2008年8月 

 
Popular ALBUM Review

「22ドリームス/ポール・ウェラー」(ユニバーサル ミュージック/UICI1072)
 英国盤の2枚組LPでは、トラフィックのデビュー作と同じレーベル・デザイン(通称ピンク・アイ)が施されているこの新作。いちばんの楽しみどころは、曲ごとに違うメンバーとのコラボで録音されている点だろう。これは今までのウェラーのソロ作にはなかった趣向であり、端的に言うならスタイル・カウンシル時代の名作『カフェ・ブリュ』を想起させる。当時のミック・タルボットの役割を果たしているのが、ギターにドラムスにと大活躍のスティーヴ・クラドック。詳しくは、魂入れて書いた日本盤のライナーを読んでいただきたい。(宮子 和眞)

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「レズ・ツェッペリン/レズ・ツェッペリン」
(エイベックス・マーケティング/CTCR14584)
 近年トリビュート・バンドによく出会うが、この女性ばかりのニューヨーク出身のレッド・ツッペリンTBのレッド、ではなくレズ・ツェッペリンには大きな衝撃を受けた。上手い、そして何よりLZを敬愛している気持ちがダイレクトに伝わってくるのだ。LZを手掛けたエディ・クレーマーがその素晴らしさに魅かれ、今作でも彼がプロデュースしている。「胸いっぱいの愛を」「ロックンロール」、そしてライヴ・ヴァージョンでの「移民の歌」など次々にお馴染みのナンバーが登場。ぜひとも彼女達のステージを体験したくなった。(Mike M. Koshitani


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「リミッツ・オブ・ザ・スカイ/ザ・ブリッジズ」
(ユニバーサル ミュージック/UCCV-1109)
 アナログ時代なら‘ジャケ買い’してしまいそう♪メンバーの写真だけを全面に出して背景もさわやかな一色のみというシンプルさ。女性のコスチュームもヘア・スタイルもそしてバンド名とタイトルのロゴも合わせて‘私らが何をやろうとしてるのかわかってちょうだい’てな電波がジャケットからも発せられており、聴けば思い通り(?)の音楽が流れて来て「やっぱり♪」。オープニング曲を若い番組スタッフに聴かせたら「コアーズみたいな感じ」(なかなかええ線ついてるかと)。年寄りは懐かしいフォーク・ロック風も思い起こすけど。。。所属がVerve Forecastというのにもそそられてしまう♪アラバマ出身の姉弟4人+従姉(リード・ヴォーカル)の5人組で全員が楽器を担当する。(上柴 とおる)

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「ストレンジャー(30周年記念盤)/ビリー・ジョエル」
(ソニー・ミュージック ジャパン インターナショナル/SICP1904〜6)

 日本に爆発的なビリー・ジョエル・ブームを起こした『ストレンジャー』がリリースされて30年。その記念盤は、CD2枚にDVD1枚という3枚組。いずれも懐かしくも瑞々しいビリーに改めて惚れ直してしまう。こういうピアノ・マンが今出てきたら、やっぱり沸き立つに違いない。若く自信満々で屈託のない姿勢にも魅了される。オリジナル『ストレンジャー』のリマスター盤は、さらにスッキリした魅力を打ち出した。それに77年の張り切ったカーネギーホールでのライヴ盤。DVDは若者に人気の英国TVスペシャルほか。充実したブックレットも英文・日本版とも読む興味が大きい。11月に来日する記念の枠を超えた内容がある。(鈴木 道子)

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「ディッキー・ベッツ&グレイト・サザン/ディッキー・ベッツ&グレイト・サザン」
(BMG JAPAN/BVCM-35370)
「燃え尽きたアトランタ/ディッキー・ベッツ&グレイト・サザン」
(BMG JAPAN/BVCM-35371)

 1976〜78年、オールマン・ブラザーズ・バンドが解散していた時期にディッキー・ベッツが結成したのが、ディッキー・ベッツ&グレイト・サザン。彼らの2枚のアルバムが、アリスタ・サザン・ロック紙ジャケ・コレクションの一環として再発された。カントリー色を強め、スワンプ・ロック、ゴスペルへも接近した内容だが、ツイン・ギター、ツイン・ドラムという編成からは、栄光のオールマンズへの郷愁も感じられる。その後ベッツは、二度のオールマンズ再結成に参加したが、最終的には袂を分かち、現在は再びグレイト・サザンを率いて活動をしている。(細川 真平)

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「HERE’S WHERE I BELONG〜The Best Of The Dunhill Years 1965-1967/P.F.SLOAN」(BIG BEAT/CDWIKD-277)*輸入盤
 日本では「孤独の世界」(1966年/69年に発売元移行で再発売)でしか一般的には知られていないがソングライターとしては1960年代を代表するヒット・メイカーとして大きな功績を残したスローンのダンヒル時代の音源集。最も‘旬’の時期だけにどの曲もハツラツとしており他のアーティストでヒットした楽曲の作者versionがいくつか聞けるのも楽しみ。曲順もそのままなのでダンヒルでの2枚のLPをそのまま2イン1かと思いきや2枚目の最後2曲がカットされてその代りシングルのみの楽曲が5曲追加で(悩ましいところではあるが)全27曲、限界ギリギリ78分♪ブックレットには日本盤シングルのジャケットも2枚掲載されているが「孤独の世界」が再発盤なのはちょっと残念。。。(上柴 とおる)

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「弾き語りパッション/井上陽水」
(フォーライフミュージックエンタテイメント/FLCF-4240

 
井上陽水最新アルバムは、昨年の全国ツアーにおけるアコースティック・ギターによる弾き語り演奏集であり、演奏曲のほとんどが70年代という陽水ファン必聴の1枚である。フォーク・ソング(死語かな)の原点である弾き語りという、ミュージシャンにとって本当の実力が問われる試練をアルバムとした本作品は、日本最高のコンポーザー、井上陽水が自分をさらけ出した渾身の力作だ。陽水は決してギターの巧いミュージシャンではないが、彼の最大の魅力である歌を邪魔せず、最大限に効果的な表現するためのアイテムとして上手いアレンジがなされている。また、長い付き合いの今堀恒雄のギターも好サポートで、陽水の歌を引き立てている。フォーク・ソング世代の方々、若き日を思い出してギターを手に取ってみては如何だろうか。忘れていた何か、今だから歌える歌が見つかるかも知れない。そんな原点回帰と陽水の名曲そして何よりも陽水のヴォーカリストとしての実力を再確認出来るアルバムである。(上田 和秀)

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「懐かしの洋楽ヒットS盤50〜ラジオ黄金時代/VARIOUS」
(BMG JAPAN/BVCM38074〜75)
「懐かしの洋楽ヒットL盤50〜ラジオ黄金時代/VARIOUS」
(ソニー・ミュージック ジャパン インターナショナル/SICP1846〜47)

 1950年代から60年代の人気音楽番組が、米RCA原盤を持つビクター・レコードの「S盤アワー」と、米コロムビアと契約していた日本コロムビアの 「L盤アワー」だ。それぞれのヒットが2枚組で50曲ずつ入っている。米コロムビアの日本発売権が68年に発足したCBSソニーに移行して以後、通販を除いてはオールディーズのコンピレイションで「L盤」という言葉が使われることはなかった。今回ソニーが「L盤」と銘打ったのは画期的で、それにふさわしい内容になっている。シェリー・シスターズの「セイラー・ボーイ」は世界初CD化だし、アトランティックスの「ボンボラ」など入手しにくい曲も入っている。ただ、「ローハイド」がモノラルのヒット・ヴァージョンなのに「OK牧場の決斗」や、ザヴィア・クガートの「マイ・ショール」はステレオ再録音で収録されているのは残念至極。「大脱走のマーチ」も擬似ステレオだ。「S盤アワー」のほうは発売権が変わっていないため、これまでにも同じようなCDが発売されているが、今回は擬似ステレオが少ないのが素晴らしい。しかし「S盤」のヒットとは関係ないポール・アンカの再録ヴァージョンが4曲も入っているのは納得できないし、アリダ・ケッリの「死ぬほど愛して」が、ヒットしたサントラ盤ではないのが欠点だ。願わくば、これが売れて、第2版で正しいもの に変えていけば、後世に遺せる素晴らしい企画物になるはずだ。(宮内 鎮雄)

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「Tribute To‘Twentieth Century Boys’」
(テイチクエンタテインメント/TECI-25484)
 8月30日から東宝系で全国一斉公開の映画「20世紀少年」(浦沢直樹原作の同名ベスト・セラー・コミックを実写映画化)に合わせて企画された‘トリビュート・アルバム’。主題歌にT・レックスの「20センチュリー・ボーイ」(権利はテイチク)が起用されたこともあり同社を軸に他社音源も数曲加えての洋楽全17曲。映画の時代背景が1960年代後期〜2000年代(長い!)ということでゾンビーズ「ふたりのシーズン」やブレッド「イフ」、スニッフ&ザ・ティアーズ「ドライバーズ・シート」(どさくさ紛れに?こんな曲を混入させるとは感激!)などに加えテイチクから出されたシャーラタンズやバウハウスらの新曲も、さらに主題歌はリミックスも含めて4versionも収録されるなど素通り出来ないユニークな内容。(上柴 とおる)

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「R!45/ヴァリアス」(ユニバーサル ミュージック/UCCU1177)
 40代半ばの音楽ファンが青春時代に愛聴した、70年代中期から80年代にかけての懐かしのヒット・ソング17曲を網羅。クインシー・ジョーンズ、ボーイズ・タウン・ギャングのディスコ・ヒットからTOTO、シャカタク、クルセイダーズ、そしてマイケル・センベロやルパート・ホームズほかバラエティーに富んだ選曲。CMでもお馴染みのナンバーも・・。洋楽が熱かった頃を想い出させてくれるコンピレーション・アルバム。専門的というかマニアックコンなコンピもいいけど、肩のこらないこういった内容の作品集ももっともっと!!(Mike M. Koshitani)

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「ノヴァス・ボッサス/ミルトン・ナシメント&ジョビン・トリオ」
(EMIミュージック・ジャパン/TOCP70542)

 MPBを代表するアーティスト、ミルトン・ナシメントとジョビン・トリオとのコラボレーションによる最新作。ボサ・ノヴァが世に紹介されて50年、ACジョビンへのオマージュ作品でもある。ジョビンの名曲を中心に据えながらも、「君がなれたすべて」「波止場」「午後」など自身のレパートリーを配して、所謂“ボサ・ノヴァ作品”とは一味違う仕上がりだ。包容力に溢れた歌唱は、「想いあふれて」や「ジェット機のサンバ」など聞きなれたはずのボサ・ノヴァ・ナンバーに不思議な新鮮さを感じさせる。(三塚 博)


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「ボサ・ノヴァ50/ヴェアリアス」(BMG JAPAN/BVCM38068〜9)
 ボサ・ノヴァ誕生50年を機に名盤が復刻されたり、不滅のナンバー集が登場したり、新たな吹込みが行われたりと音楽ファンにとっては嬉しい状況には違いない。50曲を収録したこの2枚組CDもそのひとつだ。DISC-1はジョビン・ソングブックがテーマ、なじみの曲を中心に25曲、演奏者もガル・コスタ、クアルテート・エン・シー、オス・カリオカス、ミルトン・バナナ・トリオ、アストラット・ジルベルト、小野リサなどおなじみの顔ぶれ。DISC-2はボサ・ノヴァ・スタンダード。「カーニヴァルの朝」「マシュ・ケ・ナダ」「トリステーザ」といった定番曲に、「春」「マリア・ニンゲン」「午前3時」など幾分か渋めのナンバーが並んで味わいを深めている。(三塚 博)


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「パークデイル/エリザベス・シェパード」(Pヴァイン/PCD-93152)
 エリザベス・シェパードはカナダ出身のジャズ・ピアニスト/シンガー・ソングライター。トロントで引張り凧だったが、今や活躍舞台を世界に移す存在になっている。カナダ、フランスで学び、音楽療法を仕事としているうちに、自分のソングライターの能力を見出したというが、聞きやすく洗練された曲作り。自作やオスカー・ブラウン、ガレスピー(アフリカン・リズムを配した演奏は聴かせる要素が大きい)等の変拍子もスムーズな乗りで、現代的な展開も面白い。ピアノ・トリオのまとまりもよく、ノラ・ジョーンズ系の歌声・演奏ともに知的でソフトだ。トランペットがいいメリハリを付けている。好演「パークデイル」ほか、ブラジリアン風も快い。(鈴木 道子)


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「ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガードvol.2/ポール・モチアンTrio 2000+2」
(ボンバレコード/ BOM25007)

 ビル・エヴァンスやキース・ジャレットのバンドに在籍した、などという話はどうでもいい。今のポール・モチアンこそ最新にして最強なのだから。スティック、ブラッシュ・プレイ共に輝いている。ドラムスがメロディ、リズム、グルーヴすべてを表現している。ドラム・ゴッド、モチアンの面目躍如だ。菊地雅章のピアノも狂おしいほど歌っている。ふたりが織り成す“音の会話”の親密さには嫉妬すら覚える。モチアンは健康上の問題で飛行機に乗れないしツアーも望めない。だから彼の息吹を生で浴びるにはニューヨークのジャズ・クラブに行くしかない。だが本CDを聴けば、日本にいながらにして最新型NYジャズに身を浸すことができる。この喜びを分かちあいたい。(原田 和典)


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「グレースフル・ヴィジョン/アキコ・グレース」
(コロムビアミュージックエンタテイメント/COCB-53723)

 アキコ・グレースによる久々の新作でニューヨーク録音。ラリー・クレナディア、アリ・ホニックと共演してのニューヨーク録音。芳香を放つ、磨かれた美しいピアノのひびきはジャズを超えた輝かしいピアノ・ミュージックであり、オリジナルとスタンダードが織りなすアルバムは構成もみごとで、ピアノによる組曲のような印象を与える。1曲目の「エバニセンス・オブ・サクラ」を聴いた時、ふっとロベルト・シューマンのピアノがよぎったが、10曲目で、シューマンの「トロイメライ」が演奏される。シューマンの曲は子供の頃から好きだったという。ロリンズの「ドキシー」は自由で奔放な演奏だし、ボーナス・トラックの「デランシー・ストリート・ブルース」は得意曲の再演。パワーとグルーヴィーなプレイに圧倒される快演だ。アキコ・グレースはさらに凄味を増してきたといえる。(岩浪 洋三)

 日本の主要賞を総なめにしている女性ジャズ・ピアニスト、Akiko Graceの10枚目となる新作は、5年ぶりのN.Y.録音。気心の知れた名手ラリー・グレナディア(b)に新進アリ・ホニック(ds)との新生N.Y.トリオは、タイトだが余裕のある演奏で、名前どおりグレイスフルなアルバムに仕上がっている。オリジナルに名曲がうまく組み合わされ、トータルなイメージを打ち出す。満開も散り様も美しい「エヴェネッセンス・オブ・サクラ」。ニュアンスのあるクリアな音が光に向かう「アプローチ・トゥ・サンシャイン」。モーツアルトの「ラクリモーサ」は宗教曲だが官能的でさえある。4分18秒の空白(間奏曲)を入れ、闊達な終曲で締めている。(鈴木 道子)


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「ナッシン・トゥ・ルーズ・フォー・ユー/日高憲男」
(ティートックレコーズ/XQDN-1013)

 大阪出身でシカゴ音楽院卒業の新進トランペッター、歌手である。クラシックからジャズに転向したが、比類なき音の美しさと情感に富む繊細な表現が持ち味だ。「アイ・リメンバー・クリフォード」に彼の傑出した才能がよく出ている。バラードとホットな演奏のどちらも優秀だ。また甘いソフトな歌も聴きもので、「ライク・サムワン・イン・ラブ」や「アイ・フォール・イン・ラブ・トゥ・イーズリー」などはちょっとチェット・ベイカー的味わいがある。留学生活が長かったので発音がいい。イギリス人の血が入ったクオーターでもある。(岩浪 洋三)

 吉祥寺の≪MEG≫で初めて日高憲男のライヴを堪能してから、その味わいのある演奏ぶり、そして歌いっぷりにいっきに引き込まれた。ソフィストケイトされたスウィートな展開の中に凄くファンキーなテイストを感じたのだ。そんな魅力はこのアルバムでも十分に表現されている。キース・リチャーズやチャーリー・ワッツでも知られるホーギー・カーマイケル作品「ザ・ニアネス・オブ・ユー」で始まり、「アイ・リメンバー・クリフォード」「アイ・フォール・イン・ラブ・トゥ・イーズリー」などエキゾチックな作品が続く。そしてハービー・ハンコック作品「ワン・フィンガー・スナップ」ではパワフルなトランペットを披露。これからの活動が実に楽しみなミュージシャンのニュー・アルバムだ。(Mike M. Koshitani)

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「Welcome to the Theater/井上芳雄 ミュージカル・セレクション」
(ビクターエンタテインメント/VIZL-279)

 『ウェディング・シンガー』『モーツァルト!』『ミス・サイゴン』『ミー&マイガール』『ルドルフ』等で大活躍、日本ミュージカル界の “プリンス” 井上芳雄の最新アルバム。『アプローズ』からの「ようこそ劇場へ」に始まり、前述の出演作からの曲は日本語で、まだ翻訳上演の無い『パレード』『フィニアンの虹』からの曲は英語で歌う。『バーナム』中の曲が井上ひさし作詞の「ぎくしゃくワルツ」となって、大竹しのぶとデュエットしているのは珍しい聴きもの。『ウエスト・サイド物語』の「マリア」を含む、全10曲。本人による解説とレコーディング風景を収録したDVD付。 (川上 博)

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「初美 愛の讃歌/小原初美」(Hatsumi Music/OHCD-2008)
 NHKステージ101出身で、現在はダンス音楽バンド≪初美&レガーロ≫のリーダーとして活躍中の小原初美の最新録音。曲は「見上げてごらん夜の星を」「真赤な太陽」「奥様お手をどうぞ」「ラストダンスは私に」「オー! シャンゼリゼ」「MOON RIVER」「ブルーライト・ヨコハマ」「すみれの花咲く頃」「キャバレー (初美は日本初演時に日本娘役で出演)」「最後のワルツ」他、全24曲。曲もリズムも多種多彩でダンサブル。30分2回の構成になっており、初美の上手い唄をじっくり聴くもよし、踊るもよし。パーティー用に好適な楽しい1枚。 (川上 博)


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「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」(配給:東北新社)
 ストーンズのア・ビガー・バン・ツアーから、2006年秋にニューヨーク/ビー・コン・シアターでのライヴが映画として完成。マーティン・スコセッシが監督。我が国では12月5日から公開される(7月26日からTOHOシネマズ六本木ヒルズ他公開劇場にて前売り券発売開始)。世界最強ロックンロール・バンドのパワフルなステージが見事なまでに再現されている。そして、何より会場が2000人キャパということもあって彼らのより生のステージングが体験できる。バディ・ガイ、クリスティーナ・アギレラ、ジャック・ホワイトらも共演。スクリーンからほとばしるグルーヴ感から、レコード・デビュー45周年を迎えたストーンズのステージが“まだまだ続くよ”ということを改めて実感させられた。(Mike M. Koshitani)
www.shinealight-movie.jp
写真:(c) 2008 by WPC Piecemeal, Inc. All Rights Reserved.
   (c)2007 by PARAMOUNT CLASSICS, a Division of PARAMOUNT PICTURES, SHINE A LIGHT, LLC and GRAND
ENTERTAINMENT (ROW) LLC. All rights reserved.


Popular MOVIE Review


「レス・ポールの伝説」
 レス・ポール、そうこよなくロックを愛する者、特にギタリストを一度でも目指した者であれば誰もが憧れたソリッド・ギターの名機それがギブソン・レスポールだ。この映画は、そのレス・ポールを開発し、その名を刻んだギタリスト、レス・ポール氏の歴史を綴ったものだ。先ずは何と言ってもストーンズ・ファンが大喜びするであろう、レス・ポール氏に呼ばれライヴにキース・リチャーズが飛び入りするシーンから映画は始まる。このセッション・シーンは、唯遊びに来ていたキースが本当に驚いているようだが、それ以上に同じステージにあがり演奏できることが何とも嬉しそうだ。バック・ミュージシャンからレス・ポール・チェリーサンバーストを受け取り“A”のブルースと言ってジャムが始まるのだが、キースが「ピック無しに演奏させるのか」と言うとまたもやバック・ミュージシャンが手のひらにピックを乗せて差し出す、なんという気の使い方だろう。それにしても主役二人の楽しそうな演奏につい引き込まれてしまうが、キースにこの美しいギターは似合わない!!!このシーンは、本編では日本のみで流れるらしく、音楽ファン必見である。
先にも触れたがこの作品は、レス・ポール氏の歴史を綴った物であり、彼のヒット曲と音楽業界に残した功績を有名ミュージシャンと共に辿っていくものであるが、ギター・レス・ポールの開発に関してはあまり触れて無く、彼が発明した多重録音等に重きを置いている。時代の流れやそれを写すシーンそしてこの映画の特徴である有名ミュージシャンのインタビューは、いかにもアメリカを思わせる作りになっている。ミュージシャンのインタビューの中で気になったのが、ジェフ・ベックだ。あのジェフ・ベックがカメラに向かって楽しそうに話をしているではないか、あれほどカメラとインタビューを嫌っていた彼が、60を越えると人間も変わるようだ。ただ何か問題があったのか、再三名前が出てくるエリック・クラプトンのインタビューが無いのは寂しいものだ。レス・ポール氏の話の中で一番興味があったのは、イギリスのミュージシャンの中で一番最初にレスポールを購入し持ち帰ったのは誰あろうキース・リチャーズで、その後にエリック・クラプトンやジェフ・ベックが続いたということだ。どうもレス・ポールのイメージがないキース・リチャーズが最初であったと言うことが、今回の映画の始まりにつながるような気がする。
ストーリーは、レス・ポールとメリー・フォードのヒット曲を中心に進むが、感慨深げに話をするレス・ポール氏の表情に短命だったメリーに対する愛情とレクイエムを感じた。それにしても93歳になった今でも、毎週月曜日にはライヴをやるエネルギーはどこから来るのだろうか、恐ろしい爺さんだ。ジャンルを越えて全ての音楽ファンそして人生に疲れている人に、是非見て欲しい映画である。レス・ポール氏の生きてきた歴史は伝説となったが、その伝説は今も尚続いている。(上田 和秀)
*8月23日からアップリンクXでロードショー!
http://www.ponycanyon.co.jp/lespaul/


Popular BOOK Review

「聖地ニューオリンズ 聖者ルイ・アームストロング/外山喜雄・外山恵子 著」(冬青社)
 日本が世界に誇るジャズ・アンバサダー、外山喜雄(トランペット、ヴォーカル)、外山恵子(ピアノ、バンジョー)夫妻が素晴らしい画文集をリリースした。1968年から73年にかけてのニューオリンズ滞在で撮影した1万点もの写真から厳選されたショットと、愛情あふれる文章が手に手をとって読者をジャズの桃源郷へ案内してくれる。カーニバルの風景、セッションの模様(キッド・オリー、ダニー・バーカー、パンチ・ミラー等)、教会でのゴスペルなど、どの写真も音が聴こえてきそうなものばかり。老いも若きも関係なく、被写体の誰もが生き生きとした表情で捉えられている。ニューオリンズへの思い、ルイ・アームストロングへの愛、ジャズへの熱いメッセージに溢れた夫妻の文章も感動的だ。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「ザ・ジャック&ジム・ショウ」 6月6日 新宿ピットイン
 ロカビリーの破壊的な再解釈を試みた“ショッカビリー”の元メンバーであり、80年代以降のNYアヴァンギャルド・ロック〜ジャズ・シーンでも大活躍。加えて音楽批評家・雑誌編集者としての前歴も持っているユージーン・チャドボーン(ギター、バンジョー、ヴォーカル)と、元マザーズ・オブ・インヴェンションのジミー・カール・ブラック(ドラムス)が久々に“ザ・ジャック&ジム・ショウ”を再開、来日した。6日はキャプテン・ビーフハート、9日はフランク・ザッパにちなんだステージを披露。僕は6日に出かけたが、ゆるゆるでよれよれのブルースが、時間の経過と共にボディ・ブローのように利いてきた。まるで酔拳をしているかのような一挙一動にも惚れた。(原田 和典)


Popular CONCERT Review

「こじゃず」 6月21日 築地本願寺/ブディストホール
 子供たち(親子連れ)にジャズを楽しんでもらおうという企画は、世界のいたるところで催されてきたはずだ。が、客席の全員が打楽器を持って音楽に参加し、ミュージシャンが物語の登場人物に扮して演技しながら演奏するという企画は前代未聞だろう。テーマは「浦島太郎」。日本人なら誰でも知ってるこの物語が、エンタテインメントたっぷりのジャズ・ミュージカルになるのだから面白い。もちろん、子供たちは大喜び。松本健一の尺八、西尾賢の三味線もジャズにぴったりハマっていたし、若い頃の浦島を角田ケン(つの犬)が、玉手箱が開いてからの浦島を古澤良治郎が演じるという、2大ドラマーの顔合わせにも贅沢な気分を味わった。 (原田 和典)


Popular CONCERT Review

「ピンキー・ウインターズ」 6月27日 神田/TUC
 一昨年暮以来、一年半振りにピンキー・ウインターズが来日した。日本では、今ひとつ知名度が低いが、アメリカでは歌手仲間から敬意を持ってみられているベテラン・シンガーだ。一月前のロスのジャズ・フェステイバルでもヘレン・メリル、アニー・ロス、マーク・マーフィーと並んで作曲家シリーズのコンサートで歌い、体調を崩したマーク・マーフィーの代役で自らの「ジェローム・カーン」に加え、急遽「コール・ポーター」もやった。そんな関係か、今回は、「アイム・イン・ラヴ」「ユーア・センセーショナル」などコール・ポーター・ナンバーを何曲か含め20曲のスタンダード・ナンバーを歌っていた。伴奏は、前回と同じ森田潔トリオ。初日で打ち合わせ不足もあったようだが、ベテランらしい、素晴らしいスイング感のある滋味豊かな歌を聞かせてくれた。日本では、若くて美人で可愛く歌えばよい、といった風潮があるようだが、こういう本物の歌を一人でも多くのジャズ・ヴォーカル・ファンに聞いて欲しいものだと思った。(高田 敬三)
Photographers:Hester+Hardaway


Popular CONCERT Review

「エグベルト・ジスモンチ・オーケストラ・コンサート」7月3日 東京/紀尾井ホール
 第24回≪東京の夏≫音楽祭2008のテーマは「森の響き・砂の声」。ブラジルに生まれ、アマゾンでの体験等によりワン&オンリーの音楽性を確立したジスモンチが、そのオープニング・アクトを務めるのは適任と言うべきだ。昨年、16年ぶりの来日ソロ公演で長年のファンに恵みをもたらしたあの感動が冷めやまないタイミングでの再来日。しかもオーケストラとの共演は、当然のことながらジスモンチの世界が音量/色彩の両面で拡大し、目の前に広がった。それにしてもジスモンチのピアノ演奏は他のどのピアニストにも求められない、圧倒的存在感に溢れている。こんな弾き方をする男をぼくは他に知らない。ギター・テクニックの豊饒さは言わずもがなだ。アンコールで演奏された自由でダイナミックな代表曲「フレヴォ」はまさに名演。沼尻竜典指揮・東京フィルの力演も特筆したい。(杉田 宏樹)
撮影:竹原 伸治


Popular INFORMATION
「ザ・フー 日本公演」
 ブリテッシュ・ロックの歴史を語る上で忘れることの出来ないザ・フーの公演が決定した。ストーンズとともに長い間来日しないグループだった。初来日は4年前、その際はロック・オデッセイへの出演で、単独コンサートは今回が初めてとなる。ピート・タウンゼント、ロジャー・ダルトリーを核として、ドラムスはリンゴ・スターの息子のザック・スターキーの予定。(K)
11月13日19時 大阪城ホール
11月14日19時 横浜アリーナ 
11月16日17時 さいたまスーパーアリーナ 
11月17日19時 日本武道館 
お問い合せ:ウドー音楽事務所 03-3402-5999 http://udo.jp/
*写真:Kentaro Kambe

Popular INFORMATION
「ネヴィル・ブラザーズ/The Neville Brothers〜Japan Blues & Soul Carnival 番外編」
 ニューオーリンズを代表するネヴィル・ブラザーズが12年ぶりに来日する。その迫力あるライヴは定評がある。久しぶりのジャパン・ツアーは、早くもR&Bフリークはもちろん幅広いジャンルの音楽ファンの注目を集めている。多くのロック・ミュージシャンとも交流を持つ彼らは、まさにアメリカ音楽の本道ともいえる。ステージと客席が一体となるホットなコンサートが期待される。(K)
10月26日18時30分 大阪/ウェルシティ 大阪厚生年金会館 芸術ホール
10月27日19時30分 名古屋/ボトムライン
10月28日19時 東京/JCBホール
10月29日19時 東京/JCBホール
お問い合わせ:M&I カンパニー  03-5453-8899  http://www.mandicompany.co.jp/

Classic ALBUM Review

「モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲全集、協奏交響曲/ジュリアーノ・カルミニョーラ(Vn)、クラウディオ・アッバード指揮、モーツァルト管弦楽団」(ユニバーサル ミュージック/UCCA-1081〜2・2枚組)
 2004年にクラウディオ・アッバードが、ボローニャで若い精鋭を集めて組織したモーツァルト管弦楽団と、1971年のチャイコフスキー・コンクールでセミ・ファイナリストだったカルミニョーラ(今年11月来日予定)との初のピリオド楽器による録音である。このCDの聴き所はカルミニョーラのモーツァルト音楽の解釈の初々しさと、その価値を高める抜群のテクニック、そしてアッバードの歳を感じさせない若々しさと、熟達した棒さばきにある。このところ見事なピリオド奏法を聴かせてくれるアンサンブルが増えてきたが、この演奏には完璧とも言える完成度を感じる。協奏交響曲に於けるヴィオラのダヌーシャ・ヴァスキエヴィチもカルミニョーラに一歩も譲らないソロを聴かせる。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「アルゲリッチ:2台ピアノのための作品集/チャイコフスキー:組曲「くるみ割り人形」(エコノム編曲)、ラフマニノフ:2台ピアノのための組曲第2番、4手のための6つの小品Op.11、ブラームス:2台ピアノのためのソナタOp.34b、ハイドンの主題による変奏曲Op.56b、プロコフィエフ:交響曲第1番(寺嶋陸也編曲)、ルトスワフスキ:2台ピアノのためのパガニーニの主題による変奏曲」 アルゲリッチ、ディーナ、モンテーロ、ジルベルシュタイン、レスチェンコ、ブロンフマン、トマッシ(ピアノ)」(EMI CLASSICS/ TOCE-56106〜7・2枚組)
 近年は別府にでも出かけない限りアルゲリッチの演奏に接する機会はめったにないだけに、ルガーノ音楽祭のライヴ録音は貴重だ。会場の熱気も伝わってくる。2台ピアノは実力の伯仲した名手同士の共演が面白いわけだが、選曲の巧さもあってマルタの卓越した表現に触発されて相方も健闘、2台ならではの魅力が活き活きと展開されている。「くるみ割り」は編曲者のエコノムの方がディーナよりも上手だったとか、共演者のなかでブロンフマンの力量が群を抜いているなあとか、いろいろな楽しみ方もできようが、曲目・内容ともに充実した出色のCDだ。(青澤 唯夫)

Classic ALBUM Review

「エトワールの夜〜プレイズ・ドビュッシー(ベルガマスク組曲、歌曲集、2つのアラベスク、前奏曲集、神聖な舞曲と世俗的な舞曲、他)/グザヴィエ・ドゥ・メストレ(Harp)、ディアナ・ダムラウ(Sop)、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団員」(BMG JAPAN/BVCC-31100)
 10年前、25歳でウィーン・フィルのソロ・ハーピストとなったドゥ・メストレはフランス、トゥーロン生まれ正真正銘の伝統あるフランスの伯爵である。これだけでも発売会社が「ハープの貴公子」としたこともうなずけるが、音楽、政治、経済など幅広い教養に裏打ちされた彼の音楽表現は、数多くの国際コンクールで優勝を重ねた実力と相俟って、まさに貴公子と言うに相応しい。初CDとなった今回の収録曲は、当然とは言えすべてお国ものドビュッシーである。ドゥ・メストレの演奏を聴くと、ハープの音色が彼の高雅な表現によって、まさに夢幻の世界を徘徊しているかのような錯覚に陥らせる。特に彼が奏でるアルペジオ奏法には幻想の極致を見る想いがする。 (廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「プッチーニ:歌劇《ラ・ボエーム》全曲 /アンナ・ネトレプコ(Sop)、ローランド・ビリャソン(Ten)他、 ベルトラン・ド・ビリー指揮、バイエルン放送交響楽団、バイエルン放送合唱団他」(ユニバーサル ミュージック/UCCG-1408/9・2枚組)
 今人気絶頂の二人、ネトレプコ(ミミ)とビリャソン(ロドルフォ)のコンビによるこの「ラ・ボエーム」は、2007年4月にミュンヘンで上演された時のライヴである。プッチーニで最も人気のある、最後には死んでしまう病身の弱々しそうな娘と貧乏詩人の純愛オペラだが、元気印の代表のようなネトレプコには、最初向かないのではないかとさえ思ってしまう。しかしこのCDを聴きはじめると、そんなことはまったく思考から消え去り、ネトレプコは聴く者に胸を病む可哀想な娘のイメージを定着させてしまう。CDはビデオではないから視覚からから入ってくる訳ではない。聴覚から入ってくるイメージがまさに弱い娘に成り果てているのだ。これこそ一流のオペラ歌手の証拠であろう。事実相手役ビリャソンとの相性も素晴らしいし、サポートの指揮者、オーケストラ、そして達者な脇役に恵まれて充実した「ラ・ボエーム」が完成した。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「デュカス:歌劇《アリアーヌと青ひげ》全曲/デボラ・ポラスキ(Sop)、ジェーン・ヘンシェル(Alto)、クワンチュル・ユン(Bass)他、ベルトラン・ド・ビリー指揮、ウィーン放送交響楽団、スロヴァキア・フィル合唱団 」(BMG JAPAN/BVCO-37450〜51・2枚組)
 パリ・オペラ座初来日で上演される「アリアーヌと青ひげ」にタイミングを合わせての発売である。昨年パリ・オペラ座で主役アリアーヌを演じ絶賛を博したドラマティック・ソプラノ、ポラスキが歌っていることがこのCDの第一のセールス・ポイントである。パリ生まれの俊英オペラ指揮者ベルトランド・ド・ビリーの印象派的色彩豊かな表現力、そしてウィーン放送交響楽団によるウィーンのオケ独特の上手いオペラ伴奏によってポラスキの見事な声に全幕を通して圧倒される。ヴーグナー・ディーヴァとしてもトップクラスのポラスキだが、このオペラでも彼女以上のはまり役を見つけることは難しいだろう。(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review

「ウィーン・フォルクスオーパー《ボッカチオ》」5月31日 東京文化会館
 「恋は優し、野辺の歌よ」 かつて浅草オペラでヒットした「ボッカチオ」は、純愛物語と思われがちである。だが、艶笑譚で知られる「デカメロン」の原作者ボッカチオを主人公に、作曲家スッペは恋愛の自由を高らかに謳歌して、間抜けな男たちへ痛撃を加えている。亭主の目を盗んで浮気を楽しむ女房たちもなかなか隅に置けない。
デカメロンを演じた女性歌手のアンティゴネ・パポウルスカ(メゾ・ソプラノ)は、きりっとした容姿と安定した歌いぶりで、「ズボン役」にぴったり。ボッカチオは男性であるが、この人気オペレッタには様々の版があり、声域もバリトンからアルトまで実に幅が広い。本公演では男役に女性を起用し、男性優位社会に一矢を報いたといえよう。恋人のフィアメッタ(ダニエラ・ファリー)との呼吸もよく合い、舞台に生気を与えた。  
亭主をほどよくあしらう女房たちは、なかなか才気があり、オペレッタの妙味をうまく引き出した。主役クラスが多いせいか、筋立てが錯綜して、焦点がややぼやけた。管弦楽団と合唱団はよく訓練されて、本場の魅力をたっぷり満喫させてくれた。指揮者のアンドレアス・シューラーはなかなかの実力者とみたい。(椨 泰幸)〈撮影:長谷川清徳〉

Classic CONCERT Review

「アンネ=ゾフィー・ムター&トロンヘイム・ソロイスツ」6月6日 フェスティバルホール
 ノルウェーのトロンヘイムに本拠を置き、創立20年の若々しいアンサンブルが、人気ヴァイオリニスト、アンネ=ゾフィー・ムターと来演した。メンバーは17人で全員弦楽器を弾き、指揮者を兼ねるムターのもとで、呼吸の合ったところをみせた。清新な気風にあふれるサウンドに、ムターも若々しく伸びやかに呼応した。
曲目の中では、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集「四季」にエネルギーが凝縮され、弦の持つ魅力を生き生きと発散させた。中でも「四季」の最後を飾る「冬」の第3楽章は、最高の出来であったと思う。アレグロの緊迫したテンポには、厳寒に耐える北欧の苛烈さを目の当たりにするようである。一転して「春」の響きに込められた陽光の晴れやかな喜び。ソロとアンサンブルは代わるがわる大自然を高らかに謳歌していた。(第50回記念大阪国際フェスティバル参加)(椨 泰幸)

Classic CONCERT Review

「ロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団」6月8日 ザ・シンフォニーホール
 ルネサンス、バロックのいわゆる古楽の指揮で定評のあるフィリップ・ヘレヴェッヘが、オランダ・アムステルダムを本拠地とするオーケストラと共にやってきた。古典派にも造詣が深く、モーツァルト作品だけに絞ったこの日の演奏は、奥行きが深く、気品に満ちていた。モーツァルト最後の交響曲となった第41番「ジュピター」は、堅固な構築で、多層な響きのなかに、広大な天界を髣髴とさせる。第40番も無駄のない筋肉質の仕上がりで、心の奥にしみこむ印象を残した。
フランス生まれの新進女性ピアニスト、リーズ・ドゥ・ラ・サールは、「ピアノ協奏曲第20番」を弾いた。繊細な情感が漂い、とりわけ弱音のタッチは絶妙である。全体を見通した造形にはやや難点があり、滑らかさに欠けるところも見受けられた。(椨 泰幸)
〈写真提供;ザ・シンフォニーホール〉

Classic INFORMATION

「マンデルリング・クァルテット 2008年日本ツアー」9月8日〜15日 名古屋、大阪、東京
 ドイツ西部のプファルツ地方の町、ノイシュタットを拠点とするドイツの中堅弦楽四重奏団「マンデルリング・クァルテット」の初来日に先立ち、6月26日にドイツ文化センターに於いてクァルテットのチェリスト、ベルンハルト・シュミットが出席して日本ツアーに関しての記者会見が行われた。
 1983年に設立され、ドイツをはじめヨーロッパを中心に活躍している結成25周年を迎えるこのクァルテットは、シューベルト、ブラームス、ショスタコーヴィチをはじめ古典から現代まで幅広いレパートリーを持っている。メンバーの内ヴィオラを除く3人が女性1人を含むきょうだいである。日本に於ける演奏会は名古屋(9/8)、大阪(9/10)が各1回、東京(9/11,13,15)3回、その他東京でマスタークラスの講習(9/12)1回が予定されている。
詳細は東京・赤坂のドイツ文化センター(Tel:03-3584-3201)まで。(H)


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「アイスランド交響楽団」10月25日 午後2時 ザ・シンフォニーホール
 「火と氷の島」アイスランドのオーケストラが初来日する。1950年に結成され、年間60公演を行い、海外ツアーにも出掛けている。指揮者はペトリ・サカリで、ヘルシンキ出身。母国フィンランドやスウェーデンのオーケストラ指揮者を歴任し、現在スウェーデン・イェヴレ交響楽団音楽監督。ソリストには同交響楽団でコンサート・ミストレスを務めるシグルン・エドゥヴァルスドッティルを迎える。彼女はアイスランドや米国でヴァイオリンを学び、数々の国際コンクールに入賞している。アイスランド出身の作曲家レイフス「3つの抽象画」の他に、シベリウスの3作品(ヴァイオリン協奏曲、交響曲第2番、交響詩「フィンランディア」)を演奏する。料金は5,000〜9,000円。お問い合わせは同ホール(06−6453−6000)へ。(T)
〈写真提供:ザ・シンフォニーホール〉