできいたが、たしかにレコード店のジャズ・ピアノ・コーナーの充実ぶりはすごい。それだけにどれを選んでいいのか、どこから聴いていいのか戸惑いがちになるファンもいるはずだ。この本は、そんなジャズ入門者、ジャズ・ビギナーに≪良いジャズ・ピアノを、たくさん聴いてもらう≫目的で編集された。だから読みやすく、わかりやすく、楽しい。今は話題だが明日には忘れられてしまいそうなディスクなど載せていない。歴史的名作も新譜も紹介しているが、風雪に耐えてきた、もしくは今後、長く語り継がれそうな作品ばかりを厳選させていただいた。550点超のアルバムで、ジャズ・ピアノの世界を味わいつくしてほしい。(原田 和典)


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「エリック・マーティン来日公演/MR.VOCALIST JAPAN Tour 2009」
 今年8年振りに再結成来日ライヴを果たした、伝説のバンドMR.BIGのオリジナルメンバーでありヴォーカリストのエリック・マーティンによるソロ来日公演が決定した。
日本フリークのエリックが熱望し、日本のファンの為だけに3回のクリスマス・コンサートを開催する。MR.VOCALIST JAPAN Tour 2009と銘打った今回のライヴは、女性ヴォーカリストのヒット曲をカヴァーしたアルバム『MR.VOCALIST』シリーズで新境地を切り開いたエリックの更なる進化を体感できるファン必聴のライヴだ。 (KU)
*12月2日 名古屋/愛知県勤労会館 
*12月5日 大阪/NHK大阪ホール 
*12月7日 東京/Bunkamuraオーチャードホール 
お問い合せ:ウドー音楽事務所(03)3402-5999 http://udo.jp/


Popular INFORMATION
「ジョー・サンプル」
 クルセイダーズのオリジナル・メンバーとして活動、数多くのR&B〜ソウル系セッションでプレイする一方、『虹の楽園』『渚にて』など数々のソロ・アルバムでもおなじみの名匠、ジョー・サンプルが久々にピアノ・トリオ編成で来日する。ベースは愛息ニック・サンプル、ドラムスはニューオリンズのR&B〜ファンク界でも知られるジョン・ヴィダコヴィッチ。ファンキーでエレガント、ソウルフルでジェントルなサンプルのピアノ・タッチがたっぷり味わえることだろう。(KH)
*10月29日 30日  COTTON CLUB 2回公演
お問い合わせ:(03)3215-1555 http://www.cottonclubjapan.co.jp/
*11月1日〜5日 Blue Note TOKYO 2回公演
お問い合わせ:(03)5485-0088  http://www.bluenote.co.jp/

Popular INFORMATION
「アシュフォード&シンプソン」
 R&B界のオシドリ・コンビ、アシュフォード&シンプソンといえば、モータウンのソングライターとして数々の名作を提供しているが、ふたりは1970〜80年代にかけて自らも数多くのヒット作を放っている。ソウル・チャートには30以上のヒットを送り込んでいて、84年には「Solid」がナンバー・ワンに輝いた。その名はディスコ・ファンにもよく知られる。そんなベテランの来日公演が決定、楽しみだ!(MK)
*11月19日〜22日 Blue Note TOKYO 2回公演
お問い合わせ:(03)5485-0088  http://www.bluenote.co.jp/

Classic ALBUM Review

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」/パーヴォ・ヤルヴィ指揮、ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン、クリスティアーネ・エルツェ(Sop.)、ペトラ・ラング(Alto)、クラウス・フローリアン・フォークト(Ten.)、マティアス・ゲルネ(Bar.)、ドイツ・カンマーコーア」(BMG JAPANRCA /BVCC-10004)
 ヤルヴィとドイツ・カンマーフィルによるベートーヴェン交響曲全集が今回で完結した。そしてここに新しい時代のベートーヴェン像が完成したといえる。例によってすべての声部が非常に明晰なヤルヴィの演奏は、速いテンポによって実に爽快な音楽が形作られている。LP初期に一世を風靡したフルトヴェングラーの堂々とした「第九」を教典として聴いていた時代には、想像も出来ない今の時代の「第九」である。ベーレンライターの新原典版をヤルヴィが用いるに当たって、その隅々まで研究しつくした結果がこのCDに凝縮されている。
 そして既発の8曲と同様、コンビを組んだ小編成のドイツ・カンマーフィルの卓越したアンサンブルの見事さに加え、今回のマティアス・ゲルネをはじめとする実力ある旬のソリスト陣、加えてカンマーフィルと深いつながりを持つカンマーコーアの高い音楽性が、このCDの成功に大きく貢献している。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

ロバート・マンの芸術 モーツァルト:交響曲第40番、バルトーク:ディヴェルティメント、ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第16番より/ロバート・マン指揮、サイトウ・キネン・オーケストラ」(N&F/MF25101)
 現代的演奏の先駆とも言える往年の「ジュリアード弦楽四重奏団」第1ヴァイオリン奏者であったロバート・マンがサイトウ・キネン・オーケストラを振った初のCD。ジュリアード弦楽四重奏団と言えばRCA盤、シューベルトの「死と乙女」の冷徹なまでに研ぎ澄まされた演奏を思い浮かべる。この完璧な技術に裏打ちされた演奏スタイルと、当時初めて聴いた桐朋学園Aオーケストラの斬新な演奏を重ね合わせると、ここに多くの共通点を見いだすことが出来る。しかし今回の演奏におけるモーツァルトでは往年の厳しさを見ることが出来ず、やはり80歳を過ぎたマンに枯淡の境地が感じられた。だがメヌエットとフィナーレで初めてマンらしい厳しさが表れる。2曲目バルトークの第1楽章では予想より遅いテンポで優秀な奏者たちにじっくりと曲に向き合うように仕向けているかのようだ。最後のベートーヴェンでは精神的な持久力が不可欠な緩徐楽章で、最高の昂まりを感じさせてくれた。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番、第24番/内田光子(ピアノ、指揮)、クリーヴランド管弦楽団」(ユニバーサル ミュージック、DECCA/UCCD-1246)
 内田光子が20余年ぶりに行ったモーツァルトの協奏曲録音。80年代後半にジェフリー・テイト指揮のイギリス室内管弦楽団と録音して以来となる。今回はクリーヴランド管弦楽団との弾き振りライヴだが、すべてが驚くべき完成度を持っている。そしてその中には得も言われぬ心の暖かさが感じられるのだ。まさに入神の演奏と言えよう。また弾き振りとは言え、内田自身のオーケストラへの感情の移入、そして指揮者としてのオーケストラ制御も実に見事。そのほか第24番終楽章では第4変奏と第6変奏で弦をトップ奏者だけに絞る試みも、セレナードのような雰囲気が感じられておもしろい。(廣兼 正明)

Classic DVD Review


シェーンブルン宮殿 夏の夜のコンサート 2009/ダニエル・バレンボイム(指揮、ピアノ)、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」(ユニバーサル ミュージック、ドイチェ・グラモフォン/UCBG-1281
 毎年行われるムジークフェラインでのニューイヤー・コンサートとは異なり、「夏の夜のコンサート 2009」と銘打った野外演奏会が、今年6月4日にシェーンブルン宮殿の広い庭園で行われた。入場料は無料(スポンサーは時計のローレックス)だったこともあり、約10万人の聴衆が集まったという。テーマは「夜(メイン・プログラム4曲)」と「ダンス(アンコール3曲)」で、「夜」では「モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、「デ・ファリャ:スペインの庭の夜」、「ムソルグスキー:はげ山の一夜」、「J.シュトラウス:ワルツ《千夜一夜物語》」と「ダンス」では「ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ《大急ぎで》」、「モーレス:タンゴ《エル・フィルレーテ》」、「J.シュトラウス:ワルツ《ウィーン気質》」が演奏された。演奏は野外のため弦楽器には小さなマイクが装着されていたが、楽団長ヘルスベルクとバレンボイムの冗談を交えた会話も楽しめ、見たことのないシェーンブルン庭園の夜景や、ウィーン子の満足げな様子がうかがえ、楽員たちの楽しそうな表情もニューイヤー・コンサートと変わりない、まことに楽しいDVDである。(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review
PMFオーケストラ大阪公演」727日ザ・シンフォニーホール
 公募で世界各地から集まった若い音楽家たちが、札幌で内外の一流奏者から特訓を受けて、その成果を披露した。大指揮者バーンスタインの提唱で始まったPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)は、今年で20年を迎えた。約100人の若き精鋭は、芸術監督のアイケル・ティルソン・トーマスとともに大阪を訪れ、マーラーの交響曲第5番を聴かせた。
 悲哀に満ちた第1楽章の葬送行進曲は、キメの細かな音の流れをつくり、第2楽章の突出した感情表現と鮮やかなコントラストを描く。指揮者の巧みなリードで、若いオーケストラは生気にあふれ、伸び伸びとしている。途中で中だるみを感じさせるところもあったが、最終の第5楽章で強烈なパワーを生み出し、大編成の利点を存分に発揮した。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)

Classic CONCERT Review

小沢音楽塾 フンパーディンク《ヘンゼルとグレーテル》」81日アクトシティ浜松
 小沢征爾の提唱でこのプロジェクトがスタートして10年。毎年選抜される塾生の水準は相当なもので、演奏面では大きな破綻はない。小沢をはじめコーチ役の豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)ら楽器のセクションごとに基礎をみっちり仕込まれた訓練の賜物である。欲を言えば限がないが、これから才能をいかに磨き、第一線に羽ばたいていくか楽しみである。
 ウイルス性流感で主役の一人が急遽交代になったものの、その影響は少しも感じさせないのは、控えの層が厚いからだろう。グレーテル(カミラ・ティリング)もヘンゼル(アンゲリカ・キルヒシュラーガー)も持ち味を発揮して、コンビの息が合っていた。ここで特筆されるのはデイヴィッド・ニースの演出である。このオペラはグリム童話を下敷きにして、とかくお子様向きに見られがちだが、ニースはメトロポリタンで鍛えただけあって、舞台装置や衣装も本格的である。薄っぺらの‘読み替えオペラ’ではなく、堂々とした風格を備えていた。(椨 泰幸)
(写真提供:ヴェローザ・ジャパン)(撮影:大窪道治)

Classic CONCERT Review

ブラジル風バッハ 全曲演奏会」8月22日 東京オペラシティコンサートホール・タケミツ メモリアル
 ブラジルの作曲家、エイトル・ヴィラ=ロボス没後50周年記念として、彼の代表作「ブラジル風バッハ」(正しくは「バッハ風のブラジル風音楽」と訳すべきらしい)の全曲(第1番〜第9番)がまとめて演奏された。これはブラジルはおろか、欧米でもめったにないことらしい。総パフォーマンス時間は4時間半に及び、オーケストラをフィーチャーしたものからソプラノ・ヴォイスや8本のチェロを主役にしたものまで、多彩なセッティングで楽しませてくれた。ジャズ〜ポップス系のファンには「リトル・トレイン」の別名で知られる「第2番 第4楽章」がよく知られていることと思うが、ほかにも魅力的なメロディが次々と登場、この日のコンサートで僕とヴィラ=ロボスの距離は一気に近づいた。(原田 和典)

Classic CONCERT Review

堺シティオペラ マスネ《シンデレラ》」96日堺市民会館
 市民オペラは地元の人たちに質のいい出し物を鑑賞してもらう趣旨でスタートした。主催者は優れた歌手をそろえて、市民の希望に沿うようにしている。その結、地域にとらわれることなく海外からも歌手を集め、オペラの水準も高まってきた。演目も多様化して、市外から多数の観客が訪れ、公演日数も二日間にわたるところが出ている。他のオペラ団体にもいい刺激を与えていることだろう。その例を堺市に見ることができる。
 人材を関西のオペラ界に求め、二日目の公演では、シンデレラに武内亜紀(が起用され、意地悪な継母井上美和、優しい実父クリスチァニス・ノルヴェリスともども期待に応えた。
岩田達宗の演出も妖精オペラの気分をよく伝えている。(椨 泰幸)
(写真提供:堺シティオペラ)

Classic INFORMATION
プラハ国立歌劇場《アイーダ》
 スエズ運河の開通を祝ってヴェルディが作曲した「アイーダ」は、トランペットが喨々(りょうりょう)と鳴り渡る「凱旋行進曲」をはじめ数々の名旋律とアリアで知られる。異国情緒あふれるエジプトを背景に、若き将軍ラダメスと侍女アイーダの悲恋のドラマが進行する。強靭な発声を必要とするドラマティック・ソプラノの人気歌手ディミトタ・テオドッシュウが、アイーダ役で登場する。演出家ルイージ・ピッツィに率いられた名門マチェラータ音楽祭と同国立歌劇場の共同制作。(T)
写真提供:フェスティバルホール事務所
 11月7日午後4時 大阪厚生年金会館
 お問い合わせ:フェスティバルホール事務所(06-6231-2221)、
 リバティ・コンサーツ(06-7732-8771) 
 発売所:チケットぴあ(0570-02-9999)など。e+(イープラス)http://eplus.jp

Classic INFORMATION

藤原歌劇団 創立75周年コンサート
 1934年に設立された、日本でもっとも歴史と伝統のあるプロの歌劇団、藤原歌劇団。とくにイタリア・オペラを得意とし、イタリア仕込みの歌手たちを通じて、名作の楽しみを伝えてきた。今年は創立75周年にあたるが、それを記念して、当団のオールスターメンバーによるガラコンサートが開催される。およそ15年にわたって総監督をつとめた名テノール、五十嵐喜芳がプロデュースする名曲ぞろいのプログラムに出演するのは、ソプラノの林康子、バリトンの堀内康雄、テノールの中鉢聡ら、日本のオペラ界を代表する歌手たちだ。「トラヴィアータ」「ノルマ」「蝶々夫人」などおなじみの名作の名アリアを、藤原の誇る「声」で堪能したい。(K) 〈写真は林康子〉
 11月23日 東京文化会館
 お問い合わせ:日本オペラ振興会チケットセンター 03-6407-4333
 URL http://www.jof.or.jp/

Classic INFORMATION
BCJヘンデル・プロジェクトIII 《リナルド》」(演奏会形式)
12
6日 東京オペラシティ
 今年2009年は、ヘンデルの没後250年。記念のコンサートも多いが、12月に開催されるバッハ・コレギウム・ジャパン(以下BCJ)による「リナルド」(演奏会形式)は注目だ。日本を代表するBCJが、この年を見据えて3年前から続けてきたプロジェクトの最終回で、ヘンデルがロンドン・オペラ・デビューを飾ったオペラ・セリアの代表作を、レイチェル・ニコルズ、森麻季ら、内外の充実のキャストで聴ける。8月にはエジンバラ音楽祭でも上演され、絶賛を博した。(K) 〈写真はエジンバラでの公演のもよう〉
 お問い合わせ:東京オペラシティチケットセンター 03-5353-9999
 URL http://www.operacity.jp/

Classic INFORMATION

トリノ王立歌劇場来日へ向けて〜劇場総裁ヴァルター・ヴェルニャーノ氏記者懇親会レポート
 トリノ王立歌劇場は、イタリアを代表する名門歌劇場のひとつ。来年の7月、初来日を果たすが、それに向けて総裁のヴァルター・ヴェルニャーノ氏が記者懇親会を開いた。おもな内容は、劇場の歴史や組織、プログラムなど劇場全体の概略と現状について。組織がしっかりしており、プログラムも5年先まで決まっていて、ここ10年ストライキがないなど、イタリアの劇場のなかでも良好な状態がうかがえた。シーズンプログラムを見ても、キャストの充実は明らかだ。
 来日の演目についても触れられ、キャストやプロダクションの素晴らしさが紹介された。ナタリー・デセイの「椿姫」、バルバラ・フリットリの「ラ・ボエーム」という内容はとても魅力的。来年の来日オペラの目玉になることは間違いない。(K)
 日本公演:2010年7月
 チケット発売:11月1日から。
 お問い合わせ:ジャパン・アーツ 03-5237-7711
 URL http://www.japanarts.co.jp/

Audio What’s New

Aura neo

 


Aura groove

「巨匠デザイナーの手になる美しくて性能のいいオーディオ、CDプレーヤー“Aura neo”とプリメインアンプ“Aura groove”」
 コンパクトなオールインワンタイプのCDプレーヤー/アンプの“ノート”がベストセラーを続けるオーラデザインから新製品が発売される。CDプレーヤー“Aura neo”とプリメインアンプ“Aura groove”である。(以下、ネオ、グルーヴと表記)両機共にデザインはノート同様、英国の鉄道車両から日本の大手化粧品会社のボトル、B&Wのデザイナーとして知られ、工業デザイナーとして巨匠の域にあるネネス・グランジの手になる。
 CDプレーヤー・ネオは三洋製ドライブメカを中心に構築したプレーヤーで、AK4117デジタルオーディオレシーバーの後段にSRC(サンプリングレートコンバーター)を持つ。デバイスは旭化成のAK4125。SRCを搭載したことでCDの44k/16bitはもちろん、外部デジタル入力からパソコン内のオーディオファイルを引き込み、96k/192kへアップサンプリングすることができる。iPodを聴く場合はグルーヴのiPod(アナログ)入力に接続する。ネオは近年の高級プレーヤー並にフルバランス出力設計を採用。グルーヴとのシステムアップを考慮してXLR出力を備えている。
 プリメインアンプ・グルーヴは、オーラの原点であるアンプVA50の構成を引き継ぎ、パワー素子に日立製MOSFET J162とK1058を2パラレルプッシュプルで使用、電源部にはこのサイズにして大型トロイダルトランスを使用し75W+75Wの出力を得た、純然たるアナログパワーアンプである。ボリュームにはシーラスロジック(クリスタル)CS3310をデバイスに使用、アナログ入力にはXLRターミナル(バランス入力)を備える。つまり、グルーヴ&ネオは、デザインコンシャスではなく、他流試合ができる本格的なプリメインアンプ、CDプレーヤーなのである。(大橋 伸太郎)

Aura Neo
■使用メカニズム: 三洋製メカニズム、東芝製ドライブチップセット
■デジタル出力:COAX×1/ TOS×1
■アナログ出力:XLR×1/ RCA×1
■デジタル入力:PC USB TypeB×1/ COAX×1/ TOS×1
■DAC部:CIRRUS LOGIC CS4398
■アップサンプラー:AK4125 (Selectable BYPASS/96kHz/192kHz)  
■外形寸法:78H×286W×278Dmm
■備考:リモコン付属
■価格:¥210,000(税込)

Aura Groove
■出力: 75W + 75W(8×)
■パワートランジスタ:HITACHI製 J162/K1058 MOS-FET 2 Parallel Push-Pull
■アナログ入力:XLR×1/ RCA×3/ iPod×1
■アナログ出力:PRE OUT×1/ REC OUT×1
■デジタル入力:C USB Type B×1
■ボリューム:Cirrus Logic CS3310
■外形寸法:75H×286W×D300Dmm
■備考:リモコン付属
■価格:¥210,000(税込)
*お問い合わせ:株式会社ユキム http://www.yukimu.com/index.html