2006年9月 

Popular ALBUM Review



「オーバーナイト・センセーショナル/サム・ムーア」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12433)

 のっけからいきなり胸ぐらをつかまれ引きずり込まれてしまった♪アン・ピーブルスでおなじみ「アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン」だ。元サム&デイヴのサムの見事な復活ぶりを高らかに宣言するにはこれだけでもう十分過ぎるほど。少し前に見た映画「ソウル・サヴァイヴァー」で不遇時代を支えてくれた‘恩人’でもある奥さんに頭が上がらないもののいざ歌い出すと周囲を圧倒してしまう凄みを見せつけたサム・ムーアがついにメジャー・シーンに舞い戻った。スプリングスティーン、マライア、スティング、クラプトン、ウィンウッドにジョン・ボン・ジョビ...当代の大物たちや有力新人を従え堂々‘降臨’!刺激されて他の同世代のベテランたちも奮起すればまたおもしろい時代がやって来るかも♪ (上柴 とおる)

 生まれて初めて体験したソウル・レビューは1969年3〜4月のサム&デイヴの来日公演だった。以来、何百回と海外も含めてSRのステージを味わっているが、ベストはサム&デイヴと翌年のアイク&ティナ・ターナーだ。そんな伝説のサム・ムーアが、まさに右手の拳を高々と上げてライド・オン!と、シャウトせずにはいられない素晴らしいアルバムを発表した。アン・ピーブルスの「アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン」、ヴァレンティノズの「ルッキン・フォー・ラヴ」、ベン・E.キングやアレサ・フランクリンの「ドント・プレイ・ザット・ソング」などR&Bの名作が収録。ソウル/ロック界ばかりでなく、ヴィンス・ギル、ワイノナといったカントリー・スターも参加。アルバム最後の故ビリー・プレストンとの「ユー・アー・ソー・ビューティフル」(ギターはクラプトン)は涙なくしては聴けない・・。サムの久々の4度目の来日公演、実現して欲しいものだ。(Mike M. Koshitani)


Popular ALBUM Review

初回限定生産盤

通常盤

「モダン・タイムズ/ボブ・ディラン」(ソニー・ミュージック/DVD付き初回限定生産盤:SICP1136-1137 通常盤SICP1138)
 ボブ・ディランの5年ぶりのニュー・レコーディング・アルバム。前作からの展開の中でアメリカ音楽の素晴らしさをディラン流に実に見事に、そしてダイナミックに一作にまとめている。なかでも、「ローリン・アンド・タンブリン」「サムデイ・ベイビー」「ザ・レヴィーズ・ゴナ・ブレーク」といったブルースをすごくダウン・トゥ・アースな感覚で仕上げているのに注目される。そのほかチャック・ベリー・スタイル・ナンバー、ハワイアン・タッチの曲、19世紀の作品、そして哀愁にみちたワルツ・・。クレジットは全てディランとなっているのだが、下敷きとした楽曲を探すのもこれまたファンの楽しみ。そして、もちろん歌詞には「ネティ・ムーア」をはじめとして全てにしっかりとメッセージが託されているのである。(Mike M. Koshitani )

 
Popular ALBUM Review

輸入盤

国内・初回限定盤
「CASSIE/CASSIE」(BAD BOY RECORDS/NEXT SELECTION 7567-83981-2)*輸入盤
 シングル「Me & U」が突如大ブレイクし、ビルボードで3位に連続チャート・インを記録した新人キャシーのデビュー・アルバム。実はプロデューサーのライアン・レスリーが手塩にかけて育てていたモデル出身のヴォーカリストで、レスリーと一緒にキャシーもP・ディディのバッド・ボーイ・レコードに召抱えられ、今回のデビューとなった。「Me & U」がこの夏最高のトラックの一つであることはいうまでもなく、80年代初期を彷彿とさせる軽いタッチのシンセやアレンジをコンテンポラリーに鳴らすレスリーのトラックとからみつくようなキャシーのヴォーカルワークは実に新鮮で今後の活躍が本当に楽しみなヴォーカリストだ。(高見 展)
*国内版はワーナーミュージック・ジャパンより10月11日発売(WPCR-12448)

Popular ALBUM Review

「Under The Covers Vol.1/マシュー・スウィート&スザンナ・ホフス」
(Treasure Music/TCP1001)

 ようやく日本でもボーナス1曲追加で国内配給(Treasure Bottle/TCP-1001)となったポップス・マニア注目の企画盤。熱心なファンを持つパワー・ポップなマシューとバングルスのスザンナがコンビで発表した1960年代楽曲のカヴァー集♪何といってもこの二人の各オリジナル・アーティストに対する視点がしっかりと定まっているし、マニアックな共通認識を持ち深い思い入れを込めてありそうでなかった選曲も含め実にかっちりと作り上げられている。こんなにポップな「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ、ベイビー・ブルー」(ディラン)を聞いたのは初めて。ママ・パパの「マンデー、マンデー」の丁寧な仕上がりには感動すら覚えたほど。何度聞いても飽きない。Vol.2が待ち遠しい♪(上柴 とおる)

Popular ALBUM Review

「ソフィー・ミルマン/ソフィー・ミルマン」
(ビクターエンターテインメント/VICJ-61375
)
 話題のシンガー、ソフィー・ミルマンのデビュー作。彼女の水準の高さには驚くばかりで、低音を活かしたボーカルはジャズ・シンガーの王道を行くものである。曲が持つ意味を真剣に伝えようとしており、その歌声は聴き手の心に深く響いてくる。まだ23歳の大学生だが、ロシアで生まれ、その後イスラエルへ移住、そして現在はカナダに住むという決して平坦とはいえない人生を歩んできたという側面も持つ。「バラ色の人生」はシャンソンで、フランス語で歌っている。古き良きパリの街角の香りが漂ってくるようだ。「黒い瞳」は、有名なロシア民謡で、ロシア語で歌っている。哀調を帯びた歌声は、うつろな不安や人生の明暗をも感じさせる。(高木 信哉)

Popular ALBUM Review

「モーツァルト・ジャズ/アーロン・ディール・トリオ」
(ポニーキャニオン/PCCY-30090)

 モーツァルトの生誕250周年を祝し、今年は世界中で記念コンサートが目白押しだ。ゴールデンウイークに催された≪熱狂の日≫音楽祭も、モーツァルトをテーマに延べ70万人が集まった。企画CDも相次ぎリリースされているが、ジャズにおいては本作がクオリティの高さで決定版といえるだろう。本作がデビュー作のアーロン・ディールは弱冠20歳で、ジュリアード音楽院のジャズ科の3年生。ジャズ以外にもオクサナ・ヤブロンスカヤに師事してクラシック・ピアノを学んでおり、確かな腕前を持つ。シンプルで美しい旋律、独特の優雅さと疾走感は、まさにモーツァルトを演じるのに相応しい。「交響曲41番」の愁いを帯びたタッチは、得も言われぬ味わいがある。(高木 信哉)

Popular ALBUM Review

「Jambalaya-Bossa Americana-/小野リサ」(東芝EMI/TOCP^26040)
 ボサ・ノバ歌手の小野リサがアメリカのカントリー・ソングを歌ったアルバムだが、とても新鮮だ。彼女の歌い方は軽やかでソフトでボサ・ノバのフィーリングそのままなので、よく知られたポップ曲が新しい生命を得て現代に甦える。「ジャンバラヤ」「カントリー・ロード」もいいが、「黄色いリボン」と「ダニー・ボーイ」がベストだ。全体の編曲もサウンドも粋だし、さわやかで上々だ。(岩浪 洋三)

Popular ALBUM Review

「Hiromi As Is In New York 月光のいたずら/清水ひろみ」
(JAZZ ON TOP/JOT0407-3)

 清水ひろみは大阪のジャズ・クラブ≪JAZZ ON TOP≫のママでありジャズ歌手。本作は3作目のアルバムで、ニューヨーク録音。彼女の尊敬するケニー・バロン(p)トリオとの共演で、原曲をほとんどくずさずに、ストレートにナチュラルに歌って成功している。取り上げられているのが、メロディの美しいスタンダードばかりなので、清水ひろみの美しいきれいな声の歌唱によって、原曲の魅力を存分に味わうことが出来る。「月光のいたずら」「ア・マン・アイ・ラヴ」「イッツ・ビーン・ア・ロング・ロング・タイム」「ニューヨークの秋」など佳曲ぞろいだ。(岩浪 洋三)

 ケニー・バロン(p)ルーファス・リード(b)フランシスコ・メラ(ds)のトリオという素晴らしい伴奏陣に囲まれて今年の5月にニューヨークで録音された清水ひろみの第3作目のアルバム。単身ニューヨークへ乗り込んでの録音だが、清水ひろみの歌には、何の気負いも衒いも感じられず、タイトルが示すとおり、普段のままに、ナチュラルにその心を聞き手に伝える。ジャズ・ファンなら誰でも知っているスタンダード曲ばかりのバラード中心の作品で、ガーシュインの「ザ・マン・アイ・ラヴ」の解釈が秀逸で特に印象に残る。(高田 敬三)


Popular ALBUM Review

「夢で逢いましょう/村上ゆき」(ポリスター/PSCR-6174)
 村上ゆきはピアノの弾き語りによるジャズ歌手だが、本作では「テネシー・ワルツ」以外は全て日本人の作詞・作曲による流行歌やポップス、ニュー・ミュージックであり、日本の歌のよさと魅力を再認識させてくれる。きれいな声で、原曲をあまりひねくったり、くずしたりせず、素直にストレートに歌っていて成功している。そのためかえって彼女の声の魅力がよく出ていて好ましい。「上を向いて歩こう」や「港が見える丘」、加藤和彦/作曲、サトウ・八ロー/作詞の「悲しくてやりきれない」などがとくにいい。(岩浪 洋三)


Popular ALBUM Review

「Sara Smile/市原ひかり」(ポニーキャニオン/PCCY-6003)
 日本に現れた初の本格的な女性ジャズ・トランペッターである。音も力強いし、技巧的にもかなりすぐれており、表情も豊かだ。アメリカのトップ・ミュージシャンとの共演であり、曲によりドミニク・ファリナッチ(tp)やグラント・スチュアート(ts)も登場。「クレオパトラの夢」「ゴールデン・イアリング」といったよく知られた曲からエイト・ビートの「フライジャル」や「クロス・トゥ・ユー」までをうまくこなしており、若々しさにもあふれていて、楽しんで聴くことができた。(岩浪 洋三)

Popular ALBUM Review

「クリスタル&ブルー/紗野葉子」(オール・アート/XQAM 1701)
  紗野葉子は、2004年のデビュー・アルバムではフランク・キャップの率いるグレイト・アメリカン・ジャズ・オーケストラとの共演だった。2作目の本作は、スコット・ハミルトン(ts)とピアノのノーマン・シモンズかジョン・バンチに、曲により田辺充邦(g)の入るシンプルな伴奏で歌うバラード集。リリカルなスコット・ハミルトンのテナーにインスパイアーされ、また歌伴の上手さでは定評のピアニスト二人の好サポートを得て大変味わい深いアルバムに仕上がっている。(高田 敬三)

Popular DVD Review

「マディ・ウォーターズ モントルー1974〜メッシン・ウィズ・ザ・ブルーズ・ウィズ・バディ・ガイ&ジュニア・ウェルズ」(ワーナーミュージック・ジャパン/WPBR-905)
 1974年6月28日に開催された≪第9回モントルー・ジャズ・フェスティヴァル≫でのマディ・ウィーターズ(1915-83)、バディ・ガイ(1936〜)、ジュニア・ウェルズ(1934-98)のステージの記録。シカゴ・ブルースの醍醐味をダイレクトに味わえる。バックをパイントップ・パーキンス(p)のほか、ローリング・ストーンズ在籍時のビル・ワイマン(bs)が務めている。ジュニアの「フードゥー・マン・ブルーズ」、バディの「テン・イヤーズ・アゴー」などに続き、マディが登場(バディとジュニアはそのまま御大をサポート)。「フーチー・クーチー・マン」「マニッシュ・ボーイ」「ゴット・マイ・モージョー・ワーキン」といった得意のナンバーを披露する。ボーナス映像にはビル・ワイマンのバディ・ガイ、ビッグ・ビル・モーガンフィールド(マディの息子)へのインタビューが収録。(Mike M. Koshitani)

Popular CONCERT Review
「UDO MUSIC FESTIVAL」 7月22日〜23日 富士スピードウェイ
 御殿場/富士スピードウェイと大阪/泉大津フェニックスで2日同時開催されたウドー・ミュージック・フェスティバル。ウドーが開催するフェスティバルとしてはロック・オデッセイ以来のものとなるが、今回もウドーらしい大御所を抑えたラインナップとなった。一日目はプリテンダーズ、ドゥービー・ブラザーズ、ジェフ・ベック、サンタナ、二日目はポール・ロジャーズ、KISSとオールドタイムなロック・リスナーだったらどうしても観てみたくなるラインナップになっていて、個人的には屋外環境で初めてジェフ・ベックの演奏が観られたのがかなり嬉しかった。ラインナップの王道感はウドーらしいものなので、開催地がもっと近ければと思う。(高見 展


Popular CONCERT Review

Photo: 岡部 好
「ドゥドゥ・ンジャエ・ローズ・パーカッション・オーケストラ」 7月28日 すみだトリフォニーホール
 ジョセフィン・ベイカーから絶賛され、ジェームス・ブラウンと共演を果たしたこともある伝説のサバール(sabar)奏者、ドゥドゥ・ンジャエ・ローズがパーカッション・オーケストラと共に、元気いっぱいに日本へ戻ってきてくれた。最初、5人で始まった演奏は途中から10人、20人と増えていき、ステージがアッという間に打楽器の大群で埋め尽くされる。途中、休憩をはさんだものの、各セットの中での切れ目はほとんどなし。渦巻くような打楽器のアンサンブルの悦楽に身も心も引きずり込まれた。広い会場内に、色とりどりのパーカッションの音が響き渡るさまは、まるでシンフォニーだ。息子で、やはりサバールを叩くワガン(89年と92年にローリング・ストーンズのオープニング・アクトを経験)も貫禄たっぷり。再来日が待ちきれない。(原田 和典)

Popular CONCERT Review
「風呂ロック 遠藤賢司vs弁天湯」 7月20日  吉祥寺/弁天湯
 僕が無条件でほれ込み続けているエンケンが銭湯でライヴをおこなった。相当音がまわりこむ、エコーの深い音響になるのではないかと勝手に心配していたが、そこはエンケン。その音のまわりこみもサウンドの魅力に加味してしまう。アコースティック・ギター片手に、MCで岡本太郎や猫についての思いを語るエンケン。かっこいい。第1部は「不滅の男」に始まり、「カレーライス」、「寝図美よこれが太平洋だ」などおなじみの名曲を連発。そして第2部では新作『にゃあ!』からの曲を、たたみかけるように歌う。そしてアンコールはエレクトリック・ギターに持ち替え、爆音&怒涛の「東京ワッショイ」! 観客も皆、ケロリン桶を叩いて演奏に参加する。出店で売られていたピラミッド・カレーもおいしかった。(原田 和典)

Popular CONCERT Review

Photo:
COTTON CLUB
「サード・ワールド」8月3日 COTTON CLUB
 僕が小学生のころからやっていたバンドだから相当老舗だと思ったら、今年が結成30周年とのこと。世界にレゲエの魅力を伝えるレゲエ大使という評価も定着しているようだ。サード・ワールドはとにかくハーモニーが美しい。いざというときに3声でビシッとハモるのだが、この箇所が出てくるたびに僕は「ああ、いいなあ」と、大きな声を心の中でもらさずにはいられなくなる。これ以上和声に凝ると気取った感じになる、という手前ギリギリのところに踏みとどまって、野性と洗練が最大限に共存したハモリを聴かせてくれる、そのさじ加減が絶妙なのだ。曲によってはエレクトリック・チェロを導入したり、低音を思いっきり強調した(アンプのミドル、トレブルのツマミは0に近いだろう)ベースをフィーチャーしたり。レゲエというと夏の野外で楽しむイメージが個人的にあるのだが、冷房の効いたクラブで味わうそれもまた、格別だった。(原田 和典)

Popular CONCERT Review

Photo:山路ゆか
「マイティ・スパロウ」 7月31日  Blue Note TOKYO
 今年、なんらかのアニバーサリーを祝うミュージシャンはとても多い。我が愛しのジェームス・ブラウンもデビュー50周年だが、マイティ・スパロウもまったく同じ年にシーンに登場した。まさにゴッドファーザー・オブ・カリプソだ。組長、と呼びたくなるほどの貫禄タップリのルックスで圧倒するスパロウだが、歌声は骨太にして繊細、音域も広く、強く張った声はどこまでも伸びていく。サム・クックやビリー・エクスタインのモノマネも最高だった。本編を短めにおさえ、そのぶんアンコールを30分近くも繰り広げるという構成も奏功したのか、最後のほうはステージ、客席ともに異様なまでの躁状態となった。スパロウは“スズメ”という意味だが、このスズメはあと10年も20年もパワフルなパフォーマンスでファンを楽しませ続けるに違いない。(原田 和典)

Popular INFORMATION

「佐川急便 presents エリック・クラプトン JAPAN TOUR 2006」
 エリック・クラプトンの3年振り、17度目の来日公演が決定した。バックはドイル・ブラムホール2世(g)、デレク・トラックス(g)、ウイリー・ウィークス(b)、スティーヴ・ジョーダン(ds)、クリス・ステイントン(key)、ティム・カーモン(key)、ミッシェル・ジョン(vo)、シャロン・ホワイト(vo)。ティケットは9月9日から発売。
公演日程
11月
11日(土)  大阪城ホール 6:00PM
12日(日)  大阪城ホール 5:00PM
14日(火)  大阪城ホール 7:00PM
15日(水)  大阪城ホール 7:00PM
20日(月)  日本武道館  7:00PM
21日(火)  日本武道館  7:00PM
23日(木・祝)日本武道館  5:00PM
24日(金)  日本武道館  7:00PM
29日(水)  日本武道館  7:00PM
30日(木)  日本武道館  7:00PM
12月
2日 (土)  さいたまスーパーアリーナ 5:00PM
5日(火)  日本武道館  7:00PM
6日(水)  日本武道館 7:00PM
*料金/S:¥9450 A:¥8400(各税込)
*お問い合せ:ウドー音楽事務所 03(3402)5999 http://udo.jp/

Classic ALBUM Review

「ブルックナー:交響曲第7番/アイヴォー・ボルトン指揮、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団、」(BMG JAPAN/BVCO-38048)
 2006年2月、ザルツブルク祝祭大劇場でのライヴ。2004年から首席指揮者を務めるイギリスの俊英ボルトンとザルツブルク・モーツァルテウム管との演奏は、誠に清楚で美しいブルックナーを聴かせてくれる。今までのブルックナーのイメージとは異なった明るい雰囲気さえ感じさせるほどだ。この曲を演奏するために常時のメンバー数より大幅に多い100人を優に超えるオーケストラを編成したが、大編成とはとても思えない澄んだハーモニーを紡ぎ出している。ベートーヴェンなどで新しいスタイルの演奏を聴くことが出来る昨今、このブルックナーも新鮮な魅力を感じさせる一つの例である。 (廣兼 正明)

Classic ALBUM Review


「ハイドン:歌劇《騎士オルランド》/ニコラウス・アーノンクール指揮、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス、パトリシア・プティボン(ソプラノ)、クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)、ミハエル・シャーデ(テノール)他」(BMG JAPAN/BVCD-34035〜36)
 ハイドン自身が彼のオペラ作品で唯一「英雄喜劇(ドランマ・エロイコ−ミコ)」と名付けたこの3幕物の歌劇は1782年12月にエステルハーザ宮で初演された。ハイドンのオペラとしては可成り大がかりなものだが、このCD(2005年7月グラーツでのシュティリアルテ音楽祭ライブ)では演奏会形式で行われている。アーノンクール自身としてはアルミーダに続くハイドン・オペラの第2弾。
全体的には例によってアーノンクールの歯切れの良いテンポで推移する。プティボン、ゲルハーヘル、そしてアーノンクールの長女、エリザベート・フォン・マグヌスをも含む歌手9人が、セリアとブッファの相反する性格を取り込んだこのオペラで見事なアンサンブルを展開する。(廣兼 正明)

Classic DVD Review

「アンネ=ゾフィー・ムター/ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全集」(ユニバーサル ミュージック/UCBG-1156〜7〔2DVDs〕)
 ベートーヴェンの楽譜はムターにとって生涯の最も難しいテキストとも言える存在であろう。このDVDは1998年10月にパリ、シャンゼリゼー劇場で行われたベートーヴェン・ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会ライヴである。1977年14歳の時ベートーヴェンの協奏曲でカラヤンのオーディションを受けた際、翌年出直して来るように言われたムターは、それ以来ベートーヴェンとの終生の付き合いを始める。このDVDではムター独自のベートーヴェンを知ることが出来よう。例えば第5番「スプリング」第1楽章第1主題の節回し、アレキサンダー・ソナタ最初の第6番、第3楽章第4変奏のバットゥート(Battuto=弓の毛を弦に叩きつける)奏法など、完全にこれはムターならではの表現と言える。余白に収録された「ライフ・ウィズ・ベートーヴェン」ではムターのベートーヴェンに対する熱き思いが伝わってくる。(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review
「プラハ放送交響楽団」7月2日 ザ・シンフォニーホール
 シューベルト「未完成」。ベートーヴェン「運命」。ドヴォルザーク「新世界より」。交響曲の中で最もポピュラーな作品を携えて来日した。放送局に所属する立場から、親しみやすさが求められている。このオーケストラは海外では名曲を中心に公演するそうである。これも1つのポリシーであり、人気の出る所以でもあろう。
 指揮者のウラディミール・ヴァーレクは首席のポストに就いて20年。このオーケストラをすみずみまで知り抜いて、完全に掌握している。名曲といえども決して手を抜かず、全力投球する。その真摯な姿勢がまた、ファンを獲得することにもなる。3曲の中ではやはりドヴォルザークの出来栄えがよかった。祖国の生んだ巨匠に対する敬愛の念に加えて、民族に脈々と伝わるエネルギーがそのまま噴出して、よそのオーケストラにないパワフルな響きとなった。繊細な旋律もまた格別であり、チェコの音楽水準の高さを改めてうかがわせる。(椨 泰幸)

Classic CONCERT Review
「イタリア・ベッリーニ大劇場オペラ《ノルマ》」7月9日 フェスティバルホール
 「ノルマ」の作曲者ヴィンチェンツォ・ベッリーニの故郷にあるイタリア・カターニア(シチリア)からオペラハウスがやってきた。題名役は名ソプラノ、ディミトラ・テオドッシュが起用されて、声に負担のかかるドラマティックな役柄を易々とこなした。高音域のアジリタにも無理がない。ほとんど舞台に出っ放しのプリマドンナ・オペラで、プリマの出来いかんにこのオペラの成否が掛かっている。アリア「清らかな女神」をはじめ、感情の起伏の激しい場面を見事に歌いきって、テオドッシュは期待に応えた。演劇誕生の地ギリシャ生まれにふさわしく、演技力もなかなかのものである。
彼女の父親オロヴェーゾ役のリッカルド・ザネッラートも、深みのあるバッソ・プロフォンドで族長の威厳を示した。若い巫女アダルジーザ役のニディア・バラチオスも好演したが、ローマ総督ポリオーネのカルロ・ヴェントレはやや存在感が薄かった。このところ大阪では「ノルマ」が相次いで上演された中で、このカンパニーは久しぶりに本場の味を満喫させてくれた。(椨 泰幸〉

Classic CONCERT Review
「小沢征爾音楽塾 マーラー交響曲第2番《復活》」7月20日 愛知県立芸術劇場
 病気のために半年以上休演していた小沢征爾が、舞台に戻ってきた。前よりもやや痩せて見えるものの、指揮には生気が甦っていた。小沢ファンはほっとしたことだろう。マーラー「復活」は演奏に1時間半近くかかり、オーケストラの編成も大規模で、大勢の合唱団を抱えている。小沢の薫陶を受けた塾生たちは、緻密な指導のもとに真正面からこの大曲に挑戦した。
小沢が音楽を志す若者たちに伝えたかったのは、この果敢な精神と楽曲に対する深い共感ではなかったか。塾生もこの期待によく応え、ひたむきに楽曲に傾倒する姿には一種の爽快感があった。若さのせいか管楽器では一部乱れが出たものの、全体を破綻なくまとめた小沢の力量は流石である。ソリストの中では、ナタリー・シュトゥッツマンのコントラルトが、世紀末的な官能美をたたえて、心底に迫るものがある。松田奈緒美のソプラノはやや控えめで、淡白な印象を与えた。フィナーレが近づくにつれてホールを満たす響きは一段と光輝を増して、さながら小沢の<復活>を祝っているようであった。(椨 泰幸〉
〔Photo by Shintaro Shiratori、提供:小澤征爾音楽塾〕

Classic BOOK Review

「オペラ 愛の名曲20+4選」加藤浩子著 春秋社刊
 オペラの入門書は数多いけれど、このCDブックのようにオペラの〈音楽的〉魅力を熱っぽく語りかける本は稀だ。単なるあらすじ紹介の凡庸な解説ではなくて、オペラの音楽について、人間について、恋愛について、筆者の実感が巧みに語られる。スザンナもアディーナもトスカも筆者の分身のように思えてくる、オペラの魅惑的なガイドブック。ドミンゴ、フレーニ、カラヤン、ベームなどの名演付きで、専門家も楽しめそう。(青澤 唯夫)

Classic INFORMATION

「ダニエル・ハーディング指揮/マーラー・チェンバー・オーケストラ」10月8日 京都コンサートホール
 同オーケストラは1997年に指揮者クラウディオ・アバドによって設立され、03年からハーディングが音楽監督に就任した。奏者の平均年齢は29歳で、ヨーロッパの15ヵ国を超える国から49人が参加し、演奏回数は年間60〜70回に達する。ハーディングは30歳の若さで、BBCプロムスに20歳で出演し、最年少指揮者となった。欧米の主要オーケストラに招かれて、今最も注目を浴びる俊英である。曲目はモーツァルトの「交響曲第6番」「ピアノ協奏曲第20番」、ブラームス「交響曲第2番」。ピアノはドイツ生まれのラルス・フォークト。料金は4,000〜12,000円。お問い合わせは同コンサートホール(075-711-3090)へ。(T)