「ストーンド」(エイベックス・マーケティング・コミュニケーションズ/AVCF-22744) ザ・ローリング・ストーンズの創始者、ブライアン・ジョーンズは1969年7月3日、27歳という若さでこの世を去った。彼の死については様々な憶測が囁かれている。そんなブライアンの死について描かれた映画「ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男」はこの夏公開。ストーンズ・ファンはもちろんのこと、音楽に興味のある人々にとっては60年代後半というロックが最も活力のあった時代をダイレクトに感じることが出来るということで、大きな注目を集めることだろう。このアルバムは映画のサウンドトラック盤。カヴァーではあるけど、ストーンズ・ナンバーもふんだんに楽しめる。一足先にこのアルバムを耳にしながら映画公開に期待を寄せたい。(Mike M. Koshitani)
Popular ALBUM Review
「ロック・スターの最期/ロニー・スペクター」
(ビクターエンタテインメント/VICP-63339) フィル・スペクターのプロデュースで1960年代に「あたしのベビー(Be My Baby)」ほかのヒットで我が国でも大きな注目を集めたザ・ロネッツ。メンバーのひとり、ロニー・スペクターが久々にソロ・アルバムを発表、素晴らしい出来映えだ。パティ・スミス、ジョーイ・ラモーン、そしてキース・リチャーズらが参加。キースは「オール・アイ・ウォント」「ゴナ・ワーク・ファイン」の2曲で参加。前者はピッツバーグ出身のシンガー/ソングライター、エイミー・リグビーのカヴァー。後者はアイク&ティナ・ターナーの61年のヒット。ロニー&キースがたまらなくアイク&ティナしていているR&B作品なのだ。(Mike M. Koshitani)
ストーンズのデッカ/ロンドン・レーベル時代の22枚のアルバムが遂に紙ジャケット化となった。日本ばかりでなく世界中のコレクター、ストーンズ・フリークが注目。特に今回、アブコではなくユニバーサルミュージックが日本独自という形で実現したことに大きな拍手を送りたい。『サタニック・マジェスティーズ』の 3Dジャケット(ニュー・ヴァージョン)、『スルー・ザ・パスト・ダークリー(ビッグ・ヒッツVol.2)』が八角形ジャケットで再現されるなど、担当者の苦労がうかがえる。ストーンズ来日中ということもあってより多くのファンがコレクションすることだろう。(Mike M. Koshitani)
「Act Of Faith/Chris Jagger's Atcha!」(SPV/SPV78572)輸入盤 ミック・ジャガーの弟、クリスはもう30年以上も確実に音楽活動をしている。この新作では、ブルース、ケイジャン、ルーツ・ロックという彼の音楽性が大きく噴出。まさに良質の素晴らしいサウンド堪能させてくれる。オープニング「It's Amazing(What People Throw Away)」では歌詞にストーンズとビートルズが登場。そしてストーンズ・ファン注目の楽曲が4曲目の「DJ Blues」 だ、クリスがミックとオリジナル・ブルースを完全デュエット。ここの歌詞にも注目、♪マット・マーフィー、エルモア・ジェームス、バディ・ガイ、ルーズベルト・サイクス、アルバート・キング、サニーランド・スリム♪らが登場する。ミックのハーモニカもダイナミックな良い味を出している。アルバムにはデイヴ・ギルモア、サム・ブラウン、ビリー・ジェンキンスらも参加している。(Mike M. Koshitani)
「SWINGING 60's The Rolling Stones」(パンド/PAND-8002)
期待通り迫力のロックンロールを引っ提げてきてくれたザ・ローリング・ストーンズの来日公演だが、そのストーンズのストーリーをブライアン・ジョーンズという視点からひもとくのがこのドキュメンタリーの内容。そもそもストーンズというバンドを創始した人物だったともいえるブライアンがどうして69年には脱退へと追い込まれることになっていたのかを関係者証言ともに綴っていく。ブライアン他殺説にもとづいた映画『ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男(STONED)』とのからみからキャッチーな内容だが、こちらは状況証拠から最も妥当なストーリーが推理される。作品中に紹介されるジミ・ヘンドリックスとブライアンのセッション音源などは刺激的だが、なんといっても、64年のアメリカでのテレビ出演映像がなんど観ても圧巻である。(高見 展)
Popular CONCERT Review
「ロバータ・ガンバリーニ」 COTTON CLUB 3月14日
昨年度のスイング・ジャーナルのジャズ・ディスク大賞、ヴォーカル賞に輝き「本格派ジャズ・シンガー」の登場と話題のロバータ・ガンバリーニの初の単独公演が東京駅近くの「コットン・クラブ」で行われているので初日に聞いた。ベテラン・ドラマー、ジェイク・ハナ、ピアノのタミール・ヘンデルマン、ベースのクリストフ・ルティによる演奏のあと登場した彼女は、日本デビュー・アルバム「イージー・トゥ・ラヴ」のタイトル曲を無伴奏でヴァースから入り、お得意のガレスピー、スティット、ロリンズの名演をヴォーカライズした「明るい表通りで」を含め14曲を歌う。「ラヴァー・カムバック・トゥ・ミー」などでは巧みなスキャットも披露、マット・デニスの「エヴリィシング・ハップンズ・トゥ・ミー」では、ミルス・ブラザーズばりの手を上手く使ったトランペットの擬音によるソロも聞かせ技巧的な面もみせる。このクラブは、一部と二部で入れ替えだが、一部では、ステージが長かったせいか、アンコールも起きなかった。二部は、器楽演奏なしでいきなり「ノーバディ・エルス・バット・ミー」から「ディープ・パープル」と続き、バンド・メンバーのソロもはさみ9曲をそつなく歌い。最後には、スキャットにメンバー紹介を織り込んで伝統的なジャズ・コンサートのスタイルで締めた。そしてアンコールに応えてビリー・ストレイホーン作の「マルティ・カラード・ブルー」をしっとりとしたムードで歌った。エラ・サラ・カーメンの伝統を継ぐ素晴らしい歌手だ。とは言っても、聞き終わって何か足りないものがある様な気がする。そうだ心に迫ってくるものが感じられないのだ。聴衆の心を掴むという面では、まだまだ先輩たちに及ばないということだろうか。大いなる可能性を秘めた逸材なので、経験を積んでやがて先輩たちの域に達することを祈りたい。(高田 敬三)
Popular CONCERT Review
Photo by
轟美津子
「RESPECT THE STONES LIVE」初台ザ・ドアーズ 3月8日
ローリング・ストーンズの来日を記念して制作された日本人アーティストによるストーンズのカヴァー・トリビュート盤『RESPECT THE STONES』。その発売を記念して3月8日、初台ザ・ドアーズで行われたのが、この日のライヴ。トラック提供アーティストもふんだんに参加して豪華な一夜になった。詰めかけたお客さんはストーンズ・ファンともあって、ちょっと高め。みんなそれぞれにお目当てのアーティストがあったのだろうが、ここにいるほとんどの人が同時にストーンズも好きなのだろうなというのがその場の空気でわかる不思議なライヴだった。切り込みを担当したのはアルバムの冒頭も飾ったザ・プライべーツで、1曲目はレコーディングよりも生っぽくて粗っぽい「サティスファクション」。まさにストーンズ的ライヴ・ヴァージョン。そして、そこから「ラスト・タイム」など初期ストーンズの最も魅力的なところをかっ飛ばしていった。アルバムは1曲ずつの提供になるけれども、数曲聴けるところがこのライヴのミソなのだ。ここでハリーがゲストで登場し、「シルヴァー・トレイン」「ストップ・ブレイキング・ダウン」という渋い選曲。抽選会を挟んで次の出番は三代目魚武濱田成夫。「ドント・ストップ」というストーンズの全キャリア的リスペクトともいえるナンバーをピックアップし、絶叫型の「ライトを照らせ」と雪崩れ込む。次のザ・ズボンズのドン・マツオの「リップ・ジス・ジョイント」と「一人ぼっちの世界」は、ロックンロールが極度に凝縮された素晴らしい瞬間だった。続いてDIAMOND☆YUKAIは、「悪魔を憐れむ歌」から「悲しみのアンジー」、そして「スター・スター」というストーンズ・ファンならよくわかるあまりにもYUKAI的なセレクション。再び登場となったハリーはジェームスを引き連れて、1曲のみ「ハッピー」をびしっとキメる。そのキースっぷりがお見事。ザ・ブルース・パワーの永井〝ホトケ〝隆は持ち前のブルース感を生かした「ウォーキング・ザ・ドッグ」、お手の物の「マニッシュ・ボーイ」、必殺の「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」。そしてトリとなった鮎川誠とシーナが「ハート・オブ・ストーン」「ユー・ガット・ミー・ロッキング」「エンプティ・ハート」でショーを締め括った。アンコールは鮎川誠とシーナの呼びかけでそれまでの出演者が舞台に詰め寄せての長い長い「サティスファクション」となり、この曲のブルース感を奇しくも明らかにする。これはオーティス・レディングもカヴァーするわなと思わせるエンディングだった。(高見 展)
「若き日の神童モーツァルト 初期交響曲集 II (全10曲)/ ニコラウス・アーノンクール指揮、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス」(BMG JAPAN BVCD-37401~02) 2004年度ミュージック・ペンクラブ音楽賞を獲得した「初期交響曲集」に続く「第二集」である。この第二集は一部を除き、第一集とほぼ同じ時期にレコーディングされた関係で、少年モーツァルトが書いた音一つ一つを、彼なりに研究しつくした演奏と受け取ることができる。また、ニコラウスがレオポルドの、孫のマキシミリアンがヴォルフガングの手紙を朗読しているトラックを曲間に挟んで聴かせてくれるのも前回と同じ。収録曲も第3楽章だけを作り、「にせの女庭師」など以前作った序曲をその前に置いた交響曲も3曲入っている。このような番号からはみ出た曲が少なくとも14曲あるので、41曲とされてきた交響曲は55曲ある、ということになる。第2楽章がまたとなく美しい第17番なども入ってくるであろう第三集が出れば楽しみだ。(廣兼 正明)
Classic ALBUM Review
「ベートーヴェン:交響曲第9番《合唱》/スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮、ザールブリュッケン放送交響楽団」(BMG JAPAN BVCO-37424)
現役最高齢、現在82歳の巨匠スクロヴァチェフスキの交響曲第2番、第3番「英雄」の第1弾に続く「ベートーヴェン交響曲全集」第2弾は「第九」である。80歳を過ぎてから全曲録音とは驚きである。今回の「第九」、一言で言って若々しくて元気がある。最初から可成りのスピード感をもって進んで行くが、それだけではない。スクロヴァチェフスキはさすが人生の先輩といえる節度をもってオーケストラを制御している。第2楽章は軽やか、そして楽しそうに動き回る。第3楽章では矢張り年の功か落ち着いた歌を響かせてくれる。最終楽章では非常にまとまりの良い4人のソリストが素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれるが、合唱の歌い方がそれに較べておとなしすぎるのではなかろうか。(廣兼 正明)
「仲道郁代/告別ソナタ~ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集[9]/仲道郁代(ピアノ)」(BMG JAPAN BVCC-34135
ベートーヴェンのソナタとしては8ケ月目のリリースである。これで仲道のベートーヴェン・ソナタも7枚目を迎え、あと4枚で完結する。今回は第26,27,28番の3曲で中期、ロマン・ローランの名言である「傑作の森」時代と後期の間に挟まれ、作風の変化を知る上ではとても重要な時代の3曲と言える。第26番はベートーヴェンのソナタの中で第8番の「悲愴」とともに序奏付の第1楽章を持っている曲である。ベートーヴェンの研究家でもある作曲家、諸井誠のサポートを得て益々充実のレコーディングを完成に向けて進めている仲道のライフワークも、いよいよあと4枚を残すのみとなった。1枚毎に着実に進化しているベートーヴェンへの思いはここに来て確実に盛り上がっているようだ。(廣兼 正明)
21世紀のワーグナー名歌手たち1「ワーグナー:《トリスタンとイゾルデ》名場面集/ロバート・ディーン・スミス(テノール) & リンダ・ワトソン(ソプラノ)」(BMG JAPAN BVCO-37425)
今ワーグナーが熱い。2005年のバイロイトでは指揮の大植英次が「トリスタン」で日本人初の幕開けを飾り、日本のファンを歓喜させてから半年が過ぎた。その時にトリスタン役を務めたのがアメリカ出身のテノール、ロバート・ディーン・スミスだった。2000年には「ローエングリーン」のタイトルロール以来バイロイトではなくてはならない存在となったばかりでなく、幅広い役柄をこなす歌手として世界の歌劇場で今や引っ張りだこのヘルデンテノールである。一方ドラマティック・ソプラノのリンダ・ワトソンもアメリカのサンフランシスコ生まれ、存在感のある歌手としてバイロイトを始めとして矢張り世界各地の歌劇場で活躍している。このCDでは彼等の素晴らしい張りのある声を十二分に楽しむことが出来る。(廣兼 正明)
Classic ALBUM Review
21世紀のワーグナー名歌手たち2「ワーグナー:《ニーベルングの指環》名場面集/ジョン・トレレーヴェン(テノール)」(BMG JAPAN BVCE-38093)
2003年と2004年の東京新国立劇場での「ジークフリート」と「神々の黄昏」で、センセーショナルな日本デビューを果たしたジョン・トレレーヴェンは、イギリス出身のテノール歌手である。このハイライトCDでは「ニーベルングの指環」の《ワルキューレ》、《ジークフリート》、《神々の黄昏》よりの名場面で彼の抑制のきいたヘルデンテノールが堪能できる。50歳を超えて円熟味も増し、体力が必要なワーグナー歌手として世界の歌劇場に出演、今やその存在価値は大きい。(廣兼 正明)
「夕暮れの情景~シューベルト歌曲集/クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン)、ゲロルト・フーバー(ピアノ)」(BMG JAPAN BVCC-34137) 歌の専門家ならいざ知らず、普通の音楽ファンにとつては殆どが知らないシューベルトのリートばかりであろう。しかしゲルハーヘルという歌手の素晴らしさはドイツ・リート歌手の伝統をまさに受け継いでいると言える。どの曲も聴くほどにシューベルトの歌の世界へ引き込まれてしまう。
この17曲の中から最も知られている「君はわが憩い(Du bist die Ruhユ)」を聴くとき、絶妙な間の取り方をも含め、心の表現は見事の一語につきる。もう一つどうしても付け加えたいのは、ピアノ伴奏の上手さ、これほど息が合い高い音楽性を持った伴奏は、かのフランツ・ルップを凌駕したと言っても良い。(廣兼 正明)