アンドレア・モティス、ジョアン・チャモロ・クインテット フィーチャリング
スコット・ハミルトン日本ツアー (5月14日〜26日)・・・・・・・・・高田敬三
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スペインのバルセロナを拠点に活躍する天才少女歌手兼トランペット、サックス奏者アンドレア・モティスと彼女の師匠であるジョアン・チャモロ(b)のグループにアメリカからテナーの巨匠スコット・ハミルトンが参加するクインテットの東京から九州まで10公演のツアーに同行する機会を得た。日本では、CDも出ていないグループの初来日公演だった。スコット・ハミルトンの参加のライブ・アルバム「アット・ジャンボリー」が輸入盤で出廻っていて映像もYoutubeにアップされてはいたが、予想外の人気でどこの会場も満席でお断りもでるという盛況だった。神田の老舗のジャズ・クラブ「TUC」等には、スペインからもファンが来ていて、同クラブには何十年も通っているがこんなに人が集まったのは、初めて見たという感じだった。やはりお目当ては、可愛らしいアンドレアとベテランのスコットだろう。盲目のピアニスト、イグナシ・テラザの隠れた人気も見逃せない。他のメンバーは、ギターのジョセフ・トレヴァー、ドラマーのエスティーヴ・ピィだった。
アンドレア・モティスは、トランぺッターだった父の影響で7歳からトランペットを始め10歳の時にはバンドで吹いていたという天才少女だ。ジョアン・チャモロは、ベースを弾くが元々はサックス奏者でビッグ・バンドで活躍していたが、同時にバルセロナでセント・アンドリュー・ジャズ・バンドという9歳から20歳までの子供を集めたビッグ・バンドの指導もしている。(このバンドは、すでに5枚のCDを発表している。)アンドレアは、11歳の時このバンドにトランぺッタ_として参加、バンドに歌手が欲しいと思ったジョアンがメンバーに歌手志望者をつのった時、手を挙げたのがアンドレアだったという。その時、彼女は、13歳だった。アンドレアは、サラ・ヴォーン、ビリー・ホリデイ、ナンシー・ウイルソンなどのレコードを聴きながら歌を覚えたという。そして14歳の時、「ジョアン・チャモロ・プレセンタ・アンドレア・モティス」のアルバムで歌手デビューしている。おしゃまな感じの幼さの残るちょっと訛りのある可愛らしい声の歌とビリー・ホリデイ等の歌った古いジャズ・スタンダード・ナンバーの対比が面白い。器楽奏者らしいフレージングも彼女の個性的な魅力になっている。トム・ハレル、ロイ・ハ_グローヴ等の影響を受けたという彼女のトランぺットも素晴らしい。
日本の舞台での、演奏曲目は、基本的には同じものが多かったが、順序は不同で毎回一・二曲新曲を追加する形で各公演前には、スコット・ハミルトンが辟易するほどみっちりとリハーサルを行っていた。何故かセット・リストは、ステージに上がってから決めるようで一曲ごとにジョアンから指示が出るという方法をとっていた。この間の舞台でのやり取りが冗長と感じた人もいるだろう。「But Not For Me」、[Cheek To Cheek」等のスタンダードにホーレス・シルヴァーの「Senor Blues」、アート・ブレイキーの「Moanin'」ファッツ・ワラーの「Jitterbug Waltz」等のジャズ楽曲、「Lullaby Of Birdland」「Tenderly」「Poor Butterfly」等、サラ・ヴォーンの愛唱曲、「Carinhoso」、「Chega de Saudade」「Flor De Lis」のブラジル・ナンバー、そして特に印象に残ったのは、ヴォーカリーズ・ナンバーだった。スコット・ハミルトンがストレイトに「I'm In The Mood For Love」のメロディを吹いた後、彼女がエディ・ジェファーソンが同曲のジェームス・ムーディのソロに歌詞を付けキング・プレジャーの歌で有名な「Moody's Moods for Love」を巧みなヴァ_カリーズで披露したり、同じくスコットが「My Foolish Heart」のメロディを吹いた後、それのレスター・ヤングのソロをエディ・ジェファーソンがヴォーカリーズした「Baby Girl」を見事に歌ったりしていた。選曲にも個性味が有ってやはりこれは只者ではないぞ、という感じを与えた。伝統的なストレイト・アヘッドなジャズに満員の聴衆は大いに盛り上がり、ジャズの楽しさを満喫させるステージだった。彼女は、今秋にはアメリカのツアーも予定されていて、アメリカのメイジャー・レーベルとの契約の話も出ているという噂で、近い将来、大ブレークも予想される。
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