「TIMES SQUARE LIVE AT STB139/エリック・ミヤシロ」
(ヴィレッジ・ミュージック/URCL11002)
エリックはハワイ出身のハイ・ノート・トランペッターで、日本で活躍中。彼の存在は貴重で、日本のビッグ・バンドから引っ張りだこだが、本作は自分がリーダーになってのビッグ・バンドで六本木“スイート・ベイジル”でのライヴ録音。近藤和彦、佐藤達哉(sax)、中川英二郎(トロンボーン)、岩瀬立飛(ドラムス)らも加わっており、バンド演奏もリッチで迫力があるが、エリックのハイ・トーンは天井破りで、聴いていると気分がスカッとする。かつてのメイナード・ファーガスンを思い出させるプレイだ。「ダニー・ボーイ」など高音だけでなく、表現の豊かさも味わせてくれる。(岩浪 洋三)
「'60sロック自伝/鮎川 誠」(音楽出版社)
ジャパニーズ・ロック・シーンの重鎮、シーナ&ザ・ロケッツの鮎川誠、彼の音楽体験を見事に纏め上げた一冊。それは、1960年代初頭からの洋楽にはじまる。アメリカのロックンロール、リズム&ブルース、イギリスからのビートルズやローリング・ストーンズ・・。そんなホットなサウンドとの出会いが鮎川のミュージシャンとしてのルーツを作った。彼の音楽の楽しみ方がストレートに伝わってくる。一方で注目すべき点は、本書がまさに60年代の音楽史にもなっているところだ。あの時代をリアル体験した団塊の世代にとっては涙本であるとともに、若い音楽ファンには貴重な歴史書となることだろう。(Mike M. Koshitani)
「ベートーヴェン:交響曲第3番《英雄》、第8番/パーヴォ・ヤルヴィ指揮、ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン」(BMG JAPAN BVCC-34139) このところベートーヴェンの交響曲では「ベーレンライターの新原典版」や「ヘンレ版」を用い、ピリオド楽器を導入しての、テンポの速い颯爽とした演奏が多い。昔のフルトヴェングラーや、ワルター、カラヤンなどの演奏が最も正統的と考えていた聴衆にとっては、この種の演奏はまさに晴天の霹靂であると思う人も多いであろう。しかしこれらの演奏が今最も新しいスタイルであり、多くの若いクラシック・ファンに受けられていることは紛れもない事実である。このヤルヴィの解釈とドイツ・カンマーフィルの一糸乱れぬ演奏を聴いて、快哉を叫びたくなるのは筆者だけではないだろう。この新しく校訂された新原典版には多くの魅力的な新発見がある。(廣兼 正明)
Classic ALBUM Review
「ベートーヴェン:交響曲全集&序曲集/デイヴィッド・ジンマン指揮、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団、他」(BMG JAPAN BVCE-38097/101〔5CDs〕)
この全集は「ベーレンライター新原典版(ジョナサン・デル・マール校訂版)」で、上記ヤルヴィ盤と共に誠に魅力的な演奏である。こちらは1997年から始まったベートーヴェン交響曲全曲録音に2004年録音の序曲9曲をフィル・アップした5枚セットのアルバムである。一般的に新原典版による演奏は相当に速いテンポで演奏されているが、楽譜には当然のことながら具体的な速度が指定されているわけではない。この速い演奏に加え、ジンマンは低音弦の数多いスタッカートをスタッカティシモ(新原典版ではどのように表記されているか分からないが)にしたり、あるパッセージでは我々が今まで聴いてきた旋律ではない裏の動きを表に出したりして、まったく新鮮なそしてシャープな歴史的とも言えるベートーヴェンを作り上げてしまった。加うるに驚くほどの合奏技術を持つチューリヒ・トーンハレ管あっての成功でもある。そして最後にこれだけの価値ある全集がたった3,000円で買えるということをも併記しておきたい。(廣兼 正明)