2009年3月 

 
Popular ALBUM Review

「アメーバズ・シークレット/ポール・マッカートニー」
(ユニバーサル ミュージック/UCC0-3010)

 2008年度グラミー賞ノミネート2曲収録のライヴEP日本盤が緊急CD発売。ヒアミュージック移籍第一弾『追憶の彼方に〜メモリー・オールモスト・フル』の発売記念で2007年6月27日にハリウッドのアメーバ・ミュージックで開催されたシークレット・ギグからのライヴ音源4曲を収録。受賞には至らなかったものの、グラミー賞には「ザット・ワズ・ミー」が男性ベスト・ポップ・ヴォーカル・パフォーマンスに、「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」がベスト・ソロ・ロック・ヴォーカル・パフォーマンスにノミネートされた。ほかに「オンリー・ママ・ノウズ」「C・ムーン」を収録。ポールにとってのベストなライヴとは思えないが、ロック・シーンを盛り上げる業界の重鎮としての位置を感じさせる貴重なCDではある。(広田 寛治)

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「愛と青春の旅立ち/ブレイク」(ユニバーサル ミュージック/UCCS-1128)
 英国のクロスオーヴァー界で人気の男性4人組ブレイク。昨年9月にUKで発売され、すでに10万枚を超しているのがこの新作だ。5月にインタビューした時に、2作目はもっと若者向きにポップなものにしたいといっていたが、オペラやボチェッリで知られる曲などのほか、ロバータ・フラックや映画の主題歌なども加えて、すっきりと聴きやすい爽やかなアルバムとなり、一段と自信を付けた感じがする。イントロ代わりの自作は教会のドームに響くようなハーモニーで、続くビリー・ジョエルの大人の愛の歌は暖かい。タイトル曲やスティーヴンをフィーチャーした「クローゼスト・シング・トゥ・クレイジー」も聞き応えがある。格調高いポップ性が快い好盤だ。(鈴木 道子)


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「甘いKISS/ザ・ライオンハート・ブラザーズ」
(インペリアル=テイチクエンタテインメント/TECI-24552)
 昨年紹介させてもらったキャメラ(スウェーデン出身:ニュー・ロマンティック風♪)もそうだったが、同じく北欧はノルウェー出身のこの5人組も実に馴染み易いメロディーとわかりやすい曲展開(それもかつて耳に覚えのあるような)でこちらのツボをいやというほどに刺激してくれるのであまりに心地良く、とことん‘浸って’しまう。1966年〜1967年頃のビートルズのあのサイケデリックな感覚を思いっ切りポップにくるんだり(‘オルガン’の音色が60’s経験者にはたまらなかったりして♪)、時に楽曲によってはいわゆるソフト・ロックにもバブルガムにも感じられたりするかも。サウンドも丁寧によく作り込まれており行き届いた仕上がり。(上柴 とおる)

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「イッツ・ノット・ミー、イッツ・ユー/リリー・アレン」
(EMIミュージック・ジャパン/TOCP-66860)

 今どきのコナマイキな23歳女性ポップ・シンガーの2作目。デビュー作が世界中で250万枚も売れた後のプレッシャーなんぞどこ吹く風?でスッキリ迷いもなくあっけらかん。制作陣が何人もいた前作とは異なり今回はたった1人に全面依頼。それも昨今の注目株、ザ・バード&ザ・ビー(鳥と蜂で通称‘トリハチ’)のグレッグ・カースティンとは個人的にも嬉しい限りでグレッグならではのセンスが生かされた品のいいキャッチーなエレクトロ・ポップ・サウンドを軸にまとめられている。しかし音だけを聴いているとトリハチと勘違いしてしまいそうなほどに耳当たりは良いのに中身の方でまたまた‘やらかして’くれてるところがあってオン・エア出来ない曲が。。。<泣>(上柴 とおる)

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「トゥー・ホット・フォー・スネークス・プラス/カーラ・オルソン&ミック・テイラー」
(BSMF RECORDS/BSMF2117)

 4月に元ローリング・ストーンズ、ミック・テイラーのBillboard Live TOKYO & OSAKAでのライヴが決定した、日本公演は10年ぶり。その来日を祝してリリースされるのが本作。ミックと、これまたストーンズとも交流のあるカーラ・オルソンのふたりのライヴ・アルバム(『Live At Roxy』)とカーラ楽曲からミック・ジョイントのナンバーを2枚組にした、まさにライヴ・アンド・ベスト。もちろんストーンズとしてお馴染みの作品も収録されている。まさにブルージーなロックな世界。ギター・フリークにもたまらない内容だ。このアルバムをじっくりと楽しみながら4月のミック・テイラー・ライヴ・イン・ジャパンに期待したい。(Mike M. Koshitani)

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「クール・ナイト/ポール・デイヴィス」(BMG JAPAN/BVCM-35523)
 昨年4月22日、60歳の誕生日直後に急逝した、ミシシッピ州出身のシンガー/ソングライターの1981年のアルバムがデジタル・リマスター/紙ジャケットで限定再発。デビュー当初はやや泥臭い作風が特徴だったが、徐々に洗練され、77〜78年に「アイ・ゴー・クレイジー」が大ヒット。アリスタでの唯一のアルバムとなったこの作品では、「’65ラヴ・アフェアー」のような明るく弾けたナンバーをはじめ、極上のAORが楽しめる。今回初めて米オリジナル・ジャケットが採用、当時日本盤用に差し替えられた幻想的な風景写真が前面にカード封入された。唯一残念なのは、シングル・ヴァージョンや未発表曲等、ボーナス・トラックが全く収録されなかったことか。日米共に決して評価が高いとはいえないアーティストだが、その朴訥で優しい歌声に今一度耳を傾けてみてほしい。(森井 嘉浩)

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「エターナル・フレーム〜パーフェクト・ベスト/バングルス」(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2156 限定盤CD+DVD/SICP-2154〜2155)
 ベスト/エセンシャル企画に欠かせないアーティストとして定着しているバングルスの最新ベスト。過去の同様の企画と比べてさらに充実している点は、18曲を凝縮していることに加えて、スザンナのソロ・レコーディングやビデオ・クリップ4曲分を収録したDVDをカップリングしていること。彼女たちに先駆けてブレイクしGO-GO’sもそうだったが、60年代ポップスをベースにしたポップ感覚は、ノスタルジーというより普遍的な魅力として考えると今でもフレッシュで感動的だ。GO-GO’sのベリンダがそうであったように、スザンナのヴォーカル表現もポップ・ミュージックにふさわしい独自性を感じさせる。(村岡 裕司)

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「マルグリット/オリジナル・ロンドン・キャスト」
(ビクターエンタテインメント/VICP-64663

  『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』のアラン・ブーブリルとクロード・ミシェル・シェンブルクが、デュマ・フィスの悲恋物語『椿姫』を、ナチスに占領された第二次大戦下のパリに置き換えて作った話題のミュージカル。今回はシェンブルクではなく、『シェルブールの雨傘』等の巨匠ミシェル・ルグランが作曲を担当、2008年5月にロンドンで世界初演、2009年には日本とスペイン、2010年にはフランスで上演される。出演は悲劇のヒロイン、マルグリットに『レ・ミゼラブル』のルーシー・ヘンシャル、ほかにジュリアン・オヴェンデン、アレクサンダー・ハンソン等。「カム・ワン、カム・オール」「ジャズ・タイム」「デイ・バイ・デイ」等、全編にドラマティックな曲が溢れ、効果音を加えた録音でCDだけでも楽しめる。劇中の26曲に、舞台からカットされた曲のフランス語デモ録音を加えた全27トラック。因みに日本版の演出はロンドンと同じくジョナサン・ケント。出演者は春野寿美礼、田代万里生、寺脇康文ほか・・。 (川上 博)

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「モード・オブ・ブルー/クオシモード」(EMIミュージック・ジャパン/TOCT-26657)
 日本のグループだが世界のクラブ・シーンで人気を呼んでいるという。先日、青山のクラブでこのグループのライヴを聴き、圧倒された。ケニー・ドーハム、ジャック・ウィルソン、ホレス・シルバー、ウェイン・ショーターらブルーノートのジャズを素材に、モード手法も取り入れ、ホーンを加え、ラテン打楽器も用いて、サウンドとエキサイティングなリズムで勝負した新しいタイプのジャズだ。イタリーのファイ・ファイブなどと共に、世界を席巻するに違いない新世代の旗手になるだろう。「サヨナラ・ブルース」「ナイト・ドリーマー」など11曲を演奏している。(岩浪 洋三)

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「上々颱風12〜土民の歌〜」(M&Iミュージック/MYCD-30498)
 80年代末、ワールド・ミュージック・ブームがあった。いまいちそれに乗り切れなかった自分がいたことを否定できない。なぜかと問われれば、リズムに対するトゲトゲしたアプローチを感じたアーティストが多かったからだ。前身である“紅龍&ひまわりシスターズ”を経て、まさにそのただ中、90年エピックソニーよりデビューした彼らが、なぜ今サバイバルしているのか?という理由を見せつけてくれるような、快心の本作である。魂の流麗さ、清流さを感じるような演奏、歌唱は、その当時のWMの波の名残を感じさせない。白眉はローリング・ストーンズのカヴァー「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の日本語ヴァージョンだ。リズム&ブルースの咀嚼として、かなり面白い例になっているが、やはり肩の力が非常に抜けているのだ。(サエキ けんぞう)

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「アクロス・ザ・ユニバース/ジェイク・シマブクロ」(ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル/SICP-2166 限定盤CD+DVD/SICP-2164〜2165)
 ジェイク・シマブクロの名を全米に轟かせるきっかけとなったビートルズの「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」のニュー・ヴァージョンを含む待望のビートルズ・カヴァー集。シンディ・ローパーがヴォーカルで参加した「アクロス・ザ・ユニバース」、ヨーヨー・マ(チェロ)が参加した「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」など、スペシャルな曲も聴きどころだが、「ノルウェーの森」「アイ・ウィル」「イン・マイ・ライフ」「サムシング」などジェイクがウクレレ1本で奏でるビートルズの世界にはファンならずとも引き込まれ、心癒されるはずだ。DVD付限定盤には、「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」と「サムシング」の演奏シーンにフォーカスした特典映像が収録されている。(広田 寛治)

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「NEW STONE AGE/ドン・マツオ from ズボンズ」(DONUTS WORM/DOWA-10901)
 ズボンズのドン・マツオは、越境者だ。オルタナティブとロックンロール。ブレイクビーツ全盛の90年代のポップス業界で、彼のバンド・サウンド認識は、重要な位置を示していた。ソロとなると、ギターのディープさが、心地よい。やはりギタリストなのだ。リズム&ブルースの骨太さが、独特なラウドなリズムの切り込みに踊る。ストーンズでも有名なマディ・ウォーターズのカヴァー「Manish Boy」も、ごきげんにウルサイし、また、「Bill Wyman We Miss You」という、おそらく自らのアメリカツアーの思い出をポエトリーに語りおろした小品もリアルである。(サエキ けんぞう)


Popular ALBUM Review

「スカーレット・ピンパーネル」(宝_クリエイティブアーツ/TCAC-343-344) *2枚組CD
 月刊「ミュージカル」誌の2008年度ミュージカル・ベスト・テンで、ナンバー・ワンに選ばれた作品。1997年に初演されたブロードウェイ・ミュージカルの宝_版で、主演の安蘭けいは、同誌のミュージカル女優賞に、脚本・演出を担当した小池修一郎は演出家賞に選出された。共演は遠野あすか、柚希礼音ほか。「ジキル&ハイド」「ドラキュラ」等のフランク・ワイルドホーン作曲のミュージカル・ナンバーは「ひとかけらの勇気」「あなたこそ我が家」「あなたを見つめると」「君はどこに」等、素晴らしい曲揃い。公演ライヴCDで聴いても楽しいが、2枚組DVD (TCAD-217) もお薦めしたい。(川上 博)


Popular ALBUM Review

「15の宝石/VA」(ビクターエンタテインメント/VICL -63046)
 秋川雅史の「異国の丘」から、五木ひろしが歌う「傷だらけの人生」まで全15曲。吉田正 (1921-1998) のヒット・メロディーをビクターのオリジナル・アーティストではなく、主に他社の人気歌手たちの歌で収録した、珍しくもあり、貴重な珠玉のアルバム。フランク永井、松尾和子、マヒナスターズ等で馴染んでいた「夜霧の第2国道」は森進一、「有楽町で逢いましょう」はジェロ、「グッド・ナイト」は石原裕次郎、「東京ナイト・クラブ」は石原と八代亜紀、「誰よりも君を愛す」は長山洋子、「再会」は由紀さおり、「霧子のタンゴ」は菅原洋一で聴かれる。ほかに「おまえに」(ささきいさお)、「赤と黒のブルース」(ちあきなおみ)、「落葉しぐれ」(美空ひばり)、「弁天小僧」(坂本冬美)、「好きだった」(石川さゆり)、「潮来笠」(天童よしみ) 。懐かしさと斬新さに溢れる必聴盤。(川上 博)


Popular ALBUM Review

「四季/ローマ・トリオ」(ヴィーナスレコード/VHCD-1022)
 おなじみヴィヴァルディの有名な「四季」のジャズ化だが、同じイタリア出身のローマ・トリオなので、従来の「四季」のジャズ化にはあきたらなかった人も満足させる本格的なジャズ化で感心した。親しみやすい「四季」のテーマをまるで、スタンダード曲の旋律のように楽しく生かしながら、スインギーなピアノ・トリオ・ジャズを展開している。さすが同国人のジャズメンだけあって、イタリアン・バロック音楽とジャズとをみごとに同化してみせていて、この上なく楽しい。ルカ・マヌッツァ(p)、ジャンルカ・レンツィ(b)、ニコラ・アンジェルッチ(as)のレベルも高いが、とくにピアノ・プレイは秀逸だ。(岩浪 洋三)


Popular BOOK Review

「ハウリン・ウルフ ブルースを生きた狼の一生/ジェイムズ・セグレスト マーク・ホフマン著 新井崇嗣・訳」(ブルース・インターアクションズ)
 ローリング・ストーンズやエリック・クラプトンが敬愛する伝説のブルースマン、ハウリン・ウルフ(1910〜76)の待ちに待った本書が遂に登場した。吠える狼、ハウリン・ウルフの一生が本人へのインタビューをはじめ、多くの関係者の証言などを交えて実に克明に描かれている。彼の音楽、その生き様は1960年代から今日に至るまで、ブルースばかりではなくロックやヒップホップほか多岐にわたって大きな影響を及ぼしている。ブルースを愛するファンはまさに必読だろうが、ロックなサウンドが大好きな若いミュージック・フリークにも本書、そして彼の音源に触れて欲しい。特典としてハウリン・ウルフの代表作「モーニン・アッ ト・ミッドナイト/ライディン・イン・ザ・ムーンライト」のシングル・レコード(CDではありません)が!(Mike M. Koshitani)


Popular BOOK Review

「洋楽ヒットチャート大事典 〜チャート・歴史〜人名辞典/八木 誠 監修・著」(小学館)
 DJ/八木誠さんが1950年から50数年にわたる洋楽ヒットチャートを編纂、その膨大なるデータを重量感あふれる、まさに大事典を世に送りだしてくださった。ヒット・ソング・ファンには貴重な資料であり、音楽業界にとっても重要な記録である。本書ではそのチャートを基盤にして、ミュージック・シーンの動向、我が国の世相状況、邦楽のヒット曲もしっかりと記されている。そして、チャートに登場した2000を超すアーティストのプロフィールも大きな魅力だ。八木さんのレコード・コレクションから飛び出してきた数々のジャケット・ショットもたまらない。(Mike M. Koshitani)


Popular CONCERT Review

「ファイヴ・コーナーズ・クインテット」1月15日 Billboard Live TOKYO
 フィンランドで最も人気のある新世代ジャズ・グループだ。2005年にヘルシンキでトランペッターのユッカ・エスコラと親しくなり、数度の来日の機会には友情を温めていることもあって、個人的に応援してきた。今回は新作となる第2弾『ホット・コーナー』のリリース直後となる、クラブ・ライヴである。≪モダン・ジャズ黄金時代への憧憬≫を音楽性とする彼らは、ハードバピッシュ&ファンキーなサウンドをスタイリッシュに聴かせてくれた。アルバムにはヴォーカル、ヴィブラフォン、ストリングスも加わっているが、ステージではそれらを電気的に加えるわけではなく、あくまでアコースティック・クインテットでワーキング・バンドの魅力をアピール。フルハウスとなった観客の反応も良く、3年前の新鮮な興奮が甦るパフォーマンスとなった。(杉田 宏樹)
写真:Gousuke Kitayama


Popular CONCERT Review
「Experimental Sound & Art Festival」 1月21日〜25日 本郷/トーキョーワンダーサイト
 若手音楽家の発掘・育成するプログラム“Emerging Artist Support Program Music ”で入選した面々を集めたフェスティヴァルが開催された。僕が行ったのは初日の「虚像になるとき」、23日の「ゾルゲル音楽」と「ひびきあうイメージ〜光琳「紅白梅図」によるヴァリエーションズ」。個人的にはゾルゲルプロ演じる「ゾルゲル音楽」に嬉しさがこみあげてきた。“クナイフ”という自作楽器(大きなフラスコ型の容器に入った水を、尺八のように吹く)を担当する子安菜穂と、ボウルに入った赤い物体(スライム)をブロウする鈴木携人とのコラボレーション。背後では3箇所に分かれた洗濯ノリが、黒い布を突き抜けて勝手気ままに滴っている。トクトク、ポトン、ブブブブ、ズズズズ、ピタン。その“さま”に接して、我が目と耳は喜びの声をあげた。(原田 和典)
写真:武藤 滋生


Popular CONCERT Review
「チャールズ・トリヴァー・ビッグ・バンド」 1月23日 新宿/サムデイ
 アメリカで最も熱いビッグ・バンドが来日した。細かいアンサンブルなど気にせず、とにかく音を思いっきり出し、ガンガン盛り上げていくのが、このバンドの魅力。ディジー・ガレスピーやクリフォード・ジョーダンのビッグ・バンドが持っていた猥雑さ、くさみはここに生きている。トリヴァーの来日は1973年11月以来、約37年ぶり。あいかわらず気合の入ったトランペットを聴かせてくれた。他のソリストは盟友スタンリー・カウエル(ピアノ)、ビリー・ハーパー、ビル・サクストン、ブルース・ウィリアムス(サックス)、キーヨン・ハロルド、デヴィッド・ワイス(トランペット)等。ジーン・ジャクソンのドラムスも抜群だった。新曲を交えたステージは、まさしく完全燃焼のひとこと。男のジャズを満喫した。(原田 和典)

Popular CONCERT Review

「後藤幸浩×小濱明人」 1月31日 祖師谷/caf_ムリウイ
 昨年12月に発売されたCD『ミチノネ』は傑作だった。だから僕は彼らを生で聴きたくてたまらなくなってしまった。後藤幸浩と小濱明人。かたや薩摩琵琶の弾き語りで知られる(音楽評論家でもある)ベテラン、片や“歩き遍路 四国八十八カ所奉納演奏Tour”に挑んだ尺八の気鋭だ。演目は「五木の子守歌」、「平家物語」に題材を得た「波の下にも」、鹿児島だけに伝わるという小型尺八“天吹(てんぷく)”を用いた「テンノネ」などなど。バリバリの邦楽といっていいだろう。が、そこは、さまざまな音楽に造詣の深い両者だけあって、とにかくサウンドの風通しがいい。オープニングを飾った「開-KAI-」は、まるでハード・ロックとモード・ジャズの融合といった趣だ。(原田 和典)

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「ジョン・オーツ」 2月2日 Billboard Live TOKYO
 セカンド・ソロ・アルバム『1000マイルス・オブ・ライフ』リリース直後のジョン・オーツのクラブ・ツアー、ソロとしては初となるステージはアコースティックでジェントルな雰囲気をフィーチャーしながらも、やはり彼の得意とするところのソウルフルな音楽性が伝わってくる。オープニングは「レディー・レイン」、ということで前半はホール&オーツのナンバーが次々に登場。「サラ・スマイル」に新たな感動を覚えた。彼とはH&O来日時に伝説のソウル・バー≪ジョージ≫で何度か会ったことがあるが、その跡地のBillboard Live TOKYOでのステージということでその≪ジョージ≫の思い出も曲間で語っていた・・。新作からも「グッド・サン」「チェンジ・オブ・シーズン」「レイヴンス」「ゴースト・タウン」などを披露。メッセージ・ソングも含めて実に気骨あるところを感じさせた。東京初日のファースト・ステージでのアンコールは『1000マイルス・オブ・ライフ』から素晴らしい歌詞の「サークル・オブ・スリー」であった。(Mike M. Koshitani)  
写真:Gousuke Kitayama

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「ジェフ・ベック」 2月6日 東京国際フォーラム ホールA
 2006年以来の来日。ドラマーは前回、前々回と同じくヴィニー・カリウタだが、キーボーディストはベテランのデヴィッド・サンシャス、そしてベーシストは今回の目玉、タル・ウィルケンフェルド。ウィルケンフェルドはまだ20歳そこそこの女性だが、ルックスのかわいらしさとは裏腹に、パワフルなサウンドと圧倒的なテクニックを誇る。「ベックス・ボレロ」から始まるセット・リストは、何曲かの入れ替えはあったものの、前回とそれほど大きな違いはない。だが、変幻自在のベックのギター・プレイは、同じ曲でも演奏するたびに異なった表情を見せるから、ライヴ全体も変化に乏しいという印象にはまったくならない。テクニック的なことを言うと、今回はライト・ハンド奏法を多用しているのが目立った。アーミングや、それと絡めたハーモニクスなどを駆使しての“ジェフ・ベック奏法”はすでに完成の域に達しているが、そこにライト・ハンドを加えることでより進化し、ゾクゾクするようなスリリングさがいや増したように思える。また、終始本当に楽しそうにプレイをしていたことも特筆しておきたい。体じゅうを使って楽しさを表現するウィルケンフェルドのプレイぶりが、ベックにいい影響を与えているのではないかと思う。サンシャスにはまだ若干、楽曲に馴染めていない部分も見られたが、バンドが一丸となったときのグルーヴ感とテンションの高さは目を瞠るほど。それをバックにベックのギターが鳴り響くとき、国際フォーラムが異空間となった。(細川 真平) 
写真:Masayuki Noda

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「クレア&ザ・リーズンズ・ジャパン・ツアー“〜The Movie 2009〜”」 2月13日 渋谷CLUB QUATTRO
 メンバー5人全員が真っ赤なコスチュームで登場、エコーをかけたようなクレアの美しいハイ・トーン・ヴォイスが流れ出した途端、ステージは彼等の個性溢れる世界と化した。彼女のギターにパートナーのオリヴィエ・マンションのヴァイオリン、そしてキーボード、ヴィオラ、チェロを基本としたアコースティック編成もあり、ノスタルジックで暖かい空間が会場に漂う。クレアの声もCDで聞く以上にコケティッシュでキラキラとした輝きがある。「虹の彼方に」の旋律に“オバマ、オバマ”と繰り返す歌詞を載せた替え歌を披露したり、曲間になると「イパネマの娘」をいたずらっぽくつまびいては笑いをとるオリヴィエ。そのユーモアもあくまでも洗練されたウィットに富んだもの。ニューヨーク辺りのスノッブが好みそうな小粋なステージは、小粒ながら聴衆の心を最後まで捕えて離さなかった。(滝上 よう子) 
写真:Audrey Kimura/Tom's Cabin

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「エリック・クラプトン」 2月15日、18日 日本武道館
 1974年の初来日から数えて、じつに18回目の来日公演。間もなく64歳の誕生日を迎えようとしているアーティストが、今年もまた、延べにして観客動員10万人規模のツアーを実現させた。全日完売とはならなかったようだが、それにしても驚くべき存在感である。不気味ですらある。もちろん、なかには『アンプラグド』的なものを求めている人も少なくないと思うが、クラプトンはおそらくそういったことのすべてを受け止めたうえで、ますます我が侭に、彼自身が気持ちよく感じることのできる音を追求していた。2004年以来、右腕的存在として行動をともにしてきたドイル・ブラムホールIIをフィーチャーする度合いをさらに増加させ、新加入のエイブ・ラボリエルJr.には文字どおり自由奔放に叩かせながら、多少のミスなど気にしないといった風情でギターを弾きまくっていたのだ。選曲も、ますますコアな内容になっているという印象。ギターの色(ブルー)が似合っていないなと思ったこと以外、僕としては満足できる内容だったが、だからこそといった感じで、ロビー・ロバートソンとの共演ということになるらしい新作の行方が気になってしまった。(大友 博) 
写真:ニシムラユタカ


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「リタ・クーリッジ」 2月16日 COTTON CLUB
 リタ・クーリッジは1970年代を代表する女性歌手の一人だが、35年前の初来日以来いく度もライヴを行っている。近年はクラブ出演が多く、今回はヴァレンタイン・ナイトを彩るスターとしてコットン・クラブに登場した。4人のバック・バンドを伴い、リラックスした4ビートのジャズやドラマのある「フィーヴァー」など安定感があり、全体にデルタ・レディらしいサザン・ホスピタリティのあるゆったりとした暖かさが心地よい。が、ボサ・ノヴァや選曲にやや難があり、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は歌い過ぎか曲の魅力が出ず、声に年齢の限界も感じられた。それでも「ウィー・アー・オール・アローン」など涙する客もあり、ロマンティックな愛の歌でアット・ホームな一夜が楽しめた。(鈴木 道子)


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「マーク・マーフィー」 2月17日 COTTON CLUB
 最近は広くロック、ヒップ・ホップなどのファンにも支持されていて、フィンランドのファイヴ・コーナーズ・クインテットの新作にゲスト出演して元気なところを見せているジャズ・シンガー、マーク・マーフィーの昨年に続く来日の初日を聞いた。今回の伴奏陣は、ヴィニー・ヴァレンティーノ(g)、ボリス・コズロフ(b)ウィラード・ダイソン(ds)という若手トリオ。ギター・トリオでの来日は初めてだ。巨体をそろそろとステージに運んだ彼は、中央の椅子にどっかと腰掛けたままで「ナイト・アンド・デイ」からアンコールの「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・スィングス」までコール・ポーター・ナンバー7曲をいつものような独創的なヒップな節回しで歌った。無伴奏でヴァースから入る「アイ・ラヴ・ユー」が圧巻だった。不満といえば曲の構成がワン・パターンだった事だ。顔の表情、体の動きからは老齢を感じさせ健康状態が心配される。(高田 敬三)


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「菊田俊介」 2月21日 渋谷クロコダイル
 シカゴで活躍する敏腕ブルース・ギタリスト、菊田俊介のジャパン・ツアーから東京公演を堪能した。卓越したテクニック、グルーヴから本場で鍛えられた凄さがダイレクトに伝わってくる。最新作『Rising Shun』から「The Stumble」で幕開け、同作品集からのナンバーを中心に菊田のギターが早くも冴え渡る。ビートルズ・カヴァー「Yer Blues」、『RESPECT THE STONES』からのローリング・ストーンズ・チューン「Miss You」も披露。B.B.キング作品「Everyday I Have The Blues」も観客をうならせた。セカンド・セットは「Let’s Jam〜Wipe Out」で開始、ビル・ウィザースの「Ain’t No Sunshine」は見事だった。「The Sky Is Crying」「Shaky Ground」ではゲストにichiro(gtr)と鮫島秀樹(bs)。Shun & ichiroのギター・バトルが会場をいっきにヒート・アップ。鮫島のベースもベテランらしく実にドラマティックだ。宇都宮出身の菊田の代表作「餃子Blues」では観客もシャウト。アンコールでの「I Can’t Stop Loving You」、ichiroが再び加わった「Sweet Home Chicago」も素晴らしい出来映え。シカゴ/サウスサイドの夜を彷彿とさせるようなブルース・ナイトだった。(高見 展)


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「エリック・クラプトン&ジェフ・ベック」 2月22日 さいたまスーパーアリーナ
 クロスロード・ギター・フェスやロニー・スコッツでのライヴなど、近年、あらためて交流を深めてきたクラプトンとベック。≪三大ギタリスト≫という日本的フレーズの是非は別として、ともかく、そのうちの二人が同時期に来日公演を行なうことが発表された時点から噂されていた≪奇跡の共演≫が現実のものとなった。いろいろと紆余曲折があったらしく、年明けの発表になってしまったにもかかわらず、さらにはティケットが高価だったにもかかわらず、スーパーアリーナは両日ともほぼ満員。公演時の満年齢は、二人あわせて127歳! なんとも幸せな人たちである。まず、ベック、クラプトンの順でそれぞれの単独公演の短縮ヴァージョンを披露し、クラプトン・バンドにベックが加わる形で目玉の共演を聞かせるという構成。40以上も歳の離れたキュートな女性ベーシスト、タル・ウィルケンフェルドを迎えてから明るさを増した感じのベックは、終止、笑顔で、時には派手に客を煽りながらギターを弾きつづけ、彼女と二人羽織のようなベース連弾まで聞かせた。単独公演の時よりバンドの音が落ち着いてきたなという印象を受けたクラプトンのセットのあと、いよいよジョイントに突入。クラプトンにとってはクリームの再結成やウィンウッドとの共演とは別次元のものだと思うのだが、二人はともかく「難しいことは抜きで」、ブルース中心のセッションを楽しんでいた。個人的には、カーティス・メイフィールドの「ヒア・バット・アイム・ゴーン」をこのセットで聴けたことが嬉しかった。(大友 博)
写真:ニシムラユタカ


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「OFF THE WALL〜PINK FLOYD SPIRIT〜 光と映像とサウンドが織り成すパフォーミングアートの世界!」
 プログレッシブ・ロックの雄、ピンク・フロイドの世界が甦るロンドンからの舞台がやって来る。ピンク・フロイドの幻想的で煌びやかな世界が、音と光を屈指したライヴ・ステージとして展開されるのだ。彼らの代表曲が次々と登場していく中で、壮大なスケール感をダイレクトに伝えながらそこにはサイケデリックでプログレなスペクタクル・シーンがオーディアンスを直撃する。そのステージはイギリスはじめヨーロッパで高い評価を得ている。(K)
*3月13日 東京国際フォーラム ホールA
*3月14日 川口総合文化センター リリア 
*3月15日 昭和女子大学人見記念講堂  13時と17時の2回公演
*3月16日 すみだトリフォニーホール 
お問い合わせ:テイト・コーポレーション 03-3402-9977
http://www.tate.jp/offTheWall/info.html


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「西仲美咲(Fl) meets STONES」
 沖縄出身の女性フルート奏者、西仲美咲はここ数年、都内のジャズ・スポットで精力的に活動。気鋭のニュー・カマー・アーティストとして人気を呼んでいる。そんな彼女のジャンルにこだわらないボーダレスなミュージシャン・マインドは、グルーヴ感あふれた演奏ぶりで見事に発揮されている。西仲美咲の本格的なストーンズ・サウンドへのチャレンジが、江古田マーキーで実現する。ゲストは我が国のナンバー・ワン・ストーンズ・トリビュート・バンド、THE BEGGARSのギタリスト、ロニー・テイラー・ジョーンズ。(I)
*3月20日(金曜・祝日)開場18時30分 開演19時
*会場:江古田マーキー 03-3994-2948
*出演:西仲美咲クァルテット
後援はミュージック・ペンクラブ・ジャパン 
お問い合わせ:マーキーエンタープライズ 03-3952-7922(10:00〜17:00) 
http://www.marquee-jp.com/


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「JAPAN BLUES & SOUL CARNIVAL 2009」
 5月はやっぱりブルース&ソウル・フェスティバル!今回のメインは13年ぶりの来日、ロバート・クレイだ。ブルースの後継者として我が国でも人気は高い。そして映画『Ray』にも出演していたクリス・トーマス・キングも登場する。日本代表はウシャコダと、大西ユカリのソロ・プロジェクト/YUKARI's Got A Brand New Warld。(M)
*5月21日 大阪/なんばHatch ロバート・クレイ・バンド クリス・トーマス・キング 大西ユカリ
*5月22日 名古屋/ボトムライン ロバート・クレイ クリス・トーマス・キング
*5月23日 仙台/ZEPP Sendai ロバート・クレイ
*5月24日 東京/日比谷野外音楽堂 ロバート・クレイ クリス・トーマス・キング ウシャコダ 大西ユカリ
お問い合わせ:M&Iカンパニー 03-5453-8899 
http://www.mandicompany.co.jp/


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「アラン・トゥーサン」
 1950年代からニューオーリンズのR&Bシーンで活動するアラン・トゥーサンのBillboard Live公演が決定した。彼は60年代からはソングライター、アレンジャーとしても多くのアーティストを浮上させた。ロック・ミュージシャンとの交流でも知られ、我が国でも幅広いファンの支持を得ている。ストーンズ・ファンだって彼に注目しているのだ。1998年にはロックンロール・ホール・オブ・フェイムの殿堂入りを果たしている。(M)
*5月28日 Billboard Live OSAKA 2回公演
お問い合わせ:06-6342-7722 http://www.billboard-live.com/
*5月29日 Billboard Live TOKYO 2回公演
*5月30日 Billboard Live TOKYO 2回公演
お問い合わせ:03-3405-1133 http://www.billboard-live.com/


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「MR.BIG来日公演」
 既に伝説と化した感のあるMR.BIGのオリジナル・メンバーによる来日公演が決定した。89年のデビューから90年代にかけ、ウルトラ・テクニック・バンドとして名を馳せ、世界中に旋風を巻き起こした。2002年に日本での解散コンサートにより空中分解した。全米1位を獲得した「To Be With You」をはじめ数々の名曲とポール・ギルバート、ビリー・シーンによるツイン・タッピングなど、超ドハデなパフォーマンスは会場を大いに盛り上げてくれるだろう。(U)
*6月5日 北海道厚生年金会館 
*6月7日 Zepp Sendai
*6月9日 石川厚生年金会館
*6月10日 Zepp Nagoya
*6月12日 Zepp Fukuoka
*6月15日 グランキューブ大阪
*6月17日 広島/ALSOKホール
*6月18日 大阪厚生年金会館
*6月20日 東京/日本武道館 
お問い合わせ:ウドー音楽事務所03-3402-5999 http://udo.jp/


Classic ALBUM Review

「J.S.バッハ:ヴァイオリン協奏曲集/ユリア・フィッシャー(ヴァイオリン)他、アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ他」(ユニバーサル ミュージック/UCCD-1235)
 このところの若い女性ヴァイオリニストの中でも、このユリア・フィッシャーの活躍は目覚ましい。彼女は11歳でメニューイン国際コンクール・ジュニア部門での優勝をはじめ、その他の8つのコンクール(内3つはピアノ)ですべて優勝という驚くべき実績を誇る。このCDにはヴァイオリンの協奏曲3曲に加え「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲」も収録されている。バッハの得意な彼女は、4曲すべて速めのテンポで演奏しており、これが活気に溢れた彼女らしい新鮮なバッハ像を表現することに成功した。今回共演のソリスト、アレクサンドル・シトコヴェツキー(ヴァイオリン)とアンドレイ・ルブツォフ(オーボエ)は同年代の友人でユリアと実に気のあった演奏を聴かせてくれる。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「ブラームス&コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲/ニコライ・スナイダー(ヴァイオリン)、ヴァレリー・ゲルギエフ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」(BMG JAPAN/BVCC-31095)
 上記のユリア・フィッシャーより8歳年上のスナイダーが、今をときめくゲルギエフ、そして伴奏にかけては世界一であろうウィーン・フィルと協演したブラームスである。この演奏には美しい音が醸し出すほのぼのとした安堵感さえ感じられる。濃厚ではなく淡々とロマンを綴るスナイダーの演奏は、力んだ演奏では感じることが出来ない、ブラームスの美しい一面を表に出した見事な演奏と言えよう。これにはゲルギエフとウィーン・フィルのサポートの上手さも大きな要素になっている。近頃聴く機会が増えたコルンゴルトの曲も、彼らしい美しい音でこの曲の良さを十二分に引き出している。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「《モーツァルト・コントラスト》ピアノ協奏曲ニ長調K.414、ハ長調K.415、ニ長調K.537、幻想曲ニ短調K.397、ピアノ・ソナタ・イ短調K.310、ロンド・イ短調K.511、幻想曲ハ短調K.475、ピアノ・ソナタ・ハ短調K.457、アダージョ・ロ短調K.540、オリヴァー・シュニーダー(ピアノ)カメラータ・ベルン」(BMG JAPAN/BVCC-38503〜04)
 モーツァルトの長調のピアノ協奏曲と短調のピアノ独奏曲を対比させたユニークなCD。協奏曲の方はモーツァルト自身による弦楽オーケストラ版がエーリヒ・ヘーバルトをリーダーにピリオド・アプローチで演奏され、ピアノ独奏を引き立てる。1973年生まれの注目のピアニスト、シュニーダーのメジャー・デビュー・アルバムだが、ピアノは才気走らず、曲想を生かすべく健康的に、克明に弾き上げている。ハ長調協奏曲の緩徐楽章の落ち着いた丹念なタッチなど、誠実で聴き応えがある。短調作品を集めた独奏曲の方は彫りの深い内省的な表現で、このCDの企画意図が鮮明に打ち出されている。(青澤 唯夫)

Classic ALBUM Review

「ハープ協奏曲〜ハイドンへのオマージュ/グザヴィエ・ドゥ・メストレ(ハープ)、ド・ビリー指揮、ウィーン放送交響楽団」(BMG JAPAN/BVCC-31114)
 ウィーン・フィルのソロ・ハーピストを務めるグザヴィエ・ドゥ・メストレの最新作は、2009年に没後200年を迎えたウィーン古典派の祖、ハイドンへのオマージュ。しかし、ハイドンはご存知の通りハープ協奏曲を残していない。オリジナルはハイドンの有名な2曲のチェンバロ(ピアノ)協奏曲で、それをハープ用に編曲した(とはいえ、チェンバロのパートにほとんど変更は無く、ソロ楽器を置き換えただけだがノ)協奏曲や器楽曲のほか、グランジャニーの「ハイドンの主題による幻想曲」が収められている。優雅さと清らかさを兼ね備えた美しい音が、細やかな表情や濃密なニュアンスと相俟って、これらの作品に生き生きとした魅力を与えている。ベルラント・ド・ビリー指揮のウィーン放送交響楽団も実に見事で、ソロを一層ひきたてている。(横堀 朱美)

Classic ALBUM Review

「カタルーニャの響き−スペイン・ピアノ音楽作品集/大滝 俊(ピアノ)」(ディスク クラシカ ジャパン/DCJA-21009)
 大滝俊のデビュー・アルバム。モンポウの「内なる印象」(全9曲)をはじめ、アルベニス、ソレール、モンサルバーチェ、グラナードスなど、カタルーニャ出身の作曲家の佳曲を全8タイトル収録。確実な技巧を支えに、スペインのピアノ音楽作品の魅力を感興に富んだ運びで余すところなく伝えている。とりわけ、旋律の歌い口、リズムさばき、そして旋律やリズムの絶妙な「間」などのセンスの良さに注目したい。大滝は、桐朋女子高等学校音楽科を経てバルセロナのグラナドス・マーシャル音楽院で研鑽を積み、マリア・テレサ・モンテイスやアリシア・デ・ラローチャに師事。2008年スペイン音楽修士課程終了。同年7月、活動拠点を国内に移す。独奏や管弦楽との協演など、すでに国内外で活躍しており、今後の活躍が大いに期待されるピアニストである。(横堀 朱美)

Classic ALBUM Review

「《カリヨン/幸田浩子〜愛と祈りを歌う》カッチーニ:アヴェ・マリア、グノー:アヴェ・マリア、ヘンデル:オンブラ・マイ・フ、涙の流れるままに、マスネ:アヴェ・マリア、マスカーニ:アヴェ・マリア、ガスタルドン:禁じられた音楽、デラックァ:ヴィラネル、アルディーティ:くちづけ、ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ第5番-アリア、ラフマニノフ:ヴォカリーズ、ドンギア:カリヨン、アメイジング・グレイス/幸田浩子(ソプラノ)、ドンギア(ピアノ)、新イタリア合奏団」(コロムビアミュージックエンタテインメント/COZQ-358〜59)
 透明感のある美しい声で、カッチーニ、グノー、マスネ、マスカーニの「アヴェ・マリア」を清楚に歌ったかと思うと「オンブラ・マイ・フ」を格調高く歌い上げる。これらの曲をそれぞれの特質を生かして歌うのは至難だが、単調な歌い方にならず、よく歌い分けている。ドンギアが彼女のために作曲した「カリヨン」が作曲者のピアノとの協演で収録されているのも興味深い。デラックァの「ヴィラネル」の高度な技巧を凝らした名唱は文句なしに素晴らしい。すべてが生真面目に過ぎて、気軽に楽しめないのがわずかな難点だろうか。美しいヴィラ・マルチェッロで歌う幸田の映像が特典DVDに収められているのも素敵なプレゼントだ。(青澤 唯夫)

Classic CONCERT Review

「ワディム・レーピン・ヴァイオリン・リサイタル」11月30日 ザ・シンフォニーホール
 一回り芸域を広げて、レーピンは再び聴衆の前に姿を表した。円熟の境地といえば、到達点に登り詰めた、いわば静的な印象を与えるが、レーピンはまだまだ進化していくような、果てしのない動的な期待感をもたせる。そこにこの若きヴィルトオーソの魅力がある。ヴァイオリン・ソナタを3曲演奏したが、奏法は完璧で、解釈も心憎いほどである。ドビュッシーでは繊細なタッチで、印象派の世界を余すところなく描き出し、ベートーヴェンの「クロイツェル」では一転して火のような情熱をたぎらせて、完全燃焼した。プロコフィエフの1番では、哀愁と熱情が明滅する中で、ロシアの大自然と民族の魂を大らかに歌い上げた。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)

Classic CONCERT Review

「ファジル・サイ、パトリツィア・コパチンスカヤ協奏曲競演」12月2日いずみホール
 チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」を演奏したモルドヴァ生まれのパトリツィア・コパチンスカヤは、若さにまかせてぐいぐいと突っ走り、心のすくような爽快感が残った。もう少し余情をもって楽器を鳴らしたらよいのにと思えるところでも、思い切りよく滑走していく。ひたすら自分の感性を信じる。そのひたむきな姿勢に好感が持てた。やや荒削りのところは、もう一度研き直して、次回までに手直ししたらいい。
トルコ出身の若手ピアニスト、ファジル・サイはモーツァルト「ピアノ協奏曲第21番」を弾いた。明るさの中にもどこか一抹の不安がこの作品に漂っている。流れるような旋律に託して朗らかにうたい、転調によって巧みに明暗を引き出す。その自在のピアニズムは止まるところを知らず、モーツァルトの湧き出るような楽想を見事に描き切った。余りにも鮮やかな手腕のせいか、心にずしりとくる手応えが薄かったように感じられる。もっとも、これは無理な注文か。岩村力指揮の大阪センチュリー交響楽団は2人をよくサポートした。(椨 泰幸)
(撮影:樋川智昭)

Classic CONCERT Review

「ロジェ・ワーグナー合唱団」 12月6日 ザ・シンフォニーホール
 親しみやすい選曲。トレーニングされた合唱。団員のにこやかな表情。清潔な衣装。人なつっこいし指揮者ジャニーヌ・ワーグナーの動作。彼女が現れただけで、舞台は和む。人気を得る条件はそろっている。創立以来60年余り。伝統の重みは微塵も感じさせない。万事アメリカ的というところか。
 「おお、スザンナ」「夢見る人」などフォスターの名作や黒人霊歌などアメリカの生んだ傑作は、お手のもの。メンデルスゾーン「歌の翼に」はじめクラシックの佳品も上質の仕上がりである。楽しそうな歌声に飲み込まれてしまいそうだが、よく聴くと、リズムやメロディ、感情表現、パート間の微妙なニュアンスなど細部に至るまで、実によく練り上げられている。肩肘張らずに、さりげなく歌うように感じさせる。いわば自然体の持つ底力。ここに合唱団の凄みがあると感じた。(椨 泰幸)
(写真提供:ザ・シンフォニーホール)

Classic CONCERT Review

「新日本フィルハーモニー交響楽団 第441回定期演奏会/ハイドン:オラトリオ《天地創造》/ブリュッヘン指揮」 すみだトリフォニーホール 2月6日
 ハイドンがすっかり姿を変えた。こんなハイドンがあったのかと目を丸くするほどである。05年、07年と回を重ね、今回ブリュッヘンの狙いが見事に花開き手応えは大きい。題材はオラトリオ。日本人になじみ薄い宗教的世界、天地創造の物語がまるでオペラ舞台を見るように想像をかき立てた。ノンヴィブラートの新日本フィル弦5部に木管群が折り重なると、鳥たちの羽ばたきが目に浮かぶ。金管群も表情豊かだ。またソリストがすばらしく、朗々としたディヴィッド・ウィルソン=ジョンソンのバリトンによるラファエルは、そのレチタティーヴォが絵物語として展開。第3部では彼のアダムとマリン・ハルテリウスのイヴによる「失楽園」が驚くほど官能的な音楽を響かせた。天使ウリエルのジョン・マーク・エインズリーは歌にキャラクターを練り上げてほしかった。栗友会合唱団は最後に息切れしたのか、不揃いが惜しまれるものの、ドイツ語のディクションも上出来で格段の成果を上げた。(宮沢 昭男)

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「スティーヴン・イッサーリス・チェロ・リサイタル《アニヴァーサリー》」4月30日 午後7時いずみホール
 本年、生誕・没後を迎えた作曲家を記念して、チェロの名手がゆかりの作品を演奏する。ヘンデルの没後250年にあたり、ベートーヴェンの作曲した「ヘンデル<マカベウスのユダ>による12の変奏曲」の他、次の作品を弾く。R・シュトラウス没後60年を迎え「ロマンス」、メンデルスゾーン生誕200年を迎え「チェロ・ソナタ第2番」、ブロッホ没後50年「3つのスケッチ<ユダヤの生活から>」、マルティヌー没後50年「チェロ・ソナタ第1番」。使用する楽器は、日本音楽財団より貸与された1730年フォイアマン・ストラディヴァリウスで、ガット弦(羊の腸でつくる)を張っている。ピアノは新進コニー・シー。お問い合わせはいずみホール(06-6944-1188)(T)
(Photo:Tom Miller)

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「ピアニスト河村尚子、3月25日にBMGよりメジャー・デビュー」
 ミュンヘン国際コンクール第2位、クララ・ハスキル・コンクール優勝という実績を持ち、現在ドイツを拠点として活躍中のピアニスト河村尚子(かわむら・ひさこ)が3月25日に国際レーベルであるBMGのRCAレッド・シールでデビューを飾ることとなった。タイトルは「夜想〜ショパンの世界 河村尚子デビュー」。CD発売を期に紀尾井ホール(3/24)、兵庫県立芸術文化センター(3/28)、トッパンホール(4/2)、サントリーホール(6/3 フェドセーエフ指揮、モスクワ放送交響楽団と協演)で演奏会が行われる。
問い合わせは03-3797-9004(BMG JAPAN クラシック&ジャズ・グループ)へ。(H)

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「佐藤俊介ショーケース(記者会見)」 2月19日 新橋ビクター・ショールーム
 70年代生まれが既に中堅とも言えるヴァイオリンの世界で、80年前半生まれの逸材が続々と世界デビューを果たしている。既に「文化庁芸術祭レコード部門」の大賞を始め、多くの賞を得、4月15日にユニバーサル ミュージックからガット弦による「パガニーニ:24のカプリース」でメジャー・デビューを果たす佐藤俊介も、まさにその一人といえよう。今回CD発売に先駆け「佐藤俊介ショーケース」と題した記者会見が行われ、佐藤本人も有名な24番を含む3曲のカプリースを演奏し、その希有な音楽性を多くの来場者に披露した。(H)

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「音霊の詩〜ショパン:ノクターン集/遠藤郁子」(ハーモニー/HCC-2045〜6)
 ショパン・コンクール審査委員も務めたピアニスト、遠藤郁子の最新CDである。遠藤先生には個人的な思い出がある。映画『戦場のピアニスト』が評判になっていた頃、シスター(校長)とご親交のある鎌倉市の小学校にみえられ、講堂で生徒や父兄を前にオール・ショパン・プログラムのコンサートを開かれた。遠藤先生は帰り道に学校関係者の私邸に立ち寄られ、ショパンからフランス近代曲まで数曲をもう一度、スタインウェイで演奏された。弾き終えると遠藤先生は、そこに招かれていた私を振り向いて「何か聞きたい曲は。」と訊ねられた。「ベートーヴェンの30番が好きなのですが」「それ、どんなんだったっけ」「こういう出だしです」「ああ、あれか」。遠藤先生は、30番のソナタの第一楽章を暗譜で一息に弾き終わると、私を振り向いてニッコリ微笑んだ。私はこの時ほど、プロの演奏家の常人とかけ離れた凄さを感じたことはなかった。この『ショパン・ノクターン全集』は、遠藤郁子のライフ・ワークであるショパンのノクターン全20曲を演奏、2枚組に収録した。心の風景画のような1曲1曲に、大病を得てそこから再起した演奏家の明鏡止水の心境がオーバーラップした、澄明で味わい深い名演奏である。2008年の9月、東大和市民会館ハミングホールにてレコーディング。残響成分が豊かで輪郭が空気に柔らかく滲んでいく一方、一音一音の芯の充実した録音で、低音の重量感にも不足がない。ピアノにはカワイのコンサート・ピアノEXを使用している。(大橋 伸太郎)