2006年12月 

Popular ALBUM Review


DVD付
「ラヴ/ザ・ビートルズ」(東芝EMI/TOCP-70200)
 シルク・ド・ソレイユによる同名ショーのサウンドトラック盤として企画され、ビートルズ名義で発売されることになったアルバム。ジョージ・マーティンと彼の息子がマスター・テープをトラックごとに分解し、別の曲と組み合わせるなどして新しいサウンドに仕立て上げたもので、ビートルズのメンバーは制作にはいっさいタッチしていない。クレジットされているのは、全26トラックのべ37曲だが、実際にはその何倍もの曲の断片がちりばめられており、サイケデリックなサウンド・コラージュのような作品に仕上がっている。好みのわかれる作品だが音質はすばらしい。DVD音声ヴァージョン(5.1chサラウンド)がプラスされたスペシャル・エディションも輸入国内盤仕様で発売。(広田 寛治


Popular ALBUM Review

「レイ・シングス、ベイシー・スウィングス/レイ・チャールズ&ザ・カウント・ベイシー・オーケストラ」(ユニバーサルミュージック/UCCM2001)
 故レイ・チャールズの1970年代のライヴ・テープが発見された。そこには”ray/basie”と記されていたが、実際の共演ではなく両者が出演したイベントのレイのステージの記録だった。そのレイのヴァーカルにカウント・ベイシー・オーケストラが新たにバッキングを録音しての≪競演≫という形で完成したのがこの作品集。ゲストにパティ・オースティンやトム・スコットも参加。「愛さずにいられない」「わが心のジョージア」はじめレイ・チャールズの素晴らしい70年代の歌声がベイシー・オーケストラの演奏で見事に甦った最新盤だ。(Mike M. Koshitani)

 
Popular ALBUM Review

「ライヴ・アット・ザ・フィルモア・イースト/ニール・ヤング&クレイジー・ホース」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12527)
 いきなりの私事ながら、先日、NYの某レストランでニールと遭遇!ちょっとお腹が出てはいたものの、穏やかな表情で「もう、すっかり元気だよ」と話してくれたことをご報告。さて、そのニールが以前から噂されていたアーカイヴ・シリーズをいよいよスタートさせることになった。その第一弾が、1970年の7月、フィルモア・イーストでのクレイジー・ホースとのステージを収めたこのライヴ盤。ソロ2作目発表直後、そしてダニー・ホイットン存命・在籍時の伝説のライヴがついにニール自身のこだわりの監修のもとに甦ったのだ。大量のスティール写真を駆使したDVD版も嬉しい。(大友 博)

Popular ALBUM Review

「FIVE WAY STREET/A TRIBUTE TO BUFFALO SPRINGFEILD」
(Not Lame/NL-121)*輸入盤

 楽しい企画盤♪短期間の活動ながらバーズやラヴィン・スプーンフルらと共に後のアメリカン・ロックの発展に大きく寄与したバッファロー〜のカヴァー集♪彼らはオリジナル・アルバムを3枚しか残さなかったがその全レパートリーの3分の2にも至る21曲が取り上げられており(プレイヤーも21組)「フォー・ホワット」や「ブルーバード」「ミスター・ソウル」等の定番曲だけではなく存分に浸れるのがファンとしては嬉しい限り。しかもこの歴史的な作品の数々を丁寧に扱いながらも各自が明るくのびのびと演奏しているような印象で≪こういう楽しみ方もあるのか≫と彼らの楽曲の魅力を再発見する思い。来年はバッファローを是非‘紙ジャケ’に! (上柴 とおる)

Popular ALBUM Review

「プレス・プレイ/P・ディディ」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12460)
 メアリー・J・ブライジやノトーリアスB.I.G.を発掘し、90年代末にはR&Bとヒップホップで最強の影響力を誇ったプロデューサー、P・ディディの自身としては4枚目のソロとなる本作。ここ数年、公私にわたるトラブルに見舞われた鬱憤を晴らしながら新規まき直しをはかる意気込みがそのまま伝わるような内容で、ジャック・ナイトと共演する圧倒的なまでにスムーズでダイナミックなサウンドに始まり、ノンストップ状態でディディ流の最も洗練されコンテンポラリーなR&Bの数々を聴かせる。おびただしいほどのラッパーとヴォーカリストを采配するその豪華さと娯楽性は97年の『ノー・ウェイ・アウト』に迫るもので純粋に楽しい。(高見 展)

Popular ALBUM Review

「アニマリスティック/ニヴェア」(フォーミュラレコーディングス/QWCF-10001)
 ファーストではシングル「ドント・メス・ウィズ・マイ・マン」でグラミー賞候補にも上ったニヴェアだが、3作目の本作は彼女のアーティスト性を初めて打ち出す作品。ちょっと引っかかる感じの高音のヴォーカルとラップも得意なところはR&Bリスナーやクラブから高い人気を呼ぶ資質なのだが、ニヴェア自身は自分の資質をきちんと作品化したいと今回からは完全にアーティスト・コントロールを掌握して自ら「本当の意味でのファースト」と呼ぶ本作制作に踏み切った次第。全曲作曲に関わりつつ自身にとってリアリティのあるメッセージをヴァリエーションに富んだコンテンポラリーなサウンドに乗せた本作はまさに彼女の資質を開花させた作品。(高見 展)

Popular ALBUM Review

「ザ・ルック・オブ・ラブ/ グレース・マーヤ」
(ヴィレッジ・ミュージック/VRCL11003)

 グレース・マーヤのデビュー作。活況を呈すジャズ・ヴォーカル・シーンに、新たな才能が加わった。マーヤは、グレイト・ジャズ・トリオの生みの親で著名な名プロデューサー、伊藤八十八の目に偶然留まり、シンデレラのように本作を録音、デビューを飾った。マーヤは、3歳からピアノを始め、ドイツのフライブルグ国立音楽大学を卒業し、4ヶ国語を自在に扱うという才媛だ。歌とピアノに才能を示す。伊藤八十八氏も語っているが、マーヤの最大の魅力は、≪声質≫にある。マーヤには、人々の心を癒し、幸せにする生まれもっての美声があるのだ。本作では、スタンダード、ポップスの名曲を幅広く歌っている。素晴らしい新人が現われたものだ!(高木 信哉)

Popular ALBUM Review

「第四の壁/ドミニク・ミラー」(WHDエンタテインメント/IECP-10070)
 ドミニク・ミラー(46歳)の旋律は、なぜかいつも心に沁みてくる。本作は、ドミニクの『サード・ワールド』に続く2年ぶり通算6作目のアルバム。収録された11曲は、全てドミニクのオリジナルだ。ジャズ、ワールド・ミュージック、ニューエイジなど多様な音楽のエッセンスを消化し、ヴォイス、トランペット、フルートなどを巧みに加えて独自の音楽世界を創出。人生とギターの深みを極めた男が醸し出すサウンドは、まるで雲の上に乗るかのごとき不思議な浮遊感と安らぎがある。ドミニクは、アルゼンチンのブエノスアイレス生まれで、アメリカの高校に通った後、ロンドンのギルドホール音楽学校に通った。あの粋なスティングに大きな影響を与えている。(高木 信哉


Popular ALBUM Review

「フォー・ヘヴンズ・セイク/ケヴィン・ヘイズ・トリオ」
(GATS PRODUCTION/GPTS711)

 ケヴィン・ヘイズは、まだ無名の存在だが、才能溢れる新世代ピアニストだ。本作での斬新な演奏に触れると、ピアノ・トリオにも未開拓の分野が残っていることに気付かされる。ケヴィンのピアノは、凛とした音色を持ちながら、力強く滑らかな芯がある。瑞々しくも重厚な味わいがある。密度の濃い音楽は、キース・ジャレットやブラッド・メルドーなどとも共通する。近頃よく耳にする甘くなりがちな日本制作のトリオ作品とは、一線を画す本格トリオの演奏である。『ソニー・ムーン・フォー2』は、ソニー・ロリンズの曲で、息の合ったトリオのやり取りが鮮やかだ。(高木 信哉)


Popular ALBUM Review

「スピーク・ロウ/ピンキー・ウインターズ」(SSJ/XQAM-1010)
 12月に初来日コンサートを行うベテラン・ジャズ・シンガー、ピンキー・ウインターズのこのアルバムは、83年2月にワシントンDCにあるコーコラン・ギャラリー・オブ・アートで行われてコンサートのライヴ録音で、今年2月に発表された彼女のCD「いそしぎ」の続編。同じコンサートの第二部を収めたもの。ルー・リーヴィーとビル・タカスの演奏2曲を交えてピンキーが、『イフ・アイ・ワー・ア・ベル』『ノー・モア・ブルース』など好きなスタンダード・ナンバー10曲を歌うステージ。出来としては、思い入れの深いジョニー・マンデルの曲を歌った第一部のほうが少し上か。然し、円熟味のある彼女の歌は、この第二部でも素晴らしい。(高田 敬三)

Popular ALBUM Review

「iSE 伊勢/古野光昭」(エム アンド アイ カンパニー/MYCJ-30402)
  日本を代表するジャズ・ベーシスト古野光昭のセカンド・アルバム。共演はピアノの石井彰、アルト・サックスの秋山卓、ドラムの大坂昌彦、安藤正則。オリジナル曲、スタンダード・ナンバーなど11曲を収録。ノスタルジックに演奏されるボブ・ディランの「マイ・バック・ページ」、ダイナミックでイマジネーションあふれる即興演奏が繰り広げられるビートルズの「ノルウェーの森」など、ロック・ファンにも刺激的で楽しめる仕上がりになっている。(広田 寛治)

Popular ALBUM Review

「冬のソナタ・ザ・ミュージカル/オリジナル・キャスト盤」
 (Aer-born/AZCP-10001)

  韓国の人気テレビ・ドラマ「冬のソナタ」が、ユン・ソクホ監督自身の総合演出でステージ・ミュージカルとなり、韓国に先駆けて今年1月に札幌で初演、秋には東京・大阪でも上演された。これは韓国人・韓国語による初演キャスト盤。主な配役はダブル・キャストで、歌唱力抜群のイ・サンヒョン、パク・ホンジュ、イ・ピルスン等、韓国ミュージカル界のスターたちを揃えており、キム・ヒョンソク作曲の美しいミュージカル・ナンバーが光る。ペ・ヨンジュンが出ていなくても、また舞台を離れても楽しめる一枚だ。(川上 博)

Popular ALBUM Review

「夢助/忌野清志郎」(ユニバーサルミュージック/UPCH-1520)
  喉頭癌療養中であることを発表した忌野清志郎の新作。忌野のソロ・セカンドにして名作『Memphis』にもMGsの一員として参加したスティーヴ・クロッパーがプロデュースの指揮を取り、メンフィスでレコーディングしたものだが、ここ数枚の忌野作品の例に漏れず忌野の原点に忠実でいながら名曲揃いの内容で、メンフィスのバンドも含めてパフォーマンスも実に熱くてスウィートだ。「Sweet Soul Music」に並ぶ名曲「残り香」、「オーティスが教えてくれた」などメンフィスならではの楽曲のみならず、メッセージ色の強い「激しい雨」「誇り高く生きよう」「温故知新」などすべての曲に愛が込められた、究極のソウル・ラヴ・ソング集となっている。(高見 展)

Popular DVD Review

「ライヴ・イン・ザ・USA2005〜THE SPACE WITHIN US〜/ポール・マッカートニー」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPBR-90600)
  2005年9月から11月まで行なわれたアメリカ・ツアーからのライヴ映像。ビートルズ・ナンバー19曲を中心に、最新アルバム『ケイオス・アンド・クリエーション・イン・ザ・バックヤード』からの曲まで全28曲(メドレーも含む)を収録。ステージ上で宇宙飛行士とリアルタイムに交信して大きな話題を呼んだアナハイム公演での貴重な映像なども楽しめる。サウンド・チェック3曲分やキャメロン・クロウによるポールやメンバーへのインタビューなど、ボーナス映像にも見所が多い。(広田 寛治)

Popular DVD Review

「クロスロード・ライヴ1988/エリック・クラプトン」
(コロムビアミュージックエンタテインメント/COBY-91278)

  ネイザン・イーストとスティーヴ・フェローンがバックを固め、マーク・ノップラーをゲストに迎えた編成で行なわれた25周年公演からのライヴDVD。ノップラーやエルトン・ジョンらが参加した日本公演の少し前ということになる。ルックス的にはアルマーニ期に移行するほんの少し前、音楽的には、ようやく80年代の呪縛から解き放たれようとしていた時期の、風格すら感じさせるライヴが収められている。アルコールを断ち切ったこともあり、おそらくこのあたりでなにかをつかんだ彼は、『ジャーニーマン』で原点に立ち返り、そして偶然にも助けられて、90年代の大成功を獲得することになる。その過渡期のライヴということもいえるだろう。 (大友 博)

Popular BOOK Review

「THE ROLLING STONES in the beginning/ベンツ・レイ写真&文 ビル・ワイマン序文 中江昌彦 訳」(小学館)
  ロンドンのR&Bコピー・バンドから、シーンのトップに躍り出たローリング・ストーンズの1965〜66年にかけての姿を収めた写真集。デンマークの写真家/ベンツ・レイは当時、ツアーに同行したりメンバーの自宅を訪れたりしながら貴重なショットを撮影。その中から、未公開写真も多く含め300ショットが豪華に纏め上げられた。レイの文章も読み応えがある。60年代からのストーンズ・ファンにとっては涙ものであるとともに、若いファンにとってもロックが一番大きく変革していった時代をしっかり見つめることが出来る一冊として注目されるだろう。ビル・ワイマンが序文を担当しているのも嬉しい。(Mike M. Koshitani)

Popular CONCERT Review

「第18回カントリーゴールド」10月15日 ASPECTA(グリーンピア南阿蘇)
 熊本在住のカントリー・シンガー、チャーリー永谷氏が主宰する国際フェスティヴァル。第18回を迎えた今回は、70年代より活躍を続けるサザン・カントリー・ロックの雄:チャーリー・ダニエルズ・バンドをヘッドライナーに、パワフルで魅力的な期待の新人2組(女性5人組:カウボーイ・クラッシュ、ドワイト・ヨーカムをスターにしたピート・アンダーソンをプロデューサー/ギタリストに迎えた男性ホンキー・トンカー:ムート・デイヴィス)、ブルーグラスのトップ・バンド:グラスカルズを迎え、秋晴れの阿蘇山麓に集まった大勢の観客を魅了した。音楽ファンはもちろん、家族連れや友人同士でのピクニック気分でも楽しめるところが、このフェスティヴァルの特徴。日本全国から年1回、再会を楽しみに集まる人も多い。また来年も期待したい。(森井 嘉浩)

Popular CONCERT Review

「富士通コンコード・ジャズ・フェスティバル 2006」
10月31日 大阪厚生年金会館芸術ホール

 今年のライン・アップはロバータ・ガンバリーニ&ジェイク・ハナ・トリオ、ルイス・ナッシュ・ビバップ・グレート・オール・スターズ、そしてデューク・エリントン・オーケストラ。売り出し中のガンバリーニは、彼女のシグナチュア・ナンバーになりつつあるロリンズ、スティット、ガレスピーのソロをヴォーカライズした「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」を含め左手で調子を取りながらコントロールの利いたテクニカルで器楽的な歌唱を披露、30分の舞台では短すぎる印象を与えた。続くフランク・ウエスをゲストに迎えたルイス・ナッシュのグループは、「ワーク・ソング」から始まり、フロント・ライン3人のソロによるバラード、そして、「ロータス・ブロッサム」、「クール・ストラッティン」とジャズの名曲を取り上げ、伝統を感じさせる重みのある演奏で会場を沸かせた。エリントン・バンドは「ザ・マイナー・ゴーズ・マッギン」、「マーティン・ルサー・キング」など一般にはあまり知られていな5曲のエリントン・ナンバーを28歳という若い孫のポール・マーサー・エリントンの指揮により迫力のある音で聞かせ、「スイングがなければ意味ないよ」で初期に同楽団で歌っていたゲストのフリーダ・ペインが登場、エラの影響を感じさせる歌でポピュラーなエリントン・ナンバーを7曲歌った。「ラッシュ・ライフ」は、ビリー・ストレイホーンと友人関係だったという彼女だけに魂がこもった素晴らしい歌だった。コンサートの最後は、「テーク・ザ・A・トレイン」で盛り上げた。この手のホールでのジャズ・フェスティバルが殆どなくなっている昨今、いつまでも続けて欲しい貴重な企画だ。(高田 敬三)

Popular CONCERT Review

「サム・ムーア 〜プレミアム・ソウル・レジェンド・ナイツ〜」
11月14日 Blue Note Tokyo

 伝説のソウル・デュオ、ダブル・ダイナマイトと称されたサム&デイヴのサム・ムーアの4度目(単独としては2度目)の来日。でも本当に久々だ、24年ぶり。多くのアーティストとの共演で話題となった最新作「オーバーナイト・センセーショナル」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12433)はとても素晴らしかった、そして同様に感動させられたのが今回の≪サム・ムーア〜プレミアム・ソウル・レジェンド・ナイツ〜≫だ。往年の代表作を中心に最新作や60年代R&Bカヴァーを交えながらまさにファンキーなソウル・レビュー。69年、ソウル・メン・オーケストラを引き連れてのダブル・ダイナマイトのステージを彷彿とさせた・・・。ライド・オン!(Mike M. Koshitani)
PHOTO:山路ゆか

Popular CONCERT Review
「エリック・トラファ」9月30日 COTTON CLUB
 国内盤が久しく出ていないのは本当に残念だが、エリック・トラファズはEUブルーノート・レーベル最大の人気アーティストのひとりである。フランスを拠点とする彼は、ノルウェーのニルス・ペッター・モルヴェルと並び、現代の“ジャズ来るべきもの”を真摯に探求しているトランペッターといえるだろう。来日は約5年ぶりだが、ベースをアコースティックからエレクトリックに替えたこと、トランペットに従来以上に多様なエフェクターを通したことで、サウンドはいっそう多彩かつ過激になった。エレクトリック・プログレッシヴ・アヴァンギャルド・ジャズとでもいおうか。アンコールで演奏されたセルジュ・ゲーンスブールの「ジュ・テーム・モア・ノン・プリュ」が、やけに甘美だった。(原田 和典)
写真提供:コットンクラブ
撮影:加藤 正憲

Popular CONCERT Review
「ザ・ジャズインヴェーダーズ」9月29日 渋谷JZ Brat
 アムステルダム出身のクラブ〜ハード・バップ系グループが来日した。CDにはマリウス・ベーツのウッド・ベースなども加わっていたが、この日のステージはトランペット+2サックス+ピアノ+パーカッション+ヴォーカルという編成。ベースとドラムスはプログラミングされている。つまり、どの演奏も曲の長さがあらかじめ決まっているから、アドリブに熱が入りすぎたあまり1曲が数十分になるということはない。往年のホレス・シルヴァーやリー・モーガンを思わせるファンキーなテーマ・メロディを聴かせるのが主で、アドリブは“間奏”風の味付けにとどまる。だが、これがかっこいい。打ち込みドラムスと生パーカッションのコンビネーションも見事だった。(原田 和典)

Popular CONCERT Review
「フェスティバル コンダ・ロータ2006 ラマダンの夜」
10月2日 Bunkamuraシアターコクーン

 イスラム圏の音楽を特集した連続五夜の初日を聴いた。オープニングはパキスタンのカッワーリー(パキスタンのイスラム宗教歌唱)師、ファイズ・アリー・ファイズ。ハーモニウムやコーラス、手拍子の奔流をぬって、巨匠ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンの後継者と目されるだけはある朗々たる歌声をホールに響かせる。後半はカマンチェ奏者、イランのカイハン・カルホールとシアマック・アガイエ(弦楽器サントゥールを演奏)のデュオ。カマンチェはヴァイオリンの祖先にあたる弦楽器らしいが、あでやかな音のかすれに、僕は第一に胡弓の響きを想起した。どこまでも自然発生的、ノンストップで続く世界・・・・真の即興にふれる幸せを感じた。(原田 和典)
(c)Koichi Hanafusa

Classic ALBUM Review

「ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」、交響曲第6番「田園」/スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮、ザールブリュッケン放送交響楽団」(BMG JAPAN/BVCO-37434)
 この12月に2度目の来日をするスクロヴァチェフスキとザールブリュッケン放響のベートーヴェン交響曲全集4枚目のCDがこの「運命」「田園」である。来日直前の11月22日に発売される「第7」「第8」を以てこのベートーヴェン・チクルスは完結する。この2枚は本当の来日記念盤の意味がある。今年83歳になる長老スクロヴァチェフスキの演奏には歳を感じさせない若さが漲っている。「運命」「田園」ともに心地よいテンポの中にもオーソドックスな音の美しさと優しい人間性をたっぷりと感じる演奏である。もう一つ特筆すべきはオケに対するコントロールの見事さだろう。手兵ザールブリュッケンとの相性は抜群である。(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

第1番

第2番

第3番
「ブルックナー:交響曲第1番、第2番、第3番〈ワーグナー〉/デニス・ラッセル・デイヴィス指揮、リンツ・ブルックナー管弦楽団」(BMG JAPAN/BVCE-38104、38105、38106〈分売〉)
  アメリカ生まれ、ジュリアード出身で、現在リンツ・ブルックナー管の首席指揮者であるデニス・ラッセル・デイヴィスが振ったブルックナー交響曲全集(ライヴ・レコーディング)の第3弾が、既発の4番、8番(共に第1稿)に続いて、今回一挙3曲が同時にリリースされた。第1番(第1稿)、第2番(第2稿)、第3番(第3稿)共すべてが本拠地ブルックナーハウス大ホールに於ける演奏である。
デイヴィスの演奏はどの曲も全体的に重厚さが土台となっており、時折ブルックナーも意図したであろう荒削りな面も覗かせる。そして不安げな弦の刻みと突如現れる陰影に富んだ美しい旋律、そしてブルックナーの魅力溢れる金管の咆吼、これらをデイヴィスは自分自身の主張する音楽として表現している。加えてこの指揮者によるオケの見事な変貌にも驚かされる。(廣兼 正明
)

Classic ALBUM Review


「チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番、グリーグ:ピアノ協奏曲 清水和音(P)、小林研一郎指揮、アーネム・フィルハーモニー管弦楽団」(TRITON/OVCT-00025)
 清水和音と小林研一郎の顔合わせとなると強烈な個性のぶつかり合いによる、互いに譲らない白熱した演奏が期待されようが、実際に気迫のこもった個性的な力演で、協奏曲の醍醐味が堪能できる。清水の男性的で剛毅なピアノと小林のドラマティックな表現が火花を散らすのだが、さすがに2人とも大人なので相手を立てながら協調し、聴かせどころを忘れない。SACDハイブリッド盤で好録音、マルチチャンネルも楽しめる。(青澤 唯夫)

Classic ALBUM Review

「J.S.バッハ/シトコヴェツキーによる弦楽三重奏編曲版:ゴルトベルク変奏曲BWV.988/ジュリアン・ラクリン(Vn)、今井信子(Va)、ミッシャ・マイスキー(Vc)」(ユニバーサル ミュージック/UCCG-1331)
 このところ室内楽愛好家の間で話題になっているゴルトベルク変奏曲の弦楽三重奏曲版は、ロシアのヴァイオリニスト、ドミトリ・シトコヴェツキーが1984年にアレンジしたものだが、先ずアレンジそのものが素晴らしい。室内楽にも精通している弦の名手が手を施しただけに弦楽器の技法の限界を知り尽くしており、弦楽三重奏曲という必要最小限の編成としての充実度は高い。演奏には3人の心から合奏を楽しんでいる風情が伺える。各パートとも技術的難度は可成りなものだが、それを一向に感じさせないのは流石である。特にヴィオラ今井信子の核を担った存在が光る。 (廣兼 正明)

Classic ALBUM Review

「ペトルーシュカ&四季、超絶のヴィルトゥオーゾ、(P)マツーエフ」
(BMG JAPAN/BVCC-31092)
 絢爛たる技巧を駆使したストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3章」で切れ味のよい色彩感あふれるハードな音楽を聴かせたあと、一転してチャイコフスキーの「四季」でメルヘンチックな表情をみせて、聴き手の郷愁を誘う。マツーエフは選曲の妙と表現の多彩さでチャイコフスキー・コンクールの覇者らしい実力を発揮する。「ペトルーシュカ」はマツーエフ版ともいうべき大胆で強引な演奏なので、この作品を初めて聴かれる方には無条件でお薦めはできないが。(青澤 唯夫〉

Classic ALBUM Review

「M-A.シャルパンティエ:ソロモンの裁き/W.クリスティ指揮レザール・フロリサン」
(東芝EMI・Virgin CLASSICS/TOCE-55872)
 「レ・パラダン」のステージが実現したばかりだが、クリスティ指揮するレザール・フロリサンの演奏は精気にあふれ、その雅で繊細な響きが素晴らしい。マルカントワーヌ・シャルパンティエ(1643頃〜1704)晩年の対照的な2つのモテット(ソロモンの裁き、長い奉納式のためのモテット)が、練達の対位法が、オーソリティたちの壮麗で瑞々しい表現によって現代に甦る。新鮮な耳の歓びに心まで洗われる思いがする。(青澤 唯夫)

Classic CONCERT Review

マーラー・チェンバー・オーケストラ10月8日京都コンサートホール
 マーラー・チェンバー・オーケストラは溌剌とした若さをセールス・ポイントにしている。指揮者のダニエル・ハーディングは30歳、楽員の平均年齢は29歳、ソリストに迎えたピアニストのラルス・フォークト36歳。とかく物怖じしないで全力でぶつかる。それが思わぬいい結果を招くこともある。
最初に演奏されてモーツァルト「交響曲第6番」は、早熟の天才がわずか11歳の時につくった作品で、前古典派の影響を受けながら、そのエッセンスを懸命に習得したあとがうかがえる。ハーディングはさらりとしたバトンで淡白な味わいを出した。モーツアルト「ピアノ協奏曲20番」で、フォークとは繊細優美な味わいをよく引き出した。最後に取り上げたブラームス「交響曲第2番」は、この曲を流れる明るさに幾分翳りが混ざって、くすんでいる。もう少しオーケストラを伸びやかにうたわせたいところである。(椨 泰幸

Classic CONCERT Review
野外オペラ「千姫」10月14日大阪城西の丸公園
 久しぶりに野外オペラを観た。会場は大阪城西の丸公園である。都市の活性化を促進する一環として、大阪市も支援している。大阪城の天守閣がライト・アップされ、金色の鯱を飾った屋根が緑青の瓦と鮮やかなコントラストを描いている。間近に見る城の夜景は見事なもので、こちらが今夜の主役と言いたげである。
 出演者は関西二期会が中心で、ヘッド・セット・マイクを利用した。題名役の草野浩子が運命に翻弄される姿を情感こめてうたいあげた。徳川方と争う淀殿を西垣千賀子が力みなくうたい、芸達者なところをみせた。楽器には弦楽器、木管楽器に加えて能管、筝、和太鼓などを使い、奥村哲也が指揮をとった。作曲藤井修、演出・脚本熊本幸夫と、オール関西勢で、観客も芝生にすわって、深まり行く秋を楽しんだ。(椨 泰幸)

Classic CONCERT Review
ウインド国際タットウ大会の「航空中央音楽隊」
10月14~15日 韓国・原州市チァーク芸術センター
 世界三大タットウは歴史の長いイギリス、エジンバラでの大会と、カナダ、ハリファックス大会と、2000年からアジア地区で開始された、今年の韓国・原州(ウォンジュ)での大会である。今回は日本・韓国・アメリカ・フランス・スペイン・ロシア、その他フィリピン・シンガポール・モンゴリアなど9カ国が参加して、10月10日から1週間にわたり、吹奏楽の世界大会がくりひろげられた。日本からは航空中央音楽隊が参加した。指揮は佐藤義政、東京芸術大学講師の外囿祥一郎のユーフォニアムの独奏で「釣鐘草変奏曲」などが奏され、技術水準の高いみごとな演奏が披露された。暖かい優雅な響きに喝采が送られていた。(斎藤 好司)

Classic CONCERT Review
キエフ・オペラ「トゥーランドット」10月27日フェスティバルホール
 「誰も寝てはならぬ」は「トゥーランドット」を彩る有名なアリアである。このプッチーニ未完の大作は、思いがけないところで、広く知られるようになった。それは、世界選手権大会で荒川静香選手がこの曲にのせて華やかな演技を披露し、見事優勝を飾ったからである。その映像は国内で繰り返し放送され、優美な姿とともにこの旋律も多くの人々の脳裏に深く焼き付いた。 そのせいかホールは超満員で、テレビとスポーツの威力をまざまざと見せ付けた。
 キエフ・オペラ(ウクライナ国立歌劇場)は、ボリショイ(モスクワ)、キーロフ(サンクト・ペテルブルク)と並ぶロシアの3大歌劇場の1つで、今回ようやく初来日を果たした。ネームヴァリューはやや劣るものの、スラブ独特の豊かな声量を誇り、実力充分とみた。なかでも題名役のリジヤ・ザビリャスタは気品と貫禄を備え、冷酷な姫君の大役をこなした。王子を慕う女奴隷リューをうたったリリア・フレヴツォヴァも声の透き通ったソプラノで好演。舞台総監督のマリオ・コラッジの造形感覚は手堅く、北京城のもつ重厚な雰囲気を醸し出していた。(椨 泰幸)

Classic CONCERT Review
びわ湖ホールプロデュース・オペラ「海賊」10月28,29日 びわ湖ホール
 開館以来、ヴェルディの日本初演作品を連続して上演してきたびわ湖ホール・プロデュース・オペラ。9作目の今年は「海賊」が取り上げられたが、総監督の若杉弘が今期で退任となるため、これが最終回となった。日本人キャストによる高水準の上演が好評を博してきたが、「海賊」も期待通り。ソリストでは、初日、2日目でそれぞれ主役を歌った市原多朗、福井敬が日本の誇るテノールとしての実力を示し、また第二の主役ともいえる合唱では、びわ湖ホール声楽アンサンブルと東京オペラシンガーズからなる合唱団が会場を圧倒した。若杉弘の指揮もテンポよく、ヴェルディ初期作品の醍醐味を味あわせてくれた。正統的だが活力に満ちた鈴木敬介の演出も、作品の味わいをよく伝えていた。(加藤 浩子)

Classic CONCERT Review
「ウィーン交響楽団演奏会」 11月6日 東京文化会館
 ウィーンの名門オーケストラのひとつ、ウィーン交響楽団が、首席指揮者ファビオ・ルイジとともに来日。若手人気ピアニストをソリストに、各地で好評を博した。筆者が聴いた日は、ショパン・コンクールで優勝した中国のピアニスト、ユンディ・リが共演。グリークのピアノ協奏曲で、清廉な音作りとスケール感の共存した好演を繰り広げた。だがこの夜の真骨頂は、休憩後に演奏されたブラームスの交響曲第4番。各パートの綿密さはそのままに、音楽の息遣いを生かしたダイナミックで躍動感あふれる熱演で、会場を興奮の渦に巻き込んだ。(加藤 浩子)

Classic CONCERT Review
パリ・シャトレ座プロジェクト「レ・パラダン」
11月7日 文化村オーチャードホール
 シャトレ座は、パリの数ある劇場のなかでも前衛的な試みで知られる名門。そのシャトレ座から、フランス・バロックオペラの大家ラモーのオペラ=バレエ「レ・パラダン」が上陸した。このような作品は、パリでは思い切り現代的に演出されるのが流行だが、今回も例外ではなく、ジョゼ・モンタルヴォとドミニク・エルヴュが演出・振付した舞台は思い切りポップ。CG映像を多用し、ヒップホップダンスの乱舞する、瞬間瞬間を楽しむ総合ディヴェルティメントが出来上がった。だがラモーの時代のフランス・オペラは本質的にそのようなもの、ならばこれも「伝統的」といえるかもしれない。白眉はウィリアム・クリスティ&レザール・フロリサンによる、魔法のような音楽。バロックのカリスマというにふさわしい、ヴィヴィッドな演奏だった。(加藤 浩子)〈Photo:Patrick Berger)

Classic CONCERT Review
「相曽賢一朗ヴァイオリン・リサイタル」11月14日 東京文化会館小ホール
 イギリスを舞台に活躍する相曽賢一郎の日本リサイタルは年間に数回しか開かれない。今年も久方ぶりに聴いた。曲目はモーツアルトのソナタ変ロ調K.454、ベートーヴェンのソナタ第8番ト長調Op.30-3などであったが、超絶技巧が披露され、すばらしい快演であった。特にべートーヴェンは鸛が大空を飛翔するがごとき快活さで演奏され、見事であつた。圧巻は最後のクロイツェル・ソナタOp.47で、完璧とも言える演奏であった。ピアノ伴奏のネルソン・ゲルラーは相曽と名コンビで伴奏者と言うより、対等な独奏者と言った方が良いくらい名手であつた。良い演奏を聴いた。(斎藤 好司)

Classic INFORMATION
ベルガモ・ドニゼッティ劇場1月3日フェスティバルホール▽1月6日びわ湖ホール
 ベルガモ・ドニゼッティ劇場が初来日し、関西では1月3日午後2時からフェスティバルホール(06−6231−2221)でドニゼッティ「ランメルモールのルチア」▽1月6日午後3時からびわ湖ホール(077−523−7136)で同「アンナ・ボレーナ」を上演する。
<ルチア>は城主の妹を巡る愛の悲劇で、1853年に作曲された。狂乱オペラの代表作で難度の高いコロラトゥーラ・ソプラノにイタリア出身の新進デジレ・ランカトーレが挑戦する。また<ボレーナ>は1830年に作曲され、英国王一族の悲劇を描いている。ギリシア出身で、人気上昇中のディミトリ・テオドッシュウが題名役を演じて、ベルカント・オペラの粋を披露する。
同劇場はイタリア北部ベルガモにあり、1791年創立の古い歴史を誇っている。劇場名は地元出身の作曲家ドニゼッティにちなんで1892年に改名された。料金は<ルチア>7,500〜25,000円。<ボレーナ>8,000〜23,000円。(T)〈Photo:Gianfranco Rota)

Audio WHAT'S NEW
    
「ソニー SS-AR1」(¥892,500/税込) http://www.sony.jp/
 ソニーが久々にハイエンドオーディオの分野に本格的なスピーカーシステムを投入する。3ウェイ4ユニットの大型トールボーイ形状を採用し、キャビネットには楓材と樺材を組み合わせ、高い剛性を確保した。曲げ加工を施した側板は背面に向かって微妙なカーブで絞り込まれ、美しい外観を作り出している。楓材には産地を限定した北海道産を用いるなど、素材選びのこだわりも半端ではない。奥行きの深い音場再現力と、低音から高音まで反応の速いしなやかさをそなえる。(山之内 正)

Audio WHAT'S NEW
    
「パイオニア S-PM300」(¥70,000/税込) http://pioneer.jp/
 ウイスキーの樽材として半世紀以上熟成させたオーク材を再利用するというユニークな手法でキャビネットを作り上げたスピーカーシステムである。長期間熟成させた木材は優れた音響特性を発揮することが知られており、スピーカーキャビネットの素材としても理想的な性質をそなえるという。パイオニアは樽材を利用した製品作りに意欲的に取り組み、本機はすでに第5世代機に相当。倍音の音域までハーモニーが美しく、特に声と弦楽器の表情が生き生きとしている。(山之内 正)