2009年8月 

 
Popular ALBUM Review

「エレクトリック・ダート/レヴォン・ヘルム」
(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル/SICP-2366)

 5月に69回目の誕生日を迎えたリヴォン・ヘルムから素晴らしい作品が届けられた。数年前に咽喉癌を克服した彼は、ほぼ満足できる声が出せるようになったことを確認してから、家族やウッドストックの仲間たちの協力を得て『ダート・ファーマー』をつくり上げ、07年に発表している。グラミーでトラディショナル・フォーク部門賞を授与されるなと高い評価を集めたが、ジャケットを含めた作品全体からは、正直なところまだ「病み上がり」という印象が伝わってきたものだ。ダート第2弾とも呼べる新作『エレクトリック・ダート』はほぼ同じコンセプトと編成で録音されたものだが、本人が原案を手がけたというジャケットはひたすら明るくて愉快。声もドラムスも力強く、そして、なんともじつに渋い。2曲のマディ・ウォーターズ作品への取り組みからは、ヘルムの音楽的見識の深さがあらためて伝わってきた。(大友 博)

Popular ALBUM Review

「ザ・レイテスト/チープ・トリック」(ビクターエンタテインメント/VICP-64747)
 定期的に新作を発表し続けるキャリア30数年のスーパー・グループ(なのになんでか大御所然!としていないところが彼ららしくてGood♪)。3年ぶりに放った'最新作'(題名がレイテスト。。。ってそのまんま)もまさしく絵に描いたようなチープ・トリックの魅力全開!30年前、20年前、10年前、そして現在もその持ち味は変わらず、スタイルもほとんど同じ(まるで伝統芸能!?)なのに常にフレッシュさを失わない。とりわけ今回はスレイド1974年作のカヴァーである2曲目のハジケるような若々しさが印象的!還暦前後の4人がやっているとはとても思えない。またサイケデリック時代のビートルズを思わせるような一面も程良いアクセントに。(上柴 とおる)


Popular ALBUM Review

「ウィルコ(ジ・アルバム)/ウィルコ」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13511)
 ウィルコの新作を聴く。今回もまた気持ちよくその音とビートに浸り、妙な表現かもしれないが、「アメリカのロックはまだまだ大丈夫だ」と安心した。ジョン・トゥイーディを中心に、彼らはまったくぶれることなく、ウィルコ・ワールドをつくり上げている。とはいうものの、彼らはただ現状維持だけを目指しているわけではない。今回はまずニュージーランドでベーシック・トラックを録音し、アメリカに戻ってから時間をすけてギター/キーボード類を重ねていったという。この手法は、結果的には、もともと少なからずあったビートルズ性を浮かび上がらせることとなったようだ。トゥイーディとファイストとのデュエットも収められているのだが、この人選もウィルコらしくていい。(大友 博)

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「フィアレス/テイラー・スウィフト」(ユニバーサル ミュージック/UICO-1165)
 期待のシンガー/ソングライター、遂に世界デビューである。2006年にわずか16歳で全米デビュー、たちまちカントリー界で人気者となり、07年より徐々にポップにも進出、第1作アルバムは300万枚を超える売上を記録。今作は昨年秋に全米発売されるや初登場No.1となり、その位置に計11週留まった。今春にはシングル「ラヴ・ストーリー」をポップ・ミックスに、そしてジャケット写真を差し替え、第1作からのシングル3曲(いずれもポップ・ミックス)をボーナス収録したインターナショナル盤がヨーロッパで発売。日本盤はさらに4曲を追加収録、うち2曲は全米で限定発売された企画盤収録曲という嬉しい内容。単なるアイドルとしてだけでなく、10代の瑞々しい感性で描かれる彼女の歌は、同世代を中心に大きな支持を得るはずだ。(森井 嘉浩)

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「REGGAE VIBRATION W・GOING BACK TO JAMAICA/ジョー山中」
(ユニバーサル ミュージック/UPCH-1733)

 491(フォー・ナイン・エース)時代からそのステージを観ていたひとりとしては、ジョー山中の新作は見逃すわけにはいかない。8年ぶりのソロ・アルバムは全曲ジャマイカ録音。ジョーのレゲエが全面に噴出、実にダンサブルなグルーヴが心躍らせる。タイトル・ソング、「Reggae Love」「Only Pray For Tomorrow」などの佳曲ぞろいの中で、懐かしの「Dance To The Reggae」(作詞・作曲はジョー)も大きく光っている。そして懐かしいといえば「人間の証明のテーマ」のセルフ・カヴァー「Proof Of The Man」、やはり本作の最高傑作だ。ドラマティックに、でも実に流れるような展開のレゲエ・サウンドの中で歌い上げるジョー、彼の魅力をあますことなく伝えているのだ。(Mike M. Koshitani)

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初回限定盤

通常盤
/ Perfume」(徳間ジャパンコミュニケーションズ/TKCA-73440=初回限定盤 CD+DVD ・TKCA-73445=通常盤CD)*掲載ジャケットは通常盤
 トライアングルと読む。Perfume、1年3ヶ月ぶりのニュー・アルバムである(ジャケット左から、かしゆか、のっち、あ〜ちゃん)。実にいい。最高というしかない。曲順や流れの美しさに陶然とさせられ、緊密感を増したヴォーカル・ハーモニーに包み込まれ、音と音の間に潜んでいる遊び心のとりこになる。何度聴いても、そのたび新しい風景が体を貫く。「Take off」と「love the world」や、「The best thing」と「Speed of Sound」のつなぎ目に、僕はキース・ジャレットの大傑作『シェイズ』アナログ盤A面のそれを思い出した。低音をズブズブに利かせ、近所迷惑寸前まで音量をあげて楽しめば、さらに酩酊状態になれるはずだ。存在はキャッチーでポップ、だけど音楽はディープでコアでアヴァンギャルドなPerfume。前進し続けるアーティストほど魅力的なものはない。8月から全国ツアーだ!(原田 和典)

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「テイク・ラヴ・イージー/ソフィー・ミルマン」
(ビクターエンターテイメント/VICJ-61606)

 容姿も歌も変わるものなんだなあと思った。先月10日、カナダ大使館オスカー・ピーターソン・ホールに登場したソフィー・ミルマンを観ての感想だ。かつての彼女はロシア出身らしく、ちょっとアクが強くコーニーな感じがあったが、今回は全てにシェイプ・アップされていた。2006年の2枚目のアルバムでカナダ・ジュノー賞最優秀ジャズ・ヴィーカル賞を獲得したソフィーだが、この最新盤では以前よりも軽やかに、もって回る所もなくスマートに聴ける。アップ・テンポで歯切れよい「デイ・イン・デイ・アウト」はじめスタンダード曲に、近年の佳曲が加わっている。ポール・サイモンの「恋人と別れる50の方法」はメランコリックに始まり、思いが噴出すように高揚する。粋なボサノヴァ、ジョニ、ジョニー・マンデル作品等、ニュアンスのこもった工夫の跡が伺える。(鈴木 道子)

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「レット・ユアセルフ・イン/ティアゴ・イオルク」
(ビクターエンタテインメント/VICP-64733

  まだ23歳なのにこれがデビュー作とは思えないほどに落ち着いた味わいを漂わせるブラジル生まれのシンガー/ソングライター。シンプルなアコースティック・サウンドが軸なのに変化に富んだメロディー・ラインのセンスの良さと覚えやすいフレーズ、タイプの異なる楽曲の表情などが入り交じり、飽きさせない。特にジャジーな感覚の「チケット・トゥ・ライド」は聴きもの♪ビートルズ・カヴァーは数え切れないほど聴いて来たがこの仕上がりは印象に残る。そういう特集企画の際には是非持ち出したい作品だ。ギター1本で歌われる「マイ・ガール」(テンプテーションズ)もかつてない(?)新鮮さを感じた。端正な顔立ちのイケメン青年だが憧れの人は故ジェフ・バックリィとか。(上柴 とおる)

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「アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー〜シングス・コルトレーン・バラッズ/イヴォンヌ・ウォルター」(Muzak/ MZCF1196)
 イヴォンヌ・ウォルターは、その優しく温かみのある語り口の歌は、同郷のアン・バートン的な雰囲気も感じさせるところもあるオランダの中堅シンガー。彼女が10年程前から温めていた企画、其の名の通りコルトレーンの名作のヴォーカル盤。ジョニー・ハートマンとの作品から3曲と「ネイマ」が付け加えられる。カーリン・アリソンに先を越されて棚上げにしていたというが、シンプルなピアノとベースのバックでバラードをじっくりと聞かせる、カーリンの作品とは一味違う作品。(高田 敬三)

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「バック・・トゥ・ザ・ゴールデン・エイジ/メイ・ソン・リー」
(East Finchi Recods/MLCM 10003)

 かつて日本ではティーブ釜萢、レイモンド・コンデ、ビンボー・ダナウといったアジア系のミュージシャン、シンガーが大活躍した時代があった。覆面歌手風にメイ・ソン・リーの名前で登場した佐藤マサノリは、その時代を懐かしみながら継承していく使命を感じて、”追憶の黄金時代”を発表した。このアルバムはブルー・コーツやビッグ・バンドで歌い、エンターテイナーとして活躍してきたヴェテランの現役復帰第一弾でもある。ふくよかな低音が響くいい声だ。余裕のあるふわっとした歌声でビッグ・バンドに乗ってスタンダード・ナンバーを歌う。実に心地よい。声がもうひとつ前に出た方がいい曲もあるが、「アイ・キャン・ゲット・ユー・アンダー・マイ・スキン」などは、恋のリアリティよりも回顧感があり、洒落さがいい。これからの活躍が期待される好盤だ。(鈴木 道子)

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「ウッドストック/オリジナル・サウンドトラック」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR13541〜2)
「ウッドストック/オリジナル・サウンドトラックU」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR13543〜4)
 1969年8月に行われた伝説のロック・フェスティバル≪ウッドストック≫のオリジナル・サウンドトラック・リマスター盤が、40周年を記念して発表された。1970年6月に3枚組LPとして発表され、後にLP、CD、DVDと幾度と無く『ウッドストック』の名の下に様々なソフトが出てきたが、今回のリマスター盤は決定版とも言うべき音質の良さである。正に、『ウッドストック』が蘇ると言って良いほどのリアルな臨場感は、圧倒される迫力でミュージシャン達のサウンド・プレイ・コメントそして会場の雰囲気を伝えてくれる。これこそ体感すべきCDだ。空気を通じてその波動(ライヴ)を体全体で感じて欲しい。間違いなく、ヘッドフォンではこの感覚は掴めない。あのジミ・ヘンドリックスが、デビュー前の荒々しいサンタナが、人気絶頂期のCSN&Yが、自由と平和を歌い続けるジョーン・バズエが、身をよじらせながら歌うジョー・コッカーが、アルヴィン・リーがギターを弾きまくるテン・イヤーズ・アフター等々が、現代に蘇る。リアルタイムに『ウッドストック』を経験した世代も、全く知らない世代でも、史実に基づく音楽のパワーに十二分に浸れる。これを聴かずにロックは語れない。
 また、38曲もの秘蔵未発表音源を含むCD6枚組ボックスセット「ウッドストック〜40周年記念ボックスセット」(WPCR 13593〜8)、「ディレクターズカット ウッドストック愛と平和と音楽の3日間 40周年記念アルティメット・コレクターズ・エディション」Blu-ray(ワーナー・ホーム・ビデオ/WBA -Y25764)、DVD(DLX-Y25765)もリリース。(上田 和秀)

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「ジョージ・ハリスン〜オールタイム・ベスト」(EMIミュージック・・ジャパン/TOCP-70790)
 ジョージ・ハリスン初のソロ時代オールタイム・ベスト・アルバム。全米ナンバー・ワン・ヒットの「セット・オン・ユー」に始まり、珠玉の名作「イズント・イット・ア・ピティー」に終わる全19曲。バランスよく全時代から選曲されていて、ビートルズ時代の代表曲「ヒア・カムズ・ザ・サン」「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウイープス」「サムシング」もバングラデシュ・コンサートからのライヴ・ヴァージョンで収録。ボブ・ディラン作「青春の想い(I Don't Want Do It)」(1985年に映画『ポーキーズ/最後の反撃』に提供)がジョージのアルバムには初収録。選曲は妻のオリビア・ハリスン。収録曲のリマスターを担当しているのはジョージ・マーティンの息子ジャイルズ・マーティン。ブックレットには貴重なジョージの写真や楽器・機材の写真をたっぷり掲載。ファンにも納得のアルバムでジョージ入門盤としてもおすすめできる。(広田 寛治)

Popular ALBUM Review











































「ファースト・アルバム/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13512)

「時間と言葉/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13513)

「ザ・イエス・アルバム/YES」(ワーナーミュージック・ジャパ/WPCR-13514)

「こわれもの/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13515)

「危機/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13516)

「イエスソングス/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13517,18)

「海洋地形学の物語/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13519,20)

「リレイヤー/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13521)

「究極/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13522)

「トーマト/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13523)

「ドラマ/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13524)

「イエスショウズ/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13525,26)

「90125 ロンリー・ハート/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13527)

「9012 Live The Solos ライヴ/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13528)

「ビッグ・ジェネレイター/YES」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-13529)


 4大プログレッシブ・ロック・バンド(4大とはイエス、キング・クリムゾン、EL&P、ピンク・フロイドを指すが、ジェネシスまたはムーディ・ブルースを加え5大プログレッシブ・ロック・バンドと言うこともある)の雄イエスのオリジナル・アルバム15タイトルが、デビュー40周年を記念して最新デジタルリ・マスター音源、SHM-CD仕様、英国E式仕様オリジナル・ジャケット再現の紙ジャケと言う、何とも贅沢な内容と高音質で登場した(貴重な音源のボーナス・トラックも追加されている)。
 記念すべき『ファースト・アルバム』は、新人バンドとしての初々しさが残り、プログレッシブ・ロック・バンドというよりも、上手いポップス・ロックといったところだろうか。ビートルズの「エブリ・リトル・シング」、ザ・バーズの「アイ・シー・ユー」といったカヴァー曲も取り入れ、上手いアレンジとバラエティに富んだ楽曲でまとまった作品である。
 魅惑的なジャケットのセカンド・アルバム『時間と言葉』は、プログレッシブ・ロック前夜とも言うべき当時流行のオーケストラとの競演によるシンフォニック・ロックを表現した意欲作だ。前作に比べ演奏とアレンジが一段と進歩し、後のイエスを垣間見ることが出来る。
 ギターのピーター・バンクスが脱退し、ロック史上最高の弦楽器マルチ・プレーヤーであるスティーブ・ハウが加入し制作された『サード・アルバム』(何故か原題は、The YES Album)は、スティーブ・ハウの加入がイエスにとって大きなアドバンテージとなり、楽曲の幅が広がり、初の全曲オリジナル・アルバムとなった。しかも長尺の曲や現在でもライヴに欠かせない「アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル」、「スターシップ・トゥルーパー」といった名曲も生まれ、正にプログレッシブ・ロックの扉を開いた作品である。
 キーボードのトニー・ケイが脱退し、鬼才リック・ウェイクマンの加入と共にイエスが黄金期を迎え制作された4作目は、ロック史上に名盤として名高い『こわれもの』である。
 メンバー全員のオリジナリティが全面に出た本作は、全世界でヒットし、「ラウンドアバウト」、「ムード・フォー・ア・デイ」、「燃える朝やけ」等の名曲、ヒット曲を輩出することとなる。また、本作からジャケット・デザインもロジャー・ディーンが担当し話題となり、名実共にプログレッシブ・ロックのトップに立つ。
 イエスは、『こわれもの』の成功に止まることはなく自身の最高傑作であり、プログレッシブ・ロックの金字塔とも言うべき大傑作『危機』を発表する。全3曲というシンフォニック大作は、最高の楽曲・演奏・アレンジによるプログレッシブ・ロックを代表するコンセプト・アルバムとなった。メンバーの内誰一人でも欠けると、この作品は完成しなかったであろう、それ程までの緊張感が伝わってくる。時が過ぎても色褪せない名盤、それこそが『危機』である。
 イエス初のライヴ・アルバム『イエスソングス』は、前作『危機』発表後ドラムのビル・ブラッフォードが脱退、それを受けアラン・ホワイトが加入し行われた、大規模な全米ツアーの模様を収録した、発売当時は3枚組LPの超大作ライヴ盤である。ストラヴィンスキー作曲「火の鳥」から始まるオープニングは、壮大なるライヴの序章に過ぎず、演奏が進むに連れ『イエスソングス』が単なるロック・バンドのライヴの域を越えた存在であることに気付く。当時、最高のポテンシャルを誇ったイエスの全てがここにある。
 イエスの7作目(スタジオ録音盤としては6作目)となる大作は、ジョン・アンダーソンがパラマハンサ・ヨガナンダの「あるヨギの自叙伝」の一節からイマジネーションを受け、スティーブ・ハウと作り上げた2枚組4曲という『海洋地形学の物語』である。あまりに長尺で難解な曲に、ファンも戸惑ってしまったイエス最大の問題作であるが、そのアイディアもシンフォニーとしての完成度も素晴らしいコンセプト・アルバムである。
 前作で嫌気が差し脱退したリック・ウェイクマンに変わり、パトリック・モラーツが加入し制作された『リレイヤー』は、イエスにとってある意味ピークに達した感のあるアルバムである。コンセプト・アルバムという形態はそのままに、今までとは異なるアプローチの演奏(調和でなくバトルなのか)を試みている。イエスにとって意義のある試みが、ファンにとって興味があるかどうかは分からないが、『リレイヤー』は隠れた名作である。
 前作『リレイヤー』から3年のブランクを経て発表された『究極』は、イエス初のセルフ・プロデュースへの挑戦、リック・ウェイクマンの復帰、ジャケット・デザインをロジャー・ディーンからヒプノシスへ変更等、バンドとして気分一新を計り、相当な意気込みが感じられるが、決して肩の凝らない聴きやすい作品となった。代表曲「悟りの境地」ではないが、今までと違う何かが見えてきたのかも知れない。
 結成10周年目に発表された『トーマト』は、長尺な曲作りからコンパクトな曲作りへと変貌を遂げるきっかけとなった作品である。新しいファン作りには効果があったが、従来からのファンには物足りないイメージを与える物となった。しかし、どの曲も佳曲揃いだ。
結成以来イエスを支えてきた創設者のジョン・アンダーソンとリック・ウェイクマンが脱退し、人気絶頂にあったバグルスの二人と合体し制作した『ドラマ』は、ヴォーカルがトレヴァー・ホーンに変わり、全くイメージの異なるバンドになってしまった感が拭えないが、楽曲も演奏も良く締まり、ジャケット・デザインもロジャー・ディーンに戻るなど、ファン納得のプログレッシブ・ロックとなった。
 『イエスショウズ』は、1976年から1978年にかけて行われたツアーの模様を収録した2枚組ライヴ・アルバムである。『イエスソングス』の姉妹編的要素が強く、曲目も重複しないように構成されている。パトリック・モラーツの演奏を聴くことの出来る珍しいライヴ盤でもあり、絶頂期の イエスを知ることの出来る貴重な1枚である。
 『90125 ロンリー・ハート』は、ジョン・アンダーソンが復帰し、ギターにはトレヴァー・ラビンが加入し制作された。タイトル曲「ロンリー・ハート」が世界的にヒットし、アルバムとしても新生イエスをアピールするのに充分な内容のヒット作となった。
 『9012 Live The Solos ライヴ』は、84年に行われたワールド・ツアーから厳選されたイエスにとって3作目のライヴ・アルバムであり、メンバーのソロ・パフォーマンスを凝縮した通好みの作品となっている。
 『ビッグ・ジェネレイター』は、『90125 ロンリー・ハート』から4年振りとなるスタジオ録音盤である。トレヴァー・ラビンがプロデュースを担当し、トレヴァー・ラビン色が強くなったが、演奏のテンションは高く、幅広いジャンルを網羅したポップな作品となった。メンバー・チェンジを繰り返しながらも尚、現役を続けるイエス。そして驚く程に高音質で蘇った名盤に多くのロック・ファンは、魅了されることだろう。(上田和秀)


Popular ALBUM Review

「アラフォー・ユーロビート/VA」(EMIミュージック・ジャパン/TOCP-64374)
 80年代後半バブル全盛時代。当時、20歳前後だった若者達は現在、40歳前後になり“アラフォー”と呼ばれる世代に。本アルバムは当時、日本のディスコで人気だったユーロビート・ヒット曲24曲をノンストップミックス。さらにボーナスでアン・ルイス「ああ無情」も収録。当時のディスコのバブルな雰囲気を音楽で醸し出す。80年代のホーランド/ドジャー/ホーランドと呼ばれたイギリスのPWL。彼等が手掛けたカイリー・ミノーグ「ラッキー・ラヴ」、バナナラマ「ヴィーナス」などのワールド・ヒット曲は勿論、「ギヴ・ミー・アップ」「ブーン・ブーン」などのイタロ・ユーロも収録。ディスコDJの私は60年代モータウン・ポップスと共通の“楽しい”魅力をノンストップで70分間、感じる。(松本 みつぐ)


Popular ALBUM Review

「ラヴ・アコースティック・グルーヴ〜メッセージ・フロム・アロハ/VA」
(ヴィレッジ・ミュージック/VRCL5041)

 ハワイアンが元気だ。年代を問わず日本の女性たちの間でフラダンス熱が衰え知らず、それに引っ張られるかのように演奏家たちが活気づいているということなのか? なにせ町なかのフラ教室ばかりでなく東大や早大にまで同好会があって本格的に活動しているし、夏から秋にかけてナレオ、カジメロ、ケアリー・レイシェル、ハパと目白押しに来日する。さて『ラヴ・アコースティック・グルーヴ』と題した本作品はこれらフラの流れとは一線を画す。ジャスティンやエコルなど、ハワイアン・レゲエやサーフ・アコースティックといった言葉でいわれるようなアーティストたちの14楽曲をコンパイルしたものだ。3000曲もの中から厳選したそうだが、全体の流れは現地のコンテンポラリー・ヒット・フォーマットのラジオ局を聞いているような感じで、島の空気感がそのまま伝わってくる。さわやかで心地よいリゾート感覚に溢れるアルバムだ。(三塚 博)


Popular DVD Review




「人間60年 ジュリー祭り ザ・タイガースから今日までROCK'N ROLL MARCH/沢田研二」(ココロ・コーポレーション/COLO90812)
 もう20年以上前になるけど、沢田研二に2時間近くじっくりインタビューしたことがある。ジュリーは本当に音楽が好きなんだナァーということをダイレクトに感じた。そんなジュリーの音楽へ対する熱き思いを改めて感じたのが昨年の12月3日、東京ドームでの6時間以上にも及ぶ≪ジュリー祭り≫だった。オープニングから最後の最後まで、しっかりと楽しませてもらった。素晴らしい!この一言に尽きるそのライヴは、まさに日本の音楽史に深く刻み込まれなければならない。長時間のそのステージ、30曲目、50曲目、60曲目・・と進むにつれより大きく盛り上がっていった、凄いことだ。多くの日本人に“元気”をふりまいてくれたのだ。このDVDはその東京ドーム公演の完全記録である。音楽ファンの宝物である。尚、DVDと同時にこれまた12月3日の完全記録である同タイトルのCD(COLO-0812)もファンの前に登場。ジュリー・フリークはもちろん両方コレクションなのだ。1968年8月の後楽園球場での“ザ・タイガース・ショー”を思い出す・・・。(Mike M. Koshitani)


Popular DVD Review

「ベスト・オブ・アリソン・クラウス DVD〜ア・ハンドレッド・マイルズ・オア・モア/アリソン・クラウス」(ユニバーサル ミュージック/UCBU-1022)
 今年の2月、ロバート・プラントとの共演作『レイジング・サンド』が第51回グラミー賞主要部門を受賞。これで通算26冠という、グラミー常連中の常連となったアリソンだが、このDVDは全米では2007年に発売された同名CDの宣伝用に制作されたTV特番(スタジオ・ライヴ)を商品化したもの。CDは主にサントラ盤や企画盤提供曲、他のアーティストに客演した曲等で構成されていたが、DVDではそれらのアーティスト(ジェイムス・テイラー、トニー・ライス、ブラッド・ペイズリー、ジョン・ウェイト他)との生共演、そしてインタビューが楽しめる。ブルーグラスはもちろん、カントリーやフォーク、ポップまで、彼女の幅広い音楽性が窺えるだけでなく、どんな音楽にでも順応できるその歌声に、改めて感嘆させられる。CDと共に、その天使のような美しい歌声に心ゆくまで癒されていただきたい。(森井 嘉浩)


Popular BOOK Review

「サイモン&ガーファンクル全曲解説/佐藤実・著」(アルテスパブリッシング)
 元々サイモン&ガーファンクルについての出版物は多いとは言えないものの、それでもバイオグラフィー等は何種類か出ている。が、確かにこういった本は今までなかった。本書はS&G、及びそれぞれのソロ・アルバムの曲を取り上げ、ベスト盤やライヴ盤、一部は輸入盤も含め、アルバムを総評しながら、収録曲を詳細に分析した労作である。曲に対する評価は勿論読む人によって分かれるだろうが、著者は専門的知識を駆使し、根拠を提示した上で類推を図る等、示唆に富む分析も多く説得力がある。また関連アーティストの参考アルバムも紹介する等、親切丁寧な作りで、ファン必読の書となっている。ただ曲についてコード進行から論じている件は一般の読者には分かりにくいかもしれないし、ベスト盤やシングル等のとりこぼしがあるのが勿体ない。頁数の制約もあったろうが≪全曲解説≫の決定版となるべきものだから・・・。(滝上 よう子)


Popular BOOK Review

「映画音楽 おもしろ雑学事典/大日方俊子・著」(ヤマハミュージックメディア)
 大日方俊子は元TBSテレビのディレクターで、高名な鈴木道明グループの一員だった。当時から映画音楽とミュージカルに精通していたが、本著は映画音楽に関するウンチクを傾けたデータを駆使したもので、教えられるところの多い本だ。その上、裏話や知られざるエピソードも満載されており、この一冊があれば、映画音楽通になれること受け合い。また過去の映画音楽についてだけでなく、未来を展望しているのも、この本の魅力。さらに鏤められているデータや一覧表、各種映画音楽に関するリストが、いろいろなことを教えてくれる実に貴重な資料といえる。≪年代別ヒット映画主題歌≫≪アカデミー音楽賞受賞者&作品一覧≫≪映画になったブロードウェイ・ミュージカル作品一覧≫などはプロのライターにとってもありがたい。(岩浪 洋三)


Popular CONCERT Review

「スノウボーイ&ザ・ラテン・セクション」6月16日 Billboard Live TOKYO
 DJクリス・ヒルが開演前の会場を盛り上げる。1990年代に隆盛を極めたアシッド・ジャズの立役者である英国のパーカッショニスト=スノウボーイが来日した。本人が10年間の取材を重ねた著作『UKジャズ・ダンス・ヒストリー』の日本語版が発刊されたタイミング。自分がその翻訳仕事に携わったこともあって、久々の再会と共に期待を抱いたステージとなった。3人の管楽器とリズム・セクションによるバンドは、こなれた演奏で次々とラテン・グルーヴを醸し出してゆく。折々に気合を入れながらコンガを叩くスノウボーイは、汗びっしょりに。そんな熱演に客席も熱い反応を返す。終盤になると日本人ダンサーのスタックス・グループがステージに上がり、サウンドと一体となったパフォーマンスを展開。アシッド・ジャズ衰えず、を体感させてくれた。(杉田 宏樹)


Popular CONCERT Review

「チャイナ・モーゼス」 7月4日 Blue Note TOKYO
 トリオの演奏に導かれて現れたチャイナ・モーゼス、一瞬、母親のディー・ディー・ブリッジウォーターの面影が重なった。「このクラブのこけらおとしは、私の母だったそうで、重圧、重圧」と口では言いながらそんな素振りは感じられない舞台一杯に動きエネルギッシュに歌うダイナミックなステージ。「ファイン・ファイン・ダディー」からアンコールの「エヴィル・ギャル・ブルース」まで新作のダイナ・ワシントン・トリビュート・アルバムからの11曲を6歳の時にダイナを聞いてダーティーなブルースに興味をもったこと、彼女の39歳の短い破天荒な生涯について、「クライ・ミー・ア・リヴァー」を録音しようと言われた時、大変抵抗した事など明るく語りを交えながら歌い継ぐ。彼女は、CDで音だけ聞くよりステージの方がずっと楽しい。(高田 敬三)
写真:佐藤 拓央


Popular CONCERT Review

「鈴木雅之〜 Masayuki Suzuki taste of martini tour 2009 〜 Still Gold」
7月4日 渋谷C.C.Lemonホール
 匠。
「マーチン、朝まで歌ってぇ〜〜〜」 客席から黄色い声援がかかる。ずっと輝き続けること、スティル・ゴールドを大きなメイン・テーマに掲げた最新作『スティル・ゴールド』を中心にしたツアー千秋楽。フル・ショーを見るのは、2007年6月以来、ほぼ2年ぶり。かつて渋谷公会堂だったC.C.Lemonホール。「『スティル・ゴールド』ということで、マイクもゴールドにしました。やはり、この殺伐とした世の中、今、私たちに必要なのは、チェンジ…、あ、いや、違う、ラヴだと思います。だから、イエス・ウイ… ラヴ! さあ、皆さんもご一緒に。イエス・ウイ…」、すると観客席から一斉に「ラヴ」。
観客とのコール&レスポンスも手馴れたもので、MCも絶好調。そして、歌声も力強く、バンドもオールスター最強バンド。シュアでグルーヴィなベース小松さん、スーツ姿もかっこいい。コーイチロウさんもファンキーだ。マーチン曰く「来年は、私、デビュー30周年ということなんですが、今年は29年という中途半端な年でありまして…」(会場から爆笑)。1階は1曲目から立ち上がる客も。後半「ランアウェイ」以降は一気にパーティーが爆発。シーシー・レモン・ホールの温度も2度あがった。「可愛いいひとよ」を歌い終えた後、「生きて行く上でつらいときもあるでしょうけれど、これからもラヴ・ソングを歌っていきます」と言ってから、最新作から「ホーム・グロウン」を歌った。ラヴ・ソングの匠は、この日も健在。(吉岡 正晴)


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「MASAKI」7月4日  王子ホール
 柔らかく暖かい音色だ。人の心を和ませ明るくする音と自作曲。日本では無名のMASAKIはオーストラリアのシドニー育ちのヴァイオリニスト/作曲家。鈴木メソッドの申し子だ。自分のアイデンティティを求めて毎年来日しているが、新作『BANKSIA〜奇跡の花』(Dooloo Records/DLCD-1003)を持って弦楽四重奏にピアノとステージに立った。美しいクラシカルな響きの「バンクシア」から始まったが、曲について日本語で話しかけながらの演奏はどれも親しみ深く、「ラスト・プレゼント」は心にしみ入る思いの深さがあったし、田園風景が広がる曲や、女性の色香に翻弄される濃厚な曲の後には慎み深い大和撫子が描かれたり。日本調も覗かせながら、ヴァラエティに富んだレパートリーで楽しませる。ゲストの鈴木メソッドの子供たち10数人との見事な共演も素晴らしく、終始心暖まる楽しさに溢れていた。世界には純でいいアーティストがいるものだなあと、大切な拾い物をした一夕だった。(鈴木 道子)


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「ソウライヴ」 7月6日 Billboard Live TOKYO
 いろんな編成で毎年のように来日しているソウライヴ。結成10周年記念となる本公演は、不動のニール・エヴァンス(オルガン)、アラン・エヴァンス(ドラムス)、エリック・クラズノー(ギター)に、盟友サム・キニンジャー(アルト・サックス)、ライアン・ゾイディス(テナー&バリトン・サックス)を加えた5人で行なわれた。通算8作目にあたる最新作『アップ・ヒア』からの曲を中心にした、オール・インストゥルメンタルのステージ。これでもかといわんばかりにノリノリのナンバーをぶつけ、オーディエンスのからだを揺さぶり続ける。超絶的なベース・ラインを繰り出すニールの左手も相変わらず冴えまくっていたが、通常“帽子をかぶって座って弾く”エリックが無帽のまま立って弾いていたのにも驚かされた。(原田 和典)
Photo by Masanori Naruse


Popular CONCERT Review


「サイモン&ガーファンクル」 7月10日 11日 東京ドーム・15日 日本武道館
 暗がりのステージに彼等が登場した瞬間、二人のオーラが待ち構えていた観客を包み込む。そしてお馴染みのハーモニーが流れ出すと、誰もが耳をそばだて、その一音一音を感慨を持って心に受け止めていく。会場に漂っていたのは熱い思いと穏やかで優しい空気。これが最後とも言われている16年ぶりのS&Gのステージは予想を超える素晴らしさで、誰をも納得させる充実したものだった。何よりも嬉しかったのは二人共に声の調子がよかったこと。特に当初は線の細いアートの声が心配されたが、そんな不安を吹き飛ばす程よく出ていて、しかも回を追う毎に力強さも加わり、武道館ではこの20年余りで最高の歌唱を聞かせてくれた。ポールのギターを含め、様々な楽器を駆使したバンドもアレンジが秀逸で、サウンドも見事にまとまっていた。曲目はそれぞれのソロ・コーナーをはさみ「ヘイ・スクールガール」から「マイ・リトル・タウン」まで、彼等のヒット曲を網羅したもので、ポールのソロだけ、11日以降は「シューズにダイアモンド」が「グレイスランド」に変わったが、あとは3日間とも変化はなし。圧巻はやはり「明日に架ける橋」だろう。1番をアート、2番をポール、3番を二人でという構成だったが、ポールの歌も味わい深く、盛り上がりも最高潮に達した。他にも「スリップ・スライディン・アウェイ」「ニューヨークの少年」「木の葉は緑」等、聴きどころは満載で、あらためて感じたのはポールのソングライターとしての非凡な才能、そして今なお、二人の歌声にはかなわないということ。3日間の中では、音響の問題もあったろうが、やはり武道館公演が演奏、会場の雰囲気共に一番印象に残った。(滝上 よう子)
写真:YUKI KUROYANAGI


Popular CONCERT Review

「ジョニー大倉 THE RESET」 7月12日 クロコダイル
 “7月12日に原宿クロコダイルでジョニー大倉がライヴを行う”という事を耳にしたのは今月(7月)の初め。それより少し前、一部メディアで信じたくも無いような怪情報が報じられていたこともあり、ジョニー大倉はいったい今どのような状態で、そして当日はどのようなライヴになるのか・・・?全く想像もつかないままその日を迎えた。
 ライヴ開始前から場内はすでに満席。前述した経緯の為、会場内にはテレビ局、スポーツ紙各社がスタンバイするという重々しい雰囲気の中、MCのMike Koshitani氏によるアナウンスで≪THE RESET≫と銘打たれたコンサートの開始が告げられた。丹波博幸(g)、上原“ユカリ”裕(ds)をはじめ、錚々たるメンバーが集結したバンドによる「Got My Mojo Workin'」にのって、スパンコールをふんだんにあしらった煌びやかな黒のジャンプスーツに身を包んだジョニー大倉が颯爽と姿を現した。その長いもみ上げも相まって、まるで往年のザ・キング、エルヴィス・プレスリーのような風貌だ。
 心配されていた体調については、「昨年より続けていた極端な減量に加え、悪性リンパ腫を発症し放射線治療を施していた」と本人の口から語られた。また「緑内障も患っている」とも。しかし外見は痩せているというより、むしろ引き締まったように見えた。もちろん持ち前の甘いハイトーン・ヴォイスは往年と全く変わらず、また時には髪を振り乱しながらの熱唱で、ロックンロール〜オールディーズを中心の第一部、キャロル時代から最新のオリジナル中心の第二部で合計3時間、約30曲を歌い切った。特に、今現在ジョニー自身が抱えているトラブルを逆手にとって歌詞に織り込んだエルヴィスの「Trouble」は聴き応えがあった。
 終演後もアンコールを求める拍手と“ジョニー!”という声援は鳴り止まず、それに応えて「Be My Baby」や「Love Me Tender」を歌う彼のもとには、握手を求める観客が絶え間なくステージに押し寄せた。噂を吹き飛ばす力強いライヴで“ロックンローラー、ジョニー大倉ここにあり”を見事に証明してみせた。(町井 ハジメ)
写真提供:東京スポーツ


Popular CONCERT Review

「ブルース・ブラザーズ・バンド」 7月13日 Billboard Live TOKYO 
 フロム・メンフィス・テネシー、ギターの名手のスティーヴ・クロッパーを中心にしてのブルース・ブラーズ・バンドのライヴ。今回も十分に楽しませてもらった。R&Bを中心にブルース、ジャズの名作も次々に飛び出す、まさにライヴ・ジューク・ボックス。「Green Onion〜Peter Gunn〜Soul Finger」でオープニング、「Goin' Back To Miami」からショーは本格化し「Shotgun Blues」「Minnie The Moocher」「Sweet Home Chicago」で大きく盛り上がる。60年代のメンフィス・ソウルの名作中の名作、ウィルソン・ピケットの「634-5789」「In The Midnight Hour」、サム&デイヴの「Soul Man」ではダンス・ダンス・ダンス、エディ・フロイドもこのショーに加わっていたこともある。ライヴ終了後、バック・ステージでスティーヴと忌野清志郎の思い出話にふけった。(Mike M. Koshitani)


Popular CONCERT Review

「町田謙介」 7月13日 南青山/MANDALA   
 80年代から活動を続ける町田謙介が、新作『FUTURE BLUES』発売記念ライヴをおこなった。ブルースをベースに、ファンク、サザン・ロック、テックス・メックス、ジャズ、ボサノヴァ等のテイストも感じさせる音作りに接すると、どれほど彼が幅広い視点で音楽を捉えているかがわかる。この日はオリジナル曲に加え、ヴァン・モリソンの「ムーンダンス」、井上陽水の「PI PO PA」等も披露。原アーティストのキャラクターの濃いナンバーを、すっかり町田節に衣替えしてしまった。艶やかで張りのある声が気持ちいい。今後、さらにさらに人気が高まることだろう。ナポレオン山岸のギター、関根真理のドラムス等、町田の歌声を巧みに引き立てるサポート陣も見事だった。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「アリッサ・グラハム」 7月15日 COTTON CLUB  
 新作『エコー』をこの春に発表したアリッサ・グラハムが初来日した。バックは、作品のプロデューサーでもあるジョン・カワード(p,vo)、彼女のよきパートナー、ダグラス・グラハム(g)、リチャード・ハモンド(b)、ダン・リーサー(ds)という布陣。来日公演2日目ファースト・セットをCOTTON CLUBで聴いた。黒のタンクトップに緋色のスカート姿で登場した彼女は終始リラックスした様子で「Pictures Of You」「Arkansas」など新作からのナンバーを中心に11曲を歌った。ジョン・カワードのピアノ、ヴォーカルがよく溶け込んでいる。前半はステージと聴衆との距離がやや遠く感じられたが、6曲目のタイトル・チューン「エコー」あたりから徐々に彼女の世界へ惹き込んで、「バタフライ」「カミング・ホーム」とつないでじっくり聞かせ、最後にポール・サイモンの「アメリカ」で閉めた。ジャズ・シンガーとひとくくりにはできない彼女の多彩さが光ったステージで、ことにアンコールで歌われたボサノヴァ・ナンバーは秀逸だ。一時間ほどのステージだったが堪能させてもらった。(三塚 博)
写真提供/コットンクラブ 撮影/土居 政則


Popular MOVIE Review








「キャデラック・レコード〜音楽でアメリカを変えた人々の物語」
(配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)

 現在の音楽シーンを語る上で忘れることの出来ないのがシカゴのチェス・レコード、“南ミシガン通リ2120”の同地を何度も訪れたことがある。チェスは1950代から60年代にかけてブルース/R&Bの名作を多く発表、たくさんのビッグ・アーティストを送り出し、ロックンロール発展にも大きく寄与しながらアメリカのポピュラー・ミュージックの世界を大きく変革、60年代にはブリティッシュ・ミュージックにもこれまた多大なる影響を及ぼしたのだ。この作品は、そんなチェスの物語を、ビヨンセ扮するエタ・ジェイムズ(エッタ・ジェームス)をフィーチャーしながら楽しませてくれる。この夏一番の音楽映画だ。8月15日から、新宿ピカデリー、恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー。
 そして、同作品公開を機にオリジナル・サウンドトラックのデラックス・エディション『キャデラック・レコード〜音楽でアメリカを変えた人々の物語』(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2290〜1)も登場。ビヨンセがオバマ大統領就任記念パーティーで歌い上げた「アット・ラスト」も収録されている。
 また、8月には映画に登場する楽曲のオリジナル・ヴァージョン16曲を収録した『ベスト・オブ・チェス・レコード〜キャデラック・レコード・オリジナル』(ユニバーサル ミュージック/UICY-1444)もリリース。マディ・ウォーターズ、リトル・ウィルター、ハウリン・ウルフ、チャック・ベリー、ボ・ディドリー、エッタ・ジェームスらの名曲がじっくりと味わえる。ローリング・ストーンズ・ファンも見逃せない内容なのだ。そう、映画にはストーンズも登場するのだ。(Mike M. Koshitani)


Popular MOVIE Review

「色即ぜねれいしょん」
(8月15日公開 監督・田口トモロヲ 原作・みうらじゅん 配給:スタイルジャム)

 みうらじゅんの同名自伝的小説を田口トモロヲが映画化。同コンビによる『アイデン&ティティ』から時代をさかのぼり、今回はボブ・ディランにあこがれロックな生き方をめざす京都の仏教系高校に通う高校時代のひと夏の冒険物語。現実の大人社会の建前や嘘にほんろうされながらも音楽を武器にまっすぐに生きようとする高校生たちの姿がまぶしい。リリー・フランキー、岸田繁(くるり)、峯田和伸(銀杏BOYS)といったユニークなキャストのなかで、主役に抜擢された渡辺大知(黒猫チェルシー)という若者がなかなかの存在感をみせている。(広田 寛治) 
写真 (C)2009色即ぜねれいしょんズ http://shikisoku.jp


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「洋楽ROCK復活宣言!!西洋ROCK史〜THE BEATLES編〜」
 1960年代〜70年代にかけてのROCKの世界を生の証言とトリビュート・バンドのライヴで展開する音楽イベントがスタート。第1回目はザ・ビートルズ。65年から70年まで毎年彼らにインタビューした星加ルミ子をメイン・ゲストに迎え、B4のリアルな話しをじっくりと聞かせてもらう。そして、ビートルズ・トリビュート・バンドとして知られるTHE BEATVOXのライヴも楽しみ。そのほか、Mike Koshitaniやコンク勝二も出演。(KU)
*日時:8月23日17時開場 18時開演
*会場:パセラリゾーツ銀座BENOA
*お問い合わせ:パセラリゾーツ銀座 0120-759-418
http://www.pasela-ginza.com/


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「山中千尋」
 ジョージ・ベンソン、ナンシー・ウィルソンやレイ・ブラウンほか多くの著名ミュージシャンとも共演している山中千尋は、ニューヨークをベースにして精力的に活動している。彼女のピアノはまさにジャズ、発表するアルバムごとに新たな世界を次々に作り出していく。そんな千尋がBillboard Live に初出演が決定した。BLのステージはまさにビッグ・アップルを思わせるだけに、彼女のエモーショナルな演奏により大きな期待を寄せてしまう。楽しみだ。(YI)
*9月3日 4日 Billboard Live TOKYO 2回公演
お問い合わせ:03(3405)1133 http://www.billboard-live.com/
*9月5日 Billboard Live OSAKA 2回公演
お問い合わせ:06(6342)7722 http://www.billboard-live.com/

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「エディ・パルミエリ」
 エディ・パルミエリが自己のグループ、LA PERFECTA IIを率いて2年ぶりにBlue Note TOKYOに登場する。日本流に言えば古希を過ぎたというのに、今なお世界中を精力的に楽旅してファンをうならせている。今年はすでに発表されているメンバーだけでもヴォーカル、トロンボーン、フルート、ティンバレス、コンガ、ボンゴなど8名、前回のクァルテット編成とはまたひとあじ違ったパワフルなニューヨーク・ラテン/サルサが期待される。(HM)
*9月22日〜26日 Blue Note TOKYO 2回公演
お問い合わせ:(03)5485-0088  http://www.bluenote.co.jp/

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「ジョイス」
 定番となったジョイスの来日。自身の活動に加えて、娘クララ・モレーノのアルバムをプロデュースするなど意欲的だ。毎年魅力的なゲストを伴ってファンを楽しませてくれるが、今年はジョアン・ドナート(p,vo)。トゥチ・モレーノ(ds)、ジョルジ・エルデル(b)、リカルド・ポンテス(fl,sax)とのコラボレーションも楽しみだ。「ジョアン・ドナートは私にとって子供の頃からのヒーローだった」というジョイス、今年はどのような演奏を聴かせてくれるのだろう。(HM)
* 9月27日〜10月1日 Blue Note TOKYO 2回公演
お問い合わせ:(03)5485-0088  http://www.billboard-live.com/

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「ルシア塩満 アルパ・アコースティック・コンサート」
 恒例となっている≪ルシア塩満 アルパ・アコースティック・コンサート≫、今年はペルーサ・タクナウ率いるロス・タクナウ。ペルーサは日本のフォルクローレ・ファンお馴染みの兄弟デュオ、ロス・インディオス・タクナウの息子&甥っ子。ルシアは91年にロス・インディオス・タクナウの来日公演のジョイントしたこともあるので、今回で親子二代にわたる共演となる。パラグアイと日本の架け橋として活動するルシア塩満のステージ、大いに期待される。(MK)
*10月18日 14時 東京文化会館小ホール
お問い合わせ:東京音響 (03)3201-8116
オフィス・アルペシオ(03)3902-5355 http://www.arpalucia.com/

Classic ALBUM Review

「マーラー:交響曲第1番ニ長調《巨人》他/小澤征爾 指揮、サイトウ・キネン・オーケストラ」(デッカ、ユニバーサル ミュージック/UCCD-1244)
 小澤がこの曲を録音するのは3度目となる。このところの小澤の演奏にはフレージング、アーティキュレーションは勿論、音符の一つ一つに至るまでさすがといえる風格を感じる。今回のマーラーに関しても制御の効いた音楽の流れが心地よい。そして歌に満ちているこの曲で小澤は十分に感情をこめて叙情的な美しさを表現している。
 ただ強いて言えば、第4楽章の練習番号16から17のSehr gesangvoll部分等で聴かれる音程の不揃いに、このオーケストラが常設でない宿命をあらためて感じる。
 なお、最初に収録されているかわいらしいモーツァルトの交響曲第32番は明るく楽しい佳演と言えよう。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「マーラー:交響曲第7番ホ短調「夜の歌」/デイヴィッド・ジンマン指揮、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団」(RCA、BMG JAPAN/BVCC-10003)
 ジンマンとチューリッヒ・トーンハレによるマーラー交響曲全集の第7巻。独創的で卓抜な書法で作曲されているのに難解とされるこの第6交響曲を、ジンマンと気心の知れたオーケストラが正攻法で精緻に演奏している。楽譜を深読みするとか、強烈な感情移入をするわけではないのだが、丹念な研究、理知的で明晰な演奏設計と巧みな音響処理が作品の価値を明らかにする。とかく脈絡がなくて混沌とした印象をもたれがちな曲が、明確な意図のもとにくっきりと再現される。音の遠近法と音色の変化、鳴り響く空間が、SACD4チャンネルの優れた録音によって鮮やかに捉えられている。マーラーはどうも苦手という人にも、聴いてほしいCDだ。(青澤 唯夫)

Classic ALBUM Review

「メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲全集/マティアス・キルシュネライト(Pf)、フランク・ベールマン指揮、ケムニッツ・ロベルト=シューマン=フィルハーモニー管弦楽団」(アルテ・ノヴァ、BMG JAPAN/BVCC-40006-7)
 メンデルスゾーン生誕200年記念発売の1枚。このCDのセールス・ポイントは、かの有名なヴァイオリン協奏曲を完成させるために未完のまま残されてしまった3曲目(少年時代に作った曲を除く)のピアノ協奏曲を、メンデルスゾーンの研究家ラリー・トッドが補完して出来上がった初録音であろう。トッドはその第3楽章に何と同時期に作られたヴァイオリン協奏曲の第3楽章をピアノ用に書き直し当てはめてしまった。しかし未完成で終わってしまった曲を後に他人が完成させたもので成功した例は殆ど見あたらないのが通例であり、今回の場合もその例にもれない。しかし遍く有名なヴァイオリン協奏曲の最終楽章を当てはめたことは、それが曲想にある程度マッチしているためか奇異に感じない不思議がある。ヴィルトゥオーゾ・ピアニストだったメンデルスゾーンはどう考えるだろうか。
 キルシュネライトのピアノは熱演と言えるし、日本では初めて名前を聞く人も多いであろうベールマン指揮のドイツ・ザクセン州のオケ、ケムニッツ・ロベルト・シューマン・フィルも佳演。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「モーツァルト:オーボエ四重奏曲、ブラームス:弦楽六重奏曲第1番、サン=サーンス:動物の謝肉祭/サイトウ・キネン・オーケストラ・チェンバープレイヤーズ」(デッカ、ユニバーサル ミュージック/UCCD-4221)
 今や世界でも大変有名な小澤征爾率いるサイトウ・キネン・オーケストラが生まれて今年で25年になるが、恐らくソリスト・クラスが最も多いとも言われるこのオーケストラは演奏家たちが多忙なため、メンバーがいつも同じではない。このCD(再発)は1995年に松本でのオーケストラ演奏会に出演するために集まった名手たちによる豪華な室内楽である。収録されている3曲の演奏はどれも即興的な組み合わせにしては素晴らしい。中でも宮本文昭(Ob)、徳永二男(Vn)、岡田伸夫(Va)、安田謙一郎(Vc)の演奏したモーツァルトの「オーボエ四重奏曲」は実に楽しい。その他の2曲にも現在日本や世界で活躍している人たち〈潮田益子(Vn)、今井信子(Va)、店村眞積(Va)、矢部達哉(Vn)、工藤重典(Fl)、カール・ライスター(Cl)、弘中孝(Pf)等〉がずらりと名を連ねており、演奏者たちも室内楽の楽しさの虜になっているようだ。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「ヴォルフ歌曲集/アンゲリカ・キルヒシュラーガー 他」(Sony Classical、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル/SICC-1165)
 アンゲリカ・キルヒシュラーガーは、ザルツブルク生まれの人気メゾ・ソプラノ。ウィーン国立歌劇場に「フィガロの結婚」のケルビーノを歌ってデビューして以来、リサイタルやオペラで幅広く活躍。グラミー賞をはじめ数々の賞を受賞しているほか、オーストリア政府からカンマーゼンガー(宮廷歌手)の称号を授与された。
 「アナクレオンの墓」に始まる当CDは、彼女が、リート伴奏の達人ヘルムート・ドイチュとともにヴォルフの名歌曲を録音したものだが、これは、スイスのラ・ドガーナ社からCD付き書籍として発売された音源からの抜粋で、「ゲーテ歌曲集」「メーリケ歌曲集」「アイヒェンドルフ歌曲集」他より全27曲収録。19世紀ドイツ・リートの頂点を作ったヴォルフの作品を、美しい響きに満たされた声と豊かな表情をもってのびのびと歌いあげている。その歌いぶりは素晴らしく、詩と音楽に対しての共感の深さもさることながら、現代女性らしい率直さも感じられ、実に魅力的。ヴォルフの歌曲を聴く楽しみを知るのにうってつけのアルバムといえる。(横堀 朱美)

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「チャイコフスキー記念・モスクワ放送交響楽団」 6月6、7日 ザ・シンフォニーホール
 オーケストラの名前は「チャイコフスキー記念」の称号が入っている。そこには祖国の大作曲家に対する尊敬の念とともに、ことチャイコフスキーの演奏にかけては、よそのオーケストラに一歩も引けをとらないという意気込みがあふれている。2日間にわたる演奏ではその意欲が遺憾なく発揮され、密度の高いものになった。細やかな感情やうねるような高揚感が響きに込められて、心底に迫った。中でも「交響曲第5番」は強烈なインパクトを与え、音楽監督のウレディーミル・フェドセーエフもすっかり満足した様子で、会場に沸き起こったブラヴォーに応えていた。「交響曲第4番」も緻密な仕上がりで、民族色豊かなボロディンの歌劇「イーゴリ公」より「ダッタン人の踊り」とともに印象に残った。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)

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「ジャン=マルク・ルイサダ・ピアノ・リサイタル」 6月16日 いずみホール
 ショパンのノクターンから7曲を選んで弾いた。その中で最もポピュラーな「3つのノクターン」(OP.9)は羽毛のようなタッチに包まれ、叙情性にあふれている。ルイサダは流れに悠々と身を任せて、ショパンの実像に迫った。「2つのノクターン」(Op.27)は、かげりの中に一瞬の美を浮かび上がらせて、絶妙な冴えをみせた。シューマンの「子供の情景」も情愛をこめて歌い上げた。ベートーヴェンのソナタ第23番「情熱」は、若手ピアニストにみられがちな激しさはなく、さらりとした運びである。これまでの洒脱なスタイルから一歩抜け出して、独自の境地に足を踏み入れた感がある。(椨 泰幸)
(撮影 樋川智昭)

Classic CONCERT Review

「ハノーファー北ドイツ放送フィルハーモニー」 6月21日 ザ・シンフォニーホール
 この放送オーケストラの首席指揮者を務める大植英次が、マーラーの「交響曲第9番」を振った。マーラー晩年の大作であり、彼の死生観が凝縮されている。最終楽章の消え入るようなフィナーレには、東洋哲学に通じるような静寂の趣があり、後に続くものたちへのメッセージが託されているようだ。雄渾な筆致で描かれた楽曲の前半は、彼の半生そのものとダブってみえる。大植は旋律に込められた複雑な意味を的確にとらえて、楽員たちに指示し、聴衆に伝えている。音楽は単に心の慰めだけではなく、省察の場であることも思い起こさせてくれた。ドイツ人は哲学的であるといわれるが、そのことを改めて感じさせた。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)

Classic CONCERT Review

「佐渡裕プロデュース・オペラ《カルメン》」 6月28日 兵庫県立芸術文化センタ−
 芸術監督の佐渡裕がプロデュースし、毎年好評のオペラシリーズが、今年は「カルメン」を取り上げた。ダブルキャストのうち、日本人キャストの方を観劇する。
 特筆すべきはジャン=ルイ・マルティノーティによる演出。パリ・オペラ座の総裁もつとめたベテランによる舞台は、原作、台本、楽譜をていねいに読み込み、作者たちの意図をきめ細かく再現した奥の深いもの。とりわけ、人物造型をはじめ、原作の色合いを取り入れているのが目立った。シルヴィ・ド・セゴンザックの衣裳も美しかった。総じて、ステージとしての密度の濃さは一級品だった。
 歌手陣では、タイトルロールを歌った林美智子の存在感、ドン・ホセ役の佐野成宏の美声に加え、ミカエラ役の安藤赴美子に将来性を感じた。これからが楽しみである。(加藤 浩子)
〈撮影:飯島隆、提供:兵庫県立文化センター〉

Classic CONCERT Review

「WASBE世界吹奏楽大会アメリカ・シンシナティ大会 フィルハーモニック・ウィンズ大阪」7月10日 シンシナティ大学音楽大ホール
 1999年に設立された日本で5番目にあたるプロ吹奏楽団の世界初デビューの演奏がアメリカ・シンシナティ市で披露され、その高い技術水準が世界中に認められ大成功を納めた。指揮者木村吉宏の他に、元会長のデニス・ジョンソンやグレン・プラィス、作曲家のデイヴィッド・ギリングアムやマーク・キャンプハウスなど4人の客演指揮者を迎えみごとな演奏であった。ことに委嘱した「遥かなる山」(長生淳)作の難解で高度な曲は、和の心を大切にしたと言う魂の籠もった熱演であった。終演後もスタンディング・オーべィションの拍手が鳴り止まず、熱狂的であった。設立から10年目の若いメンバーが多かった楽団だが、良くぞここまで鍛えあげたものだった。先輩格の東京佼成ウインド・オケに続く世界初演だったが、追いつき追い越せという勢いであった。これからの活躍が期待できる。(斎藤 好司)

Classic CONCERT Review

「長岡京室内アンサンブル 演奏会」7月13日 東京・浜離宮朝日ホール
 ドヴォルザークとスークの弦楽セレナードCDで2003年度の「ミュージック・ペンクラブ賞」を獲得した「長岡京室内アンサンブル (音楽監督:森悠子)」の東京演奏会を聴いた。嘗てパイヤール室内管弦楽団にも在籍していた森悠子によって97年に京都の長岡京に設立されたこのアンサンブルには、専門の指揮者がいない。しかしここにはフランスの古楽演奏スタイルをも熟知した森の理想が充ち満ちている。最初の「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」では、全員がフランス製のバロック弓を使い、第一楽章の出だしをアップボウで始めるなど、柔らかく洗練されたフランス・バロック風演奏を表現、また照明の京行燈的小道具が演出としては京都のアンサンブルとしての雰囲気を醸し出すことに成功。
 この日の目玉はプログラム最後のアルゼンチン20世紀の代表的作曲家、ヒナステラが書いた「弦楽のための協奏曲Op.33」。民族主義を基に現代作曲手法を取り入れた斬新な曲だが、演奏者にとっては可成りの難曲といえる。指揮者を持たないこのアンサンブルとしては尚更だろう。しかし今回の演奏では彼らの持つ優れた音楽性と技術に十分な練習が裏打ちされ、森の求めているヒナステラがまずは表現出来たのではないだろうか。(廣兼 正明)

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「マリエッラ・デヴィーア&ジュゼッペ・フィリアノーティ ジョイント・リサイタル」8月19日 午後6時30分 サントリーホール
 ベテランと新進、今のイタリア・オペラ界を代表するスター2人が、ジョイント・コンサートを開く。ソプラノのマリエッラ・デヴィーアは、イタリア出身のベルカント・ソプラノとして、並ぶもののない存在。一方テノールのジュゼッペ・フィリアノーティは、甘く輝かしい声と安定したテクニックで、またたく間に世界中からひっぱりだこになった魅惑のテノール。2人は2006年、新国立劇場中劇場で《椿姫》を歌い、絶賛を博して以来の共演だ。伴奏は、イタリア・オペラの名指揮者ステファノ・ランザーニ指揮の東京フィルハーモニーという豪華版。夏の夜の夢が体験できることだろう。(K)
8月19日 午後6時30分 サントリーホール。問い合わせ:ラ・ヴォ−チェ 03-3519-5005
URL:http://www.la-voce.net/

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「ミラノ・スカラ座《アイーダ》《ドン・カルロ》」9月4日〜17日 NHKホール他
 ミラノ・スカラ座がヴェルディの2つの名作を携えて来日、下記の日程で上演する。
アイーダ(NHKホール)9月4日午後5時、6日午後3時、9日午後6時、11日午後4時、指揮=ダニエル・バレンボイム、演出=フランコ・ゼッフィレッリ、歌手=ヴィレッタ・ウルマーナ、ホアン・ポンスなど▽ドン・カルロ(東京文化会館)9月8日午後6時、12日午後3時、13日午後3時、15日午後6時、17日午後3時、指揮=ダニエレ・ガッティ、演出=シュテファン・ブラウンシュヴァイク、歌手=ルネ・パーペ、ラモン・ヴァルガス、バルバラ・フリットリ、アンナ・スミルノヴァなど、お問い合わせはNBS(03−3791−8888)へ。(T)
(写真提供:日本舞台芸術振興会)

Classic INFORMATION

「ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団」 9月25日 午後7時 ザ・シンフォニーホール
 人気の若手女性指揮者、西本智美と共に来日。マーラー「交響曲第5番」の他に、モーツァルトの歌劇「後宮からの逃走」序曲、「ピアノ協奏曲第20番」(ピアノ=フレディ・ケンプ)を演奏する。第5番のアダージェット楽章は映画「ヴェニスに死す」で使われて有名になり、マーラーの愛や孤独が投影しているといわれる。ケンプはドイツ人の父と日本人の母の間に生まれた若手ピアニスト。お問い合わせはザ、シンフォニーホール(06−6453−6000)へ。また、関西では9月27日午後2時から神戸国際会館(078−230−3300)でもべートーヴェン「交響曲第7番」などを演奏する。(T)

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「美しさは響きなりB&W XT8」
 イギリスを代表するスピーカー専業メーカーB&Wに、リビングルームで音楽を最上の音質で聴かせることをテーマに作られたシリーズがある。XTシリーズがそれだ。スリムで省スペース。アルミ鏡面仕上げのエンクロージャーは室内に溶け込み同化するコンセプトだったが、傷が付きやすく歩留まりがあまりに悪かったため、生産を休んでいた。2009年、XTシリーズ待望の新展開が始まった。この新XTシリーズを紹介しよう。
 XT8は、シリーズの顔といえるフロアスタンディング型で、3ウェイ4スピーカー(ダブルウーファー、ミッド、ドームトゥイーターという構成)という構成。新にミッドレンジにはFSTタイプのケブラーコーンが採用されている。エンクロージャーはアルミだが、ヘアライン仕上げに変わった。XT2は、2ウェイのブックシェルフ。ノーティラストゥイーターとケブラーミッド/バスで構成、ウォールマウント用アダプターが付属、専用スタンドのFS-XTに取り付けることもできる。XTCはシリーズのセンタースピーカーで、ノーティラストゥイーターと2発のケブラーミッド/バスで構成される。写真資料によると、サブウーファーもスタンバイしている。つまり、オールXTのサラウンドシステムがシステムアップできる。
 先行して6月に日本市場に導入されたXT8を試聴した。ミッドレンジがB&W800シリーズにも採用されているFST(フィクスド・サスペンション・トランデューサー)技術によるエッジレスタイプで、ウォーブン(繊維)ケブラー振動板の5インチ(130mm)コーン型。ウォーブンケブラーは、防弾チョッキに使われる硬化樹脂を埋め込んだ合成アラミド繊維の織布である。パラレル駆動のダブルウーファーは5インチ(130mm)のペーパーケブラーコーン。ハイは、25mmのアルミニウムドームトゥイーターで、ノーティラスチューブローデッド形式である。
 スリムな形状は回析効果の抑制に効果が上がっていて、位相管理が行き届いて定位が鮮明、演奏がビジブルなこともXT8の特徴である。リビングを想定したXT8だが、ヴォーカルの描写力はまさに「リアルB&W」。スピーカーシステム間の奥まった高みに、シンガーが現れる。この自然で品格と成熟感のある美学は、B&W以外のスピーカーシステムでは味わえない。なお、XT8は前面バッフルの3つのポートの2つに発泡ウレタンのチューナーを入れてバランスをチューニングできる。(大橋 伸太郎)
■構成:3ウェイ4スピーカー、フロントバスレフ型
■使用ユニット:
■25mmアルミニウムドームトゥイーター、130mmウォーブンケブラーコーンFSTミッドレンジ、130mmペーパーケブラーコーンバス×2
■再生周波数帯域:34Hz~50kHz(-6dB)
■出力音圧レベル:86dB
■クロスオーバー周波数:360Hz,3.5kHz
■外形寸法:1155mm(H)×154mm(W)×200mm(D)~脚、台座を除く
■質量:24.5kg
■仕上げ:ブラッシュドシルバー(キャビネット)+ブラッククロス(グリル)
■価格:¥250,000(税込・1本)
■問合せ先:(株)マランツコンシューマーマーケティングB&Wセールス&マーケティングGP 電話03-3719-3481
http://bwspeakers.mzcm.jp/news/xt_series.html

Audio What’s New
TAD-CR1



TAD-M600
「日本発のスーパーハイエンド・・・TADのコンパクトスピーカーとモノラルパワーアンプ」
 昨年のCES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー、米・ラスベガスで毎年開催)に初出品され、日本のA&Vフェスタにも展示されたTADのコンパクトスピーカーとモノラルパワーアンプが正式発表された。TAD(Technical Audio Devices)は、パイオニアのプロオーディオ機器部門として1975年に発足、世界のレコーディングスタジオでプレイバックリファレンスとして高い評価を受け、PA用ドライバーはイーグルスの日本公演の音響を担った。2007年のスピーカーシステムReference Oneでハイエンド民生オーディオ機器に初進出、昨年パイオニアから独立、日本発のスーパーハイエンドブランドとして、内外で大きな注目を集めている。
●TAD-CR1(スピーカーシステム)
本機は、一昨年のMPCJ音楽賞オーディオ部門にて技術開発賞を受賞したTAD-R1の姉妹機である。一番のセールスポイントであるCST ドライバーとは、高音域を受け持つトゥイーターと、中音域を受け持つミッドレンジユニットを一体化した同軸ユニット。これはTAD-R1とまったく同じものである。真空蒸着という、非常にコストのかかる特殊な手法で成型されたベリリウム振動板を採用しているのが特徴だ。ベリリウムは振動電搬速度が速く、振動板として理想的な素材なのだ。20cmウーファーは新規設計ながら、これもTAD-R1に採用されていたテクノロジーに基づく。こうして外観上は2ウェイに見えるが、3ウェイというのが本機の形式である。美しいエンクロージャーもTAD-R1譲り。これもまた同様の手法でつくられており、非常に希少な木材を使い、手の込んだ鏡面仕上げが施されている。ブックシェルフ型と侮ることなかれ。そのサイズが信じられないほど雄大かつダイナミックなサウンドを聴かせてくれる。クリアーな高音域は、ヴァイオリンのヴィブラートを美しく響かせ、力強い低音域は、グランカッサを朗々と轟かせる。
■型式:位相反転ブックシェルフ型
■スピーカー構成:3ウェイ方式
■ウーファー:20cmコーン型、
■ミッド/トゥイーター:同軸16cmコーン型/3.5cmドーム型
■再生周波数帯域:32Hz〜100kHz
■クロスオーバー周波数:250Hz、2.0kHz
■出力音圧レベル:86dB(2.83 V/1m)
■最大出力音圧レベル:109dB
■適合アンプ出力:50〜200W
■定格インピーダンス:4Ω
■外形寸法:337W×627H×440Dmm
■質量:45kg
■発売:2009年11月中旬
■価格:¥1,942,500(1本・税込)

●TAD-M600(モノラルパワーアンプ)
写真では想像つかないかもしれないが、このアンプ、実は重量が90kgもある。つまりステレオ分2台で180kg。下手な関取も顔負けだ。これは、シャーシ下部に当たる黒い部分に鋳鉄を採用し(この部分だけで35kg)、ここが土台として作用することで、大きな質量による安定感と低重心をもたらすのである。入力から出力までフルバランス構成の回路は、1 段増幅方式で、正負対称性を重視。電源トランスも正負で個別に2基搭載する。他方、回路基板には、通信衛星などの高精度が要求される環境で通常使われるPPE(ポリフェニレンエーテル)を使用するなど、いわばベーシッ クな物量投入とハイテク技術の高度な昇華、融合によって本機は構成されているのである。定格出力は4Ωで600Wをギャランティーするが、そのスペック以上のパワー感と力強さが白眉だ。一方で、静謐なピアニッシモでのきめ細かなテクスチャーを聴けば、力で押し捲るタイプのアンプではないことはすぐにわかる。気はやさしくて力持ち。まさしくそんなパワーアンプだ。
■定格出力:600W/4Ω、300W/8Ω
■周波数特性:1Hz〜100kHz ±1dB
■定格歪率:0.03%以下(20Hz〜20kHz/4Ω,300W出力時)
■利得:29.5dB
■入力端子:XLR/220kΩ×1
■出力端子:専用大型ネジターミナル×2組(バイワイヤリング対応)
■外形寸法:516W×307H×622Dmm
■質量:90kg
■発売:2009年10月下旬
■価格 ¥2,625,000(税込)
■問合せ:パイオニア(株)カスタマーセンター(TAD相談窓口)TEL/0120-995-823
■TAD URL:http://tad-labs.com/
(小原 由夫)