2005年2月 

Popular ALBUM Review
「魅惑のワルツ/美空ひばり」
(コロムビアミュージックエンタテインメント/COCA-70364)

 美空ひばりさんの「魅惑のワルツ」がCMに使用されたこともあって、若いファンが日本の音楽界の生んだ最高の女性歌手に注目。彼女の歌の上手さをジャージーなスタンダード作品から改めて教えられたという声を聞く。1950〜60年代にかけての録音、アルバム「ばら色の人生-La Vie En Rose-」「愛さないなら棄てて」「ひばりとシャープ」「ひばり世界をうたう」「ひばりジャズを歌う-ナット・キング・コールをしのんで」から17曲が収録されている。「スターダスト」「歩いて帰ろう」「慕情」はパーフェクト・イングリッシュ・ヴァージョン、実に魅力的にしっとりと歌い上げている。素晴らしい!このアルバムでも、改めてひばりさんの歌の上手さに驚かされる。ただ、曲目解説がないのが残念・・・。
(Mike M. Koshitani)

Popular ALBUM Review

「オリジナル・サウンドトラック/ビヨンドtheシー〜夢見るように歌えば〜」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCR-12029)
 見た!カッコ良かった!ようわかった〜♪早世した往年の天才歌手ボビー・ダーリンの伝記映画(2月26日公開)は洋楽ファン必見。子供の頃から両親のコレクションでボビーの歌を聞き育ち、すっかり虜になってしまったという主演のケビン・スペイシーがボビーに成りきり、劇中に流れる数々のボビーの名曲も吹き替えナシですべて自ら歌い切ってしまいました。当初「何を無茶なことをすんねん!」とは思いましたが、クセもイヤミなくつかんでこれが結構イケルというか、聞いてるうちにケビン・スペイシーという歌手の伝記物語のように思えて来るほどでして。自ら企画・監督、歌も踊りも何でもかんでも、という'わがまま'ぶり ですが、ここまでされたらもう「ご苦労はん!」と認めざるを得ませんわ。いや、ここまで仕切れるなんてうらやましい限り。で、何よりも今やこちらではもう話題にのぼることもなくなっていたボビー・ダーリンの人生を改めて勉強させてくれたことには個人的にも感謝♪ボビーのベスト盤も新たに組んで出して欲しいなあ。
(上柴 とおる)


Popular ALBUM Review
「アンブロークン・サークル〜カーター・ファミリーの遺産/V.A.」
(オーマガトキ/ OMCX-1125)

 1920年代にカントリーの祖ともなるヒルビリーを世に知らしめたカーター・ファミリーの足跡は大きい。これはカントリーやブルーグラス系スターたちが敬愛の情をもって彼らへ捧げた曲集。グラミーの最優秀コンテンポラリー・フォーク・アルバム賞及びカントリー男性歌手賞にジョニー・キャッシュとウィリー・ネルソンがノミネートされている。渋いアルバムだが、素朴な心情とアメリカン・ポピュラーの源泉をしみじみと味わうことが出来る。
(鈴木 道子)

Popular ALBUM Review
「ライフ・イズ・トゥ・ショート/トム・ジョーンズ&ジュールズ・ホランド」
(ワーナーミュージック・ジャ パン/WOCR-12008 )

 現役バリバリのトム・ジョーンズと元スクィーズのキーボード奏者でイギリスではテレビ音楽番組の司会者としても国民的人気のジュールズ・ホランドが、お互いのミュージック・ルーツを求めてアルバムを完成させた。ブルース、ジャズ、ロックンロール、カントリーなどの名作を実にオーソドックスに取り上げている。その精神は日本のミュージシャンにも見習って欲しい。オリジナル作品もブギ・ウギ・スタイル、まさにこれが今日の音楽の基本だといわんばかりの全19曲、ぐっと心に沁みるグルーヴ感が溢れたアルバムなのだ。
(Mike M. Koshitani)

Popular ALBUM Review
「モータウン2/マイケル・マクドナルド」
(ユニバーサルミュ−ジック/UICO-1077)

 恐れイリヤのクリヤキン!(古い)。マクドさんの底力には脱帽ですわ。全米でなんとミリオン・セラーを記録してしまった前作(2003年「モータウン」)の続編登場ですが、選曲がまたうれしい!実は彼とは'同学年'ということもあってか、私と好みがピッタリですがな。リアルタイムでシビレたのはやはり1960年代後期〜1970年代前期の作品。彼は前作で「隠れた名曲も紹介したい」と言うてましたが、今回もまさにそういう内容で、スティーヴィー・ワンダーの曲が「愛するあの娘に」とかオリジナルズの「ベイビー・アイム・フォー・リアル」(これホントに知る人ぞ知る名曲!)など思わず我を忘れてのめり込んでしまいました♪しかも、単なるカヴァーの域をすっかり超越して現代的な感覚でアレンジが為されており(ビックリしますわ、イントロだけでは何の曲かわからなかったりすることも)、それでいて原曲の良さを損なわずに新たな息吹を吹き込んで新鮮に甦らせたり。もちろん、マクドさんのソウルフルな歌声が水を得た魚のように、生き生きと冴え渡っております。信頼できるというか、そう、「この人に歌って欲しかった♪」という仕上がりです。
(上柴 とおる)

Popular ALBUM Review
「スタックス・ソウル・エクスプロージョン」
(ビクターエンタテインメント/VICP-62930)

 メンフィスの名門ソウル・レーベル、スタックスから1969年にリリースされた同レーベル所属アーティストの作品を集めたオムニバス。発売当時は2枚組だったが、ここでは77分余が1枚のCDに収まった。半分近くの作品がこのアルバムでしか聴かれない作品で長い間コレクターズ・アイテムになっていた。ジョニー・テイラーからオリー&ナイチンゲールス、マッドラッズなど。
(吉岡 正晴)

Popular ALBUM Review
「シャナイア・トゥエイン グレイテス・ヒッツ」
(ユニバーサルミュージック/UICM1035)

 92年のデビュー以後、4枚のアルバムを発表。中でも3枚目の「カム・オン・オーヴァー」が合衆国において実に2000万枚を超えるセールスを記録し、女性ソロ・アーティストの作品としては史上最大のヒット作になっている。その彼女のエッセンスとも呼べる代表曲を集めた初の「グレイテスト・ヒッツ」が編集された。耳を傾けて感じるのは、カナダのオンタリオ出身の彼女がカントリー・ミュージックを独自のポップ感覚で最も大衆的な歌とし、そこに"アメリカの心"を映し出していることだ。どの曲にも解りやすい親しみ易さと現実感が息づき、人々の日常を彩る瑞々しさがある。それが大きな魅力である。泥臭さは抑えラジオ向きに誂えた夫君マット氏のプロデュース手腕が的確だった点や、それにもちろん並外れた美貌が数多くの男性ファンを痺れさせたのも事実ではあろうが。日本でもより幅広い支持を得るきっかけに成り得るアルバムだと思う。
(矢口 清治)

Popular ALBUM Review
「ロス・ロンリー・ボーイズ/ロス・ロンリー・ボーイズ」
(ソニーミュージック/EICP-472)

 やっとこさボーナス3曲付きで日本盤リリース!去年出た新人の中ではジョス・ストーンと共に最も'感じさせられた'のがこの兄弟3人組。テキサス出身のまだ20代前半の若者たちなのに、この落ち着きぶり&ええ意味での'いなたい'感じ。オルガン、ギター、メロディー...ポップス一筋40年の私にはこのサウンドが懐かしく胸に染み入るというか、あまりにとっつきが良すぎます♪今どきどうしたらこんな味わいが出せるの〜?と(とはいえ古くささをまるで感じさせませぬ)。70年代初期のサンタナの未発表音源かと思わせるような楽曲があったりするし(9分近い熱演!)、地に足の着いた演奏ぶりでテクもありそう。相撲で言うと白鵬や琴欧州みたいな存在でしょうか。将来が大いに楽しみな3人組です。
(上柴 とおる)

Popular ALBUM Review

オール・ザット・ウィー・ニーディッド/プレイン・ホワイト・ティーズ」
(エックス・トイズ/XTCK-00023)

 ここ日本でもじわじわと注目を集めはじめているシカゴの5人組の3作目にして、日本デビュー作。曲の良さで勝負していると言いながら、その実、安易に歌やメロディーを垂れ流しているバンドが多いイマドキのポップ・パンク〜エモ・シーン。しかし、その中でもこの連中は曲ごとに表情を変えるソングライティングと勢いだけに頼らないアレンジで、頭一つ(いや二つ?)抜きんでた存在と言えそうだ。曲によっては80年代のパワー・ポップの面影やオールディーズの影響も聞き取れ、曲の良さももちろんだけれど、個人的にはそんなところに惹かれている。
(山口 智男)


Popular ALBUM Review
「クリスチャーナ/クリスチャーナ」
(ICELANdia)

 アイスランドのポピュラー界の歌姫がビョークなら、ジャズの歌姫はこのクリスチャーナ。本作はジャズ・スタンダード満載のデビュー・アルバムであり、クリスチャーナの透明感あふれるヴォーカルがたっぷりと楽しめる好盤だ。大学ではクラシックをアイスランドで、ジャズ・ヴォーカルをアムステルダムでそれぞれ本格的に学んだだけあり、ヴォーカルの安定感もテクニックも申し分ない。アップテンポの「ザッツ・オール」から始まり、スキャットが堪能できる「バイ・バイ・ブラックバード」、抑え気味の歌唱が光る「ビウィッチト」など全11曲。北欧からのフレッシュな女性ヴォーカルとして話題を呼ぶことだろう。愛知万博で来日の予定あり。
(小倉 悠加)
Excite Music Storeのみで入手可能 http://www.excite.co.jp/music/song/XTCCD00000019/

Popular ALBUM Review
「静寂の余韻/オスカール・グジョンソン&スクリ・スヴェリルソン」
(ICELANdia)

 アイスランドの雰囲気と風景をこれほど鮮鋭に思い起こさせてくれる音楽はない。サックスとベースでつづるこのアルバムは、メロディアスで、隙間がいっぱいで、聴き手が想像力と感性をじっくりゆっくり紡いでいくことができる。オスカールは尺八に影響を受け、尺八のように息が漏れるようなマウスピースを特注するサックス奏者であり、アイスランドでは中堅どころ。スクリは坂本龍一氏とのセッション経験もあり、近年ローリー・アンダーソンの音楽監督を務めたニューヨーク在住のベース奏者。同郷のふたりは親友であり、収録曲は友人や家族へのプレゼントとして作られたものだとか。コマーシャリズムのカケラも感じられない作品で、どんなヒーリング音楽よりも心と身体に効いた超マイブーム・アルバムだ。
(小倉 悠加)
Excite Music Storeのみで入手可能 http://www.excite.co.jp/music/song/XTCCD00000017/

Popular ALBUM Review
ア・プレイス・トゥ・ビー/スライディング・ハマーズ」
(スパイス・オブ・ライフ/SOLGZ-0001)

 すらっとした美人によるトロンボーン・デュエットである。こんなチームを聴くのははじめてだが、演奏も粋でスインギーで、レベルも高いときているから申し分ない。ミミ・ペターソン、カリンのハマーズ姉妹のうちミミの方は歌まで歌う。曲も「ノー・モア・ブルース」「ピクニックのテーマ」「朝日のごとくさわやかに」などスタンダードからジャズ曲「イスラエル」までを難なくこなしており、サウンドもソフトで耳に心地よい。
(岩浪 洋三)

Popular ALBUM Review

ジャズ・スタジオ3/ジョン・グラース」
(ユニバーサルミュージック/UCCC9099)

 デッカが創立70周年を迎えて、日本で数々の名盤がCDで発売されたが、中でもジャズ・スタジオ・シリーズの?から?までのCDかは価値が高い。この?はフレンチ・ホーンのグラースを中心にした50年代中期の西海岸派ジャズ・サウンドが聴きもの。グラース、ジェリー・マリガン、コンテ・カンドリ、チャーリー・マリアーノら名手の味わいぶかいスマートなソロと洒落たアレンジとのバランスのよさは今聴いても、とてもスリリングだ。
(岩浪 洋三)


Popular ALBUM Review

星へのきざはし/ニューヨーク・トリオ」
(ヴィーナス・レコード/TKCV-35344)

 このトリオの主役はピアノのビル・チャーラップである。1966年生まれだから中堅の仲間入りをはじめたところだが、このところ成長著しきものがある。昨年11月録音のこの新作では「キャント・ヘルプ・ラビング・ユー」や「ボディ・アンド・ソウル」などでねばりとグルーヴ感のある演奏をみせるようになったのが、その成長のしるしだ。また「木の葉の子守歌」ではダイナミックなプレイもみせる。これはピアノ・トリオの改作だ。
(岩浪 洋三)


Popular ALBUM Review
「ビフォア・ザ・ナイト・イズ・オーヴァー/トーチ」
(バッファロー・レコーズ/BUF-120)

 デヴュー作「サウンズ・フォー・ステイング・ホーム」で注目を集めた女性歌手シーラ・ミスラを中心とするテキサス州のオースティンで活躍するジャズ・グループ、「トーチ」の第二作。50年代の古い録音機材を使って温かみのあるノスタルジックな音を再現しようという工夫がなされている。「ゲット・アウト・オブ・タウン」、「ララバイ・オブ・ザ・リーブス」等のスタンダード曲を半分、シーラとギターのクリス・ウエスターのオリジナル・ナンバーを半分取り上げて歌う、おませなお転婆娘みたいなかすれ声のシーラの歌は、個性味があり、人間的ぬくもりを感じさせる大変魅力的なものだ。二つのヴァージョンが収録されているタイトル曲をはじめ、自らの日常の経験から書かれたものの多いオリジナルの出来もなかなか素晴らしい。ますますの活躍が期待されるグループだ。
(高田 敬三)

Popular ALBUM Review

「TIARA-Yasuko Agawa Sings Traditional Songs/阿川泰子」
(日本クラウン/CRCP-40094)

「ANKLET-Yasuko Agawa Sings Love Songs/阿川泰子」
(日本クラウン/CRCP-40093)

 すばらしいトップ・シンガーの歌だ。聞き手を夢見るような別世界に誘うかのように、アーカィル・レコードという新しいレーベルから2作品が同時にリリースされた。「グリーン・スリーブス」「ホーム・スイートホーム」「アベマリア」といったクラシックの作品を、「ダニー・ボーイ」「ラビアン・ローズ」といったポピュラーの作品と同じような雰囲気で親しめるような調子で歌う。詩情あふれる若きピアニスト秋田慎治とのデュオ・アルバムだ。
(斎藤 好司)


Popular DVD Review
「ワン・ナイト・オンリー!〜ライヴ・アット・ロイヤル・アルバート・ホール/ロッド・スチュワート」
(BMGファンハウス/BVBM-31048)

 ロッド・スチュワートが昨年10月13日にロンドン/ロイヤル・アルバート・ホールで行ったデビュー40周年/アルバム「ザ・グレイト・アメリカン・ソングブックVol.3」発売記念の"スペシャル・ライヴ"の模様を収めたDVDだ。 フェイセズ時代作品、ソロ・ナンバー、最新作からのスタンダードなど、彼の長い音楽生活の中からの傑作作品が次々に登場する。現在ローリング・ストーンズのメンバー、旧友のロニー・ウッドもゲスト参加している。実にみごたえある映像だ。(Mike M. Koshitani)

Popular DVD Review
「ユー・ガッタ・ムーヴ/エアロスミス」
(ソニーミュージック・インターナショナル/SIBP48-49)

 2004年夏の我が国での4大ドーム・ツアーやザ・フーも出演したロック・オデッセイでのステージがまだ記憶に新しいところで、日本公演直前ともいえる04年4月5日フロリダ州オーランド/TWウォーターハウスでのライヴが早くも映像化された。セパレートこそしているが、全22曲が楽しめる。そのほかインタビュー、バックステージの様子、最新アルバム「ホンキン・オン・ボーボゥ」録音風景など、ファンにはたまらない内容となっている。6曲入りのボーナス・ライヴCDも聴き逃せない。
(Mike M. Koshitani)

Popular MOVIE Review
「Ray/レイ」(UIP配給) 2005年1月29日から全国ロードショー公開
 ソウルの神様、ソウルの創始者、レイ・チャーズを描いた自伝映画。黒人、貧困、孤児、そして盲目という四重苦を背負って世界の頂点に立ったレイの人生哲学のすべてがここに描かれる。レイ役のジェイミー・フォックスの演技に尽きる。見事としかいいようがない。途中から、まるでレイ本人を見ているかのような錯覚になる。編集も、脚本も、また脇を固める役者もみなすばらしい。個人的にはミュージシャンを描いた映画としては、これまでで一番気に入った。
(吉岡 正晴)

Popular BOOK Review
「わが心のジョージア〜レイ・チャールズ物語/レイ・チャールズ デイヴィッド・リッツ著 
吉岡正晴 訳」(戎光祥出版)

 レイ・チャールズに密着取材し、膨大なインタビューを書き記した名著(原題:ブラザー・レイ〜レイ・チャールズ・ヒズ・ オウン・ストーリー)が我が国の音楽ファンの前へ登場。2004年9月にアメリカで再販された最新ヴァージョンからだ。20世紀アメリカ音楽界の生んだ偉大なるアーティストの波乱万丈の人生、そして音楽が見事なまでにダイナミックに描かれている。音楽書であるとともに、偉人の伝記としてじっくり味わえるのだ。R&Bのスペシャリスト、MPCJ会員でもある吉岡正晴さんの翻訳だけにとてもソウルフルで読みやすい。
(Mike M. Koshitani)

Popular BOOK Review
「ザ・ビートルズ大全/広田 寛治 編」
(河出書房新社)

 ビートルズ関連の"辞典"は国内外含めて数多く出版されているが、今回登場した本書は実に多くの項目をコンパクトに纏め上げている。とても読みやすいし、使いやすい。ビートルズ&ソロという括りで<事件簿&年譜><記録集><フーズ・フー>、それに<ビートルズ全作品集><ジョン・レノン全作品集><ポール・マッカートニー全作品集><ジョージ・ハリソン全作品集><リンゴ・スター全作品集>ほか、全14章から成る。500頁をこす!大いに利用させていただく・・・。
(Mike M. Koshitani)

Popular BOOK Review
「ブリックヤード・ブルース/キーフ・ハートリー イアン・サウスワース著 中山義雄 訳」
(ブルース・インター・アクションズ)

 1960年代から70年代へかけてのブリテッシュ・ロック・シーンの展開を、まさにその渦中で右往左往していた人物の実に生々しい声が一冊に纏め上げられた。ビートルズやローリング・ストーンズとも交流を持ち、69年には自らのバンドでウッドストック・ロック・フェスティバルにも出演したキーフ・ハートリーの青春物語だ(当時、日本ではハートレーと表記された)。すっごく読ませる、楽しい、そして何よりリアル感に溢れている。その時代の英国音楽を僕らも実体験したけど、それはあくまでレコードからだった。キーフの声を聞きながら(読みながら)、最も過激でヒップなあの頃へ改めて誘ってくれるのだ。若いファンにとっては貴重な教科書にもなる。(Mike M. Koshitani)

Popular BOOK Review
「Blues Rock/白谷潔弘 マッド矢野・監修」
(シンコーミュージック・エンタテインメント)

 若いながら60年代英国音楽に精通している白谷君は、「ブリックヤード・ブルース」でもマニアックな註釈コメントを記していたが、彼が編纂した本書(ムック)もこれまたマニアの方に喜ばれる内容。ブリティッシュ・ブルース、そしてアメリカのブルース・ロックを500枚以上のアルバムを紹介しながら、その魅力を徹底的に解剖している。ひとつだけ言わせていただく、アレクシス・コーナーやローリング・ストーンズにもう少し深く触れながら1950年代末から60年代にかけてどうして英国の少年たちがブルースを愛するようになったかという点にもスポットを当てて欲しかった。
(Mike M. Koshitani)

Popular CONCERT Review
「スティング日本公演 1/21 日本武道館」
 最新作「セイクレッド・ラヴ」をフィーチャーしてのワールド・ツアーは各地で大盛況と聞く。同アルバム収録「センド・ユア・ラヴ」から始まる1月の日本公演も実にダイナミックで素晴らしかった。彼のカリスマ性を改めて知らされる思いだった。全体的に重厚な演奏展開の中で、アコースティック・フィーリング、ハードなパート、そしてワールド・ミュージックと、3つの方向性が上手くマッチしとても引き締まった構成。以前に比べエンターテイナー性が強くなり、スティングの声そのものも太く、良く出ていた。ポリス時代の「ロクサーヌ」「見つめていたい」も登場。より大きなスケール感を味わうことの出来た中々見事なコンサートだった。
(鈴木 道子)


Classic ALBUM Review
「グリーグ&シベリウス:歌曲集 カリタ・マッティラ(ソプラノ)/ サカリ・オラモ指揮バーミンガム市交響楽団」
(ワーナーミュージック・ジャパン/WPCS-11812)

 フィンランド出身の名花、現代を代表するソプラノのひとり、カリタ・マッティラが、北欧が誇る大作曲家、グリーグとシベリウスの歌曲をとりあげている。北欧的な清澄さと憂愁を伝える注目の好演。シベリウスの交響詩「レオンノタール」や、唯一の歌劇「塔の乙女」からの「乙女の祈り」や、グリーグの「ソルヴェイグの歌」、「春」他全14曲収録。伴奏を務めるのは北欧の俊英指揮者サカリ・オラモとその手兵バーミンガム市交響楽団。
(横堀  朱美)

Classic ALBUM Review
「グルダ&セル/ウィーン・フィル 『皇帝』、バッハ/フリードリヒ・グルダ(ピアノ)、 ジョージ・セル指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」
(リンフィニート/ANDANTE-2100)

 アンダンテは、独自の修復プロセスCAP440によって歴史的録音の音質を高め、歴史的名演を蘇らせたCDコレクションのリリースを行っている。今回登場したのは、グルダとセル、この今は亡きふたりの名匠とウィーン・フィルが共演したムジークフェラインでのライヴ(CD+DVD)で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」は1966年、バッハの「半音階的幻想曲とフーガ ニ短調」は1964年の録音。グルダの端正かつ豊麗な演奏が印象的で、セルの明快な表現も素晴らしい。
(横堀 朱美)

Classic ALBUM Review
「ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調 WAB105 (リハーサル風景−抜粋−付き)/ニコラウス・アーノンクール指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」
(BMGファンハウス/BVCC-34119〜20)

 昨年暮れに75歳を迎えたアーノンクールは、今や大曲をもレパートリーに加え益々活躍の場を拡げている。指揮者は一つの曲を採り上げる際、事前にその曲をあらゆる角度から研究し尽くし、自分自身が完全に納得してからでないとオーケストラとの練習に入らない事は当然なのだが、アーノンクールはそれを特に念入りに行っているように感じられる。今回リリースされたブルックナーの「第5」は2004年6月、ウィーン芸術週間の期間中にムジークフェライン・ザールで行われたウィーン・フィル演奏会でのライヴだが、ボーナスCDとも言える2枚目はリハーサル風景が74分も収録されている。これによってアーノンクールが練習中に出すウィーン・フィルへの指示や、それに対してのオーケストラの反応の素晴らしさが細かく把握できるので、これはファンやプロ・アマを問わないオーケストラ奏者にとっては普段決して聴く事の出来ない嬉しい贈り物と言えよう。そして本番の演奏は今までに聴いてきた多くのこの曲の演奏に較べ実に新鮮且つ大胆とも言えるが、ハース版、ノヴァック版を十二分に研究し、それを実践した新しいアーノンクール版とも言える魅力的なものになっている。それと同時に長所をすべて出し切ったウィーン・フィルの名演もこのCDの価値に大きく寄与している。そして是非最初に2枚目の練習を聴いた上で1枚目のライヴを聴かれることをお薦めしたい。
(廣兼 正明)

Classic ALBUM Review
「ベートーヴェン:序曲全集/デイヴィッド・ジンマン指揮、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団」
(BMGファンハウス/BVCE-38085〜86)

 ベートーヴェンの「交響曲全集」で話題になったジンマンとチューリヒ・トーンハレ管弦楽団の新作は「序曲全集」、序曲と名の付く11曲すべてが収録されている。今回も金管と打楽器に古楽器を用いており、これがジンマンのメリハリの効いた爽快な解釈に不思議とマッチしている。私は恐らくベートーヴェンという人はこんな演奏をしていたのではないかと想像してしまう。加えて今や世界の弦王国日本からこのオーケストラに8人ものヴァイオリン奏者が名を連ねていることにも驚かされる。
(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review
「ウィーン・サロンオーケストラ 2004年日本公演」12/21 紀尾井ホール
 このようなコンサートの批評は滅多にお目に掛かることはないが、所謂しかめっ面をして聴くクラシックとはまったく異なる肩の凝らない楽しいコンサートだった。老若男女すべての階層に対してのクラシック啓蒙コンサートと言っても過言ではない。曲目からするとクリスマス・キャロルを中心とした誰もが知っているものが殆どだが、この種のオーケストラとしてはこう言っては失礼だが意外と腕達者が多く、聴衆は音楽の街ウィーンの雰囲気に十分に浸りながら楽しい一夜を過ごすことが出来たのではないだろうか。特にチェロとトランペットの上手さが一際目立っていた。
(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review
「ハンガリー国立ブダペスト・オペレッタ劇場 ジルヴェスター・コンサート2004」
12/31 東京オペラシティ・コンサートホール

 以前何回か来日してレハールやカールマン等のオペレッタを演じたブダペスト・オペレッタが、世紀の替わるミレニアム、1999年からジルヴェスター・ガラ・コンサートを東京オペラシティ・コンサートホールで行うようになって5年、ファンの間でも完全にこの催しは定着したかの観がある。このブダペスト・オペレッタの楽しさは何と言っても観客との一体感にある。すぐ隣のウィーン・フォルクスオパーにしても観客は舞台との垣根をどうしても越えられない。しかしこのブダペストはカーテンコールの後、出演者が客席に降りてきて多くの観客と握手を交わすなど、誠に庶民的な交流を行っている。そこには演ずる人と観る人とが一つになった光景を眼にすることが出来るのだ。プリマを演ずるジュジャの達者さも後々まで印象に残るし、毎回特別に参加するジプシー楽団サンタ・アンサンブルのヴァイオリンやツィンバロンの曲芸的な演奏も観客を魅了させるのに十分だ。場所的にはオケピットもなく無理だが、本当は「メリー・ウィドウ」や「こうもり」などの本格的オペレッタの演目をやって欲しかった。
(廣兼 正明)

Classic CONCERT Review
心にしみる阪神大震災追悼の「レクイエム」
 1995年1月17日に阪神地方を襲った大地震は、甚大な被害をもたらし、日本中に強烈な衝撃が走った。街はほぼ復興したとはいえ、被災者の心には今なお深い傷痕を残している。今年は10周年を迎えて、天皇、皇后両陛下が追悼式に出席され、国連世界防災会議も開催されて、各国が連帯して大災害に立ち向かう決意を表明した。  この日はまた追悼演奏会も開かれた。会場は神戸文化ホールで、神戸市室内合奏団と神戸市混声合唱団が小泉ひろしの指揮で、フォーレの「レクイエム」を演奏した。ソプラノの笠置雅子は、透明な響きで永遠の安息を神に乞い、バスの青木耕平も悲しみの感情を巧みに歌に託した。小泉も抑揚を心得た進行でオーケストラと合唱をまとめた。大災害の発生以来、これまで毎年各地でレクイエムが演奏されてきたが、節目の年に地元で聴く響きには、ひとしお心にしみいるものがあった。
(椨 泰幸)

Classic CONCERT Review
壮麗な金聖響の「新世界」
 指揮者の金聖響が1月9日ザ・シンフォニーホールに登場して大阪センチュリー交響楽団とともに、ドヴォルザーク交響曲第9番「新世界より」を聴かせた。新年に演奏される定番のような曲であるが、金はめりはりのきいた動きで、壮麗な空間を構築した。第2楽章ラルゴの有名な旋律をたっぷりイングリッシュ・ホルンにうたわせ、第4楽章では息もつかせずにクライマックスの主題に駆け上り、感動を呼び起こすことに成功した。ソリストに迎えられた及川浩治とはラヴェル「ピアノ協奏曲」で共演した。弾けるようなジャズ調の旋律が小気味よく、明るい色彩で仕上げられた。同じラヴェルの組曲「クープランの墓」はもっと典雅な響きがほしいところ。才気活発なラヴェルの作品を自在にこなすには、かなりの工夫が要る。
(椨 泰幸)

Classic BOOK Review
「名作オペラ50」(世界文化社)
 世界文化社のビジュアル書籍シリーズとして新たに刊行した《ほたるの本》シリーズは、旅、芸能、歴史など、さまざまなジャンルをテーマにしている。第1弾として、「名作歌舞伎50」と「名作オペラ50」が同時発売された。オペラ初心者のためのガイドブックとして、解説、基礎知識、DVDガイドなどを紹介。"気軽に楽しめる書籍"というコンセプトの通り、オペラを体験したことの無い人にも、親しみやすい1冊となっている。音楽ジャーナリストの石戸谷結子監修。
(吉羽 尋子)

Classic INFORMATION
「若林弘、びわ湖ホールで声楽曲を指揮」
びわ湖ホール声楽アンサンブルは3月5日午後2時から同ホール(077−523−7136)で演奏会を開く。指揮者には音楽監督を務める若杉弘を迎え、モンテヴェルディ、シューマン、ブラームス、ウェーベルン、ベルクなどの歌曲を披露する。一般3,000円。青少年(25歳未満)2,000円。
(椨 泰幸)

Classic INFORMATION
「失われたバッハの譜面を発見、いずみホールで世界初演」
 J.S.バッハ幻の名作といわれた「結婚カンタータ」の楽譜が発見、復元され、3月25日午後7時から大阪/いずみホール(06−6944−1188)で世界初演される。指揮はジョシュァ・リフキンで、ソプラノのスザンヌ・リディーン、佐竹由美らが出演し、バッハ・コンチェルティーノ大阪が管弦楽を担当。曲はカンタータ第202番「消えておしまい、悲しそうな影たち」など3曲。3,000〜6,000円。 この楽譜はバッハの監督のもとに筆写されたオリジナルのパート譜で、作品の所在は分かっていたものの、約80年前から行方不明になっていた。ところがピアニスト原智恵子の遺品の中から2年前に発見され、音楽学者の礒山雅らの鑑定のより本物であることが分かった。
(椨 泰幸)

Audio WHAT'S NEW
「ビクター SX-WD8」(¥52,500/税込み/1本)
(発売:日本ビクター http://www.jvc-victor.co.jp

 世界でも初めてという木材そのものを振動板に使用したスピーカー。良質な木材をかつら剥きにし、日本酒に浸してから成形するという珍しい手法で作られている。ウッドドームのトゥイーターを2本のウッドコーン・ウーファーで挟んだバーチカルツイン構成。縦置きにも横置きにもできる。付帯音の全く感じられない純度の高い音調を持ち、反応もいたって速い。ウッド材の特質が生かされた再現性が大変魅力的である。
(井上 千岳)

Audio WHAT'S NEW
「アダム COMPACT」(¥399,000/税込み/ペア)
(取り扱い: コンチネンタル・ファーイースト http://www.cfe.co.jp )

 ドイツの新しいブランドで、トゥイーターにハイルドライバーという特殊な方式を採用している。ピストン運動ではなく、プリーツ状の振動板が伸縮することで音を出す原理。振動板の面積が広いためエネルギーの高い音質を得ることが可能だ。ウーファーやバッフルにはハニカム構造を用い、不要振動を排除して濁りのない音調を形成している。小型モデルだが意外にスケールが大きく、豊かで緻密な再現力を発揮する。
(井上 千岳)

Audio WHAT'S NEW
「クリーク A50iR」(¥170,000/税抜き)
(取り扱い:ハイファイジャパン http://www.hifijapan.co.jp )

 コスト・パフォーマンスの高い製品で知られるイギリスの伝統的なメーカー、クリークの最新プリメイン・アンプ。薄型でシンプルなデザインはいつもながらだが、電源トランスには日本使用の特製品を使用している。これが効を奏して、解像度の高いエネルギーに富んだ駆動力を獲得した。ニュートラルでくせのない音調を持ち、小型スピーカーとの組み合わせにもぴったりだ。手ごろな価格も嬉しいところである。
(井上 千岳)

Audio WHAT'S NEW
「アンソニー・ギャロ ReferenceIII」(¥472,500/ペア/税込み)
(取り扱い:フューレンコーディネート フリーダイヤル:0120-004884 )

 米国の個性派ブランドからユニークな外見のスピーカーが登場した。アンソニー・ギャロならではの創意にあふれたデザインは、プレゼンス豊かで質感の高い音質と不可分で、もちろん奇をてらったものではない。広い指向性をもつトゥイーターとミッドレンジのつながりがなめらかで、コンパクトなキャビネットに収められたウーファーユニットは想像以上に豊かな低音を伸びやかに再現。音と外見の両方で美しい空間を作り出すスピーカーだ。
(山之内 正)

Audio ALBUM Review
「ブラームス 交響曲第1番、マーラー 交響曲第3番/アーミンク指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団」
(フォンテック/FOCD9214〜5)

 ウシーン生まれの期待の新星クリスティアン・アーミンクが新日フィルを指揮したデビュー盤。マーラーは新日フィルの音楽監督就任記念コンサート、ブラームスはその翌月のいずれもライヴ録音である。大仰ではなないがきりっと引き締まった演奏が気持ちよく捉えられた録音で、オーケストラのスケール感やステージの奥行などがナチュラルな感触で収められている。素直でまじりっ気のない音調は大変品位が高い。
(井上 千岳)

Audio ALBUM Review
「アランブラの思い出〜スペイン名曲集?〜/福田進一(ギター)」
(マイスター・ミュージック/MM-1171)

 スペインのギター音楽を全て網羅しようという企画の第三弾で、よく知られた「アランブラの思い出」や「鳥の歌」などが収録されている。一方で日本ではほとんどなじみのない作品も含まれているが、いずれにしてもやや哀愁を帯びた旋律を幅広い表現力で描いた多彩な演奏が魅力だ。音量の小さなギターの録音は難しいとされているが、ここでは表情の繊細さを犠牲にすることなく、明瞭な質感と豊かな響きが実現されている。
(井上 千岳)

Audio DVD Review
「オッフェンバック ホフマン物語/ロペス=コボス指揮、カーセン演出、シコフ、ターフェル、メンツァー他」
(TDK/TDBA-0061)

 パリ・オペラ座の公演を記録したこのDVDは、映像化された「ホフマン物語」のなかでも特に水準が高い一枚に数えられる。まず、音楽との整合を重視しつつも随所にアクセントを効かせたカーセンの演出が興味深い。歌手陣はシコフ、ターフェルともにはまり役と言ってよい達者な歌唱で、ソプラノとメゾの主役級4人もそれぞれ明確な個性を発揮。起伏と適度な緊張感のある舞台を見事に映像作品としてまとめた秀作である。
(山之内 正)

Audio DVD Review
「ロッシーニ イタリアのトルコ人/ウェルザー=メスト指揮、リエヴィ演出、バルトリ、ライモンディ他」
(アイヴィー/A-100369)

 バルトリとライモンディのおかげでこの軽妙で活発なオペラの魅力が倍加した。特に、気の多い妻フィオリッラの役に新鮮味を加えたバルトリの表情の豊かさは驚くばかり。近年ロッシーニ作品の上演で期待を裏切ることのないチューリヒ歌劇場が、ウェルザー=メストの指揮とリエヴィの演出で今回も密度の高い舞台を見せている。動きのある映像もいいが、オーケストラのアンサンブルの良さを実感させる生々しい録音が秀逸。
(山之内 正)


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